Music TO GO!

2008年07月10日

カスタムIEMのトレンドと多様化

カスタムIEMの欠点としては耳型を取る手間もありますが、一番のネックはやはり価格が高いということだと思います。やはりカスタムというと高級品で、Ultimate EarsのUE-10やUE-11、WestoneのES3など10万円以上の価格を想起してしまうのではないでしょうか。
しかしカスタムIEMも選択肢が増えて低価格化してきたというのが今年の流れです。いよいよ普及品になってきたというところでしょうか。実際のところいまやカスタムIEMを作っているのはUEやWestone、ゼンザだけではなくて他にもいくつかあります。ここではアメリカでは代表的なものをあげてみます。

まず昨年後半から話題になっていたのはEarpeace LiveWiresで、これはデュアルドライバーでカスタムなのになんと$250という価格です。LiveWiresの特徴は特注のドライバーや着脱式・スイバル式のケーブルです。抵抗(50Ω)入りなどのタイプも用意されています。スイバル式のケーブルとも関係しますが、LiveWiresのシェルはロープロファイルタイプです。Earpeaceという会社が作っていますが、普通は単にLiveWiresと呼称されます。

LiveWiresのページ

Headfiのリファレンススレッド  Livewires - California Dreamin'

また、最近話題になってきたのはFreQです。特に最近5月に上級モデルのMusic Makersシリーズが出てから人気が加速しているようです。FreQのスレッドはいまや300ページ(3000ポスト)に達しようかというすごい勢いですが、ほとんどは5月くらいからの伸びです。実際に新型はシェルの製作品質やクロスオーバーなどいろんな面で改良がされているようです。
LiveWiresが基本的にT1というモデル一つなのに対して、FreQはラインナップも豊富で上級のトリプルドライバーでも$350、シングルのエントリータイプならなんとカスタムで$100という価格です。(当初はトリプルドライバーのSuper FreQが$189で販売されていました)
Westone3が死に体を呈しているいま、3Wayで中域ドライバーをもつFreQ Showはなかなか魅力的です。レビューなどでもUE11と比べて中域表現はとくに対照的という意見もありました。
ちなみにFreQはFrequencyから来た造語のようです。

FreQのページ

Headfiのリファレンススレッド The FreQ Custom IEMs - Impressions Thread

それと別記事に書いたSleekカスタムもシングルドライバーながら$300という価格で、これは定評あるユニバーサルIEMのSA6のカスタム版ということで特徴的です。Sleekカスタムはやはりスイバル式のケーブルを使っていて、こちらは無線ユニットの販売を予定しています。

このように単に低価格だけではなく、メーカー間の個性もいろいろと出てきています。
これらの価格帯ならばSE530とかTriple.fiのような$350-$400くらいのハイエンド・ユニバーサルIEMとあまり変わりません。もちろんインプレッション(耳型)採取代(約5000円)とインプレッション送料(EMSで1200円程度)はかかりますが、それを含めても価格的によい勝負をするようになってきました。
また懸念事項は安かろう悪かろうではないかということですが、これも上記スレッドのコメントをいろいろ読むと音質的にはLiveWiresやFreQのトップモデルなら競合するようなハイエンド・ユニバーサルIEMと比べても引けを取らないどころか、たいていの人はハイエンド・ユニバーサルIEMより上と書いているようです。シェルの製作品質もはじめは問題があったようですが、最近のものではUEなみとはいかなくてもかなり改善されているようです。
こうしたことから、低価格の普及帯カスタムIEMはこれからのIEMのトレンドの一翼になっていくように思います。
ヘッドホンの方ではバランス化という流れがあったんてすが、IEMにおけるカスタム化の流れという感じでしょうか。

ユニバーサルIEMの世界でShureの音もいいけど、UEやEtyの音も好きなのでいろいろ買ってしまう、というのはこうした世界にはまった人にはとくに珍しくないことだと思います。
UE11もいまはKingと呼べても、万能ではありません。カスタムIEMでもいろいろと音の好みが選べるようになるのが理想です。しかし、さすがに一品10万円だとおいそれと買い足しはできませんが、数万円程度ならそうしたことが可能です。
もちろんこうした新興メーカーではまだ不安があるというむきには、多少高くてもUEなどの先行メーカーを安心で選ぶということもあるでしょう。ユーザーにとっての選択が増えたのは悪いことではありません。


一方で国内でもわたしが耳型を採取してもらっている須山補聴器さんでもオリジナルモデルを作っていますが、さらなるラインナップの拡充を図っているようです。国内ならばいろいろと安心でしょうし、興味のある方はこちらのホームページに問い合わせフォームがあります。
また、同様にフランス(EarSonics)とかイギリス(acs)でもやはり同じように各国内でカスタムIEMを製作しているところはあるようです。さらに小さいところもいくつかあります(Hearyourself)。
ユニバーサルIEMの時代はSONYとかShureとかいわゆる世界流通のメーカー品みたいなものだけだったわけですが、カスタムになるとかえってたくさんのところが参入しやすくなったように見えます。この辺はポータブルアンプの世界にもひとつ通じるものがあるように思います。
こうしてカスタムも今年は選択肢も増えて、にぎやかになってきました。ユニバーサルでもRE1のようにハイインピーダンスのものが登場するなどIEMの世界はかなり多様化を見せてきました。


前に生物進化の話をちらっと書きました。わたしは生物学も好きでグールドとかドーキンスなどの現代進化論の本もよく読みます。
ところで地球上にはいろいろな生物がいますが、どれが一番繁栄しているのか、と考えたことはありますでしょうか?
一言では語れませんが、いくつか尺度はあります。その尺度としてよく使われるものの一つは「多様性」です。これは最近よく聞く言葉と思いますが、多様性をもった生物種ほど環境の変動などで絶滅しにくく、後に子孫を残しやすいからです。
たとえばAという大柄な生物種は平原の草を食べて生活します。一方でBという小柄な生物種は平原の草を食べるものと(小柄なので)木に登り木の上の葉を食べるものがいます。いまは温暖で平原が広がっています、そしてAの方が大きく強いので数も多く、Aの方が優勢に見えます。しかし、あるとき海面上昇で平原はすべて水没してしまいました。するとAはいくら数が多くても一気に絶滅します。しかしBの種の木の上のものが生き残ります。そして次の世代につながります。やがては水が引いてまた木の下に降りれるかもしれません、そしてBが平原で覇を唱えることでしょう。しかし次にどんな環境変動があるかはだれにも分かりません。
これが延々と地球上で繰り返されて生物は進化して来ました。

もしIEMを作るメーカーがいまは儲かるからと一般向けの製品ばかりに注力したらどうなるでしょう。なんらかの理由で一般ユーザーがそっぽをむいて買わなくなったらIEMという種自体が絶滅してしまいます。
カスタムIEM、ひいてはIEMというもの自体がそうした多様性を獲得してきたというのは歓迎すべきことですし、ひとつ進化した、と言えるのかもしれません。
posted by ささき at 22:18 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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