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2023年06月27日

R2R DACを搭載してアナログサウンドを追求した「A&Futura SE300」レビュー

SE300はAstell & Kernの実験的なラインナップであるA&Futuraの最新モデルです。
技術的にいうとSE300はR2R DACを搭載してA級AB級増幅切り替えを採用した点が特徴だけれども、音的にいうと従来のA&Kのプロサウンド基調の枠からは外れて、音楽的な美しさとか艶といった官能的要素を重視したDAPだという点が特徴です。ただ特筆すべきなのはSE300が単なる昔のマニアックDACの復刻ではなく、解像力とかSNの高さのような現代的性能の高さを兼ね備えているという点です。

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A&Futura SE300は6月17日に発売。直販価格はSE300が329,980円。 ケースは直販17,980円です。

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専用ケース(ブラック)を装着したSE300

* 特徴

1 ディスクリートR2R DACを搭載、NOS/OS切り替え機能

ここから少しSE300の基本として、まずR2RとかNOSとは何だ、なんのメリットがあるのかというところを説明します。

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SE300オーディオ回路

1-1 R2R DACとはなにか

オーディオのDACは分類すると、デルタシグマ形式DACと、R2R形式DACに分かれます。昔はそれぞれ1ビットDACとマルチビットDACと呼んでいたんですが、ESSのように6bitでデルタシグマ形式の中間形式のDACが出てくるとこの分類が怪しくなるので、アーキテクチャからデルタシグマ形式とR2R形式に分けています。
デルタシグマというのはDSDのようにデータの差分を信号とする方式で、R2R(Register to Register)またはラダー形式というのは抵抗を組み合わせてPCMのビット数に対応する方式です。つまりデルタシグマ形式のDACはDSD音源をデコードするのに向いていて、R2R形式はPCM音源をデコードするのに向いています。R2R形式は抵抗をはしごの様に組み合わせるのでラダーDACとも言われます。
しかし現在のほとんどの音源がまだPCMなのに対して、現在のほとんど全てのDACはデルタシグマ形式です。これはR2R形式の場合はビット数が高くなるほど精度を出すのが難しいから、高ビット数(24bitなど)に対応する設計を実現しやすくするためです。これがこれまでR2RディスクリートDACが敬遠され、DAC ICでも24bit精度を持つのがPCM1704のように限られていた理由の一つです。しかし最近ではDAC IC不足や技術進歩から再びこの形式が見直されています。
SE300では誤差0.01%の超精密抵抗器を48組、96個の抵抗を組み合わせてR2R形式をディスクリートで実装しています。少し前の据え置きのXI AudioのSagraDACで使用されたのはSOEKRIS社の特注の高精度で0.012%だったので、SE300ではかなり高精度の設計がなされているといえるでしょう。

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SE300のR2R DAC部分

1-2 NOSとはなにか

まず、オーディオの世界でNOSという場合には真空管アンプでNOS(New Old Stock = 新古品)という場合とDAC設計でNOS(Non-Over Sampling = オーバーサンプリング無し)という場合があります。今回は後者についてです。

NOSがあるからにはOSがあります。OSとはオーバーサンプリングするということです。オーバーサンプリングとはDACの内部でサンプリング周波数を高くすることです。なぜオーバーサンプリング(OS)をするかというと、一つにはノイズを取りやすくするためです。
反面でNOSにするとOSでは除去されるはずの高周波成分が残って出力信号に混ざる可能性があります。それが情報が増えるという意味ですが、ノイズが残るので一般にSNが下がると言われます。
言い換えるとOSとはノイズを効率よく取るということであり、NOSとはそれをせずにダイレクトにDA変換するということです。つまり一長一短があります。

R2R方式はPCMをそのままデコードできるので、デジタル処理は最小限で済みます。先に書いたデルタシグマ型のDACは原理的にOSが必須となります。つまりNOSというオプションはありません。一方でR2RではOSは必須ではないのでNOSという設定が可能となります。そしてR2RではOSも可能です。つまりは両方切り替えられるのはR2Rの特徴です。
ですからR2RでもOSはできるけれども、最小限のデジタル処理で自然でアナログの音という観点から、デジタル処理がより少ないNOSがR2Rと組み合わせることが多いというわけです。R2R DACのことを別名でNOS DACとも呼ぶことがあるのはこのためです。

ちなみにこれはオーディオだけではありません。デジタルカメラをやっている人は「ローパスレス」という言葉をマニアがよく口にするのを聞くと思いますが、このローパスレスがオーディオで言うとNOSです。デジタルカメラで言うとローパスがある方が全体に画像はすっきりしますが、細部はぼやけています。ローパスを取るとモザイク状(偽色)になる部分がでますが、細部まで緻密に写ります。つまり入力をよりダイレクトに取り入れるという点ではオーディオにおけるNOSに似ています。
これをオーディオ的な言い方をすると、NOSはより情報量が多く自然でアナログに近いサウンド、OSはデジタル処理により高精度な再現性やノイズ低減を実現、となります。


2 A級/AB級増幅切り替え機能

A級増幅についてはPA10のところで書きましたが、SE300ではA級とAB級の切り替えができるようになりました。一般的に言うとA級はスムーズで電力消費が多く、AB級はよりパワフルで電力消費は少なくてすみます。SE300ではUIでA級増幅とAB級増幅を切り替えることができます。
電池容量はSP3000と同じ5000mAhもあり、SE200が3700mAhだったからかなり電力は消費してるように思います。

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アンプモード切り替え画面

さきに書いた様にNOSとOSではNOSがより味のある官能的な良さを志向して、OSのほうはSNの高さなど性能的な良さを志向しています。A級増幅とAB級増幅ではやはりA級増幅の方が味の良さを志向して、AB級増幅の方が性能的な良さを志向しています。
このNOS/OSとA/ABを組み合わせて自分の好みの音を作れるというのがSE300の特徴なわけです。そういう意味では二種類のDACを持つSE200やDACモジュール変更ができるSE180の延長線上にある音を変えられるDAPであるということもできます。

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SE300ではFPGAを搭載しているのも特徴の一つです。なにに使用しているのかはよく分かりませんが、推測としてはOSのさいのオーバーサンプリングとDSDをPCMに変換するのに使うのではないかと思います。

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* インプレッション

SE300は外観も特徴的で、片側側面が鏡面仕上げで波をうち、もう片側がマット仕上げというのもSE300の持つ2面性を表しています。見た目の高級感もあり、サイズ的にも操作感を考えると適当な大きさだと思う。

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専用ケースはベジタブルタンニングレザーを採用しブラックとブルーがあります。ケースは手触りも良く、高価なDAPが滑りにくくなるので良いのですが、記事内の画像はSE300の特徴を見せるためにケースなしで撮っています。

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専用ケースとケースを装着したSE300

さっそくその音をまずA級増幅でNOSで聴いてみます。
パッと一聴して今までと違う音だということがわかります。音が滑らかで柔らかく暖かみがあります。エージングしないでこんな滑らかなのは聞いたことがない、というかSP3000以来ですがSP3000とは違うタイプの滑らかさです。
中高域に独特の艶っぽさがあるのが昔懐かしいNOS DACの感じに似ている様にも思います。しかしながらSE300がそうしたノスタルジーの産物ではないということは、透明感や解像力の高さなどからわかります。味のあるマニアックな感じと現代的な性能の高さがブレンドされている感じです。
R2Rの音がイメージし難いというときは、普通のDACにおいてDSDを再生した時のDSDネイティブ再生とPCM変換の違いをイメージすれば近い様には思う。R2RはそれがPCMとDSDでは逆というわけです。

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SP2000Tのオペアンプモードと遜色ないほどの高い解像力と細かい音再現が感じられ、R2Rというとマニアックな味系の個性重視のように思えるんですが、SE300は解像力や音像の明瞭さもESSを思わせるくらいある。NOSってSNが理論上は低くなるけど、あまり濁りを感じないところはA&Kの低ノイズ設計が全体として効いているのかもしれない。
SP2000Tのオペアンプモードでは少し高域がきつい曲の部分では、まったくきつさを感じないのはR2R DACらしいところです。メタルを聴いていてもキツさが少ないので、長時間聴いていられますね。SP2000Tの場合には真空管モードを使って似た感じの効果を出すことはできます。

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SE300はとにかく音楽を美しく再生するDAPということが言えると思います。イヤフォンを変えるともちろん音は変わりますが、どれでも音楽を美しく聴かせてくれると思います。
でもやはり元のイヤフォンの音にも左右され、イヤフォンの音調がHIFIモニター的なものよりは音楽を楽しく聴かせてくれる系のイヤフォンの方が合っていると思います。例えばqdc Folkですが、最も合うのはDITA audioのPerpetuaだと思う。Perpetuaだと音楽の美しさと解像力の高さの両方を堪能できます。また一般的にマルチBAよりはダイナミック機の方が音の相性が良い様には思います。
Perpetuaと合わせると高域が艶やかで華やかに美しく響き、音の細部も拾い上げて情報量も豊か、かつ躍動感があって低音も深くたっぷりとして、音場も広大。なかなかに素晴らしい音で、さらにきつさが少なく「アナログ的な」音を堪能できます。

R2R DACはDSDをデコードできないのでたぶんFPGAで前段でPCM変換していると思いますが、DSDの曲を再生してみても上質に再生ができます。R2R DACに入るときはすでにPCMになっていると思うので、NOS/OSの切り替えでも音は変えられると思う。

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* OSとNOS、AとABの切り替え

R2R DACは別名をNOS DACともいい、普通はR2R DACはNOSで固定されています。先に書いたようにNOSがやはりR2R形式を取るときの売りになりますからね。ただHIFIMANのヒマラヤDACもそうですが、最近では切り替えられるものも出てきています。
この切り替え機能はSE300の特徴なのでいろいろと変えてみました。

上のインプレではずっとNOS/Aで聴いてきましたが、DACモードをNOSからOSに変えると音は艶っぽさや温かみという有機的な感覚的な良さが少なくなり、すっきりとした端正な音色となります。こちらの方が従来のDAPの音色に近い感じです。
アンプモードをABにするとやや平板的になりますが音が明るく開けたように音が広がります。またAに戻すと音が滑らかになり、やや音調が暗く中央に集まる様な感じの音になります。

ただOS/ABの組み合わせでも他のDAPよりは音のきつさは少ないと思います。OS/ABだと他のDAPに近づきますが、SE300の効果はないかというとそういうわけではなく、それで他のDAPと比べてもギターのピッキングでのデジタルっぽさやきつさは少ないので、アコースティックデュオのアコギの速弾きだとOS/ABの方が魅力は分かりやすいと思う。
艶っぽいとか美音という感覚的な良さを加えるのがNOSで、さらに滑らかで温かみのある音を実現するのがA級増幅。だから従来のA&KでDSDネイティブ再生のような音再現を実現したいときはOS/ABが良いと思う。

例えば四重奏で弦をかき鳴らす様なところでは、DACモードがNOSだと一つ一つの弦の音が華やかで複雑な色彩感が感じられ、OSだと一つ一つの弦の音はより落ち着いてすっきりと透明感が高く感じられます。アンプモードをAにすると演奏全体が中央に集まって滑らかで多少暖かな印象となり、ABにすると演奏全体が左右に広がってやや冷たく感じられます。
ただし色彩感と書いたけれども、言葉を変えると雑味という人もいるかもしれない。NOSの効果というのは人の感じ方に左右されるかもしれないわけです。
好みの問題ですが、個人的にはNOS/Aが好き。でもSE300の場合にはNOS/ABもいいと思います。SN感や音場感とか音性能の良さと、艶とか味の様な感覚的な良さを両立させている感覚です。
ただ暖かいという表現を使うけれども、着色感という意味では暖色のような色つけは少なく、主に滑らかで柔らかいだけど、柔らかいというとSNが低いようにも感じられるので避けています。
SE300では鮮明な音ながらキツさは抑えられた「アナログサウンド」がポイントです。アナログというと古くてもっさりした感があるかもしれませんが、ハイエンドのLPターンテーブルのシステムで音を聞けばその思い込みは一掃されるでしょう。「アナログサウンド」というのは昔ながらの古い音というわけではありません。

*まとめ

SE300は個人的にとても音が気に入ったDAPです。
SE300を聴いているとなにかこの感覚昔聴いたことがあるなあと思ったけど、それはレイ・サミュエルズさんのSR71だったかもしれない。なにか音がとても細かく聞こえるのに、躍動感があって暖かみがあるのに魅力を覚えたのを思い出します。それと昔の黒箱時代のLINNとか、心地よいのでもっと聴きたいと思わせるような魅力的な音再現があるように思う。

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当然ではありますが、このNOSやAクラスの音の良さはBluetoothレシーバーとしても、ストリーミング再生でも楽しめます。これは画期的なことです。前に書いた様にむしろストリーミングやワイヤレス時代だからこそPCMに強いR2R方式が生きているということもできます。DSD音源はまだまだ少ないし、ストリーミングはPCMなので、一般的なPCM音源でずっとDSDネイティブ再生で聴いている様なスムーズな音再現ができるのがR2R DACとは言えます。
R2Rは古いイメージがある設計ですが、むしろワイヤレス時代、ストリーミング時代のいまこそ輝いているのかもしれません。これはSE300が掲げる「Future of Analog sound」というテーマに沿っています。
そしてA&Kの最新の低ノイズ設計を併せて現代にR2Rを蘇らせたのがSE300であり、それがAstell & Kernが今テーマにしている「アナログの音」の体現と言えるでしょう。
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2023年06月20日

アスキーにLE Audioを実際に試聴したレポートを執筆しました

アスキーにLE Audioを実際に試聴してみましたというレポートを執筆しました。
下記二篇です。

ついにLE Audioに対応したLinkBuds Sの音を聴く、低遅延には魅力あり
https://ascii.jp/elem/000/004/141/4141415/

なぜ、LinkBuds SのLE Audio対応はベータ版なのか? ソニーに確認した
https://ascii.jp/elem/000/004/140/4140465/
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ヒマラヤDAC搭載の音質優先完全ワイヤレス「Svanar Wireless」レビュー

Svanar WirelessはHIFIMANが開発したANC搭載の完全ワイヤレスイヤフォンです。ANC搭載ながらも、あらゆる点で音質優先が徹底されているのがポイントです。本日6月20日に発売が開始され、価格は79,860円(税込)です。

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特徴

1 R2R DAC「ヒマラヤ NANO」とバランスアンプを搭載

普通の完全ワイヤレスイヤフォンではオーディオ回路がBluetoothの通信チップに統合されているために音質はそれなりということになります。
このSvanar WirelessではBluetoothの通信チップとは別に独立したDAC回路とアンプ回路を搭載することで、その制限を超えてより本格的な音の再生が可能です。HIFIMANでは過去にTWS800というこうした設計の先駆的な完全ワイヤレスがありましたが、その延長上にある製品といえます。

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さらに特徴的なのはそのDAC部分にHIFIMANが独自開発したヒマラヤDACを搭載していることです。これはヒマラヤNANOと呼ばれるさらなる小型版を開発しているようです。ヒマラヤDACとはHIFIMAMが独自開発したDACで、R2RラダーDAC設計を採用したいわゆるマルチビットDACです。これはPCMの再生時にデジタルっぽさを低減するというメリットがあります。ヒマラヤDACは高性能DAC ICであるPCM1704並みという高音質を実現しただけではなく、他の高性能DAC ICの数十分の一という低消費電力を特徴としているのもポイントです。
また独立したアンプ部分はなんとバランス出力が採用されています。このことにより一層力強い再生が可能となります。
つまりイヤフォンの中に小さなDAC内蔵ポタアンが入っている様なものです。しかもそれがR2R DAC、バランス駆動アンプというマニアックな仕様というわけです。この辺はマニア市場で好評を得ているHIFIMANらしさ全開と言えます。

2 HIFIMAN独自のトポロジー振動版を採用

Svanar WirelessではDACやアンプの様なエレクトロニクス部分だけではなく、音響部分でもHIFIMAN独自のトポロジー振動版を採用することで高性能化が図られています。トポロジー振動板とはHIFIMAMが独自開発した振動版の技術名称です。

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振動板上にナノサイズの粒子をさまざまな形状やパターンにした層を組み込むことで、これらのナノサイズコーティングが振動版の動きを正しくチューニングすることができ、そのためドライバーの音質の最適化ができるという技術です。つまりナノサイズの粒子で振動板の動きを正しくコントロールすることができるというわけです。

3 ANCと外音取り込み機能を搭載

Svanar Wirelessでは音質だけではなく、アクティブノイズキャンセリング(ANCモード)と外音取り込み機能(トランスペアレント・モード)も搭載されています。これらは左ユニットのボタンを長押しすることでモードを変更させることができます。
ANCモードはANC ディープノイズキャンセリングと呼ばれていて、最大で-35dBのノイズ低減効果があるとのことです。

4 HIFIモード搭載

面白いのはアクティブノイズキャンセリング・モード、トランスペアレント・モードの他に音質優先のHIFIモードが搭載されていることです。
このHIFIモードのときにはANCモードよりも再生時間が短くなるというのが音質優先の製品らしい特徴です。Svanar Wirelessはトランスペアレント・モードの時に約7時間、ANCモードの時に6時間、HiFiモードの時に約4時間の再生が可能です。
おそらくはHIFIモードの時にバランス出力になるのではないかと思いますが、ここは詳しくはわかりません。

5 人間工学的なデザイン

Svanarとはスエーデン語の白鳥を意味する言葉のスヴァナールから来ています。Svanarは白鳥という意味で、HIFIMANでは形状が白鳥を模したイヤフォンをSvanarと呼んでいるようです。フェイスプレートはカーボンファイバーで反対側はABS樹脂製です。有線のSvanarは真鍮製ですが、これはワイヤレスで電波を通す必要性からでしょう。

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Svanar Wirelessはたくさんのエレクトロニクスが満載されているからか多少大柄なシェルのサイズなんですが、この白鳥を模したような人間工学的なデザインにより装着感を向上させています。充電ケースもユニークで未来的な造形がなされています。ケースは本体を3回分充電することができます。

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パッケージ内容物

この他の特徴としてはBluetoothのコーデックとしてはSBC、AACに加えてLDACにも対応しています。

* インプレ

製品を手に取るとまずケースのユニークな形状に感心してしまいます。まるでSFの小道具のようです。本体もユニークな形状で大柄な回路とかドライバーが詰まっている感じがします。ただし軽量でユニバーサルイヤフォンのような曲面が耳にぴったりフィットすることで装着感は快適です。

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操作はタッチコントロールで、フェイスプレートの四角い部分をタップすることで行います。タップするたびにピッとトーンが出るのでわかりやすく使用ができます。
ANCや外音取り込みのモード切り替えは左ユニットを3秒長押しで切り替えができます。ANCを電車内で使用するとガタガタという騒音はスッと消えてゆきますが、車内アナウンスは聞こえています。他のANCと比べてそう劣る様でもないように思います。音質優先の完全ワイヤレスではありますが、ANC機能も思ったよりも良く効く感じです。外音取り込みはレジで使ってみると、AirPodsみたいに強調されるような感じではないが、自然に使える感じです。
HIFIモードと他のモードではあきらかな音質差があります。またANCオフでも地のパッシブノイズ低減でわりと音は低減できます。そのため、基本的にはHIFIモードで使うことをお勧めします。音楽は基本的にHIFIモードにして電車内で本を読みたい時などにANCにすると良いかもです。

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音質は端的に完全ワイヤレスイヤフォンとしては前例がないほど高音質です。特にアナログ的で豊かな高性能オーディオを思わせるようなサウンドが感じられ、とても強い力強さをも感じます。これはR2R DACとバランス回路が効いているからでしょう。完全ワイヤレスとしてはちょっと驚くほどで、思わずケーブルでDAPに繋がっているんじゃないかと錯覚して手が動くほどです。
楽器音はとても細かい音まで解像する感があり、音場の立体感も包み込まれるように感じられます。帯域バランス的には低音重視で、低音が太く豊かで音のスケール感があります。しかしDACやアンプの効果なのか、低音はタイトで歯切れも良いのでコンシューマー的な緩んだ低音の強調感ではありません。しっとりとしたジャズヴォーカルものを聞いていてもそうベースが誇張した違和感はないので普通に聞けるレベルで盛り上げている感じがあり、本当に高性能DAPが耳に詰まっている様な音の制御の巧みさが感じられます。低音が太く豊かで広がりもあるので音にスケール感があります。
このように音傾向はフラットではなく低域が強調されたサウンドですが、もともと回路と一体型なので様々なDAPに合わせる必要はないので、上手に味付けがなされているといえるかもしれません。
またANCは音が出てるのと同じ振動板を動かして逆位相作るのであまりいいことではなく、特に低音再現に影響するとも言われています。そういう意味で低音に強いサウンドにしたのは差別化という点でもありなのかもしれません。

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楽器音はとても細かい音まで解像する感があり、音の立体的な広がり方も気持ちよく包み込まれるような感じで立体的な広がりです。エレクトリカとか曲によっては音が自分の周りを飛び回るように聞こえる感じもします。完全ワイヤレスではあまり味わったことがないほどのレベルです。音が絡み合うような複雑な曲で真価を発揮します。
ヴァイオリンの音では響きの余韻が感じられ、音に厚みがあって、より耳に近く感じられます。少し前列で聞いている感じです。声自体は明瞭感があってはっきりと聞こえて、歌詞もよく聞き取れます、ここはさすがにDACの解像力の高さでしょうね。
パーカッションやドラムのアタックの叩きつけるような鋭さも完全ワイヤレスではおよそ聴いたことがないレベルです。アタック感があるのでロックにも良いです。また細かい音を再現するのでクラシックやジャズトリオにも向いています。

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他にもDACが独立内蔵されているTWSがありますが、Svanar wirelessはDACもさることながらアンプが強力な気がします。それがこの豊かな音鳴りと空間表現の元になっていると思います。そして楽器音がきつくなくアナログ的な感じがするのはヒマラヤDACの効果ではあるでしょう。
AirPods Pro2に比べるとかなり音質は普通に据え置きのオーディオ機器で聞いているように感じます。比較するとAirPods Pro2の音はやはりコンシューマデジタル機器の音で、かなり薄く軽く感じられます。AirPods Pro2は化学調味料で味付けした音で、Svanar Wirelessは自然のダシで味付けしたオーディオ機器らしい音とも言えます。
HM800はハイインピーダンスドライバーという点にポイントがあって、ゲインが大きすぎた気もするけど、Svanarは欲張らないで自然に鳴っている感じです。

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例えると普通の完全ワイヤレスはiPhone直差しの音、これはDAC内蔵ポタアンを通した音。一般的なスティックDACよりも広がりの点で優っている。完全ワイヤレスは仕組み上元々モノDAC・モノアンプですし、さらにバランスですからね。
楽器音の解像力と滑らかさはDACの良さ、空間表現と厚みはアンプの良さかもしれません。

まとめ

マニアックな製品だけど思ったより普通にANCイヤフォンとして使える。ポケットに入れやすさ、外音モードへの切り替えとかもう少し改善
音が良いのにケーブルもなにもないので違和感がある。
まるで上質のDAC内蔵ポタアンと高性能イヤフォンが耳の中に詰まっている不思議な感覚さえ覚えるような、大変音質に優れた完全ワイヤレスイヤフォンだ。
R2RはPCMに強いのですがDSDに弱いという欠点もあります。しかしBluetoothワイヤレスの場合にはこの欠点は問題になりませんので、完全ワイヤレスにはとても向いているのがヒマラヤDACの利点がフルに発揮されている。
posted by ささき at 07:00 | TrackBack(0) | __→ HiFiMan HM-901, 801 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月01日

Astell & Kernの独自サウンド、AK ZERO2レビュー

「AK ZERO2」はAstell & Kernブランドでのオリジナルでの独自開発イヤフォンの「AK ZERO1」に次ぐ第二弾です。
初代AK ZERO1の開発で得た知見を元に、「先進の技術を用いてAstell&Kernの原音追求の哲学を詰め込んだ」というモデルということ。PathfinderはどちらかというとCampfire Audio色の強いイヤフォンなので、ZEROシリーズは独自の考え方で開発したということだと思います。5月20日に発売が開始され、直販価格は179,980円(税込)です。

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特徴

ZERO1と同様に多種のドライバーを組み合わせるというマルチドライバー構成ですが、ZERO1が平面駆動(PD)ドライバー、BAドライバー、ダイナミックドライバーの3種類だったのに対して、ZERO2ではそれにピエゾドライバーを加えた4種類に増えています。
ZERO2では全部で6基のドライバーを搭載しています。平面駆動(PD)ドライバーx1、BAドライバーx4、ダイナミックx1、それにピエゾなら7個ではないかと言われるかもしれないですが、ダイナミックとピエゾは後述するように一体型なので6個とカウントしているようです。

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SP3000とAK ZERO2

高域は平面駆動(PD)ドライバー(マイクロ・レクタンギュラー・プラナードライバー)が搭載されています。これは面上に整形されたコイルによって駆動することで、ダイナミック型のような臨場感を両立したサウンドキャラクターを実現したとしています。
そして中低域にはフルレンジでデュアルカスタムBAが搭載されています。フルレンジという意味はクロスオーバーが介されないという意味のようです。また中域にはクロスオーバーが介されたデュアルカスタムBAが搭載されています。
BAドライバーが4基で中域と中低域をオーバーラップして担当しているわけですが、2基のBAを帯域カットして2基のBAをフルレンジとしている理由は、A&Kに問い合わせてみるとトーンのコントロールをするためだそうです。つまり全部カットするよりも半分カットして半分フルレンジだと中間の落とし方が出来るので、チューニングのグラデーションが付けられるということのようです。

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また低域と超高域にはピエゾトランスデューサーと一体型の10mm径ダイナミックドライバーが搭載されています。これはピエゾが超高域を担当して、低域担当のダイナミックドライバーと一体型になっているとのこと。良く分かりにくかったのでこれもA&Kに問い合わせてみると、超高域用のピエゾはダイナミック型と同軸に配置してあるそうです。ダイナミック型はピエゾの真ん中の穴を通るが、ピエゾ素子が音響的にダイナミック型の音響抵抗(厳密には違うがローパスフィルター的な役割)になっていて、低域以外の帯域をカットする役割になるとのこと。ちなみにピエゾはダイナミックの前にあるが、パッシブラジエーターの役割はしていないそうです。この方式のメリットは、ダイナミックから見るとピエゾがフィルターの役割をしていること、ピエゾから見るとダイナミックと同軸上に配置できることで高域が整うということです。

こうしたことからかなり個性的な設計がなされたイヤフォンだと言えますね。この4種の異なるドライバーを超精密なクロスオーバーネットワークで調和させ、3Dプリントによるアコースティックチャンバーで最適に配置、さらにCNCアルミハウジングで共振を抑制することで極めて優れた音域バランスと超低歪を実現しているそうです。

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アルミニウムCNC切削によるシャーシで、Astell & Kernらしい造形を感じさせるデザインはIFデザイン賞を受賞しています。ケーブルは着脱可能で、MMCX端子を採用。付属ケーブルはHi-Fiグレードの4芯純銀メッキOFCケーブルで、3.5mmと4.4mmの2種類。5サイズのシリコンイヤーピースと1サイズのフォームイヤーピース、キャリングケースも付属しています。日本製造で、日本の経験豊富な技術者によるハンドメイドと最新の設備を用い、「厳しい工程を経て最高レベルの品質を実現した」とあります。たしかにこれだけの数と種類のドライバーをまとまりのある音に仕上げているのは組み立ての精密さもあるでしょう。

インプレ

10mmのダイナミックドライバーを含む6つのユニット、チャンバーと筐体が大柄ですが、重さはそれほどでもありません。デザインがよく金属らしい質感も良いですね。シックな印象もあって年齢によらず装着しても違和感が少ないと思います。大柄なボディですが装着感は悪くなく、形状がぴったりと耳に収まる感じがします。ケーブルは高級感があってしなやかで使いやすいと思う。

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AK ZERO2パッケージとケース

まず4.4mm、付属シリコンイヤーピースで、SP3000で聴いてみました。
パッと聞いてその音質の高さに驚くとともに、SP3000だとあまりにサウンドが異次元すぎるという事案が発生。SP2000Tにしましたが、やはりチューブモードだと異次元レベルの音になります。オペアンプモードでなんとなく現実世界の音が良いイヤフォンに戻ってきた感じです。
まず音世界の立体感が特筆もので、低音の深みがすごいというのが第一印象。そして聴いていくと音の描き方が緻密だということがわかります。解像力も極めて高く、楽器の鳴りが静まっていく残響音もよく聞き取れるます。
アンビエント風のシンセサイザーで包まれるような空間表現が得意で心地よく、曲が進んで女性ヴォーカルが入って歌い始めた時にはっとするくらい声のリアル感と肉質感が感じられます。中高域は鮮明でクリアでかっちりとした音再現。声の再現性が良く、ささやきから歌詞を朗々と歌い上げるまで、広い表現範囲でとてもスムーズでかつ緻密に感じられます。解像力も高いのでヴォーカルはリアルで声の肉質感がよく描き出されている。男声と女声の声の質感の違いがよくわかります。

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PDにピエゾと高域はだいぶドライバーが集中しているんですが、高域は伸びやかでベルの音もキラキラしているが、きついという意味ではまったく強くないですね。そのため聞きやすくキツさを感じないのが不思議なくらい。
低音はかなり分厚くて太く深みがあり、叩きつけるような鋭い打撃のアタックも感じられるが、きつさが少ない感じです。よくチューニングされていますね。ダイナミックドライバーの音の重みがハイブリッドらしく聞こえるんですが、低音はそれでいてすっきりしているのでハイブリッドにありがちな低域と中高域の別物感はないのも特徴です。この辺の音が滑らかで快調再現があるのはBAの上記した特徴が生きているのかもしれません。ピエゾハイカットや巧緻なクロスオーバーの効きが良いことと、BAフルレンジ使用の滑らかさなどですね。
SP3000とZERO2だと圧縮音源のストリーミングと内蔵のロスレスとの差が大きすぎて、圧縮音源のストリーミングで聞くのがもったいなくなります。録音の良し悪しも、新旧もかなり良くわかる感じ。ちょっと聞くと滑らかな音タイプだけれども、実はかなり緻密に音を描いていると思います。

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スティック型DACのPhatlab RIOを接続してみると、RIOはPhatLabのポタアン並みの性能あるのでちょっと驚くくらいのサウンドが味わえます。M2 Macbook Airとの組み合わせではこれいいと思う。とても解像度が高く、すごくワイドレンジというのがわかります。ZERO2が音を階調豊かに細かく描いてるのもよく分かります。RIOはハイパワーの分でホワイトノイズが少し多いのでPathfinderはおすすめできないけど、ZERO2は大丈夫です。

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RIOとAK ZERO2

ZERO1との違い

ZERO1に比べるとかなり違いは大きいと思います。また単なる後継というわけではないと思う。また一方で音傾向が違うのでZERO1の音が好きという人もいるかもしれません。
まずフラット基調から低域が厚めの音になったことです。ZERO1はフラットというかモニター的だったけど、ZERO2では低音が分厚くなって、少し暖かみもあります。ZERO2では低音は誇張されずに深みがあって豊か、量感があります。ZERO2では音がスリムになりすぎないで、ニュートラルではあるけれどもやや低音が多くてとても豊か。ロックやポップでも十分な低音はあります。


まとめ

音の立体感包まれ感、厚みと豊かさ、低域のパンチ、楽器音の鮮明さなど、ZERO2はおそらく現在トップレベルの能力があるイヤフォンだと思います。筐体が質実剛健ですが、これを宝石のようなフェイスプレートにしてユニバーサルデザインにするともっと高価でも納得してしまうかもしれません。そのくらいの驚きがある音ではあると思う。音性能の高さもさることながら、これだけの種類のマルチドライバーを有した個性ある設計なのに、まとまりのある音に仕上げているのも優れた設計だと思います。新しい音世界を提案してくるようなPathfinderに比べるとより自然な音でよくまとまっているのも特徴でしょう。

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多少暖かさがあって、滑らかで広がりがある。かつ音はクリアで芯があって緩くない、という音の印象からはアナログの音というAstell & Kernの新しいテーマに沿ったチューニングのようにも思います。その意味ではAstell & Kernの今のサウンドを体現した新製品といえると思います。
posted by ささき at 10:18 | TrackBack(0) | __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする