今年2021年は新型コロナの影響を受けつつも光が見え始めたような年でした。今回も2021年を振り返る記事をまとめてみたいと思います。
2020年の振り返り記事はこちらです。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/479310611.html
今回は2021年の注目の技術とトレンドについてはまとめ記事を書いておきました。
2021年の注目技術1 MEMSスピーカー
http://vaiopocket.seesaa.net/article/484949223.html
2021年注目の技術2 音響メタマテリアル
http://vaiopocket.seesaa.net/article/484949260.html
2021年注目の技術3 音質優先配信技術 KORG Live Extreme
http://vaiopocket.seesaa.net/article/485024082.html
2021年のトレンド1 ゲーミング分野と有線イヤフオン
http://vaiopocket.seesaa.net/article/484997881.html
2021年のトレンド2 ASMRとイヤフォン
http://vaiopocket.seesaa.net/article/484998066.html
機材の話題ではやはり音質を重視した完全ワイヤレスの決定版としてfinal ZE3000が出たことです。聴くたびに良さが実感できるスタンダードで、いろんな時代のいろんな録音の曲を聴きたくなります。
finalブランドの名を冠する完全ワイヤレスイヤフォン「final ZE3000」レビュー
http://vaiopocket.seesaa.net/article/484753970.html
おなじみ須山さんのFitEarではToGo 334の後継機のTG334が10年振りに出ました。
FitEar TG334インプレ
http://vaiopocket.seesaa.net/article/481233801.html
ちなみにうちのブログ名を冠した初代ToGo 334の記事はこちらです。ToGo 334は世界初のカスタムの手法を用いたユニバーサルイヤフオンです。
須山ユニバーサル、FitEar TO GO!334登場
http://vaiopocket.seesaa.net/article/253318386.html
FitEarではイヤピースにシリコンを詰めて簡易カスタム化するインスタチップもお気に入りのアクセサリーです。
https://ascii.jp/elem/000/004/065/4065598/
今年は半導体不足やAKM工場問題があとを引いて、LINNなど独自DACがいろいろでてきた年でもありました。ポータブルではヒマラヤDACが注目です。
HIFIMANの独自DAC「ヒマラヤDAC」
http://vaiopocket.seesaa.net/article/484347310.html
ハイエンドDAPでは待望のAstell&Kernの最上位機 A&ultima SP2000Tが発売されました。真空管を積むなど新機軸とともにSE200やSE180などの実験的なモデルの成果を含む集大成的なDAPでもあります。
https://ascii.jp/elem/000/004/072/4072922/
今年はApple Musicのロスレスハイレゾ化が話題となりましたが、SP2000TならOpenAppでDAPでも高音質でハイレゾストリーミングが楽しめます。
Apple Musicのハイレゾと立体オーディオ対応発表
http://vaiopocket.seesaa.net/article/481549159.html
またこうした動きに刺激されクアルコムがSnapdrgon Sound規格やaptX Losslessを発表するなどワイヤレスの高音質化に向けた取り組みが見られた年でもありました。
有線イヤフォンではハイレゾストリーミングに対応したスティック型の小型DACがたくさん出ました。W2はバランス駆動の音が素晴らしい製品です。
iPhoneに好適なコンパクトDAC、LUXURY & PRECISION W2
http://vaiopocket.seesaa.net/article/481684789.html
ユニークな製品としては初代ウォークマンのオマージュであるOriolus DPS-L2が面白かったですね。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/482533313.html
今年は昨年のWestoneに続いてゼンハイザーにも老舗ブランドの事業移管という残念なことがありました。ただこれを契機によりよい製品が出てくれることを願います。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/480191401.html
来年はひさびさにヘッドフォン祭やポタ研がリアルイベントで復帰する予定といううれしいニュースもありますので、来年はなんとか雲間に陽の光が見えてほしいものです(と昨年も書いた)。
Music TO GO!
2021年12月31日
2021年注目の技術3 音質優先配信技術 KORG Live Extreme
2021年はハイレゾストリーミングが注目された年でしだか、動画配信にも高音質化の技術が注目されました。
従来動画配信はYoutubeなどのようにあくまで画面が優先で音質は二の次だったんですが、ライブなどはやはり高音質で楽しみたいものです。そこに登場したのが音質優先をうたう動画配信技術であるKORGのLive Extremeです。
エンコーダーが搭載されたPC
Live Extreameとはコルグの独自技術で映像コンテンツに高音質の音声トラックをつける技術・配信システムの総称で、コルグはエンコーダーを提供します。映像も音声も対応して映像は4Kまで、音声のエンコードはハイレゾPCM・DSDで可能です。コルグだから音声トラックをDSDにするということはわかりますが、Live Extremeはさらに上をいくものです。それは音声トラックが動画よりも優先というコンセプトです。
スピーカーとヘッドフォンによるデモ
従来の動画配信では映像に合わせてオーディオクロックをビデオのクロックから作るのでジッターが大きくなる(音声を映像に合わせねばならないため、つじつま合わせに音声が揺れる)のですが、Live Extreameでは音声を主にしているため映像が揺れてフレームが落ちる可能性はあるが音声トラックに関してはビットパーフェクトが保証されるわけです。このためLive Extremeは単にハイレゾ搬送のための技術ではなく、従来のようにAACを使用しても音質は工場するはずです。またエンコードの時点で全てHLSなどの業界標準形式になるため、専用のデコーダーやソフトウエアが不要という利点があります。ここは専用のデコーダーが必要なMQAとの大きな差となります。
この他にもASIO対応することで音楽制作用の機材が使えるという利点もあります。
ライブチケット画面
実際にオンライン音楽配信のThumvaでLive Extremeを採用したハイレゾ音質による藤田恵美コンサートのライブ動画配信を聞いてみました。音質的には素晴らしく、アコースティック楽器の弦が擦れる音も生々しく、ヴォーカルの息遣いもリアルで高音質ダウンロード音源に匹敵するようなものです。試しにYoutubeのOpus251(128kbps相当)での同じ動画で同じハード(Mac)で聴いてみるとYoutubeは甘く楽器の音が鈍い感じです。Live Extremeの方が明瞭で鮮明に聴こえます。ちなみにいうとこれはサンプリングレートの差ではありません。なぜかというとYoutubeでもCore Audioによってアップサンプリングされているからです。
他にもたくさんのオンラインライブが行われ、来年も増えていくことでしょう。
従来動画配信はYoutubeなどのようにあくまで画面が優先で音質は二の次だったんですが、ライブなどはやはり高音質で楽しみたいものです。そこに登場したのが音質優先をうたう動画配信技術であるKORGのLive Extremeです。
エンコーダーが搭載されたPC
Live Extreameとはコルグの独自技術で映像コンテンツに高音質の音声トラックをつける技術・配信システムの総称で、コルグはエンコーダーを提供します。映像も音声も対応して映像は4Kまで、音声のエンコードはハイレゾPCM・DSDで可能です。コルグだから音声トラックをDSDにするということはわかりますが、Live Extremeはさらに上をいくものです。それは音声トラックが動画よりも優先というコンセプトです。
スピーカーとヘッドフォンによるデモ
従来の動画配信では映像に合わせてオーディオクロックをビデオのクロックから作るのでジッターが大きくなる(音声を映像に合わせねばならないため、つじつま合わせに音声が揺れる)のですが、Live Extreameでは音声を主にしているため映像が揺れてフレームが落ちる可能性はあるが音声トラックに関してはビットパーフェクトが保証されるわけです。このためLive Extremeは単にハイレゾ搬送のための技術ではなく、従来のようにAACを使用しても音質は工場するはずです。またエンコードの時点で全てHLSなどの業界標準形式になるため、専用のデコーダーやソフトウエアが不要という利点があります。ここは専用のデコーダーが必要なMQAとの大きな差となります。
この他にもASIO対応することで音楽制作用の機材が使えるという利点もあります。
ライブチケット画面
実際にオンライン音楽配信のThumvaでLive Extremeを採用したハイレゾ音質による藤田恵美コンサートのライブ動画配信を聞いてみました。音質的には素晴らしく、アコースティック楽器の弦が擦れる音も生々しく、ヴォーカルの息遣いもリアルで高音質ダウンロード音源に匹敵するようなものです。試しにYoutubeのOpus251(128kbps相当)での同じ動画で同じハード(Mac)で聴いてみるとYoutubeは甘く楽器の音が鈍い感じです。Live Extremeの方が明瞭で鮮明に聴こえます。ちなみにいうとこれはサンプリングレートの差ではありません。なぜかというとYoutubeでもCore Audioによってアップサンプリングされているからです。
他にもたくさんのオンラインライブが行われ、来年も増えていくことでしょう。
2021年12月30日
2021年のトレンド2 ASMRとイヤフォン
ゲーミングと並んで今年のトレンドの一つだったのはASMRがあげられると思います。
ASMRは一般には波の音や雨音などもありますが、特に日本で人気があるのはやはり男性もしくは女性が耳元で囁くような密着感のある音源です。実際この分野ではよく知られるfinal E500がブレークしたきっかけというのは池袋界隈の女子たちが多く買い求めたことだったそうだけれども、それはつまりそうした音源に向いているということがネット・口コミで広まったということのようです。そして声優さんの「エッチなイヤフォン」というパワーワードもあってE500がASMR向けイヤフォンとして知られるようになりました。
COTSUBU for ASMRとE500
E500は開発時からバイノーラルに強い左右の音情報を持つことができるイヤフォンとして開発されたようですが、もともとは3DとかCGなどの用途だったそうです。しかし上記のように、市場反応でASMRが向いているということでその点を音響工学的に深く掘り下げて、さらに有線だと寝ながら装着ができないのでワイヤレスとしたのがagのCOTSUBU for ASMRです。ここでポイントとなるのが集中力が途切れないための"没入感"というキーワードです。これは自然な音造りで歯擦音などを含まないという意味のようです。また耳との近さが重要です。
通常COTSUB(クリーム)とASMRバージョン
実際に自分でも通常版のCOTSUBUとCOTSUBU for ASMRを比較してASMR音源を聴いてみるとかなりの違いがあり、通常版のCOTSUBUだと客観的で少し離れたところに音を感じますが、COTSUBU for ASMRでは耳元とか首筋の至近で語り掛けられる感じになります。刺激成分を抑えているとはいいますが、COTSUBU for ASMRの方が声が鮮明でよりリアルに聴こえます。
COTSUBU for ASMRはE500とも耳の近さという点では似ていますが、E500の方がより密着感があります。またVR3000 for Gamingも"没入感"というキーワードではASMR向けイヤフオンと似たような開発方針で作られていて、ASMR音源を聴いてもやはりこうした密着感が感じられます。ただし耳との近さには差があり、近い方からE500/COTSUBU for ASMR/VR3000 for Gamingとなります。
COTSUBU for ASMRの他にもacoustuneの完全ワイヤレスのANIMA ANW01に使われる専用アプリのANIMA StudioにもASMR向けのイコライザーのプリセットがあり、ダミーヘッドやマイクの特性を考慮しながら設定したということです。ANW01はDJのTAKU INOUE氏によるサウンドチューニングなど音造りに主眼がおかけていて、ASMR用プリセットもまたその一環なのでしょう。
当初のASMR 4Cの他にも声優さん監修によりASMR LONGが設けられ、監修した小岩井ことりさんはやはり聴き疲れしない音にポイントを置いているようです。
ANIMA ANW01
最近は空間オーディオ流行りということで、イヤフオン・ヘッドフォンにもスピーカーらしさが求められたりしますが、物理的に違うものだからそれを求めても限界はあると思います。
昔からイヤフオン・ヘッドフォンをやっていて思うのは、むしろイヤフオン・ヘッドフォンで語られるべきは耳との近さ・親密感(海外ではよくintimateと評される)ではないでしょうか。ASMR分野はそれを再確認させてくれるように思います。
ASMRは一般には波の音や雨音などもありますが、特に日本で人気があるのはやはり男性もしくは女性が耳元で囁くような密着感のある音源です。実際この分野ではよく知られるfinal E500がブレークしたきっかけというのは池袋界隈の女子たちが多く買い求めたことだったそうだけれども、それはつまりそうした音源に向いているということがネット・口コミで広まったということのようです。そして声優さんの「エッチなイヤフォン」というパワーワードもあってE500がASMR向けイヤフォンとして知られるようになりました。
COTSUBU for ASMRとE500
E500は開発時からバイノーラルに強い左右の音情報を持つことができるイヤフォンとして開発されたようですが、もともとは3DとかCGなどの用途だったそうです。しかし上記のように、市場反応でASMRが向いているということでその点を音響工学的に深く掘り下げて、さらに有線だと寝ながら装着ができないのでワイヤレスとしたのがagのCOTSUBU for ASMRです。ここでポイントとなるのが集中力が途切れないための"没入感"というキーワードです。これは自然な音造りで歯擦音などを含まないという意味のようです。また耳との近さが重要です。
通常COTSUB(クリーム)とASMRバージョン
実際に自分でも通常版のCOTSUBUとCOTSUBU for ASMRを比較してASMR音源を聴いてみるとかなりの違いがあり、通常版のCOTSUBUだと客観的で少し離れたところに音を感じますが、COTSUBU for ASMRでは耳元とか首筋の至近で語り掛けられる感じになります。刺激成分を抑えているとはいいますが、COTSUBU for ASMRの方が声が鮮明でよりリアルに聴こえます。
COTSUBU for ASMRはE500とも耳の近さという点では似ていますが、E500の方がより密着感があります。またVR3000 for Gamingも"没入感"というキーワードではASMR向けイヤフオンと似たような開発方針で作られていて、ASMR音源を聴いてもやはりこうした密着感が感じられます。ただし耳との近さには差があり、近い方からE500/COTSUBU for ASMR/VR3000 for Gamingとなります。
COTSUBU for ASMRの他にもacoustuneの完全ワイヤレスのANIMA ANW01に使われる専用アプリのANIMA StudioにもASMR向けのイコライザーのプリセットがあり、ダミーヘッドやマイクの特性を考慮しながら設定したということです。ANW01はDJのTAKU INOUE氏によるサウンドチューニングなど音造りに主眼がおかけていて、ASMR用プリセットもまたその一環なのでしょう。
当初のASMR 4Cの他にも声優さん監修によりASMR LONGが設けられ、監修した小岩井ことりさんはやはり聴き疲れしない音にポイントを置いているようです。
ANIMA ANW01
最近は空間オーディオ流行りということで、イヤフオン・ヘッドフォンにもスピーカーらしさが求められたりしますが、物理的に違うものだからそれを求めても限界はあると思います。
昔からイヤフオン・ヘッドフォンをやっていて思うのは、むしろイヤフオン・ヘッドフォンで語られるべきは耳との近さ・親密感(海外ではよくintimateと評される)ではないでしょうか。ASMR分野はそれを再確認させてくれるように思います。
2021年12月29日
2021年のトレンド1 ゲーミング分野と有線イヤフオン
昨年から継続しているコロナ禍でトレンドとなっているものはゲーミングです。最近行われたクアルコムのイベントでもゲーム分野の注目度の高さが伺えました。
これについてはイヤフォンの分野でも「ゲーム専用」やゲーム特化型のモデルが作られるようになってきました。そしてゲーミングに使われる機材がハイエンド化していることが特徴です。
まず今年初めに平面型のヘッドフォンで知られるAUDEZEが新製品Euclidを発売しています。これは$1,299となかなか高価格のハイエンドイヤフォンです。これ自体はAUDEZEで初めての密閉型の平面磁界型イヤフォンですが、興味ふかい点はこの新型イヤフォン解説のストリーミングをtwitchで行ったということです。twitchはゲームの実況中継を行うサイトです。HeadFiなどのオーディオサイトではなくtwitchで行ったというのは注目点です。
またAUDEZEは昨年7月にワイヤレスヘッドフォンのPenroseを発売してゲーミング分野への興味を示していましたが、この時代に有線イヤフォンを開発するということは低遅延を重視するゲーミング市場も重要に捉えているのでしょう。Penroseは2.4GHzのワイヤレスドングルが付属していて一般的なBluetoothを超える低遅延を実現しています。
今年中盤には映画館でおなじみのTHXから初のコンシューマー向け製品としてドングル型のポータブルUSB DAC Onyxが発売されています。価格はUSD$200くらいでTHX-AAAを採用した本格的な製品です。
ポータブルUSB DACを出したTHXの製品戦略を考えてみると、海外で販売されているのがゲーミングデバイスのRazerのサイトだということがキーになるように思えます。有線ヘッドフォン向けデバイスであるからゲームで重要な遅延も問題になりません。またTHXは「THX Spatial Audio」という今流行りでもある空間オーディオの技術を持っています。つまりRazerが発売しているRazer BlackShark V2のようなTHX Spatial Audioに対応したゲーミングヘッドフォンと組み合わせて、対戦ゲームで求められる高精度の立体音響と高品質でリアルな音質の実現を提供するデバイスとしてOnyxが用意されたのではないかと考えることができます。
Razerのサイト
https://www.razer.com/mobile-accessories/thx-onyx/RC21-01630100-R3M1
オーディオ製品のゲームへの歩み寄りとともに、ゲーム製品のオーディオへの歩み寄りもまたあります。
今年9月にはASUSのRepublic of Gamers (ROG)イベントにおいてゲーミングヘッドセットDelta Sが発表されています。ASUSはすでにゲーミングヘッドセットを出していますが、Delta Sで注目すべきは高音質仕様になっているということです。DAC IC(正しくはオーディオCODEC)にES9281を採用し、MQAをサポート(MQAレンダラー)した初めてのヘッドホンです。
ただしMQAレンダラーはソフトウエアでコードが必要なためにゲームアプリでは対応できないでしょう。ASUSは、MQA対応をメインの特徴とするためにES9281を採用したのではなく、従来モデルのROG DeltaでES9218を採用していたのでその延長上とも考えられますが、やはりES9821の130dBもの高音質がゲーミング分野に重要と読んだのかもしれません。
ゲーミングに好適というゲーム仕様のイヤフォンもまた発売されています。今年の6月には有線イヤフォンのAZLA AZEL Edition Gが発売されています。これはAZELのゲーミング向けバージョンで、AZELをベースにして韓国一の人気プロゲーマー監修により再設計を施したバージョンです。銃声音や足音など細かい音を一つ逃さず、敵の位置を把握しやすいサウンドバランスを実現した点が特徴で、特にFPSゲームに最適化しています。
AZLAによると、オリジナルのAZELも本国ではゲーミング用として1万台以上販売されるほどのニーズがあったということです。 Edition Gでは特に左右バランスの完璧さ(音のピンポイントの定位、音の来る方向)が最大のポイントだということです。このために高度なハイエンドイヤフォン並みのチャンネルマッチングをeditionGでは実施しています。
AZEL EditionGとチャンネルマッチングのために廃棄されたパーツ
特性図は左右がきれいに合致している(赤青の色が重なっている)ことに注目
国内ではfinalが有線イヤフォンのVR3000 for Gamingを発売しています。
finalで重要としたポイントはプレーヤーの没入感を高めるという点だといいます。これは具体的にいうと刺激成分が少なく集中力が途切れないということです。方向感覚も大事ながらも、やはりゲーミングでも集中力を生むことのできる没入感が大事であるとfinalでは考えているということです。
final VR3000 for Gaming
イヤフォンはワイヤレスに移行しつつありますが、ゲーミング分野では低遅延の必要からまだ有線イヤフォンが重宝されているという点も見逃せません。つまりシェアを奪われつつある有線イヤフォンが生き残る道の一つであり、高度化するゲーミングがより優れた方向性で銃撃の方向がわかることや、優れた解像力でかすかな足音がわかるようなハイエンドの特性を欲しているということでもあります。プロのeスポーツプレーヤーの反射神経はオリンピックの運動選手並みということをクアルコムのイベントでゲーマーが話してたのが印象的です。
一方でワイヤレスで有線に匹敵するような低遅延化については、今年オーディオテクニカが音楽練習用で発売した赤外線ワイヤレスEP1000IRがひとつの面白い手段ではあります(処理が単純なために遅延が少ないとのこと)、ただしドングルが必要なためゲーミングに広まるかはわかりません。
オーディオテクニカ EP1000IRとiPadのピアノアプリ
これについてはイヤフォンの分野でも「ゲーム専用」やゲーム特化型のモデルが作られるようになってきました。そしてゲーミングに使われる機材がハイエンド化していることが特徴です。
まず今年初めに平面型のヘッドフォンで知られるAUDEZEが新製品Euclidを発売しています。これは$1,299となかなか高価格のハイエンドイヤフォンです。これ自体はAUDEZEで初めての密閉型の平面磁界型イヤフォンですが、興味ふかい点はこの新型イヤフォン解説のストリーミングをtwitchで行ったということです。twitchはゲームの実況中継を行うサイトです。HeadFiなどのオーディオサイトではなくtwitchで行ったというのは注目点です。
またAUDEZEは昨年7月にワイヤレスヘッドフォンのPenroseを発売してゲーミング分野への興味を示していましたが、この時代に有線イヤフォンを開発するということは低遅延を重視するゲーミング市場も重要に捉えているのでしょう。Penroseは2.4GHzのワイヤレスドングルが付属していて一般的なBluetoothを超える低遅延を実現しています。
今年中盤には映画館でおなじみのTHXから初のコンシューマー向け製品としてドングル型のポータブルUSB DAC Onyxが発売されています。価格はUSD$200くらいでTHX-AAAを採用した本格的な製品です。
ポータブルUSB DACを出したTHXの製品戦略を考えてみると、海外で販売されているのがゲーミングデバイスのRazerのサイトだということがキーになるように思えます。有線ヘッドフォン向けデバイスであるからゲームで重要な遅延も問題になりません。またTHXは「THX Spatial Audio」という今流行りでもある空間オーディオの技術を持っています。つまりRazerが発売しているRazer BlackShark V2のようなTHX Spatial Audioに対応したゲーミングヘッドフォンと組み合わせて、対戦ゲームで求められる高精度の立体音響と高品質でリアルな音質の実現を提供するデバイスとしてOnyxが用意されたのではないかと考えることができます。
Razerのサイト
https://www.razer.com/mobile-accessories/thx-onyx/RC21-01630100-R3M1
オーディオ製品のゲームへの歩み寄りとともに、ゲーム製品のオーディオへの歩み寄りもまたあります。
今年9月にはASUSのRepublic of Gamers (ROG)イベントにおいてゲーミングヘッドセットDelta Sが発表されています。ASUSはすでにゲーミングヘッドセットを出していますが、Delta Sで注目すべきは高音質仕様になっているということです。DAC IC(正しくはオーディオCODEC)にES9281を採用し、MQAをサポート(MQAレンダラー)した初めてのヘッドホンです。
ただしMQAレンダラーはソフトウエアでコードが必要なためにゲームアプリでは対応できないでしょう。ASUSは、MQA対応をメインの特徴とするためにES9281を採用したのではなく、従来モデルのROG DeltaでES9218を採用していたのでその延長上とも考えられますが、やはりES9821の130dBもの高音質がゲーミング分野に重要と読んだのかもしれません。
ゲーミングに好適というゲーム仕様のイヤフォンもまた発売されています。今年の6月には有線イヤフォンのAZLA AZEL Edition Gが発売されています。これはAZELのゲーミング向けバージョンで、AZELをベースにして韓国一の人気プロゲーマー監修により再設計を施したバージョンです。銃声音や足音など細かい音を一つ逃さず、敵の位置を把握しやすいサウンドバランスを実現した点が特徴で、特にFPSゲームに最適化しています。
AZLAによると、オリジナルのAZELも本国ではゲーミング用として1万台以上販売されるほどのニーズがあったということです。 Edition Gでは特に左右バランスの完璧さ(音のピンポイントの定位、音の来る方向)が最大のポイントだということです。このために高度なハイエンドイヤフォン並みのチャンネルマッチングをeditionGでは実施しています。
AZEL EditionGとチャンネルマッチングのために廃棄されたパーツ
特性図は左右がきれいに合致している(赤青の色が重なっている)ことに注目
国内ではfinalが有線イヤフォンのVR3000 for Gamingを発売しています。
finalで重要としたポイントはプレーヤーの没入感を高めるという点だといいます。これは具体的にいうと刺激成分が少なく集中力が途切れないということです。方向感覚も大事ながらも、やはりゲーミングでも集中力を生むことのできる没入感が大事であるとfinalでは考えているということです。
final VR3000 for Gaming
イヤフォンはワイヤレスに移行しつつありますが、ゲーミング分野では低遅延の必要からまだ有線イヤフォンが重宝されているという点も見逃せません。つまりシェアを奪われつつある有線イヤフォンが生き残る道の一つであり、高度化するゲーミングがより優れた方向性で銃撃の方向がわかることや、優れた解像力でかすかな足音がわかるようなハイエンドの特性を欲しているということでもあります。プロのeスポーツプレーヤーの反射神経はオリンピックの運動選手並みということをクアルコムのイベントでゲーマーが話してたのが印象的です。
一方でワイヤレスで有線に匹敵するような低遅延化については、今年オーディオテクニカが音楽練習用で発売した赤外線ワイヤレスEP1000IRがひとつの面白い手段ではあります(処理が単純なために遅延が少ないとのこと)、ただしドングルが必要なためゲーミングに広まるかはわかりません。
オーディオテクニカ EP1000IRとiPadのピアノアプリ
2021年12月28日
2021年注目の技術2 音響メタマテリアル
これは今年というよりもオーディオ界隈では昨年くらいからの流れになります。メタというのはメタムービーが劇中劇を指すように視点の次元から一つ上の次元というような意味で「高次」とか「超越」という意味で使われます。メタマテリアル(Metamaterial)とは直訳すると「超越素材・高次素材」のような意味で、自然界にはない人造的な素材という意味です。
もともとメタマテリアルは光学分野が始まりで、自然界にはないような光の屈折をする素材の研究から生まれたものです。それがホテルの空調ノイズの低減などに利用されて、音響分野でも音響メタマテリアルとして発展してきました。
下記はKEFと協力したと言われているAMG(Acoustic Metamaterials Group)のホームページです。
https://acousticmetamaterials.org
上記ページの"CUSTOMIZATION PROCESS"という欄を見ると効果説明図がありますので、この図を描きのKEFのページにあるMATの動作動画のグラフと比較するとメタマテリアルの効果が分かりやすいと思います。
メタマテリアル技術はすべての周波数帯域に一様に適用されるものではなく、ノイズにはピークやデッィプなどの凹凸があるのでそれに応じた形状を計算的に求めてその凹凸を打ち消すという考え方です。その形状は複雑な計算により求められるので自然界にはないような迷路のような形状となります。
実際の応用例としてはまず、昨年KEFがMAT(Metamaterial Absorption Technology)という技術を発表し、KEF LS50 Metaという新型スピーカーのドライバーに音響メタマテリアルを適用しています。"Metamaterial Absorption Technology"とはメタマテリアルによるノイズ吸収技術という意味です。これはドライバー背面から生じるノイズの提言に使われています。
下記のKEFのページのMATの動作動画のグラフに注目してください。
https://jp.kef.com/pages/metamaterial
手に持っているのがMAT
続いて今年Dan Clark Audio(旧称MrSpeakers)から新ヘッドフォンStealthのが発売されました。
https://danclarkaudio.com/dcastealth.html
Stealthは平面磁界型の形式でありながら、珍しいことに密閉型です。密閉型は定在波などを低減しにくいために高音質化は難しいとされていましたが、それを解決するためにStealthで導入されたのが音響メタマテリアルであるAMTS(Acoustic Metamaterial Tuning System)です。AMTSは複雑な多孔の整形物による音響フィルターでエアフローの通り道に置かれます。
StealthではこのAMTSを使用することにより密閉型で主に発生するノイズを3Khzから超高域まで低減するとしています。
手に持っているのが AMST
音響メタマテリアルのオーディオ機器への適用はまだ限定的ですが、そのうちに小型化されていけばという期待感もあります。これも来年どう動くか注目したい技術です。
もともとメタマテリアルは光学分野が始まりで、自然界にはないような光の屈折をする素材の研究から生まれたものです。それがホテルの空調ノイズの低減などに利用されて、音響分野でも音響メタマテリアルとして発展してきました。
下記はKEFと協力したと言われているAMG(Acoustic Metamaterials Group)のホームページです。
https://acousticmetamaterials.org
上記ページの"CUSTOMIZATION PROCESS"という欄を見ると効果説明図がありますので、この図を描きのKEFのページにあるMATの動作動画のグラフと比較するとメタマテリアルの効果が分かりやすいと思います。
メタマテリアル技術はすべての周波数帯域に一様に適用されるものではなく、ノイズにはピークやデッィプなどの凹凸があるのでそれに応じた形状を計算的に求めてその凹凸を打ち消すという考え方です。その形状は複雑な計算により求められるので自然界にはないような迷路のような形状となります。
実際の応用例としてはまず、昨年KEFがMAT(Metamaterial Absorption Technology)という技術を発表し、KEF LS50 Metaという新型スピーカーのドライバーに音響メタマテリアルを適用しています。"Metamaterial Absorption Technology"とはメタマテリアルによるノイズ吸収技術という意味です。これはドライバー背面から生じるノイズの提言に使われています。
下記のKEFのページのMATの動作動画のグラフに注目してください。
https://jp.kef.com/pages/metamaterial
手に持っているのがMAT
続いて今年Dan Clark Audio(旧称MrSpeakers)から新ヘッドフォンStealthのが発売されました。
https://danclarkaudio.com/dcastealth.html
Stealthは平面磁界型の形式でありながら、珍しいことに密閉型です。密閉型は定在波などを低減しにくいために高音質化は難しいとされていましたが、それを解決するためにStealthで導入されたのが音響メタマテリアルであるAMTS(Acoustic Metamaterial Tuning System)です。AMTSは複雑な多孔の整形物による音響フィルターでエアフローの通り道に置かれます。
StealthではこのAMTSを使用することにより密閉型で主に発生するノイズを3Khzから超高域まで低減するとしています。
手に持っているのが AMST
音響メタマテリアルのオーディオ機器への適用はまだ限定的ですが、そのうちに小型化されていけばという期待感もあります。これも来年どう動くか注目したい技術です。
2021年12月27日
2021年の注目技術1 MEMSスピーカー
今年注目の技術をまとめていきます。まず一つ目はMEMSスピーカーです。この分野で知られているのはUSound社とXMEMS社です。
MEMSスピーカーとは簡単に言うと「シリコンドライバー」とも言えます。つまり従来のダイナミック型ドライバーやBAドライバーのように使用することができ、イヤフオンにも使うことができます。現在ではFaunaなどオーディオグラスにダイナミックドライバー(ウーファー)とハイブリッド構成で使われたりしていますが、2022年にはXMEMSのドライバーによる完全ワイヤレスイヤフオン「IAC Chiline TR-X」がアナウンスされており、USoundも多額の資金調達に成功して市場参入を伺っています。
Montra MEMSスピーカー(XMEMS社)
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)とは、機能の集合体がワンチップに集積されたもののことです。SoCが機能別のICがワンチップに集積されたパッケージであるのに似ていますが、MEMSがSoCと異なる点はICなどデジタル部だけではなく機械的な稼動部を持つ点です。つまりメカトロニクス分野の産物です。メカ部分はアクチュエーターなどの機能も可能なので、シリコンチップですが空気を振動させるスピーカーも作れます。ドライバーの種類としては圧電型ドライバーとなります。
音質はFaunaを聞いた限りでは思っていたよりも良く、iPhoneの内蔵スピーカーのような無機的な音ではなくもっと滑らかで、包まれるような音場再現があります。
MEMSスピーカーの利点はまとめると以下のようなものですが、いずれも完全ワイヤレスには適しています。
1. 超小型
なんといってもICのようなシリコンチップにドライバーが統合されているため、従来型ドライバーと比べた場合には比較にならないほど薄型・小型化できます。
2 超低電力
電力消費が低いのもMEMSのシリコン一体型ならではの特徴です。これは再生時間を伸ばすのに有効でしょう。
3 防水適性がある
チップはそれ自体がIP58くらいの防水でもあるために防水の必要性がある完全ワイヤレスイヤフォンにも好適です。
4 位相特性に優れる
ドライバーを組み立てるよりもシリコンから作るほうが製造公差を劇的に減少できるでしよう。ハイエンドイヤフォンでは位相特性を揃えるために両耳ユニットごとのインピーダンスマッチを取りますが、その必要性が低くなるかもしれません。この点ではおそらくは立体感の向上として現れるので、空間オーディオ流行りの今日では好適です。
5. 超高音域特性に優れる
USoundの解説によると、
https://www.usound.com/usounds-mems-speakers-extreme-bandwidth-technology/
GanymedeというタイプのUSound社のMEMSスピーカーは20kHzを超える超高域特性に優れているということです。これはMEMSスピーカーの駆動部が極めて正確に動作が可能であり、普通のドライバーと違いコイルなどがないので駆動部が極めて軽量だから特に超高域での歪みを減らすことができるからということ。
超高域での歪みが極めて少ないために、普通のドライバーよりもより高いSPLを超高域で発揮できるそうです。
このように今流行りの完全ワイヤレスに向いた特性が並びますが、位相特性が揃っていることからマルチアレイのように複数個使用する例もあるとのこと。つまりヘッドフォンのハウジングにぎっしりと複数個のMEMSスピーカーを並べるてスピーカーアレイのようにすることで、空間オーディオやVRなどに向いたものを作ることもできるでしょう。
Bamboo Installation
また最近では隈研吾氏とOPPOのコラボで制作した現代アート的なBambooインスタレーションにもMEMSスピーカーが採用されています。これは竹の共鳴で音を大きくしているようで、この動画を見るとMEMSスピーカーの音色がわかると思います。
MEMSスピーカーとは簡単に言うと「シリコンドライバー」とも言えます。つまり従来のダイナミック型ドライバーやBAドライバーのように使用することができ、イヤフオンにも使うことができます。現在ではFaunaなどオーディオグラスにダイナミックドライバー(ウーファー)とハイブリッド構成で使われたりしていますが、2022年にはXMEMSのドライバーによる完全ワイヤレスイヤフオン「IAC Chiline TR-X」がアナウンスされており、USoundも多額の資金調達に成功して市場参入を伺っています。
Montra MEMSスピーカー(XMEMS社)
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)とは、機能の集合体がワンチップに集積されたもののことです。SoCが機能別のICがワンチップに集積されたパッケージであるのに似ていますが、MEMSがSoCと異なる点はICなどデジタル部だけではなく機械的な稼動部を持つ点です。つまりメカトロニクス分野の産物です。メカ部分はアクチュエーターなどの機能も可能なので、シリコンチップですが空気を振動させるスピーカーも作れます。ドライバーの種類としては圧電型ドライバーとなります。
音質はFaunaを聞いた限りでは思っていたよりも良く、iPhoneの内蔵スピーカーのような無機的な音ではなくもっと滑らかで、包まれるような音場再現があります。
MEMSスピーカーの利点はまとめると以下のようなものですが、いずれも完全ワイヤレスには適しています。
1. 超小型
なんといってもICのようなシリコンチップにドライバーが統合されているため、従来型ドライバーと比べた場合には比較にならないほど薄型・小型化できます。
2 超低電力
電力消費が低いのもMEMSのシリコン一体型ならではの特徴です。これは再生時間を伸ばすのに有効でしょう。
3 防水適性がある
チップはそれ自体がIP58くらいの防水でもあるために防水の必要性がある完全ワイヤレスイヤフォンにも好適です。
4 位相特性に優れる
ドライバーを組み立てるよりもシリコンから作るほうが製造公差を劇的に減少できるでしよう。ハイエンドイヤフォンでは位相特性を揃えるために両耳ユニットごとのインピーダンスマッチを取りますが、その必要性が低くなるかもしれません。この点ではおそらくは立体感の向上として現れるので、空間オーディオ流行りの今日では好適です。
5. 超高音域特性に優れる
USoundの解説によると、
https://www.usound.com/usounds-mems-speakers-extreme-bandwidth-technology/
GanymedeというタイプのUSound社のMEMSスピーカーは20kHzを超える超高域特性に優れているということです。これはMEMSスピーカーの駆動部が極めて正確に動作が可能であり、普通のドライバーと違いコイルなどがないので駆動部が極めて軽量だから特に超高域での歪みを減らすことができるからということ。
超高域での歪みが極めて少ないために、普通のドライバーよりもより高いSPLを超高域で発揮できるそうです。
このように今流行りの完全ワイヤレスに向いた特性が並びますが、位相特性が揃っていることからマルチアレイのように複数個使用する例もあるとのこと。つまりヘッドフォンのハウジングにぎっしりと複数個のMEMSスピーカーを並べるてスピーカーアレイのようにすることで、空間オーディオやVRなどに向いたものを作ることもできるでしょう。
Bamboo Installation
また最近では隈研吾氏とOPPOのコラボで制作した現代アート的なBambooインスタレーションにもMEMSスピーカーが採用されています。これは竹の共鳴で音を大きくしているようで、この動画を見るとMEMSスピーカーの音色がわかると思います。
2021年12月22日
コスパの高い静電型セットHifiman JADE II
Hifiman Jade IIは静電型ヘッドフォンとアンプのセット製品です。HIFIMANは平面磁界型のヘッドフォンの他に静電型ヘッドフォンでも海外では先駆的に取り組んできたメーカーです。静電型ヘッドフォンはバイアス電圧をかける必要があるのでSTAXで言うドライバーのような専用のアンプを必要とします。つまりJADEIIはそれがセットになっている製品です。
静電型ヘッドフォンは振動板がとても薄く、平面型(全面駆動)方式ですが平面磁界型のようにコイルがないためとても軽量にできます。そのため可能となった独特の高精細な音の世界はオーディオファンを魅了してきましたが高価な製品が多く、しかも専用アンプまで必要なのでなかなか手を出しにくい分野ではありました。JadeIIはShangri-LaなどHIFIMANの静電型機で培った静電型の知見を活かしながら、セットで¥187000と20万円を切るようなかなり低価格に抑えた製品です。
JadeIIは開放型のヘッドフォンで、高域は90kHzまで達するワイドレンジ設計が為されています。技術的にはShangri-La Jrを基にしていて、独特の青みを秘めたナノテクノロジードライバーや音を濁さない超薄型のダストカバーなどを引き継いでいます。ヘッドフォン自体は365gと軽量に設計されています。
JadeIIの付属アンプはSTAX Pro端子なので、他の STAX Pro端子のヘッドフォンと互換性があるでしょう。また実際に試してはいませんが、ヘッドフォンも他のSTAX Pro端子の静電型アンプに使用できると思います。
インプレッション
静電型アンプはシンプルなミニマルデザインですが価格に似合わないくらいの堂々としたかなり本格的な作りのアンプで、操作はボリュームと入力切替のみのシンプルな構成です。
ヘッドフォンは軽く長時間聴いていても疲れは少ないと思います。側面が緑色に光るのも面白い点です。
ケーブルは平たいタイプで取り回しは悪くないですね。
アンプ背面
音は静電型らしくとても細かく音のエッジの立ち上がりが早く感じられます。ヴァイオリンやウッドベースの弦の鳴りの豊かさが気持ち良く、これは静電型ならではの愉悦だと思いますね。ウッドベースはピチカートのキレが良くシャープだがきつさがないのも良い点です。
帯域バランスの良さは平面型ならではの良さで、誇張されている帯域はありません。どんな曲でも低域が膨らんだり、いやな音を出すピークは感じられません。高域のベルの音は美しく響き歪み感の少なさを感じさせる。
音の歯切れが良くスピード感があるのでハイテンポのジャズトリオなどもスピード感のあるライブが堪能できます。
ヘルゲリエントリオのTake Fiveではドラムスの打撃感と音の歯切れの良さ、ハイハットの音のシャープさに感嘆します。楽器音もかなり正確で再現度が高いと思います。また音と音の間にプレーヤーが、よくライブで出すようなかすれ声を入れているのがはっきりと聴こえています。楽器音の情報量の多さとともにかなり生々しいサウンドを感じさせますね。音空間も広くMCのヴォーカルと観客との距離感がよく感じられる。
Dhafer YoussefのBirds Requiemではファルセットの伸びが静電型らしく素晴らしく、民族楽器と絡んで行く様がよく表現されています。上原ひろみのAliveではロックのようにパワフルなジャズピアノがよく再現されて彼女らしい白熱したプレイを感じさせる。SHANTIも録音にこだわるアーティストですが、Memoriseではこう歌いたいという唇の動きがよく伝わってくるのがわかります。
ダイナミックレンジの広いアルヴォ・ペルトのIn Principioを聴くと、迫力ある音圧のオーケストラのサウンドに圧倒されてしまう。家にいながらこれだけの音が楽しめるならばなにをかいわんやです。
Amazon Music unlimitedでハイレゾを聞いてみましたが、音は素晴らしくハイレゾサウンドをストリーミングで聞くのも良いものです。アニソンを聴くと普通のダイナミックヘッドフォンよりもヴォーカルと演奏が団子にならずに分離できるので、それぞれ聞き取りやすい点も優れていると思う。ダイナミックヘッドフォンと高性能アンプだと、アニソンとかポップなどはごちゃごちゃとして少しうるさい感じの音になるが、JadeIIでは音が整理されて聞こえるのも良い点だと思います。
日頃スピーカーで聴いている人が夜に聞くのにも向いていると思います。もちろん言うまでもなくDACが良いほど能力を発揮できる製品です。
実際にShanglila JRと聞き比べてみましたが、少しダイナミックレンジがShanglilaのほうが広く余裕のある音再現ではありますが、全体的に少し譲る程度でそう大きく聞き劣りはしないのでかなりコスパは良いと言えるでしょう。国産の静電型ヘッドフォンと比べても遜色ないレベルだと思います。
価格がアンプとヘッドフォンのセットで18万円ということなので、かなりコスパが高いと言えます。音的にはセットで数十万くらいでもおかしくない感じです。平面磁界型で20万の予算でこの音クラスの良いアンプと良いヘッドフォンを揃えるのは無理なのではないでしょうか。
なおHIFIMANでは来年1/3から1/8くらいまでAmazonで最大15%オフのタイムセールを予定しているそうです。興味ある方はチェックしてください。
静電型ヘッドフォンは振動板がとても薄く、平面型(全面駆動)方式ですが平面磁界型のようにコイルがないためとても軽量にできます。そのため可能となった独特の高精細な音の世界はオーディオファンを魅了してきましたが高価な製品が多く、しかも専用アンプまで必要なのでなかなか手を出しにくい分野ではありました。JadeIIはShangri-LaなどHIFIMANの静電型機で培った静電型の知見を活かしながら、セットで¥187000と20万円を切るようなかなり低価格に抑えた製品です。
JadeIIは開放型のヘッドフォンで、高域は90kHzまで達するワイドレンジ設計が為されています。技術的にはShangri-La Jrを基にしていて、独特の青みを秘めたナノテクノロジードライバーや音を濁さない超薄型のダストカバーなどを引き継いでいます。ヘッドフォン自体は365gと軽量に設計されています。
JadeIIの付属アンプはSTAX Pro端子なので、他の STAX Pro端子のヘッドフォンと互換性があるでしょう。また実際に試してはいませんが、ヘッドフォンも他のSTAX Pro端子の静電型アンプに使用できると思います。
インプレッション
静電型アンプはシンプルなミニマルデザインですが価格に似合わないくらいの堂々としたかなり本格的な作りのアンプで、操作はボリュームと入力切替のみのシンプルな構成です。
ヘッドフォンは軽く長時間聴いていても疲れは少ないと思います。側面が緑色に光るのも面白い点です。
ケーブルは平たいタイプで取り回しは悪くないですね。
アンプ背面
音は静電型らしくとても細かく音のエッジの立ち上がりが早く感じられます。ヴァイオリンやウッドベースの弦の鳴りの豊かさが気持ち良く、これは静電型ならではの愉悦だと思いますね。ウッドベースはピチカートのキレが良くシャープだがきつさがないのも良い点です。
帯域バランスの良さは平面型ならではの良さで、誇張されている帯域はありません。どんな曲でも低域が膨らんだり、いやな音を出すピークは感じられません。高域のベルの音は美しく響き歪み感の少なさを感じさせる。
音の歯切れが良くスピード感があるのでハイテンポのジャズトリオなどもスピード感のあるライブが堪能できます。
ヘルゲリエントリオのTake Fiveではドラムスの打撃感と音の歯切れの良さ、ハイハットの音のシャープさに感嘆します。楽器音もかなり正確で再現度が高いと思います。また音と音の間にプレーヤーが、よくライブで出すようなかすれ声を入れているのがはっきりと聴こえています。楽器音の情報量の多さとともにかなり生々しいサウンドを感じさせますね。音空間も広くMCのヴォーカルと観客との距離感がよく感じられる。
Dhafer YoussefのBirds Requiemではファルセットの伸びが静電型らしく素晴らしく、民族楽器と絡んで行く様がよく表現されています。上原ひろみのAliveではロックのようにパワフルなジャズピアノがよく再現されて彼女らしい白熱したプレイを感じさせる。SHANTIも録音にこだわるアーティストですが、Memoriseではこう歌いたいという唇の動きがよく伝わってくるのがわかります。
ダイナミックレンジの広いアルヴォ・ペルトのIn Principioを聴くと、迫力ある音圧のオーケストラのサウンドに圧倒されてしまう。家にいながらこれだけの音が楽しめるならばなにをかいわんやです。
Amazon Music unlimitedでハイレゾを聞いてみましたが、音は素晴らしくハイレゾサウンドをストリーミングで聞くのも良いものです。アニソンを聴くと普通のダイナミックヘッドフォンよりもヴォーカルと演奏が団子にならずに分離できるので、それぞれ聞き取りやすい点も優れていると思う。ダイナミックヘッドフォンと高性能アンプだと、アニソンとかポップなどはごちゃごちゃとして少しうるさい感じの音になるが、JadeIIでは音が整理されて聞こえるのも良い点だと思います。
日頃スピーカーで聴いている人が夜に聞くのにも向いていると思います。もちろん言うまでもなくDACが良いほど能力を発揮できる製品です。
実際にShanglila JRと聞き比べてみましたが、少しダイナミックレンジがShanglilaのほうが広く余裕のある音再現ではありますが、全体的に少し譲る程度でそう大きく聞き劣りはしないのでかなりコスパは良いと言えるでしょう。国産の静電型ヘッドフォンと比べても遜色ないレベルだと思います。
価格がアンプとヘッドフォンのセットで18万円ということなので、かなりコスパが高いと言えます。音的にはセットで数十万くらいでもおかしくない感じです。平面磁界型で20万の予算でこの音クラスの良いアンプと良いヘッドフォンを揃えるのは無理なのではないでしょうか。
なおHIFIMANでは来年1/3から1/8くらいまでAmazonで最大15%オフのタイムセールを予定しているそうです。興味ある方はチェックしてください。
2021年12月16日
acoustuneのプロ用モニターイヤフォン、RS oneレビュー
おなじみのAcoustuneから新製品が登場です。しかしいつもの製品とはまったく異なるラインで、「Monitor(モニター)」シリーズの第1弾となるステージモニターイヤフォン「RS ONE」です。発売日は2021年12月10日(金)で、価格は12,980円です。二色カラーの展開です
「RS ONE」は高耐久性とモニタリング性能に焦点を当てて、新開発のミリンクスELドライバーを搭載したステージモニター向けのイヤホンです。もちろん一般ユーザーが音楽を聴くのにも使うことができます。
例えばスパウト部分の折損、コネクター部分やハウジング部分の破損、ケーブルの接触不良等のトラブルが発生しがちな部分をクリアしつつ、大入力でも飛ばないとか、強靭ながら取り回しが良いケーブル、イヤホンとイヤモニシステムがマッチするようにインピーダンスをデザインするなどの工夫でプロフェッショナルの現場を想定して開発されたとのこと。
*モニター用のミリンクスEL ドライバーの採用
音質の面ではAcoustuneらしくポリマーバイオマテリアル「ミリンクス」を振動板素材に採用しています。
ミリンクスは医療用の合成基材ですが、振動板素材としても非常に高い音響性能を誇る高機能樹脂です。このミリンクスを薄膜化した振動板は、軽量でありながら高い強度と柔軟性を合わせ持つのが特徴です。これはいわばムチのように強いがよくしなるということのようです。
ステージモニターとして設計したRS ONEでは新たに「ミリンクスEL ドライバー」を採用しています。このミリンクスEL ドライバーは通常のミリンクスドライバーに比べ、より正確なモニタリングを実現する為のドライバーで、内部損失が大きいのが特徴のようです。
内部損失が大きいということは叩いても反響音がしない材質ということで、余計な付帯音を減らしてモニタリング性能を高めています。
また瞬間的に最大250mWの信号が入力された後でも正常に使用できる高耐入力性を実現ているということです。これにより、突発的にステージ上でハウリングのような大きな入力があった場合でも、イヤホンのスピーカーが壊れにくい堅牢性を持つとのこと。
*ワイヤレスイヤモニシステムとのインピーダンスマッチ
ステージモニターは主にワイヤレスイヤモニシステムと組み合わされて使用されます。このイヤモニシステムとイヤホンのインピーダンスが合っていない場合、音量が取りにくくなったりイヤホンの特性が変わってしまい、モニタリング性能が低下する等のケースがあります。RS ONEではこういったトラブルを避けるため、インピーダンスマッチングを的確に行うことでイヤモニシステムと相性問題を少なくしているとのことです。
*新規開発ケーブル『ARM011』と『Pentaconn Ear Long-Type』の採用
ケーブルにはRS ONE 用に新規開発した「ARM011」を採用しています。これは高純度リッツ線とケブラーワイヤーを編み込んだ線材を4芯構造で使用しPU 素材の被覆をしたもので、取り回しが良いながらも癖がつきにくく、かつ断線しにくいとのことです。イヤモニシステム使用上との相性を考え、プラグ部はストレートタイプです。
端子は好評のPentaconn Earタイプで、RS ONEでは、ステージモニターとして重要となる汗対策として、ボディに対して埋め込み式となりコネクター部分に汗が入りにくい構造である『Pentaconn Ear Long-Type』を採用しています。
付属品としてはAcoustune イヤホン開発時のリファレンスとしても使用されているシリコンイヤーピース「AET07」、フォームタイプならではの密閉感を得られる「AET02」が付属します。更にキャリングケースも付属しています。
インプレッション
簡素な箱がプロ用と言う感じを受けます。筐体は軽くカールがあるのでかなりしっかりはまり装着感は良好です。ケーブルはやや硬めだけどしなやかなので取り回しは悪くないですね。見るからに音が良さそうなケーブルです。
モニターらしく帯域バランスの良いフラットな音で、ソリッドでシャープなサウンドです。楽器やホールの立体感、音空間の深みがよく再現されています。
音的にはレベルが高くもっと高くてもおかしくなさそうなくらいの音です。良録音を聞くと音の細かなニュアンスまでよく聞こえ、音の歯切れが良く音像のエッジがよく立っています。音像がつかみやすい音ですね。着色感が少なく、元の音に忠実で、楽器の音色もよくわかります。特にピアノの打鍵音が良いですね。
高域のベルやハイハットの音はかなりシャープで、低音もHD800のような正確な低域で、引き締まっていて、かなり深く沈むように思います。ワイドレンジ感も高いですね。低域が出過ぎていないのでヴォーカルもかなり明瞭に聴こえます。
とても音楽が綺麗に聞こえるので、モニター用としてではなく音楽用としても良いでしょう。
この価格ではかなりレベルが高い音でミリンクスのポテンシャルの高さを感じます。たぶんリケーブルするとさらにレベルの高い音になると思います。
しっかりとした音の輪郭がアコースチューンらしいと思います。独特のミリンクスらしい空間表現が個性的な点もあります。
普段遣いでも気軽にバッグに入れておけそうだし、質実剛健でコスパの良いイヤフォンです。
「RS ONE」は高耐久性とモニタリング性能に焦点を当てて、新開発のミリンクスELドライバーを搭載したステージモニター向けのイヤホンです。もちろん一般ユーザーが音楽を聴くのにも使うことができます。
例えばスパウト部分の折損、コネクター部分やハウジング部分の破損、ケーブルの接触不良等のトラブルが発生しがちな部分をクリアしつつ、大入力でも飛ばないとか、強靭ながら取り回しが良いケーブル、イヤホンとイヤモニシステムがマッチするようにインピーダンスをデザインするなどの工夫でプロフェッショナルの現場を想定して開発されたとのこと。
*モニター用のミリンクスEL ドライバーの採用
音質の面ではAcoustuneらしくポリマーバイオマテリアル「ミリンクス」を振動板素材に採用しています。
ミリンクスは医療用の合成基材ですが、振動板素材としても非常に高い音響性能を誇る高機能樹脂です。このミリンクスを薄膜化した振動板は、軽量でありながら高い強度と柔軟性を合わせ持つのが特徴です。これはいわばムチのように強いがよくしなるということのようです。
ステージモニターとして設計したRS ONEでは新たに「ミリンクスEL ドライバー」を採用しています。このミリンクスEL ドライバーは通常のミリンクスドライバーに比べ、より正確なモニタリングを実現する為のドライバーで、内部損失が大きいのが特徴のようです。
内部損失が大きいということは叩いても反響音がしない材質ということで、余計な付帯音を減らしてモニタリング性能を高めています。
また瞬間的に最大250mWの信号が入力された後でも正常に使用できる高耐入力性を実現ているということです。これにより、突発的にステージ上でハウリングのような大きな入力があった場合でも、イヤホンのスピーカーが壊れにくい堅牢性を持つとのこと。
*ワイヤレスイヤモニシステムとのインピーダンスマッチ
ステージモニターは主にワイヤレスイヤモニシステムと組み合わされて使用されます。このイヤモニシステムとイヤホンのインピーダンスが合っていない場合、音量が取りにくくなったりイヤホンの特性が変わってしまい、モニタリング性能が低下する等のケースがあります。RS ONEではこういったトラブルを避けるため、インピーダンスマッチングを的確に行うことでイヤモニシステムと相性問題を少なくしているとのことです。
*新規開発ケーブル『ARM011』と『Pentaconn Ear Long-Type』の採用
ケーブルにはRS ONE 用に新規開発した「ARM011」を採用しています。これは高純度リッツ線とケブラーワイヤーを編み込んだ線材を4芯構造で使用しPU 素材の被覆をしたもので、取り回しが良いながらも癖がつきにくく、かつ断線しにくいとのことです。イヤモニシステム使用上との相性を考え、プラグ部はストレートタイプです。
端子は好評のPentaconn Earタイプで、RS ONEでは、ステージモニターとして重要となる汗対策として、ボディに対して埋め込み式となりコネクター部分に汗が入りにくい構造である『Pentaconn Ear Long-Type』を採用しています。
付属品としてはAcoustune イヤホン開発時のリファレンスとしても使用されているシリコンイヤーピース「AET07」、フォームタイプならではの密閉感を得られる「AET02」が付属します。更にキャリングケースも付属しています。
インプレッション
簡素な箱がプロ用と言う感じを受けます。筐体は軽くカールがあるのでかなりしっかりはまり装着感は良好です。ケーブルはやや硬めだけどしなやかなので取り回しは悪くないですね。見るからに音が良さそうなケーブルです。
モニターらしく帯域バランスの良いフラットな音で、ソリッドでシャープなサウンドです。楽器やホールの立体感、音空間の深みがよく再現されています。
音的にはレベルが高くもっと高くてもおかしくなさそうなくらいの音です。良録音を聞くと音の細かなニュアンスまでよく聞こえ、音の歯切れが良く音像のエッジがよく立っています。音像がつかみやすい音ですね。着色感が少なく、元の音に忠実で、楽器の音色もよくわかります。特にピアノの打鍵音が良いですね。
高域のベルやハイハットの音はかなりシャープで、低音もHD800のような正確な低域で、引き締まっていて、かなり深く沈むように思います。ワイドレンジ感も高いですね。低域が出過ぎていないのでヴォーカルもかなり明瞭に聴こえます。
とても音楽が綺麗に聞こえるので、モニター用としてではなく音楽用としても良いでしょう。
この価格ではかなりレベルが高い音でミリンクスのポテンシャルの高さを感じます。たぶんリケーブルするとさらにレベルの高い音になると思います。
しっかりとした音の輪郭がアコースチューンらしいと思います。独特のミリンクスらしい空間表現が個性的な点もあります。
普段遣いでも気軽にバッグに入れておけそうだし、質実剛健でコスパの良いイヤフォンです。
2021年12月10日
finalブランドの名を冠する完全ワイヤレスイヤフォン「final ZE3000」レビュー
先日のヘッドフォン祭で披露され、ひときわ注目を集めた新製品がfinalブランドの名を冠した初めての完全ワイヤレスイヤフォンが「final ZE3000」です。(特別モデルを除く)
そのZE3000がいよいよ来週12月17日(金)から発売されます。本日から予約開始で、想定販売価格は15,800円(税込)です。
本稿では開発情報も交えてこの期待の製品を解説・レビューしていきます。
ZE3000という名前からはfinalユーザーならばだれしもかつての名機である「final E3000」を思い浮かべるでしょう。
finalとしてもやはりE3000には特別の思い入れがあるということです。この価格帯でこうした本格的な音造りのイヤフオンは売れないと一部では言われながらも、音は地味だが聞いてもらえればわかると発売したE3000は、SNSや口コミなどにより高評価が伝わりロングセラーとなる商品となりました。開発側としてもfinalブランドを冠するに当たって完全ワイヤレスの音のスタンダードを作りたいという思いがあったようです。
○ZE3000の特徴と技術
ZE3000はかなり細かな技術の積み重ねで開発された製品ですが、キーとなる大きな特徴は二つあります。ベント無しで音響空間の圧力を最適化する「f-Linkダンピング機構」と新設計ドライバー「f-Core for Wireless」です。
finalは音響工学や音響心理学など正しい理論から正しい開発を行おうとするスタイルのメーカーです。そこでZE3000の開発はそもそもなぜ完全ワイヤレスの音が悪いのか、それはよく言われるようなコーデックの問題なのだろうか、という根本的なところから開発をスタートさせたということ。そこでfinalではまず完全ワイヤレスイヤフォンならではの防水や形的な制約から生じる音響的な歪みの大きさという点に着目をしたそうです。
例えば防水を求められると、ドライバーの正しい動きのために不可欠なベント穴を設けるのが難しいために低域に問題が生じ、それを高域でバランスをとるので音に不自然さが出てしまう。これが完全ワイヤレスイヤフォンがみな同じような音のよくないサウンドに陥ってしまう原因ではないかと気がついたということです。そこでZE3000では内部設計に工夫をしてベント穴と同じような効果を持つチャンバー機構を設けたのがまず一つ目のポイントです。これは「f-Linkダンピング機構」と呼ばれています。
f-Linkダンピング機構
またドライバー自体にも自製が可能なfinalの強みが活かされています。私もZE3000の話を聞いたとき、はじめはAシリーズのF-Coreドライバーを搭載するのではないかと思っていたんですが、実際には完全に新設計のワイヤレス専用のドライバーが搭載されているそうです。それが新設計ドライバー「f-Core for Wireless」です。
f-Core for Wireless
ZE3000のドライバーは形式的には6mmのダイナミックドラバーですが、興味深いことにスピーカーのような独立したエッジがドライバーの振動板周囲に設けられています。このサイズでは接着剤の重さも制限となるのですが、ZE3000のドライバーではエッジがシリコン製でそれ自体が接着する機能を持っているために軽量化と振動板の動きのスムーズさが両立されているとのこと。これはこのクラスでは従来はできなかったことですが、製造方法の工夫により可能になったということです。このためにZE3000のドライバーは6mmだが実質的に9mm相当の音を出すことが可能で、歪みなく大きな低域がだせるといいます。これも他の完全ワイヤレスとの差別化できるポイントです。
このようにアコースティック設計をこだわったためにZE3000の筐体はやや大きくなっています。その装着感の改善のためにfinalではAシリーズで適用した三点支持(finalが考えるIEM型の最適解)を応用しています。角ばったデザインなのは、わざとエッジ(稜線)を作ったデザインにして持つ場合を誘導しているということです。タッチコントロールの箇所もあえて正面ではなく、その斜め後ろにしたのがポイントです。
マニュアルから
また完全ワイヤレスイヤフォンはケースが重要でもあります。ZE3000では筐体同様に人間工学的な考慮により角があるので入れやすい設計がなされています。これは形や材質などがその物自体の扱い方を説明している「アフォーダンス・デザイン」という考え方です。
ケースがポケットに入るようにした点も改良点です。これは深さに対して左右をわざと伸ばしたことで実現されているそうです。このために手で握りやすくもなっています。またよく見ると上下の線が非対称であるなど細かいところに気配りがあります。
外観としては高級カメラに見るようなきちんとした熱塗装を施したシボ塗装を適用している点でも価格を超えた高級感があります。
そしてケースは他社製のイヤーチップの装着も考慮されているとのこと。もちろん全てではないですが、可能な限りイヤーピースを入れる部分の深さや広さを取っているということです。ここはマニアックなfinalの面目躍如というところでしょう。
ZE3000ではSoCにクアルコムのQCC3040を採用していますが、このイコライザーのチューニングについてもまずドライバーユニットを仕上げて、それでできないことをEQでやるという考え方を取っているとのこと。前出したようにまずドライバーを完全に仕上げたことでこれが可能になったわけであり、イコライザーを不出来なドライバーを叩き直すために使用するのは音質を劣化させることだということです。
そしてなにより、こうした手法をとることにより有線イヤフォンではできなかったことが(電気回路と一体になった)完全ワイヤレスでは可能になるとのこと。
ZE3000の仕様は再生時間は7時間で、採用コーデックはSBC/AAC/aptX adaptiveです。付属品は充電ケース・イヤーピース5サイズ(SS/S/M/L/LL)・USBタイプC充電用ケーブルです。カラーはブラックとホワイトの二種類が用意されています。
○ZE3000のインプレッション
実際にデモ機を借りて使用させてもらいました。
*以下のインプレや写真は主に量産前モデルを使用しましたので製品版とは違う点もあるかもしれないことをお断りしておきます。
製品パッケージ
ZE3000のカラーバリエーション
ZE3000の充電機能付きのケースはとてもスリムでポケットに入れやすい形状をしています。agのTWS04Kではポータブルバッテリー付きのアイディアは良かったんですが、やや大柄で取り扱いにくかったのでこの点は助かります。
ケースと本体は表面にシボ加工が施されているので高級感があります。持った感じは軽量です。ケースは底面のUSB-C端子で充電を行います。
ag TWS04Kとの比較(手前/右がTWS04K)
ZE3000ではケースを開けると電源オンとなります。この点はケースから取り出すとオンになる「ag TWS04K」とは異なります。また充電状態表示も異なりますので、TWS04Kユーザーなどはまず説明書を軽く読むことをお勧めします。電源オフと充電開始はケースを閉めることで行います。本体はやや大柄ですが、軽量で耳へのすわりは良好です。
フェイスプレートの面積の広い部分がボタンではないので装着してから指でつまんで位置を修正しやすい点もポイントです。操作したい時は押しやすく、実際に使ってみるとこの多面体デザインは理にかなってると思います。頭を振っても外れる感じは少ないですね。
再生停止などはタッチボタンですが、いわゆるフェイスプレートではない傾いた位置にあります。いままでの完全ワイヤレスだとフェイスプレート部分にボタンがあるので耳にイヤフォンを押し込む際にボタンを押したりしてしまいがちでしたが、この形状だとそういうことは少なそうです。人間工学的にもよく考えられたデザインです。
○音のインプレッション
ZE3000のサウンドは、ぱっと一聴してすぐに他の完全ワイヤレスと違いがわかるような違いがあります。試聴中は本当にケーブルがないかを無意識に思わず何回か触りたくなりました。そのくらいは不思議な違和感すら思えます。
刺激的な成分が少なく、滑らかで豊かな厚みがあってきちんとオーディオの音がするワイヤレスイヤフォンで、TWS04Kとの違いもまずそこに気がつきます。
聴き進めるとアコースティック楽器の音がきれいなことに気がつきます。歪みなく、すっきりした端正なサウンドです。音色の違いが分かりやすく、かつ高音域などで痛みが少ない音です。
アコースティック曲でフライド・プライドの"My Funny Valentine"を聴いてみましたが、こうした生ギターとヴォーカルだけのシンプルな構成で真価が分かります。生ギターの解像力が良くて歯切れが良いと同時に痛さのある角は取れて滑らかでアナログ的です。音が芳醇な感じです。ヴォーカルは鮮明であると同時に肉質感があって女性ヴォーカルの官能的なささやきが艶かしく感じられます。全体的に音楽が豊かに楽しめるサウンドです。実のところ朝飯後にどれちょっとエージングできたかな、と軽く聴き始めたところあまりに良い鳴り方なので、もうそのまま試聴タイムになだれ込んだ感じでした。
帯域バランスは3000番の名のように整っていて自然で誇張感は少ないですね。音の広がり方は標準的な感じですが、不思議な奥行き感というか立体感があります。曲と録音を忠実に再現するスタンダードな音ですが、もちろん先に書いたように無機質的ないわゆるモニター的なサウンドではなく、有機的に音楽を楽しめるのはいままでのfinalイヤフォンらしいと思います。
高域のベルの音が極めて美しいので歪み感がとても少ないのだと思います。高音域は鮮明でいて、かつきつさがとても少なく感じられます。低域は過不足感はなく、とてもタイトで引き締まり、打撃感が今までにない感触の良さがあります。ロックやヘビメタを聞くと気持ち良いですね。ドラムスの叩きつけるような連打が気持ち良くそしてきちんとダイナミックらしく重く感じられます。低域の量感自体は十分にありますが、比べてみるとTWS04Kの方が低音が出ていてZE3000は抑え気味なのでやはり3000番台の音らしく思えますし、コンシューマブランドのagとの切り分けもできていると思います。
包み込まれるような音の広がり感も極めて良いですし、音の厚みがアンプが入ってるかのようなのもポイントです。ただZE3000に専用アンプや専用DACはないので、SoCの電気的な部分にも相当なノウハウの蓄積が秘められているようですね。そこもまずagで経験の蓄積があったからでしょう。
ワイヤレスっぽくないと同時にデジタルっぽくない音と言えば良いか。。デジタルを極めればアナログ的な滑らかさになるのかもしれませんね。
○「ワイヤレスイヤホンは有線より音が悪い」のか
最後にワイヤレス対有線イヤフォンを試してみました。finalでは開発目標として「E3000の音質を超える製品をつくりたい」ということがあったようですので、ここではあえてE3000より上位モデルのA3000/A4000を選びました。ほぼ同価格帯でありワイヤレスだからというハンデはありません。
このためまだ3.5mm端子の付いていたiPhone5を取り出してきて有線のA3000/A4000とワイヤレスのZE3000をMusicアプリで聴き比べてみました。楽曲はアップルロスレスです。ワイヤレスではAACでしょう。
A4000(有線)とZE3000
曲を聞き比べてみると、やや音再現に違いはありますが、それほど音質レベルは差がないように感じられます。音の個性的にはやはりA3000により近い音です。強いて言うとA3000/A4000の方が中高域が強めに出ますが、ここがコーデックのせいかチューニングの違いかはわかりません。一方でヴォーカルはZE3000の方が明瞭感があって歌詞がわかりやすい感じです。音の広がりは同じくらいです。
良録音の器楽曲で比べてもZE3000は細部の解像力でも負けていないように思います。プレーヤーの演奏中のため息やハミングなどもリアルにわかります。
DACやアンプなどの電気回路が優れた良いDAPを使うとA3000/A4000ではさらに良くなり、ZE3000では電気回路がイヤフォン側固定なので差異は少ないとは思いますので、有線かワイヤレスかはDAPを併用するかスマホだけかなどの使用環境によるかもしれません。いずれにせよ同じような価格で同じような音質レベルの製品を提供できるようになったのではないかと思います。
○まとめ
ZE3000はオーディオファイルで音にうるさいという人が聴いても納得できるくらいのレベルはあると思います。いままでいくつも完全ワイヤレスイヤフォンを聴いてきましたが、音質に関しては値段に関わらずにお勧めができます。
TWS04Kでもとても良い音だと感じていたけれども、ZE3000を聴くとそれは「ワイヤレスにしては良い音」だったと気がつかされます。つまりそれが当たり前だと思い込んでいたわけです。ZE3000はE3000がエントリークラスイヤフオンのスタンダードを書き換えたように、ワイヤレスイヤフォンのスタンダードを書き換える存在になりうるかもしれません。
ヘッドフォン祭で本機が披露されてから価格を3万円くらいと考えてた人も多いと思います。実際に音を聴いて製品を手に取るとZE3000を「ANCなしですが音がいいので3万円です」と売っても全然おかしくないでしょう。高価なANC付きモデルと音質で比べたらZE3000の方が良いと思います。ANC自体も振動板で逆位相出してるので音がいいというわけでは無いでしょう。つまりANCがないからこそ良い音が出せるという点もあると思います。
もちろんANCが必要な人もいますし、ASMR向けが欲しいとか低音もりもりが欲しいという人はまた別の選択もあると思いますので、そこは製品多様性の選択だと思います。ただ低域もりもりが欲しいという人でもZE3000の低音を聞いてみると考えも変わるのではないでしょうか。ただしダイナミックなのでエージングはきっちりとしたほうが良いです。
いずれにせよE3000がそうであったように、ZE3000も聴いてもらえば違いがわかるというな音に仕上がっていると思います。
先に書いたように完全ワイヤレスは有線とは違って電気回路が入っていますから、ある意味では有線なみのワイヤレスに留まらずにワイヤレスと有線のいいとこ取りをしたような位置付けになり得ると思う。
私もワイヤレスイヤフオンだから音が悪いという図式には以前から懐疑的でした。ワイヤレスでケーブルがないなら数万円もするような高級ケーブルを買う必要はありません。スマホではなくイヤフォン内部に電気回路があるのはショートシグナルパスの極みでもあります。コーデックの問題を差し引いても本来はワイヤレスの方が音がよいのではないだろうか?とも思っていました。
final ZE3000はそうした私の長年のわだかまりを解消してくれた「ワイヤレスイヤフォンの新スタンダード」となってくれることに期待しています。
そのZE3000がいよいよ来週12月17日(金)から発売されます。本日から予約開始で、想定販売価格は15,800円(税込)です。
本稿では開発情報も交えてこの期待の製品を解説・レビューしていきます。
ZE3000という名前からはfinalユーザーならばだれしもかつての名機である「final E3000」を思い浮かべるでしょう。
finalとしてもやはりE3000には特別の思い入れがあるということです。この価格帯でこうした本格的な音造りのイヤフオンは売れないと一部では言われながらも、音は地味だが聞いてもらえればわかると発売したE3000は、SNSや口コミなどにより高評価が伝わりロングセラーとなる商品となりました。開発側としてもfinalブランドを冠するに当たって完全ワイヤレスの音のスタンダードを作りたいという思いがあったようです。
○ZE3000の特徴と技術
ZE3000はかなり細かな技術の積み重ねで開発された製品ですが、キーとなる大きな特徴は二つあります。ベント無しで音響空間の圧力を最適化する「f-Linkダンピング機構」と新設計ドライバー「f-Core for Wireless」です。
finalは音響工学や音響心理学など正しい理論から正しい開発を行おうとするスタイルのメーカーです。そこでZE3000の開発はそもそもなぜ完全ワイヤレスの音が悪いのか、それはよく言われるようなコーデックの問題なのだろうか、という根本的なところから開発をスタートさせたということ。そこでfinalではまず完全ワイヤレスイヤフォンならではの防水や形的な制約から生じる音響的な歪みの大きさという点に着目をしたそうです。
例えば防水を求められると、ドライバーの正しい動きのために不可欠なベント穴を設けるのが難しいために低域に問題が生じ、それを高域でバランスをとるので音に不自然さが出てしまう。これが完全ワイヤレスイヤフォンがみな同じような音のよくないサウンドに陥ってしまう原因ではないかと気がついたということです。そこでZE3000では内部設計に工夫をしてベント穴と同じような効果を持つチャンバー機構を設けたのがまず一つ目のポイントです。これは「f-Linkダンピング機構」と呼ばれています。
f-Linkダンピング機構
またドライバー自体にも自製が可能なfinalの強みが活かされています。私もZE3000の話を聞いたとき、はじめはAシリーズのF-Coreドライバーを搭載するのではないかと思っていたんですが、実際には完全に新設計のワイヤレス専用のドライバーが搭載されているそうです。それが新設計ドライバー「f-Core for Wireless」です。
f-Core for Wireless
ZE3000のドライバーは形式的には6mmのダイナミックドラバーですが、興味深いことにスピーカーのような独立したエッジがドライバーの振動板周囲に設けられています。このサイズでは接着剤の重さも制限となるのですが、ZE3000のドライバーではエッジがシリコン製でそれ自体が接着する機能を持っているために軽量化と振動板の動きのスムーズさが両立されているとのこと。これはこのクラスでは従来はできなかったことですが、製造方法の工夫により可能になったということです。このためにZE3000のドライバーは6mmだが実質的に9mm相当の音を出すことが可能で、歪みなく大きな低域がだせるといいます。これも他の完全ワイヤレスとの差別化できるポイントです。
このようにアコースティック設計をこだわったためにZE3000の筐体はやや大きくなっています。その装着感の改善のためにfinalではAシリーズで適用した三点支持(finalが考えるIEM型の最適解)を応用しています。角ばったデザインなのは、わざとエッジ(稜線)を作ったデザインにして持つ場合を誘導しているということです。タッチコントロールの箇所もあえて正面ではなく、その斜め後ろにしたのがポイントです。
マニュアルから
また完全ワイヤレスイヤフォンはケースが重要でもあります。ZE3000では筐体同様に人間工学的な考慮により角があるので入れやすい設計がなされています。これは形や材質などがその物自体の扱い方を説明している「アフォーダンス・デザイン」という考え方です。
ケースがポケットに入るようにした点も改良点です。これは深さに対して左右をわざと伸ばしたことで実現されているそうです。このために手で握りやすくもなっています。またよく見ると上下の線が非対称であるなど細かいところに気配りがあります。
外観としては高級カメラに見るようなきちんとした熱塗装を施したシボ塗装を適用している点でも価格を超えた高級感があります。
そしてケースは他社製のイヤーチップの装着も考慮されているとのこと。もちろん全てではないですが、可能な限りイヤーピースを入れる部分の深さや広さを取っているということです。ここはマニアックなfinalの面目躍如というところでしょう。
ZE3000ではSoCにクアルコムのQCC3040を採用していますが、このイコライザーのチューニングについてもまずドライバーユニットを仕上げて、それでできないことをEQでやるという考え方を取っているとのこと。前出したようにまずドライバーを完全に仕上げたことでこれが可能になったわけであり、イコライザーを不出来なドライバーを叩き直すために使用するのは音質を劣化させることだということです。
そしてなにより、こうした手法をとることにより有線イヤフォンではできなかったことが(電気回路と一体になった)完全ワイヤレスでは可能になるとのこと。
ZE3000の仕様は再生時間は7時間で、採用コーデックはSBC/AAC/aptX adaptiveです。付属品は充電ケース・イヤーピース5サイズ(SS/S/M/L/LL)・USBタイプC充電用ケーブルです。カラーはブラックとホワイトの二種類が用意されています。
○ZE3000のインプレッション
実際にデモ機を借りて使用させてもらいました。
*以下のインプレや写真は主に量産前モデルを使用しましたので製品版とは違う点もあるかもしれないことをお断りしておきます。
製品パッケージ
ZE3000のカラーバリエーション
ZE3000の充電機能付きのケースはとてもスリムでポケットに入れやすい形状をしています。agのTWS04Kではポータブルバッテリー付きのアイディアは良かったんですが、やや大柄で取り扱いにくかったのでこの点は助かります。
ケースと本体は表面にシボ加工が施されているので高級感があります。持った感じは軽量です。ケースは底面のUSB-C端子で充電を行います。
ag TWS04Kとの比較(手前/右がTWS04K)
ZE3000ではケースを開けると電源オンとなります。この点はケースから取り出すとオンになる「ag TWS04K」とは異なります。また充電状態表示も異なりますので、TWS04Kユーザーなどはまず説明書を軽く読むことをお勧めします。電源オフと充電開始はケースを閉めることで行います。本体はやや大柄ですが、軽量で耳へのすわりは良好です。
フェイスプレートの面積の広い部分がボタンではないので装着してから指でつまんで位置を修正しやすい点もポイントです。操作したい時は押しやすく、実際に使ってみるとこの多面体デザインは理にかなってると思います。頭を振っても外れる感じは少ないですね。
再生停止などはタッチボタンですが、いわゆるフェイスプレートではない傾いた位置にあります。いままでの完全ワイヤレスだとフェイスプレート部分にボタンがあるので耳にイヤフォンを押し込む際にボタンを押したりしてしまいがちでしたが、この形状だとそういうことは少なそうです。人間工学的にもよく考えられたデザインです。
○音のインプレッション
ZE3000のサウンドは、ぱっと一聴してすぐに他の完全ワイヤレスと違いがわかるような違いがあります。試聴中は本当にケーブルがないかを無意識に思わず何回か触りたくなりました。そのくらいは不思議な違和感すら思えます。
刺激的な成分が少なく、滑らかで豊かな厚みがあってきちんとオーディオの音がするワイヤレスイヤフォンで、TWS04Kとの違いもまずそこに気がつきます。
聴き進めるとアコースティック楽器の音がきれいなことに気がつきます。歪みなく、すっきりした端正なサウンドです。音色の違いが分かりやすく、かつ高音域などで痛みが少ない音です。
アコースティック曲でフライド・プライドの"My Funny Valentine"を聴いてみましたが、こうした生ギターとヴォーカルだけのシンプルな構成で真価が分かります。生ギターの解像力が良くて歯切れが良いと同時に痛さのある角は取れて滑らかでアナログ的です。音が芳醇な感じです。ヴォーカルは鮮明であると同時に肉質感があって女性ヴォーカルの官能的なささやきが艶かしく感じられます。全体的に音楽が豊かに楽しめるサウンドです。実のところ朝飯後にどれちょっとエージングできたかな、と軽く聴き始めたところあまりに良い鳴り方なので、もうそのまま試聴タイムになだれ込んだ感じでした。
帯域バランスは3000番の名のように整っていて自然で誇張感は少ないですね。音の広がり方は標準的な感じですが、不思議な奥行き感というか立体感があります。曲と録音を忠実に再現するスタンダードな音ですが、もちろん先に書いたように無機質的ないわゆるモニター的なサウンドではなく、有機的に音楽を楽しめるのはいままでのfinalイヤフォンらしいと思います。
高域のベルの音が極めて美しいので歪み感がとても少ないのだと思います。高音域は鮮明でいて、かつきつさがとても少なく感じられます。低域は過不足感はなく、とてもタイトで引き締まり、打撃感が今までにない感触の良さがあります。ロックやヘビメタを聞くと気持ち良いですね。ドラムスの叩きつけるような連打が気持ち良くそしてきちんとダイナミックらしく重く感じられます。低域の量感自体は十分にありますが、比べてみるとTWS04Kの方が低音が出ていてZE3000は抑え気味なのでやはり3000番台の音らしく思えますし、コンシューマブランドのagとの切り分けもできていると思います。
包み込まれるような音の広がり感も極めて良いですし、音の厚みがアンプが入ってるかのようなのもポイントです。ただZE3000に専用アンプや専用DACはないので、SoCの電気的な部分にも相当なノウハウの蓄積が秘められているようですね。そこもまずagで経験の蓄積があったからでしょう。
ワイヤレスっぽくないと同時にデジタルっぽくない音と言えば良いか。。デジタルを極めればアナログ的な滑らかさになるのかもしれませんね。
○「ワイヤレスイヤホンは有線より音が悪い」のか
最後にワイヤレス対有線イヤフォンを試してみました。finalでは開発目標として「E3000の音質を超える製品をつくりたい」ということがあったようですので、ここではあえてE3000より上位モデルのA3000/A4000を選びました。ほぼ同価格帯でありワイヤレスだからというハンデはありません。
このためまだ3.5mm端子の付いていたiPhone5を取り出してきて有線のA3000/A4000とワイヤレスのZE3000をMusicアプリで聴き比べてみました。楽曲はアップルロスレスです。ワイヤレスではAACでしょう。
A4000(有線)とZE3000
曲を聞き比べてみると、やや音再現に違いはありますが、それほど音質レベルは差がないように感じられます。音の個性的にはやはりA3000により近い音です。強いて言うとA3000/A4000の方が中高域が強めに出ますが、ここがコーデックのせいかチューニングの違いかはわかりません。一方でヴォーカルはZE3000の方が明瞭感があって歌詞がわかりやすい感じです。音の広がりは同じくらいです。
良録音の器楽曲で比べてもZE3000は細部の解像力でも負けていないように思います。プレーヤーの演奏中のため息やハミングなどもリアルにわかります。
DACやアンプなどの電気回路が優れた良いDAPを使うとA3000/A4000ではさらに良くなり、ZE3000では電気回路がイヤフォン側固定なので差異は少ないとは思いますので、有線かワイヤレスかはDAPを併用するかスマホだけかなどの使用環境によるかもしれません。いずれにせよ同じような価格で同じような音質レベルの製品を提供できるようになったのではないかと思います。
○まとめ
ZE3000はオーディオファイルで音にうるさいという人が聴いても納得できるくらいのレベルはあると思います。いままでいくつも完全ワイヤレスイヤフォンを聴いてきましたが、音質に関しては値段に関わらずにお勧めができます。
TWS04Kでもとても良い音だと感じていたけれども、ZE3000を聴くとそれは「ワイヤレスにしては良い音」だったと気がつかされます。つまりそれが当たり前だと思い込んでいたわけです。ZE3000はE3000がエントリークラスイヤフオンのスタンダードを書き換えたように、ワイヤレスイヤフォンのスタンダードを書き換える存在になりうるかもしれません。
ヘッドフォン祭で本機が披露されてから価格を3万円くらいと考えてた人も多いと思います。実際に音を聴いて製品を手に取るとZE3000を「ANCなしですが音がいいので3万円です」と売っても全然おかしくないでしょう。高価なANC付きモデルと音質で比べたらZE3000の方が良いと思います。ANC自体も振動板で逆位相出してるので音がいいというわけでは無いでしょう。つまりANCがないからこそ良い音が出せるという点もあると思います。
もちろんANCが必要な人もいますし、ASMR向けが欲しいとか低音もりもりが欲しいという人はまた別の選択もあると思いますので、そこは製品多様性の選択だと思います。ただ低域もりもりが欲しいという人でもZE3000の低音を聞いてみると考えも変わるのではないでしょうか。ただしダイナミックなのでエージングはきっちりとしたほうが良いです。
いずれにせよE3000がそうであったように、ZE3000も聴いてもらえば違いがわかるというな音に仕上がっていると思います。
先に書いたように完全ワイヤレスは有線とは違って電気回路が入っていますから、ある意味では有線なみのワイヤレスに留まらずにワイヤレスと有線のいいとこ取りをしたような位置付けになり得ると思う。
私もワイヤレスイヤフオンだから音が悪いという図式には以前から懐疑的でした。ワイヤレスでケーブルがないなら数万円もするような高級ケーブルを買う必要はありません。スマホではなくイヤフォン内部に電気回路があるのはショートシグナルパスの極みでもあります。コーデックの問題を差し引いても本来はワイヤレスの方が音がよいのではないだろうか?とも思っていました。
final ZE3000はそうした私の長年のわだかまりを解消してくれた「ワイヤレスイヤフォンの新スタンダード」となってくれることに期待しています。
2021年12月09日
アスキーに「ASMR専用をうたう「COTSUBU for ASMR」、ではASMR向けの音作りとは何か?」を執筆しました
アスキーに「ASMR専用をうたう「COTSUBU for ASMR」、ではASMR向けの音作りとは何か?」を執筆しました。
https://ascii.jp/elem/000/004/077/4077279/
https://ascii.jp/elem/000/004/077/4077279/