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2005年12月19日

DAC1とジッターとUltraLock

dac1a.jpg

ところで前に書いたDAC1の記事でひとつ間違いがありました。
StereophileでDAC1と比較しているハイエンドDACは100万くらいのクラスと書きましたが、300万クラスの間違いでした(爆)なにしろNo30.6ですから..(No36と間違えた)
DAC1も海外ではStereophileをはじめとしてかなり高評価を受けてますが、まず測定性能が非常に高いという特徴があります。数値測定を取り入れるところでは特に好評に思えます。
DAC1の設計はBenchmarkの社長でもあるAllen Burdickですが、あまりコストをかけられない小さなスタジオにも良い機材をということを念頭に設計したそうです。そこで物量投入タイプではなく組み合わせの妙を生かしたようです。Burdickはかなりベテランの設計者のようですが、その成果はStreophileのテストなんかはテストに使用したケーブルの方がDAC1より高いという環境でも証明されます。

ひとの耳は測定器ではありませんが、それでも聴感上ではクリアで明瞭なSNの高さに耳を奪われます。
このDAC-1の成功に関してキーになっているのはSN向上のためのデジタルフィルターであると思いますが、そこに至る前にまず「組み合わせの妙」というところから話を始めなければならないと思います。それはDACチップそのものよりもDACのフロントエンドであるAD1896のことです。DAC1ではジッター軽減に"UltraLock"というものを使っているとカタログではうたっていますが、そのハートがこのAD1896です。

普通のジッター対策はまずPLLによるものです。ただそれだと十分ではないのでバッファーやFIFO(キュー)またはリクロック回路を使うものもありますが、マルチチャンネルや画像と同期させにくい、バッファー内の時間の扱いがややこしいなど問題もあるそうです。

DAC1ではDACチップの動作クロックである110kHzに入力信号をサンプリングしなおしますが、それをつかさどるのがAD1896です。そしてDAC1ではこのときにサンプリングレート自体を変化させてジッター除去するそうです(Asyncronous sample rate conversion)。
これがDAC1でいうところの"UltraLock"です。マニュアルでもAES/EBUでの転送では検知されるジッターの影響はほぼないと記載されているのでかなり効果的な方法といえるでしょう。
これにより通常ならばワードシンクを使うようなレベルの時間の同一性を達成しているとのことです。つまりスタジオでのマルチチャンネルの同期の必要性から生まれた技術のようです。

DAC1のマニュアルに書いてありますが、ここにキーがあります。それはジッターの大きな問題はデジタルフィルターに悪影響するということです。デジタルフィルターの効率が悪くなるということは簡単に言うとノイズがうまく除去できないということで、言い換えるとS/N比が悪くなるということです。
どう悪影響するかというと、たとえば2倍オーバーサンプリングするということはデータの幅(時間)が半分になるということですから、その分でジッターの許容量が半分になるということです。つまりそれだけジッター(時間のずれ)に敏感に反応するようになるわけです。これが4倍・8倍となるにつれさらにきびしくなっていきます。
しかしオーバーサンプリングはSNの低減に有効ですから、普通はなくすわけにはいきません(一部ではしていないDACもあります)。それで効果的なジッター低減がオーバーサンプリングを前提としたDACでは重要なことになるわけです。

DAC1のもうひとつの特徴は前に書いたようにあえて110kHzという中途半端に見えるクロックレートで動作していることです。これは対応レートの一番上である192kHzで動作するのに対して、デジタルフィルターの効率を上げるということです。これによって192kHzで動作するより20dBもSNが向上するそうです(その代わりに50kHz以上の帯域で損失が大きくなるとのこと)。
つまりこれらの相乗効果でデジタルフィルターの効果を最大限に高めた結果、DAC1のSNは画期的に高くなったということなのでしょう。

これらの技術はBenchmark社というより、Analog Devices社の研究論文をもとにしているようですが、このように低価格で高性能を達成しているうらにはユニークな工夫が生きているということなのだと思います。


DAC1はDACチップもAnalog Devicesですが、最近の単体DACでチップがシーラスロジックのHeadroom MAX DACやバーブラウンのPS Audioの開発中のDACもAD1896を採用するようになってきているようです。これはDAC1の成功に刺激されたとも推測できます。
DACチップの前のフロントエンドを効果的に使う方法としてはMark LevinsonがNo 360のDACにおいて当時まだ規格のはっきり見えなかった新世代オーディオ(いまのSACDやDVD-Audio)に対応するためにプログラミングで柔軟な変更ができるDSPのSHARCを使用したのが嚆矢だと思います。そしてこのAD1896もSHARCの系統ということのようです。
そうした点ではDAC1の成功も一夜にしてなったわけではないとも言えるでしょう。
posted by ささき at 20:24| Comment(0) | TrackBack(0) | __→ Benchmark DAC1 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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