R2R2000は音質の良さで定評あるPCM1704Kをデュアルで搭載したHIFIMANのハイエンドDAPです。
製品ページはこちらです。
http://hifiman.jp/products/detail/295
R2R2000
この製品はなかなか画期的な点がいくつかあるのですが、それを説明するためにまず時間を少し巻き戻してみます。
* HIFIMANとハイレゾプレーヤーとその進歩
いまはハイレゾプレーヤー(DAP)が全盛の時代ですが、このDAPの第一号はHIFIMANのHM801というモデルでした。下記にうちのブログ記事があります。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/128041366.html
HIFIMAN HM801
これは約10年前の2009年のことです。当時はポータブルオーディオの高音質化というと、iPodにケーブルでポータブルヘッドフォンアンプを使うというのが一般的でした。しかしこの方法ではソース音源にそもそもハイレゾを扱うことができません。このHM801が画期的だったのはまずプレーヤー自体を独自のものとしてハイレゾ音源を扱えるようにしたこと、そしてDACにハイエンドオーディオなみのDAC IC(PCM1704)を採用したということです。この二点はどこのDAPでもいまでも引き継がれているハイエンドDAPの特徴であり、その嚆矢がHM801です。また、このことによってiPodに上流の音を縛られていたポータブルオーディオに新たな道を示したわけです。
このHM801は当時はHead Directという輸入オーディオショップを経営していたFang Bienによるもので、この時からHIFIMANという名称を使用しています。あまりに画期的だったので、HeadFiに入り浸っていた私はすぐさま連絡を取ったものです。
このHM801と同じPCM1704を再び採用して設計された最新のポータブルデジタルオーディオプレーヤーがR2R2000です。
この間に時は流れ、ユーザーがハイレゾファイルを再生したいためのプレーヤーだったHM801と比較すると、ユーザーが再生したい音源はいまやスマホやPCを軸としたストリーミングが主流となっています。それを反映したR2R2000は「ストリーミングプレーヤー」と呼ばれています。
R2R2000とRE2000
例えばFang CEOに聞くと中国で既にR2R2000を使用しているユーザーの80パーセントはR2R2000を高音質Bluetooth レシーバーとして使い、10パーセントがUSB DAC、10パーセントの人のみがDAPとして使用しているということです。これはストリーミングがメイン音源だからということです。それゆえに小型さがもっとも重要てあり、R2R2000ではBluetoothのコーデックに高音質のHWA(ファーウエイ提唱)を採用しています。
Bluetoothは音質が悪いと良く考えられていますが、WiFiに対して低消費電力で発生ノイズが少ないということが利点になるともR2R2000のリリースノートでは述べられています。
またDAC機能も強力であり、据え置きに負けないようポテンシャルも秘められていて、セルフパワーモードのようにスマートフォンでUSB DACとしての使い勝手も考えられています。ただし反面でデジタルプレーヤー面はR2R2000ではわりとあっさりとした形で実装されています。
わかりやすくするために先に少しまとめましたが、R2R2000は使い方という点で大きく3つに分けることができます。
1. コンパクトなDAP
2. 高音質のUSB DAC
3. HWA対応のBluetoothレシーバー
* コンパクトなR2R DAP
R2R2000はコンパクトなハイレゾプレーヤーとして使用できます。内蔵音源はないので音源はMicroSDカード(TFカード)に格納します。SDカードはスロットではなくトレイ方式を採用していて確実な固定ができ、不用意な飛び出しを防ぐことができます。その代りピンが必要なのでSIMスロットを取り出すようなピンを用意しておいたほうが良いです。再生フォーマットはFLAC、DSD、mp3、WAV、ALAC、AACなどです。
R2R(Register to Register)とはマルチビットDACの別名で、PCM1704は唯一の24bit精度のマルチビットDAC ICとして知られた高音質の代名詞でもあるDAC ICです。最近のDAC ICはデルタシグマというDSDに向いたD/A変換方式を使用しているものがほとんどですが、このマルチビットDACとはPCMに向いたD/A変換方式を採用しており、音の良いことで知られています。
すでにPCM1704は生産されていませんが、R2R2000ではこのDAC ICの新品ストックを使用して作られています。しかもPCM1704Kという選別品を採用しているとのこと。R2R2000のポイントの一つはコンパクトであるということです。これはひとつには独自OSを採用したため、消費電力を抑えることができたのでバッテリーを小型化できたということ
またPCM1704は最近のDAC ICのようにワンチップでOKというものではなく、前段や後段に手間がかかるため、このサイズで押さえたのは回路設計が優れている故と言えるでしょう。
R2R2000ではシングルタスクの独自OSを採用しています。このため、さまざまな処理が走っているスマートフォンベースのOSに比べると軽くて音楽再生に向いているという利点があります。その代りUIでのタッチ操作は簡素なものとなっています。少々変則的ですが、画面すべてがタッチできるのではなく、画面下部の矢印キーをタッチしてメニューを操作する方式になっています。
R2R2000操作画面
一方でこの軽いOSのおかげで消費電力の95%が音楽再生のために使われるため、再生時間を長くできるという利点もあります。R2R2000では高音質(HiFi)モードでも8時間程度の再生が可能ですが、さらにエコモードを用意していて50時間の再生が可能ということです。
デジタルプレーヤーの音はHIFIMANのベストセラー機ともいうべきRE2000で試聴しました。
まずとても細かな音の情報量がたっぷりと聴こえる繊細な音再現が印象的です。全体に滑らかできつさが少ないのはPCM1704のおかげかもしれません。シンプルなアカペラの曲でも平板的にならずに陰影があるのがPCM1704らしい音だと思います。
音は透明感が高く、音像がシャープで明瞭、楽器音の輪郭がくっきりとしています。
低音は力強く豊かで、ドラマやベースギターのアタックが鋭く音に深みがあります。高域は繊細で、中音域は透明感が高く豊かです。
4.4mmケーブルを用いてバランスモードで聴くと3次元的に音空間が広がり、より音に厚みが加わります。力強さも感じられます。
ゲインでかなり大きく変わるのもマニアック製品らしいところで、HIゲインを使用する際は音量に注意してください。
ゲインにSuper lowがありますが、Super Lowは4.4mmのみ使用ができます。この時はいっそう背景の黒さが増して音がより澄んで透明感高く聞こえますが、ほんとにかなり音量が小さくなるのでかなり高感度イヤフォンの時のみに使えるモードと言えるでしょう。(*ゲイン切り替えは2019/1現在のファームでは再生画面から変更できます)
ECOモードでは音が少し甘くなり、ECOモードとHIFIではずいぶん音が違うので、普通に聴く際はHIFIモードに入っているかを確認したほうが良いです。ただしECOモードでも音質はなかなか良いので飛行機など長時間使う人にはECOモードは使えると思います。(*2019/1現在のファームではECOモードは一時的に省かれているということです)
* パワフルで高音質なUSB DAC
マニアック向け製品という点ではR2R2000の本領発揮はむしろUSB DACモードかもしれません。
R2R2000ではUSB-Cポートを使用して最大384kHz、24bitの再生をサポートします。またポータブルで使われているUSB-OTGとPCからのOTGではない直接再生の両方をサポートしています。
実際R2R2000にUSBケーブルを接続してつなげると、USB DACモードをPCとモバイルで選択して選ぶことができます。
USB DACとPCでは標準ドライバーで使えます(MacやWin10最新版の場合)。この時にはプロパティを見ると384kHzがサポートされているのがわかります。
R2R2000の音の真価はプレーヤーモードよりもむしろ、大型ヘッドフォンを使用してUSB DACモードで発揮されます。ここでゲインのHIが効いてきます。普通のヘッドフォンではLOWで大丈夫です。HIは低能率の平面型ヘッドフォン向けと考えたほうが良いでしょう。
いまでは平面型ヘッドフォンは珍しくなくなってきましたが、もともとオーディオ黄金期の数十年前の技術だった平面型ヘッドフォンを現代によみがえらせた功績はAUDEZEとHIFIMANにありますが、HIFIMANはたくさんの平面型ヘッドフォンを開発していてそれに向けたものといるでしょう。
USB DACでの音は鳴らしにくさではAKG K1000と双璧のHIFIMAN HE6を使用してみました。3.5mmに変換プラグを使っています。
LOWゲインだと音量も取れないのでささやくようにしかならないが、HIゲインモードにすると5-6レベルの低い位置でもHE6で十分な音量が取れます。とてもコンパクトなDAPなんですが独特の深みのあるHE6での低域の再現性もなかなかのもので、力感もあって弱弱しくはありません。さすがにHE6向けにベストな機材とまでは言いませんが、十分使えるレベルにあると思います。実のところ久しぶりにHE6を取り出してきて、R2R2000で聴きながら改めてその音質の高さに感銘したくらいです。ちなみに普通のヘッドフォンアンプでHE6を使うと低域の再現性云々の前に音量を取ろうとしてクリップして音が割れてもおかしくありません。
後でHIFIMAN Shanglira Jrと組み合わせてラインアウトの音質も確かめたんですが、一緒に用意していたデスクトップDACよりも音質が高く驚いてしまいました。音の正確性が高くフラットで着色感が少なく据え置きDACなみの音質を聴かせてくれます。解像力も高く、静電型で聴いてもそれに負けないくらい情報量が豊富でした。ぜひラインアウトでDACとしても活用してほしいと思います。
* 高音質のBluetoothレシーバー
R2R2000にはいまの事情を反映した最新のBluetooth機能も搭載されています。R2R2000はハイレゾ・ストリーミングオーディオプレーヤーと銘打たれていますが、これはBluetoothレシーバーとしても機能ができ、Bluetoothレシーバーとしては世界初のHWA方式に対応しているからです。
最近はAptX HDとか、LDACなどBluetoothでのハイレゾストリーミングが流行りですが、このHWAもそのひとつでスマホメーカーのファーウェイによって開発されたものです。ハイレゾ伝送においてWIFIはよいように見えますが、電力消費が大きいという難点を持ちます。対してBluetoothは省電力ですが、音質に難がありました。このHWAでは従来の伝送よりもはるかに歪み率を低く抑えることができるとされています。
これはスマホ側にも対応が必要ですが、HIFIMANではiPhoneの専用アプリを用意していて、このアプリを使って再生するとHWAで伝送が可能ということです。
また専用アプリにはTIDALも対応しているため、iPhoneでTIDALを使いたいという人にも良いでしょう。
BluetoothモードにするにはSettingからBluetooth modeを選択するとペアリングモードになるので、リストからR2R2000-xxxというデバイスを選択してください。
普通のアプリからも使うことができます。
iPhoneのミュージックアプリとHIFIMANアプリをiPhone内のAAC楽曲でBluetooth経由で聴き比べても音質はHIFIMANアプリの方が良いんですが、その真価を発揮するのはロスレス音源を使用した時です。
ハイレゾやロスレスなど再生したい楽曲はiPhoneの場合はiTunesからファイル共有でWindowsやMacから格納します。
もしファイルがアプリで見つからない時は立ち上げ直したり、アルバムのunknownの項を見ると良いでしょう。
たしかに良録音音源を入れてBluetooth聞いてみるとかなりの高音質で楽しむことができます。Bluetoothで聴いているとは思えないと言ってもよいでしょう。
ショップの試聴機で試してみるときはあらかじめHIFIMANアプリをダウンロードして楽曲をスマホに入れてからお店で聴いてみてください。きっと驚くことでしょう。
R2R2000の正面と背面
* まとめ
R2R2000は単体のDAPとしてみると音質はよいのですが簡素なUIなどで少しあっさりとしたものと思えるかもしれません。しかしその真価はUSB DACやHWA対応のBluetoothレシーバーとしてスマートフォンと組み合わせることで発揮できると考えたほうが良いと思います。そうした意味ではHM801が現在のDAPの始祖となったように、R2R2000はストリーミングプレーヤーというべきものの始祖となるのかもしれません。