Oriolusのポータブルオーディオの新製品が7月末に発売されました。国内ではサイラスから発売されています。
ポータブルヘッドフォンアンプのBA20、ポータブルDACのBD20、そして異色のポータブルイコライザーSE02です。これらはそれぞれシンプルな単機能の製品で、組み合わせて使用します。
例えばBD20はポータブルの単体DACでアンプ機能はないため、別にポータブルアンプが必要となります。BA20はそれに好適のポータブルアンプです。このBD20とBA20の組み合わせは王道のシステムですが、ユニークなのはポータブルイコライザーのSE02といえるでしょう。これはアナロググライコのポータブル版と言えるものでいままでにはなかったユニークな製品です。SE02をBD20とBA20の組み合わせに足すことで楽しみ方が広がります。これらは小さいながらフルバランス構成の本格的なものです。
* BD20の特徴
BD20はポータブルでバッテリー方式の単体DACです。外でも使うことができます。価格はオープンですが推奨価格は47,000円です。DAC ICはESSフラッグシップのES9038proなので価格にしては立派なものですね。内部はフルバランス設計で入出力もバランス対応(4.4mm)と本格的な構成といえます。
入力はもちろんデジタルのみで、USB-C(OTG)、SPDIFです。ケーブルを選ぶことでスマートフォンやPCなどをソースとして使用できます。SPDIFは3.5mm端子を使用します。デジタル信号は768kHz/32bit(DXD含む)まで対応、DSD512まで対応と本格的なものです。入力コントロールチップはXMOSを使用。またオペアンプを交換することができるということです。
出力はアナログのみのラインアウト出力で、端子はバランス4.4mm、アンバランス3.5mmとなります。
スイッチでUSB接続において電源を供給するかどうかの切り替えができます。PCであれば供給しても良いのですが、スマホなどではオフにするべきでしょう。
電池は4時間の充電で10時間の使用ができる。重さは175gと軽量です。付属品としてUSBケーブル(USB-CとUSB-C、USB-Cとライトニング、充電用)が3本と、他のアンプ等とスタックするための粘着シートが入っています。
* BA20の特徴
BA20はアナログ入力でバッテリー方式のポータブル・ヘッドフォン・アンプです。DACは内蔵していないのでデジタルソースの場合にはBD20などと組み合わせる必要があります。あるいは他のアナログ出力のソース機器と組み合わせても良いでしょう。価格はオープンですが推奨価格は32,000円です。こちらもフルバランス構成です。
BA20はオペアンプ交換が可能なので自分で音を変えることができるのが特長です。デモ機では試していませんが、製品版には交換用のオペアンプセットが入っている(NE5534bypas、47buffer、トランジスタ、ストレート)ということです。ストレートはバイパスのことです。例えばオペアンプだけで十分な出力ができるならばバッファは不要でバイパスすれば良いでしょう。
それぞれ内部フルバランスなのでシングル(片チャンネル)オペアンプでは4つ必要となります。
音量変更はアナログ式のボリュームコントロールでアルプス製です。8時まではギャングエラー(左右の不一致)が生じるかもしれないとわざわざ書いているのが正直というか、面白い点ですね。デジタルボリュームならばギャングエラーが出にくいわけですが、ここはギャングエラーが出たとしてもあえてアナログ式のボリュームポッドを採用して音にこだわった、と読み取ることもできます。
また3段階のゲインが切り替え可能で、出力は220mW(32オーム)です。出力インピーダンスは0.2オームと低いので低インピーダンスのイヤフォンでも音がよく引き締まるでしょう。
スイッチで電源を電池から取るか外部から取るかの切り替えができます。
電池は4時間の充電で15時間の使用ができます。重さは180gとBD20と組み合わせやすいでしょう。もちろんサイズはBD20とほぼ同一です。付属品としてラインケーブル(4.4mmから4.4mm)、充電用のUSBケーブルとスタックするための粘着シートが入っています。
* SE02の特徴
このラインナップでユニークなのが、ポータブルイコライザーのSE02です。特定の周波数だけ通すバンドパスフィルターを左右別に5種類搭載しています。それぞれ63Hz, 330Hz, 1kHz, 3.3kHz, 10kHz (+/-8dB)です。いわば低域、中低域、中音域、中高域、高域といえるでしょう。また楽器の担当帯域だけではなく、弄ることで音場感とかクリアさを感覚的に変えられるということもあります。
スマホなどデジタルでこうしたイコライザーをいじる人は多いでしょうけれども、ひと昔かふた昔前にはこうしたアナログのグライコがミニコンポやラジカセなどにも搭載されて、高級機というかオーディオらしさを主張していたのを思い出します。
BCLラジオとかフラッシャー付き自転車のように昭和の日本の懐かしメカとも言えます。それを中国のメーカーがポータブル用に復活したわけです。
スイッチでイコライザのオン・オフができるので、その効果を簡単に比べることができます。ただしこのイコライザーが電源を消費するアクティブ機器なので、全てゼロ設定にしてもオンオフで音が少し変化します。これは後述します。
電池は4時間の充電で15時間の使用ができる。重さは215gと他とほぼ同じですが、ずっしりとした重みです。付属品としてラインケーブル(4.4mmから4.4mm)、充電用のUSBケーブルとスタックするための粘着シートが入っています。
* BD20+BA20の組み合わせのインプレッション
まずBD20とBA20を付属の4.4mmケーブルで接続してフルバランス構成で聴いてみます。イヤフォンはまずCampfire Audio Solarisを4.4mmバランスリケーブル(OSLOケーブル)で使います。
はじめにPCに接続してUSBで接続して、Roonを使って聴いてみます。
音の階調表現が豊かで色彩感が豊かという印象です。ヴォーカル表現に長けていて声の様々な表現がよくわかります。中音域は特に厚みがあって豊かで良いですね。無機的ではなく有機的な音です。Roonでアップサンプリングするとさらに音質があがり、据え置きかという感じになります。
低音は迫力とインパクトがありパワフルで、高域はきつさが少なくスムーズで滑らかです。低音強調など音の誇張感は少なく忠実な再生だと思いますので、後でSE02で味付けするベースには好適です。
音はわりと耳に近くライブ会場の前で聞いているような迫力があります。バランスらしいパワーがあって音の力強さで躍動的な音楽再現が楽しめます。音場の広さは標準的だけれども、奥行き感は良く深みが感じられます。
DACの音色はESSのPro系DACらしくなくドライではないですね。バーブラウンとかシーラスロジックのような感じです。たぶんDAC ICだけではなくI/V変換やDACのアナログ回路が良いのでしょう。回路が丁寧に作られた感じで音に不快なきつさや歪みが少ないですね。値段以上の高級な音がする感じです。
OSLOケーブルだと少し暖かめに出るので、イヤフォンを変えてシャープでドライな印象のあるDita Dreamでも4.4mmリケーブル(VanDen Hul)で聞いてみました。こちらはゲインを+3にします。Dreamに変えるとBD20+BA20の組み合わせが音の切れ味がとてもよく、タイトで歯切れが良いのがよく分かります。ハイスピードのジャズではスピード感が気持ち良いですね。
イヤフォンによってサウンドが変えられるという点もこの組み合わせの音が高再現性でかつ素直だからでしょう。オススメはシャープ系のハイエンドIEMよりも、スムーズ系のハイエンドIEMで聴くとより良いかもしれません。
次に付属のケーブルでiPhoneとライトニング接続してみました。思っていたよりかなり音質が良いのでちょっと驚きます。たぶんこの付属ケーブルもかなり品質が良いのではないかと思います。iPhone側はフルボリュームにすることを推奨します。
iPhoneでもPCのように力強く、誇張感は少ないが有機的な音楽再生を楽しめます。ポータブルでもかなりレベルの高い音が楽しめるでしょう。
またAstell&KernのSE020とのUSB接続もしてみました。こちらはさらに良く、かなりレベルが高い音で音の明瞭感が高く歯切れも良いですね。かなり細かい音もよく聴こえます。もちろんiPhoneよりもだいぶ音は良く、下手するとPCよりいいかもしれません。
ポータブルではこうした高品質のDAPとの組み合わせでいい音が楽しめるでしょう。
今回デモ機のためオペアンプ交換は行わなかったけれども、さらに音を変えて楽しめると思います。
ボリュームノブがもう少しスムーズに動くといいかなとは思います。もっと高級機を扱っているような感じになると思う。
3.5mmでも聞いてみたんですが、いったん4.4.mmの音を聴くともとに戻れない感じがするので、やはりこの組み合わせは4.4mmで聴くことを推奨します。
* BD20+SE02+BA20の組み合わせのインプレッション
続いてポータブルイコライザーSE02を組み入れてみました。SE02を組み入れる位置としてはBD20とBA20の間が推奨されています。
一番の懸念はイコライザーを挟むことで音質が低下することだと思いますが、バイパスとEQが手軽に切り替えられるので試してみると音の低下というのはあまり感じられません。それよりもSE02をオンにするとかえって少しではありますが音質が良くなるようにも思います。これ自体がアクティブな機器なのでなにか電気的な処理があるのかもしれません。
イコライザーのノブを使ってみると音の変化は自然で滑らかです。スライダーの動きもスムーズで、中間(0dB)にはクリック感があるのでデフォルト状態に戻しやすいのも良いですね。デジタルだと大きくプラス方向に振ると音割れが起こったりするのであらかじめゲインを下げたりするけれど、SE02では特にそうしたことは起こりません。
一番簡単な使い方の例はいわゆるベースブーストで、63Hzと330Hzをあげると爆低音が楽しめます。ヴォーカルとか音場感は1kHzとか 3.3kHzあたりをかえてみてもよいでしょう。
自然だがきちんと効くところがピュアオーディオ向けイコライザーという感じです。BD20+BA20の組み合わせの音が素直ということもあるでしょう。
デジタルイコライザーだと効果が不自然だったり、音が劣化したりと結局あまり使うことはないのですが、これなら自分の好みに音を変える面白さが味わえます。ポータブルではかさばりますが、デスクトップで使ってみると面白いでしょう。
* SE02+Oriolus1795の組み合わせのインプレッション
Oriolus 1795は4.4mmバランス出力のできるBTレシーバーです。(link)
試しにこの組み合わせもやってみました。ケーブルは付属の4.4mmを使用しています。
面白いのはBD20とBA20の組み合わせで使うよりも、ただ繋げただけで音質がよくなるということです。バッファアンプみたいな働きがあるのでしょうかね。これは先の組み合わせよりもはっきりとわかるくらいの音質差があります。音がより広がり、音に厚みが出て音が豊かになり、より高級な音の感じになります。たぶんBA300Sもこうした感じなのでしょうね。
* まとめ
BD20とBA20は王道のシンプルな組み合わせですが、SE02を加えることでマニアックな楽しみ方ができます。オペアンプを変えられるのも趣味的に楽しいでしょう。音も有機的で素直なコスパの高いものです。
この新製品を使っていて、とても久しぶりに「コンポ」という言葉を思い出しました。そこにはオーディオ機器を組み合わせる楽しみ、音を弄り回す楽しみがあったと思います。
この新製品ではオペアンプ交換したり、イコライザーで自分流設定をしたり、ポータブルでもれっきとした昔ながらの「コンポ」という感じです。オーディオを楽しみたい人向きの製品群と言えるでしょう。またフルバランスという本格的な構成で、音も良くてそれに応えてくれると思います。
ミニチュアホビー感覚にしろ、オーディオコンポの楽しみにしろ、日本がもう昭和に忘れてしまったもの、捨ててしまったものをここから感じ取れます。たぶんそれを海の向こうから眺めていただろう中国のオーディオマニアがまたこの現代のポータブルオーディオ時代に合わせて復活してくれたのは感慨深いと思いました。