
DITA Audioのダニー社長


VenturaはDreamクラスと銘打ったフラッグシップモデルです。まず開発コンセプトが前のPerpetuaとどう違うかというと、Perpetuaはコロナ禍で開発した家向きのイヤフォンで、それに対してVenturaはコロナ後の戸外へ旅行すること(to go out)をイメージしたものということです。そのため名称はアドベンチャーから連想してベンチュラと名付けられています。
この意味は用途ではなく、後で音を聴くとわかりますが、サウンドのイメージです。ダニー氏に聞いてみるとそれはつまりPerpetuaはIntimate(親密・内向き)な音、VenturaはOpen(開放的)な音という意味のようです。またアドベンチャーは冒険的な設計という意味も含んでいます。

もう一つの開発コンセプトは、これまでのDITA フラッグシップを包括的に統合したものということです。
これまでDITAはDream、XLS、Perpetuaというフラッグシップを開発してきました。端的にいうと、Dreamはフルチタンでテクニカルな繊細サウンド・深みのある低音、XLSは多層構造(サンドイッチ)採用で音場の拡大、PerpetuaはフルCNCで有機的・自然な音ということになります。これまで13年間でフラッグシップは3つしかないが、冒険的な設計でそれらを高次元に統合したのがVenturaということです。

V4ドライバーの説明
Venturaのキーは新設計のV4と呼ばれるドライバーです。DITAは最もまとまりがあり位相が正しく保たれるシングルダイナミックにこだわり、VenturaもPerpetuaと同じく12mmのシングルダイナミックドライバーを搭載しています。しかし、そのドライバーはかつて見たことがないほど複雑で精密な設計がなされています。
DITAは機械設計会社を母体に持ち、金属加工は得意なメーカーです。そしてこれまでで、最も広い音場を目指して、これまでで最も複雑なドライバーを開発したとのこと。フルチタンですが、さらに秘密の素材があるということで、それはまだ明かせないということです。

Ventura(右)とPerpetua(左)
V4ドライバーの振動板はチタンとセラミックをベースにしてゴールドをコートしたものだそう。金の使用は音に暖かみを加えるためだそうです。またデュアルマグネットで強力な磁力を有しています。
こうしたドライバーのコアも強力ですが、V4ドライバーのキーはエアフローです。V4ドライバーには4枚ものバッフル(整流板)が設けられ、名の由来となっています。そして空気の流れは特徴的なスリット構造のベントに送られます。これまでのフラッグシップモデルではバッフルは1枚のみ使われていました。このバッフルの役割はこれまで音響チャンバーで行っていたチューニングをドライバーの中に持つということです。バッフルの穴のサイズと間隔を精密に調整することで、従来の音響チャンバーよりもはるかに自由に音の調整ができるそうです。つまりキーは「より自由に」音の調整ができるということです。
これは後でダニーに教えてもらったのですが、例えば音響チャンバーでの音のコントロールが3バンドのイコライザーだとすると、V4のバッフル方式は10バンドあるいはそれ以上のイコライザーのようなものだということです。つまり単純に4つのバッフルが低域・中域・高域を担当するのではなく、その組み合わせ、例えば4のn乗などのイメージで調整が柔軟にできるということのようです。
ただしものすごく精密な調整が必要なので、普通ではおそらく実現が難しくさらには大きくなりやすいため、機械加工に長けたDITAならではのドライバーと言えるのかもしれません。


ベント部分のパーツ
またベント穴も単純なホールではなく、5つのスリットになっています。これもより細かく音の調整をするためであり、背面パーツもそのような構造になっていますが、精密なので製品では固定されています。ちなみにこのベントもかなり音に影響しているとのこと。
またケーブルに関しては未定ということですが、試聴用のケーブルはAwesomeプラグでした。

インプレッションはダニーおすすめのリファレンスモデル(灰色のケーブルのモデル)を貸してもらい試聴しました。
比較にPerpetuaを持って行きましたが、聴き比べしなくても一聴して音が違うのがわかります。ちょっと衝撃的なほどのいままで聴いたことがないようなサウンドです。サウンド体験というべきかもしれません。最初耳がバグったのかと思って一回耳からイヤフォンを外したほどです(ほんと)。
まずいままで聴いたことがないほど、音が立体的に感じられます。前方定位ではありませんが、空間が頭の中ではなく外にはみ出しそうになっているのかと思うくらいです。音響系の音源で音が飛び回るサウンドは立体感が面白いほどです。まるで立体音響のデバイスがついているのかと思うくらい。
そして音場の驚きが落ち着くと、次に音自体がとても洗練されているのに気がつきます。ウッドベースの低音がとても低く超低域がぶあっと出ています。高音域はまったくきつくありません。ヘルゲリエンの「take five」のドラムも鋭いのですが痛くありません。躍動感も高くロックもいけます。音自体は自然でやや暖かいかもしれないけれども着色感は少ないですね。いわゆるチューニングがとても上手くできているサウンドです。
ちなみにPerpetuaよりも能率は少し低めです。


次にPreludeはシングルダイナミックのドライバーでフルCNCです。DITA社内でE-TOTLというようにエントリーだけれどもそのクラスではトップというほど音は良いモデルです。ちなみにTOTLとはTop Of The Lineのことで最上位機種といういみです。エントリーのTOTLということですね。
これはV4ドライバーの技術を流用していて、2個のバッフルを使用しているとのこと。振動板はPU(ポリウレタン)のドーム、PT(ポリエチレンテレフタレート)のエッジで、おそらくPUの柔軟性で低音を、PTの剛性で高音をバランスよく再現する目的だと考えられます。
音はあまり試聴時間が取れませんでしたが、クリアでシャープ、やはり音の広がりが独特です。エントリーですが、音傾向もドンシャリではなくHiFi向けに思えました。
また端子は交換できませんが、USBアダプタがついているようです。
「Ventura」は開発中のプロトタイプ、「Prelude」はほぼ発売間近というステータスです。どちらも価格は未定ですが、予定としては「Ventura」はおよそ4000USD - 5000USD、「Prelude」は160USDから170USDということです。
DITA Audioは2012年に初代モデルのAnswerをヘッドフォン祭でロンチして以来、まずヘッドフォン祭に出したいということで、週末のヘッドフォン祭でお披露目されます。