Music TO GO!

2009年02月10日

iBasso D10とはじめの二週間、またはオペアンプ交換日記

d10l.jpg

0. D10といま (1)

D10が届いてからしばらく経ちますが、いま毎日電車で聴いているのはiHP140/D10にUE11と光ケーブルはSys-conceptというシステムです。
毎日聴いているのはバーンインしなければいけないからではなく、このシステムの音がすばらしいからです。UE11と組み合わせた音の情報量の多さや音の正確さ緻密さはやはりiPodベースを上回るこれならではの世界があります。
しかし道は平坦ではありませんでした。。


1. D10とはじめの数日

iBasso D10の一番の長所というとなんといってもDAC/Amp一体型としては劇的に小さくなったサイズです。
前面の面積もコンパクトで電源はボリュームを回すことでオンになります。
背面はSPDIF同軸(RCA)とTOS光(角)、USBの端子があります。USBはチャージャーも兼ねていてトグルをON側に倒すとチャージとなります。

d10j.jpg     d10k.jpg

下記はSR71AとHeadroomのPortable2007と比較した写真です。特にHeadroomとの比較は圧巻です。

d10m.jpg     d10n.jpg

前のD1と比べても一回り以上小さく、HeadroomのPortable2007と比べるとほとんど半分以下というかもう1/3くらいです。


ただし小さくなったのはいいんですが、D10ではD1と比べて下記の二点少し気になる変更がありました。
まずバッテリーは充電式ですが、ずいぶん小さく4.2Vと電圧が低めで容量も小さいことです。これは容積とのトレードオフで仕方がないかもしれませんが、オペアンプを低電圧で駆動せねばならず、大量に電流を流すというわけにもいかないかもしれません。実際に巨大に見えるHeadroomのPortable2007は多くが電池の容積です。
またデジタル信号のレシーバーの部分はD1と同じチップが使われていますが、DACチップはD1のシーラスロジックCS4398からウルフソンWM8740に変わっています。
WM8740はPICOやiBasso D3またONKYOのサウンドカード200PCIに使われているDACチップです。D1のときのCS4398は数十万クラスの国産CDPにも使われていたチップですので、やや気になる点ではありました。

こうした懸念点が予断になっていたかもしれませんし、期待感が高かったということもあったかもしれません。いずれにせよD10の初めの印象はかなりいいものではありませんでした。
しばらくデフォルトのオペアンプとバッファで聞きましたが、正直言ってこの時点ではかなり失望していました。
ニュートラルで色付けが少なく、低音もそれなりに出ているのはいいんですが、全体に切れが甘くもさっとした音で、とてもDAC/Amp一体型とはいえないという感じです。ある意味スムーズなところはありますが、独立したDAC付なのにiMod+P51やXM5と比べてもいまひとつという感じでした。とくにHD25/V3などヘッドホンとあわせたときに駆動し切れていないという感じが強く感じます。
バーンインの問題はあるかもしれませんが、RSAアンプなんかはたいてい箱から出してすぐにそれなりのいい音を出します。

ただしUE11で聴いてみるとノイズフロアも低くて、わりといい感じです。そこでIEM用途に絞ってもう少し付き合ってみることにしました。
まあワインでも栓を開けてすぐおいしくないからといって、それを単純に否定することはできませんからね。


2. D10と次の二週間、またはオペアンプ交換日記

iHP140から聴いても、iModで聴いてもやはり傾向は同じなので、アンプ部分がまず問題だろうとあたりをつけました。

ということで、今回はわたしにしてはめずらしくオペアンプ放浪の旅になります。
わたしとしてはサミュエルズさんアンプのように自分としての音をはっきりと持っていて、ユーザーにオペアンプ交換を許さないというほうが好きではあります。
XM5にしてもオペアンプ交換が手軽にできるけど、やはりデフォルトの134の方がXM5のキャラクターにあっているように思います。ただXM5の場合は8397にするとまた別な良さはありますので、ありだとは思います。

D10はオペアンプ交換キットとして8656が二個、6642が二個、ダミーバッファ(バイパス)が二個ついてきます。8656は前段用だとデュアルなので一個ですみますが、後段(バッファ)として使うときのために二個入れているとのこと。みなソケット式なのでハンダは不要です。これなら電子ブロックのヘッドホンアンプ版みたいなもので楽しめます。

d10f.jpg     d10g.jpg

ただ基本ができていて好みで選ぶXM5と違ってD10の場合はまず基本があまり満足できていない状態なので、少し方針が必要かもしれません。
そこで、まず非力という印象が強いのでバッファを交換するところからやりました。
デフォルトバッファの8532では軽めで低域のレスポンスはいいんだけれどもコントロールができてないという感じが強いと思いました。
そこでバッファを6642に交換すると、少し力感が出てコントロールも良くなったという感じがします。ベースレスポンスがやや抑えめになりますが、バランスとしては悪くはありません。


一方でDACのバーンインが出来てくるとたしかに精細な表現が出来て来るというのは分かってきます。USBで聴くとDACの性格がよく分かりますが、だんだん繊細な良さが出てくる感じです。たしかにこの線が細く繊細だが薄く軽めの感じはPCI200に似ているかもしれません。特にエージングはDACの方で効いているように思えます。
だんだんと良さは分かってきたのですが、いまひとつアンプ側がその繊細さに対応できてなく、音をうまく解きほぐしていないように感じました。そこで今度は前段のオペアンプを変えてみることにしました。
前段用としてはAD8656がついてくるのですが、以前Xinのmini3をいじっていたときにAD8397が低電圧でも良好に動作するというのを覚えていたので、mini3からそのままソケット付きの8397を外してつけました。
8397は十分な電流出力があるので後段のバッファはバイパスのダミーアダプタをつけようかと思いましたが、XM5でもバッファそのままで良好だったので、とりあえずそのままでつけてみました。

結果はかなり良好で、この時点でD10が化けたという感じでした。
8397のアクティブな表現ともあいまって、デフォルトのオペアンプに比べるとD10もやっとやる気が出てきたという感じがします。
おとなしさは消えて音に力が出てきて音像の輪郭もきりっとして、明瞭です。独立したDACを使っているという気持ち良さがわかる音の響きを感じます。デフォルトのオペアンプだとDACが精細な音を出していてもそれがはっきりと明確に見えてこないという不満があったんですが、それが解消される気がします。またデフォルトでは上品な音楽以外はあわないと思いましたが、8397だとロックでもいいという感じですね。
ヘッドホンでもやや良さを取り戻してESW10はわりとよく鳴るようになります。ただしHD25+V3ではPortable2007に比べるとまだ物足りないという感じはします。
8397にすると音の個性もやや変わるので好みというのはあると思うけれども、もとのままではDAC付きのパッケージという良さを感じにくいという気がします。このよさが出ないとiModベースのほうが手軽でよいことになります。


ここで8397を固定してバッファを少し変えてみます。デフォルトバッファの8532に戻して8397+8532x2で聴いてみると好みではあるかもしれないけれども、アタック感のようなもので8397との相性がありわたしとしては6642の方がよいと思いました。
また、8397にダミーバッファだとパワフルさはあるけれども繊細さが少しないという感じです。
そこでバッファも6642に固定しました。

次にこの状態で8397と8656を変えてみます。
8656だとバランスが取れていて広がりがあり、量感、ダイナミックさはよい感じです。ただし細かい表現でほぐれていないと感じるところがあります。
8397だと音の迫力よりは鮮明で細かいニュアンスをよく伝えているという感じで、音の輪郭がきりっとしています。
8656だと普通によいという感じですが、8397だとまさにDAC/Amp、iPodベースとは違うという醍醐味を味わえます。
この点でD10には8397の方をとることにしました。

d10o.jpg

というわけで、最終的にD10は8397+6642x2という構成に落ち着きました。
アンプ自体の性能もiPodから入力を取って聴いてもなかなかよいように思います。また8397が適度な湿り気を加えてくれて、デフォルトのやや無機的な傾向を緩和して音楽的に楽しく聞きやすくしてくれています。D10ははじめ少し薄味の傾向はあったけど8397のおかげかあまり気にならなくなったという感じです。

3. D10といま (2)

いまでは完全に単体DAC組み込みの強みが発揮されている感がします。ちょっと手放せないですね。
キーはオペアンプの選択とエージングだったと思います。特にDACはそうかもしれません。

音の形はより精緻で整っていますので、ソースの品質の差を明確にします。UE11のような音の顕微鏡的なイヤホンで聴くと、かなり緻密で高精細という高性能DACを使うメリットが享受できます。D10はノイズフロアも低く、UE11と合わせたときの明瞭感も及第点です。
また、ひとつ気がつくのは音の正確さという点です。いままでタイトさとか膨らまずにコントロールすると言うことではアンプに重きを置いていましたが、DACでもかなり違いが出るということがこのようなポータブルシステムでもよく分かります。ベースギターやパーカッション類の制動や歯切れもよく、高精度で緻密な音楽を楽しむというDAC付きのメリットを感じます。音に対するDACの強みというのを考えさせられるところです。
また音の鮮度・明瞭感も高く、余分なケーブルを通らないDACとアンプが一体であるメリットも感じられます。

d10i.jpg

いまではPortable2007にはまだ及ばないけれども、かなり肉薄した感があります。
まだ力足らずには思えるのでHD25/V3だとさすがに差はありますが、IEMだとあまり差を感じないくらいには来ています。ただバッテリーの電圧供給の問題があるのでハイインピーダンスに弱いのは残るのではないかと思います。
前のiBasso D1と比べると差はかなり大きく、特にシステムのコンパクトさとあいまってIEMを使うシステムとしてはかなり強力です。

しかしD10ほどてこずったポータブルアンプはあまりなかったかもしれません。はじめのころはiModシステムと比べるのが怖かったくらいだけれども、いまでは録音の良いソースほどiPodシステムとの差はかなり顕著に出ます。
はじめのころは不燃物の日に出すか小物金属の日に出すか迷っていましたが、いまでは他のオペアンプ用にもう一個買おうかとも迷っているくらいです。

iBasso D10は中国という大陸的テロワールのせいか、アンプが開いていくのに少し時間がかかるタイプと言えるかもしれません。しかし熟成させればオペアンプの品種によっては芳醇な味わいを引き出し、UE11とも互いのよさを引き出して素晴らしいマリアージュを楽しむことが出来ます。
posted by ささき at 21:20 | TrackBack(0) | __→ iBasso D10 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック