国内のヘッドフォンアンプでは先駆たるLUXMANから創業100周年を記念したヘッドフォンアンプ「P-100 CENTENNIAL」が発表されました。
https://www.luxman.co.jp/presspro/p-100-centennial
究極の駆動力を誇るという「P-100 CENTENNIAL」のユニークな特徴は「P-100 CENTENNIAL」を二台使用してそれぞれを左右別のモノラル駆動としてXLR 3ピン端子を使うことによりさらに駆動力を高める方式(Phone-4)が採用されたことです。
P-100 CENTENNIAL 二台使用モード
面白いと思うのはこれがバランスアンプとしていわば先祖帰りの手法だからです。この二台接続が可能なのは、3ピンXLRケーブルの端子が二股に分かれているからです。しかしなぜそのようなケーブルになっているかというと、これはバランス駆動方式の先祖であるHeadroomのBlackheadというアンプが、Maxというヘッドフォンアンプを二台物理的に結合させたものだからです。
Headroom Blackhead(右)とMax(左)
この3ピンバランスケーブルは当初はバランス駆動アンプの標準的なケーブルだったのですが、次第にバランス駆動方式が当たり前になってくるともっと簡易な4ピンXLRが次第に広まってきました。しかし「P-100 CENTENNIAL」をみると冗長性というものが実は無駄ではないということがわかるような気がします。
Music TO GO!
2024年09月27日
2024年09月21日
AirPods 4はどのようにイヤチップなしでANCをしているか
AirPods 4はどのようにイヤチップなしでANCをしているか、という記事がengadgetに掲載されています。
https://www.engadget.com/audio/headphones/weve-got-to-make-it-happen-how-apple-designed-airpods-4-for-effective-anc-130008844.html
これはアップルのハードウエア担当Kate Bergeronとマーケティング担当Eric Treskiがインタビューで語ったものです。
それによるとAirPods 4のフィット感の監視のためのアルゴリズムの延長にあるようです。アップルによればそのリアルタイム監視機能はH2でなければ実現できなかったとのこと。また実のところイヤーチップなしの外音取り込み機能の方がさらに難しかったということです。これは外音取り込みの場合にはレイテンシーがより重要になるからのようです。また内側マイクとドライバーが干渉しないような工夫も必要だったとのこと。
以前クアルコムがアダプティブANCの発表をした際に、イヤフォンがズレて装着されていてもそれを補完する形でANCを効かせられるという説明をしたことがありますが、それに近いのではと思います。いずれにせよアダプティブ機能の延長ではあるのでしょう。
https://www.engadget.com/audio/headphones/weve-got-to-make-it-happen-how-apple-designed-airpods-4-for-effective-anc-130008844.html
これはアップルのハードウエア担当Kate Bergeronとマーケティング担当Eric Treskiがインタビューで語ったものです。
それによるとAirPods 4のフィット感の監視のためのアルゴリズムの延長にあるようです。アップルによればそのリアルタイム監視機能はH2でなければ実現できなかったとのこと。また実のところイヤーチップなしの外音取り込み機能の方がさらに難しかったということです。これは外音取り込みの場合にはレイテンシーがより重要になるからのようです。また内側マイクとドライバーが干渉しないような工夫も必要だったとのこと。
以前クアルコムがアダプティブANCの発表をした際に、イヤフォンがズレて装着されていてもそれを補完する形でANCを効かせられるという説明をしたことがありますが、それに近いのではと思います。いずれにせよアダプティブ機能の延長ではあるのでしょう。
2024年09月17日
ヘッドフォンもマルチBAも鳴らすスティックDAC「L&P W2Ultra」レビュー
これまでこのブログではLUXURY&PRECISIONのスティックDACをいくつか紹介してきました。「W2」,「W2-131」,「W4」,「W4EX」です。
LUXURY&PRECISION(LP楽彼)は中国のオーディオブランドで、はじめはHeadFiなど海外マニアックフォーラムで人気を集めていましたが、2018年からサイラスが国内でも扱いを始めました。
W2UltraとHD800 (液晶にHD800設定が表示されている)
今回紹介するのはW2-131の後継機である「W2Ultra」です。W2-131とDAC構成は同じくシーラスロジック製「CS43131」のデュアルですが内部回路の再設計や特注パーツの新規作成、追加機能などがあります。
まずW2Ultraの特徴はハイパワーを可能にして鳴らしにくいヘッドフォンにも対応したことです。
W2Ultraの製品情報のページはこちらです。
https://cyras.myshopify.com/products/w2ultra
* W2Ultraの特徴
まずヘッドフォンへの対応ということですが性能面で言えば、W2Ultraの最大出力は32Ω負荷時890mWを実現しているということなので、スティック型DACながら据え置きアンプに近いくらいのハイパワーを出すことができます。だいたい1W(1000mW)くらい出力があれば据え置きなみと言って良いと思います。
これはデータシートに載せるためだけの瞬間ピーク値ではなく機器の持続的で安定した真の駆動力を重視しているということで、800mW持続可能高出力アンプを搭載するほかに特性の大型ヒートシンクも採用しています。小型ながらコンパクトな据え置きアンプのような設計です。
かなり電力を消費するようですが、PAV±6V時に60分の再生ではスマートフォンのバッテリーは4%程度の消費ということです。
W2Ultraのヒートシンク
しかしながらW2Ultraのポイントはハイパワー版という特別モデルではなく、あくまで応用範囲が広がったという点です。つまり単に「パワー番長」のようなスティックDACではなく、様々なイヤフォン・ヘッドフォンに対応できるスティックDACということができます。
ハイパワー版というと今まで上手く相性があった高感度マルチBAには今度は合わなくなるような印象を受けますが、W2Ultraではそれを設定の多様さを活かして解決しています。
それを実現するためには出力先に合わせたいくつかの設定を組み合わせて最適なイヤフォン・ヘッドフォンを使い分けることができます。
例えば従来からある「ゲイン切り替え」、そして新しい機能のイヤフォンとヘッドフォン向けに電圧を最適化する「PAV切り替えモード」、特定のイヤフォン/ヘッドフォンの特性に合わせたサウンドスタイルに切り替えられる「SDF切り替えモード」があります。SDFは従来からありましたが、ゼンハイザーHD800、FOCAL Utopiaなどのヘッドフォンが加わっています。LP楽彼ではSDFとHigh Gainを組み合わせるとフラッグシップ級ヘッドホンですら完全に駆動するとしています。
W2Ultra
このほかにも曲に応じたTUNE01、TUNE02のカスタム設定も継続して搭載されています。LP楽彼ではTUNE01ではより広がりのある音で人の声を特徴とする楽曲に最適、TUNE02は精巧な音で交響曲や複雑な楽曲に最適としています。わたしの受けた印象としてはTUNE01は音に着色感がなく広がりのあるハイファイ系・モニター系の音で、TUNE02はやや温かみがあって密度感のあるリスニング寄りの音に感じます。試聴は主にTUNE01で行いました。
* 実機インプレッション
大きさやサイズ感は以前のW2/W4シリーズとほぼ同じで、外観デザインと操作性はW4譲りのものとなっています。前機種に慣れているとマニュアルを読まずにも操作できますが、設定項目が増えています。
パッケージも同じですが同梱品からライトニングケーブルがなくなっています。これはライトニング端子の制限および電流の不安定さがW2Ultraの本来のスペックを十分に発揮できず、接続の想定外となったためということです。
まずゼンハイザーHD800を使用してみました。(設定 SDF:HD800 Gain:High PAV:6.0V)
たしかにW2Ultraの駆動力は高く、鳴らしにくいハイインピーダンスのHD800を軽々と鳴らしているのが分かります。単に音量が取れるというのではなく、軽々と駆動しているようで苦しそうな歪みも重苦しさもありません。HD800の性能と個性を十二分に引き出している感じです。
ジャズヴォーカル曲のウッドベースのピチカートはBAイヤホンのように繊細で細かな鳴りが楽しめ、ヴォーカルは鮮明で声質の細かいところまでよく聴くことができます。空間表現も奥行き感があって立体的です。低音の打撃力もきちんと制動がきいていてタイトでかつ鋭いアタック感です。またHD800はわりと低域がフラットで軽めですが、そういう感じがなくパンチのある量感たっぷりの音楽が楽しめます。
小さなDACから出ているとは思えないようなパワーが出ているのがわかります。目を瞑って目の前のスティックを見なければ優秀なアンプで駆動しているように思える感覚です。
W2UltraとHD800
ここで試しにSDF設定を「HD800」ではなく「Normal(汎用)」にしてみると音量は取れていますが全体的な整った音が減退して少し雑に感じられます。SDFの設定をもどすと高性能アンプから出ているようなとても高い整った音質レベルに感じられます。またこれも試しにPAV設定を4.5Vにすると音が少し薄く軽く感じられるので、やはり6.0Vの方が良いようです。
HD800の独自端子に合う4.4mmケーブルがなかったので3.5mmで試聴しましたが、これでも相当満足できるレベルです。おそらく4.4mmで聴くとさらに素晴らしい音質になるでしょう。
W2UltraとWHITE TIGER
次にマルチBAイヤホンであるqdc「White Tiger」を4.4mmで試聴しました。(設定 SDF:Normal Gain:Low PAV:4.5V)
これまで同様に解像力は高く、弦楽器の鳴りが細やかでリアルです。音の切れ味の鋭さ、周波数特性のフラットさ、歪みが少ないすっきりとした音の端正な感じもW2/W4と同系統であり、LP楽彼のDAPにも通じる音作りだと思います。フェイキーやFRIED PRIDEのようなシンプルなヴォーカルとギターデュオの音で音質の高さの本領を聴かせてくれます。
PAV設定を6.0Vにするとゲインと違って音量は変化しませんが、音に力強さが加わります。好みの部分もありますが、適正でいうとやはりマルチBAイヤフォンにはPAV:4.5の方が繊細な音を取り出せる感じがあって良いと思います。
W2Ultraと3T-154
次にダイナミック型で駆動力が必要なiBasso「3T-154」を4.4mmで試聴しました。(設定 SDF:Normal Gain:Low PAV:6.0V, TUNE02)
3T-154では線が太く重みのあるダイナミックドライバーらしさをたっぷり味わえるような濃厚なサウンドを楽しめます。ウッドベースも鳴りっぷりがよく聞こえます。3T-154ではTUNE02にするとより雰囲気のある温かみが楽しめます。
また3T-154ではPAVを6.0Vにすることでより力強いパワフルな音が楽しめます。これはなかなかよく3T-154の良さを引き出しています。音もより端切れがよくパンチの強さが向上します。かなり相性の良い設定だと思います。PAV:6.0Vで聴いてからPAV:4.5に戻すと物足りなさが感じられます。
ちなみにゲインを変えると音量自体が大きくなりますが、PAVだと音量は変化せず力強さが変わります。
W2UltraとW2-131(左)
前モデルのW2-131とマルチBAイヤホンのWhite Tigerを用いて比較試聴しました。W2-131の設定はSDF:Normal Gain:Lowです。
W2-131でも同じ設定にするとパッと聴きにはほとんど同じ音質と感じます。少し詳細に聴き比べるとW2-131の方が少しおとなしい感じで、ややW2Ultraの方が解像力が高いようには感じます。特にハイパワーだからW2Ultraではホワイトノイズが大きいと言うこともないと思います。
いずれにせよW2-131で感じたハイエンドのマルチBAイヤフォンとの相性の良さと言うのは、設定さえ変えればW2Ultraでもそのまま引き継がれていると言うことが言えると思います。
そう言う意味ではW2Ultraが特別なバージョンではなく、W2-131の後継機に当たると言うのは正しいと思う。以前のものはきちんと引き継がれた上で、さらにハイパワーのヘッドフォン対応がなされているわけです。
* まとめ
W2Ultraは音の傾向は従来を踏襲していますが、パワーと音のカスタマイズの自由度が格段に向上したモデルです。W2Ultraのポイントは単にヘッドフォンに特化したのではなく、設定によりさまざまな種類のヘッドフォン・イヤフォンにむいているということです。ハイエンドヘッドフォンが鳴らせるようになったと言っても、従来相性の良かったマルチBAイヤホンとの相性がなくなったわけではありません。イヤホンで使ってもまったくこれまで同様に使えます。ハイパワーすぎてイヤホンではボリュームの調整が難しいということもありません。
イヤホンでもハイエンドヘッドフォンでも使用できるだけではなく、イヤフォンもマルチBAとダイナミックで音を変えて最適な音を引き出せます。ハイエンドヘッドフォンをスティックDACで楽しみたいというユーザーだけではなく、自慢のダイナミックドライバーイヤフォンをきちんと鳴らしたいというユーザーにも向いています。マルチBAイヤホンとはいままで通りに相性は良いので、色々な種類のイヤホン、ヘッドフォンを所持しているマニアのユーザーに一番向いているといえるでしょう。特にHD800ユーザーで手軽にHD800を楽しみたい人には特におすすめだと言えます。
LUXURY&PRECISION(LP楽彼)は中国のオーディオブランドで、はじめはHeadFiなど海外マニアックフォーラムで人気を集めていましたが、2018年からサイラスが国内でも扱いを始めました。
W2UltraとHD800 (液晶にHD800設定が表示されている)
今回紹介するのはW2-131の後継機である「W2Ultra」です。W2-131とDAC構成は同じくシーラスロジック製「CS43131」のデュアルですが内部回路の再設計や特注パーツの新規作成、追加機能などがあります。
まずW2Ultraの特徴はハイパワーを可能にして鳴らしにくいヘッドフォンにも対応したことです。
W2Ultraの製品情報のページはこちらです。
https://cyras.myshopify.com/products/w2ultra
* W2Ultraの特徴
まずヘッドフォンへの対応ということですが性能面で言えば、W2Ultraの最大出力は32Ω負荷時890mWを実現しているということなので、スティック型DACながら据え置きアンプに近いくらいのハイパワーを出すことができます。だいたい1W(1000mW)くらい出力があれば据え置きなみと言って良いと思います。
これはデータシートに載せるためだけの瞬間ピーク値ではなく機器の持続的で安定した真の駆動力を重視しているということで、800mW持続可能高出力アンプを搭載するほかに特性の大型ヒートシンクも採用しています。小型ながらコンパクトな据え置きアンプのような設計です。
かなり電力を消費するようですが、PAV±6V時に60分の再生ではスマートフォンのバッテリーは4%程度の消費ということです。
W2Ultraのヒートシンク
しかしながらW2Ultraのポイントはハイパワー版という特別モデルではなく、あくまで応用範囲が広がったという点です。つまり単に「パワー番長」のようなスティックDACではなく、様々なイヤフォン・ヘッドフォンに対応できるスティックDACということができます。
ハイパワー版というと今まで上手く相性があった高感度マルチBAには今度は合わなくなるような印象を受けますが、W2Ultraではそれを設定の多様さを活かして解決しています。
それを実現するためには出力先に合わせたいくつかの設定を組み合わせて最適なイヤフォン・ヘッドフォンを使い分けることができます。
例えば従来からある「ゲイン切り替え」、そして新しい機能のイヤフォンとヘッドフォン向けに電圧を最適化する「PAV切り替えモード」、特定のイヤフォン/ヘッドフォンの特性に合わせたサウンドスタイルに切り替えられる「SDF切り替えモード」があります。SDFは従来からありましたが、ゼンハイザーHD800、FOCAL Utopiaなどのヘッドフォンが加わっています。LP楽彼ではSDFとHigh Gainを組み合わせるとフラッグシップ級ヘッドホンですら完全に駆動するとしています。
W2Ultra
このほかにも曲に応じたTUNE01、TUNE02のカスタム設定も継続して搭載されています。LP楽彼ではTUNE01ではより広がりのある音で人の声を特徴とする楽曲に最適、TUNE02は精巧な音で交響曲や複雑な楽曲に最適としています。わたしの受けた印象としてはTUNE01は音に着色感がなく広がりのあるハイファイ系・モニター系の音で、TUNE02はやや温かみがあって密度感のあるリスニング寄りの音に感じます。試聴は主にTUNE01で行いました。
* 実機インプレッション
大きさやサイズ感は以前のW2/W4シリーズとほぼ同じで、外観デザインと操作性はW4譲りのものとなっています。前機種に慣れているとマニュアルを読まずにも操作できますが、設定項目が増えています。
パッケージも同じですが同梱品からライトニングケーブルがなくなっています。これはライトニング端子の制限および電流の不安定さがW2Ultraの本来のスペックを十分に発揮できず、接続の想定外となったためということです。
まずゼンハイザーHD800を使用してみました。(設定 SDF:HD800 Gain:High PAV:6.0V)
たしかにW2Ultraの駆動力は高く、鳴らしにくいハイインピーダンスのHD800を軽々と鳴らしているのが分かります。単に音量が取れるというのではなく、軽々と駆動しているようで苦しそうな歪みも重苦しさもありません。HD800の性能と個性を十二分に引き出している感じです。
ジャズヴォーカル曲のウッドベースのピチカートはBAイヤホンのように繊細で細かな鳴りが楽しめ、ヴォーカルは鮮明で声質の細かいところまでよく聴くことができます。空間表現も奥行き感があって立体的です。低音の打撃力もきちんと制動がきいていてタイトでかつ鋭いアタック感です。またHD800はわりと低域がフラットで軽めですが、そういう感じがなくパンチのある量感たっぷりの音楽が楽しめます。
小さなDACから出ているとは思えないようなパワーが出ているのがわかります。目を瞑って目の前のスティックを見なければ優秀なアンプで駆動しているように思える感覚です。
W2UltraとHD800
ここで試しにSDF設定を「HD800」ではなく「Normal(汎用)」にしてみると音量は取れていますが全体的な整った音が減退して少し雑に感じられます。SDFの設定をもどすと高性能アンプから出ているようなとても高い整った音質レベルに感じられます。またこれも試しにPAV設定を4.5Vにすると音が少し薄く軽く感じられるので、やはり6.0Vの方が良いようです。
HD800の独自端子に合う4.4mmケーブルがなかったので3.5mmで試聴しましたが、これでも相当満足できるレベルです。おそらく4.4mmで聴くとさらに素晴らしい音質になるでしょう。
W2UltraとWHITE TIGER
次にマルチBAイヤホンであるqdc「White Tiger」を4.4mmで試聴しました。(設定 SDF:Normal Gain:Low PAV:4.5V)
これまで同様に解像力は高く、弦楽器の鳴りが細やかでリアルです。音の切れ味の鋭さ、周波数特性のフラットさ、歪みが少ないすっきりとした音の端正な感じもW2/W4と同系統であり、LP楽彼のDAPにも通じる音作りだと思います。フェイキーやFRIED PRIDEのようなシンプルなヴォーカルとギターデュオの音で音質の高さの本領を聴かせてくれます。
PAV設定を6.0Vにするとゲインと違って音量は変化しませんが、音に力強さが加わります。好みの部分もありますが、適正でいうとやはりマルチBAイヤフォンにはPAV:4.5の方が繊細な音を取り出せる感じがあって良いと思います。
W2Ultraと3T-154
次にダイナミック型で駆動力が必要なiBasso「3T-154」を4.4mmで試聴しました。(設定 SDF:Normal Gain:Low PAV:6.0V, TUNE02)
3T-154では線が太く重みのあるダイナミックドライバーらしさをたっぷり味わえるような濃厚なサウンドを楽しめます。ウッドベースも鳴りっぷりがよく聞こえます。3T-154ではTUNE02にするとより雰囲気のある温かみが楽しめます。
また3T-154ではPAVを6.0Vにすることでより力強いパワフルな音が楽しめます。これはなかなかよく3T-154の良さを引き出しています。音もより端切れがよくパンチの強さが向上します。かなり相性の良い設定だと思います。PAV:6.0Vで聴いてからPAV:4.5に戻すと物足りなさが感じられます。
ちなみにゲインを変えると音量自体が大きくなりますが、PAVだと音量は変化せず力強さが変わります。
W2UltraとW2-131(左)
前モデルのW2-131とマルチBAイヤホンのWhite Tigerを用いて比較試聴しました。W2-131の設定はSDF:Normal Gain:Lowです。
W2-131でも同じ設定にするとパッと聴きにはほとんど同じ音質と感じます。少し詳細に聴き比べるとW2-131の方が少しおとなしい感じで、ややW2Ultraの方が解像力が高いようには感じます。特にハイパワーだからW2Ultraではホワイトノイズが大きいと言うこともないと思います。
いずれにせよW2-131で感じたハイエンドのマルチBAイヤフォンとの相性の良さと言うのは、設定さえ変えればW2Ultraでもそのまま引き継がれていると言うことが言えると思います。
そう言う意味ではW2Ultraが特別なバージョンではなく、W2-131の後継機に当たると言うのは正しいと思う。以前のものはきちんと引き継がれた上で、さらにハイパワーのヘッドフォン対応がなされているわけです。
* まとめ
W2Ultraは音の傾向は従来を踏襲していますが、パワーと音のカスタマイズの自由度が格段に向上したモデルです。W2Ultraのポイントは単にヘッドフォンに特化したのではなく、設定によりさまざまな種類のヘッドフォン・イヤフォンにむいているということです。ハイエンドヘッドフォンが鳴らせるようになったと言っても、従来相性の良かったマルチBAイヤホンとの相性がなくなったわけではありません。イヤホンで使ってもまったくこれまで同様に使えます。ハイパワーすぎてイヤホンではボリュームの調整が難しいということもありません。
イヤホンでもハイエンドヘッドフォンでも使用できるだけではなく、イヤフォンもマルチBAとダイナミックで音を変えて最適な音を引き出せます。ハイエンドヘッドフォンをスティックDACで楽しみたいというユーザーだけではなく、自慢のダイナミックドライバーイヤフォンをきちんと鳴らしたいというユーザーにも向いています。マルチBAイヤホンとはいままで通りに相性は良いので、色々な種類のイヤホン、ヘッドフォンを所持しているマニアのユーザーに一番向いているといえるでしょう。特にHD800ユーザーで手軽にHD800を楽しみたい人には特におすすめだと言えます。
2024年09月10日
AppleがAirPodsを刷新、AirPods Pro2にOTC補聴器モードを搭載
日本時間9月10にAppleの恒例の発表会があり、iPhone 16/16 Proと共にAirPods 4が発表されました。
AirPods 4ではH2が搭載され、ANC採用のモデルもラインナップされています。カナルタイプではなく、オープンイヤータイプでANCが入ったのはポイントかもしれません。音響部分や装着感にも手が入っています。
なおAirPods Maxはカラバリが増えてUSB-C化されましたが、USB-C化はEU要求で必須ですので最小限度のみということのようです。この辺の匙加減には売り上げも影響しているのかもしれません。
今回注目点はAirPods Pro2に(OTC)補聴器モードが搭載される案内があったことです。国制限がありますが、日本にもこの秋にアップデートで提供されるようです。
Appleでは「聴覚の健康をサポートする体験」と呼んでいますが、これはつまり噂されていたAirPods Pro2のOTC補聴器モードです。
リリースでは「軽度から中程度の難聴が認められる方向けに処方箋不要のヒアリング補助機能」がAirPods Pro2に追加されるとありますが、この説明はアメリカにおけるOTC(Over The Counter)補聴器の説明と同じです。ちなみにOTC補聴器はアメリカの法に基づく呼称なので、Appleのようなグローバル企業では言い方は変えるでしょう。
ここ2-3年でアメリカからの情報では完全ワイヤレスイヤフォンを巡る話題に補聴器が絡むことも多くなっていました。この背景としてはアメリカで2022年の8月に米国FDAが医療従事者(オーディオロジストなど)の関与しないOTC補聴器が認可されたことが理由です。OTC補聴器とは店頭販売が可能な補聴器のことです。それまではアメリカでは補聴器の購入にオーディオロジストの処方箋が必要でした。
これによって軽度から中程度の難聴者にとっては従来よりもかなり安価に補聴器が入手できるようになったわけです。これは全米人口の15%に関係するというのでかなり大きな市場の話になります。
OTC補聴器は本格的な補聴器に比べるとかなり安価ですが、完全ワイヤレスイヤホンに比べると価格を上げることができます。
実際に世界的にはオーディオメーカーと補聴器メーカーが協業する動きが近年進んでいます。例えばSONOVAに買収されたゼンハイザー、ソニーもデンマークのWS Audiologyとの協業で業界参入をしています。JAVARAもすでにOTC補聴器を市場導入しています。
これは流通や互いの分野のノウハウの問題でどうしても協業体制が必要となるからのようです。
このようにOTC補聴器と完全ワイヤレスイヤホンの相互関係も注目したい流れの一つと言えます。
もともとLE Audioも補聴器をワイヤレス化するために低消費電力化しなければならないのでBluetoothオーディオ機能にBLEを適用するというところから始まっていますから。
アップルのアナウンス
https://www.apple.com/jp/newsroom/2024/09/apple-introduces-airpods-4-and-a-hearing-health-experience-with-airpods-pro-2/
AirPods 4ではH2が搭載され、ANC採用のモデルもラインナップされています。カナルタイプではなく、オープンイヤータイプでANCが入ったのはポイントかもしれません。音響部分や装着感にも手が入っています。
なおAirPods Maxはカラバリが増えてUSB-C化されましたが、USB-C化はEU要求で必須ですので最小限度のみということのようです。この辺の匙加減には売り上げも影響しているのかもしれません。
今回注目点はAirPods Pro2に(OTC)補聴器モードが搭載される案内があったことです。国制限がありますが、日本にもこの秋にアップデートで提供されるようです。
Appleでは「聴覚の健康をサポートする体験」と呼んでいますが、これはつまり噂されていたAirPods Pro2のOTC補聴器モードです。
リリースでは「軽度から中程度の難聴が認められる方向けに処方箋不要のヒアリング補助機能」がAirPods Pro2に追加されるとありますが、この説明はアメリカにおけるOTC(Over The Counter)補聴器の説明と同じです。ちなみにOTC補聴器はアメリカの法に基づく呼称なので、Appleのようなグローバル企業では言い方は変えるでしょう。
ここ2-3年でアメリカからの情報では完全ワイヤレスイヤフォンを巡る話題に補聴器が絡むことも多くなっていました。この背景としてはアメリカで2022年の8月に米国FDAが医療従事者(オーディオロジストなど)の関与しないOTC補聴器が認可されたことが理由です。OTC補聴器とは店頭販売が可能な補聴器のことです。それまではアメリカでは補聴器の購入にオーディオロジストの処方箋が必要でした。
これによって軽度から中程度の難聴者にとっては従来よりもかなり安価に補聴器が入手できるようになったわけです。これは全米人口の15%に関係するというのでかなり大きな市場の話になります。
OTC補聴器は本格的な補聴器に比べるとかなり安価ですが、完全ワイヤレスイヤホンに比べると価格を上げることができます。
実際に世界的にはオーディオメーカーと補聴器メーカーが協業する動きが近年進んでいます。例えばSONOVAに買収されたゼンハイザー、ソニーもデンマークのWS Audiologyとの協業で業界参入をしています。JAVARAもすでにOTC補聴器を市場導入しています。
これは流通や互いの分野のノウハウの問題でどうしても協業体制が必要となるからのようです。
このようにOTC補聴器と完全ワイヤレスイヤホンの相互関係も注目したい流れの一つと言えます。
もともとLE Audioも補聴器をワイヤレス化するために低消費電力化しなければならないのでBluetoothオーディオ機能にBLEを適用するというところから始まっていますから。
アップルのアナウンス
https://www.apple.com/jp/newsroom/2024/09/apple-introduces-airpods-4-and-a-hearing-health-experience-with-airpods-pro-2/
2024年09月07日
Bluetooth6.0の登場とオーディオとの関係性
Bluetoothのあらたなコア規格、Bluetooth6.0がBluetooth SIGから発表されました。
https://www.bluetooth.com/core-specification-6-feature-overview/
一番的には新機能であるBluetooth Channel Soundingという機能で高精度な距離測定ができるということが主たる改良点です。
以前は経路損失計算(RSSI)という受信強度を測る方法で距離を測定していましたが、環境(壁や反射など)要因などによって精度が確保できませんでした。それが今回の新しいBluetooth Channel Soundingでは位相差の測定と送受信の時間計算を合わせることでより精度の向上を果たしました。これは最近Bluetoothが力を入れている物量管理にも関係していると考えられます。
またオーディオ的にはFind My機能の精度向上により紛失イヤホンが見つけやすくなるでしょう。
今回の6.0でオーディオ的に大きなものは、Isochronous Adaptation Layer (ISOAL) の改良によって、より低遅延でオーディオが送ることができるということが挙げられます。Isochronous(アイソクロナス)は時間優先で送信するモードで、これはLE Audioのコアスペックでの核になる機能です。正確に送るよりも時間通りに送ることを優先するという意味で、オーディオデータの送信に向いています。ちなみにLE Audioでは双方向の通信がなされますが、Auracast(ブロードキャスト)では一方向になります。
ISOALはアイソクロナスデータ(つまりオーディオデータ)の形式やタイミングを調整するための層です。Bluetooth 6.0ではISOALの改良として「セグメント化されていないフレーミングモード」という新しいモードが追加されたことにより、データのセグメント化(分割)の時間を省略することにより、低遅延を図っています。
それとFrame Spaceの改良もオーディオに関連します。
Frame SpaceはLE Audioにおいて隣接するパケットの送信を分ける時間のことです。Bluetooth 6.0ではデバイスに応じてこの間隔を調整することが可能となりました。つまりより高性能なイヤホンならばより短い間隔で送れるので、リアルタイム性が向上します。レイテンシーも関係するかもしれませんが、音声通話品質の向上になるかもしれません。また電力消費も減少します。
接続時のネゴシエーションで決めるようなので、デバイスに依存するという点がポイントです。
Advertising
またMonitoring Advertisersという機能もオーディオに関係します。これはエネルギー消費を抑えながらBluetooth LEデバイスを効率的にデバイスを管理するというものです。AdvertiseとはAuracastでも登場しますが、Bluetooth規格の中では自分のことを相手に知らせることをAdvertiseといいます。
LE Audioのユースケースは、Monitoring Advertisers機能の重要なシナリオの1つですとSIGでは書いています。
まとめると、イヤホンの音質的にはISOALの改良とFrame Spaceの改良でより低遅延が可能となり、Monitoring AdvertisersとBluetooth Channel Soundingによってイヤホンの管理が向上したということになると思います。
なおBluetooth 6.0の登場と言う場合には、コアスペックと呼ばれる、より基本的でより低レベルの部分の変更という意味です。LE AudioやAuracastはもっと上位層がメインなので、今回LE Audioが大きく変わったわけではなく、その基礎になる部分の変更という意味です。念のため。
https://www.bluetooth.com/core-specification-6-feature-overview/
一番的には新機能であるBluetooth Channel Soundingという機能で高精度な距離測定ができるということが主たる改良点です。
以前は経路損失計算(RSSI)という受信強度を測る方法で距離を測定していましたが、環境(壁や反射など)要因などによって精度が確保できませんでした。それが今回の新しいBluetooth Channel Soundingでは位相差の測定と送受信の時間計算を合わせることでより精度の向上を果たしました。これは最近Bluetoothが力を入れている物量管理にも関係していると考えられます。
またオーディオ的にはFind My機能の精度向上により紛失イヤホンが見つけやすくなるでしょう。
今回の6.0でオーディオ的に大きなものは、Isochronous Adaptation Layer (ISOAL) の改良によって、より低遅延でオーディオが送ることができるということが挙げられます。Isochronous(アイソクロナス)は時間優先で送信するモードで、これはLE Audioのコアスペックでの核になる機能です。正確に送るよりも時間通りに送ることを優先するという意味で、オーディオデータの送信に向いています。ちなみにLE Audioでは双方向の通信がなされますが、Auracast(ブロードキャスト)では一方向になります。
ISOALはアイソクロナスデータ(つまりオーディオデータ)の形式やタイミングを調整するための層です。Bluetooth 6.0ではISOALの改良として「セグメント化されていないフレーミングモード」という新しいモードが追加されたことにより、データのセグメント化(分割)の時間を省略することにより、低遅延を図っています。
それとFrame Spaceの改良もオーディオに関連します。
Frame SpaceはLE Audioにおいて隣接するパケットの送信を分ける時間のことです。Bluetooth 6.0ではデバイスに応じてこの間隔を調整することが可能となりました。つまりより高性能なイヤホンならばより短い間隔で送れるので、リアルタイム性が向上します。レイテンシーも関係するかもしれませんが、音声通話品質の向上になるかもしれません。また電力消費も減少します。
接続時のネゴシエーションで決めるようなので、デバイスに依存するという点がポイントです。
Advertising
またMonitoring Advertisersという機能もオーディオに関係します。これはエネルギー消費を抑えながらBluetooth LEデバイスを効率的にデバイスを管理するというものです。AdvertiseとはAuracastでも登場しますが、Bluetooth規格の中では自分のことを相手に知らせることをAdvertiseといいます。
LE Audioのユースケースは、Monitoring Advertisers機能の重要なシナリオの1つですとSIGでは書いています。
まとめると、イヤホンの音質的にはISOALの改良とFrame Spaceの改良でより低遅延が可能となり、Monitoring AdvertisersとBluetooth Channel Soundingによってイヤホンの管理が向上したということになると思います。
なおBluetooth 6.0の登場と言う場合には、コアスペックと呼ばれる、より基本的でより低レベルの部分の変更という意味です。LE AudioやAuracastはもっと上位層がメインなので、今回LE Audioが大きく変わったわけではなく、その基礎になる部分の変更という意味です。念のため。