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2008年06月22日

SR-71A

なんとなく、飛行機のことが書きたくなったので飛行機の記事を書きます。他意はありません(笑)

SR-71 "Blackbird"

SR-71の登場には偵察機U2が撃墜されたことによって米国の国際的な信用が大きく失墜したことが背景になっています(パワーズ事件)。
そこで絶対に撃墜されない偵察機が要求され、マッハ3でコンスタントに巡航できる機体が必要とされました。設計はこうした特殊な機体の設計に長けたスカンクワークスが担当し、1960年代初めに登場しました。時まさに冷戦の緊張感のただなかです。
それから現在に至るまで実際に幾多の偵察任務において、いままで一機も撃墜された機体はなかったと思います。SR-71はそのためにあらゆる面で特別な設計がされています。

NASAのSR-71に関するページ
http://www.nasa.gov/centers/dryden/news/FactSheets/FS-030-DFRC.html

NASAドライデン研究所のSR-71写真ギャラリー
http://www.dfrc.nasa.gov/Gallery/Photo/SR-71/Small/index.html

まず特徴は二つの大きなエンジンが並列で配置されていることです。まるでデュアルモノ構成のアンプのようです。あ、今回はあくまで飛行機の話です(笑)
このP&W J58ジェットエンジンはかなり特殊なエンジンで、離昇と通常の飛行は普通のタービン圧縮を使うターボジェットですが、速度と高度を獲得した後の超高速域では空気の圧縮をおもに高速によるラム圧(詰め込み圧縮)自身によっています。タービンをバイパスした空気は直接アフターバーナーに導かれます。高高度を飛ぶためにパイロットは宇宙服のようなスーツを着なければなりません。

今年初めの映画「アイ・アム・レジェンド」にNYに係留された空母の艦上に出てきますが、正確に言うとあれはA-12というSR-71の原型です。あの空母はイントレピッド博物館という実在のものですが、他の機体と比べるとSR-71(A-12)がかなり大きいというのが分かると思います。
普通アフターバーナーは燃料消費が激しいので一時的に使うものですが、SR-71の場合は高速で飛ばないとそもそもラム圧を利用した空気の圧縮ができないので、アフターバーナーを常用します。このようにSR-71は燃費が悪いために替えの電池携帯が必須で、じゃ無く、常に上空で空中給油で満タンにします。
マッハ3を越えると空気との摩擦熱で表面はおそろしいほど高温になるので機体の93%はチタン合金ですが、それでもガソリンタンクがオーブンの中を飛んでいるようなものです。そのためSR-71は発火点の非常に高い特殊な燃料を使います。
独特なエイのような形は空気力学的なものもありますが、レーダー投影面を減らし、ステルス効果を狙ったもので現在のステルスの先駆けでもあります。


ニックネームは有名な「ブラックバード」ですが、関係者には沖縄でついたあだ名からハブとも呼ばれます。これはよくあることで、たとえばA-10は正式なニックネームはサンダーボルトIIですが、ふつう関係者はWarthog(いのしし)と呼びます。またSR-71は計画当初は開発者に「アークエンジェル(大天使)」とも呼ばれていましたが、案外これが一番あっているようにも思います。
ちなみに"Black bird"はなんとなく黒い鳥という意味であるように思えます。実際にBlackbird(クロウタドリ)という鳥もいるのですが、実は英語の俗語でBlackbirdは黒人のことを意味します。たとえば音楽でもジャズのスタンダードに「バイ・バイ・ブラックバード」がありますし、ビートルズにも「ブラックバード」がありますが、どちらも黒人問題をテーマにしたものです。
SRはStrategic Recon(戦略偵察機)の機種記号であるといわれますが、もともとはRS-71と呼ばれる予定でした。(名称変更には諸説あります)
つまり71という中途半端な番号なのはRS-70という機種の後継と考えられていたからです。
そしてこのRS-70というのはB-70(XB-70)というやはりマッハ3を誇った超音速爆撃機の偵察型です。結局B-70は試作のみに終わったのですが、航空機史上でもっとも美しいとも称される機体で、そのニックネームは「パルキリー」です。
この名前をなんかつい最近よく聞くことがある、とか思う人がいるかもしれません。大元は北欧神話のワルキューレですが、F-14をモデルにするくらいの飛行機好きならおそらくこのB-70が由来でつけたものでしょう。
それほどB-70「バルキリー」は航空機ファンにとっては人気がある機体ですが、下記のNASAの写真集を見ればその理由が分かると思います。

NASAドライデン研究所のXB-70写真ギャラリー
http://www.dfrc.nasa.gov/Gallery/Photo/XB-70/Small/index.html

予備知識なしで見たならば米軍が研究中の近未来の爆撃機です、と言われても納得することでしょう。しかし写真の日付を見ると分かるとおり、B-70もSR-71同様におよそ40年前の機体です。
機能美という言葉がありますが、まさに最高の性能を持ったものが、最高の美しさも持ち合わせるという見本といえます。バルキリーは変形して、超音速では翼端が折れて下がるように設計されています。これはもちろん空気力学的な意味があるのですが、まるでSFのデザイナーが描いた未来の機体のような美しさがあります。


1960年代のSR-71の就役後から半世紀が経とうとしますが、いまだに航空機の最高速度記録はSR-71が持っています。
また、いまだマッハ3をコンスタントに越えられる機体はほとんどありません。一時喧宣されたMig-25もマッハ3は無理して一時的に超えられるという程度です。それほど熱の壁を含めて技術的な難易度は高い領域です。
上のB-70の形状はコンプレッション・リフトと呼ばれる衝撃波をわざと集中発生させて揚力に利用する技術で、NASAがスペースシャトルのずっと以前に開発していた大気圏再突入実験機の研究から生まれたものです。SR-71もB-70も冷戦という時代背景からコスト度外視で作られたもので、それゆえ当時のアメリカの航空技術力の高さを示す記念碑的な機体と呼んで良いでしょう。

発売されてから、、ではなく就役してからかなり長い年月がたちますがSR-71がこの分野でいまだにトップの座にいるということは注目すべきことです。

なお派生型にはSR-71A、SR-71B、SR-71Cなどがありますが、A型以外は複座で、一般にSR-71と呼んでいるのはSR-71Aのことです。

と、いうところでホーネットやトマホークなどはまた今度。
posted by ささき at 09:57 | TrackBack(0) | __→ RSA SR-71 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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