

「DXシリーズ」とは、これまでにない革新的なダイナミックドライバーの開発を軸とした新たなヘッドフォンシリーズです。シリーズ最初のモデルとなる「DX6000」は、新たに開発した「トランジェントコイルシステム」を搭載して、高いトランジェント性能と精細な低域を両立しているとしています。
* DX6000の特徴
DX6000の特徴は主に以下の3点です。
1 . フリーエア構造 → DX6000は開放型ですが、従来にはないドライバーの前室と後室と繋ぐ構造で、より音の広がり感を得るというもの

2. 柔らかい発泡シリコンエッジ → 軽量な発泡素材の特長を活かし、厚みを持たせながら極めて軽く柔らかいエッジ

3. トランジェントコイルシステム → コイルをドライバーユニットに直列に挿入して入力信号への正確なレスポンスを実現する仕組み
そしてこの3点の特徴はバラバラではなく実は全て繋がっています。それを以下に説明します。
まず聴きなれない「トランジェント・コイルシステム」とはなにかというと、ドライバーユニットに直列でコイル(インダクタ)を追加するということです。
つまり「入力 → コイル→ ドライバーユニット」ということになっていると思います。目的は「一種のクロスオーバーのように働くコイルを直列に入れることで高域をロールオフさせる」ということです。

トランジェントコイルシステムの効果
別な言い方をすると、いままでのハイインピーダンス・ヘッドフォンから一部のコイルを分離して別にしたもの、さらに言い換えるとインダクタンスを上げる要因をドライバーコイルと分離したのがアイディアということになると思います。これはいわば新しいタイプの音のチューニング方式のようなものとも言えます。
ちなみによく言うインピーダンスは電流の流れにくさですが、インダクタンスとは電流の変化に対する抵抗(あるいは反発)のことです。周波数とは電流の変化ですから、インダクタンスが大きい機材はその特性が周波数で異なるわけです。ここではそれを逆手に取ってチューニングに用いています。
ちなみに振動板のサイズは40mmとのこと。
そしてなぜ「トランジェント・コイルシステム」を搭載したかというと、DX6000において「フリーエア構造」を搭載して「柔らかい発泡シリコンエッジ」を採用したからです。
これを説明すると、フリーエア構造を採用すると、音場感は上がるけれども低音が出なくなるので、柔らかいエッジと軽量振動系で音の基盤となる最も低い周波数(f0)を下げる必要があります。しかしそうすると高域が暴れてしまいがちなので、その高域をロールオフさせて安定させる手段として、「トランジェント・コイルシステム」が用いられているということです。
図式化するとこんな感じです。
1. **フリーエア構造の採用**
- ✅ **効果**: 開放感が向上し、イヤースピーカーのような音場感
- ❌ **課題**: 低音が弱まる
↓
2. **低音強化のため、基本周波数(f0)を下げる**
- **解決策**: 柔らかい発泡シリコンエッジと軽量振動系を採用
- ✅ **効果**: 深い低音を実現
- ❌ **課題**: 高域の振幅が過剰になり、高音が暴れやすくなる
↓
3. **トランジェントコイルシステムで高域を制御**
- **解決策**: コイルを直列に挿入し、高域をロールオフ
- ✅ **効果**: 高音を滑らかに整える
↓
4. **結果**: スムーズで立体的なサウンド
- バランスの取れた深みのある低音と自然な高音を両立
このように各技術が互いに関連しあっているのがわかると思います。
*実際のDX6000

デモ機を軽く聞いてみる機会がありましたが、DX6000の実際の音は、たしかに音の広がりがよく、低音が深い音で高域はよく抑えられているというこの仕組み通りの印象でした。これまでにない個性的な高音質サウンドという感じです。
今までfinalではD8000系で平面磁界型ヘッドホンを極めてきましたが、今回は普通のダイナミック型ヘッドホンとしてDX6000を開発しています。そのため平面磁界型ではなかったダイナミック型の問題を解決するためにトランジェントコイルという手法を考案した、とも言えるかもしれません。
いずれにしても新世代を感じさせるような新しいサウンドを持ったダイナミック型ヘッドフォンがDX6000と言えるでしょう。