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2024年09月17日

ヘッドフォンもマルチBAも鳴らすスティックDAC「L&P W2Ultra」レビュー

これまでこのブログではLUXURY&PRECISIONのスティックDACをいくつか紹介してきました。「W2」,「W2-131」,「W4」,「W4EX」です。
LUXURY&PRECISION(LP楽彼)は中国のオーディオブランドで、はじめはHeadFiなど海外マニアックフォーラムで人気を集めていましたが、2018年からサイラスが国内でも扱いを始めました。

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W2UltraとHD800 (液晶にHD800設定が表示されている)

今回紹介するのはW2-131の後継機である「W2Ultra」です。W2-131とDAC構成は同じくシーラスロジック製「CS43131」のデュアルですが内部回路の再設計や特注パーツの新規作成、追加機能などがあります。
まずW2Ultraの特徴はハイパワーを可能にして鳴らしにくいヘッドフォンにも対応したことです。

W2Ultraの製品情報のページはこちらです。
https://cyras.myshopify.com/products/w2ultra

* W2Ultraの特徴

まずヘッドフォンへの対応ということですが性能面で言えば、W2Ultraの最大出力は32Ω負荷時890mWを実現しているということなので、スティック型DACながら据え置きアンプに近いくらいのハイパワーを出すことができます。だいたい1W(1000mW)くらい出力があれば据え置きなみと言って良いと思います。
これはデータシートに載せるためだけの瞬間ピーク値ではなく機器の持続的で安定した真の駆動力を重視しているということで、800mW持続可能高出力アンプを搭載するほかに特性の大型ヒートシンクも採用しています。小型ながらコンパクトな据え置きアンプのような設計です。
かなり電力を消費するようですが、PAV±6V時に60分の再生ではスマートフォンのバッテリーは4%程度の消費ということです。

ヒートシンク.png
W2Ultraのヒートシンク

しかしながらW2Ultraのポイントはハイパワー版という特別モデルではなく、あくまで応用範囲が広がったという点です。つまり単に「パワー番長」のようなスティックDACではなく、様々なイヤフォン・ヘッドフォンに対応できるスティックDACということができます。
ハイパワー版というと今まで上手く相性があった高感度マルチBAには今度は合わなくなるような印象を受けますが、W2Ultraではそれを設定の多様さを活かして解決しています。

それを実現するためには出力先に合わせたいくつかの設定を組み合わせて最適なイヤフォン・ヘッドフォンを使い分けることができます。
例えば従来からある「ゲイン切り替え」、そして新しい機能のイヤフォンとヘッドフォン向けに電圧を最適化する「PAV切り替えモード」、特定のイヤフォン/ヘッドフォンの特性に合わせたサウンドスタイルに切り替えられる「SDF切り替えモード」があります。SDFは従来からありましたが、ゼンハイザーHD800、FOCAL Utopiaなどのヘッドフォンが加わっています。LP楽彼ではSDFとHigh Gainを組み合わせるとフラッグシップ級ヘッドホンですら完全に駆動するとしています。

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W2Ultra

このほかにも曲に応じたTUNE01、TUNE02のカスタム設定も継続して搭載されています。LP楽彼ではTUNE01ではより広がりのある音で人の声を特徴とする楽曲に最適、TUNE02は精巧な音で交響曲や複雑な楽曲に最適としています。わたしの受けた印象としてはTUNE01は音に着色感がなく広がりのあるハイファイ系・モニター系の音で、TUNE02はやや温かみがあって密度感のあるリスニング寄りの音に感じます。試聴は主にTUNE01で行いました。

* 実機インプレッション

大きさやサイズ感は以前のW2/W4シリーズとほぼ同じで、外観デザインと操作性はW4譲りのものとなっています。前機種に慣れているとマニュアルを読まずにも操作できますが、設定項目が増えています。
パッケージも同じですが同梱品からライトニングケーブルがなくなっています。これはライトニング端子の制限および電流の不安定さがW2Ultraの本来のスペックを十分に発揮できず、接続の想定外となったためということです。

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まずゼンハイザーHD800を使用してみました。(設定 SDF:HD800 Gain:High PAV:6.0V)
たしかにW2Ultraの駆動力は高く、鳴らしにくいハイインピーダンスのHD800を軽々と鳴らしているのが分かります。単に音量が取れるというのではなく、軽々と駆動しているようで苦しそうな歪みも重苦しさもありません。HD800の性能と個性を十二分に引き出している感じです。
ジャズヴォーカル曲のウッドベースのピチカートはBAイヤホンのように繊細で細かな鳴りが楽しめ、ヴォーカルは鮮明で声質の細かいところまでよく聴くことができます。空間表現も奥行き感があって立体的です。低音の打撃力もきちんと制動がきいていてタイトでかつ鋭いアタック感です。またHD800はわりと低域がフラットで軽めですが、そういう感じがなくパンチのある量感たっぷりの音楽が楽しめます。
小さなDACから出ているとは思えないようなパワーが出ているのがわかります。目を瞑って目の前のスティックを見なければ優秀なアンプで駆動しているように思える感覚です。

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W2UltraとHD800

ここで試しにSDF設定を「HD800」ではなく「Normal(汎用)」にしてみると音量は取れていますが全体的な整った音が減退して少し雑に感じられます。SDFの設定をもどすと高性能アンプから出ているようなとても高い整った音質レベルに感じられます。またこれも試しにPAV設定を4.5Vにすると音が少し薄く軽く感じられるので、やはり6.0Vの方が良いようです。
HD800の独自端子に合う4.4mmケーブルがなかったので3.5mmで試聴しましたが、これでも相当満足できるレベルです。おそらく4.4mmで聴くとさらに素晴らしい音質になるでしょう。

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W2UltraとWHITE TIGER

次にマルチBAイヤホンであるqdc「White Tiger」を4.4mmで試聴しました。(設定 SDF:Normal Gain:Low PAV:4.5V)
これまで同様に解像力は高く、弦楽器の鳴りが細やかでリアルです。音の切れ味の鋭さ、周波数特性のフラットさ、歪みが少ないすっきりとした音の端正な感じもW2/W4と同系統であり、LP楽彼のDAPにも通じる音作りだと思います。フェイキーやFRIED PRIDEのようなシンプルなヴォーカルとギターデュオの音で音質の高さの本領を聴かせてくれます。
PAV設定を6.0Vにするとゲインと違って音量は変化しませんが、音に力強さが加わります。好みの部分もありますが、適正でいうとやはりマルチBAイヤフォンにはPAV:4.5の方が繊細な音を取り出せる感じがあって良いと思います。

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W2Ultraと3T-154

次にダイナミック型で駆動力が必要なiBasso「3T-154」を4.4mmで試聴しました。(設定 SDF:Normal Gain:Low PAV:6.0V, TUNE02)
3T-154では線が太く重みのあるダイナミックドライバーらしさをたっぷり味わえるような濃厚なサウンドを楽しめます。ウッドベースも鳴りっぷりがよく聞こえます。3T-154ではTUNE02にするとより雰囲気のある温かみが楽しめます。
また3T-154ではPAVを6.0Vにすることでより力強いパワフルな音が楽しめます。これはなかなかよく3T-154の良さを引き出しています。音もより端切れがよくパンチの強さが向上します。かなり相性の良い設定だと思います。PAV:6.0Vで聴いてからPAV:4.5に戻すと物足りなさが感じられます。
ちなみにゲインを変えると音量自体が大きくなりますが、PAVだと音量は変化せず力強さが変わります。

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W2UltraとW2-131(左)

前モデルのW2-131とマルチBAイヤホンのWhite Tigerを用いて比較試聴しました。W2-131の設定はSDF:Normal Gain:Lowです。
W2-131でも同じ設定にするとパッと聴きにはほとんど同じ音質と感じます。少し詳細に聴き比べるとW2-131の方が少しおとなしい感じで、ややW2Ultraの方が解像力が高いようには感じます。特にハイパワーだからW2Ultraではホワイトノイズが大きいと言うこともないと思います。
いずれにせよW2-131で感じたハイエンドのマルチBAイヤフォンとの相性の良さと言うのは、設定さえ変えればW2Ultraでもそのまま引き継がれていると言うことが言えると思います。
そう言う意味ではW2Ultraが特別なバージョンではなく、W2-131の後継機に当たると言うのは正しいと思う。以前のものはきちんと引き継がれた上で、さらにハイパワーのヘッドフォン対応がなされているわけです。

* まとめ

W2Ultraは音の傾向は従来を踏襲していますが、パワーと音のカスタマイズの自由度が格段に向上したモデルです。W2Ultraのポイントは単にヘッドフォンに特化したのではなく、設定によりさまざまな種類のヘッドフォン・イヤフォンにむいているということです。ハイエンドヘッドフォンが鳴らせるようになったと言っても、従来相性の良かったマルチBAイヤホンとの相性がなくなったわけではありません。イヤホンで使ってもまったくこれまで同様に使えます。ハイパワーすぎてイヤホンではボリュームの調整が難しいということもありません。

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イヤホンでもハイエンドヘッドフォンでも使用できるだけではなく、イヤフォンもマルチBAとダイナミックで音を変えて最適な音を引き出せます。ハイエンドヘッドフォンをスティックDACで楽しみたいというユーザーだけではなく、自慢のダイナミックドライバーイヤフォンをきちんと鳴らしたいというユーザーにも向いています。マルチBAイヤホンとはいままで通りに相性は良いので、色々な種類のイヤホン、ヘッドフォンを所持しているマニアのユーザーに一番向いているといえるでしょう。特にHD800ユーザーで手軽にHD800を楽しみたい人には特におすすめだと言えます。

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posted by ささき at 15:41 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする