先日発表されたMQA Labsの新技術、QRONOラインナップのひとつである「QRONO d2a」技術とは"d2a(Digital to Analog)"という名称から、DA変換に関する技術であることは容易に想像がつきます。またQRONOは時間を意味するChronoのアナグラムであり、時間に関する技術とも推測できます。
端的にいうとQRONO d2aとは、DACにカスタマイズしたデジタルフィルターです。それでは従来のものとはどのように違うのかというところをMQA Labsの発行した技術白書から考察します。
まず技術白書のサブタイトルが「アナログの魂を持つデジタルオーディオ」というところからも「QRONO d2a」の目指すところが推し量れると思います。
前書きではアナログオーディオからデジタルオーディオに移行して、数値的には性能が改善されたが、音は生き生きとしたものではなかった。それを聴覚的に探っていくところから始まったとあります。
まず従来のデジタルフィルターはデジタル変換に起因する問題(エイリアシング)を避けて、測定的な数値を向上するのが目的であり、そのことが副作用としての時間的なスミア(にじみ)を生じていたとしています。これは「ブリックウォール(レンガ壁)」設計ともいうべきもので、特定の周波数を壁のように急峻に切り立たせています。
なぜブリックウォールにすると時間的な滲みが出るかというと、車が道路の段差を通過する際、段差を超えた後も車が長時間揺れ続けるようなものです。この揺れが音のスミアに相当します。スミアとは絵の線がぼやけてしまうようなもので、この揺れはデジタルのアーティファクト(副作用)でよく出てくるポスト・リンギングでもあります。ポスト・リンギングは実際の音の後に聞こえないはずの音が生じることです。実際の音の前に音が聞こえるプリ・リンギングは車の例えでは表せませんが、それはつまり自然界にない不自然なものだということです。それゆえプリ・リンギングの方がより悪質です。
「QRONO d2a」はこうした当たり前と思われていたデジタルっぽさにメスを入れたものです。つまりプリリンギングは生じないようにし、スミア、ポストリンギングも最小に抑えるということです。
従来のフィルターは周波数に関係なく一様に適用されていましたが、これは88kHzなど高解像度の音楽信号に対してフィルターが過剰に働きすぎて(不要な処理を行い)、音質に悪影響を与えることがあるいうことです。それに対してQRONO d2aのフィルターは、88kHz以上についてサンプリング周波数に合わせて最適化されて設計されています。
次にノイズシェーピングを用いて信号の低レベルの部分を可聴帯域外に移動し、その部分をノイズマスキングします。低レベルの信号がマスクされるということは、データのビット数の下位ビット(24ビット目など)があまり重要ではなくなるということです。低レベルの信号部分はDACの精度が低いので、これはDAC自体のみかけの性能を向上させるのに役立ちます。つまりDAC性能のもっとも美味しい部分を取り出しやすくなり、それゆえにQRONO d2aのフィルターはDACハードに応じてカスタマイズされた設計になっています。
つまりQRONO d2aとは、入力周波数ごとにそのDACの最も美味しいところを取り出すことのできるデジタルフィルターということができます。
48kHz(左)と192kHzにおける従来フィルター(赤)とQRONO d2a(緑)の違い
(MQA Labs WHITE PAPERより)
それでは実際にどのような効果があるかというと、上の技術白書のデータに表れています。
どちらも赤線が従来のDACの内蔵フィルターで、緑線がQRONO d2aフィルターです。QRONO d2aは48kHzでは従来のフィルターに対して1/2の時間で鳴り止んでいます。そして192kHzでは1/20もの短さで鳴り止んでいます。つまりQRONO d2aはハイレゾ領域でより有効に機能するということができます。
MQA labsではQRONO d2aによるCDレベルの再生は、従来の96kHzハイレゾファイルの時間応答に相当し、QRONO d2aで再生した192kHzハイレゾファイルは、最高のアナログ・システムの時間性能を超えるとさえ語っています。
聴覚上の効果としては、以前は不明瞭だったテクスチャーが明らかになり、ミクロレベルのダイナミクスが改善され、楽器の輪郭がはっきりし、ステレオの音場とイメージが向上するとしています。それによって音楽は自然に再生され、臨場感が増し、リスナーの疲労を軽減するということです。
まとめると、QRONO d2aとは数値的に優れたデータそのままの音再現よりも、音楽を聴いたときの音の良さを最大限に引き出すための技術ということができると思います。
またQRONO d2aが下位ビットを使わないで高音質を志向すると言うことは、MQAが下位ビットにデータを埋め込む技術であることを考えると、MQAの互換性を保ちながらも、その制約を克服してさらに高音質を目指した進化系の技術と言うことが考察できると思います。