MASON IIカスタムは昨年12月17日に発表されたUnique Melody(以下UM)のカスタムIEMです。
価格はオープンですが、希望小売価格は税別で255,834円ということです。
* MASON IIカスタムの特徴と開発ポリシー
MASON IIカスタムは12個のドライバーを持つハイエンド機で、低域x4、中域x4、高域x4の3Way構成です。
以前のMASONユニバーサルの後継機として2年をかけて開発されたということ。ドライバーは前モデルとは異なるものを搭載し、特に低域用と中域用のドライバーにはUMがメーカーに対して特注でカスタマイズをしたドライバーを採用しているということです。
全てBAドライバーですが、中音域の向上のためにオープンBAドライバーを中域用に採用し、オープン型BAドライバーに対してベントでのエアフローの最適化を採用しているという点です。このためオールBAドライバーでありながらフェイスプレートにポート(ベント)が空いているのが特徴です。これはADELやAPEXとも違うアプローチのようです。
また音導管にはプラチナ塗装の合金チューブを採用しています。ここはMAVERICK IIユニバーサルやMAVIS IIユニバーサルとも共通していますね。
ケーブルは2pinでリケーブルができます。
宮永氏によれば、MASON IIカスタムはライブ会場で聴いているかのような空間表現を生かしたということで、TOTOのライブ体験を再現したかったということ。実際に聞いてみると独特の音場の立体感と空間の余裕ある表現力を感じます。ここはのちに書く「個性」のパートになると思います。
またもうひとつのキーはサントリーウイスキー「響」ということで、整ったブレンドの中にもオリジナルな部分があって深みを出していることがヒントのひとつになったということ。MASON IIカスタムも「整ったバランス」と「個性」を7:3か8:2くらいの割合でブレンドして、リスナーを飽きさせないものにしたかったということです。
その個性のキーとなるのがオープン型BAドライバとベントによる最適化チューニングです。このオープン型BAとベントというのはADELやAPEXとはまた別のもので、オープン型BAにはADELのような音圧を外に逃がしてやるような機構はないということ。
オープン型BA自体はなにかというとBAドライバーに穴があいているもので、これはいままででも採用機種はあります。たとえばUMではメンターに採用されています。これはミッドレンジの特性が良いためにMASON IIカスタムに採用したということです。
問題はオープンBA型ドライバーの開発過程で、フェイスプレートを取り付けたことによる聴覚上の閉塞感が感じられたということだそうです。そこで、オープン型BAとベントを組み合わせることによって、音質の向上ができるのではないかということで開発を進めたということです。
これは周波数測定しても現れないたぐいのもので、なにかどう変化したかはまさにノウハウの世界だということ。つまりは測定機械よりも聴覚上の良さを求めてチューニングしていたことにより発見ができたというわけです。
それがMASON IIで感じる、聴覚的な気持ち良さ、独特の立体感と余裕のある表現の秘密であるのかもしれません。
独特の音の余裕感はオープン型BAドライバーとベントによる最適化によるもので、指をベントで閉じてみるとこの独特感が消えてしまうとのことです。
* 実機のインプレッション
ケースを開けると、おーとため息つくくらい美しいシェルが出てきます。
いつも思うけれど、UMはシェル作りが上手ですね。シェルの造形もきれいですが、ぴったり密着するようにはまります。カスタムの中でも装着感はトップクラスだと思います。
音のインプレは主にAK380と標準ケーブルで聴いています。
MASON IIカスタムで感じられるのは、まずオープンBAとエアフローの改良の効果か、いままで聴いたことがないような個性的な空間表現というか音空間の余裕が感じられます。また音色も自然ですね。
ヘッドホンに例えると今までのBAは密閉型で、MASON IIカスタムは開放型という感じの違いといいましょうか、ちょっと表現しにくい「個性」ではあります。音の広さというのともちょっと違います。クロスフィードとかサラウンドDSPとかそういう人工的な味付けでもありません。
この良さはMAVERICK IIにもMAVIS IIにもないものです。
「整ったバランス」という意味ではMASON IIカスタムは12ドライバーらしいワイドレンジ感が見事です。この意味でも音の高い方と低い方にたっぷりとした余裕を感じます。自然な音であまり強調感は少なく、尖った所のあるMAVERICKIIよりも落ち着いた感はあります。これは初代からだと思いますが、全域で整って端正なBAサウンドで荒っぽいところはありません。もちろん解像感も高く、情報量がたっぷりあります。標準ケーブルとの相性も良いですね。
実に堂々たると言うか、12ドライバーの横綱相撲的な余裕あるスケール感、低域の深み、中域の厚み、高域の伸びの良さ、トップレベルの実力だと思います。
帯域感としてはフラットよりはやや低域よりだと思いますけれど、これはMASON II自身というより標準ケーブルの個性だと思います。例えばCrystal Cable NEXTだともっと全域フラットで銀線っぽい味わいは付加できます。キラキラっとして、よりフラットな音が好きな人はリケーブルも良いと思いますが、上級者でも標準ケーブルで十分満足できると思います。
標準ケーブルの相性が良いという点ではMAVISに似ていて、MAVERICKの場合は私だとSignalかなんかを使いたくなります。
ジャズトリオの演奏は生っぽく、アコースティック系だと生っぽさが際立って良く、ライブリスニングに一歩近づいたともいえますが、実のところ電子音楽も深みが圧巻です。濃いインダストリアル系アンビエントをループしてMASON IIカスタムのめくるめく音空間に浸るのも気持ち良いものです。
音の鳴り方がリアルなんですが、生楽器・ヴォーカルだけでなく電子音でもリアルです。電子音がリアルっていうのもなんですが、実際にありそうな感じに聴こえるのが面白いところ。なんでも合いますね、これは。
* まとめ
UMではあえてフラッグシップという呼び方はしないのだそうですけれども、フラッグシップだから12ドライバーで作ったというよりは、この高度なまとまりの良さを得るために12ドライバーになったという感じでしょうか。
MASON IIカスタムの魅力は、この12ドライバーによる「整ったバランス」とワイドレンジ性能、そしてオープン型BAとベントのチューニングによるミッドレンジの「個性」というブレンドによるものというところは開発の狙い通りだと思います。
12ドライバーの基本的性能は優れていてワイドレンジで高域も低域も強すぎるところもなく整っています。音のひとつひとつの出方は先鋭なMAVERICKと落ち着いたMAVISの中間的なものだと思います。
ただしオーディオファイルは贅沢なもので、中庸で整ったバランスだけだとある意味面白みに欠いてしまいます。そこを個性がおぎなって、常に飽きない音で楽しめます。音に独自性があり、かなり優れたカスタムと言えるでしょう。