先日ナイコムから一度は販売が終了したRHA CL750が限定数量で再度発売されました。希望小売価格は9,900円(税別)と安くエントリークラスですが、再販されるほどの魅力というのはどこにあるのでしょうか?
端的に結論を先に書くならば、CL750の魅力は150オームという高インピーダンスです。しかもそれをこの価格帯に組み合わせたとなるとあまり例はありません(一部にYUINなどの例はありますがとうの昔に絶版です)。エントリー価格帯で高インピーダンスという組み合わせが、わたしみたいに「ある筋の人」たちにはコスパがとても高い製品となりうるわけです。

* CL750の特徴: 鳴らしにくいこと
CL750はシングルのダイナミックドライバーを採用しています。最大の特徴はインピーダンスが150オームと高いことです。また感度も89dBと低めです。CL750はエントリークラスの安価なイヤフォンですが、これだけ鳴らしにくいのは珍しいことです。本来「鳴らしにくい」ということはマイナスな言葉ですが、オーティオにおいては必ずしもそうではありません。
イヤフォンの鳴らしやすさは主に電気抵抗であるインピーダンスと感度によって決定されます。昔は便利さ優先で小型なiPodや非力なMP3プレーヤーなどで聴くことが多かったので、イヤフオンには鳴らしやすさが求められてきました。
一方で感度が高すぎると不要な背景ノイズまで拾ってしまい、本来は黒く引き締まっているべきである背景がノイズで濁ってしまいます。なんとなくあまく濁って鈍った感じになるわけですね。
しかし、最近ポタアンを使うようになり、デジタルプレーヤーもきちんとした出力が取れるようになると、そうした機材を駆使する「ある筋の人」たちにはそれほど鳴らしやすさは重要ではなくなります。
そうした中で、RHA自体が2016年末にDacamp L1というポータブルアンプを発売します。その時に同時に発売されたイヤフォンがCL750と兄弟機のCL1でした。Dacamp L1は強力なDACチップを搭載するとともに可変式のゲインコントロールと高出力アンプを搭載した本格的なポータブルアンプで、それを生かすために高インピーダンスで感度も低いCL1とCL750というイヤフォンが生まれます。それまでもRHAにはMA750という機種がありましたが、CL750は単にMA750の高インピーダンスバージョンではなく、新開発のドライバーの採用やチューニングの適正化が行われています。
つまりCL750はアンプありきという前提で生まれたイヤフォンであり、それが本気をユニークな存在にしています。
* 実機のインプレッション



CL750の本体は小型でラッパのような形状をしています。このノズルの先端に向かって絞られた漏斗状のハウジング形状はエアロフォニック・ハウジングと呼ばれていて、先端にむかって流れる空気の動きを効率化するようです。ハウジング自体はステンレス製で音を端正なものにするのに一役買っていそうです。
リケーブルはできないのですが、標準ケーブルは高級そうなケーブルでシースが柔らかくタッチノイズも少ないようです。適度な摩擦があるのであまりバタバタ動かない点は良いですね。見た目的にももう少し高価な製品のように見えます。


イヤチップはシングルフランジ(傘)のシリコンラバー、ダブルフランジ、フォームと多彩に入っています。リケーブルはできないので、イヤチップで好みの音にチューニングするのがよいですね。実際に使ってみるとシングルフランジだとややきつめで音場が狭くなるので、ダブルフランジがとても良い音になりました。音は先鋭でダイナミック型なのでエージングはたっぷりした方が良いです。

まずAK380で聞いてみましたが、こうしたデジタルプレーヤーでも音量は確保できます。だいたいAK380の目盛りで120前後くらいなのでやはり高めではありますね。ちなみにイヤフォン端子のあるiPhoneでも高めですが音量を取ることはできます。
音はやや高域寄りのタイトで鮮明な音再現です。インピーダンスが高いこともあって、ノイズ感は抑えられて背景は黒くSN感も高く全体にクリアで、解像感も高く思えます。楽器音の歯切れが良く、パーカッションの打撃音が気持ちよいですね。
高音域は先鋭でやや強め、かなりシャープに感じられます。低音域は十分な量感はありますが、いわゆるコンシューマイヤホン的な低音の強調はあまり大きくはありません。その代わりに低音はパンチがあってよく締まっています。本格オーディオファイルへの掛け橋的なチューニングだと思います。
中音域ではボーカルの声は明瞭でこもり感が少ないので、歌詞もよく聞き取れます。やや高域よりの音傾向なので男声よりは女声の方が向いていると思います。
音楽的にはクラシック四重奏やジャズトリオのライブなどがよくはまると思います。ポップやロックでもベースのアタック感が良いのでたたみかけるようなドラミングを気持ちよく楽しめます。中高域よりの音傾向と低音のタイトさで、アニソンでは女性ヴォーカルがきれいに聞こえるとともにパンチのある低音が気持ち良いと思います。


デジタルプレーヤーで聞いても良い音が楽しめますが、やはりCL750が本領を発揮するのはポータブルアンプと組み合わせた時だと思います。
ポタアンのPolyとMojoを使うと一層余裕ある音を楽しめます。特に低音の力感があがり、ダイナミックでパワフルな音再現を堪能できます。
またSNが高く黒い背景はより黒いので、楽器の音やヴォーカルはそれにくっきりと浮かび上がるように聞こえます。音に余分な贅肉がなくすっきりとした端正な音再現です。
* まとめ
CL750の魅力はやはりユニークな音再現力です。それをこの価格で買えるという点がよいですね。エントリーイヤホンを買ってこもった不鮮明な音に悩んだユーザーにはよいステップアップになると思いますし、中高域よりの音を好むユーザーにも向いています。
歯切れが良いタイトな音は上級者でも魅力的で、分かる人が使いこなせばとても良いコスパでユニークな音が楽しめるでしょう。他のメーカーもこういうのを作って欲しいものですね。