中国メーカーではCDプレーヤーのアナウンスが相次いでいます。その中で本格的なCDプレーヤー「ET3」や可愛らしいCDプレーヤー「EC Smart」を開発してCDづいているShanlingがまた新たなCD再生機を発売しました。それが異色のCD再生機である「CR60」です。単純にCDプレーヤーと書かずに「異色の再生機」と書いたのは、CR60があまりいままでにない機材だからです。
*CR60の特徴
端的に言えば、CR60はCDトランスポート機能とCDリッピング機能をスイッチで切り替え可能なオーディオ機材です。
ちなみにCDトランスポートというのは本体にDACが無く出力がデジタル出しのみという意味です。DACが搭載されていてアナログで出力できるものを一般にCDプレーヤーと言います。
トランスポートとして見ると、CR60のデジタル出力で特徴的なものはSPDIFや光デジタルなど一般的な出力の他に、USBデジタル出力がついていることです。これにより出力先にUSB DAC機能内蔵のDAPなどオーディオ機材を接続することができます。
またCR60のリッピング機能は一般的なPCに接続するCDドライブではありません。その代わりにスマホや一部のDAPに接続してリッピングすることができます。一般的なPCに接続するCDドライブではありませんが、PCに接続してリッピングすることもできます。
つまり、昔のCDトランスポートはオーディオラックに据えられた据え置きDACに接続するものでしたが、CR60はその接続先がより現代的になっています。
CR60はCDトランスポート機能とCDリッピング機能を搭載した機材ですが、ひと捻りあるのはShanlingの強力なOSが搭載されている点です。CR60の前面には小さいながらも精細なカラー液晶画面(1.14インチ)が設けられていて、これが日本では見慣れた昔のCDプレーヤーとは異なります。画面横のボタンで機能や出力先を切り替えます。
背面を見ると興味深いことにUSB端子がたくさんついていて、USB-A、USB-B、USB-Cのすべての種類のUSB端子が勢揃いして、電源用のUSB-C端子まであります。それは互換性のためというよりも、CR60自体がデバイスにもホストにもなれるからです。ちなみにUSB端子のAはホスト用、Bはデバイス用という意味で、Cは両用です。USB機器としてみると、トランスポートとして出力する際にはホストになりますが、リッピングする際にはスマホやDAPからデバイスとして接続することになります。CR60はこれを背面のハードスイッチと内蔵OSで切り分けています。出力先は通常は自動に判別されますが、ボタンを使用して手動でも切り替えが可能です。
トランスポート機能はUSBで出力できる以外は普通に使えますが、リッピング機能は少々特殊です。
CDリッピングは通常の外付けCDドライブではなく、基本的には専用のアプリから使用します。この場合にはCDDBのようなデータベースからタグ(曲名やジャンルなど)付けができます。アプリを使用する場合にはアプリがタグを検索する機能を有しています。リッピング機能をフルに活用するには「Eddict Player 」アプリを使用します。これはAndroid端末とShanlingの特定のDAPから使用することができます。
PCの一般的な外付けCDとしては使用できませんが、PCではWAVとして保存することができます。そのためEAC(Exact Audio Copy)などは使えません。USBストレージデバイスを接続することで直接USBストレージにWAVで格納することもできます。こうしたWAVで保存する際にはタグ付けはできません。
CDリッピング機能はCR60のUSB-BまたはCを使用します(CR60はデバイスだから)。リッピング機能はiOSからは使用することができません。
つまりCR60は古風なCDと現代的なDAPのギャップを埋めて、それを結ぶことができる機材とも言えます。
*実際の使用について
CR60は説明するにはややこしい機材ので、実際に使用してみるのがわかりやすいかもしれません。
ここではDAPにShanling「M3 Ultra」を用いて説明します。M3 UltraはSnapdragon 665を搭載したAndroid 10ベースのDAPで、AGLO(Android Global Loss-less Output)というミキサーをバイパスする機能を有しています。DACはFPGAを用いたES9219Cのデュアル DAC方式です。シャープで鮮明なサウンドのDAPで、コンパクトなので持ち運んで使い回すのに良さそうです。
CDトランスポートとしてCR60はコンパクトなデスクトップ向けのサイズです。筐体は重く、がっしりとした作りです。機能からはガジェット的な感じがしますが、実物はオーディオ機器らしいがっしりとした作りです。本格的なオーディオ機材に先進的なOSを内蔵させるという点がShanlingらしいところです。
電源はUSB-Cの5V電源と12V DC電源を使用することが可能です。電源にUSB端子も使えるのが便利ですが、据え置きで使用する際には12V DCがおすすめです。(ただしDCケーブルは付属していません)
* トランスポートモードでの使用
1 付属のUSB A - Cケーブルを用いてA端子をCR60に接続、C端子をM3 Ultraに接続します
2 背面スイッチを「トランスポート」に変更します。CDを挿入します。CDの操作は一般的なCDプレーヤー通りです
3 M3 Ultraの画面上部からシステムステータスバーを表示させ、二段に広く表示させてDACモードをUSB-DACに変更します。すると自動的にUSB出力が選ばれます
4 CR60の再生ボタンを押下するとM3 UltraからCDの音楽が再生されます
トランスポートモードでのUSB DAC画面
トランスポートモードでのCR60画面
トランスポートモードでは、iBasso DX260やAstell & KernのDAPでもUSB DACモードにすることで簡単に使用することができました。USB出力のできるコンパクトなCDプレーヤーというのはほとんどないと思うので、オーディオ機器はDAPだけ持っていて、CDも使いたいという人にはこれだけでも便利に使えると思います。音質もなかなか良好です。
* リッピングモードでの使用
1 USB-C - Cケーブル(別売)でCR60とM3 Ultraを接続。USB-CケーブルはOTGではなく通常のデータケーブルです
2 背面スイッチを「リッピング」に変更します。CDを挿入します
3 M3 UltraはWi-Fiに繋ぎます。M3 UltraでEddict Playerアプリを立ち上げます。(Shanlingプレーヤーではありません)
4 Eddict PlayerのCDリッピングメニューを選択
5 自動的に曲情報をCDDBなどから取り出して、アルバムの候補をリストします。これは一致が複数あるためです。どれか選んで確定するとリッピングを開始します。リッピングは数分かかります。
6 終了すると曲名がついてM3 Ultra内に保存されます。アルバムアートは手動で設定できます
7 この後は普通にShanlingプレーヤーなどから再生できます。ジャンルや年代など曲情報も入っています
Eddict Playerのリッピング中画面
CR60のリッピング中画面
PC、MacではWAVでタグなしでリッピングが可能です。例えばMacでの手順は以下の通りです。
1 USB-C - Cケーブル(別売)でCR60とMacを接続。USB-CケーブルはOTGではなく通常のデータケーブルです
2 背面スイッチを「リッピング」に変更します。CDを挿入します。
3 MacのデスクトップでAudioというアイコンを探してクリック
4 アイコンを開けるとフォルダの中に楽曲がWAVとして見えます
5 それらを任意のフォルダーにコピーすると(ファイルのコピーではなく)リッピングが開始されます。そのため数分程度かかります
Macで開けたCR60フォルダの画面
Eddict Playerが動作すればShanling「M3 Ultra」など以外のAndroid DAP/スマホでも使えるように思えますが、iBasso DX260では使用できませんでした。ただしDX260でもAndroidからPCのような手順でWAVでのリッピングはできます。
* まとめ
CR60は今までにないタイプの製品ですが、前提として中国市場は経済発展の度合いにより日本よりも遅れてCDプレーヤーの全盛期を迎えているわけですが、現在はDAPやスマートフォン全盛期でもあります。つまりその時代のずれを是正することが必要になります。端的に言えばCR60はそうした意味で、CD時代と現在のギャップを埋める役目をする機材ということができます。つまりDAPからでも使えるCD機材ですね。
これは中国市場だけではなく、日本のスマホネイティブ世代の若者層にも物理メディアであるCDの人気が再燃していますし、同じ需要があるのではないでしょうか。
家では据え置きのオーディオ機材はなくて、スマホやDAP、USB DACなどだけで聴いている人が、CDを使いたいという時に便利な機材と言えると思います。
トランスポートモードは、DAC以外にもおそらくUSB DACモードのある多くのDAPで使用することができると思います。
ただしリッピングモードは対象機を選ぶと思います。Shanling DAPでEddict Playerが動作すればかなり快適に使えます。もしかするとAndroidスマホでも使えるかもしれませんが、店頭などで念のためにテストをさせてもらった方がよいでしょう。
CR60はまるでCDが最近発明された世界線の製品のような個性的でニッチな製品で、ニーズにはまると使いやすい製品といえるでしょう。