ワイヤレスイヤフォンは音が悪いというのは、ユーザー側もメーカー側もワイヤレスに音質なんて、という思い込みもあったかもしれません。しかしオーディオマニアブランドであるHIFIMANはそう考えませんでした。そして開発された完全ワイヤレスがHIFIMAN TWS800です。
いまや完全ワイヤレスにしては音がよいというイヤフォンはたくさんあるのですが、音がよいという意味に「オーディオマニアの要求レベル」という垣根は含まれていなかったように思います。TWS800は「オーディオマニアの要求レベル」という垣根を越えることのできる完全ワイヤレスを目指した製品です。
*特徴
1. アンプ回路をSoCとは別に搭載している
いままで完全ワイヤレスの音質のキーはSoCという統合チップに委ねられてきました。本来はワイヤレスの送受信を受け持つICですが、中にオーディオ回路であるDSPなどが含まれていて、このチューニングが音質の良否を決めていたので音質はSoCが限界となります。TWS800ではこのオーディオ回路をSoCとはセパレートされた外に内蔵ヘッドフォンアンプとして搭載しています。そのためその限界を突破することが可能です。
2. 高インピーダンスのドライバーを搭載
普通イヤフオンのインピーダンスは16オーム程度ですが、これは非力なスマホなどでも駆動できるようにした結果です。
しかしTWS800では150オームという高いインピーダンスのドライバーを採用しています。150オームという高いインピーダンスは慣らしにくいのですが、その分で高性能が期待できます。
開発者に聞くと、高いインピーダンスを採用した理由はアンプと組み合わせた際に低域と音場において高い性能を発揮できるからだといいます。つまりTWS800においてはアンプを別搭載するということによってパワーに余裕が生まれたので、高インピーダンスのドライバーの搭載が可能になったというわけです。
3. トポロジー振動板の搭載
TWS800ではドライバーの要である振動板にもポイントがあります。HIFIMANの上級機であるRE2000が採用しているナノ技術を活かしたトポロジー振動板が採用されています。これは異なるナノ素材は物性も異なるという点から振動板にナノ素材のパターンを描き、振動板の伝搬をコントロールするというものです。これにより高音域特性などの向上が見込め、音が滑らかになるという効果があるということです。
RE2000は国内では高価だが人気のある機種で、その技術を譲り受けたというわけです。
4. ユニバーサルイヤフォンのような筐体
一般の完全ワイヤレスは普通のカナル型イヤフォンのような形状かAirPodsにならった形をしていますが、TWS800の筐体は大柄でいわゆるユニバーサルイヤフォン(カスタムイヤフオンの一般向け製品)を完全ワイヤレス化したようなデザインです。これにはHIFIMANが以前手がけたRE1000カスタムイヤフォンの知見が活かされているといいます。このサイズの大きさを利用して内蔵アンプの搭載が可能となったんでしょう。
またTWS800はタッチコントロールですが、普通の完全ワイヤレスよりもフェイスプレートが大きいためにタッチがしやすくなっています。
5. イヤーピースサイズに余裕をもたせたケース
充電機能付きのケースは大柄なものですが、これは最大のイヤーピースを装着してもそのまま格納できる余裕のある大きさにしたといいます。いままでの完全ワイヤレスでは大きなイヤーピースをつけると格納できないこともあったので、これもマニアメーカーならではの視点です。
実際にSednafi ShortとXelastecのLサイズはつけたまま格納することができました。ただケースは端子部分がもう少し深い方がぴったりと充電端子がはまったのではないかと思う。
TWS800は高インピーダンスのイヤフォンを内蔵アンプでぐいぐいとドライブするイヤフォン、というわけです。TWS800の単体での再生時間は4.5時間と最新のトレンドからすると短いんですが、それだけ電力を音質の方に回しているんでしょう。(ケースと併用すると31.5時間)
* インプレ
TWS800はまずイヤーピース選びからはじまります。あとで書きますが、TWS800は高性能なこともあって、いままでの完全ワイヤレスにはないくらいイヤーピースの差が出ます。
TWS800には標準でたくさんイヤーピースがついてきますが、完全ワイヤレスなのにダブルフランジやトリプルフランジまでついてくるのがいかにもマニアックメーカーという感じがします。いろいろ変えてみたけど、ダブルフランジか白色のタイプが良いように思いましたが、自分に微妙に大きさが合わない感じだったので、やはり慣れているSednaFit系を使いました。Sednafit shortとXelastecを比べてみましたが、どちらもかなり差があってどちらもよいところがあります。Sednafit shortだと中低域がよりパワフルになって、サウンドがより個性的になります。下のインプレは主にSednafit shortで聞いてます。
Xelastecだとより中高域がクリアで鮮明に聴こえます。音がよりシャープでより細かい音が鮮明に聞こえるのでXelastecの方が高インピーダンスの高性能イヤフォンらしく聴こえるように思います。
重さは他の完全ワイヤレスよりも重いが、耳につけてみるとあまり重さは気になりません。イヤーピースがきちんと装着されていればさほど脱落を恐れなくても良いと思う。
きちんと耳に座るところはユニバーサルイヤフォンという感じの装着感の良さです。ただユニバーサルタイプでケーブルがないことに私も含めて多くの人は慣れてないと思うので、耳のポジションに入れるために装着してから少し手直しが必要となります。ケーブルが位置決めに大事だったのを再認識しますが、この辺も新鮮ではありますね。
それとTWS800の特徴としては遮音性が高いこともあげられます。おそらくフェイスプレートが金属だからだと思いますが、かなり聞こえないので店とかでは外さないといけないことも多いかもしれません。
ちなみに結構硬め(?)というかほぐれにくいタイプのイヤフォンなので、エージングはしっかりやってから聞いたほうがよいです。
試聴にはiPhone12Proを使っています。
TWS800の音質は高音質と言われる他の完全ワイヤレスよりも明らかにひとクラス違います。マニアでなくともだれでも気がつくような大きな差があります。
特に音の厚み、低音の重さと音の広がりと立体感はやはりSoCベースの電子回路では及ばないとは思いますね。まるでデジタルプレーヤーかアンプを通しているかのようです。ズドン・ドスンという重みが他の完全ワイヤレスだと、ああ低域を盛り上げているなという気がするけれども、TWS800では空気がたくさん動いている感じですね。和太鼓の連打では迫力が違い、ベースのホボーンという迫力がとても気持ち良く感じられます。
躍動感とダイナミクス、力強さはいかにも電気をふんだんに使っている感じで、再生時間が4時間というのも頷けるところです。力強さはアメリカンサウンドを彷彿とさせ、Blueminiのようなパワフルさが感じられます(開発者は違うということですが)。
TWS800の後に他の完全ワイヤレスを聴くと、かなり軽く薄く感じられます。音量の違いではないですね。iPhone直とポタアン通したくらいの差がある感じです。まあ実際にそうなんですが。
高域は透明感があり金属の音、ベルの音がきれいに響きます。低域の重さやパンチ、ドライブ感とパワー感はロックファンならくせになるでしょう。低音が重くたっぷりとあってアンプ内蔵の力強さがあるので、ロックのような音楽には好適です。他の完全ワイヤレスで聴くよりも躍動感があり体が動いてしまいます。
良録音を聴くと他の完全ワイヤレスとは一線を画する音で、良いイヤフォンとプレーヤーで聞いていた人が完全ワイヤレスで物足りないと感じていた部分を補ってくれると思う。厚みとか豊かさというところですね、そこが音楽に感動を深めてくれるポイントです。
解像力が高く、ヴォーカルがため息をつくところなどはかなりリアルに聞こえます。ひとつひとつの楽器音の明瞭感も高いです。
それとパワーに余裕があるのか、他の完全ワイヤレスよりも同じ音量を低いボリューム位置で鳴らすので、クラシックや古楽の低レベル録音で高ダイナミックレンジの良録音なんかにも良いですね。高いボリューム位置は注意が必要なほど音圧が高くなります。
普通は完全ワイヤレスでは書きませんが、TWS800ではボリュームの上げ過ぎに注意してください。それだけすごいんです。
電池の持ちは他の完全ワイヤレスより悪いですが、通勤通学や出かける時の片道には十分以上です。さすがに飛行機の長時間はもたないと思いますが。
また操作性でいうとフェイスプレートが広いのでタッチ操作は容易です。左右のユニットでダブルタップで音量の上下、トリプルタップでスキップやバックができます。
* まとめ
HIFIMANは少し前にTWS600という完全ワイヤレスイヤフォンを出してますが、通信距離という点では見るべきものがあっても音質という点では今一つでした。このTWS800はブランドらしいマニアックな音質重視の製品となっています。
多少電池の持ちは悪いけど、完全ワイヤレスの気軽さで、IEMにアンプ繋げたような広い音場と迫力、独自のパンチと躍動感が楽しめます。
端的に言うと、TWS800は高インピーダンスのドライバーを内蔵ヘッドフォンアンプで駆動する、というコンセプトの製品であり、高級イヤフォンとしてもユニークです。
TWS800は電子機器と一体型の完全ワイヤレスを逆手にとって、プラス思考で考えた製品でもあります。
販売情報は下記の通りです。これが3万円だったらかなりコスパはいいと思います。
市場予想販売価格:30,000円(税抜)
発売予定日:12月2日
完全ワイヤレスも高音質をうたう製品が増えてきました。とはいえ、ハイエンドイヤフォンを使いこなすようなオーディオマニアを満足させるレベルとなるとそこまで突き抜けたものはこれまでにはあまりありませんでした。TWS800がその壁を超える初めての製品と言えるかもしれません。完全ワイヤレスの音質のゲームチェンジャーとなるでしょう。
Music TO GO!
2020年11月25日
2020年11月10日
PW Audioの4.4mmアダプターレビュー
今回紹介するのはPW AUDIO製の4.4mmバランス出力の変換アダプターです。PW AUDIOは2010年から続く香港のオーディオメーカーで、ケーブルやアクセサリーなどを取り扱っています。国内ではサイラスが代理店となって販売しています。
こちらはサイラスのPW Audio製品ページです。
https://www.cyras.jp/97513.html
この4.4mmアダプターは4.4mmバランス出力端子を持っていないプレーヤーやアンプを4.4mm対応にするものです。今回試したものはAstell&Kern用とHUGO2用の計5機種です。
どの製品も筐体は耐久性のあるアルミ削り出しで、端子は日本ディックス製4.4mm端子を採用しています。
* Astell & Kernプレーヤー用
Astell & Kernプレーヤーの3.5mmと2.5mm端子の両方のプラグに接続します。Fはストレート型のイヤフォン端子に好適です。
どうして2.5mmと3.5mmの両方を差すかというと、バランスの信号(R+/-, L+/-)は2.5mmの方から取るんですが、グランド(G)を3.5mmのものを使うからです。普通の4.4mmケーブルは効果がないかもしれませんが、PW Audioでは外部ノイズ遮断用のシールドを採用したGNDも生きているケーブルを企画中で、そうしたグランド分離タイプのケーブルで真価を発揮するということです。
1. AK TO 4.4F ストレート型(通常モデル)
通常版と限定版の違いは外観だけではなく、内部配線も違うということです。価格は11,000円(税別)。通常版のL型は12,000円(税別)。
2. AK TO 4.4F ストレート型(秋モデル)
これはPW AUDIOが企画した限定版だそうです。価格は予価13,000円(税別)。L型は予価15,000円(税別)。
3. AK TO 4.4F ストレート型(日本限定モデル)
こちらは代理店のサイラスが企画したもので、線材もサイラスの指定になるものということです。価格は予価24,000円(税別)。L型も予価24,000円(税別)。
試聴ではCampfire AudioのSolaris2020にDITAのAWESOMEプラグを使用して、2.5mmと4.4mmを変えながらイヤフオンとケーブルは同じで聴いています。
実際に試してみると、思ったよりも音質に差はあります。2.5mm直差しから4.4mmアダプター経由に変えると少し音圧が上がって音の広がりがより広く感じます。より音に厚みも加わります。ひとレベル上の音と言ってもよいくらいでしょう。やはり4.4mmアダプタを介した方が音はいいという感じです。こうしたアクセサリーを使おうとするマニアのユーザーなら違いは大きいと感じると思います。
もともと2.5mmよりも4.4mmの方が電気的特性は上だと思いますが、このようにアダプタを介した時も効果があるのは意外です。
4.4mm(+アダプター)から2.5mmに戻すと音がやや軽くこじんまりとして、音圧が少し下がります。
通常版とJP限定版も音が違います。音の良さのレベルは同じくらいですが、JP限定版は少し明るめで多少クリアな音になっています。ただ通常盤も重みがある感じで、これは好みの違いと考えてよいかと思います。JP限定版の方がいわゆる中高域好きの日本人好みの音になっているかもしれません。
秋版も音が違いますが、やや通常盤に近い感じです。通常盤-秋版-JP限定版の順に違いがあるように思います。
実のところ聞く前は違いはあっても差は微小かと思ってたんですが、けっこう違いますね。いわゆる一旦聞いてしまうと外せなくなるというタイプのアクセサリーのように思います。このAstell&Kern用のアダプターはAKユーザーにはオススメですので、一度試してほしいと思います。
* Chord Hugo2用
これはHUGO2のプリアウトRCA出力のLとRに接続するアダプターです。「RCA to 4.4mmアダプター」と言ってもいいかもしれません。RCAはプリアウトですが、メーカーはイヤフォンをつけても聞けると言っているようなので今回はイヤフォンをつけてAK版と同じようにして試してみました。
1. HUGO2 TO 4.4 ストレート型(通常モデル)
Hugo2においては他のポートの邪魔をしないのでストレート型の方がよいかもしれません。価格は予価12,000円(税別)。通常版のL型は14,000円(税別)。
2. HUGO2 TO 4.4L L型(限定モデル)
この限定版は通常モデルとは異なる線材を使用しているということです。価格は予価24,000円(税別)。通常版のL型は24,000円(税別)。
HUGO2でも同じくDITAのAWSOMEプラグで3.5mmをHUGO2の3.5mm端子に挿した時の音と、4.4mmに変えてアダプタの4.4mm端子につけた時の音を比べました。
より広がりのある音になるのはAKと同じですが、やはりこちらはプリアウトなので差は微妙ではありますね。L型(限定モデル) はストレート型(通常モデル)に比べてAKタイプと同傾向でより明るくてクリアな音になるようです。
やはりHUGO2の方は手持ちの4.4mmを生かしたい人向け、あるいは4.4mm to 4.4mmケーブルを使ってアンプに接続したい人向けと考えたほうがよいように思います。(いま手元に4.4mm入力のアンプがないので試せませんが)
* Chord MOJO用
また今回試していませんが、このほかにMOJO用のアダプターもあります。価格は予価18,000円(税別)。