「AK ZERO2」はAstell & Kernブランドでのオリジナルでの独自開発イヤフォンの「AK ZERO1」に次ぐ第二弾です。
初代AK ZERO1の開発で得た知見を元に、「先進の技術を用いてAstell&Kernの原音追求の哲学を詰め込んだ」というモデルということ。PathfinderはどちらかというとCampfire Audio色の強いイヤフォンなので、ZEROシリーズは独自の考え方で開発したということだと思います。5月20日に発売が開始され、直販価格は179,980円(税込)です。
特徴
ZERO1と同様に多種のドライバーを組み合わせるというマルチドライバー構成ですが、ZERO1が平面駆動(PD)ドライバー、BAドライバー、ダイナミックドライバーの3種類だったのに対して、ZERO2ではそれにピエゾドライバーを加えた4種類に増えています。
ZERO2では全部で6基のドライバーを搭載しています。平面駆動(PD)ドライバーx1、BAドライバーx4、ダイナミックx1、それにピエゾなら7個ではないかと言われるかもしれないですが、ダイナミックとピエゾは後述するように一体型なので6個とカウントしているようです。
SP3000とAK ZERO2
高域は平面駆動(PD)ドライバー(マイクロ・レクタンギュラー・プラナードライバー)が搭載されています。これは面上に整形されたコイルによって駆動することで、ダイナミック型のような臨場感を両立したサウンドキャラクターを実現したとしています。
そして中低域にはフルレンジでデュアルカスタムBAが搭載されています。フルレンジという意味はクロスオーバーが介されないという意味のようです。また中域にはクロスオーバーが介されたデュアルカスタムBAが搭載されています。
BAドライバーが4基で中域と中低域をオーバーラップして担当しているわけですが、2基のBAを帯域カットして2基のBAをフルレンジとしている理由は、A&Kに問い合わせてみるとトーンのコントロールをするためだそうです。つまり全部カットするよりも半分カットして半分フルレンジだと中間の落とし方が出来るので、チューニングのグラデーションが付けられるということのようです。
また低域と超高域にはピエゾトランスデューサーと一体型の10mm径ダイナミックドライバーが搭載されています。これはピエゾが超高域を担当して、低域担当のダイナミックドライバーと一体型になっているとのこと。良く分かりにくかったのでこれもA&Kに問い合わせてみると、超高域用のピエゾはダイナミック型と同軸に配置してあるそうです。ダイナミック型はピエゾの真ん中の穴を通るが、ピエゾ素子が音響的にダイナミック型の音響抵抗(厳密には違うがローパスフィルター的な役割)になっていて、低域以外の帯域をカットする役割になるとのこと。ちなみにピエゾはダイナミックの前にあるが、パッシブラジエーターの役割はしていないそうです。この方式のメリットは、ダイナミックから見るとピエゾがフィルターの役割をしていること、ピエゾから見るとダイナミックと同軸上に配置できることで高域が整うということです。
こうしたことからかなり個性的な設計がなされたイヤフォンだと言えますね。この4種の異なるドライバーを超精密なクロスオーバーネットワークで調和させ、3Dプリントによるアコースティックチャンバーで最適に配置、さらにCNCアルミハウジングで共振を抑制することで極めて優れた音域バランスと超低歪を実現しているそうです。
アルミニウムCNC切削によるシャーシで、Astell & Kernらしい造形を感じさせるデザインはIFデザイン賞を受賞しています。ケーブルは着脱可能で、MMCX端子を採用。付属ケーブルはHi-Fiグレードの4芯純銀メッキOFCケーブルで、3.5mmと4.4mmの2種類。5サイズのシリコンイヤーピースと1サイズのフォームイヤーピース、キャリングケースも付属しています。日本製造で、日本の経験豊富な技術者によるハンドメイドと最新の設備を用い、「厳しい工程を経て最高レベルの品質を実現した」とあります。たしかにこれだけの数と種類のドライバーをまとまりのある音に仕上げているのは組み立ての精密さもあるでしょう。
インプレ
10mmのダイナミックドライバーを含む6つのユニット、チャンバーと筐体が大柄ですが、重さはそれほどでもありません。デザインがよく金属らしい質感も良いですね。シックな印象もあって年齢によらず装着しても違和感が少ないと思います。大柄なボディですが装着感は悪くなく、形状がぴったりと耳に収まる感じがします。ケーブルは高級感があってしなやかで使いやすいと思う。
AK ZERO2パッケージとケース
まず4.4mm、付属シリコンイヤーピースで、SP3000で聴いてみました。
パッと聞いてその音質の高さに驚くとともに、SP3000だとあまりにサウンドが異次元すぎるという事案が発生。SP2000Tにしましたが、やはりチューブモードだと異次元レベルの音になります。オペアンプモードでなんとなく現実世界の音が良いイヤフォンに戻ってきた感じです。
まず音世界の立体感が特筆もので、低音の深みがすごいというのが第一印象。そして聴いていくと音の描き方が緻密だということがわかります。解像力も極めて高く、楽器の鳴りが静まっていく残響音もよく聞き取れるます。
アンビエント風のシンセサイザーで包まれるような空間表現が得意で心地よく、曲が進んで女性ヴォーカルが入って歌い始めた時にはっとするくらい声のリアル感と肉質感が感じられます。中高域は鮮明でクリアでかっちりとした音再現。声の再現性が良く、ささやきから歌詞を朗々と歌い上げるまで、広い表現範囲でとてもスムーズでかつ緻密に感じられます。解像力も高いのでヴォーカルはリアルで声の肉質感がよく描き出されている。男声と女声の声の質感の違いがよくわかります。
PDにピエゾと高域はだいぶドライバーが集中しているんですが、高域は伸びやかでベルの音もキラキラしているが、きついという意味ではまったく強くないですね。そのため聞きやすくキツさを感じないのが不思議なくらい。
低音はかなり分厚くて太く深みがあり、叩きつけるような鋭い打撃のアタックも感じられるが、きつさが少ない感じです。よくチューニングされていますね。ダイナミックドライバーの音の重みがハイブリッドらしく聞こえるんですが、低音はそれでいてすっきりしているのでハイブリッドにありがちな低域と中高域の別物感はないのも特徴です。この辺の音が滑らかで快調再現があるのはBAの上記した特徴が生きているのかもしれません。ピエゾハイカットや巧緻なクロスオーバーの効きが良いことと、BAフルレンジ使用の滑らかさなどですね。
SP3000とZERO2だと圧縮音源のストリーミングと内蔵のロスレスとの差が大きすぎて、圧縮音源のストリーミングで聞くのがもったいなくなります。録音の良し悪しも、新旧もかなり良くわかる感じ。ちょっと聞くと滑らかな音タイプだけれども、実はかなり緻密に音を描いていると思います。
スティック型DACのPhatlab RIOを接続してみると、RIOはPhatLabのポタアン並みの性能あるのでちょっと驚くくらいのサウンドが味わえます。M2 Macbook Airとの組み合わせではこれいいと思う。とても解像度が高く、すごくワイドレンジというのがわかります。ZERO2が音を階調豊かに細かく描いてるのもよく分かります。RIOはハイパワーの分でホワイトノイズが少し多いのでPathfinderはおすすめできないけど、ZERO2は大丈夫です。
RIOとAK ZERO2
ZERO1との違い
ZERO1に比べるとかなり違いは大きいと思います。また単なる後継というわけではないと思う。また一方で音傾向が違うのでZERO1の音が好きという人もいるかもしれません。
まずフラット基調から低域が厚めの音になったことです。ZERO1はフラットというかモニター的だったけど、ZERO2では低音が分厚くなって、少し暖かみもあります。ZERO2では低音は誇張されずに深みがあって豊か、量感があります。ZERO2では音がスリムになりすぎないで、ニュートラルではあるけれどもやや低音が多くてとても豊か。ロックやポップでも十分な低音はあります。
まとめ
音の立体感包まれ感、厚みと豊かさ、低域のパンチ、楽器音の鮮明さなど、ZERO2はおそらく現在トップレベルの能力があるイヤフォンだと思います。筐体が質実剛健ですが、これを宝石のようなフェイスプレートにしてユニバーサルデザインにするともっと高価でも納得してしまうかもしれません。そのくらいの驚きがある音ではあると思う。音性能の高さもさることながら、これだけの種類のマルチドライバーを有した個性ある設計なのに、まとまりのある音に仕上げているのも優れた設計だと思います。新しい音世界を提案してくるようなPathfinderに比べるとより自然な音でよくまとまっているのも特徴でしょう。
多少暖かさがあって、滑らかで広がりがある。かつ音はクリアで芯があって緩くない、という音の印象からはアナログの音というAstell & Kernの新しいテーマに沿ったチューニングのようにも思います。その意味ではAstell & Kernの今のサウンドを体現した新製品といえると思います。