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2019年12月26日

音質志向のBTレシーバー、Oriolus 1795レビュー

Oriolus 1795はイヤフォンブランドのOriolusの開発したBluetoothレシーバーです。

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最近はストリーミング音源への移行やiPhoneでのイヤフォン端子の廃止など、ますますBluetoothを使う機会が増えていますが、流行りの完全ワイヤレスではどうしても音質的に満足できないというマニアの方々も多いと思います。そうした時には従来のイヤフォンにBluetoothレシーバーを使いますが、今度はBluetoothレシーバーに音質の良いものがあまりないというジレンマに悩まされます。

そうしたユーザーに向いているのが、この音質重視のBluetoothレシーバーであるOriolus 1795です。イヤフォンメーカーが作ったポータブルアンプっていうと、Heirのアナログ入力時代のRenditionとか、RHAのデジタル入力のDacamp 1などがありましたが、Oriolus 1795はBluetooth入力でストリーミング時代に即して良い音で聴いてほしいという提案なのでしょう。

* 特徴

Oriolus 1795はコンパクトなBluetoothレシーバーでクアルコム製Bluetoothチップを搭載してBluetooth5.0に対応しています。SBC、AACの他にLDACにも対応しているのでWalkmanユーザーにも向いています。

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最大の特徴はその高音質設計です。たいていのBluetooth機器はBTチップ内の付属品的なDACでDA変換されていて、コーデックの問題以上にそこで音質が悪くなってしまうのですが、Oriolus 1795ではBluetoothチップからデジタル信号を抜いてそれを本格的なDACでDA変換して、内蔵のアンプで増幅することで高音質を実現しています。
注目すべきはそのシグナルパスの強力さです。Bluetooth信号は普通最大でも48kHzですが、Oriolus 1795ではまず入力した信号を192kHz/24bitにアップサンプリングします。これのためにサンプル変換専用のチップであるAK4125が搭載されています。それを据え置きオーディオ機器でもよく使われる高性能DACチップであるPCM1795(名の由来)に送って高音質の音を再現します。

しかもそのあとにバランスアンプ回路があつて、4.4mm端子でバランス出力ができます。またそれとは別に3.5mm端子専用のシングルエンドアンプ回路も備えています。こんな小さな筐体にこんな本格的な設計がなされています。

この他にも機能的にはマイクを備えているので会話が可能で、NFCペアリング、ワイヤレス充電も備えています。(USB DAC機能もあるようです)
再生時間は7時間ということです。サイズは95.9x50.7x15.4mm、重さは109gです。

* インプレッション

以下はiPhone Xを組み合わせています。
本体はアルミ筐体+両面高強度強化ガラスでなかなかにきれいです。上面に開いた4.4mmバランス端子がコンパクトな筐体になかなかの迫力かあります。

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本体側面にはハードの操作キーがあります。ボリュームはiPhone側よりも細かいのでこちらで操作したほうがなめらかな音量調整ができます。
Bluetooth機器としての接続性は良く、電車で使っても特に問題になることはありません。

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音はCampfire Audio Solaris(4.4mmバランス)、Acoustune HS1670SS(3.5mm)を組み合わせてみました。

Oriolus 1795を普通のBTレシーバーと考えて聴き始めると、音が良いのにちょっと驚きます。まず音場が広くホールのように立体的に広がりのある音空間が楽しめます。ただ幅が広いだけではなく豊かで厚みがある音再現が堪能できますが、これはBluetoothイヤホンではちょっと無理な音です。また緻密で解像感が高い音で、ギターのピッキングでも単にシャープなだけでなく余韻の響きや音の厚みが美しいのも特徴的です。マルチBAのハイエンドIEMでも普通のDAPと遜色ないレベルの高い音が楽しめます。
全帯域でクリアで鮮明であり、解像力も高くハイエンドマルチBAでの音の繊細さも活かせます。加えてダイナミックドライバーでのパンチもあり躍動感もあります。

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特に4.4mmでの音は良好で、力感があって駆動力が高く感じます。音の広がりも一段と良く、バランスらしい一段レベルの高い音が楽しめます。Solarisでは音の細かさと低音のパンチがよく生かされていてハイエンドハイブリッドイヤフオンにもよく合います。
またHS1670SSとの組み合わせでは3.5mmシングルエンドでも十分以上の良好な音質が感じられます。HS1670SSの持ち前の中高域のきれいな伸びやかさの再現はもちろん、低域ではミリンクス振動板らしいパンチの良さと厚みがあって打撃音が気持ちよく深く感じられます。

iPhoneの中のロスレス音源だけではなく、ロッシーのストリーミングで聴いていても滑らかでキツさがあまりありません。ロスレス音源もBTのコーデックでいったんロッシーになるのですが、ワイヤレスとかロッシーの音は有線とかロスレスに較べるとどうしても粗くて乾いた薄い音になってしまいます。しかしこうしたソースの音がロッシーで濁っていても適切なフィルターで濾過すればきれいにできるという感じですね。
わたしみたいにiPhoneに100GB以上のロスレス音源を入れてる人も、ストリーミングオンリーという人も問題なく使えます。

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前に雑誌でレビューを書いたときにLDACでWalkmanから聴いたことがあって、その時はワイヤレスとは思えない音と思いましたが、iPhoneで聴いてもやはりワイヤレスで聴いているとは思えません。これもコーデックというよりも内蔵アンプの音質が良いからだといえるでしょう。
Oriolus 1795は単にワイヤレス化するだけのBTレシーバーとは別物で、積極的に音を良くするBT入力ポタアンと言ってほうが良いでしょう。BTレシーバーとしては音が良いと言うのでなく、十分DAC内蔵ポタアンに匹敵する音です。BTレシーバーとしては大柄かもしれませんが、DAC内蔵ポータブルアンプとしてはバランス対応をはじめ、かなりコンパクトにこれだけの音をまとめ込んだと感心します。

* まとめ

AtlasからSolarisに変えると音質の差がはっきり分かるのもイヤフォンの違いを楽しめることを示しています。せっかくハイエンドイヤホンのためにBTレシーバー使うならこのクラスの音でないともったいないと思います。いまの時代は超高性能イヤフオンに向かうベクトルと、手軽なBTワイヤレスみたいなベクトルの分断が起こっていますが、Oriolus 1795はそのジレンマを解消する良い解法になると思います。

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ハイエンドイヤホンを使ってるけど、ストリーミングやスマホ内蔵音源も生かしたいというハイエンドイヤホンユーザーにおすすめのワイヤレス機材と言えるでしょう。

posted by ささき at 16:11| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Tinker boardでHugo2のポータブルシステムを考える

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ASUS Tinker BoardとHugo2

いまでもヘッドフォンやイヤフォンを生かすための最高のDACアンプというとChord Hugo2です。ただしHugo2はDAC内蔵アンプですから音を再生するためにはソース機器であるなんらかのプレーヤーが必要となります。Hugo2は据え置きDACとしても他の機器に負けないような音質をもっていますが、やはりポータブルでも使えるソース機器を使ってポータブルシステムとして組んでみたいものです。

一番手軽なのはiPhoneなどと組み合わせてBluetoothで使うものです。ただしこれではロスレスで送ることができません。
次によく行われるのはDAP、例えばAK70などのDAPのUSB出力機能を使うものです。これはかなりの高音質で聞くことができますが、スマートフォンの操作性も生かしたいと思うことがあります。

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AK70とHugo2

そこでスマートフォンからの操作性と音質を両立するプレーヤーをシングルボードコンピュータであるASUS Tinker boardで作ってみました。
これは後にも書きますが、超小型のネットワークプレーヤーに相当するものになります。いわばポータブルのVolumio Primoのようなものを目指しています。

* Hugo2のおさらい

Hugo2は初代Hugoを継ぐ高性能のDAC内臓アンプというかアンプ内蔵DACで、バッテリーで動作するのでポータブルで使うことができます。またChord独自のパルスアレイDACを搭載してフルにその能力を引き出すことができるため、据え置き並みの音質が得られるので据え置きのDACとしてもよく使われます。これはMojoや初代Hugoでは4エレメントの制限付きパルスアレイだったのに対して、Hugo2では10エレメントのパルスアレイでフルにその能力を発揮できるからです。

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Hugo2 (右は専用スリムケースBlack)

パルスアレイDACとはなにかというと、一般的なDACではESSやAKMなどのように市場に売られている汎用品のDACチップICを買ってきてそれを使いますが、ChordではFPGAを中心に据えたより洗練されたディスクリートの独自DACを搭載しています。これはパルスアレイというユニットを並列に並べたもので、パルスアレイDACと呼ばれます。これはFPGAが独自のプログラミングができるカスタムICであるから可能なことです。

FPGAではWTAフィルターやボリューム・クロスフィードなどデジタルドメインの処理を担当します。処理の細かさであるタップ数はHugoの26,368タップから、ほぼ倍の49,152タップに向上しています。
FPGAでフィルタリングされたデジタル信号はフリップ・フロップ回路(IC)に送られてアナログ信号に変換されます。一個のパルスアレイとはFPGAの横にあるフリップフロップICと抵抗のペアです。よくChordのパルスアレイDACはFPGAをベースにしているということでFPGAチップでDA変換がおこなわれているようにも言われることがありますが、実際にはFPGAではなく、そこから出たデジタル信号をこのフリップ・フロップ回路と抵抗の組み合わせでアナログに変換します。
Hugo2では片チャンネル10個のパルスアレイ・エレメントで構成されます。HugoとMojoでは4個、DAVEでは20個です。

パルスアレイDACのポイントはスイッチング動作が入力信号と無関係で一定だということです。このことはスイッチング動作に起因するノイズフロア変動による歪を低減します。なぜかというと、音の大小は複数のパルスアレイの組み合わせですが、ひとつひとつのパルスアレイは音の大小に関わらずに単に一定のスイッチング動作をしているにすぎないからです。
ノイズフロア変動による歪というのは本来一定のはずのノイズフロアが信号入力で揺れてしまうことなので、入力信号とスイッチング動作が無関係なパルスアレイDACはこの影響を受けにくいというわけです。

また他の回路においても同時開発していた世界最高レベルDACのDAVEの技術を生かしているためにトータルの性能も大幅に向上しています。例えば初段が16FSで二段目が256FSのWTAフィルター構成は細かさであるタップ長こそ違いますがDAVEから引き継いだものですし、二段目のプログラムコードはDAVEとまったく同一だそうです。
Hugo2ではFPGAの能力をフルに発揮しているために、多彩なデジタルフィルターも搭載し、また電気的な絶縁効果も光接続並みに優れているUSB周りの設計もなされています。

* ASUS Tinker Boardとは

Tinker BoardはASUSが開発したラズベリーパイ互換のSBC(シングルボードコンピュータ)です。Tinker Boardとラズベリーパイの違いは何かというと、その設計コンセプトです。

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Timker Board(ASUSサイトより)

ラズベリーパイはもともと低年齢層や貧困層にもコンピュータを届けるというコンセプトで、とにかく安く作るという点に眼目が置かれています。たとえばUSBとネットはバスを共有しているとか、DACを搭載せずに疑似PWMみたいなことやって音を出しているとかです。ラズパイ4ではわりと改修されていますが、少し前に発覚したUSB-C設計問題も本来別々にしなければならな抵抗を共有させていたということですので、低価格第一という根っこはやはりいまも昔も変わらないと言えます。
しかしラズパイは本来のそうしたターゲット層よりももっと実用的なところで成功を収めたともいえるでしょう。それが広くマニア層にも支持された理由です。

ASUSのTinker Boardはそのラズパイの成功を踏まえて、ラズベリーパイに比べるともっと実用的なSBCを目的としています。もちろんUSBとネットは別々であり、CODEC ICが搭載され(ICとしてのCODECとはADC+DACの機能を持ったICのこと)、192/24の出力が可能です。ラズパイ3に比べるとパワーもより強力で(ラズパイ3は1.2GHzに対して1.8GHz)、メモリも倍(2GB)搭載しています。またラズパイ3と同様にWIFIとBluetoothを内蔵しています(買ったのは国内版で技適を通っています)。

Tinker BoardはSPDIFも出せます(端子はない)。ラズパイとGPIOベースで互換性を持っていて、HiFiBerryやIQaudioのHATオーディオとハード互換性があります。ただしソフトウエアやドライバはTinker Board用のものが必要です。
ただし高品質の代りにラズパイよりも高価になっています(国内価格は1万円前後)。

* Hugo2とTinker Board

そのTinker Boardの実用性の中ではオーディオもターゲットにしてあり、その証拠にVolumioは先日Primoという据え置きのネットワークプレーヤー(海外ではStreamerと呼ぶ)を開発しましたが、その中で中核に使われているSBCはラズパイではなくTinker Boardです。
つまりここではPrimoのポータブル版のようなものを作ってHugo2と組み合わせようというわけです。

Tinker Boardには初期型とSと呼ばれる改良型がありますが、ここではあえて初期型を使いました。それはSでは電源要求がより厳しくなっているので、あまりポータブルに向かないと考えたからです。初期型でも5V/2Aは必須です(Sでは3A推奨)。ちなみに据え置き前提のPrimoで使われているのはSタイプです。

以前にラズパイを使ったこうしたポータブルデバイスをよく作りましたが、Tinker Boardはかなり熱を持つのでファンと放熱板を組み合わせた金属ケースを使いました。

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ラズパイに比べると初期型でも電源要求が厳しいのでより大型のバッテリーを組み合わせました。

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ソフトウエアはVolumioのTinker Board版をインストールします。Volumioはアップサンプリングができるので、アップサンプリングしてHugo2に送ることができます。Tinker Boardはプロセッサが強力なのでVolumioのアップサンプリング機能をフルに発揮できます。

簡単にインストール手順を書くと、以下の通りです。
1. volumio for Tinker Boardをダウンロード
2. etcherなどを使ってSDにイメージを書き込み
3. Tinker Boardにイーサネットを接続
4. 同一ネット内でiPhoneかPCでhttp://volumio.localと入力
5. 以後はwizradでセットアップできます


接続はUSBケーブルを使用しています。

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操作はスマートフォンで可能で、音源はTinker BoardのUSBに入れることもできますし、Airplayを使うこともできます。
(ちなみにTinkerboardはAndroidも使えます。つまり基本ソフトをAndroidにしてVolmioの代わりにUAPPを使うとMQAコアデコードも可能になりますね)

こうして組み合わせるとたしかにかなり高品質な音で再生することができます。やはりラズベリーパイよりもだいぶ音質は高いと感じます。音の透明感が違います。こうしてポータブルでミニDAVEのようなレベルの高い音を持ち運ぶというのもなかなかポータブルオーディオ冥利に尽きます。
ただしTinker Boardと組み合わせてかさ張るシステムを持ち運ぶというのもなかなか大変ではあるので、もっと洗練されたプレーヤーがほしいところではありますね。


ちなみにケースはラズパイ用を使っています。下記のTinker Boardは初期型だと思いますが、私の購入した製品リンクはなくなっていたので、初期型を欲しい人は念のため確認したほうがよいかもしれません。
    

バッテリーとTinker Boardを接続するためには下記の短いケーブルを使用しています。



posted by ささき at 15:41| ○ PCオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする