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2022年06月22日

ヒマラヤDAC搭載のスマホ向けDAC「HM800」レビュー

HIFIMAN HM800は最近流行りのスマホと組み合わせるのに都合の良いスティックタイプとかドングルタイプと言われる小型DACです。しかしその中身はHIFIMANらしいマニア精神にあふれています。

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その特徴はHIFIMAN独自のヒマラヤDACを搭載したことです。これによってR2RDAC採用というマニアックなスペックでありながら驚くほどのコンパクトさを実現しています。
市場のドングル型のDAC製品の半分程度という小型さで、今までのイヤフォンのスプリット部の飾り並みの小型さです。接続は片側のUSBタイプCの端子をスマートフォンなどに接続するだけです。
本レビューは製品化前のモデルで行っていますので、国内販売モデルとは異なります。本レビューではケーブルが固定式のモデルですが、国内導入時にはスマホ側もイヤフォン側も交換可能のケーブルとなるようですので、国内発売時にまた確認してください。

ヒマラヤDACはR2R設計でありながらもFPGAチップ上に独自のアルゴリズムを採用することでチップと周辺回路間の電力を低減させることが可能となったとのことです。SN比やTHDなどの性能面の高さだけではなく電力消費においても優れたDACです。
またHM800はDACフィルターにノン・オーバーサンプリング方式を採用しています。一般にオーディオ用DACで広く使用されている方式はオーバーサンプリングフィルターで、弱い信号のエイリアシングを軽減し量子化ノイズを超高周波数帯域に送り込みアナログフィルターで低減できるようにします。ただし時として細かい信号自体を超高周波数帯域に押し出して完全に除去してしまう場合があります。ノン・オーバーサンプリング方式のDACは録音の細部を可能な限り保てるようにそうしたマイナスの影響を排除しながらメリットを活かすように設計されているとのことです。
ヒマラヤDACは低消費電力が特長です。同時にその電圧出力の特性により、優れたオーディオ出力を実現するために必要な増幅回路は単純に組めるとのこと。電力消費量が少ないために熱雑音(ジョンソン雑音)も非常に低くなります。

HM800は内部バランスで設計され、高い性能と高い出力を誇ります。再生は768kHz/24bitのPCM音源に対応します。ただしR2R DACなのでDSDは直接デコードできませんので、DSD音源はスマホ側のアプリなどでいったんPCMに変換してから再生してください。


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次に実際のデモ機を用いたインプレッションです。
試聴はHarmonyOS2.0.0搭載の「ファーウエイ 9X」で行いました。 イヤフォンはHIFIMAN RE2000(旧モデル)です。

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やはり感じるのはとても小型だということです。重さは30gです。このタイプのDACはケーブルにぶらさがりますので小型なほど使いやすいと言えます。実際に使ってみると、とても軽くてケーブルについていても気にならないレベルで快適です。
音はSN感が高く鮮明でヴォーカルの声もかなり鮮明に聞き取れます。わりと着色感は少ないですね。楽器音は歯切れよく鮮明でSN感が高く感じられます。ドラムスなどは誇張感が少なくタイトでパンチがあって楽しめます。感じとしてはBluemini R2Rに近い音のように思われますので、DEVA Proを使用していてBlueminiの音を気に入っている人にも良いでしょう。

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スマホの音を高音質で手軽にあまり負担なく聞くことができるDACを探している方にオススメです。

HM800は38,500円税込みで7月1日に発売します。またHIFIMAN RE2000は新たにRE2000 Proとして198,000円税込みで7月1日に発売します。
posted by ささき at 13:11| __→ HiFiMan HM-901, 801 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月10日

Astell & Kernのスティック型DAC、AK HC2レビュー

Astell & Kern 「AK HC2」はA&Kが開発したスティック型DACです。AKとしてはAK PEE51(AK HC1)の後継機となります。AK HC1とは異なりアダプターの標準添付によりiPhoneのライトニング端子にも対応しています。

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スティック型DACは最近4.4mmバランス対応のモデルが増えてきましたが、HC2も4.4mmバランス端子に対応しています。4.4mm対応スティック型DACは軽量なDAPの代替として使うこともできますが、例えばフラッグシッブDAPを4.4mm端子のハイエンドイヤフオンで聴いていて、ちょっとYoutubeの映像を見たいと思った時にそのままスマートフォンに接続することができるという便利なアダプターとしての役割も兼ねていると思います。

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HC2は2022年6月17日(金)発売で、価格は税込 29,980 円 と手ごろな点もポイントです。

https://www.iriver.jp/products/product_226.php

* 特徴

まずHC2は4.4mm5極バランス出力搭載という点がポイントです。 GND接続された5極バランスに対応しているのはイヤフォンを接続している時ではなく、ラインアウトとしてアンプに接続する時に意味を持ちます。このためPCと他の4.4mm対応ヘッドフォンアンプとの接続にも便利に使えると思います。ちなみにHC2から明記されてますがGND接続は以前のAKの4.4mm対応機種は同じだそうです。
HC2はコンバクトですがハイパワーで4Vrmsもの高出力が可能です。この点ではノートPCに接続してヘッドフォンで使うのにも向いているでしょう。

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AK HC2はコンパクトながら本格的な回路設計が行われ、CS43198を左右別にAKオーディオプレーヤーのようにデュアルDAC搭載しています。またAKオーディオプレーヤーにも使用され、電源変動を抑制して安定したシステムとオーディオ性能を実現するテーラード超小型タンタルコンデンサーを搭載しています。L/Rセパレーションも驚異的とカタログにありますが、実際に音場感が素晴らしいのを感じる点も音質のポイントです。

そして最近のAKオーディオプレーヤーの流れをくむ様に、徹底したノイズ低減も図られている点もポイントです。機器に直接接続されたUSB端子側にDACを配置するのではなく、リアオーディオ出力構造を採用することでノイズ低減をしています。HC2ではケーブルは外せませんが、これもより接点を少なくすることでノイズ対策を行った結果と言います。ケーブル部にはデュアルノイズシールドケーブルを採用してノイズ低減を果たしています。
この辺にも徹底した低ノイズ化へのAstell & Kernの最近のこだわりが現れていると思います。デュアルDACにノイズレスと小さくてもきちんとAstell & Kern製品であるということです。

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使用は簡単でスマホやPCに挿すだけで使えるプラグ&プレイです。Android スマートフォン及びタブレット PC、Windows10/11 および Mac OS の PC、iOS デバイスなどに対応しています。入力は最大PCM 368KHz/32bit、DSD256のネイティブ再生に対応しています。なおAndroidでは専用のアプリがあるということです。

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またAK HC2はRoonチームによる「Roonテスト済みデバイス」です。Roonテスト済みデバイス(Roon tested device)というのはRoonのUSB DACに対する認証規格です(ネットワークデバイスの規格はRoon Ready)。これはつまりPCと組み合わせて使用することも前提とされているということです。


* インプレッション

箱もしっかりAstell&Kernらしいパッケージングがなされています。筐体は値段のわりにソリッドでしっかりしているという印象です。ケーブルの質も良さそうですね。

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AK HC2のデザインコンセプトは、"Slope"です。パワフルな性能を象徴する六角柱形状のアルミボディに、斜めに走るスロープがデザインのポイントということで、Astell & Kernのアイディンティティをも象徴しています。
ボリュームもボタン類もなく、シンプルに徹しているのが印象的です。機能を求めず音に徹した質実剛健な感じですね。約29gと軽いのでスマホにぶら下げても負担になりにくいと思います。

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試聴はiPhoneにアダプターを付けて行いました。イヤフォンはAK ZERO1に4.4mmバランスケーブル「AK PEP11」を使用しています。このPEP11はなかなか優れたケーブルで他のイヤフォンに使用してみてもなかなか高音質です。
聴いてみると、まず音場がとても広いのに驚きます。空間オーディオの仕組みはないけどナチュラル立体オーディオみたいな感じ。次はピュアな音で透明感がとても高いということですね。音質レベルはずっと高価なDAPと遜色ないと思います。特に音場の広さと透明感はかなり良い。
パワーはかなりあって、どちらかというとダイナミックとか中低感度向きに感じます。高感度IEMだと少しボリュームの余地が少ないですが、それでもホワイトノイズは少ない感じです。ゲイン切り替えはあった方がよかったかもしれません。AK ZERO1はすこし低感度なのでHC2とちょうど良いと思います(ボリューム位置真ん中くらい)。たぶんもう少し低感度のヘッドフォンでも十分ならせるでしょう。

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帯域バランスでは誇張感が少なく、その点でもAK Zero1と相性が良いですね。楽器音もシャープで自然でAKらしい素直で高解像度な音です。
DITA Perpetuaでもかなり良かったです。ダイナミックには向いてますね。ダイナミックイヤフォンだとバランス駆動らしい力感のあるパンチが気持ち良いと感じます。
音の良さは3.5mmを入れないで4.4mmに割り切ったところも音に余裕があるせいかもしれません。

* まとめ

AK HC2はAKらしいデザインでAKらしいサウンドが楽しめるスティック型DACです。Astell & Kernが気になっていた学生さんなどのMyファーストAKにもいいと思いますね。手軽な価格でコスパがとても高いと思います。
パワーがあるのでノートPCに使って平面型ヘッドフォンにも向いているかもしれません。いろいろな使い出のある高コスパのスティック型DACを探していた人にオススメです。
posted by ささき at 13:45 | TrackBack(0) | __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月07日

HIFIMANのコンパクトなハイパワーヘッドフォンアンプ、EF400レビュー

HIFIMAN EF400は据え置きのDAC内蔵型ヘッドフオンアンプです。
EF400の特徴はDACにHIFIMAN独自のヒマラヤDACを採用している点、完全バランス構成、ハイパワー出力、デスクトップに置けるコンパクトなどが挙げられます。つまり強力なヘッドフォンアンプをデスクトップサイズにコンパクトにまとめたものがEF400です。
6月10日に発売開始、価格は85,800円(税込み)です。

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* 特徴

平面磁界型ヘッドフォンは最近は高能率化してきましたが、やはり鳴らすためにはハイパワーアンプが必要です。
平面型ヘッドフォンのパイオニアでもあるHIFIMANは平面型の鳴らしにくさを知っていたので、10年も前の2012年に平面型のためにハイパワーを生み出す強力なヘッドフォンアンプであるEF6を発表しています。
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私も一時EF6を使用していました。たしかにヘッドフォン史上もっとも能率が低いような平面型のHE6でも鳴らしきるようなハイパワーだったのですが、EF6は大型のスピーカーオーディオ機材のような、とても大きくて重くて扱いにくいアンプでした。
その能力を引き継いでコンパクトに扱いやすくし、バランス対応でさらに高出力化を図って、最新のヒマラヤDACを搭載するヘッドフォンアンプの新製品がEF400と言えます。

ヒマラヤDACはFPGAを核にしたDACで、マルチビット形式とも言われるR2R形式と低消費電力という点がポイントです。性能ではマルチビットDACの代表であるPCM1704と互角で消費電力が1/20というのがヒマラヤDACです。
R2R形式を特徴としていますので、デジタル臭さの少ないオーディオらしい豊かな音を可能にすることができ、低消費電力なのでさまざまな製品に応用ができます。Blueminiではポータブルの応用でしたが、EF400ではそのコンパクトさに貢献しています。

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コンパクトなEF400ですが持ってみるとけっこう重たく、中身は図のように大変に本格的な設計がなされています。
OFC巻線トロイダルトランスがあり、3万マイクロファラッドの大容量コンデンサーと大出力のアンプ回路を搭載しています。それに加えてヒマラヤDACモジュールが搭載されています。

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EF400のアンプ回路は4チャンネルでAB級増幅のフルバランスの設計がなされています。そして4.4Wというヘッドフォンアンプとしては驚くような大出力を実現しています。一般にヘッドフォンアンプでは1Wくらいの出力でハイパワーといわれると思います。ちなみにEF6ではシングルエンドで5Wの出力でした。

EF400は接続性や機能性にも優れています。
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前面左の4段スイッチによりゲイン切り替えだけではなく、NOS(ノンオーバーサンプリング)やオーバーサンプリングなどDAC設定の調整ができます。NOSはマルチビットDACとよく組み合わせられますが、DAC内部でSNを高めるためのオーバーサンプリング処理をしない方式です。その分で本来ノイズのデータを捨てないでそのまま使うので「味がある」音になると言われます。実際に使うとOSモードだとすっきりして現代風、NOSモードだともやっとした感はあるが暖かみがあっていわゆる真空管風の音になります。長短ありますが音の差もわかりやすくマルチビットDACらしい機能といえます。
(ちなみにオーバーサンプリングとアップサンプリングは別の話です)

また通常の標準ヘッドフォン端子に加えて4.4mmのバランスとXLRキヤノン端子の4ピンバランス端子も装備しています。ヘッドフォン接続は豊富です。
USBデジタル入力の他にもXLR端子やRCA端子などの出力端子もあるのでプリアンプとしても使用できるでしょう。入力はデジタルのみでUSB-CあるいはUSB-B(フル)です。

EF400のスペックは以下の通り
SN比:Aウエイトで118dB
全高調波歪み(THD):ラインアウトで 0.002%〜0.004%
チャンネルセパレーション: 125dB
最大出力:4.4W/ch


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* インプレッション

MacbookからUSB-Cケーブルで接続して聞きました。あまり熱くならないので上に乗せてもいいくらいで机においてもいいかもしれないですね。横に立てておいてもよいでしょう。

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音はニュートラルで色つけが少ないHIFI調の音で、誇張感も少ない方だと思います。音調自体はたしかにDACが同じBlueminiと似ています。ただし音のレベルはより高いので、アンプ性能をより引き出せている感じです。これはバランスで使用するとより強く感じます。かなり細かい音が聞こえるのでDACの解像力も十分に高いと思います。低音のパンチが気持ち良く、楽器音の歯切れも素晴らしくスピード感に溢れています。音の立体感も良いですね。
ちなみにOSモードだと普通にすっきりと良い音、NOSだと少しもやっとしますがより滑らかで角の取れたアナログ風の味のある音になります。

そしてやはりポイントはとても力感があって力強さを感じられるサウンドだということです。
ヘッドフォンは私が所持しているAUDEZE LCD2という古い平面型を使用してみました。というのは最近の平面磁界型は高能率化してきましたが、このころの古い平面磁界型は能率が低くてとても鳴らしにくいからテストに最適というわけです。試してみると躍動感やスピード感もひときわ優れてた素晴らしいサウンドになっていると感じます。
一般に低能率のヘッドフォンではボリュームが取れたとしても遅く重く暗い音になりがちです。これでは音量が十分に取れていても鳴らしきっているとは言えません。EF400ではそうした重苦しさは少なく、朗々としたパンチがあるサウンドで躍動感やスピード感もひときわ優れています。まるでLCD2が高能率のヘッドフォンのように感じられます。
ラックにしか置けないような大きいアンプならともかく、こんなに小さいのに4.4Wもの出力があるのは特筆ものといえるでしょう。

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AB級増幅で熱くならないのでデスクトップでもあまり問題にならないでしょう。デスクトップに置けるサイズで価格も手ごろな平面型ヘッドフォンに最適のヘッドフォンアンプを探している人にオススメです。

posted by ささき at 09:40 | TrackBack(0) | __→ HiFiMan HM-901, 801 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする