AK UW100はAstell&Kern初の完全ワイヤレスイヤフォンです。普通の完全ワイヤレスはオーディオ回路にSoC内蔵の回路をそのまま使用しています。UW100ではオーディオ回路にSoCとは独立したDACチップAK4332を搭載しています。また普通の完全ワイヤレスではダイナミックドライバーを使用するのですが、UW100はBAドライバーを使用しています。
この二点が際立った特徴となっています。ANCは搭載していません。音質特化型の完全ワイヤレスです。
* 外部DACを搭載するということ
普通の完全ワイヤレスイヤフォンでは本来は通信に使用するBluetoothのSoCチップに内蔵されているオーディオ回路を使用します。実はこの仕組みはUSB DACに似ています。
USB DACも初期の設計はPCM270xみたいなUSBコントローラーICにDAC機能がついてこれをそのまま使ってるものが多かったんですが、これでは性能が限られているのでそこからデジタル信号を引き出して専用DACを搭載したもので、USB DACがPCの周辺機器的なスタンスからオーディオ機器へと脱皮できました。(ちなみにUSBコントローラーICになぜDAC機能がついていたかというとバーブラウンの拡販戦略です)
BTレシーバーのDACを使わないで専用DACを持つAK UW100もそれに似てます。SoCではアナログ信号にしないでデジタルのまま引き出して専用のオーディオDACであるAK4332でアナログ化します。AK4332はもともと完全ワイヤレスを意識して設計されたモノラルDACでアンプ機能も含まれています。
* BAドライバーを搭載するということ
普通の完全ワイヤレスイヤフォンではダイナミックドライバーが用いられますが、そこにBAドライバーを用いることで様々なメリットが生まれます。
音質の傾向がダイナミックとBAでは異なるというのはもちろんで、これはAstell & Kernらしい音にするためには向いているでしょう。
そしてBAドライバーを採用することでダイナミックドライバーでは必要となるベント穴が不要となるという点も大きいと考えられます。というのはイヤモニでBAで使われる理由が主に完全密閉のモニターをつくるためであるということに似ているからです。(UW100のシェルの穴はマイク穴)
これはUW100がANCを採用していないという点に関連してきます。
静粛性を得ることはSNを上げるためにも有効です。つまり本来は音質向上にも有効です。しかしANCでノイズレベルを下げるには振動板自体を使用するので必ずしも音質向上に寄与できないのではないかという考え方もまたあります。
そこでUW100ではANCを使用せずにノイズを下げるために完全密閉型が可能となるBAドライバーを採用したのではないかと思えます。外で使うとたしかに他のANCなしモデルよりも静粛な感じはします。ANC並みとは言わないけど、特に電車の走行音とかかなり低減されてるように思います。
* インプレッション
箱は小さいけどずっしりしてます。いつものA&Kの丁重なパッケージです。
ケースは蓋のロックがきっちりしてるのもブランドらしい品質管理だと感心します。
ケースと本体ともにやや大きめですが、本体は割と軽く感じられます。大柄だけど耳の座りは良いです。角形のデザインが耳にうまく入る感じ。少し回すと確実に耳にロックされるポイントがあります。
ケースが大柄なのは良い点もあって、インスタチップを装着したままするっと入り充電もできます。普通はいってもけっこうギリギリですが。
実測で再生時間は6時間くらい。バッテリーゼロからフルチャージまでは約1時間半だと思います。
アンビエントモードが聞きやすいのも良い点。
音質は端的にかなりレベルが高い音で、全然エージングしないでもレベル高さを感じられるでしょう。
普通はちょっと聴いたらエージングに入れるけど、これは音があまり良いのでしばらく聴きたくなった製品の一つです。BAはあまりエージングで変わらないと言いますが、内部の回路もあるからそれなりにエージングしたほうが良いです。
中高域の楽器音や声がはっきりクッキリと明瞭感があるのはBAならではのサウンド、低音がソリッドで甘さがなくタイトで引き締まってるのもBAならではサウンドです。この辺はダイナミック型との違いを楽しめるでしょう。
音に曖昧さがない。ソリッドなBAの音で、音質面においてもBAの良さをうまく生かしていると思います。
高域は伸びやか鮮明でクリアだけど痛キツすぎないのがいいですね。ベルの音の響きもすっきりと美しいので高音域の歪み感も少ないと感じられます。ドラムスもBAらしく歯切れ良くスピード感あるのでロックポップも躍動感あります。ハイテンポの曲では足が勝手に動いてリズムとりたくなるくらい。
シングルだからワイドレンジ感は欲張ってないけど物足りないことはなく、むしろよくフルレンジBA1発でここまで出る感じではあります。
中音域はヴォーカルが浮き上がるように明瞭なのに感銘します。SHANTIの"Lotus flower"なんかは声が前に出て気持ちよく歌声を楽しめます。アニソンなんかではバッキングサウンドが多少ごちゃごちゃしてても歌詞がはっきり聞き取れるので良いと思う。特に最新のファームではいわゆる日本人好みの音に近いと思う。
シングルなので位相も揃って定位感もピンポイント、音の広がりの良さは空間に広がる感じが圧倒的なくらい良い。
DACの効果も高くて空気感があり、聴いててDAPで聴いてるような感じがします。細部の表現力、厚みとか豊かさを感じられます。普通Bluetoothワイヤレスは薄く軽く刺さる音ですが、AK UW100ではその反対に音の厚みとか重み豊かさといった項目が極めて高く感じられ、薄く軽くない音ですね。
耳の中にDAPが詰まってるような錯覚を覚えます。
有線と比べるも何も、有線でiPhoneから聴くよりも確実に音が良いです。仮にイヤフォン端子が残っていてもiPhoneから直だとそれなりに良いイヤフォン使ってもこういう音にはならないと思う。また有線イヤフォンに比べると配線やケーブル部分がないのでクロストークが少ないのか音場の広がりが良く楽器の定位がピンポイントです。これにはシングルで位相問題がないことも寄与してると思う。またDAC回路とドライバーが直結に近い超ショートシグナルパスのせいか音の鮮明感も高いですね。
むりやり高級イヤフォンをiPhoneに直挿ししても、よりワイドレンジやでかい低音は出るかもしれないけど、その音の細部は荒れて乾いてるはずです。そこがアンプやDACの良さが介在するオーディオ機器の領域だと思う。
その違いはiPhone直とiPhoneにスティック型DACを使ったくらいあると思うので、スマートフォンの音をよくするためにドングル型DACを使ってる人は確実に違いがわかると思う。その回路が耳に入ってるんですから多少大きくなっても仕方ないと思う。iPhoneの地の音質は凌駕してるので何かDAPと比べるべきかもしれません。
端的に言ってBAドライバー採用と外部DAC回路採用が両方とも際立って効いてると思う。BAのおかげでとても鮮明なサウンド、外部DAC回路のおかげで豊かで厚みあるオーディオ的なサウンドが楽しめます。
前者の方は一般コンシューマレベルでも違いが分かり、後者の方はオーディオファイルにありがたい違いとなるでしょう。
ANCなしにしては遮音性が良い。細かい音も消えにくいと思う。そうじてオーディオファイルでも納得できるレベルの音だと思う。
この外部DAC/アンプ方式の完全ワイヤレスがさらに他社でも採用されて欲しいとは思います。