HeadFiのCampfire Audio公式フォーラムで5月14日にCampfire Audioの新製品発表が行われました。同時にHeadFiのインタビューも行われてオンライン発表会という感じでした。発表されたのはAndromeda 2020,Solaris 2020,Araの3機種ですが、本稿ではAraについてレビューします。
Campfire Audioの公式スレッド
https://www.head-fi.org/threads/campfire-audio-new-iem-release.932244/
HeadFiTV動画URL
https://youtu.be/kaaxk4wrap8
他のSolaris 2020とAndromeda 2020が従来機種の改良版であるのに対してAra(えいら、えーら、またはあーら)はまったくの新機種です。名はCampfire Audioらしく星座から取られています。Araは日本ではなじみのない南天の星座で祭壇座というようです。
* Araの特徴
筐体はチタン切削のシェルで、ドライバー構成は高音域に2基、中音域に1基、そして低音域に4基のBAドライバーを搭載しています。オールBAのマルチドライバー構成ですがクロスオーバーレス設計を採用しているのが特徴のひとつです。
新ラインナップではありますが、上の動画インタビュー中でケンさんはクロスオーバーレス設計は「Andromeda Gold」から継承していて、チューニングはオーディオファイル(フラットでニュートラル)志向であり、これは「Andromeda MW10」から継承したと語っています。クロスオーバーレス設計については私がケンさんに聞いたところ、ケンさんは自らの設計哲学である"Less is more"(日本語でいうとシンプルイズベスト)によるものだと語っています。これはCampfire Audio当初から語っていますが、配線が少なく接点が少ないほど音は良いという考え方です。音響抵抗レスのTAEC設計もそういう意味では"Less is more"と言えますね。
ケンさんは以前SolarisはAndromeda(中高域の良さ)とAtlas(低域の良さ)の良いところ取りだ、と語ってくれたことがありますが、そうした過去機種の良いところをミックスして新機種に昇華させてゆくというのがひとつのCampfire Audioの開発方針の一つかもしれません。
Araパッケージ イヤチップは従来通り
Araのもうひとつの特徴は低域ドライバーが4基もあるということです。しかし、これは低域での迫力増しを狙ったものではありません。
周波数特性はHeadFi TVでJudeが測定しているように、聴覚的にもフラットで、この点からAraはMW10の延長線上にあると言えます。実際に聞いてみてもそう思います。
ではなぜ4基の低域ドライバーを搭載しているのに、2基のAndromedaよりもむしろ低域が測定的に抑え気味なのかということについてKenさんに聞いてみると、低音域で同じ音圧を得るのにドライバー数を増やしたほうが低域の質が高くなるからということです。つまり同じ音圧を得るためにドライバーの数が多いほうがひとつのドライバーあたりの負荷は軽減するのでその分音質は良くなるということでしょう。
また低域のインピーダンスをAraではさらに調整して中域をより際立たせるためということです。つまり低域の質を上げながら中域を生かすため、というわけですね。このことは実際に聞いてみて低音域の質が他のオールBA機ともハイブリッドとも一味違うことに現れていると思います。
ケンさんがいうところによると周波数特性についてさらに言えば、Araは低域というよりもむしろ中高域を重視したモデルであり、これは日本のユーザーの好みに合うのではないかと言っていました。そういう意味ではAraはAndromedaの「リブート版」という側面もあると思います。
* インプレッション
筐体は7ドライバーの割にはコンパクトで、チタンシェルが鈍い光を放ち高級感があります。やはりチタンはイヤフォンのシェルとしてはいいですね。特にこの金属パネルとビスのスパルタンなデザインにはチタンがよく似合うと思います。多少大きめの筐体だけれども、フィットは悪くありません。
音は帯域バランスが良くフラット基調で、全帯域で楽器の音色が美しいのが印象的です。歪みがなく澄んだ音ですね。楽器音の明瞭感・鮮明さが高く、はきはきとした歯切れが良い音です。音色が美しいのでいつまでも聞いていたくなる感じです。従来機種に比べてもよりクリアで明瞭感が高い音です。ここはクロスオーバーレスが効いているのかもしれませんね。
たしかにヴォーカルは鮮明で、バックの楽器とのバランスがよく取れています。フラットな帯域表現だけれども、いわゆるモニター的ではなく無機質というよりかなり躍動感と有機的な感じがある。
中高域はTAECらしい歪み感が少なく整っていて上にきれいに伸びる中高音です。それと倍音表現にも優れて、古楽器の響きがふくよかで豊かに感じられます。感度はSolarisよりもすこしならしにくいくらいです。
そしてAraの音の特徴の一つは低域の再現力です。
低域はよく抑えられていて張り出し感は少ないんですが、低音の量感は不思議と結構あるように感じます。ジャズのウッドベースはピチカートのキレが良く、十分に存在感がありながらメインのボーカルを引き立てます。よく沈んで超低域もたっぷりあるように思う。
全体にキレが良く歯切れが良くタイトで贅肉が少ない低音で、テンポのよい曲で自然と体が動く感じ。ここがポイントなんですが、聞いているとなぜかダイナミックのように躍動感を感じます。だからオールBAでCIのようなでかいウーファーがないわりにはロックによく向いています。Araの音はまるでオールBAというよりもハイブリッドのような躍動感と低域のパンチを感じるのが不思議な魅力です。ですから音圧自体は抑え気味でも低域の存在感が十分に高く感じられます。
いちばんはじめにCampfireデビュー作のLyraを聞いたときにダイナミックだけどBAのように感じたと逆に、BAだけどダイナミックのように感じる。ただダイナミックのような荒く過剰な感じの低域はなくて、整って適度なのでBAだと気がつく感じ。ダイナミックというよりもやはりハイブリッドのような音です。
いわゆるSNが高い音というか、ピアノソロがわかりやすいと思います。ピアノの低域の打鍵の打撃感が良く、だんだんと後半に強く打鍵しながら盛り上げていくような曲は特に感動的です。
この考えを確かめたかったので実際にいくつかダイナミック機とハイブリッド機と比べてもみました。Araの低域はダイナミック機より歯切れが良くBAらしくタイトで、BAよりもダイナミックのように躍動感とパンチがあります。
これもSP1000などハイエンドソースで聞いたほうが良いと思いますが、なかなか魅力的な音を持った意欲作だと思います。
* まとめ
優等生的な試聴曲を聴いてると感じるのは、音に曇りが少なく鮮明さ明瞭感、音の美しさ、歯切れの良さですが、ロックなどいろんな曲で聴き進めていくとダイナミックのようにパンチがあって、あたかもハイブリッドのように聞こえる不思議な魅力を持ったイヤフォンです。帯域特性が整っているのも良いですね。
Campfire Audioとしては新たな試みの試金石でもあり、いままでの技術の集大成的な側面もある優れたイヤフォンだと思います。