Music TO GO!

2018年11月20日

ユニークで高音質なダイナミック、FAudio Majorレビュー


FAudioは香港のメーカーで、もとは音響・スタジオでのエンジニアだった人々が立ち上げたメーカーです。当初はカスタムのリモールド・リシェルを行い、2016にはカスタムIEMをリリースしました。
FAudioはユニークな取り組みを行うメーカーで、マルチBA設計においてフルレンジドライバーを組み合わせて設計するTrue Crossover Technologyなど独自のアプローチが光ります。

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本稿で紹介するMajorは今年の新製品でダイナミックドライバーの高性能モデルです。ドライバーは10.5mmの大口径シングル・ダイナミックですが、FAudioらしくユニークな切り口でシングルの良さを生かしながらシングルの限界を超えるような製品に仕上げています。

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* Majorの特徴

1. トリプル・アコーステック・チャンバー

イヤフォンでは昔からエアフローが音を改善しドライバーの働きを向上させる重要な項目でしたが、最近ではアコーステック・チャンバーと呼ばれる音響空間または空気室を用いて音の改善を図る方法をよく見かけるようになってきました。Majorではこのアコーステック・チャンバーを3段階に使用して効果を高めています。

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これによってドライバーの効率を高めてより深い低域を出し、ピークやマスキングを抑えて自然な周波数特性を実現、さらに音圧疲労を軽減するなどの効果を得ています。

2. ダブルレイヤード・ダイヤフラム

音の要となるダイヤフラム(振動板)はチタニウム製のダイヤフラムと、メディカルファイバー製ダイヤフラムを二枚重ねた二重構造となっています。これによってチタニウムでの高音域の拡張し、メディカルファイバーでのトランジェント改善によりよりタイトなサウンド、明瞭なヴォーカルを再現させているということ。

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ダイヤフラムの二枚重ねというのはなかなかないですね。

3. 軍用線材のケーブル

標準ケーブルも軍用のクリスタル銅ケーブルを採用。シースもがっちりとした高級ケーブルが初めからついています。
またケーブル端子は2ピン仕様で交換可能となっています。

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4. 音を変えられるイヤチップが付属

Majorにはシリコン製の白と黒、黒のフォームの3種類のイヤチップが付属しますが、白のシリコンチップにはInstrument、黒のシリコンチップにはVocalと名前がついているのがユニークです。
これはFaudioの自社開発によるもので、中芯の音が通る部分の材質を変えることで音の個性を変えることができます。いままでもこうした試みをユーザー側でよくやっていましたが、メーカーが公式に提供するのはユニークな試みだと思います。

* 製品レビュー

Majorは黒い箱にコンパクトにパッケージングされています。中にはイヤチップを格納した内箱と、イヤフォンのソフトケースが添付され、本体は金属製のケースに収納されています。
イヤチップは先に書いたように3種類入っていてそのうちシリコンラバーチップは黒(Vocal)と白(Instrument)に分かれて各サイズが入っています。普通は装着性の違いでイヤチップがわかれているものですが、音質の違いをうたうのはなかなかユニークです。これについては音質コメントのところで触れることにします。

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筐体はCNC加工で作れたアルミニウム合金と無酸素銅サウンドチューブを採用したかなり頑丈なもので、高い工作精度が感じられます。この頑丈な筐体で共振が少ない、素材特有の音鳴りが少ないというメリットもあるそうです。

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装着してみるとアルミ製のせいかそれほどの重さは感じません。ケーブルは太めですが柔軟で余計なノイズも少ないと思います。

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まず初めにイヤチップの音の違いを書きますと、黒(Vocal)は中域の明瞭感があって声が分かりやすく、フラットでニュートラルだと思います。いわばオーディオファイルっぽい音で、比較すると音が整理されて落ち着いています。同じ音量でもinstrumentより聴覚的に低く聴こえるように思います。
白(Instrument)では低域と高域の強調感があります。いわばコンシューマライクな音で派手めです。また材質が違うせいか黒よりもややノズルにハメにくいので注意してください。
もうひとつのフォームイヤチップは他のチップが耳に合わない時の落とし所と言えますが、やや大人しくなります。やはりVocalかInstrumentのシリコンチップがMajorらしい凄みがあるのでお勧めです。
VocalとInstrumentではどちらがよいかというよりは好みや音楽、DAPで変えるのが良いと思います。

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以下の音質コメントは主に黒(Vocal)で聴きました。

まず感じるのはダイナミック・ドライバーという先入観とは異なり、BAのようなシャープで鮮明な音鳴りです。しかし聴いていくと深く厚みのある低域から、鮮明で突き抜けるように上に伸びるような高音域まで、まるでマルチBAのようなワイドレンジの広い帯域特性の良さを感じます。イヤフォンとしての能率はやや低めです。

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高音域は明るく軽く伸びる感じで、ダイナミックの粗さは感じられずBAのようなスムーズで整った高域で、中低域はダイナミックらしくたっぷりとした深みのあるインパクトの強い気持ちよさを感じます。低域は迫力とともに制動が効いててタイトでパンチがありますね。
また、中音域ではヴォーカルの再現性が素晴らしく、ささやくような細かさ、声のかすれ、発声の明瞭感、声質の再現力の良さを感じさせます。色付けは少なく、すっきりとして過剰な温かみはありません。

楽器音が鮮明でくっきり聞こえるだけでなく、整っていて歪み感が少ない点が優秀で、いわば正確なパルスレスポンスっぽく聞こえます。特に高域のベルとかはかなり歪感が少ない感じですね。

Majorはダイナミック・ドライバーのワイドレンジ感だけど、フルレンジBAのようなスムーズで端正な音が感じられます。ダイナミックドライバーの迫力もありますが、透明感とか音が整っているとかBAドライバーのような印象もする不思議な音再現に魅力を感じます。

さすがシングルドライバーというか、音場感が良く、広くて立体感が半端ないところが良いですね。
Majorのアコースティック楽器のベール剥がした生々しい鮮明さとか音の深みなど聴くとシンプルなシングルドライバー機っていいなあと思いますが、普通はシングルBAだとナロウレンジで、シングルダイナミックだとシャープさに欠けて荒いものです。しかしMajorはシングルでありながらワイドレンジの音、ダイナミックでありながらBAのような音をを両立してるのが優れていると感じます。

*まとめ

シングルダイナミックでも最近はDita DreamとかHiFiMan RE2000など優れたモデルが出てきていますが、FAudio Majorもそうしたトップクラスに加えてもよいような素晴らしい音再現性能と、個性的な音の魅力を持っていると思います。
また、イヤチップを変えることで音を二種類楽しめるのもなかなか良い点です。ちょっと電車に乗る時間が長いと、イヤチップでいろいろと音を変えながらあーでもないこーでもないと試行錯誤しながら楽しめるのもポータブルオーディオならではの楽しみですね。
MajorはFAudioらしいユニークなアプローチでトップクラスの音を実現した優れたモデルだと思います。
posted by ささき at 14:53| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月16日

MQAライブストリーミング in InterBee

幕張メッセで開催されたInterBEEの中で世界で5番目というMQAライブストリーミング配信のデモが行われました。
これは銀座の音響ハウススタジオで演奏するミュージシャンのライブを、スタジオのMQAリアルタイムエンコーダーを使ってハイレゾ配信し、幕張の会議場で再生するという試みです。
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会場にはボブスチュワート氏も登壇しました。
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音響ハウススタジオからは生演奏をMQAリアルタイムエンコーダーで192kHzで配信してそれをいったんクラウドにあげます。192/24での伝送速度は1.2MbpsということでTIDALなどのCD品質のロスレス配信よりも低いものです。幕張側ではfoobarを使用してクラウドのアドレスを打ち込んでストリーミング再生します。PCにはMeridian Ultra DACが接続されていてそれをMQAフルデコードします。アナログドメインのオーディオ再生機器はラクスマンのプリメインアンプとダイヤトーンのスピーカーでした。
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時間の13:45になるとスタジオからの声が聞こえてジャズの演奏が始まりました。再生の音質はグリッチなども全くなく、極めて滑らかで透明感の高いものでした。演奏者はピアノが清水絵理子さん、サックスが山口真文さんです。
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再生サイドではなにも特別な機器もソフトも必要なく、つまり一般家庭でもクラウドからストリーミングできるfoobarのようなソフトと、Tidalのロスレスストリーミングが可能なネット接続があれば、直接ライブハウスからハイレゾ配信がうけられるということを意味しています。
帰りがけにInterBEEを見ているとさらに4K/8Kで映像配信ができれば家庭に居ながらにしてライブハウスから演奏をそのまま届けられる時代もすぐそこでは、と感じてしまいました。まさにリスナーとアーティストの距離を縮める試みと言ってもよいでしょう。
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ちなみに下記はInterBEEでのおなじみFitEarのプロオーディオ向け展示。ヤマハのデジタルミキサーにFitEarのIEM向けのEQプリセットを提供しているという内容です。
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posted by ささき at 20:57| ○ オーディオショウ・試聴会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

フェンダーIEM新製品のインタビュー記事をPhilewebに執筆しました

先日行われたフェンダーのIEM新製品の発表会のさいにチャン・ウェイ・マー氏にインタビューを行った記事をPhilewebに書きました。
https://www.phileweb.com/interview/article/201811/16/598.html

Aurisonicsからの伝統を受け継ぎつつ、フェンダーで新展開をみせるIEMの進化、ハイブリッド形式の工夫、そしてAPEポートにいたるまで濃い目に突っ込んで聞いていますのでぜひご覧ください。写真も一部を除いて私が撮っています。しかしこの会場はフェンダーらしく絵になりますね。

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posted by ささき at 08:31| ○ 日記・雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月15日

iFI Audio製品の新デジタルフィルターGTOについて(5.3c)

iFI Audio製品では今回のファームウエアの更新(5.3c)で新しいGTOフィルターというトランジェント重視のデジタルフィルターが採用されました。これはMQA社と開発協力があったそうで、音楽を正確に再現するというフィルターです。技術的な内容は下記のページをご覧ください。
https://ifi-audio-jp.blogspot.com/2018/11/blog-post.html?m=1

適用範囲についてなのですが、上記ファームウェア更新ページのリリースノートには従来のミニマムフェイズフィルターを置き換えるとあります。しかし例えばiDSD BLではMinimum Phaseフィルターのスイッチがありますが、xDSDではありません。そこでこの辺の明確化をiFIのおなじみトルステン博士に聞いてみました。

すると5.3cを適用したファームのiFI Audio製品においては、GTOフィルターは従来のデジタルフィルターの代わりにPCM再生の際には常に動作していて、従来のフィルタースイッチの位置はPCM再生においては意味がなくなるということのようです。ただしDSDを再生する際には従来のフィルタースイッチは従来どおりの意味をもつそうです。(従来仕様のほうがよければファームウェア更新は適用しないでほしいとのこと)

また、PCMにおいても352k/384kの入力の時はGTOがかからないということです(iDSD proは除く)。それはこの領域ではアナログフィルターで十分で、デジタルフィルターはかけなくても良いということだからということです。

加えてPCMにおいてもMQA再生時にはGTOフィルターは適用されないということです。MQAのポイントは「時間的正確性」と「コンパクトさ」で、前者はデジタルフィルターによるものと考えられますが、GTOとの関連も推測するには面白いと思います(あえてそこまで突っ込んで聞きませんでしたが)。

またいままではFPGAで実現していたようなデジタルフィルター機能をXMOSで実現したのも驚きです。iFIはDSDネイティブ再生の頃からXMOSのプログラミングには長けていると思ってましたがさすがです。端的にいうとカスタムICの中でもXMOSはソフト寄りでFPGAはハード寄りです(ちなみにASICはもっとハード寄り)。
しかし、もともとハード実装するような機能がFPGAで実装され、今ではXMOSでも可能になったというのは、ムーアの法則まだまだ健在という感じですね。
posted by ささき at 09:42| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする