最近はSonos、Roon、ChromecastやAirPlay 2などのように一つのソース機器から複数の再生機器にストリーミングするマルチルーム、マルチキャスト機能が流行りつつありますが、Bluetoothでは1:1の接続しかできないことはよく知られています。完全ワイヤレスイヤフォンも片側ユニットに送ってから、そこからさらにBTないしはNFMIでもう片方に転送しているのはこの1:1制限によるものです。
しかし、BluetoothでもBTヘッドフォンを聴きながら、BTマウスやキーボードを同時に使うなどのようにひとつのスマートフォンから複数のBluetooth接続をすることはもちろん可能です。つまりオーディオにおける1:1制限はBluetoothの制限というよりも、オーディオプロファイル(ドライバー)であるA2DPの制限です。
それに興味ある取り組みをしているのが、TEMPOWです。TEMPOWは2016年に設立されたフランスのベンチャー企業(Startup)で、マルチキャストの可能なTAP(Tempow Audio Profile)というオーディオプロファイルを提案しています。TAPに対応することで最大4つまでの機器と同時に音楽再生の接続ができます。しかし再生デバイス側ではTAPの対応の必要はありません。対応が必要なのはスマホなどホスト側だけです。
TEMPOWホームページ
https://tempow.com/
TEMPOWホームページから転載
これはどういう仕組みかということをTempowのビンセント氏に少し聞いてみました。TAPはA2DP互換ですが、A2DPを直接書き換えたものではなく、スマホ側にA2DPと併存可能です。そのTAPをインストールしたスマホ側の設定で"Multi Bluetooth Audio"という設定項目があり、それを切り替えることでアプリがどのオーディオプロファイルを経由するかを選択できるということです。TAPにすれば同時に複数機器とやり取りできますが、ひとつひとつはA2DP互換ですから、再生デバイス側には対応不要というわけです。なかなかスマートな解法ですね。
現在はAndroidとLinuxだけ対応のようですが、レノボ、モトローラとパートナーシップを結んでいるようです。
ホームページを見ると完全ワイヤレスへの対応も考えられているようで、ちょっと面白そうですね。
Music TO GO!
2018年07月30日
2018年07月23日
Chordの新製品発表会
Chordは7/15の発表会で3機種を新たに発表しました。そう、2機種と言われていたのですが、サプライズで1機種が加わりました。
それらはDAVE向けパワーアンプのetude、よりデスクトップに適合したHugoTT2、そしてサプライズのHugo M scalerです。
左写真の左:Hugo TT2とToby、右:etude、奥:Blu Mk2とDave
右写真はサプライズで取り出されるHugo M Scaler
1. 新パワーアンプetude
etudeはDaveに合わせたパワーアンプを作るという発想で、Daveのプリ出力を使ってDACからダイレクトでパワーアンプにつなぐものです。クラス的には同社のChoralシリーズに相当します。
Chord etude
etudeはフランス語のstudyという意味で、文字通りDaveのトランジェントの良さと低歪に気づかされて一から作り直すということで、Daveに合わせた高速アンプのために「フィードフォーワード」という新たなトポロジーを採用しています。これはRobert Cordellという人の研究に基づくもので、従来のフィードバックループでは早い処理に追いつけないので、ループで戻すというのではなく、あらかじめ予測した補正量をモニタリングと同時に合成して歪みを打ち消すというトポロジーのようです。
Chord etude
つまり言い方を変えるとオーディオ世界にはアンプのフィードバックの功罪について議論が昔からあって、従来はNFBアンプではSNが良い(明瞭)が音が遅い(だるい)、ノンNFBアンプでは音は早い(生き生きとする)がSNが悪い(不明瞭)ということがトレードオフとして言われていましたが、このフィードフォーワードではSNが良く早いという両方の利点を持つということが言えるかもしれません。
この考え方は1986年からあるそうですが、従来は高速デジタル処理の分野の話で、オーディオでは必要ないものでしたが、Daveによってその領域に踏み込んだということを言っていました。
etudeではコンパクトアンプですが、BTLによってさらなるハイパワー化が可能です。このコンパクトさは4つの静音ファンによるものだということ。
2. Hugo TT2
Hugo TT2はHugo TTをさらにテーブルトップに向けて改良したもので、バッテリーではなく電源を持つことで、FPGAの持つ力を開放したさらなる処理能力を持ち、98304タップというDaveの半分程度というかなり高性能化がなされました。
Chord Hugo TT2とTToby
この電源はスーパーキャパシターを使うもので、素早い電流の取り出しに対応しています。
またボリュームを手前に持ってくることなどさらなる改良が図られています。またゲインを設けるなど高感度IEMに向けた対応もなされるのは最近HeadFiでも活躍するワッツならではでしょう。
Hugo TT2
発表会の写真でTT2の下の銀色はTTobyという国内未発表のアンプです。こちらは100w/chでAB級とのこと。
3. Hugo M scaler
サプライズはHugo M scalerです。この「M Scaler」という名称はこれがはじめてではなく、前にBlu MkIIが登場した時にその100万タップのデジタルフィルターをM Scalerと呼称していました。Mはミリオンのことでしょう。タップ数は処理の細かさです。
Hugo TT2の右にあるデバイスがHugo M Scaler
このHugo M Scalerを使用すれば、DaveにたいしてBlu MkIIを使用して100万タップのアップサンプラーとして使用したのと同じことができます。下記のBlu MkIIの記事もご覧ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/446340304.html
M scalerについて解説するロバートワッツ
つまりM Scalerはデジタル信号を入力し、100万タップの高精度で768kHZにアップサンプリングして、Chordの2本のBNC端子を採用しているDAC(Dave,Qutest,HugoTT2)に出力して音質を向上させるデバイスというわけです。下記のChordホームページに詳細があります。
https://chordelectronics.co.uk/product/hugo-mscaler/
Daveの16万タップに対して、M Scalerは100万タップと大幅な処理力の向上をもたらしてトランジェント・空間再現力の向上をもたらしますが、それだけデジタル回路のノイズも増えるのでDACとは別筐体のほうがよいわけです。
端的にいうと"Hugo M Scaler"とはBlu Mk2のCDドライブメカを取ったものと考えてよいです。これはロブワッツにも確認してみましたが、そうだと言ってました。ただしFPGAなども同じ(ザイリンクスXC7A200T)だそうですが、筐体や電源など厳密には異なりますので念のため。
ちなみに100万タップというのは16bitにとっても到達点であり、24bitに対してはまだまだということですので極めるとは大変なものです。
右のデバイスがHugo M Scaler
Hugo M Scalerは機能オンオフのバイパス機能があるため、ありなしの聴き比べを試聴できました。
HugoTT2のみでも自然で高精度な音ですが、Hugo M Scalerをオンにすると合唱曲のマニフィカートではより透明感が出て高域がより伸びる感じがします。ジャズのヘルゲリエンのTake5では音のエッジがよりシャープで楽器のキレが良くなり、高域の音がきれいで低域もより深く感じられます。ヴァイオリン曲では倍音の響きがより豊かに聞こえる感じです。効果はわりと高いと感じられました。
Chordの発展について語るジョンフランクス
Chordは5年前より12倍の売上規模となり、より開発に投資したいということです。今後ともまた新製品を楽しみにしたいものです。
それらはDAVE向けパワーアンプのetude、よりデスクトップに適合したHugoTT2、そしてサプライズのHugo M scalerです。
左写真の左:Hugo TT2とToby、右:etude、奥:Blu Mk2とDave
右写真はサプライズで取り出されるHugo M Scaler
1. 新パワーアンプetude
etudeはDaveに合わせたパワーアンプを作るという発想で、Daveのプリ出力を使ってDACからダイレクトでパワーアンプにつなぐものです。クラス的には同社のChoralシリーズに相当します。
Chord etude
etudeはフランス語のstudyという意味で、文字通りDaveのトランジェントの良さと低歪に気づかされて一から作り直すということで、Daveに合わせた高速アンプのために「フィードフォーワード」という新たなトポロジーを採用しています。これはRobert Cordellという人の研究に基づくもので、従来のフィードバックループでは早い処理に追いつけないので、ループで戻すというのではなく、あらかじめ予測した補正量をモニタリングと同時に合成して歪みを打ち消すというトポロジーのようです。
Chord etude
つまり言い方を変えるとオーディオ世界にはアンプのフィードバックの功罪について議論が昔からあって、従来はNFBアンプではSNが良い(明瞭)が音が遅い(だるい)、ノンNFBアンプでは音は早い(生き生きとする)がSNが悪い(不明瞭)ということがトレードオフとして言われていましたが、このフィードフォーワードではSNが良く早いという両方の利点を持つということが言えるかもしれません。
この考え方は1986年からあるそうですが、従来は高速デジタル処理の分野の話で、オーディオでは必要ないものでしたが、Daveによってその領域に踏み込んだということを言っていました。
etudeではコンパクトアンプですが、BTLによってさらなるハイパワー化が可能です。このコンパクトさは4つの静音ファンによるものだということ。
2. Hugo TT2
Hugo TT2はHugo TTをさらにテーブルトップに向けて改良したもので、バッテリーではなく電源を持つことで、FPGAの持つ力を開放したさらなる処理能力を持ち、98304タップというDaveの半分程度というかなり高性能化がなされました。
Chord Hugo TT2とTToby
この電源はスーパーキャパシターを使うもので、素早い電流の取り出しに対応しています。
またボリュームを手前に持ってくることなどさらなる改良が図られています。またゲインを設けるなど高感度IEMに向けた対応もなされるのは最近HeadFiでも活躍するワッツならではでしょう。
Hugo TT2
発表会の写真でTT2の下の銀色はTTobyという国内未発表のアンプです。こちらは100w/chでAB級とのこと。
3. Hugo M scaler
サプライズはHugo M scalerです。この「M Scaler」という名称はこれがはじめてではなく、前にBlu MkIIが登場した時にその100万タップのデジタルフィルターをM Scalerと呼称していました。Mはミリオンのことでしょう。タップ数は処理の細かさです。
Hugo TT2の右にあるデバイスがHugo M Scaler
このHugo M Scalerを使用すれば、DaveにたいしてBlu MkIIを使用して100万タップのアップサンプラーとして使用したのと同じことができます。下記のBlu MkIIの記事もご覧ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/446340304.html
M scalerについて解説するロバートワッツ
つまりM Scalerはデジタル信号を入力し、100万タップの高精度で768kHZにアップサンプリングして、Chordの2本のBNC端子を採用しているDAC(Dave,Qutest,HugoTT2)に出力して音質を向上させるデバイスというわけです。下記のChordホームページに詳細があります。
https://chordelectronics.co.uk/product/hugo-mscaler/
Daveの16万タップに対して、M Scalerは100万タップと大幅な処理力の向上をもたらしてトランジェント・空間再現力の向上をもたらしますが、それだけデジタル回路のノイズも増えるのでDACとは別筐体のほうがよいわけです。
端的にいうと"Hugo M Scaler"とはBlu Mk2のCDドライブメカを取ったものと考えてよいです。これはロブワッツにも確認してみましたが、そうだと言ってました。ただしFPGAなども同じ(ザイリンクスXC7A200T)だそうですが、筐体や電源など厳密には異なりますので念のため。
ちなみに100万タップというのは16bitにとっても到達点であり、24bitに対してはまだまだということですので極めるとは大変なものです。
右のデバイスがHugo M Scaler
Hugo M Scalerは機能オンオフのバイパス機能があるため、ありなしの聴き比べを試聴できました。
HugoTT2のみでも自然で高精度な音ですが、Hugo M Scalerをオンにすると合唱曲のマニフィカートではより透明感が出て高域がより伸びる感じがします。ジャズのヘルゲリエンのTake5では音のエッジがよりシャープで楽器のキレが良くなり、高域の音がきれいで低域もより深く感じられます。ヴァイオリン曲では倍音の響きがより豊かに聞こえる感じです。効果はわりと高いと感じられました。
Chordの発展について語るジョンフランクス
Chordは5年前より12倍の売上規模となり、より開発に投資したいということです。今後ともまた新製品を楽しみにしたいものです。
2018年07月20日
FitEarの意欲作、静電型ツィーター搭載のFitEar EST UIEMレビュー
ESTとは静電型ツイーター(Electro Static Tweeter)の略称で、FitEar ESTは形式としては静電型ツイーターとフルレンジのBAユニットのハイブリッド・イヤフォンです。FitEar ESTにはカスタムとユニバーサルがありますが、本稿はユニバーサル版(UIEM)のレビューです。
*静電型ドライバーのしくみとは
静電型ドライバーではSTAXが有名ですが、磁石による力を利用した動電型(Electrodynamic)とは根本的に異なる駆動方式で、固定電極(バックプレート)と発音体となる振動膜間に生じる静電気の吸引反発力によって振動膜を振動させるもの(静電型:Electrostatic)です。
静電型では固定電極と振動膜の間に静電気を生じさせる必要がありますが、これには2つのタイプがあります。STAXで採用される方式は外部電源ユニットから振動膜に一定の高電圧が供給されます(直流バイアス型)。振動膜に対する固定電極にはトランスで昇圧され高電圧となった音楽信号が送られ、振動膜と固定電極間に生じる静電気力の変化により振動膜が吸引反発し発音体として作動します。STAX製品では振動膜を二つの固定電極で挟む形で構成され、振動膜が片方の電極に対してはプッシュ、もう一方の電極に対してはプルの関係で動作します(プッシュプルタイプ)。
振動膜に外部から直流電圧をかける方式に対し、半永久的に電荷を蓄える高分子化合物を用いるエレクトレット方式(エレクトレット型)があります。固定電極にエレクトレット素子をもつものをバックエレクトレット方式と呼び、ダイヤフラムの材質に制限がないため特性的に有利になります。同方式の採用メリットとしては高電圧を供給する外部電源ユニットを必要とせず、音楽信号の昇圧のためのトランスのみで動作させることができる点が挙げられますが、振動膜の駆動力や再生周波数に対しては制約もあります。
FitEar ESTの場合は静電型のエレクトレットタイプで、トランス内蔵の静電型イヤフォンと言えます。このタイプは過去にはヘッドフォンではAKG K340のような採用例もありますが(こちらのうちの記事を参照)、イヤフォンのサイズに小さくしたのは例がないと思いますが、ここはかなりユニットメーカーが開発で苦心したのではと思います。
(エレクトレットタイプで外部にトランスを持つというヘッドフォンも過去にはありました)
基本的にスピーカー(イヤフォン)とマイクは向きが逆なだけでこうした原理は同じです。静電型のスピーカーの記事は少ないので、原理的に興味がある人はマイクを調べるとよいと思います。Shureではコンデンサマイクの技術があったからKSE1500が実現できたのでしょう。
ちなみに振動膜と固定電極の関係から言うとFitEar ESTで利用される静電型ツイーターはプッシュプルタイプではなくシングルタイプとなります。通常は吸引反発力の非線形性が生じますが、振動膜と固定電極の位置関係が逆となったもう一つのユニットと組み合わせて同時に動作させることでこの問題の解消とゲイン上昇を得ているということです。
*静電型ドライバーの利点とは
静電型では振動板が軽いために音が細かいとか音の立ち上がりが速いなどの利点があります。たいてい静電型では振動板の薄さが何ミクロンというところが競い合いになりますよね。
また振動個所が点となる通常のダイナミック型とは異なり、静電型の場合は振動個所は面ですから全面(平面)駆動としての良好な周波数特性も得られます。なぜかというと一点で振動板を振動させると、その点から離れた場所は振動板の物性でたわみますので、均一な振動が得られにくいからです。全面(平面)で振動すればそうした問題はなくなります。これは分割振動と呼ばれる問題です。
静電型に対して最近よく言われる平面駆動型はダイナミックタイプのものが多く、オルソダイナミックやアイソダイナミックと呼ばれます(呼び方はメーカーに寄る)。これは全面(平面)駆動としての良好な周波数特性は同じですが、振動板に磁石のためのコイルのパターンが組み込まれる必要があるために、静電型ほどは振動板を薄く軽くは作れません。
ただし静電型・直流バイアス型のような専用ドライバーは不要です。
*FitEar ESTの特徴
FitEar ESTにおいて静電型ツイーターはハイパスフィルタを介して6kHzよりも上の高音域を担当するということなので、フルレンジスピーカー&補助ツィーターの組み合わせに近いとも言えます。この形式ではほとんどの可聴帯域の音はフルレンジユニット(FitEar ESTの場合はBAユニット)で出すのですが、それを静電型ツィーターのスムーズな中高域特性(倍音特性)で補うという考え方です。
ESTの特徴としては先に書いたようにピークのないスムーズな周波数特性にありますが、その結果中・高周波数帯域において音響フィルターの利用を排することができたということです。
通常イヤモニは周波数特性のチューニングにおいて、ユニットが持つピークを抑制するために音響抵抗というメッシュのようなフィルタを音導孔にセットしていますが、これはマスクをしながら少し甲高い声で話すことで、あたかも「丁度良い」バランスに聞かせるアプローチです。
FitEar ESTはBA側には不要なピーク抑制のための音響抵抗を使用していますが、ESTドライバーの方には音響抵抗がありません。これがESTイヤフォンの鮮烈で高い透明感の高域表現の理由のひとつと言えるでしょう。
FitEar Universalで開発されたオーバルホーンステムと同様の形状のステムにはサウンドポート(音導孔の開放口)は2穴空いているように見えますが、静電型ツイーターに対してはホーン形状、BAフルレンジユニットについてはストレートな開口部形状に整形され、それぞれに独立したアコースティック条件が付与されています。
もう一つのESTのポイントはこれが密閉型だということです。
今回のステム(ノズル)がやや短いのはミドルレッグ・シェルと言われるもので、AirのようにショートレッグシェルではありませんがこれはBAとダイナミックというメインドライバの違いによるものだということです。この方式の利点の一つは耳穴の個人差を減らして、万人に最適に近い音響特性を得られるとも言います。
またこうした特殊ドライバーを採用したイヤフォンでは普通は感度が低くなりがちですが、ESTでは感度(能率)が高いのも特徴です。プレーヤーのボリュームはさほど上げる必要はありません。これは静電型ユニットをフルレンジではなくツイーターとしての用途に限定したユニット開発によるところが大きく、BAユニットとのバランスを取り、日常の音楽鑑賞利用において十分に高い能率を確保することができたということです。
* 音質について
FitEar ESTではケーブルの006ケーブルが標準でついてきます。標準でも装着感はよいと思いますが、AZLA SednaEarfitがはまって私の耳によくフィットしたのでこれを使用しました。ケーブルはメーカー推奨の006のまま使用しました。006は音に関してはよいのですが、硬いので取り回しはしずらいほうかもしれません。
FitEar EST UIEMは端的に非常に優れた音で、ハイエンドクラスの音世界を堪能させてくれます。音のレベル的に言うと、AK380では物足りずに、SP1000クラスがあいふさわしいレベルにあると思います。特に音の高い透明感と、音の抽出の細かさの点においてですね。特にSP1000CPがお勧めです。能率は高く、あまりボリュームを上げる必要はありません。
全体的な音の印象はとてもすっきりとして、周波数特性は高中低ともバランスよく思えます。ワイドレンジで特に高い方の伸びが今までのイヤフォンとは一線を画すほどのレベルだと思います。ヴァイオリンも含めてほとんどの楽器音が実のところは中音域なんですが、純粋に高音域であるベルの音の透明感の高さ、純度の高さにはハッとさせられます。
中高域の音再現力は圧倒的で、独特の高い透明感と高い解像力、輪郭のはっきりとした明瞭感の高い音像を聴かせてくれる楽器音はSP1000の音性能をいかんなく発揮して感動的です。
またそれでいてきついかというと、そうではなく、特にギターやピアノなどアコースティック楽器の音再現の自然で滑らかな点も特筆かもしれません。これは全体的な帯域バランスの良さ、ピークやディップの少ないESTの素直な特性も大きく貢献していると思います。
ただしそれなりにエージングはしっかりしたほうが良いと思います。
また優れた透明感・解像感のほかに、音空間の広がりと独特の開放感もFitEar ESTのポイントだと思います。まるで開放型のような気持ちの良い開けた音世界は透明感と相まって独特の心地よさを感じさせてくれます。
音空間の深みと濃さもとても魅力的に感じられます。
iFI Audio xDSDのようなハイパワーのDAP/アンプのシステムで聴いてもパーカッションやドラムの切れの良い打撃感が半端なく、ロックやポップスを聴いても楽しめるイヤフォンだと思います。女性ヴォーカルも透明感あふれて、感動的なほどです。
音の立ち上がりの良さも楽器音のリアルさに直結しているようで、まさに音の水道管のような音源を生で楽しめるような感覚が味わえます。
とにかくDAPやアンプが高性能なら高性能なほど良い音がどんどん飛び出してくるような楽しみがFitEar ESTにはあると思います。
* まとめ
FitEar ESTは意欲作ですが、全体的な音のバランスの良さから感じられる完成度の高さはやはり手慣れたFitEarならではのまとまりの良さも感じさせてくれます。そのベースがあって、圧倒的な透明感の高さや開放感の良さという個性の部分が際立っているのでしょう。
またFitEar ESTではESTドライバの特性の良さそのものもさることながら、ディップやピークを減らして音響フィルターを排せたというのが実のところは効果として大きいとも思えます。そうした点ではアコースティックチャンバーなどで音響フィルターレスにしたAndromedaなどの人気モデルにも通じるところはあるかもしれません。
FitEar ESTではこのESTドライバーの可能性を示してくれ、さらなる展開にも期待を持たせてくれます。個性的でこれならではの音世界を持たせしてくれるという面もありながら、そのESTという要素技術を音レベルの高さにうまく結びつけたのがFitEar ESTです。
それはこれまでにはなかったアプローチによる個性的で高性能の新しい意欲作と言えるのではないでしょうか。
*静電型ドライバーのしくみとは
静電型ドライバーではSTAXが有名ですが、磁石による力を利用した動電型(Electrodynamic)とは根本的に異なる駆動方式で、固定電極(バックプレート)と発音体となる振動膜間に生じる静電気の吸引反発力によって振動膜を振動させるもの(静電型:Electrostatic)です。
静電型では固定電極と振動膜の間に静電気を生じさせる必要がありますが、これには2つのタイプがあります。STAXで採用される方式は外部電源ユニットから振動膜に一定の高電圧が供給されます(直流バイアス型)。振動膜に対する固定電極にはトランスで昇圧され高電圧となった音楽信号が送られ、振動膜と固定電極間に生じる静電気力の変化により振動膜が吸引反発し発音体として作動します。STAX製品では振動膜を二つの固定電極で挟む形で構成され、振動膜が片方の電極に対してはプッシュ、もう一方の電極に対してはプルの関係で動作します(プッシュプルタイプ)。
振動膜に外部から直流電圧をかける方式に対し、半永久的に電荷を蓄える高分子化合物を用いるエレクトレット方式(エレクトレット型)があります。固定電極にエレクトレット素子をもつものをバックエレクトレット方式と呼び、ダイヤフラムの材質に制限がないため特性的に有利になります。同方式の採用メリットとしては高電圧を供給する外部電源ユニットを必要とせず、音楽信号の昇圧のためのトランスのみで動作させることができる点が挙げられますが、振動膜の駆動力や再生周波数に対しては制約もあります。
FitEar ESTの場合は静電型のエレクトレットタイプで、トランス内蔵の静電型イヤフォンと言えます。このタイプは過去にはヘッドフォンではAKG K340のような採用例もありますが(こちらのうちの記事を参照)、イヤフォンのサイズに小さくしたのは例がないと思いますが、ここはかなりユニットメーカーが開発で苦心したのではと思います。
(エレクトレットタイプで外部にトランスを持つというヘッドフォンも過去にはありました)
基本的にスピーカー(イヤフォン)とマイクは向きが逆なだけでこうした原理は同じです。静電型のスピーカーの記事は少ないので、原理的に興味がある人はマイクを調べるとよいと思います。Shureではコンデンサマイクの技術があったからKSE1500が実現できたのでしょう。
ちなみに振動膜と固定電極の関係から言うとFitEar ESTで利用される静電型ツイーターはプッシュプルタイプではなくシングルタイプとなります。通常は吸引反発力の非線形性が生じますが、振動膜と固定電極の位置関係が逆となったもう一つのユニットと組み合わせて同時に動作させることでこの問題の解消とゲイン上昇を得ているということです。
*静電型ドライバーの利点とは
静電型では振動板が軽いために音が細かいとか音の立ち上がりが速いなどの利点があります。たいてい静電型では振動板の薄さが何ミクロンというところが競い合いになりますよね。
また振動個所が点となる通常のダイナミック型とは異なり、静電型の場合は振動個所は面ですから全面(平面)駆動としての良好な周波数特性も得られます。なぜかというと一点で振動板を振動させると、その点から離れた場所は振動板の物性でたわみますので、均一な振動が得られにくいからです。全面(平面)で振動すればそうした問題はなくなります。これは分割振動と呼ばれる問題です。
静電型に対して最近よく言われる平面駆動型はダイナミックタイプのものが多く、オルソダイナミックやアイソダイナミックと呼ばれます(呼び方はメーカーに寄る)。これは全面(平面)駆動としての良好な周波数特性は同じですが、振動板に磁石のためのコイルのパターンが組み込まれる必要があるために、静電型ほどは振動板を薄く軽くは作れません。
ただし静電型・直流バイアス型のような専用ドライバーは不要です。
*FitEar ESTの特徴
FitEar ESTにおいて静電型ツイーターはハイパスフィルタを介して6kHzよりも上の高音域を担当するということなので、フルレンジスピーカー&補助ツィーターの組み合わせに近いとも言えます。この形式ではほとんどの可聴帯域の音はフルレンジユニット(FitEar ESTの場合はBAユニット)で出すのですが、それを静電型ツィーターのスムーズな中高域特性(倍音特性)で補うという考え方です。
ESTの特徴としては先に書いたようにピークのないスムーズな周波数特性にありますが、その結果中・高周波数帯域において音響フィルターの利用を排することができたということです。
通常イヤモニは周波数特性のチューニングにおいて、ユニットが持つピークを抑制するために音響抵抗というメッシュのようなフィルタを音導孔にセットしていますが、これはマスクをしながら少し甲高い声で話すことで、あたかも「丁度良い」バランスに聞かせるアプローチです。
FitEar ESTはBA側には不要なピーク抑制のための音響抵抗を使用していますが、ESTドライバーの方には音響抵抗がありません。これがESTイヤフォンの鮮烈で高い透明感の高域表現の理由のひとつと言えるでしょう。
FitEar Universalで開発されたオーバルホーンステムと同様の形状のステムにはサウンドポート(音導孔の開放口)は2穴空いているように見えますが、静電型ツイーターに対してはホーン形状、BAフルレンジユニットについてはストレートな開口部形状に整形され、それぞれに独立したアコースティック条件が付与されています。
もう一つのESTのポイントはこれが密閉型だということです。
今回のステム(ノズル)がやや短いのはミドルレッグ・シェルと言われるもので、AirのようにショートレッグシェルではありませんがこれはBAとダイナミックというメインドライバの違いによるものだということです。この方式の利点の一つは耳穴の個人差を減らして、万人に最適に近い音響特性を得られるとも言います。
またこうした特殊ドライバーを採用したイヤフォンでは普通は感度が低くなりがちですが、ESTでは感度(能率)が高いのも特徴です。プレーヤーのボリュームはさほど上げる必要はありません。これは静電型ユニットをフルレンジではなくツイーターとしての用途に限定したユニット開発によるところが大きく、BAユニットとのバランスを取り、日常の音楽鑑賞利用において十分に高い能率を確保することができたということです。
* 音質について
FitEar ESTではケーブルの006ケーブルが標準でついてきます。標準でも装着感はよいと思いますが、AZLA SednaEarfitがはまって私の耳によくフィットしたのでこれを使用しました。ケーブルはメーカー推奨の006のまま使用しました。006は音に関してはよいのですが、硬いので取り回しはしずらいほうかもしれません。
FitEar EST UIEMは端的に非常に優れた音で、ハイエンドクラスの音世界を堪能させてくれます。音のレベル的に言うと、AK380では物足りずに、SP1000クラスがあいふさわしいレベルにあると思います。特に音の高い透明感と、音の抽出の細かさの点においてですね。特にSP1000CPがお勧めです。能率は高く、あまりボリュームを上げる必要はありません。
全体的な音の印象はとてもすっきりとして、周波数特性は高中低ともバランスよく思えます。ワイドレンジで特に高い方の伸びが今までのイヤフォンとは一線を画すほどのレベルだと思います。ヴァイオリンも含めてほとんどの楽器音が実のところは中音域なんですが、純粋に高音域であるベルの音の透明感の高さ、純度の高さにはハッとさせられます。
中高域の音再現力は圧倒的で、独特の高い透明感と高い解像力、輪郭のはっきりとした明瞭感の高い音像を聴かせてくれる楽器音はSP1000の音性能をいかんなく発揮して感動的です。
またそれでいてきついかというと、そうではなく、特にギターやピアノなどアコースティック楽器の音再現の自然で滑らかな点も特筆かもしれません。これは全体的な帯域バランスの良さ、ピークやディップの少ないESTの素直な特性も大きく貢献していると思います。
ただしそれなりにエージングはしっかりしたほうが良いと思います。
また優れた透明感・解像感のほかに、音空間の広がりと独特の開放感もFitEar ESTのポイントだと思います。まるで開放型のような気持ちの良い開けた音世界は透明感と相まって独特の心地よさを感じさせてくれます。
音空間の深みと濃さもとても魅力的に感じられます。
iFI Audio xDSDのようなハイパワーのDAP/アンプのシステムで聴いてもパーカッションやドラムの切れの良い打撃感が半端なく、ロックやポップスを聴いても楽しめるイヤフォンだと思います。女性ヴォーカルも透明感あふれて、感動的なほどです。
音の立ち上がりの良さも楽器音のリアルさに直結しているようで、まさに音の水道管のような音源を生で楽しめるような感覚が味わえます。
とにかくDAPやアンプが高性能なら高性能なほど良い音がどんどん飛び出してくるような楽しみがFitEar ESTにはあると思います。
* まとめ
FitEar ESTは意欲作ですが、全体的な音のバランスの良さから感じられる完成度の高さはやはり手慣れたFitEarならではのまとまりの良さも感じさせてくれます。そのベースがあって、圧倒的な透明感の高さや開放感の良さという個性の部分が際立っているのでしょう。
またFitEar ESTではESTドライバの特性の良さそのものもさることながら、ディップやピークを減らして音響フィルターを排せたというのが実のところは効果として大きいとも思えます。そうした点ではアコースティックチャンバーなどで音響フィルターレスにしたAndromedaなどの人気モデルにも通じるところはあるかもしれません。
FitEar ESTではこのESTドライバーの可能性を示してくれ、さらなる展開にも期待を持たせてくれます。個性的でこれならではの音世界を持たせしてくれるという面もありながら、そのESTという要素技術を音レベルの高さにうまく結びつけたのがFitEar ESTです。
それはこれまでにはなかったアプローチによる個性的で高性能の新しい意欲作と言えるのではないでしょうか。
2018年07月19日
Net Audio Vol31に執筆しました
本日発売のNet Audio Vol31に「ファイルとディスクの共存術」ということでMQA-CDの記事を書きました。
MQA-CDとはなにかということから、ケース別の使い方についてまで広範囲にまとめていますので、ぜひご購入の上でご一読ください。
MQA-CDとはなにかということから、ケース別の使い方についてまで広範囲にまとめていますので、ぜひご購入の上でご一読ください。
2018年07月18日
PhilewebにDita Audio fealty/Fidelityの記事を執筆しました
PhilewebにDita Audioの"Twins"、FidelityとFealtyの記事を書きました。写真も私が撮ったものです。
Twinsコンセプトの開発秘話から、Twinsの技術、そして音源によるそれぞれの使い分けまで詳細に書きましたので下記リンクからご覧ください。
https://www.phileweb.com/review/article/201807/18/3093.html
Twinsコンセプトの開発秘話から、Twinsの技術、そして音源によるそれぞれの使い分けまで詳細に書きましたので下記リンクからご覧ください。
https://www.phileweb.com/review/article/201807/18/3093.html
2018年07月07日
ポタ研夏 2018レポート
今日は恒例のポタ研を見てきました。はじめよりも後になってからの方が混んで来たのは、みな慣れてゆっくり来ているからのようです。
今日けっこう気になったのはこのiFI AudioのxDSD/micro用の新しいケーブルです。これはあのAudioQuestのDragonTail(左)と同等以上の音質あるのに驚きます。また取り回しはより柔らかいですね。iFI Audio持ってる人は要注目かと思います。
アユートさんではSE100を中心に展開してました。これはヨーロッパでは有名なムシューシャというキャラとのSE100コラボとのこと。
ミックスウエーブの展開するF・Audioのフラッグシップ。ここはフルレンジのBAでまず音を作って、ドライバーを増やすごとに弱いところにBAを足すという考え方とのこと。透明感が高く、ちょっと独特な空間の広がりがありますね。
Colorflyの流れをくむLUXURY & PRECISIONのLP5の特別版。L6などL系統は完全ポータブルでLP系は据え置きも念頭に入れてるとのこと。
聴いてみると音に細かさだけではなく、深みがあって高級パーツを使ったアナログ回路の設計の良さを感じさせてくれます。
Complyが輸入するInEarz(インイヤーズ)というカスタムイヤフォン(Nirvana)のデモユニット。ADELモジュールが付いてますね。
ADELモジュールついてるユニットらしく音の独特の開放感というか立体的な広がりが良い感じで、スケール感があります。
A2PさんのSTAXポータブル真空管アンプの完成品。真空管らしく音色がきれいで、意外と低域もしっかり出てます。音が速くキレが良いという静電型の良さもちゃんと出てると思いますね。
ファイナルで売り切れのLab4がシンガポールでストックが見つかったそうです。興味ある人はJabenジャパンへ。
ファイナルのE4000(クロ)とE5000(シロ)。さすがの良い出来ですが、私にはE4000の方がE3000の上位バージョンで、E5000はE2000の上位バージョンに思えました。ケーブルのせいかもしれませんが、E5000はちょっと演出系気味かもしれません。
今日けっこう気になったのはこのiFI AudioのxDSD/micro用の新しいケーブルです。これはあのAudioQuestのDragonTail(左)と同等以上の音質あるのに驚きます。また取り回しはより柔らかいですね。iFI Audio持ってる人は要注目かと思います。
アユートさんではSE100を中心に展開してました。これはヨーロッパでは有名なムシューシャというキャラとのSE100コラボとのこと。
ミックスウエーブの展開するF・Audioのフラッグシップ。ここはフルレンジのBAでまず音を作って、ドライバーを増やすごとに弱いところにBAを足すという考え方とのこと。透明感が高く、ちょっと独特な空間の広がりがありますね。
Colorflyの流れをくむLUXURY & PRECISIONのLP5の特別版。L6などL系統は完全ポータブルでLP系は据え置きも念頭に入れてるとのこと。
聴いてみると音に細かさだけではなく、深みがあって高級パーツを使ったアナログ回路の設計の良さを感じさせてくれます。
Complyが輸入するInEarz(インイヤーズ)というカスタムイヤフォン(Nirvana)のデモユニット。ADELモジュールが付いてますね。
ADELモジュールついてるユニットらしく音の独特の開放感というか立体的な広がりが良い感じで、スケール感があります。
A2PさんのSTAXポータブル真空管アンプの完成品。真空管らしく音色がきれいで、意外と低域もしっかり出てます。音が速くキレが良いという静電型の良さもちゃんと出てると思いますね。
ファイナルで売り切れのLab4がシンガポールでストックが見つかったそうです。興味ある人はJabenジャパンへ。
ファイナルのE4000(クロ)とE5000(シロ)。さすがの良い出来ですが、私にはE4000の方がE3000の上位バージョンで、E5000はE2000の上位バージョンに思えました。ケーブルのせいかもしれませんが、E5000はちょっと演出系気味かもしれません。