Music TO GO!

2008年12月18日

Sennheiser MX W1 - Kleerの築く新時代

1.

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Sennheiser MX W1は今年(2008)初めのCESで話題になったワイヤレスイヤホンです。その最大の特徴はワイヤレスの新基軸であるKleer技術を採用しているところです。
Kleerについてはこちらの先の記事を参照ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/109198956.html

Kleer技術を用いた製品は昨年(2007)のCESにもRCAのデモIEMモデルが発表されていて昨年DAPなども登場していますが、注目度は今ひとつでした。ゼンハイザーという大手が本格的な製品を出したことによって、今年2008年が本格的な始動の年となったようです。
Kleerを応用して既存のIEMをワイヤレス化するという試みでは先に書いたSleek Wirelessがありました。Sleek Wirelessでは従来のケーブルを使ったものと比べることができ、その違いがほとんどないか、あるいはレシーバーの作りによってはケーブルがあるもの以上のなにか可能性があるのではないかと思わせるKleerの可能性を感じさせてくれました。
ちなみにSleek WirelessはたしかPopular Scienceが選ぶ2008年度の新機軸プロダクト100選に選ばれています。

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ただし従来のIEMをワイヤレス応用したという点で、Sleek WirelessやOperaでは左右のイヤホンが有線でつながっているために完全なワイヤレスというにはやや不満がのこります。MX W1はゼロからKleerを使えばこういうものができるということをまさに目の前に提示してくれたと言えるでしょう。それは完全に左右が分離したワイヤレス・イヤホンです。ワイヤレスイヤホンのあるべき姿にたどり着いたとも言えます。

さきに書いたように左右が分離するということは送信機と受信機が1:2の関係になるため、1:1の伝送制限のあるBluetoothでは片耳のヘッドセットは作れても両耳独立のものは作ることができませんでした。しかしKleerでは1:4までのマルチポイント伝送が可能なのでこの形が実現できます。

こちらにゼンハイザーの宣伝用のビデオ(You Tube)がありますので、装着したイメージなどはこちらで確認ください。



http://www.youtube.com/watch?v=3jzGVNb3TXo

2.

パッケージには左右のイヤホンと送信機、そして左右のイヤホンをドッキングさせるドックステーションが入っています。ドックステーションはポータブルで持ち運んで、外部電源がなくてもイヤホンを充電することが可能です。充電は3回まで行えます。

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これは送信機は一回の充電で約10時間ほど持つのですが、イヤホンは約3時間程度しか持たないので、外でも追加の充電ができるようにしているためです。一回の充電には一時間程度はかかるようなので、長い外出をするときは行きに聴いて行って、目的地について用事をしているうちにポータブルドックで充電しておいて、また帰りに聴くという風に使うことができます。

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送信機とはミニプラグでオーディオ機器を接続します。このため汎用性は高く、iPodから据え置きのオーディオ機器まで応用ができます。そのため外出時だけでなく、家に帰ってから家の中で聴くのにも便利です。
わたしはiMod5.5GとSR71Aのセットにバンドで固定していますが、これはちょうど横につけられるので大変取り回しが良くあつらえたようです。

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バッグにこのセットとイヤホン、そして長く外出するときはドック(チャージー)という組み合わせが便利です。
SR71Aはこのセットに対しては少し過大ではないかと思われるかもしれませんが、MX W1はその重さに答えてくれる音質をきちんと提供してくれます。

3.

W1のイヤホン部分はツイスト・トゥ・フィットという装着法で耳にはめ込みます。耳に入れる発音部とは別に耳を支えるためのステムがついていてラバーで滑り止めにして、耳に固定します。ラバーは大中小の3タイプあります。これについては試行錯誤で装着法を探るしかないんですが、慣れるとそれなりには固定できるようになります。
この方式の利点は着脱が簡単なことで、カナルタイプに比べると手軽に装着できるというイヤホンの利点は損なわれていません。また、やや大柄に見えますが、軽いので装着が負担になることはありません。

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装着して外出し音楽を聴いてみると、Ety8やSleek Wirelessでも感じたことがない、はじめての不思議な感覚があります。慣れるまではちょっと気味が悪いくらいで、なにか忘れているような気がします。
これは家の中で使うときもそうで、日常の歯磨きから日常生活をなんでもそのままできるので、ちょっと前の流行でいうと、真にユービキタスな音楽環境と言えます。また、片耳だけ使ってモニターイヤホンのように使えるとか、思ってなかった使い方もできます。

やはり完全なワイヤレスは違います、というよりも慣れてくるとこれがワイヤレスイヤホンのあるべき姿という気がしてきます。

4.

音質に関してはSleekのようにケーブルタイプとは直接比較できませんが、普通のIEMとして評価してもかなり音質は高いと思います。とくにシングルドライバーとしては低域から高域までバランスがとれて洗練された音です。
ダイナミック型なので自然ですし、ゼンハイザーらしいやや艶っぽい聴きやすさも魅力です。音色は良くて、ドライとか分析的というのとは違います。

洗練されているという点で言うと、全体に音のたるみがなくクリーンでタイトな音と言えます。イヤホン内に電子部品も多いためか、エージング前はやや甘く聞こえるように思いますが、時間がたてば解像力もなかなかあって、質感表現も優れています。中高域はかなり良くて、Kleerの特徴としてスピード感があるようにも思います。音は少し耳に近く適度にダイナミックな感じがあり、広がりの良さも感じられます。
カナルではないので構造的にどうしても超低域はリークしてしまいますが、全体に低域は豊かで質の高い低音が出ているのはわかります。
またリークに関しても普通のイヤホンよりはステムで固定している分で少しは良いと思います。

バランスが良いと言っても低音が漏れる関係もあり、イヤホンのタイプ的にやや腰が高めにはなりがちですので、イコライザやケーブルなどで低域方向を調整するとよいと思います。わたしはアンプのセットアップとしてはiMod用のGoldXSilverが腰を低くしてバランスを良くするのに良いと思いました。
またiPhone 3Gから直で取ってもなかなかの高音質で楽しめます。この場合もイコライザーでdanceなど低めに重心が行くものを選ぶと全体にバランスが取れるのではないかと思います。もちろんこの辺は言うまでもなく各自の好みの部分ではあります。

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実際のところDAPとアンプ間のケーブルを変えたり、アンプを変えたりして音が変わるということも普通のケーブルのIEMとまったく変わりません。iPodやiPhoneだけで手軽に良い音を楽しむこともできますし、SR71Aなど良いアンプを加えてより音楽的に豊かな表現力を楽しむことできます。また、その描写を書き分ける能力も十分に持っていると思います。

5.

MX W1を使って思うことはまず、ガジェット感覚が面白いということです。普通のイヤホンとはちょっと違うデジモノとしての魅力もあります。
手軽なところもプラスです。

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Sleek Wirelessに感じたノイズもいっさいなく、細かいところでもより完成度は高いと思います(そういえばOperaを試聴したときはこのノイズはなかったように思います)。この辺は高いなりにゼンハイザー品質です。また音も先に書いたようにワイヤレスという色眼鏡をかけずにIEMとしてみてもよいと思います。
実際にこれを聴いたおかげで、いままであまり興味のわかなかったIE6/7/8もちょっと気になり出しました。
たしかに低域などを考えるとこれのカナル版が欲しいとは思うけれども、装着の手軽さもあって、これはこれでありだと思います。

全体的な完成度は高いのですが難を言うと、イヤホンの電池の持続時間が少し物足りないという点はあります。この辺はポータブルチャージャーがあるとは言え、Kleerの長所として持続時間があるので何とかならないかと思いますが、贅沢に電流を使って音質に貢献しているならばそれもいいでしょう。


Kleerで思うのはケーブルがないということの特質を便利さだけではなく、一歩進んで音質で考えられるようになったということです。
ケーブルという不純物も多い金属抵抗の中を音楽が通ることによる劣化と、音楽をいったんパケットにして送るということによるプロセスにおける劣化のトレードオフという点です。いままでのワイヤレスだとマイナスであることが分かり切っているので、とりあえずあんまりひどくしてくれるな、というマイナスを小さくしてほしいという感じではありますが、こうして積極的にケーブルのありなしを比較するという気にはならないと思います。

人間、見えるものに対しては抵抗がないけれども見えないものに対してはなかなか価値を推し量りにくいというところがあると思います。ワイヤレスもそうしたものかもしれません。

ワイヤレスというと新しくて意外と古いものですが、このKleerの登場であたらしいワイヤレスの時代の第二幕の幕開けとなるように思います。
posted by ささき at 21:36 | TrackBack(0) | __→ Kleer ワイヤレス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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