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2019年01月16日

THX AAA技術を採用したFiiO X7/Q5アンプモジュールAM3Cレビュー

AM3CはFiiO X7/X7mkII/Q5用の取り外し可能なアンプモジュールです。FiiO X7/X7 mkIIはFiiOのデジタルオーディオプレーヤーの最新世代のフラッグシップ機であり、ESS社製のハイエンドDACを採用したDAPですが、アンプ部分がユーザー交換可能で様々な音を楽しめるのが特徴です。Q5はBluetoothレシーバーとUSB DAC機能を持ったポータブルアンプです(固有のUIはありません)が同様にX7用のモジュールを使うことができます。

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FiiO X7 mkIIとAM3Cモジュール

アンプモジュールではこれまでにAM2(シングルエンド中出力)、AM5(シングルエンド高出力)、AM3A(2.5mmバランス)、AM3B(4.4mmバランス)などが出ていますが、その新しいラインナップがこのAM3Cです。これはAM3Bを出してから特に日本のユーザーに4.4mmバランス端子が好評であったために開発した、4.4mmバランス端子を搭載した新しいアンプモジュールだということです。AM3Bと同様に3.5mm端子も装備しています。

* THX AAAとは

AM3Cの特徴は最近開発されたTHX AAAと呼ばれるヘッドフォンアンプ技術を採用していることです。THXは映画館に行くとドルビーとともにロゴが現れることでご存知の方も多いと思いますが、映画の音響評価をつかさどっている会社で、もとはルーカスフィルムの一部門でした。映画館で出てくるロゴはTHXお墨付きのシアターですという意味です。同様にAV機器に対してもTHXお墨付きという認証を与えてもいます。

そのTHX社がTriad Semiconductor社と共同で開発したオーディオアンプ用のICがAAA(Achromatic Audio Amplifier)です。これはTHX社の戦略によるVRなどのパーソナル製品のオーディオ面を支えるために開発されたものですが、THX社のLaurie Finchamという音響開発担当重役がオーディオマニアであったということも関係しているようです。つまりTHXと聞くと重低音とかサラウンド音響効果を思い浮かべますので、そうしたDSP的なものかと考えてしまいますが、実のところTHX AAAはHIFIオーディオ寄りのところからスタートしているヘッドフォンアンプICです。

AAAのAchromatic(アクロマティック)とは望遠鏡やカメラレンズでよく使われる単語ですが、色のにじみがないという意味です(アポクロマートも同様な意味です)。この場合オーディオでは着色感のない、あるいは高忠実度という意味で使われています。つまり原音そのままを通す技術という感じですね。
その名のように、AAAチップは低ノイズ、低歪み、そして低消費電力を特徴としています。特に歪みという点ではフィードフォワードという技術で他とは文字通り桁違いの低歪みを達成しているとのことです。「フィードフォワード」はCHORDの最新アンプのetudeでも採用されていましたね。
これは増幅のさいの歪みとして取り出した成分を最終出力で逆相で減らして歪を取るというようなもののようです。増幅としては一般的なAB級よりもバイアス電流は少なくて効率が良い(省電力)ということです。
あまり詳しい説明は私もできませんが、興味ある方にはTHXが出願しているこちらの米国特許を参照できます。
https://patents.google.com/patent/US8421531B2/en
https://patents.google.com/patent/US8004355B2/en

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AM3Cモジュール

THX AAA技術を採用したICはいくつかあるのですが、AM3CではTHXAAA-78というヘッドフォンアンプICを採用しています。これはTHX AAAファミリーではモバイル向けのFrontierというシリーズの高音質タイプのICで、DAPやポータブルヘッドフォンアンプのために開発されたものです。SN比は128dB(モジュールで)というもので、よく知られるヘッドフォンアンプICのLME49600よりも低歪みで消費電力も低くなっています。
IC単体ではなく製品としてのAM3Cでも従来品のAM3Bを超えた性能を発揮できます。AM3Bに比べるとより出力インピーダンスが低く、周波数特性がよりフラット、特に歪であるTHDはAM3Bが0.001%に対してAM3Cでは0.0008%と大幅に改善されていてTHX AAAモジュール採用の効果が表れています。
THXAAA-78は2chアンプですので、バランスアンプ回路を実現するためにAM3CにはTHXAAA-78が二基搭載されています。またAM3CはTHX社の定めた検査に合格しています。
他のヘッドフォンアンプICやTHX AAAでの各IC間の比較は下記ページにあります。
https://www.thx.com/mobile/aaa/

海外ではすでにBenchmarkやMassdropなどからTHX AAA技術を採用した据え置きヘッドフォンアンプが発売されており、Heafiなどオーディオコミュニティで高い評価を得ています。特にMassdropのコンシューマタイプのアンプですが評価としてはさまざまなアンプと比べてもやはり着色感がとても少なく、分析的でフラットな価格を超えたサウンドというものです。

もちろんアンプICだけではなく製品としての評価が必要ですので、本稿では以降AM3BやAM5など他のモジュールと比較しながらレビューしていきます。

* AM3Cと他のモジュールの比較

はじめにFiiO X7 MkIIを使いました。アンプモジュールの脱着はドライバーで簡単に行うことができます。ただしねじが小さいので紛失に注意しましょう。ドライバーは日本にはあまりないトルクスタイプです。このアンプモジュールの脱着はなかなかに精密感があって、ぴったりと嵌合します。

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アンプモジュールの脱着

AM3Cはプロトタイプを使用して試聴したので製品版とは異なるかもしれないことは注記しておきます。他は製品版です。イヤフォンはCampfire AudioのフラッグシップであるSolarisを主に使いました。まずシングルエンドの3.5mm端子を使用します。

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AM3Bモジュール

全体の音は上流がESSらしくニュートラル傾向だけれども、AM3Bではわずか暖かみを感じます。またAM3BではSolarisの豊かな低域が少しふくらみを感じます。
AM3Cではほぼ音の着色感はなく、AM3Bのシングルエンドに比べるとAM3Cでは特に低域が引き締まって低域のふくらみが少なくタイトで、帯域バランス的にもフラット感が感じられます。AM3Cのほうがより低いところまで出る感じで良質な低域ですね。

AM3Cではより音が整理されていて、一つ一つの楽器の音が聴き取りやすく感じます。透明感はAM3Bでも高いレベルにありますが、比較するとAM3Cのほうが少し透明感が高いと思います。音の広がりはAM3Bのほうが少し広く感じます。

AM3CではAM3Bに比べると粗さが減って端正な音表現になるのも気が付いた点です。例えばバロックバイオリンの中高域ではAM3Bではややきつさが感じられますが、AM3Cではスムーズできつさの少ない美しい倍音再現が楽しめます。

AM3Cは分析的だからと言って無機的というのではないですね。ただベースに迫力を求める人はAM3Bの方を好むかもしれません。端的にいうとAM3Bはやや演出的で、AM3Cはかなり忠実な音再現を感じ取れます。
AM3BとAM3Cの諸特性の比較はFiiO Japanの製品紹介ページにあります。
https://www.fiio.jp/products/amp-module/

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左:AM2、右:AM5

シングルエンドのみのAM5と比べると、パワー感ではAM5がとてもパワフルな表現であるのに対して、AM3Cは自然な再現と言えます。ハイパワータイプのAM5とイヤモニでは少し音が強すぎるかもしれないですが、その場合ではAM2を使用すると力強さは少し抑えられて聴きやすく音の締まりも切れもよいと感じられます。AM2とAM5は音的には似ていて、力強さの度合いが異なるというべきかもしれません。

次に3.5mmと同じ種類のALOケーブルで4.4mm端子に付け替えてバランスでも聴いてみました。AM2とAM5はシングルエンドのみです。
AM3Bはバランスに変えることで立体感がより際立って、3次元的に聴こえます。AM3Bはバランスで聴いたほうが音も整理されて聴きやすく洗練されて聞こえます。
バランスにおいてもやはりAM3CのほうがAM3Bよりもよりシャープでタイトな音再現を聴かせてくれます。
気が付いたのはAM3Cをバランスで聴くとパワー感が加わって力強さが感じられるようになるということです。
3.5mmで聴くとAM3Cは多少控えめな優等生的な感じですが、4.4mmバランスで聴くとAM3Cも元気でパンチがより感じられるようになります。音の歯切れもよく気持ちよく音楽を楽しめます。こうした点からAM3Cでもやはりバランス駆動の効果はあると思います。

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FiiO Q5(アンプモジュールを外したところ)

iPhoneからBluetoothレシーバーとしてQ5でもAM3BとAM3Cで聴き比べてみましたが、やはり同様な差は感じられます。やはりAM3Cのほうがよりタイトで引き締まった音が感じられます。
Q5自体はBluetoothレシーバーとしてなかなかすぐれていると思いますね。どのモジュールでも音の広がりが気持ちよく感じられます。

* まとめ

いろいろとモジュールを変えて聞いてみましたが、それぞれ個性を楽しめました。
端的にいうとAM3Bは音楽的で演出感があり、AM3C(THX)はよりHIFIで優等生的で玄人好みの音です。またAM5はパワフルな音再現を望む人に向いています。
FiiO X7/Q5のモジュラーシステムの場合は上流が同じということもありますが、音質のレベルがモジュール間で大きく違うというよりも、個性で選ぶべきかもしれません。自分はどう音楽を聴きたいかということと、イヤフォン・ヘッドフォンとの組み合わせもあるでしょう。暴れ気味のイヤフォンを手なづけるにはAM3Cが良いでしょう。
またロックファンとしてはシングルエンドだけどAM2やAM5もパンチがあって魅力的に思えました。ジャズとかクラシックではAM3Cを取ると思いますが、オーケストラ物ではAM3Bもスケール感があってよいですね。ポップではAM3Bを使いたい感じです。

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X7 mkIIブート画面

それぞれ個性があってよいのですが、客観的にレビュワーとしてどのモジュールの完成度・チューニングがもっともHIFIオーディオらしいかというと、やはりAM3Cであると思います。帯域がフラットになるということと、着色感が少なくなること、音にきつさが少なくなめらかであることなど、よくチューニングされてると思うのはTHXのお墨付きゆえかもしれません。
映画館でのTHXから想起されるようなでかい重低音だとかDSPサラウンドっぽくなるのではなく、あくまで一番ピュアオーディオ的な洗練された印象となるのがAM3Cです。低歪み、低ノイズ、低出力インピーダンスのTHX AAA技術が効いていると言えるでしょう。
AM3Cは優等生的ですが無機的というわけではなく、ジャズトリオのスピード感あふれる演奏ではリズムに乗れるし、楽器音の滑らかな再現は魅力的です。なかなかすぐれたアンプモジュールだと思います。

AM3Cは本日予約開始で、1月下旬に数量限定で発売ということです。詳しくは下記の案内をご覧ください。
https://www.fiio.jp/news/am3c/
posted by ささき at 12:03| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする