最近では台湾のオーディオブランドの傘下に入り、Shanling Audioとも提携しています。このShanlingとの提携はXP1のファームウエアに表れています。

今回レビューするONIX Mystic XP1はバッテリー式のDAC内蔵ヘッドフォンアンプで、ブリティッシュサウンドを冠した製品です。ポータブルとは銘されていますが、かなり大きく重いのでトランスポータブルということになるでしょう。一方でShanlingとの提携の効果によりShanling H5などと似た仕組みで単体使用が可能で、重さを厭わなければ単体でも使うことができます。
このように質実剛健な面と近代的な機能性を併せ持つDAC一体型のヘッドフォンアンプといえます。
DAC部分は据え置きも含めて現在最高クラスともいうべきAK4499EXを2基とAK4191EQを1基採用しています。これは一つのDAC ICだったものを、デジタル処理を専門に行うというAK4191と、アナログ信号を専門的に扱うというAK4499EXの二つのICに分けた設計です。この形式は高速でスイッチングするノイズの塊であるデジタル部と、ノイズを嫌うアナログ部の相反する二つを根本的に切り離し、SN比の向上を目指した設計です。このためそれぞれの性能も向上し、AK4191では従来のDACのオーバーサンプリングが8倍か16倍程度のところを256倍のオーバーサンプリングが可能となっています。またこの形式は電流出力となるために、最終的には電圧に変換する必要がありますが、そのI/V変換ステージには自社開発という独自の回路を採用しています。この辺も地味に音質向上のポイントとなります。
ヘッドフォンアンプはフルバランス構成で設計がなされ、ヘッドフォンアンプとしては定評あるTPA6120A2を採用しています。これはかなりパワフルなチップです。


またXP1は豊富な入出力とモードを装備しています。
入力では同軸/光デジタル統合のデジタル入力、アナログ入力、XMOSを備えたUSB入力、LDACとaptXHDに対応したBluetooth入力(Bluetoothレシーバー)、それとMicroSDカードによるローカル再生機能が搭載されています。このMicroSDカードによるローカル再生機能はShanling H5 やEH3などに搭載されている機能と同じで、スマホ上のアプリ(Eddict Player)を使用することでスマホをリモートUIとして使用して、内蔵音源を使うことであたかもDAPのように使うことができるという機能です。

出力としては3.5mm、4.4mmバランスの端子に加えて6.3mmのヘッドフォン端子も搭載されています。背面には4.4mmのバランスラインアウト端子が搭載されています。ゲインはLow/Mid/Highの3段階ありますが、それに加えて独自のイヤフォンモード/ヘッドフォンモードが搭載されています。これは独自にヘッドフォンのために調整されたゲイン機能のようですが、詳細はわかりません。いずれにせよこのイヤフォンモード/ヘッドフォンモードと3段階のゲインで、イヤフォンやヘッドフォンの鳴らしやすさに応じて6通りの調整が可能となります。
電源は7000mAhの大容量バッテリーを内蔵しているので、バッテリーで駆動ができます。またM-Power(DC電源)モードでDC電源により駆動することでパワーを増強させることができます。
4.4mmバランスの時にヘッドフォンモード/Highゲインの際には4.9V@32Ω (750mW@32Ω)と大パワーですが、それをM-Power(DC電源)モードでは8.7V@32Ω (2360mW@32Ω)とかな裏パワーアップ可能です。

筐体はCNC切削加工技術によるもので、ディスプレイにはヴィンテージスタイルのドットマトリックス有機ELディスプレイを採用しています。サイズは160×92×30 mm、583gとポータブルとしては重量級アンプとなります。
インプレッション
かなり大柄でポータブルというよりはトランスポータブルというジャンルだと思う。基本的にはデスクトップにおいてPCと組み合わせるのに向いている。外観は質実剛健という感じでシックで良いと思う。
電源投入は上部のボタンではなくボリュームつまみを押し込むことで行う。ボタンは入力モードや表示切り替えに使うものです。デジタル表示は懐かしい感じの赤色LEDを用いている。ボリュームはクリック感があり適度にトルク感があります。

まず付属のケーブルでUSB接続で、M2 Macbook Airに接続して音を聴いてみました。ホータブルで使いたい場合にはスマホをUSB-Cで接続するよりも後述のSDカード音源のモードが良いでしょう。
qdc White Tigerをバッテリーモード、イヤフォンモードのLowゲインで4.4mmで使います。このようにモード切り替えが多いのも特徴です。

XP1とqdc White Tiger
まず音の特徴は暗めで陰影があり厚みのある音色です。帯域バランスも良好です。音の密度感が濃く、力強さが感じられます。
本格的なオーディオの音という感じで、明るさが抑えられてしっとりとした音色がたしかにブリティッシュサウンドという感じがします。
ジャズヴォーカルを聴いていると地下の雰囲気あるステージでしっとりと演奏している感じが伝わってきます。アメリカンサウンドというと低音多めで明るく勢いがある音ですが、それとは対照的で音バランスが良く陰影があります。湿度感がある感じで、80年代とか90年代の英国ブランドの音に似ています。
本機ではまずこうした音色表現に惹かれますが、音性能が極めて高いのも特徴です。
解像感はとても高く、楽器が幾重に重なっていてもその合間に聞こえる演奏者の息を継ぐ音がくっきりと聞こえてきます。またワイドレンジですが、高い音はシャープというだけではなく雑味が少ない音で、伸びやかで整っています。あらさやキツさは少ないですね。低音は出過ぎず少し抑えめですが、解像力が高くウッドベースの鳴りもよく響いて聞こえます。ヴォーカルの囁きも艶かし口感じられます。
単に高級DAC ICを使ったというだけではなく、良いパーツや上質な設計をしている音のように感じられます。電流出力タイプのDAC ICは電圧変換が必要なのでその後の設計が大事ですが、I/V設計に凝っているというのも納得はできる音です。こうした音はある程度の物量投入が必要なので、ボディサイズが大きくなるのはやむを得ないかもしれません。
Mac側でAudio Midi画面を使用して44kHzの曲を96kHzにリサンプリングするとXP1画面でも96kHzにリサンプリングされます。また小さなLEDの色が変わります。リサンプリングによる音の差はわりと大きく感じられる方だと思うので、ソフトウエアでのリサンプリングを積極的に使うのも良いと思います。foobarなどを使用してあげても良いですね。赤色LEDでは768kHzまでロック表示がなされ、Audio Midi画面でも768kHz対応がわかります。
ヘッドフォンモードとイヤフォンモードについて、同じWhite Tigerでイヤフォンモード/Lowゲインからヘッドフォンモード/Lowゲインにすると音調がややきつめに強い感じになります。音量もやや増えます。イヤフォンモード/Lowゲインに戻すと落ち着いた感じに戻るように感じます。
次に同じWhite Tigerでイヤフォンモード/Lowゲインからイヤフォンモード/Midゲインにすると音調は同じで音量が高くなります。これは普通のゲインの切り替えです。ヘッドフォンモード/Lowゲインだと音量もやや増えるがMidゲインほどではありません。それよりもヘッドフォンモードでは音が力強く聞こえるのが特徴です。
このイヤフォンモードとヘッドフォンモードは通常のゲインとは別に特別に調整されたゲイン調整ということのようてずが、詳細についてはわからない。いずれにせよイヤフォンではなく、次のようにヘッドフォンを使用する時にはかなり効果は高くなります。

XP1とHD800
次にゼンハイザーHD800を6.3mm端子で使用してみると、ゲインはやはりHigh位置が必要で、ボリューム位置も上げる必要があります。このときにイヤフォンモードからヘッドフォンモードに変えると音がややこもっていたのが明るく晴れ上がるような感じがします。楽器音の爪弾く音がよりくっきりと聞こえ声も明瞭感が増します。このヘッドフォンモードはヘッドフォンを使う時にとても使えると思います。ジャズボーカルの声も一層明瞭に細かなところまでよく聞こえるようになり、ウッドベースの切れ味も良くなります。


M-Power(DC電源)モード
ここで電源を専用電源を使用してM-Powerモード(DC電源モード)にしてみます。このときボリュームは少し下げておいた方が良いです。
そうすると音は暴力的と言えるほど力強さが増して、ジャズの荒々しさが堪能できるようになります。低域の深みが増し、重みと沈み込みが増します。高音域もより力強い感じがするのでより伸びやかに聞こえます。M-Powerモードではゲインは一段階下げた方が良いように思う。暴力的なパワー感を味わいたいときはゲインはそのままでボリュームを下げると良いと思います。
パワーを上げるにはヘッドフォンモードにする、ゲインを上げる、M-Powerモードにするという3段階があるというわけです。
次にいくつかイヤフォンとヘッドフォンを変えてみました。
ヘッドフォンではUltrasone Signature Pureを使うとHD800よりも解像力等は及ばないが、XP1ではやや抑えめの低域がプラスされるのでXP1をよりヘビーなサウンドで楽しみたいという方はこうしてヘッドフォンの方を変えてみると良いと思う。やはりM-Powerモードでヘッドフォンモードがお勧め。

XP1と3T-154
イヤフォンでは3T-154を使うとより低音を効かせた迫力あるサウンドを楽しむことができます。3T-154ではゲインはlowで良いがヘッドフォンモードを使うことをお勧めします。よりパワフルな力感がありクリアな音が楽しめます。ダイナミック型はヘッドフォンモードが向いているかもしれません。またM-Powerモードでもさらに音の圧力を高めるように思います。

XP1とProjectM
またDITA Project MでもイヤフォンモードではマルチBAらしい端正な音を楽しめますが、ヘッドフォンモードにすると力強くダイナミックドライバーの側面が生きてきます。ヘッドフォンモードはハイブリッドタイプイヤフォンでも効果的に使えると思います。M-Powerモードでは一層ドラムスのキックの力感がまし、声に厚みが加わります。

Bluetoothレシーバーモード(AACで受信)
次にWhite Tigerをイヤフォンモード/LowゲインでBluetoothレシーバーモード(BT)を試してみた。スマホはiPhone 15 Pro MAXです。
USB接続に比べると音質はさすがに落ちてしまうところもわかってしまいますが、そう悪くはない。音源が良いと明瞭感高く楽しめ、手軽に使うことができます。ストリーミングを楽しみたいときは活用することができます。
Eddictアプリの画面
次にローカル音源の再生を試してみます。これはShanling EH3などに搭載されているものと似た機能です。
まずモードをTF(SDカードのこと)にします。EddictPalyerアプリのSyncLinkの項目でONIX XP1を選択します。この時にBluetoothレシーバーとしてXP1を選択していると接続されないので、Bluetoothレシーバーとして使用しているときはいったん解除します。MicroSDカードのフォーマットはFAT32またはexFATで、音源ファイルはMicroSDカードの直下に置く必要があります。
アプリのSyncLinkから接続したら次にファイルのスキャンを行うと、これで再生画面から音楽が見えるようになります。
多少持ち運びには重いが、以前書いたShanling H5のようにスマホをリモートUIにしたDAPのように使用することができます。音質はワイヤレスではないので極めて高く、もちろんハイレゾ再生も可能です。BTモードでBluetoothレシーバーとして使用するよりも音質はずっと高いので、単体でポータブルで使用するにはこのモードがおすすめです。
またEddict Playerから操作するとDACフィルターも変えることができるようです。
まとめ
XP1は二つの点から選択のポイントがあります。一つは音色が独特なことで少し古めのオーディオらしい音色を好む方にお勧めです。もう一点は機能性で、M-Powerモード、ヘッドフォンモードなど独自機能も有効に働いて音のバリエーションを増して、機材の適合性も上げています。
XP1は高品位なサウンドで持ち運びには大きいですがデスクトップには好適です。M-Powerモードを活用するにもデスクトップが良いと思う。さまざまなハイエンドイヤフォンやヘッドフォンを使いこなす上級ユーザー向けの製品ですが、もう一つの面もあります。今回触れませんでしたが、UAC1.0対応なのでゲーム機などにも活用でき、ベイヤーのヘッドホンなどのゲームユーザーに好まれる高性能ヘッドフォンを使用した最近の高音質ゲーミングの潮流にも使えるでしょう。
XP1は古いグラスに新しいワインが入っているという趣向の趣味性の高いオーディオ製品だと言えるでしょう。