Music TO GO!

2006年01月18日

AKG K340 ・ 静電型とダイナミック型のハイブリッド

AKGはときおりK1000のようなユニークな製品を世に出します。
K340もそのひとつで静電型とダイナミック型のハイブリッドというユニークな特徴をもっています。
それに興味を持ち改造版のK340を入手してみました。

k340a.jpg

ヘッドホンには大きく分けてダイナミック型と静電型の二つがありますが、より一般的なダイナミック型に対してSTAXに代表される静電型は少数派ではありますが熱烈な支持があります。静電型は文字通り振動板を静電気の反発で動かすもので振動板を薄くできるのでより細かい音が出せるとされています。
個人的な印象としてはダイナミック型が音楽のマクロ的な動感をうまく表現するのにたいして、静電型は音楽のミクロ的な細部をうまく表現するという感じがします。そういう意味では一長一短という感じですが、そこでその二つのハイブリッド型としてK340が1978年に生まれました。
K340はしばらくしてディスコンになりましたが、人気があったためにその後も改造やケーブル変更品などがときおり入手できます。わたしが入手したのもそうした改造品でHeadphile(いわゆるラリーさんのところ)でカスタマイズされたものです。
さらにケーブルプラグを4極XLRになるようにわたしが特注依頼をしています。SAC K1000アンプで使うためです。


- オリジナルのK340について

K340は静電型の発音体ユニットとダイナミック型の発音体ユニットを同軸に配した2Wayヘッドホンという特徴があります。
それぞれはスピーカーのようにツィーターとウーファーの役割があり、静電型の得意とする高域を静電型で駆動して不得意な低域をダイナミック型で補うという良いとこどりな考え方です。

ツィーターとなる静電型ユニットは円形で中心に配置されていて(耳に対して)前面にあります。ウーファーとなるダイナミック型ユニットはその静電型ユニットの背後に静電ユニットと同軸で配置されています。同軸なので二個の発音体の位相差は少なくなると思います。
もうひとつ特徴的なのは静電型ドライバを囲むように6つの円形の小部屋があり、そのうち5つがダイナミックユニットの音を通すダクトの役割をするということです。ここにはパッシブな振動板と綿が詰まっています。パッシブと書いたのは、ダイナミック型のトランデューサー(発音体)の振動板のようにマグネットで駆動されるのではなく、さきの中心のトランデューサーの音で間接的に振動するようです。これはスピーカーのパッシブ・ラジエーターのようなものと考えられます。
のこりのひとつのダクトには電子回路がはいっています。電子回路部分にはトランスやクロスオーバーが入っています。
このダイナミック型部分の構造自体はオリジナルのK240をもとにしているようです。(オリジナルのK240では電子回路はないので6つの小部屋にパッシブ振動板があり、"6"を示すSextettと呼ばれました)

また静電型でありながらSTAXのような特別なドライバーユニットが不要であり、通常のダイナミック型として扱えるところも特徴です。これは静電型といっても電荷を自己保持しているエレクトレット(electret)タイプだからです。
静電型は振動板を帯電させねばなりませんが、それ専用に外部から常にバイアスを与えるのがSTAXのコンデンサタイプでそのため専用電源(ドライバ/アンプ)が必要です。それに対して振動坂の材質などにより振動板自身が常に電荷を持っている(あるいはバイアスなしでも電荷を発生する)のがエレクトレットタイプで、そのため専用電源は要りません。
ただし静電気を作るために電圧は上げる必要があるのでトランスは必要です。そこでエレクトレットタイプでも外にトランスがあるタイプとヘッドホンに内蔵するタイプがあります。つまりK340はエレクトレットタイプでかつヘッドホンにトランスを内蔵しているため、そのままヘッドホン端子につなぐことができるというわけです。

その代わりに能率が低くなるようで、やはりそれなりの駆動力が必要になります。
また専用に高電圧を与えるドライバがないので、ユニット自体としてはどうしてもSTAXのようなタイプよりは劣るのではないかと思います。ただしK340の静電ユニットはツィーターとしてのみ使うという割りきりがあるので十分ということなんでしょう。
K340があまり主流になれなかった原因は複雑な製造工程によりコスト大とともにこの低能率というのが当時は大きかったと想像できます。

k340b.jpg

スペックをさらに詳しく見るとインピーダンスは400Ωで能率が94dB(1mW)という実際に低能率なものになっています。そのためアンプのボリューム位置は通常のヘッドホンよりかなり高くなります。
周波数レンジは16Hzから25000Hzとそれなりですが聴覚的には2Wayの効果か、かなり上下は広く感じられます。
なお複雑な構造から推測できるように重さは385gありますのでヘッドホンとしては重いほうになります。ただし装着はハウジングのサポートがよく考えられていて重さのわりには快適です。

K340では2Wayの発音体ユニットが入っていますので、2Wayスピーカーのようにクロスオーバーネットワークも内蔵されています。
クロスオーバーネットワークとはツィーターとウーファーにそれぞれ最適な周波数を振り分ける回路のことです。スピーカーにおいては高域用のツィーターにあまり低い周波数を与えると破損するもとですし、低域用のウーファーに高い周波数を与えると音が歪むもとになりますので余分な帯域をカットするわけです。
K340のクロスオーバー周波数は4000Hzですので普通の2Wayスピーカーのクロスオーバーに近い常識的な値が使われています。つまり4000Hzより上の音は主に静電型の音になり、それより下はダイナミック型の音になります。ただし、クロスオーバーにはその境界で重なる領域があり、どの程度ゆるやかに遷移するかという目安があります。それをスロープ特性といいますが、K340では6dB/Octというスピーカーでいうと比較的緩やかな特性ですのでかなりゆるやかな境界となります。そのため4000Hz前後では静電型とダイナミック型の両方の音が混ざっているということになります。

はじめは静電ユニットをフルレンジとして扱ってダイナミックユニットはサブウーファー的に使うのではないかと思いましたが、これらのことを考えると単純に静電ユニット=ツィーターでダイナミックユニット=ウーファーと考えてよいと思います。
そうした面ではK340のコンセプトは静電型とダイナミック型のハイブリッドという点でスピーカーでいうとマーチンローガンのProdigyやOdyssey系のものと似ているけれども、マーチンローガンではクロスオーバーが250HzとK340よりは低めに設定されていてあくまで静電ユニット主体であるのに対してK340では静電ユニットはツィーターとしてのみ考えられていることが分かります。


K340は普通のダイナミック型と考えても独特の音の広がりを感じます。それはさきに述べたアクティブ+パッシブ振動板の1+6の小部屋の構成によるようです。K340はクローズ型ですが、パッシブ振動板を使用した小部屋によってオープン的な音の開放感を出そうとしているようです。このK240で創始されたSextett技術は当時の広告で「オープンとクローズの良さを兼ね備える」と宣伝されていました。
そうした意味ではK340は静電型とダイナミック型の良さを兼ね備え、さらにオープン型とクローズ型の良さも兼ね備えようとした野心作といえます。のちのK1000に見られるAKGの理想追求の姿勢がここにも垣間見えます。

K340改造モデルとはなにか、またその音の印象についてはまた別の記事にします。
この記事へのコメント
これはまたレアなヘッドフォンですね・・・ビックリです。

K701,K1000,K340と来れば、ささきさん、日本有数のAKG使いでは?よほどAKGと相性が良いのか。(^^)

Posted by ゴーヤ at 2006年01月19日 15:21
そうですねえ、AKG使いというよりはAKG博物館の方が近いかも知れません(笑)
Posted by ささき at 2006年01月19日 17:53
この記事もナイス。そう、ほんとにヘッドフォン博物館で学芸員の説明を聞いている感じです。入場無料でこのサービスはうれしい。
Posted by ひろ at 2006年01月19日 20:06
ひろさんナイスありがとうございます、ってSo-netじゃないですけど(^^
まあヘッドホンにも歴史ありということでいろいろかじってみるのも面白いものです。
Posted by ささき at 2006年01月19日 21:57
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