Music TO GO!

2017年12月31日

2017年振り返り

今年もまずMQAのソフトウエアデコード、Chord Polyの発表などのCESニュースから始まりました。

MQAについては、のちに5月にMQA-CDでまた話題となりボブスチュワートに直接あって、MQAについて聞く機会を得ました。頭のきれる落ち着いた英国紳士という印象の人でした。話についていくのが大変で、英語で話していると頭が痛くなってきました(笑) Philewebのインタビュー記事もご覧ください。
MQAにかんしては「オリガミによる軽量化」と「時間的ブレの低減による高音質化」の二つの側面があるのですが、個人的には前者の方に今年は目を向けていました。MQAについてはなんだかんだとひとつのフォーマットとして定着してきた感はありますね。感覚的に当初の否定感も少なくなってきたようには思います。来年こそはTIDALがなんとか日本で入ってくれれば、さらに注目されることでしょう。
LINNはMQA批判もしていますが、こちらもいままで冷ややかだったDSDに今年対応したりしているので意外とMQAもやるのかもしれません。
今年はPCオーディオとしてはWindowsでクラス2ドライバーのサポート(4月頃)がはいったりしましたが、MQA以外に大きなトレンドがないのも事実ではありますね。

Polyについてはのちにアユートさんの発表会でHugo2とともにロバートワッツ、ジョンフランクス、そしてラジブとあつていろいろと話を聴きました。Philewebにインタビュー記事を載せていますのでそちらもご覧ください。
ロバートワッツからは直々にパルスアレイDACの説明をうけて、なんとかそれを記事にしました。パルスアレイDACについてはいままでよく言われてきましたが、あまりわかりやすく、基本的な解説はなかったと思います。
ロバートワッツはやはり知的で落ち着いていますが、とても情熱的な人です。ジョンフランクスはきちんとしたビジョンを描いて膨らませる人で、ジョンフランクスがジョブズ的、ワッツがウォズ的とChordはよいコンビネーションに思えます。

iFIのトルステンともヘッドフォン祭のときにまたちょっと話ししましたが、こちらはもっと饒舌で陽気な感じでしょうか。トルステンに前にインタビューした時は英国オーディオの伝統的な技術(ミッドサイドステレオ)を採用していると誇らしく語っていました。

今年は英国オーディオ開発者とけっこう縁がありましたが、それも豊かな歴史ありきだと思います。第二次大戦中もっとも電子技術が優れてたのはレーダー技術みてもやはりドイツより英国の方が一歩先で優れてましたですからね。そこからの積み重ねがあります。(ちなみに日本は八木アンテナがそのまま英語になったように、実は大戦「前」は進んでたんですが、大戦「中」にダメだったのは国の無理解によるものです)
歴史にテーマを当てた英国オーディオ史も面白いかもしれません。

英国と言えばRoonもそうです。今年はRoonは1.3、1.4にバージョンアップしました。1.3ではDSPがはいってヘッドフォンでも使いやすくなり、1.4ではiOSの出力対応がなされています。Roonってラズパイから、IOS機器、ハイエンドオーディオまで対応範囲が広いというのがポイントですね。PolyでもRoon対応しています。

人物でいうと、今年はWestoneのカートライト兄弟のBAカスタムIEMはじまり物語を書いて始まり、今年の最後もカートライト兄弟のES80インタビューで締めたっていう感じです。Westoneは人気の有名ブランドですが、その音の中核にいた彼らのことはあまり知られてなかったと思います。しかしカートライト兄弟にあって話を聞いてみると、Westoneの良さというものがよりよくわかってきました。
海外のイヤフォン開発者では日本ではジェリーハービーが有名ですが、Westoneのカートライト兄弟もイヤフォンの歴史における重要度では引けを取りませんので、ぜひ注目していてください。
会う前は堅いようにおもってましたが、実際にあってみるとユーモラスで、アメリカのやんちゃ兄弟がそのまま大きくなったという感じです。インタビューしていても互いにふざけあって面白いんです。

製品的にはAstell & Kernの待望の新フラッグシップであるSP1000が大きいですね。年末に詳細レビュー記事をアップしましたが、AK380とくらべても音質の向上はかなり大きいと思います。
イヤフォンとしてはやはりDita Dreamでしょうね。ダイナミックの頂点を極めたような製品ですが、次の一手も楽しみです。Dita Audioのダニーはヘッドフォン祭であったときに、これからはユーザーの好みによる選択をいかしたツインズコンセプトを言ってました。これは"ウイザード"モールトンのリファレンス/ミュージックの二本立てコンセプトにも似ているのかも知れません。
今年はUMの製品が多く、多種多様に展開されてうちでも多数レビュー記事があります。Campfire Audioも順調に進展し、今や新興メーカーとは呼べません。中核メーカーの一つで常に新製品が待ち望まれて、話題となってます。

今年の話題の完全ワイヤレスは年頭にEratoの新機種をレビューしましたが、今年はAirPods人気の影響もあり、フォローが追いつかないほどたくさんの機種が出て、国産でも昨年のONKYOだけではなく、SONYも出してきました。
NFMIなんかも2016年は予備学習のために調査しておいた(下記リンク)ような感じでしたが、今年はまじめに採用機種が増えてきました。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/440014833.html
元祖BRAGI Dashなんかも日本市場に出てきました。この分野はますます活発化するでしょうね。

私は毎朝BandcampのSNSと新譜チェックをしているので基本的にほぼ毎日iPhoneでBluetoothも使うのですが、最近iPhoneのBT周りオーディオ周りがアップデートのリストにはなくてもいろいろ手が加えられ動作が変わっているように思えます。音自体も少し変わった気がしますね。来年もなにかとこの辺の話題には事欠かないと思います。

最後に今年も巨星ミュージシャンがなくなり、記事で書いたジョンウエットン他にアランホールズワース、グレッグオールマン、ホルガーシューカイ、トムペティなどもなくなりました、哀悼の意を表します。

また来年もCESのウォッチから始まると思いますが、当ブログをよろしくお願いします。
posted by ささき at 11:29| ○ 日記・雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月26日

Westone ES80カスタム レビュー

ES80はWestoneの新しいフラッグシップとなるカスタムイヤフォンで、W80同様に8つのドライバーを採用しています。それぞれ4つが高音域、2つが中音域、2つが低音域を担当する3Way方式です。

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W80同様にALOの高品質ケーブルが付属するところもポイントです。本稿ではWestoneの音質の「ゴッドファーザー」である先日来日したカールとクリスのカートライト兄弟のインタビューを交えて、ES80とWestoneのカスタムIEMを解説、レビューしていきます。

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カートライト兄弟(WestoneのWサインを出しています)

カールとクリスのカートライト兄弟は陽気で面白く、なかなか会話がはずみます。

関連レビューは下記のものがあります。
Westone W80
Westone ES60

テックウインドさんのWestoneホームページではES80について、「高域のドライバーが4基になったことでさらに明瞭な高域を得られ、またステージ上のミュージシャンの望むダイナミックな低域を維持しながら、高音域のディテールを提供している」とあります。
本稿ではES80を解き明かすため、まずこの解説内容を詳しく補足する形で、カートライト兄弟へのインタビューから始めます。

* ES80設計のポイント

まず「ES80の開発のポイントはどこか」という点についてカートライト兄弟に聴いてみました。
これについてまずカール・カートライトが答えると、まずW80では空間表現とハーモニックコンテントを出したいというところに焦点を当てていたということです。(W80のレビューを参照してください)

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兄のカール・カートライト(主に音決め)

カール・カートライトが言うにはES80ではドライバーのコンビネーションを考えるうえでクロスオーバーデザインでは振り出しに戻る必要があったということです。ひとつにはW80の評価がとても高くて、みながそのESバージョンを聴きたいという要望が強かったということ、そしてもうひとつはカスタムIEMはミュージシャン向けであるため、コンシューマー向けのW80とはおのずと異なるということです。
カスタムではオーディオファイルというだけではなくミュージシャンの要件を満たす必要があるというのは、ひとつにはダイナミックレンジの要件を満たすということで、例えばだれかかバスドラを強く打った時に、低域ドライバーが音のエネルギーを保ったまま音を生かして(歪まずに)再現しなければならないことを意味しています。

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私のES80をいじる弟のクリス・カートライト(主に構造設計)

これはなぜかというと、ステージ上で自分たちの音を聴く場合には我々音楽愛好家がすでにマスタリングされているアルバムの曲を聴くのと違って、音圧の差が大きいからということです。このためES80では中音域と高音域を等しく保つことに苦心したそうです。これはつまり(マスタリングされていない生の音の)ライブの音の影響は低域と中高域では違うため、(マスタリングされた音に適したコンシューマー向けの)W80での設定はES80ではうまく働かなかったということです。そのため、クロスオーバーと音導管の集中するアコースティックカプラー部分を再設計したということです。

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彼らはよく紙に書いて説明してくれます

アコースティックカプラー部分の設計は音管の長さ、太さとともに位相をそろえるために必要であり、それは音楽が録音された空間(スタジオ)の反響までの時間の大小(ディケイ)を再現するのに必要で、ハーモニックコンテントの再現のポイントの一つとなるということです。

このようにES80ではW80と同様のハーモニックコンテント(端的に倍音再現)に加えて、プロ用という観点からダイナミックレンジの確保にも設計のポイントがあったことがうかがえます。

* ES80の音のインプレッション、「音の凄み」

ES80はプロ用のカスタムなので化粧箱ではなくケースに入って送られてきます。

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W80で好評だったALOケーブルも付属されているのがES80の魅力の一つです。これは音質レベルをさらに高めてくれます。

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ES60では人の声の鮮明さに感嘆したけれども、ES80では「色彩感・音色」の描き分けが優れているという点で感嘆します。楽器の音色表現のリアルさではカスタムの中でも随一ではないかと思います。これはW80でも良かった点ですが、より洗練されてかつ自然に聞くことができます。ES80でSP1000 SSとCPを聴き比べると、金属の違いだけでこんなに音が違うということに驚いてしまいます。
伊福部昭の琴とピアノだけの器楽曲があるんですが、ずっとこのシンプルな音楽に聴き入ってしまいました。楽器の音を聴いているだけで心地よくなるのです。これはカートライト兄弟の言うハーモニックコンテントの再現、そしてES80では特にダイナミックレンジの改良によってオーディオを聴く側にとってもより自然な音が聞くことができるということも関連しているように思えます。

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ベルが鳴り響く音楽をSP1000 SSで聴いてみると、一瞬どこから音が鳴っているんだろうと、耳の錯覚を感じてしまうほどです。次に低い音の電子音がそれにかぶさると、今度は地鳴りのように響いてくる音に恐ろしさすら感じます。ただ音がスケール感があるというだけではなく、SP1000でのこの音の立体感はこのクラスでもかなり優秀な方と思います。次に女性ヴォーカルに切り替わると、目の前にシンガーがいるかのような自然な音楽を聴くことができます。

こうしたまるでDSPで行うような感覚を純粋にアコースティックに行うというのも、ES80の優れた点だと思います。

カートライト兄弟がいうには、W80での目的は達成したが、この先を考えるともっと低域を増やす言うのでもなく、ドライバーを増やすのではなく、もっと楽器の音色を正確に再現したいというのが目標となったということです。

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その目標というのはたとえば音楽を聴くときに鳥肌が立つというようなもので(ここでカールはとても科学的だろ?と冗談)、言い換えると音楽の情熱を伝えるというようなものです。それはプレスリーの時代の音楽も電子音楽もひとしく時代と空間を再現するというものです。
それには音楽が録音された空間(スタジオ)の反響までの時間の大小(ディケイ)を再現するのに必要で、ハーモニックコンテントの再現のポイントの一つとなるということです。
この実現には特に高音域ドライバーが重要だが、単に高域を上げると疲れてしまい倍音に逆に鈍くなってしまう。そこでドライバーの音自体を生かす、音のエネルギーを取り出すというところが重要だそうです。

解像力が恐ろしく高くシャープなのにSP1000SSで聴いてもきつさをあまり感じさせないのもWestoneらしい音だと言えます。単に正確と言ってもドライなわけではなく美しいのもWestoneならではです。
カートライト兄弟にふつうBAだけの音はドライになりがちだがWestoneでは暖かみさえ感じられるのはなぜかと聞いてみたところ、やはり音導管の太さ長さやクロスオーバーでチューニングしてそのようにしているということです。

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解像度とか周波数特性というほかに、そうした「感覚的なすごみ」に踏み込んでいる音の良さがES80の良さと言えるのではないかと思います。

* ES60からES80への「深化」

次に実際に音が具体的にES60からどう進化したかということを聴くために同じALOのケーブルでES60とES80を試聴しました。これはまずAK380+AMPで比較しました。ES80のほうがやや能率が低いので音量合わせが必要(AKの目盛りで5-6程度)でした。

比較すると、ES60のほうが中高域は強調気味でシャープかつやや薄味、ES80は自然に豊かに濃く聞こえます。ES80は澄んで伸びていく中高域のように聴こえます。バロックバイオリンの倍音豊かな響き・音色はやはりES80のほうがよくわかります。ここにもハーモニックコンテントの目指したところがわかるでしょう。
低域表現もES60のほうが強調されて大きめです(言い換えるとコンシューマライク)。ES80はそれ自体は量は十分あるのですが、より抑えめです。
ジャズヴォーカル曲を聴いてみると、音の自然さがES80では抜きんでいて、ダブルベースは前に出すぎずに適度な位置を保っています。ES60ではベースの強調感があって少し目立ちます。この辺にES80のもうひとつのテーマである(特に低域方向での)ダイナミックレンジの拡大が感じられます。ES80での低域は強さというよりも深みに重点がおかれているようにも思えます。

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左がES60、右がES80

ヴォーカルではES80のほうが艶があって、女声であればより官能的に聞こえる感じで、暖かみのある艶っぽさが感じられます。厚みのある豊かな肉声という感じですね。ES60では前回のレビューでも書いた独特のクリアさ・明瞭感があって発声がとてもはっきりと聴こえるのですが、やや艶っぽさに欠けて冷ややかに聞こえます(比較的ということですが)。これはアカペラを聴いた時により明確にわかります。ES80では音の自然で厚みのある再現度の高さが特徴で、ES60では各発声がより際立つクリアさが特徴です。
ここもやはりカートライト兄弟のインタビューにあったように、ES80では高域はきつくせず、低域も強すぎるとダイナミックレンジに入らなくなるため、ES60よりも高低の強調感は少なくなるように設計していると思います。
そのかわりに、より広いダイナミックレンジと、より豊かなハーモニックコンテントを持つような設計にしているのがES80だと思います。ES80では低域は抑え目のように感じられる反面で、地鳴りのような震えるほどの深みのある低域表現ができているのはハーモニックコンテントが低域にも聞いているのかもしれませんが、それはわかりません(インタビューの時に聞けばよかったかも)。
つまりES60に比べるとより自然で、豊かな音色、声色が分かるのがES80ということが言えると思います。

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ES80

ES80とES60でのもうひとつ興味深い差はSP1000SS/CPのようにさらにひとレベル高い音再現力をもったDAPを使った時だと思います。SP1000はさらにAK380よりもよりハイエンドのDACを搭載しており、より細かでより高級感のある音再現ができますが、その「より細かで、より高級感のある」という部分を感じさせてくれるのはES80のほうです。ES60も独特のクリアさと打撃感の強さがありますが、ES80では説明しにくいような独特の空気感というべきハイエンドDAPの持つ豊かで厚みのある音楽の世界を再現してくれます。これはSP1000SSよりも音に深みのあるCPのほうでよりわかりやすい差となります。

これもカール・カートライトが言ったように「ES80では鳥肌が立つのが目標」という目標を満たしたように思えます。
私がES80ではベルの音が物理的なドライバーではなくどこか空間から聞こえてくるようだとカートライト兄弟に言ったら、それはまさしく目指していたことで、1956のプレスリーのライブであれ、デジタル録音であれ、壁を持った音響空間を再現したかったということを言っていました。

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ES80

ES60とES80を比べるとやはり音の質感表現、忠実度、完成度という点ではES80のほうに軍配があがりフラッグシップらしい凄みを利かせてくれます。また一方で音の個性がES60とES80では違うという点もあります。これはクロスオーバーをはじめいちから設計し直したということもあるのでしょう。
カートライト兄弟のインタビューでもあったようにES80ではハーモニックコンテントという他にダイナミックレンジの改良がなされていて、抑えめの低域はそのポリシーに沿っているようにも思われます(低域が強すぎてゆがまないようにするため)。
ただしES60は(比較すると)よりコンシューマライクであり、独特のクリアさと高域と低域の強調感があります。組み合わせる機器によってはES60のほうが良いという人もいるかもしれません。一例をあげるとWestoneのBTワイヤレスアダプタにつけた時です。これではES80のもつハーモニックコンテントの強みがあまり発揮できない反面で、ES60の先鋭さと強調感が音を良く聴こえさせ、贅沢ではありますがとてもBluetoothで聴いているとは思えないような音再現を聴かせてくれます。
これらのことからES60を持っている人はそれに足してES80が欲しくなるかもしれません。

* W80からES80へ、カスタムならではの強み

もうひとつES80を聴いていて気が付いたのは、W60とES60が違うように(ES60のレビュー参照)、W80とES80もやはり違うということです。これは同じハーモニックコンテントというテーマを持っていても、やはりES80の方がよりよく優れた音再現を聴かせてくれます。Westoneはユニバーサルでは音質と快適性の両立が絶対条件だと語っていましたが、そのコンパクト縛りというリミッタを外したのがES80と言えるかもしれません。
そしてなによりも、ユニバーサルは万人に合う中庸の作りですが、カスタムはカートライト兄弟が自分のためにチューニングしてくれているということです。

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カールが持っているのはW80、ES80と比べて説明しています

それを裏付けるため、直球でユニバーサルよりもカスタムのほうが良く聴こえるのはなぜか、とカートライト兄弟に聞いてみました。
カール・カートライトが言うにはまずそれはカスタムのほうがユニバーサルよりも大きいからであるということです。W80ではひとつしか音のでる穴がありませんが、ES80は2つあります。カスタムでは人それぞれの耳の形をとってそれに合わせた穴を設けるため、よりよく聴こえるということです。
クリス・カートライトはそれに続けて、ドライバーをコンマ・ミリミーター単位で動かして人それぞれの耳に正しい周波数特性が伝わるように調整するということを語ってくれました。
つまりカスタムというのは耳型に合わせて正しいフィットを得るというだけではなく、ドライバーを動かして人それぞれに合わせた調整をしてくれるというわけです。耳型の「耳の形」だけではなく、「音の形」も人に合わせるために、カートライト兄弟のような音のプロがワタシの耳に合わせて調整してくれるというわけです。(ここでカールとクリスが声を合わせて私のES80を持ちながら、これは君のためにやったんだよ、と言ってくれました)
これにはイヤーカプラーを使って調整器を使いながら行うそうです。それには人によって数分で済む場合もあるし、一時間(それ以上)もかけて行うときもあるということ。

つまりカスタムというのは、カートライト兄弟の考えるリファレンスの音があり、人の耳によってそれが違う風に聞こえるのを吸収するために、プロのカートライト兄弟が正しく音が聞こえるように個人に合わせたチューニングをするということです。人は右と左の差もあるので、それも同じになるようにチューニングするそうです。そのため位相や音のフォーカスもより正確になるのでしょう。
つまりユニバーサルよりもカスタムが音が良いというのはそういうことです。

ここで、ユーザーの好みによって低域を上げるとかヴォーカルを明瞭にという依頼はできるかと聞いてみたら、カールが言うにはそれは検討してみたがクロスオーバー回路の設計を一つごとに行わなければならないので見送ったということです。(ちなみにJust earはクロスオーバー回路はありません)

* Westoneのフレックスカナル

ES80を使うと耳に吸い付くフレックスカナルと、カスタムIEMの中でも抜きんでて優れている遮音性がよくわかります。遮音性が高いということはより細かな音がノイズに埋もれないで聴くことができるということです。Westoneの場合には本当に使用して歩くのは注意を要するので念のため。このフレックスカナルについてもカートライト兄弟に聴いてみました。

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カートライト兄弟に聞いてみると、フレックスカナルは実のところカスタムIEMのために考案されたのではなく、それより前の補聴器時代のデジタル化される以前の時代に、こうしたフレックス素材を使っていたということ。理由は二つあり、ひとつはアナログ手法(音響)だけで難聴に対応する正しい周波数に合わせるためには確実な遮音が必要だったということ、もう一つは補聴器のマイクの干渉を防ぐためにも確実な遮蔽が必要だったからだそうです。これは1970年代から使っていたということ。(素材は多少変化しているそうです)

それからステージのミュージシャンのためにカスタムIEMを作るときに、ステージの環境はとてもうるさいのでフレックス・カナルを流用することを思いついたということです。
(前回の「イヤモニ初めて物語」参照)
これは口を開けて歌うときに耳の穴が変形するわけですが、それにも追従してきちんと低音を逃がさない働きがあるということです。

つまりフレックスカナルもWestoneならではの技術だということです。これも完全に手作りで製作をしているからできるそうです。いまの3Dプリント手法だとこれはできないだろうね、と言ってました。


* まとめ

これはいままで書いたことの繰り返しですが、「新開発のXXドライバーやZZテクノロジーを採用して高音質を目指した」、という言い方はWestoneではしません。
長い経験の歴史、補聴器から軍事分野までの広範な取り組み、膨大な人の耳のノウハウ、それをまとめあげるカートライト兄弟の手腕こそがWestoneの独自技術というものでしょう。Westoneならではのフレックスカナルもその歴史から生まれたものです。

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ES80でカートライト兄弟の目指したものは、より豊かなハーモニックコンテント、ミュージシャン向けのダイナミックレンジ、リアルな空間再現などです。
それらはレビュー中に書いたように見事に結実していると思います。

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カートライト兄弟は自分たちはとにかくそういう作りたい目標があってイヤフォンを作る利己的な設計者だが、聴いた人にそれを喜んでもらえれば幸いだ、と語っていました。
そうした彼らがまさに「自分のために」作ってくれる最高のカスタムIEM、ES80をぜひ試してみてください。
posted by ささき at 20:40| __→ Westone ES3X カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月25日

Astell & Kern A&ultima SP1000レビュー

SP1000については発表会の時にファーストインプレの記事は書いていましたが、本記事はSP1000のステンレススチールモデルとカッパーモデルをしばらく使ってみたインプレッションです。

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SP1000CP

AK380を使用していた期間が長かったので、レビューで使うという点で言うとSP1000の音になれるまでに時間がかかります。そこで今回は少しおいてからSP1000自身もレビューすることにしました。
結果からいえば、ファームウエア的にはAk240とAK380の差ほどAK380とSp1000の差はありませんが、音質的にはAK240とAK380の違いよりも、さらにAK380とSP1000の違いは大きいと思います。そのくらいの音質の向上があります。それはその間のAstell & Kernのさまざまなノウハウの蓄積によるところも大きいと感じました。

* デザインの変更

まずSP1000で印象的なのは内箱が木製になったことで、かなり豪華な感があります。特に外箱から木箱を取り出すときがちょっと感動モノです。

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カッパーのほうはカッパーを示すマークと酸化防止のためか真空パックされています。

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外箱をめくると木の箱が出てきます。

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SP1000SSとCP

外形デザインは原石を多面カットした宝石がデザインコンセプトで、光と陰はキープコンセプトです。

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SP1000SS

SP1000ステンレススチールでは先鋭的な表面のシャープさが音の先鋭さも感じさせてくれます。

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SP1000CP

SP1000カッパーモデルは表面仕上げが以前のAK380カッパーとは異なり、より酸化しにくく輝きが続くようです。深みのある銅の輝きがやはり深みのある音を感じさせてくれます。実際に数か月使うとAK380CPとはだいぶ酸化のされ方が違い、より長くきれいにきらめいています。AK380カッパーではタバスコを使うとか、レモンとかいろいろな方法がいわれましたが、SP1000CPに関しては特にそうした工夫なしでも長く輝きが続いていると思います。

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化粧箱はブナの木で、スエーデンでのタルンショの天然皮革のケースがついています。

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前に比べると重量が重くなったこともあり、落とした時に怖いのでケースに入れて使う機会が増えました。あとこれは気のせいかもしれませんが、ケースに入れないで使用した方が音がわずか良いようにも思います(人体アース?)。ほんとに気分的なものですが。

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SP1000SSとAK380の大きさ比較

上面のSDスロットはケースから外さずにmicroSDの取り外しが出来るようになりました。このため上面から電源ボタンがなくなっています。

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マイクロSDカードは確実な装着のためにトレイを採用しています。このため専用のピンが同行されています。
実際に使っていると不用意なSDカードのイジェクトは起こらなくなりましたが、SDカードを変えたいときにピンがないので困るということはあります。もちろん専用のピンで何くても細いものがあればイジェクトすることはできます。

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USBはCタイプとなり、KANNのようにハイブリッドではなく、Cタイプのみです。Cタイプのケーブルはもちろん同梱されてきます。
また底面を見ると拡張コネクタが4ピンではなく5ピンになっていますが、これはまだ使用途がわかりません。ただAK380に比べれば外部アンプの必要性はあまり感じられないので、公開してくれてサードパーティーが使えれば面白いと思います。

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SP1000SS

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SP1000CP

電源スイッチはボリュームの長押しで行います。液晶は見た目にも精細感が高くきれいです。音質だけではなく表示される画質も向上しています。
ホームボタンが第3世代のメタルタッチから、第2世代のタイプに戻されたけれども、ここはすんなりと慣れるでしょう。なれないのはサイドに変更された電源スイッチでここはAK歴が長いほど上に指が言ってしまうかもしれません。ロックボタンをサイド押しに変えたのは今のiPhoneやAndroidがそうだからだと思います。
全体的な反応は良くかなりさくさくと動きます。
UIの階層も変更されましたが、ここもすんなりと慣れると思います。またAK70など旧世代UIモデルを併用していても特に違和感はないでしょう。

* 大きく変わったフラッグシップ

まず少しA&Kブランドのこれまでをまとめておきます。
始めにAstell & KernのAK100が2012年秋に出てから、AK120が2013年春、AK240は2014年2月(大雪の日)、そしてAK380が2015年の春と、Astell & Kernのトップモデルはほぼ一年おきに新型が出ていました。しかし、2016年はフラッグシップモデルの発表はなく、2017年の今年に二年ぶりに満を持して表れた新世代のフラッグシップ機がA&ultima SP1000です。

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Campfire Audio PlarisとSP1000CP

AK100で誕生したAKプレーヤーはAK120で改良されました。次のAK240では大きく中身が変わり、それはAk380でさらに改良されました。そうした意味ではSP1000はAK380に比べてまた大きく変わったように思えます。AK120からAK240に変わった時のような内部アーキテクチャの大幅な変化ではなく、音質の差です。特にしばらく使用したあとの感想としてはその差が大きいと感じられます。

それは2年ぶりであるということ、ジェイムズ・リー新CEO体制になってからの初のフラッグシップということもあるでしょう。また今回はKANNも含めてAstell & Kernのラインナップのシリーズ体系(プロダクトライン)が見直され、SP1000はA&ultimaというトップカテゴリーのプロダクトラインに入っています。

* 最高グレードDACの採用

それではこの2年ぶりのフラッグシップの交替で変わったところはどこかというと、使い勝手も改良が感じられますが、やはり大きく違うと感じる一番の点は音質面です。
SP1000の音質をかたるうえでポイントになるのは既述していますが、AK70からの音質傾向の流れでアンプがパワフル傾向で特にバランス回路で改良されているという点、トップグレードDACチップの採用、そしてステンレス・スチールモデルとカッパーモデルの筺体材質となるでしょう。
(AK70との関係についてはさらにSP1000の回路設計がAK70mkIIの改良にさらにフィードバックされるという流れもあります)

このアンプ部分の進化と、DACの進化ですが、どちらがAK380とSP1000の最大の違いかというと、はじめのころや内覧会の時はアンプの差が大きいと思ったんですが、実際に自分でしばらく使った後の今ではDACの差が大きいと思います。
私は以前は毎日のように高性能だったAK380を聞いて、多数のイヤホンをAK380で聞いてきましたが、比較するとSP1000では音の描き出し方が尋常でないくらいに向上したことを感じます。特に細部表現力は格段に向上してます。これは端的に言ってDAC ICの違いだと思います。これは空間表現についても同じです。

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UM MacbethII ClassicとSP1000SS

現代のDAC ICの選択は狭められてきて、いまは最新のDAC ICを使おうとするとESSかAKMかのほぼ2択となります。SP1000は最新最高のAKM AK4479EQをデュアルで搭載しています。
ここでまた少し振り返ってみると、AK100/120のDACチップはWM8740で、これはミドルグレードの普及品でした。AK240のCS4398はシーラスの当時のトップグレードでしたが、10年ほど前の古いモデルでした(このときはネイティブDSDを可能にするために選択されています)。
AK380のAK4490は当時最新でしたが、グレードとしてはハイエンドではありませんでした。4490は技術的なリードモデルでかつモバイル向きの位置づけのチップで、そのころのスピーカー向けのハイエンドオーディオ機材にはトップグレードチップであるAK4495が採用されていました。据え置きで電源が気にならないならとにかく高音質のもの、というわけです。

SP1000のAK4497EQは文字通りハイエンドのDAC ICでAK4495をさらに超える高音質チップです。最近では刷新されたLINNのKLIMAX DS/3にも採用されています。つまりSP1000では250万円のオーディオ機材に使われるような、ポータブル、ホームの区別なく現在入手できる最高レベルのDACを搭載しているわけです。しかもデュアルです。

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Campfire Audio LyraIIとSP1000SS

ここでひとつ面白い点は、AK4497では4490のように特にポータブル向けに省電力が意識された設計ではありません。とにかく音質優先の設計です。それをポータブルに搭載したのは、ひとえにAstell & Kernの電源周りの設計努力によるものと言えるでしょう。本来的なSP1000での進化はそこを強調してあげるべきかもしれません。
ポータブル機材はiPodの昔から基本的には省電力優先の設計がなされてきましたが、ここではかなり思い切った方向転換がなされているわけです。バッテリー容量は10%ほど上がっていますが、プロセッサの強力さを考えても電力はいくらあっても足りません。
実際に使ってみるとバッテリーの持ちはAK380と同等か、それ以上に持つように感じられますのでここはかなりバッテリー自体かバッテリーマネージメントは改良がなされていると思います。実測で付けっ放しで8時間付けっ放しのあとに20%程度は残っているように思えます。

* 音質

持った感じではステンレススチールおよびカッパー筺体と言うこともあってAK380よりもずっしりとした重みを感じます。

既に書いたようにAK380に比べると、アンプもDACも大きく向上しているのでジャンルは問わずになに聴いても音質向上は実感できます。PILとか聴いてもダブベースがかっこいいし、ピアノソロなんかは絶品です。女性ヴォーカルのリアルさはぞくっとするレベルです。音は全体にスッキリクリーンに明瞭に聴こえ、AK380がちょっと曇って聴こえるくらいクリアでより鮮明です。ベースやドラムスがより鋭く、AK380よりはひとレベル上の音と感じます。

SP1000を使いこんでわかるのは、AK380よりも細部の再現力が格段にレベルアップしてよりスピーカーオーディオのハイエンドに近いということです。あの東京インターナショナルオーディオショウに出てくるようなハイエンド機材に近い感じです。

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64 Audio Tia FourteとSP1000SS

AK380の時は解像力がすごいと言ったけど、SP1000ではそうしたハイエンドオーディオで語られるローレベルリニアリティとかオーソリティとか言われる質や質感の部分がより語られるべきだと思います。解像力があって細かい音が分かるだけでなく、その階調再現がよくわかる感覚です。

もちろんDACチップがすべてではありませんが、大きな違いとなるのもやはり事実だと思います。
フラッグシップDAC ICを採用した効果はあると思います。もちろん周辺回路も重要なのは当たり前のことですが、周辺回路だけ良くても基本のDAC ICがよくないとここまで性能を絞り出せない頭打ちになるでしょう。

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JH Audio LolaとSP1000SS

またDAC部だけではなくアンプ部も強化されているので、アンプ無しでも完成された音創りが出来ていると思います。
従来モデルとの差はパワフルさで、KANNの時はKANNのみの個性かと思いましたが、おそらくSP1000を含む新ラインナップの個性かもしれません。

またミクロでなくマクロ的に聴いても、全体にAK380よりもさらに整って帯域バランスも良い感じです。Dita Dreamなどでは普通はよりシャープならよりきつく出ると思いますが、中高域のきつさもなぜか低減されて聴こえるので、やはり音自体の質感が滑らかというか上質感があるゆえかと思います。

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Dita DreamとSP1000SS

音場もさらに横に広いのも良い点ですが、DACの低域再現力も相まって、低域の深みがアンプついてるようにあるので、特にクラシックやオーケストラものでのスケール感の良さが感じられます。この辺のスケール感の良さは左右の広さというよりも、低域の改善によるものが大きいように思います。低い周波数の音再現の凄みは他になく、いままでと一線を画すると思います。
AZLAとかTITANとかダイナミックメインのハイブリッドも良い感じがしますね。BAでもきちんとローが出てるもの(W80とか)もその良さを堪能できるでしょう。

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W80とSP1000CP

A&K SP1000とWestone W80ではSP1000がW80をノリ良くパワフルにドライブするのもすごくカッコいいけど、こんな小さいイヤフォンでSP1000の力を受けとめてこんな壮大な音出すんだから、聞いててワクワクしてきますね。カール兄弟には脱帽です。

SP1000がイヤフォンをパワフルに鳴らすって言う点ではやはりダイナミックの良さがより良く分かるようになったと思います。AK T8iE2ではDreamのような精巧な刃物的な切れ味とはまた別に分厚いダイナミックらしさで躍動感を楽しめます。SP1000はダイナミックやダイナミックハイブリッドと相性がよいと思いますが、TITANとは全体に良く整ってヴォーカルもすっきり気持ちよく、パンチがあるベースもいい感じ。おそらくAir2とも相性が良いでしょう。TITANとはケーブルは006との組み合わせが良いと思った。

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TriFiとSP1000SS

JH Audio TriFiとBeat Signalを付けてみると、SP1000の透明感は2Wayのシンプル構成でも生きてきて、鮮烈な生々しさが気持ちよく伝わってきます。Beat Signalのおかげか、低い方が膨らみすぎずにパンチが効いてるのも良い感じです。

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SP1000とUM Mavis II

SP1000を活かすポイントの一つは低域の出方かと思いますが、ダイナミック二発のMavisIIも良い感じです。AK380の時はMavisカスタムとMavis IIの差は小さいと思ったけどSP1000では差が大きくなってMavis IIの方が良いと感じられます。
同様にAK380の時はMASONカスタムもMASON IIも差はないと思ってたし、受けた説明から当たり前と思ってたけど、SP1000だと違いがあるのがわかるように思えます。

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SP1000とJH Audio Layla II、Black dragon v2

JH Audio Layla IIではさすが堂々の再現力でSP1000の音をストレートに伝えるかのようです。とても整理された音空間に整然とアーティストが並ぶ感じですね。ただしSP1000の音を余さず伝えるにはリケーブルしたいところです。


* 標準とされたステンレス・スチールモデルとカッパーモデル

今回のSP1000のいままでとの大きな違いは、いままでは特別モデルとして用意されていたステンレス・スチールモデルとカッパーモデルが標準とされたことです。いままでは特別モデルでプレミア価格がついていた両者が、旧AK380の標準ジュラルミンモデルと同じ価格となったことで実質的には値下げと言えるかもしれません。

この2モデルは内覧会のときには差がそれまでの特別モデルよりも小さく控えめかと思いました。これらが標準となるのであえてそうしているのかとも思ったわけですが、実際にしばらく使ってみると、ステンレス・スチールモデルとカッパーモデルの音質の差はかなり大きいと思います。ファームウエアの1.04でより個性の差が広がったようにも思えます。(カッパーでは1.04から)

はじめに書いておくとステンレス・スチールモデルとカッパーモデルの音質レベルは同じだと思います。ですから両者は個性の好みで選ぶことになります

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SP1000SS

ステンレス・スチールモデルはより透明感が高く感じられ、よく高域がよく伸びて、ワイドレンジ感を堪能できます。音もシャープで華やかな印象があります。イヤフォンのレビューをするときにはまず性能領域を引き出せて、よく能力が見えるようなSP1000SSで聴くことが多いですね。

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SP1000CP

カッパーモデルはより落ち着いた音でより音色がきれいに感じられるようになります。より感性的に感じたいと言った方がよいかもしれません。また音の深みはカッパーの方がより深みがあって、低域が厚いと感じます。より中高域が聴きたい人はSP1000SSで、低域が聴きたい人はSP1000SPという分け方もあるかもしれません。

SP1000SSでは高域が伸びるので音楽によってはきつさが感じられることもあります。
しかし、そういうきつさはSP1000SSというよりも、むしろ録音かPCMのせいだと思います。その音楽をDSDネイティブで聴いてみてください。今度は録音というかエンジニアリングで本当にさまざまな音のエッジやグラデーションの再現があると感じられるようになるでしょう。


* まとめ

端的に言って、細かい表現力が感性に働いてワクワクするような音楽を聴くことができる、というのが率直なSP1000の印象です。
特に高性能なハイエンドイヤフォンを使って聴く人にお勧めです。

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Westone ES80とSP1000SS

そしてそのハイエンドDACチップの採用を支えているのは地味な努力があると思います。あるいはそうした点に2年という時間が生きているのかもしれません。
単に上位DAC ICを使うだけではなく、省電力の努力も地味になされなければならないということでしょう。このように見えないか、スペックに表れない改良ポイントもSP1000には多々あるように思えます。単にDACを上位のものにするならば価格を上げればよいだけですが、従来の電池の持ちを保ちながらもより電気を食う上位DACを採用できたということは見えない企業努力があったと思います。またステンレス・スチールとカッパーという本来特殊モデルであるのに、AK380の出た時と同じ価格に抑えたという点も同様でしょう。
SP1000はAstell & kernというすでに確立されたブランドをにない、満を持して2年ぶりに出したフラッグシップです。フラッグシップにふさわしく一クラス上の音質をもち総合力にも優れたDAPであると言えるでしょう。
posted by ささき at 20:32| __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月20日

Roon1.4アップデートとiOSとUSB DAC

Roonの1.4アップデートがありました。
今回の目玉はiOSを出力先(CoreのOutput)として使えるようになったことです。Androidでは以前から出来ていたのですが、iOSは出力先としては使えませんでした。これはRoonリモートを立ち上げることで可能となります。
RoonからはiPhoneがネットワークゾーンとして見えます。

ファイル 2017-12-20 20 07 56.png

実際に試してみましたが、iPhone XにカメラキットをつけてUSB DACを接続した状態で再生が可能です。
Roonでアップサンプリングした出力を送ることもできます。

roon14.png

これで標準ドライバーで使えるUSB DACはどこにでもあるiPhoneやiPadを足すだけでRoonの出力デバイスになったようなものです。Androidでは標準ドライバーの作りこみが悪いのでいずれにせよこうした運用はできないですね。
これでまたRoonの世界が広がったと言えますね。
posted by ささき at 20:27| __→ PCオーディオ・ソフト編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月13日

MQAの時間的正確性とは (StereophileのMQAインパルス応答の測定)

Stereophileの下記リンクにMQAを測定的に検証した記事が載っています。
https://www.stereophile.com/content/mqa-tested-part-1

これはMQA非対応のBenchmark DAC3 HGCとMQA対応のMytekのBrooklyn DACにそれぞれテストデータを送ってインパルス応答を見るというものです。これでMQAが唱えている「時間的正確性」の正しさが確認できるというわけです。
データは5us幅で、グラフではひとつのドットが1サンプル幅です。

この結果から見てわかることは3点あると思います。

1. 本来時間的対象性を持った(それゆえ左側にアーティファクトであるプリリンギングが生じてしまう)リニアフィルタ(Fig1)のBenchmark DACにMQAエンコードしたデータを送ると、対象性がくずれてプリリンギングが減ること。
これはつまりMQAエンコードすればMQA非対応DACでも音質が良くなるはずというMQAの主張を裏付けています。この場合の「音が良くなる」、はプリリンギングが少なくなり音が自然に聴こえるはずということです。
*アーティファクト(人工生成物)とはデジタル処理によって元のアナログ信号にはなかった音ができることで、本来の音の前に無いはずの音が生じるプリリンギングなどです。これはデジタルオーディオが自然に聴こえない原因の一つとされています。
*ちなみにこれに対してMQAエンコードによりノイズ成分は増えるので「音は悪くなるはず」というのが反MQA側の言い分だと思います。念のためにこちらも書いておきます。

2. MQAデータをMQA対応のMytekに送るとかなり理想的なインパルス応答特性に近くなる(Fig5)。つまり音が良くなるはず。(インパルス応答は音楽ではないので、「はず」と書いておきます)
これはたとえばMytekのオリジナルの結果(Fig3)も優れているが、MQAだとグラフの左にプリリンギングもでずに、全体も短くおさまっているから、ということです。これがつまりMQAの提唱する「時間的正確性」というわけです。

3. しかしなぜかMQAエンコードしていないデータを送っても(2)と同じ結果になる。(Fig6)
つまりMQAエンコードされていても、されていなくても、MQAデコードすれば同じ結果が出るということです。ここはなぜかというところが謎なのですが、テストデータの故ではないかとは書かれています。つまりテストデータはデジタルドメインで作成されたものなので、MQAエンコードで低減されるはずのDeburringが効いていないのではないかという仮説です。しかしこれは1とも相反しているように思えますね。
これはわかりませんが、あるいはハードごとに異なるMQAファームウエアの実装にも関係しているかもしれません。

いずれにせよちょっと興味深い結果ではありますね。
posted by ささき at 22:25| __→ PCオーディオ最新技術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月11日

HiFiMan RE2000とRE800レビュー

HiFiMan RE2000とRE800はダイナミックドライバーを採用したイヤフォンで、
特徴はHiFimanの新世代イヤフォンでは新しい技術が採用されています。
そのひとつはトポロジーダイヤフラム(幾何学的振動版)です。

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RE2000

ダイナミックドライバーにはBAにはない良い特徴もありますが、問題点も抱えています。そのひとつは分割振動と言う現象で、ダイヤフラムの素材に伝搬特性があるため、振動が表面の場所によって異なってしまうものです。簡単に言うと(振動の)中心に比べて端が物性の関係でたわんでしまいます。これは周波数特性を劣化させて歪を生みます。これはスピーカーではツィーターでよく言及される問題です。ヘッドフォンでは平面型の利点としても紹介されます。

トポロジーダイヤフラムとは、「異なるナノ素材は構造が違い、特性も違う」という点から着目されたもので、ダイヤ不ラムの表面に特殊なメッキを施したもので、そのコーティングは幾何学模様になっています。この幾何学模様の形状、素材、厚さを変化させることで音の周波数特性の調整が可能となります。

トポロジーダイヤフラムは、「異なるナノ素材は構造が違い、特性も違う」という発想からヒントを得て開発したもので、ダイヤフラムの異なる表面構造の特性を適切に調整することで、ワイドで滑らかなサウンドを実現したということです。

これによって、ダイヤフラムの分割振動による歪を大幅に低減させることができるということです。これはRE800とRE2000の共通特徴となります。

試聴には主にSP1000やAK380を使用した。両方とも能率はやや低めですがデジタルプレーヤーで駆動できないほどではない。

* RE800

RE800は筐体がコンパクトで耳にすぽっと収まる感じです。わりと耳の奥まで入る感じです。ケーブルは交換できないんですが、プラグはかなりがっちりしたもので、見た目にも線材はマニアックでよく思えます。

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音質レベルは端的にこのクラスではかなり良い方だと思います。楽器音は少し細身の音でシャープでゆるみが少なく、トランジェントが良いので歯切れ感と音のスピード感が高いのが特徴です。ヴォーカルの明瞭感も高く、発音ははっきりと聴こえます。すっきりとした音で肉厚感は控えめと感じられます。この辺が後で書くRE2000との大きな違いです。

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高音域はかなり上に伸びる感じで、シャープ傾向なのでやや高域はきつくなりがちではあるのでフォームチップを使うのもよいと思います。コンプライのT400がM/Lと付属しています。
フォームを使うと低域もかなり出るので、高域が上に伸びてもあまり腰高感がなく、ワイドレンジに聴こえます。
かなり音性能は高いが少し高域が強めなので、イヤチップをいろいろと変えてみると音質の高さを引き出せると思います。個人的にはスピンフィットが良いかと思いました。

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音の相性としてはAK380でも使えるくらいに音質は高いけれども、意外とiPhone直でも音は合うので、iPhone直で高音質に聞きたいという人にもお勧めしたいですね。

* RE2000

ボックスにはさまざまなイヤチップが付属してきますが、できればシングルフランジタイプのサイズのバリエーションがあればよかったと思います。またフォームチップもあったほうが良いと思います。ここではトリプルフランジを使用しました。このトリプルフランジはなかなかに使いやすいと思います。

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RE2000は24kゴールドメッキを施した真鍮製ハウジングが徳地陽で、わりと大きめの筐体ですがうまく設計されていて、耳の座りは悪くありません。

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RE2000は全体の音のバランスの良さと、自然な鳴りの良さに感じ入ります。たっぷりした低域を基調にした音の余裕感もなかなかに良いと思います。
中高域のバロックバイオリンはきつすぎないが鮮明で、豊かな倍音も感じられ高級イヤフォンで聴いている感じは十分に味わえます。
低音域は量感は十分にあり、上質な低音で深みを感じられます。ダイナミックらしく音全体を下支えしているような低域の出方です。このおかけでスケール感もありますね。RE2000のポイントの一つは低域の出方かと思います。たっぷりとしていますが、低音が張り出している感じではなく、ヴォーカルがマスクされている感じはありません。

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RE800と比べた場合の差はRE800は透明感とかシャープさ重視で中高域より、RE2000はより音の豊かさ・解像感重視で中低域よりというところです。RE2000と比べるとRE800は細身で薄めの音に感じられます。

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RE2000は自然な音で、音の豊かさ、解像力に優れたイヤフォンだと思います。おそらく自然な感じの中高域はトポロジーダイアフラムが効いているのではないかと思いますね。SP1000SSは先鋭すぎてときとしてシャープさが耳についてしまうこともありますが、RE2000だとそうした点で相性の良さを感じさせます。
ダイナミックドライバーで中高域で音の荒さがこれだけ少なく端正ですっきりとしているのは特筆ものと言ってもよいかもしれません。もしかすると突出しすぎない低域もトポロジーダイアフラムの効果かもしれないですね。

*まとめ

RE800とRE2000は単にフラッグシップと普及機という関係だけではなく、RE800はコンパクトで中高域を重点にシャープでタイトだがやや細み、RE2000はやや大柄な筐体で中低域を重点に豊かで自然な解像感の高さを基調としています。
端的にいえばやはりRE2000のほうがフラッグシップらしく高級感のある音ですが、好みの部分もあると思います。2017年11月24日(金)〜2017年12月28日(木)まではキャンペーンでRE2000とRE800は安くなっているそうなので、お店で聴き比べてみてください。
posted by ささき at 17:42| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月06日

Chord Polyのインプレと使いこなしについて

Chord Mojoをネットワーク対応させるモジュールのPolyがいよいよ日本でも発売されます。
私は先行して少し使っていましたが、音質や使い勝手でMojoが生まれ変わった感じです。

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* Poly + Mojoの音質と使い勝手

まずスマホとの親和性が良いのが感心します。Polyでは機能よりもやることベースで考えたほうがよいと思いますが、たとえばわたしは朝にストリーミングでBandcampの新作の"エアチェック"をします。たいていBTイヤフォンでやっていましたが、PolyならAirPlayでiPhoneのストリーミング音楽をMojoに飛ばして良い音で聴くことができます。
エアチェックが終わると手持ちの曲をデジタルプレーヤーで聴いていましたが、それは手持ち曲をMicroSDに入れてPolyのMPD機能でiPhoneからケーブルレスで操作してMojoで聴くことができます。AKプレーヤーに入れていたMicroSDがそのまま使えました。
さらにはAKプレーヤーの中の曲をDLNAサーバーに指定して、Polyをレンダラーにして聴くことができます。操作はiPhoneでできます。
家に帰ればRoonを立ち上げて、家のPCのRoonライブラリの音楽をMojoで聴くことができます。

このように高い利便性もPolyの魅力ですが、Polyではその音質に驚くことでしょう。
いままでMoJoで聴いた中で一番良い音で、音像が引き締まって、音が整っています。シャープで特に低音域が緩みないのはジッターも少ないあかしだと思いますし、Mojoが本来性能を発揮してイヤフォンを駆動してる感もあります。Polyのポイントはハードの作り込みがラズパイ流用みたいなせこいものでなく、航空宇宙レベルの基板実装とかハードとソフトの作り込みがすごいことです。専用トランスポートって言ってよいレベルだと思います。
そこはChordの矜持だと思うし、これがほんとうのMojoの音かと思いますね。

* Poly + Mojoの使い方

一方でPolyは慣れるとスマホとの組み合わせでとても便利に使えますが、とっかかり分かりにくい点があるので、少し私なりに解説したいと思います。個人的に見つけたことを書いてるので、マニュアルと異なる点があってもこの記事をもとに代理店や販売店さんには問い合わせないでください。
ちなみに書いている時点のPolyの最新ファームは1.0.6(2017/12/6現在)です。スマートフォンはiPhone XにiOS11を使用しています。
設定はGoFigure設定アプリを使わない場合の方法です(まだGoFigureは無いようです)。

1. 動作モードと初期設定

まずPolyには動作モードがあります。
初期設定を行うアクセスモード、外部ネットワークにつなぐネットワークモード、Polyがネットワークをホストするホットスポットモードです。
この遷移はConfigという孔を添付のピンでつつくことで行われます。つつき方は下記の二通りのようです。(マニュアルには何秒押すと書いてますが、下記の方が確実に思えます)

1-1 ピンでconfigを突く、"モードイズ..."とモード案内音声が聞こえたらピン離す → 現在のモードの確認とipアドレスの確認。音声が流れます。

1-2 ピンでconfigを突く、"モードイズ..."とモード案内音声が聞こえても無視してピン押し続ける、"エンタリングxxxモード"と聞こえたらピン離す → モードの遷移が行われます。

Polyを買ったらまずアクセスモードに入ってください。(1-2)の手順でイヤホンつけてると"エンタリング・アクセスモード"と聴こえます。またはP-Statusが青と緑の交互点滅であればアクセスモードです。
iPhoneのWifi設定でPolyのローカルネット(Poly-xxx)に入ると自動で設定ページが出てきますが、出てこないときはブラウザでpoly.audioと入力してください。
ファイル 2017-12-06 20 49 46.png
マニュアルを参照してネットワーク情報など入力します。
SSIDは自分のWiFiルーターのSSIDとパスワードを入力します。テザリング時はiPhoneなら「設定」→「一般」→「情報」で「名前」がSSID、インターネット共有のところにパスワードが書いてあります。
ネットワークは複数登録できます。一番電波強度の高いネットに自動的に入るようです。
ここではbitperfect modeを選択して、reboot on saveも選んだ方が良いかもしれません。

またPolyの名前もここで入力しますのでBTのみ使う場合でもアクセスモードには入る必要があります。たとえば"MyPoly"はPolyが他から見える名前です。

2. Polyを使う前に知っておいた方が良いこと

M.StatusはMojoのステータス、P.StatusはPolyのステータス。

Polyではひとつのサービス(DLNAやAirPlay)が出力を抑えているときは他のサービスに自動で切り替わりません。
たとえばMPD使おうとして音がでなければAirPlay/BT接続を確認。不具合があるときはコントロールセンターからネットワーク出力先を見て切る。10秒ほど停止して待つか、使っていたアプリを終了させてください。

ボリュームはサービス機能に依存します。AirPlayならiPhoneボリュームもMojoボリュームも効きます。MPDではMojoボリュームのみです。

基本Polyの電源スイッチはなくMojoにつなぐとオン。オフも連動してるが、PolyはコンピュータなのでMojoと違ってすぐに落ちないから少し長く点灯します。

店頭デモの時はまずBTで試し、AirPlayやSDカード再生したければ、ホットスポットモードではいると自分の設定を残さなくて済むと思います。

なおDLNAやMPDなどは対応するすべてのアプリの動作が保障されているわけではないので、下記の代理店さんの互換性リストを参照してください。
http://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_2094.php#3

3. Polyの使い方

Polyでは機能よりもやることベースで考えたほうがよいと思います

iPhoneでストリーミングや内蔵楽曲をPoly + Mojoで聞きたい。
→ Bluetooth - 設定不要で手軽
→ WiFiでAirPlay - iPhoneではAirPlayの方が音が良い

AndroidやAKプレーヤーから使いたい
→ Bluetooth

手持ちのFLACやWAV音源を使いたい。
→ MicroSDに格納してWiFiでMPD
→ WiFiでDLNA(uPnP)

他のAKプレーヤーなどDLNA/uPnP対応機器とつなげたい。
→ WiFiでDLNA

家でDLNAサーバーの音源を聴きたい
→ WiFiでDLNA

家でRoonライブラリの音源を聴きたい
→ WiFiでRoon


3-1. Bluetoothの使い方

PolyではBT優先で常にペアリングモードになっています。
Bluetooth設定はiPhoneのBT設定でMyPolyを見つけてください。

WiFi接続に不具合が出たらBT設定を切ってみてください。
BTの場合は初期設定は不要ですが、MyPolyなど名前は入れたほうがよいです。


3-2. WiFiの使い方

3-2-1. WiFiルータかテザリングがある場合は動作モードでネットワークモードを選んでください

まずはじめに1で書いた初期設定をしてください。ネットワーク設定は初めだけ。次からは電源オンでネットワークモードになるはず。

* AirPlay
ipアドレス自動取得なのですぐ使えます。
ファイル 2017-12-06 20 50 44.png
BluetoothとAirPlayの切り替えはiOS11ならコントロールセンターの音楽再生の右上のワイヤレスアイコンをクリックします。(BTとAirPlayの聞き比べとかできます)

* MPD (SDカード再生)
これはPolyに内蔵するMPDというサービスでMicroSDカードの中身の楽曲を再生する機能です。操作にはMPDクライアントというアプリが必要です。MicroSDはAK70で使ってたものがそのまま使えました。AKユーザーはSDカードのフォーマットをあまり気にしないで良いかと思う。
MPDクライアントですが、iPhoneではそれまで定番のMPoDがなくなったので、MPDluxeやSoundirokアプリが使えます。Soundirokは有料ですが、高機能で使いやすいです。Roonっぽいアーティスト情報表示もなかなか良いですね。MPDluxeは無料でシンプルな古風なMPDクライアントです。下記はSoundirok。
ファイル 2017-12-06 21 50 20.png
問題はPolyのipアドレスですが、Polyは自分のipアドレスを喋ります(MPDのため)。ただ聴き取りづらいと思うので、聞き取れなかったらfingアプリで見つけるのが簡単です。
2回目以降もネット内の構成が変わらなければたぶん同じアドレスを使えると思います(ただし保証できない)。
ポートは6600で、パスワードなしです。

再生では5.6M DFFもオーケーです。なお先に書いたようにMPD再生をしてるときにAirPlayに切り替えようとしてもできないので、いったんMPD再生を止めてからAirPlayに切り替えます。

* DLNA

8 PlayerのようなDLNAアプリでDLNAサーバーとレンダラーでそれぞれPolyを指定します。
ファイル 2017-12-06 21 50 35.png
ここですごいのはDLNAサーバーには(例えば)AK380を指定し、レンダラーにPolyを指定することでAK380のライブラリをMojoで出力できることです。音質もとても良いです。
これはまるでAK380をMojoにUSBでつなぐかわりにWIFIでつないでアンプに使っているのと同じですね。もちろんAK380だけでなく、第二世代以降のAK connnectが使えるAKプレーヤーなら良いので、今は使ってないプレーヤーをファイルサーバーというかNASがわりに使うことができます。

* Roon

家ではRoonのライブラリをMojoで再生できます。つまりPolyを装着することでMojoがRoonReadyデバイスとなります。Roonで使うためにはアクセスモードにして設定でRoonを選びます。
polymojo.png  roonpoly2.png
その後にPolyをRoonのネットワークゾーンとして設定します。Roonアプリでリモートでも操作ができます。ここですごいのはRoon側で高精度のアップサンプリングをしてMojoに再生できるということです。

3-2-2. WiFiルータかテザリングの両方ないときはホットスポットモードを使います

アクセスモード同様にiPhoneのWiFi設定からPloy-xxxのネットにはいります。keep in hotspot選択します。
設定ページをキャンセルで閉じて「インターネットに接続せずに使用」を選びます。

3-2-1の場合とipアドレスはかわります、192.168.1.1になると思います。

4. アップデートについて

Polyはファームウェアのアップデートが可能です。やり方はちょっと変わっていて20-30分ネットワークモードでいるとダウンロードして一度切って立ち上げて10-20分経ったら、また切って立ち上げるというものです。

ここまででもPolyのできることのあまりの多様さに驚くと思いますが、PolyはアップグレーダブルでTidalも対応予定にはいっていますのでなかなかに楽しみです。
posted by ささき at 22:41| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月04日

Westoneインタビュー、今後の新体制について

先日ヘッドフォン祭でWestoneのBlakeマネージャーが来日して、インタビューしました。そこで最近のWestoneの組織上の変化と、その影響について答えてくれました。

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WestoneのMusic部門担当マネージャー、Blake氏

それによると、Westoneはいまや業界では世界最大であり、オーディオロジストへの供給でもアメリカ最大です。全ての領域に手が回らなくなってきたので音楽産業とヒアリングヘルスケアの二つに分社化(分社化は正確な言い方ではないかもしれませんが)したということです。Music部門とHearing Healthcare部門にわかれました。Military(パイロット用の耳栓など)はHearing Healthcare部門です。

これで我々の知ってるWestone(テックウインドさん扱いイヤフォンとイヤモニ)はMusic部門にとなって独立し、イヤフォンに特化しやすくなったということです。Blake氏はここを統括してみることになります。これによって前はBlakeさんは40%しか音楽分野にさけなかったが、いまは100%工数をさけるようになったそうです。
またMusicが独立したことにより「音のゴッドファーザー」カートライト兄弟はヒアリングケアから離れてイヤフォンに専念できることによって、よりイヤフォン開発に集中でき、権限も従来のシニアからチーフになったことでより強固になったということです。
またこれによって、カートライト兄弟は開発だけでなく製作も統括できるようになったため、かれらがカスタムについては一個づつ検品できるようになりました。これで音決めだけでなくトータルで製品の品質を高められるようになったわけです。
またユニバーサルも同様で、例えばBlakeさんがテックウインドさんのような世界のカスタマーの声を拾い上げ、それをカートライト兄弟がフィードバックしやすくなったということです。すでにこのアプローチはUM Proから始まっていて、品質向上に貢献しているということです。

一方で、ヒアリングケアと分離したといっても、その情報にはアクセスできるので、膨大なノウハウの蓄積というWestoneの長所も保てるということです。Westoneは膨大な耳型の蓄積があるため、ユニバーサルをコンパクトでかつ高音質に作れるわけです。
実際に"Comfortable(快適性)"と"Sound good(音が良いこと)"を両立するのがWestoneの目的でその両立なしでは製品を出さないということです。これはまた以前の記事で書いたように、音のカールと形のクリスの兄弟が密接に協力するからこそできることです

最後に次の製品はW90かW100かって聞くと、W1じゃないかとはぐらかし、ドライバー数ではないよと言っていました。そこで次はチャンバー方式かと水をむけると、また我々はすべての領域で研究してるよとはぐらかされました。Westoneって大きい会社だけになかなかそういうところは明かしてはくれません。
ただし上で書いたように今後はWestoneのリソースが一層オーディオ分野に集中されやすくなったので、製品は楽しみであると言えますね。

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ちなみに上はジェネラルマネージャーのBlakeのカスタムです。これフレックスカナルがなく、なぜかというと撮影用にサウンドチューブを見やすくするためです。フェイスプレートもマグニファイ(拡大)・アクリルという素材で中が見やすくなってます。
posted by ささき at 21:27| __→ Westone ES3X カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする