CHORD社のCDトランスポート、Blu MkIIの製品発表会が行われました。
これはロバートワッツが当時のCDの音に納得できなかったという1980年代からの研究の成果として、処理能力100万タップというひとつのマイルストーンに到達したものです。
発表会にはジョンフランクスとロバートワッツが来日して開発についての話を聞くことができました。
左:ジョン・フランクス、右:ロバート・ワッツ
いまなぜCDなのかという疑問が湧くと思いますが、ひとつにはChordの情熱、そしてひとつには技術のブレークスルーという要因があるということです。
Blu MkIIの外観は前モデルと同じですが、中には最新のFPGAであるザイリンクスXC7A200Tを搭載しています。
これは本来カスタムICとしてはより処理能力の高いASICで処理するようなデジカメの映像エンジンでも使われているそうです。オーディオでも映像並みの処理能力を発揮できるということですね。
手に持っているほうが旧Blu
それによって100万タップ(1015808タップ)という マジックナンバーに到達したということ。タップ数は無限が理想だが、100万タップが16bitオーディオとしては現実のマイルストーンとなるそうです。
デジタル処理能力をタップ数(細かさ)で測りますが、これまでは以下のように進歩を遂げてきましたがついにここまできたわけです。
DAC64当時の他のDAC 100タップ
DAC64 1024タップ
QBD76 18000タップ
Hugo 26000タップ
Dave 164000タップ
この処理能力が高くなると利点は時間当たりのトランジェントが良くなることで、奥方向に広がり空間性が良くなるということです。
ではこの処理能力をDaveのようにDACに載せれば良いかというとそうではないということです。
Blu MkIIのポイントはこの高性能FPGAは処理能力は高いがノイズが大きいので本来ノイズを嫌うDACに採用は難しい、ただしDACと切り離してセパレートなら可能ではないか、ということでCDトランスポートに採用ができたというわけです。
左:44kモード、右:705kモード
DACであるDaveとの組み合わせではDaveのWTAフィルター初段をバイパスしてWTAフィルター後段に直接入れてノイズを減少できるそうです。つまりDaveの外側で100万タップの処理能力を使えるというわけです。
このためには705.6kアップサンプルで出力してBNCをデュアルで二本使います。また44kのみの出力もあります。
この他にBNCのデジタル入力もあるのでスタンドアロンでアップサンプラーとしても使えます。
実際に試聴してみました。
44kではヒラリーハーンのヴァイオリンはシャープだけど硬めできつめでしたが、705kデュアルモードではスムーズで自然に感じられます。合唱のドイツレクイエムでは705kでより奥行きが感じられ24bit音源のように聞こえ、より広いホールで鳴ってるように感じます。ティファニーのヴォーカルでは705kでベースのピチカートにより実体感があり豊か、ボーカルもよりリアルで生っぽく感じます。
前にはASICでしかできなかった処理がFPGA(開発費がより安い)でもできるようになったというのが技術的なブレークスルーになりますね。
ASICでも同じことが可能ですが、その時には開発費が高騰してとても買えないような価格となるでしょう。またこの処理をソフトウエア(つまりPC)でできないかと聞いたところ、ワッツが実際に計算したところリアルタイム処理が不可能などころか最新のプロセッサでも10時間かかるとのこと。
やはり現時点ではFPGAがベストな解法と言えるのでしょう。
ロバート・ワッツ
ワッツが100万タップにこだわるのは、昔デジタルの音は硬いと思ったがその当時から自分の研究の一環としてその音質は聴覚に影響されると思ったことがあります。聴覚を踏まえた場合、
楽器音の立ち上がり立ち下がりのトランジェントが悪いと再現が悪く、その時に100万タップが目標となったそうです。
35年を経て初めてCDの16bitのマイルストーンが達成ができたというわけです。言い換えるとCD誕生数十年を経てやっと理想のCDの音にたどり着いたと言えるのでしょう。まあ44/16も奥が深いと言えますね。
次のマイルストーンはと聞くと、同様にいうと24bitなら2億タップが必要だそう。そこまでいけるかどうかわからないが、いま別のアプローチも考えていて、それで比べてまた考えるということです。
ロバートワッツはBlu MkIIを作ってから古い録音がよりストレートに楽しめるようになったそうです。今ではあまり分析的に聞かなくなったということで、それが到達点に至ったひとつのあかしなのかもしれません。
CHORD Blu MkII
価格:140万円税別(予価)
発売時期:2017年3月下旬
2/3追記 - USB入力オプションが用意されてUSB経由のアップサンプリングが可能となったようです。(海外発表)。
Music TO GO!
2017年01月27日
2017年01月19日
Astell & KernプレーヤーとOppo HA2SEでポータブルTIDALを楽しむ
既報のように今年のCESではTIDALのMQAサポート、つまりハイレゾによるストリーミングの開始がアナウンスされて話題となりました。
またその同じ日にUniversal、SONY、Warnerの3大メジャーレーベルとRIAA(全米レコード協会)、DEG(Digital Entertainment Group)などがハイレゾでのストリーミングを支持するというむねのアナウンスをしています。そしてDEGが"Stream the Studio"のキャッチコピーのもとで展示を行っていたようです。
ストリーミングはスマートフォンなどで楽しむことも増えてきましたが、それがスタジオなみのより高音質を目指しているというわけです。やはり現時点で高音質ストリーミングというとTIDALになりますが、ポータブルでTIDALを楽しむ記事は意外とないので書いてみました。
"Stream the Studio"の目指すところの高音質ストリーミングが、ポータブルオーディオにどう影響を及ぼすかということです。
* TIDALの基本
TIDAL(タイダル)はロスレスの高音質配信(HIFIサブスクリプション時)を特徴とするストリーミングサービスで、ミュージシャンがオーナーとなった初めてのストリーミングサービスでもあります。(TIDALの登録方法は本稿では割愛します)
TIDALの品質は以下の通りです。
Normal : 96kbps AAC
High : 320 kbps AAC
HIFI : ロスレス(1411kbps)
TIDALでのストリーミングの同時再生は1デバイスまで、オフライン再生は同時に3デバイスまでの制限があります。
TIDALプレーヤーで画面下部にHIFIの表示があればロスレスで再生できています。それ以外はロッシーです。AKプレーヤーではこの表示はありません。
現在はPCプレーヤーではMQA - Masterもありますが、この場合にはHIFIの1411kbpsの帯域幅の中でMQA圧縮を使用してハイレゾストリーミングしているということになりますね。正確に言うとMQAはロスレスではありませんが、ハイレゾ品質とのトレードオフになります。ポータブルではMQAはいまのところサポートされていません。
* TIDALをポータブルで楽しむために
ポータブルでTIDALを楽しむには、スマートフォンアプリを使う方法と、Astell & KernデジタルプレーヤーのTIDAL機能を使う方法があります。
Oppo HA2SEとAK380
それぞれ接続のためにWiFiネットワークが必要です。私はWiMaxのポータブルルーターをいつも持っているのでそれを使っています。またスマートフォンの場合は最近では20GB制限のギガモンスターなどでスマートフォンでもストリーミングが楽しめるようになってきましたので携帯回線でも楽しめます。もちろんiPhoneとAK380でテザリング(インターネット共有)もできます。
スマートフォンはiPhone 7 plusを使っています。再生のためにはTIDALアプリが必要です(海外アカウントが必要です)。
Astell & Kernでは最新のファームを適用すると第三世代機とAK70ではストアにTIDALメニューが使えるようになります。
ポータブルならではの注意点などもまたあります。たとえば回線品質の設定です。WiFi Streaming QualityとCellular Streaming Qualityでそれでれ回線に応じた設定が可能です。(Normal. High, HIFI)
またその下のOptimised Playback(再生の最適化)ではAdaptive streamingが使用できます。これをオンにするとTIDALが回線の接続スピードに応じたレートでストリーミングしてなるべく途切れないようにします。ただし便利といえば便利ですが、TIDALの場合は常に高音質で聴きたいのですが、Adaptiveだといくらになっているかが分かりにくいので、この場合にはAdaptiveをオフにして置いた方がよいかもしれません。iOS版の回線品質はPC版と同様にアプリ下部に表示されます。
またiPhoneとiPadでは電波がなくてもキャッシュに入れるオフライン再生が可能ですが、Astell & Kernではオフライン再生はできません。ポータブルルーターのない人などは家でダウンロードしておいて、外ではオフライン再生するなどすると良いかもしれませんね。
先読みバッファリングもそれなりにされるので、トンネルに入ってただちに止まることはありません。ただし地下鉄は苦手なので携帯回線・テザリングでつなぐかオフラインの利用が必要になります。
* TIDALの音質はポータブルでも楽しめるか
iPhoneやiPadで直で聞いた場合、TIDALとApple Musicの音質差はオーディオファイルなら分かると思いますが、あまり大きくありません。iPhoneではせっかくのTIDALの高音質を生かすためにもOppo HA2のような外つけのスマートフォン向けのDACをお勧めします。ここではHA2SEを使いました。
HA2SEのような高性能DACを使うとTIDALの高い音質がよく分かると思います。HA2SEでWestone W80/ALOケーブルという組み合わせでApple musicと同じ曲で聴き比べると、楽器音の明瞭さが違いますし、打ち付けるようなパーカッションやドラムのキレが違います。TIDALはパシッ、Apple Musicはへなっという感じですね。また厚み、緻密さだけではなく立体感がTIDALでは際立って感じられます。
ワイヤレスの場合、BTにすると伝送で非可逆に落ちるのでTIDALの利点がなくなります。実際に差があまり感じられません。
iOS版のTIDALはほぼPCのTIDAL Playerと同じですがMaster(MQA)モードはありません。曲再生の時にディスクがぐるぐる回るのもPC版と同じです。iPhoneの場合はとても使い勝手が良いので検索も含めてPCと遜色なく使うことができると思います。
iOSアプリ再生画面
Astell & Kern再生画面
AK380シリーズの第3世代機およびAK70ではストアの下のTIDALリンクからTIDALを起動できます。これはさらにコンパクトで手軽に使えます。やはりWestone W80/ALOケーブルという組み合わせで聴いてみると、やはり音質はかなり良く、濃くて緻密な音が楽しめ、やはり切れがよく気持ちの良い音楽が楽しめます。
AK380やAK320にAMPを付けると一層本格的なオーディオの品質で音楽を楽しむことができます。AK380 copperであれば標準モデルとのカッパーならではの音の響きの美しさの違いもよく分かります。単体で聴く場合にはAK320がお勧めです。透明感と高域の伸びの良さが際立って良く感じられます。音源の品質についてはCDリッピングと変わりはないと言ってよいでしょう。
このようにポータブルでも十分に高音質の利点を楽しめます。よくストリーミングは試聴のようなもので、気に入ったら良い音のためにCDで買うということもありますが、TIDALならいい音で聞くためにCDを買う必要はないと言ってよいと思います。それを考えると月20$(HIFI)というやや高い料金も納得できるかもしれません。
私の場合はiPhoneに内蔵している購入した音源はBandcamp経由のノルウェーとかロシアとかの(世間から見ると)超マイナーなインディーアーティストの曲が多いので、Apple Musicでもほとんど出てきません。
そういう意味ではわりと内蔵音源(インディー)とストリーミング(メジャー)のように両立できてバランスは取れてます(というのか?)。
内蔵音源(リッピングまたはBandcampからのダウンロードのFLAC)はHiByアプリで再生して、ストリーミングはTIDALアプリまたはApple Musicという感じですね。
これらを良い音で聴きたいときはHA2SEで聴きます。あるいはMojoですね。気軽に聴きたいときは完全ワイヤレスになりますが、完全ワイヤレスだとTIDALとApple Musicの音質差はあまりありません(伝送の段階でロッシーになるので)。
まとめると、iPhoneでは外つけDACアンプを加えることでかなり良い音質で楽しむことができます。iOSアプリだと操作性もほとんど遜色なく、音楽情報の検索と相まって強力に使えると思います。
Astell & Kernプレーヤーではその高音質を生かしたままでストリーミングという新たな世界に踏み出せるという魅力があります。TIDALが使えるっていうことがAstell & Kern第三世代機やAK70を選ぶ新たな理由の一つになったくらいのレベルだと思いますね。
AK70のように低価格でコンパクト高音質なDAPをTIDALプレーヤーにできるのは意味が大きいと思います。
Astell & kernのMQA対応があればさらにハイレゾのストリーミングも楽しめるので期待したいところです。まさにAstell & Kernに見合った高いレベルの音質で手軽で柔軟なストリーミングができるのがTIDALの良い点です。
iOSアプリでMQA対応がなされ、HA2SEがMQA対応されればiPhoneでもハイレゾストリーミングが楽しめると思いますが、未知数です。iOSアプリでのMQAソフトウエアデコードはできるのか、これも気になります。
* TIDALの歩き方
Astell & Kernの場合には高音質DAPで、iPhoneのようにストリーミングが楽しめると言う点が大きいといえます。いままでAK DAPでは内蔵音源(もしくはAK ConnectでNASなど)から自分の持っている音源しか聴くことができませんでしたが、これでPCやiPhoneなどと同様に広大なストリーミング音源というまだ見ぬ音源が広がる大宇宙に飛び立つことができるわけです。しかもAstell & kernの高音質にみあった品質で聴くことができます。これはかなり画期的ですし、スマホのストリーミングに慣れていても新鮮に感じられます。
TIDALの場合には検索、Similar Artist、Suggested Tracksなどの機能で知見を広げられます。またTIDALお勧めの有名・無名アーティストを特集したTIDAL RisingやキュレーションされたPlaylistでも知らなかった音楽を探すことができます。
Astell & Kernプレーヤーの場合には曲を選択する基本動作は画面の小さなAK70でも使えます。しかしAKではキー入力が不便なので検索があつかいにくく、PC上でFavoriteやPlaylistを作ってからMy Music経由で共有してポータブルで聴くとよいですね。Playlistの場合は曲単位になるのでアルバム単位で聞きたい音楽を保存しておきたいときはアーティストやアルバム画面でFavorite(星)を押せばネットで共有できます。
またiPhoneの場合には音楽系のRSSフィードやTweetをみていて、気になる曲やアーティストがあったら、それをそのままコピペして検索しストリーミングサービスで探すことができますが、AKの場合にはそうした一体感はできないので、iPhoneのTIDALアプリでアーティストを見つけたらFavoriteを付けて、AKで聴くということがよいかもしれません。
PCやiPhoneのTIDALアプリでは曲を選択するとその下にSuggested trackが出てきて似たような曲を芋づる式に知ることができますが、Astell & kernの再生画面は簡略化されているのでSuggested trackはありません。その代わりにSimilar Artistはあるので、曲の再生中にサブメニューからGo Artistを選択すると、そのアーティスト画面になるのでその下にSimilar Artistで似たような曲を探せます。またAppeared onを見るとアーティストが収録されているコンピレーションアルバムも表示されるので、そこから似たようなアーティストを探すこともできます。(ただSimilar Artistもたまに同名アーティストで誤爆しているものもあります)
例えばうちの記事の「ピアノの日」でも書いたNils Frahmを選択してSimilar ArtistするとA Winged Victory for the sullen、Max Lichter、Hauschkaなど納得出来るお勧めがなされます。このときA Winged Victory for the sullenをみてみたらこの一月に出たばかりの新譜を発見してしまいました。こうしたときはApple MusicだとCD買おうかと思いますが、TIDALならポータブルでも使えるし、家でも使えるので特に必要ないかと思います。月にこれが一回あるだけで元は取れてしまいます。
またDead Can Dance -> This mortal Coilの筋でたどったら2012年リリースですがいままで知らなかった新アルバムDust & Guitarsを発見してしまいました。私も音楽情報についてはかなりフォローしている方だと思いますが、This mortal Coilほどのアーティストでも知らないことがあったのかと愕然としてしまいました。そういえばEP集が出たっけかなあと思い出しました。Dust & Guitarsはリマスター集みたいなものですが、ニールヤングカバーのアルバム未収録曲も含まれてます。
4ADはもともとThis mortal Coilを出すために作ったレーベルみたいなものでしたが、今と昔ではがらっとレーベルカラーが変わったのであまりフォローしてなかったなぁと、こうして検索していてもふと感慨に浸ります。
曲数自体は私はほとんど洋楽の人なのでTIDALでもいいように思いますが、それでもApple Musicに比べるとやや少ない気はします。これも曲によりけりで、Apple Musicでない曲がTIDALで聴けたりするので単純には比較できないかもしれません。どちらもクリムゾンというかフリップ先生系はほとんどないですね。ただリックウエイクマンの今月の新譜(デビッドボウイのスペースオーディティのカバーが入ったやつ)とか、Vangelisの昨年の新譜などもあるので、オールドロックファンもそれなりについていけると思います。
またTIDALはエレクトロニカ周辺アーティストは日本も含めてけっこうあります。Scholeの小瀬村晶とかナカムラ・ハルカなどキーアーティストは抑えてますし、最近戸川純と仲良くやっているVampilliaも入ってます(戸川純はないけれど)。
ほかにうちのブログで紹介したアルバムでは、たとえば最近書いたDhafer YoussefのBirds Requiemはあります。ただしJohn PotterのAmores Pasadosはないですね。
Kaki Kingのような新進女性SSW、JoraneとかJuana Molinaのようなワールド系統の女性SSWなんかもマイナーですがけっこうありますね。女性SSWでは元祖的なSuzanne Vegaもたっぷりあります。たまにルカ聞いてみるのもよいね。
こうして探し出すとApple MusicよりもTIDALの方が収穫が大きく趣味的に楽しいという気はしますね。やはりApple Musicはシリアス・リスニングというよりも、どこか試聴的に聴いている感は否めません。
ただこれは個人的な好みになりますが、TIDALのキュレーションはあまり好きではありません。オーナーの先入観もあるかもしれませんが、一般的にヒップホップなどB系色が強い気がします。これも個人的感覚ですが、Apple Musicだとわりと感心するような納得できるキュレーションリストがよくありますが、TIDALだとジャンル別のキュレーションでもあまり好きではないです。
一方で純粋なストリーミングではありませんがBandcampは「見つける」リンクを良く使うし、お勧めアルバムも納得出来るので個人的にはTIDALはこの辺はいまひとつに感じますね。
もちろんTIDALのキュレーションで合う人もいると思います。ただわたしはTIDALに関しては検索のほかは、やはり自分でSuggested TrackとかSimilar Artistで見つけていくか、コンピレーションからたどるのが良いですね。
いずれにせよこのサービスが自分に合うかは一カ月無料の試聴期間に確認してみるというのが良いと思います。
* 高音質ストリーミングサービスとポータブルオーディオのゆく先
TIDALはJay Zの前のAspiro時代に比べるとメジャーレーベルの扱いが多くなったのだと思いますが、TIDALはこのリブートを境にアーティスト運営という色を濃くしてきたと思います。TIDAL Risingも埋もれたアーティストを取り上げようと言うアーティスト運営サービスらしい点とは言えるでしょう。TIDALプレーヤーはつい最近1.17というバージョンでTrack Editという機能が追加されました。これは曲ごとに開始時間・終了時間とテンポを編集できるというものです。これはDJ向けの機能という話もありますが、これもTIDALはアーティスト運営でアーティスト周辺のひとのことを考えたレーベルという色はわかります。
ただそのせいもあると思いますが、さきに書いたように収録音楽の傾向に偏りがあるようにも思います。
これは良さそうに見えてちょっときしみも感じます。Aspiro時代では高音質を生かすジャズやクラシックを多く取り上げるレーベルかとも思ってたんですが、リブート後はJay Z色が強くなったこともあって、取り上げているミュージシャンと、高音質というTIDALの利点がうまくかみ合っていないようにも見えます。いま流行っている音楽を聴きたいと言う人、こういう音楽を流行らせたいという趣旨に合うリスナーが、どれだけロスレスというところに価値を見出すかですね。
これにたいして、あるアメリカの調査によると、調査対象の85%の人が音質は「とても重要」であり、71%は「スタジオ品質のストリーミングに興味がある」、48%の人は「高音質オプションにお金を払う」と答えているそうです。そういう意味では特にジャズ・クラシックに傾倒する必要もないかもしれません。
また2016年8月のAstell & Kern(US)のブログでは、なぜハイレゾかというハイレゾプレーヤーの必要性に加えて、ダウンロード市場の売上低下がみられる一方で多くの人が高音質を望むという調査結果を引用しています。この辺もAstell & KernプレーヤーでTIDAL機能が加えられた理由の一つなのかもしれません。
いまハイレゾプレーヤーというとCDリッピングした音源とかダウンロードした音源を入れています。しかし、このどちらの市場も縮小化していくという事実、そして上記のようにユーザーはやはり高音質を望むという調査結果を踏まえれば、いずれはストリーミングがデジタルプレーヤーの音源の一つとして重みをましていき、そして高音質のストリーミングサービスが望まれるということになると思います。加えて日本のように携帯各社の20G通信プランなどでストリーミングのインフラもできてきています。
こうしてハイレゾプレーヤーにも高音質ストリーミングの機能(あるいはアプリ)が必要とされていくようになり、ポータブルオーディオの世界も少しずつ変わっていくかもしれません。行きつく先はスマートフォンが高音質化したものか、デジタルプレーヤーがスマホ化したものか、それは分かりません。いまデジカメとビデオの区別がつかなくなっているように。変化とはそうしたものでしょう。
またその同じ日にUniversal、SONY、Warnerの3大メジャーレーベルとRIAA(全米レコード協会)、DEG(Digital Entertainment Group)などがハイレゾでのストリーミングを支持するというむねのアナウンスをしています。そしてDEGが"Stream the Studio"のキャッチコピーのもとで展示を行っていたようです。
ストリーミングはスマートフォンなどで楽しむことも増えてきましたが、それがスタジオなみのより高音質を目指しているというわけです。やはり現時点で高音質ストリーミングというとTIDALになりますが、ポータブルでTIDALを楽しむ記事は意外とないので書いてみました。
"Stream the Studio"の目指すところの高音質ストリーミングが、ポータブルオーディオにどう影響を及ぼすかということです。
* TIDALの基本
TIDAL(タイダル)はロスレスの高音質配信(HIFIサブスクリプション時)を特徴とするストリーミングサービスで、ミュージシャンがオーナーとなった初めてのストリーミングサービスでもあります。(TIDALの登録方法は本稿では割愛します)
TIDALの品質は以下の通りです。
Normal : 96kbps AAC
High : 320 kbps AAC
HIFI : ロスレス(1411kbps)
TIDALでのストリーミングの同時再生は1デバイスまで、オフライン再生は同時に3デバイスまでの制限があります。
TIDALプレーヤーで画面下部にHIFIの表示があればロスレスで再生できています。それ以外はロッシーです。AKプレーヤーではこの表示はありません。
現在はPCプレーヤーではMQA - Masterもありますが、この場合にはHIFIの1411kbpsの帯域幅の中でMQA圧縮を使用してハイレゾストリーミングしているということになりますね。正確に言うとMQAはロスレスではありませんが、ハイレゾ品質とのトレードオフになります。ポータブルではMQAはいまのところサポートされていません。
* TIDALをポータブルで楽しむために
ポータブルでTIDALを楽しむには、スマートフォンアプリを使う方法と、Astell & KernデジタルプレーヤーのTIDAL機能を使う方法があります。
Oppo HA2SEとAK380
それぞれ接続のためにWiFiネットワークが必要です。私はWiMaxのポータブルルーターをいつも持っているのでそれを使っています。またスマートフォンの場合は最近では20GB制限のギガモンスターなどでスマートフォンでもストリーミングが楽しめるようになってきましたので携帯回線でも楽しめます。もちろんiPhoneとAK380でテザリング(インターネット共有)もできます。
スマートフォンはiPhone 7 plusを使っています。再生のためにはTIDALアプリが必要です(海外アカウントが必要です)。
Astell & Kernでは最新のファームを適用すると第三世代機とAK70ではストアにTIDALメニューが使えるようになります。
ポータブルならではの注意点などもまたあります。たとえば回線品質の設定です。WiFi Streaming QualityとCellular Streaming Qualityでそれでれ回線に応じた設定が可能です。(Normal. High, HIFI)
またその下のOptimised Playback(再生の最適化)ではAdaptive streamingが使用できます。これをオンにするとTIDALが回線の接続スピードに応じたレートでストリーミングしてなるべく途切れないようにします。ただし便利といえば便利ですが、TIDALの場合は常に高音質で聴きたいのですが、Adaptiveだといくらになっているかが分かりにくいので、この場合にはAdaptiveをオフにして置いた方がよいかもしれません。iOS版の回線品質はPC版と同様にアプリ下部に表示されます。
またiPhoneとiPadでは電波がなくてもキャッシュに入れるオフライン再生が可能ですが、Astell & Kernではオフライン再生はできません。ポータブルルーターのない人などは家でダウンロードしておいて、外ではオフライン再生するなどすると良いかもしれませんね。
先読みバッファリングもそれなりにされるので、トンネルに入ってただちに止まることはありません。ただし地下鉄は苦手なので携帯回線・テザリングでつなぐかオフラインの利用が必要になります。
* TIDALの音質はポータブルでも楽しめるか
iPhoneやiPadで直で聞いた場合、TIDALとApple Musicの音質差はオーディオファイルなら分かると思いますが、あまり大きくありません。iPhoneではせっかくのTIDALの高音質を生かすためにもOppo HA2のような外つけのスマートフォン向けのDACをお勧めします。ここではHA2SEを使いました。
HA2SEのような高性能DACを使うとTIDALの高い音質がよく分かると思います。HA2SEでWestone W80/ALOケーブルという組み合わせでApple musicと同じ曲で聴き比べると、楽器音の明瞭さが違いますし、打ち付けるようなパーカッションやドラムのキレが違います。TIDALはパシッ、Apple Musicはへなっという感じですね。また厚み、緻密さだけではなく立体感がTIDALでは際立って感じられます。
ワイヤレスの場合、BTにすると伝送で非可逆に落ちるのでTIDALの利点がなくなります。実際に差があまり感じられません。
iOS版のTIDALはほぼPCのTIDAL Playerと同じですがMaster(MQA)モードはありません。曲再生の時にディスクがぐるぐる回るのもPC版と同じです。iPhoneの場合はとても使い勝手が良いので検索も含めてPCと遜色なく使うことができると思います。
iOSアプリ再生画面
Astell & Kern再生画面
AK380シリーズの第3世代機およびAK70ではストアの下のTIDALリンクからTIDALを起動できます。これはさらにコンパクトで手軽に使えます。やはりWestone W80/ALOケーブルという組み合わせで聴いてみると、やはり音質はかなり良く、濃くて緻密な音が楽しめ、やはり切れがよく気持ちの良い音楽が楽しめます。
AK380やAK320にAMPを付けると一層本格的なオーディオの品質で音楽を楽しむことができます。AK380 copperであれば標準モデルとのカッパーならではの音の響きの美しさの違いもよく分かります。単体で聴く場合にはAK320がお勧めです。透明感と高域の伸びの良さが際立って良く感じられます。音源の品質についてはCDリッピングと変わりはないと言ってよいでしょう。
このようにポータブルでも十分に高音質の利点を楽しめます。よくストリーミングは試聴のようなもので、気に入ったら良い音のためにCDで買うということもありますが、TIDALならいい音で聞くためにCDを買う必要はないと言ってよいと思います。それを考えると月20$(HIFI)というやや高い料金も納得できるかもしれません。
私の場合はiPhoneに内蔵している購入した音源はBandcamp経由のノルウェーとかロシアとかの(世間から見ると)超マイナーなインディーアーティストの曲が多いので、Apple Musicでもほとんど出てきません。
そういう意味ではわりと内蔵音源(インディー)とストリーミング(メジャー)のように両立できてバランスは取れてます(というのか?)。
内蔵音源(リッピングまたはBandcampからのダウンロードのFLAC)はHiByアプリで再生して、ストリーミングはTIDALアプリまたはApple Musicという感じですね。
これらを良い音で聴きたいときはHA2SEで聴きます。あるいはMojoですね。気軽に聴きたいときは完全ワイヤレスになりますが、完全ワイヤレスだとTIDALとApple Musicの音質差はあまりありません(伝送の段階でロッシーになるので)。
まとめると、iPhoneでは外つけDACアンプを加えることでかなり良い音質で楽しむことができます。iOSアプリだと操作性もほとんど遜色なく、音楽情報の検索と相まって強力に使えると思います。
Astell & Kernプレーヤーではその高音質を生かしたままでストリーミングという新たな世界に踏み出せるという魅力があります。TIDALが使えるっていうことがAstell & Kern第三世代機やAK70を選ぶ新たな理由の一つになったくらいのレベルだと思いますね。
AK70のように低価格でコンパクト高音質なDAPをTIDALプレーヤーにできるのは意味が大きいと思います。
Astell & kernのMQA対応があればさらにハイレゾのストリーミングも楽しめるので期待したいところです。まさにAstell & Kernに見合った高いレベルの音質で手軽で柔軟なストリーミングができるのがTIDALの良い点です。
iOSアプリでMQA対応がなされ、HA2SEがMQA対応されればiPhoneでもハイレゾストリーミングが楽しめると思いますが、未知数です。iOSアプリでのMQAソフトウエアデコードはできるのか、これも気になります。
* TIDALの歩き方
Astell & Kernの場合には高音質DAPで、iPhoneのようにストリーミングが楽しめると言う点が大きいといえます。いままでAK DAPでは内蔵音源(もしくはAK ConnectでNASなど)から自分の持っている音源しか聴くことができませんでしたが、これでPCやiPhoneなどと同様に広大なストリーミング音源というまだ見ぬ音源が広がる大宇宙に飛び立つことができるわけです。しかもAstell & kernの高音質にみあった品質で聴くことができます。これはかなり画期的ですし、スマホのストリーミングに慣れていても新鮮に感じられます。
TIDALの場合には検索、Similar Artist、Suggested Tracksなどの機能で知見を広げられます。またTIDALお勧めの有名・無名アーティストを特集したTIDAL RisingやキュレーションされたPlaylistでも知らなかった音楽を探すことができます。
Astell & Kernプレーヤーの場合には曲を選択する基本動作は画面の小さなAK70でも使えます。しかしAKではキー入力が不便なので検索があつかいにくく、PC上でFavoriteやPlaylistを作ってからMy Music経由で共有してポータブルで聴くとよいですね。Playlistの場合は曲単位になるのでアルバム単位で聞きたい音楽を保存しておきたいときはアーティストやアルバム画面でFavorite(星)を押せばネットで共有できます。
またiPhoneの場合には音楽系のRSSフィードやTweetをみていて、気になる曲やアーティストがあったら、それをそのままコピペして検索しストリーミングサービスで探すことができますが、AKの場合にはそうした一体感はできないので、iPhoneのTIDALアプリでアーティストを見つけたらFavoriteを付けて、AKで聴くということがよいかもしれません。
PCやiPhoneのTIDALアプリでは曲を選択するとその下にSuggested trackが出てきて似たような曲を芋づる式に知ることができますが、Astell & kernの再生画面は簡略化されているのでSuggested trackはありません。その代わりにSimilar Artistはあるので、曲の再生中にサブメニューからGo Artistを選択すると、そのアーティスト画面になるのでその下にSimilar Artistで似たような曲を探せます。またAppeared onを見るとアーティストが収録されているコンピレーションアルバムも表示されるので、そこから似たようなアーティストを探すこともできます。(ただSimilar Artistもたまに同名アーティストで誤爆しているものもあります)
例えばうちの記事の「ピアノの日」でも書いたNils Frahmを選択してSimilar ArtistするとA Winged Victory for the sullen、Max Lichter、Hauschkaなど納得出来るお勧めがなされます。このときA Winged Victory for the sullenをみてみたらこの一月に出たばかりの新譜を発見してしまいました。こうしたときはApple MusicだとCD買おうかと思いますが、TIDALならポータブルでも使えるし、家でも使えるので特に必要ないかと思います。月にこれが一回あるだけで元は取れてしまいます。
またDead Can Dance -> This mortal Coilの筋でたどったら2012年リリースですがいままで知らなかった新アルバムDust & Guitarsを発見してしまいました。私も音楽情報についてはかなりフォローしている方だと思いますが、This mortal Coilほどのアーティストでも知らないことがあったのかと愕然としてしまいました。そういえばEP集が出たっけかなあと思い出しました。Dust & Guitarsはリマスター集みたいなものですが、ニールヤングカバーのアルバム未収録曲も含まれてます。
4ADはもともとThis mortal Coilを出すために作ったレーベルみたいなものでしたが、今と昔ではがらっとレーベルカラーが変わったのであまりフォローしてなかったなぁと、こうして検索していてもふと感慨に浸ります。
曲数自体は私はほとんど洋楽の人なのでTIDALでもいいように思いますが、それでもApple Musicに比べるとやや少ない気はします。これも曲によりけりで、Apple Musicでない曲がTIDALで聴けたりするので単純には比較できないかもしれません。どちらもクリムゾンというかフリップ先生系はほとんどないですね。ただリックウエイクマンの今月の新譜(デビッドボウイのスペースオーディティのカバーが入ったやつ)とか、Vangelisの昨年の新譜などもあるので、オールドロックファンもそれなりについていけると思います。
またTIDALはエレクトロニカ周辺アーティストは日本も含めてけっこうあります。Scholeの小瀬村晶とかナカムラ・ハルカなどキーアーティストは抑えてますし、最近戸川純と仲良くやっているVampilliaも入ってます(戸川純はないけれど)。
ほかにうちのブログで紹介したアルバムでは、たとえば最近書いたDhafer YoussefのBirds Requiemはあります。ただしJohn PotterのAmores Pasadosはないですね。
Kaki Kingのような新進女性SSW、JoraneとかJuana Molinaのようなワールド系統の女性SSWなんかもマイナーですがけっこうありますね。女性SSWでは元祖的なSuzanne Vegaもたっぷりあります。たまにルカ聞いてみるのもよいね。
こうして探し出すとApple MusicよりもTIDALの方が収穫が大きく趣味的に楽しいという気はしますね。やはりApple Musicはシリアス・リスニングというよりも、どこか試聴的に聴いている感は否めません。
ただこれは個人的な好みになりますが、TIDALのキュレーションはあまり好きではありません。オーナーの先入観もあるかもしれませんが、一般的にヒップホップなどB系色が強い気がします。これも個人的感覚ですが、Apple Musicだとわりと感心するような納得できるキュレーションリストがよくありますが、TIDALだとジャンル別のキュレーションでもあまり好きではないです。
一方で純粋なストリーミングではありませんがBandcampは「見つける」リンクを良く使うし、お勧めアルバムも納得出来るので個人的にはTIDALはこの辺はいまひとつに感じますね。
もちろんTIDALのキュレーションで合う人もいると思います。ただわたしはTIDALに関しては検索のほかは、やはり自分でSuggested TrackとかSimilar Artistで見つけていくか、コンピレーションからたどるのが良いですね。
いずれにせよこのサービスが自分に合うかは一カ月無料の試聴期間に確認してみるというのが良いと思います。
* 高音質ストリーミングサービスとポータブルオーディオのゆく先
TIDALはJay Zの前のAspiro時代に比べるとメジャーレーベルの扱いが多くなったのだと思いますが、TIDALはこのリブートを境にアーティスト運営という色を濃くしてきたと思います。TIDAL Risingも埋もれたアーティストを取り上げようと言うアーティスト運営サービスらしい点とは言えるでしょう。TIDALプレーヤーはつい最近1.17というバージョンでTrack Editという機能が追加されました。これは曲ごとに開始時間・終了時間とテンポを編集できるというものです。これはDJ向けの機能という話もありますが、これもTIDALはアーティスト運営でアーティスト周辺のひとのことを考えたレーベルという色はわかります。
ただそのせいもあると思いますが、さきに書いたように収録音楽の傾向に偏りがあるようにも思います。
これは良さそうに見えてちょっときしみも感じます。Aspiro時代では高音質を生かすジャズやクラシックを多く取り上げるレーベルかとも思ってたんですが、リブート後はJay Z色が強くなったこともあって、取り上げているミュージシャンと、高音質というTIDALの利点がうまくかみ合っていないようにも見えます。いま流行っている音楽を聴きたいと言う人、こういう音楽を流行らせたいという趣旨に合うリスナーが、どれだけロスレスというところに価値を見出すかですね。
これにたいして、あるアメリカの調査によると、調査対象の85%の人が音質は「とても重要」であり、71%は「スタジオ品質のストリーミングに興味がある」、48%の人は「高音質オプションにお金を払う」と答えているそうです。そういう意味では特にジャズ・クラシックに傾倒する必要もないかもしれません。
また2016年8月のAstell & Kern(US)のブログでは、なぜハイレゾかというハイレゾプレーヤーの必要性に加えて、ダウンロード市場の売上低下がみられる一方で多くの人が高音質を望むという調査結果を引用しています。この辺もAstell & KernプレーヤーでTIDAL機能が加えられた理由の一つなのかもしれません。
いまハイレゾプレーヤーというとCDリッピングした音源とかダウンロードした音源を入れています。しかし、このどちらの市場も縮小化していくという事実、そして上記のようにユーザーはやはり高音質を望むという調査結果を踏まえれば、いずれはストリーミングがデジタルプレーヤーの音源の一つとして重みをましていき、そして高音質のストリーミングサービスが望まれるということになると思います。加えて日本のように携帯各社の20G通信プランなどでストリーミングのインフラもできてきています。
こうしてハイレゾプレーヤーにも高音質ストリーミングの機能(あるいはアプリ)が必要とされていくようになり、ポータブルオーディオの世界も少しずつ変わっていくかもしれません。行きつく先はスマートフォンが高音質化したものか、デジタルプレーヤーがスマホ化したものか、それは分かりません。いまデジカメとビデオの区別がつかなくなっているように。変化とはそうしたものでしょう。
2017年01月16日
Westone W80・現行製品とカートライト兄弟のポリシー
カールとクリスのカートライト兄弟のインタビューではメインになったイヤモニ黎明期の話以外にもW80など製品話もカバーしました。また別ルームでWestoneのトークセッションも行われました。そうしてカートライト兄弟のインタビューやトークセッションを通じて彼らのサウンドポリシーを知った後でW80を聴いてみるとまた新たな興味を持つことができます。
本記事ではそうした意味でW80を聴き直したインプレと、インタビューやトークセッションでの現行製品の内容をカバーしたいと思います。
左からカール・カートライト、ハンク・ネザートン、クリス・カートライト
W80はコンパクトでプラスチック筺体という見た目がコンシューマーライクではありますが、羊の皮をかぶったオオカミと言うかW80は音的にはハイエンドイヤフォンの領域に入ると思います。それはやはりカール・カートライトいわく、ハーモニックコンテント(倍音)再現の追求というところが結実しているからでしょう。それは音色の細かな色彩感・グラデーションを緻密に表現して楽器音色の違いを明確にすることです。実のところW60とドライバーで大きく異なるのは高域くらいですが(クロスオーバーも別物)、W60とは別物に聴こえるくらい性能が良くなっています。
このように音色再現の細やかさが追及されたW80ではそれゆえALOの標準添付ケーブルが効果的に音質を高めてくれます。
W80,AK380
前は時間がなくてALOケーブルは軽く試したくらいだったのですが、改めてじっくり使ってみるとW80はALOケーブルで生きてくるというか、標準のepicだと物足りなさ感があります。伸びしろの大きいW80のポテンシャルの高さにまた驚かされる感じですね。ALOの付属ケーブルはタッチノイズがややあるのが残念ではありますが、音傾向はW80にあっていてエージングをたっぷりやるとWestoneらしい温かみもよくわかります。
W80がこれまでのシリーズと違う点はこのALOケーブルの標準添付のほかに箱が豪華になったというところもあります。こうしてW80がいままでのWestoneと少し違うように思えるのは、オーディオ系のマーケッティングの方針がよりアグレッシブに変わったからだそうです。ALOのケーブルを付属したのもこの新しい方針によるもので、これからのWestoneの打つ手もまた面白いものになっていくと思います。
ちなみにインタビューの時にW80の箱にカールさんの言葉が書いてますよね、とカールに行ったら「あー、あれねー」みたいに恥ずかしそうにしてました。
カール・カートライト
カール・カートライトはW80はW60の後継として一つの達成感があると述べています。W80で感銘するのはやはりW60でもすごいと思ったコンパクトな筐体にさらに2基の高域ドライバーを足してそのハーモニックコンテントの追求をしたという点です。これは別の記事でも書きましたが、まさにカールとクリスのカーへとライト兄弟の緊密さのたまものという感じで、機関銃を耳に刺したものから、二人でいっしょに作業して楽しみながら、これなら耳にはまると試行錯誤を重ねていくということです。
試作品はたくさん作成して、ファイナルプロトタイプをは2つに絞り、一つ目はクロスオーバーに独自性を加え、2つ目は無難にしたところ、やはり一番目のものが良かったのでこれが採用されたということ。
このようにW80で高域のドライバーを4つにした理由は高域の伸びを拡張することで、テーマであるハーモニックコンテント(倍音)を引き出すという狙いです。基音があって倍音があるわけで、倍音が加わることで楽器の音がわかることになるのが目的というわけですね。
手を叩いて、反響までわかるのが目標ということですが、実際に私がインタビューしたときも、カールにわたしが「W60でもコンパクトなのに音の広がりがすごいけど、さらにW80は音の広がりがすごいですね」と言ったら感極まった感じで感銘してくれて、「やった、やはりおれの狙い通りだった。そのコメントが実証してくれる。」と泣いてくれたということがありまして、W80の音質の良さというのはやはりそのハーモニックコンテントの追求という点に結実していると思います。
音質の他のWestoneの特徴はやはりコンパクトで装着感が良いことです。普通ハイエンドクラスのイヤフォンは2つとか3つの音導孔が空いていて、先端のノズル(ステム)の部分が太くなってしまい音はよくても装着性に難をきたすことが良くあります。しかしWestoneの場合は細いノズルにこだわっていて、耳のどこにも痛みがないものが作れたと言っています。
多ドライバのチューニングにも内部で彼らがブーツと呼んでいる部分(詳細は企業秘密ということ)のノウハウなど、多くのテクニックがあるようです。筺体設計的にW80のターゲットはW60のノズルであり、この細いノズルの形がウエストンの回答ということです。
クリス・カートライト
Westoneはイヤピースにもこだわりがあり、フォームもシリコンもWestoneオリジナルです。シリコンはクリスが作ったということです。シリコン(スターチップ)はオレンジの輪切りからインスピレーションを得たとか。フォームはうるさい環境に向いていますが、高域はやや犠牲になるということ。
W80, Oppo HA2SE
W80のチューニングは帯域特性もバランスよく、ワイドレンジで低域は膨らみはないけれども量感はたっぷりあって歯切れよく緩みがありません。下にもよく沈んでいきます。モニターにも使えそうな帯域特性と言えますね。
ちなみにWestoneイヤフォンの大まかな帯域特性の傾向は大きく3つあり用途で分けられます。UMシリーズは低域がやや多めでライブ用、Wはオーディオファイルやマスタリング向けでもっとフラット、カスタムのESはその中間くらいです。
ES60
カスタムの話をすると、ES60についてはW60とドライバーが同じなのにさらに音質が良くなっていますが、どうしてですかとカールに聞いたところ、カスタムであるES60はW60よりもサウンドチューブが長く引き回せるのでチューニングの自由度が高く、やりたいことができたということでした。
Westone 30
また日本限定品であるWestone 30についても聞いてみました。彼らはWestone 30のことはJ30と呼んでいました、コードネームなのでしょう。一番聞きたかったのはどの曲を聞いたかですがこれはJPOPやアニメの曲などで、アーティストはベビーメタルとかアジアンカンフージェネレーションなどということ。日本の曲は高音域がキラキラとしていることが特徴で、低域は抑えめと言っていました。こうした周波数的なものが開発ターゲットだったようです。
アンビエントモデルについては時間がなくてほとんど触れられなかったのですが、特殊ベントについては音質的なものよりもやはり外の音を聴くという点にターゲットがあったそうです。
日本の市場についてはみな真剣でまじめ、彼らのやることを真摯に受け止めてもらっていると好評価でした。これはどの海外の開発者に聞いても同じですが、日本市場は他をリードするパイロット的な役割を果たしていると考えられています。これもみな日本のユーザーの熱意のたまものだと思います。
本記事ではそうした意味でW80を聴き直したインプレと、インタビューやトークセッションでの現行製品の内容をカバーしたいと思います。
左からカール・カートライト、ハンク・ネザートン、クリス・カートライト
W80はコンパクトでプラスチック筺体という見た目がコンシューマーライクではありますが、羊の皮をかぶったオオカミと言うかW80は音的にはハイエンドイヤフォンの領域に入ると思います。それはやはりカール・カートライトいわく、ハーモニックコンテント(倍音)再現の追求というところが結実しているからでしょう。それは音色の細かな色彩感・グラデーションを緻密に表現して楽器音色の違いを明確にすることです。実のところW60とドライバーで大きく異なるのは高域くらいですが(クロスオーバーも別物)、W60とは別物に聴こえるくらい性能が良くなっています。
このように音色再現の細やかさが追及されたW80ではそれゆえALOの標準添付ケーブルが効果的に音質を高めてくれます。
W80,AK380
前は時間がなくてALOケーブルは軽く試したくらいだったのですが、改めてじっくり使ってみるとW80はALOケーブルで生きてくるというか、標準のepicだと物足りなさ感があります。伸びしろの大きいW80のポテンシャルの高さにまた驚かされる感じですね。ALOの付属ケーブルはタッチノイズがややあるのが残念ではありますが、音傾向はW80にあっていてエージングをたっぷりやるとWestoneらしい温かみもよくわかります。
W80がこれまでのシリーズと違う点はこのALOケーブルの標準添付のほかに箱が豪華になったというところもあります。こうしてW80がいままでのWestoneと少し違うように思えるのは、オーディオ系のマーケッティングの方針がよりアグレッシブに変わったからだそうです。ALOのケーブルを付属したのもこの新しい方針によるもので、これからのWestoneの打つ手もまた面白いものになっていくと思います。
ちなみにインタビューの時にW80の箱にカールさんの言葉が書いてますよね、とカールに行ったら「あー、あれねー」みたいに恥ずかしそうにしてました。
カール・カートライト
カール・カートライトはW80はW60の後継として一つの達成感があると述べています。W80で感銘するのはやはりW60でもすごいと思ったコンパクトな筐体にさらに2基の高域ドライバーを足してそのハーモニックコンテントの追求をしたという点です。これは別の記事でも書きましたが、まさにカールとクリスのカーへとライト兄弟の緊密さのたまものという感じで、機関銃を耳に刺したものから、二人でいっしょに作業して楽しみながら、これなら耳にはまると試行錯誤を重ねていくということです。
試作品はたくさん作成して、ファイナルプロトタイプをは2つに絞り、一つ目はクロスオーバーに独自性を加え、2つ目は無難にしたところ、やはり一番目のものが良かったのでこれが採用されたということ。
このようにW80で高域のドライバーを4つにした理由は高域の伸びを拡張することで、テーマであるハーモニックコンテント(倍音)を引き出すという狙いです。基音があって倍音があるわけで、倍音が加わることで楽器の音がわかることになるのが目的というわけですね。
手を叩いて、反響までわかるのが目標ということですが、実際に私がインタビューしたときも、カールにわたしが「W60でもコンパクトなのに音の広がりがすごいけど、さらにW80は音の広がりがすごいですね」と言ったら感極まった感じで感銘してくれて、「やった、やはりおれの狙い通りだった。そのコメントが実証してくれる。」と泣いてくれたということがありまして、W80の音質の良さというのはやはりそのハーモニックコンテントの追求という点に結実していると思います。
音質の他のWestoneの特徴はやはりコンパクトで装着感が良いことです。普通ハイエンドクラスのイヤフォンは2つとか3つの音導孔が空いていて、先端のノズル(ステム)の部分が太くなってしまい音はよくても装着性に難をきたすことが良くあります。しかしWestoneの場合は細いノズルにこだわっていて、耳のどこにも痛みがないものが作れたと言っています。
多ドライバのチューニングにも内部で彼らがブーツと呼んでいる部分(詳細は企業秘密ということ)のノウハウなど、多くのテクニックがあるようです。筺体設計的にW80のターゲットはW60のノズルであり、この細いノズルの形がウエストンの回答ということです。
クリス・カートライト
Westoneはイヤピースにもこだわりがあり、フォームもシリコンもWestoneオリジナルです。シリコンはクリスが作ったということです。シリコン(スターチップ)はオレンジの輪切りからインスピレーションを得たとか。フォームはうるさい環境に向いていますが、高域はやや犠牲になるということ。
W80, Oppo HA2SE
W80のチューニングは帯域特性もバランスよく、ワイドレンジで低域は膨らみはないけれども量感はたっぷりあって歯切れよく緩みがありません。下にもよく沈んでいきます。モニターにも使えそうな帯域特性と言えますね。
ちなみにWestoneイヤフォンの大まかな帯域特性の傾向は大きく3つあり用途で分けられます。UMシリーズは低域がやや多めでライブ用、Wはオーディオファイルやマスタリング向けでもっとフラット、カスタムのESはその中間くらいです。
ES60
カスタムの話をすると、ES60についてはW60とドライバーが同じなのにさらに音質が良くなっていますが、どうしてですかとカールに聞いたところ、カスタムであるES60はW60よりもサウンドチューブが長く引き回せるのでチューニングの自由度が高く、やりたいことができたということでした。
Westone 30
また日本限定品であるWestone 30についても聞いてみました。彼らはWestone 30のことはJ30と呼んでいました、コードネームなのでしょう。一番聞きたかったのはどの曲を聞いたかですがこれはJPOPやアニメの曲などで、アーティストはベビーメタルとかアジアンカンフージェネレーションなどということ。日本の曲は高音域がキラキラとしていることが特徴で、低域は抑えめと言っていました。こうした周波数的なものが開発ターゲットだったようです。
アンビエントモデルについては時間がなくてほとんど触れられなかったのですが、特殊ベントについては音質的なものよりもやはり外の音を聴くという点にターゲットがあったそうです。
日本の市場についてはみな真剣でまじめ、彼らのやることを真摯に受け止めてもらっていると好評価でした。これはどの海外の開発者に聞いても同じですが、日本市場は他をリードするパイロット的な役割を果たしていると考えられています。これもみな日本のユーザーの熱意のたまものだと思います。
2017年01月10日
バランスドアーマチュア・イヤモニはじめて物語 - Westoneカートライト兄弟のインタビューから
来日していたWestoneの音作りのキーパーソンである"ゴッドファーザー"カールと"テーラー"クリスのカートライト兄弟のインタビューを12月17日に行いました。
左: カール・カートライト 右:クリス・カートライト
はじめは一時間の予定でWestoneの歴史的なところと、W30やW80など新製品の話題など一通り質問するシナリオを用意していったんですが、はじめの歴史のところで私がとても興味ありそうにしていると見抜くや、イヤモニの黎明期の話だけで一時間半も話があり、たっぷりとこの時期の話を聞くことができました。
W80などの話はまたあとで時間を作ったりトークセッションでカバーしたりしたのですが、このイヤモニの黎明期の話がとても興味深く、なぜいまのイヤモニの標準的な形がカスタムシェル+BAドライバーの形式になったのか、そこにWestoneがどう関わっていったのかがよく分かったのでここを中心に本稿では書いていきます。
1. カートライト兄弟
まずカールとクリスのカートライト兄弟は双子でカールの方が11分だけお兄さんなのだそうです。この二人は1979年からWestoneで働いています。Westoneでは補聴器用のカスタムイヤピースを作るところから仕事を始めています。いまでは音楽分野だけではなく、通信(軍事・パイロット向け)関係にも携わっています。(ちなみにWestoneは1959年から聴覚関連の仕事をしている老舗メーカーです)
Westoneでの役割はカールが音決めでクリスが筺体設計と言われますが、実際はそうはっきり決まったものではなく、ひとつのチームとして一体で設計しているというほうが正しいようです。その関係はとても緊密なものです。カールがこういう音にしたいのでこういうプロトタイプ(線がはみ出していたり汚い)を作った、というとクリスはそれを受けてもっと筐体にドライバーを上手に詰めて現実的なものにしたり、その音をより上手に引き出すというようなことをします。実際に話を聴いていても話をリードしていくのはカールですが、クリスがそれを受けてフォローして器用に絵を描いて説明する、という具合にこの役割がよくわかります。
カール・カートライト
ふたりは子供のころからオーディオや音楽が好きで、ミュージシャンとしてもカールがベースでクリスがドラムを担当していたということで、カールは(ベースミュージシャンの多くがそうであるように)エンジニアもしていたということ。子供のころはみなのように部屋を共有していたのですが、オーディオ(ステレオ)も二人で一つだったが、メインで音を聴いていたのはカールで、その本体に絵をかいたりしてたのはクリスということ。
実際Westoneでもカールとクリスはやはり兄弟で競争心もあるので、どちらが何個カスタムイヤピースを作るかという競争をしたりしたそう。数えるのは25万個まで数えてやめたそうですが、これによってイヤピースの作り方にはかなり経験を積んだそうです。
2. カスタムイヤチップからクローズシェルへ
まずオーディオ界に起こった画期的な出来事はWalkmanの登場です。これでいままで肩にラジカセ担いでいたようなものが大きく変わりポータブルの時代となった。(Walkmanの登場は1979ですが、おそらくアメリカに入ったのはちょっとあと)
当時アメリカではエクササイズがはやっていて、イヤフォンが耳からずれるのが問題だったとのこと(Ollivia Newton Johnの“Let's Get Physical”を例に出してました)。これを解決するためにイヤフォンにはめるカスタムのイヤーチップを製作しました(1985)。
これは今で言うとWestone UM56のようなものです。これはペア$ 40〜50(当時)ということで、実際に補聴器屋さんを通して一般に販売したということ。これがWestoneの初めての音楽用の製品だそうです(ミュージシャンともつながりはなかった)。
クリス・カートライトとWalkman用イヤチップの絵
いままでWestoneは(補聴器メーカーなので)ベージュのものしかイヤーチップはなかったが、これはネオンタイプのカラフルなものも作ったそうです(これは補聴器業界としては画期的なことだったそう)。
このイヤピースはエクササイズのために始めたのですが、それが今度はスイミングでも使えないかということになり、そのために防水のため全体を覆う完全クローズのシェルになっていったということです。これがいまのクローズシェルを備えたカスタムIEMのはじまりと言えそうですが、当時はスイミングイヤピースと呼んでいたそうです(多少販売したそうです)。しかし中のドライバーはまだWalkmanの標準のダイナミックドライバーを使っていて音は良くなかったそう。
次に登場するのが缶詰工場です。あるとき缶詰工場の生産ラインの監督から相談があったそうです。缶詰工場はうるさいのでモトローラ製の通信機を指示に使うのだそうですが、これはダイナミックで音質は良くなかったそうです。しかし実際に完全クローズで作るとダイナミックでは(ベントがなく密閉されていると)低音が落ちて聞きにくくなってしまいます。
そこでスイミングイヤピースと補聴器の経験が使えるのではないかと考えたそうです。つまり補聴器のバランスドアーマチュアドライバーと、スイミングイヤピースのクローズシェルを組み合わせれば(ダイナミックには必要な)ベント穴も不要で完全クローズのモニターが作れるのではないかということです。
この辺でカスタムシェル+BAという図式が定まってきます。ただしまだ音楽用途ではありません。
3. ステージ用のカスタムイヤモニへの進化
そうしていくうちにビルクライスラーという音楽プロデューサーから相談がありました。彼はデフ・レパードとラッシュを手掛けていたんですが、デフレバードではフロアモニターの音をヴォーカルが自分の声が聞こえなくなっていたという問題がありました。それを解決するためにそのころすでにイヤーモニターを使っていたけれども、それは開放型のようなものだった。それを解決するためにBAを応用したクローズシェルのモニターをBAメーカーと共同で開発して、音楽特性にも向いたモニターを開発していったということです。(1990)
ラッシュはまた別の「遅延」の問題があったと言います。なにかというと、バンドもレッドツェッペリンなどの時代はステージが狭かったが、20年もたつとステージがとても広くなっていったということです。こうなるとたとえばドラマーがワン・ツー・スリーとカウントしても聴いているほうで遅延があるということ。このとき、足元にモニターがあればよいけれども、ミュージシャンは動くのでミリセカンド単位では遅延が起こるということ。
これはラッシュのように複雑・テクニカルなバンドではかなり問題となるそうです。それを解決するためにやはりこのクローズシェルとBAの組み合わせのイヤーモニターを応用したということです。
クリスの書いたステージの絵
しかしながら当時(1991年ころ)はこうしたイヤモニとレシーバーはとても高価で一人一人が持つとは考えにくく、市場が大きいとは思えなかったそう。カートライト兄弟も自分でも使うような趣味の延長としてとらえていて、Westoneが取り組むような市場があるとは思ってなかったとのことてです。
4. UE by Westoneの誕生
そのうちリーボディシステムというところから電話がありました(1995)。そこはVan Halenのツアーにモニター機材の貸し出しを行う会社でした。ツアーでVan Halenがイヤモニをよく飛ばしてしまうという(壊してしまう)という問題があり、そちらでDef LeppardやRushで使った解決策が使えないかということをワールドツアー前にエンジニアから電話していいかということでした。
そのエンジニアこそがJerry Harveyでした。そこでJerryとすぐに意気投合したそうです。
調べてみるとリーボディはガーウッドという会社のダイナミックドライバーのイヤモニ(と無線レシーバー)を使っていたんですが、それはダイナミックドライバーを使っていたためベントホールがあったそうです。そうするとベントから騒音が入ってきて音が聴き取りにくくなり、音量を上げて結果としてドライバーを飛ばしてしまうということが続いたそう。
これに対してWestone(カートライト兄弟)は二つの提案をし、ひとつはフェイスプレートを外せる方式にしてドライバーの交換を容易にするという方法、もう一つは根本的にドライバーをバランスド・アーマチュアにするという方法です。結局BAの導入によって飛ばすことがなくなりこのクローズシェルとBAの方式が成功したということ。
これ以降ジェリーハービーとカートライト兄弟が意気投合して友人となったということです。
これでクローズシェルとBAのイヤモニがビジネスになるということが分かり、ジェリーの提案で「Ultimate Ears by Westone」という会社をジェリーハービーとWestoneで共同で立ち上げたということです。ジェリーはミュージシャンとのつながりが強く、Westoneは資金力と技術があったのでこの関係はうまくいったということ。UEの初期製品であるUE1,2,3,5をこの枠組みで作っていったということです。
5. マルチドライバーへ
そのうちカールがジェリーと電話でブレインストーミングをした際にPAシステムのようなスピーカーみたいにイヤモニもマルチドライバーで作れるのではないかという思い付きをしたそうです。これはなにか問題を解決すると言うよりもスピーカーで出来ることはイヤモニでもできるのではないかという発想だったそう。ただし補聴器の世界では難聴には低域が聞こえない人や高域が聞こえない人などさまざまで、それに対しての解決策があるということもまた知っていたということです。それを発展させて作っていったということ。
ジェリーはこのとき低音域をダイナミック、高音域をBAというハイブリッドの提案をし、カールは高域も低域もBAを使うという提案をしたそう。カールとクリスで試作をしてみて結果として2BAタイプの方がよく、これがUE5となったようです。
6. Shureとの関係
Shureがジェリーにコンタクトをしてきて、ShureのPSM600というイヤモニの無線レシーバーの評価をしてもらったということ。Shureはダイナミックドライバーを使おうとしていましたが、WestoneがSHUREにステージでの使用はBAのほうが利点があると説明し、カールとクリスは二つのプロトを設計したということです。ひとつはShureから要求がありダイナミックバージョンと、もう一つはBAタイプです。後者が採用されてShure E1となります(1997)。
Westone UM1(旧タイプ)、Shure E1と見た目はほとんど同じだがロゴとカラーが異なる
このE1はNAMMに間に合わせるために時間がなく、ちょっと雑な外観となってしまったと述懐していました。これには2つの重要な点があります。ひとつは傾いた先端のチップ・ステムの部分です。これは耳にはまりやすい初の傾いたステムを持ったイヤモニだそう。もうひとつはこれによって、ケーブルを耳の後ろにかけられるようになったということです。そう、いまShureがけと言われる方式ですが、実際はカール&クリスがけと言うべきではというと笑ってました。販売したのはShureだけれども、作ったのはWestoneというわけです。
その後にデュアルドライバーのE5もカールとクリスが手掛けたそうです。ですのでShureもUEも初期のモデルはカールとクリスがJerryとのコラボレーションして設計していました。UEの製品(カスタムイヤモニ)とShureの製品(ユニバーサルフィット)は両方とも「by Westone」のタグライン(キャッチコピー)で両社から販売されました。
6. その後
その後はビジネスのことでもあり互いに距離を置いて、Westone、ジェリー(UE)、Shureとも独自の道・開発を行くようになります。
そして他のメーカーに供給していたWestoneも自分でブランドを持つようになり、これからが好きなようにやれて面白いんだとクリスが言っていたんですが、インタビューはさすがに時間が無くなりここまでとなりました。
右がWestone 3、左は10年後のWestone 30
ここからは我々の時代につながります。やがてShureがE5、UE(ジェリー)がTriple.fi 10 pro、そしてWestoneが初の3wayのWestone 3を出すというビッグ3の戦国時代となっていき、日本ではMusic To Goなるブログがそれらに刺激されて記事を書き、そしていまのイヤフォン全盛時代となっていきます。
この流れはテックウインドのホームページに年表にまとめて掲載されています。
とても興味深い話で面白いインタビューとなりました。Westoneのトークセッションに出ていた人も分かったと思いますが、とにかく話し出すと止まらない感じで、まずカールに聴くと話し出すと止まらず、クリスもあれはこうだったと乗ってきて絵を描きだして、ひとつの話題でどんどん膨らみだします。
Westoneは軍事関係にも携わる大きい会社だけあって硬いイメージでしたが、この二人と接するととても人間味があって面白い印象に変わると思います。ジェリーハービーがJH Audioの顔であり、モールトンがNobleの顔であるように、このカートライト兄弟もまたWestoneの顔となると思います。
インタビューのはじめにこれは聞きたいと思っていたのは、どうやったらWestoneではW60やW80のコンパクトなボディにあの6個も8個ものドライバーを詰めてかつハイエンドの音を達成できるのかということでした。これは結局聴かなかったんですが、時間がなかったというよりも、インタビューを聴いているうちにこのことは聞かなくてもよいと思えてきたからです。
この二人の仲良く緊密な連携、そしてこの長い経験があればこそ、この一見無理に見えることが可能になったのでしょう。
Westoneの音の良さの秘密というのはカールとクリスのカートライト兄弟によるもので、それゆえここが他社にはないWestoneの強みなのだと実感しました。
左: カール・カートライト 右:クリス・カートライト
はじめは一時間の予定でWestoneの歴史的なところと、W30やW80など新製品の話題など一通り質問するシナリオを用意していったんですが、はじめの歴史のところで私がとても興味ありそうにしていると見抜くや、イヤモニの黎明期の話だけで一時間半も話があり、たっぷりとこの時期の話を聞くことができました。
W80などの話はまたあとで時間を作ったりトークセッションでカバーしたりしたのですが、このイヤモニの黎明期の話がとても興味深く、なぜいまのイヤモニの標準的な形がカスタムシェル+BAドライバーの形式になったのか、そこにWestoneがどう関わっていったのかがよく分かったのでここを中心に本稿では書いていきます。
1. カートライト兄弟
まずカールとクリスのカートライト兄弟は双子でカールの方が11分だけお兄さんなのだそうです。この二人は1979年からWestoneで働いています。Westoneでは補聴器用のカスタムイヤピースを作るところから仕事を始めています。いまでは音楽分野だけではなく、通信(軍事・パイロット向け)関係にも携わっています。(ちなみにWestoneは1959年から聴覚関連の仕事をしている老舗メーカーです)
Westoneでの役割はカールが音決めでクリスが筺体設計と言われますが、実際はそうはっきり決まったものではなく、ひとつのチームとして一体で設計しているというほうが正しいようです。その関係はとても緊密なものです。カールがこういう音にしたいのでこういうプロトタイプ(線がはみ出していたり汚い)を作った、というとクリスはそれを受けてもっと筐体にドライバーを上手に詰めて現実的なものにしたり、その音をより上手に引き出すというようなことをします。実際に話を聴いていても話をリードしていくのはカールですが、クリスがそれを受けてフォローして器用に絵を描いて説明する、という具合にこの役割がよくわかります。
カール・カートライト
ふたりは子供のころからオーディオや音楽が好きで、ミュージシャンとしてもカールがベースでクリスがドラムを担当していたということで、カールは(ベースミュージシャンの多くがそうであるように)エンジニアもしていたということ。子供のころはみなのように部屋を共有していたのですが、オーディオ(ステレオ)も二人で一つだったが、メインで音を聴いていたのはカールで、その本体に絵をかいたりしてたのはクリスということ。
実際Westoneでもカールとクリスはやはり兄弟で競争心もあるので、どちらが何個カスタムイヤピースを作るかという競争をしたりしたそう。数えるのは25万個まで数えてやめたそうですが、これによってイヤピースの作り方にはかなり経験を積んだそうです。
2. カスタムイヤチップからクローズシェルへ
まずオーディオ界に起こった画期的な出来事はWalkmanの登場です。これでいままで肩にラジカセ担いでいたようなものが大きく変わりポータブルの時代となった。(Walkmanの登場は1979ですが、おそらくアメリカに入ったのはちょっとあと)
当時アメリカではエクササイズがはやっていて、イヤフォンが耳からずれるのが問題だったとのこと(Ollivia Newton Johnの“Let's Get Physical”を例に出してました)。これを解決するためにイヤフォンにはめるカスタムのイヤーチップを製作しました(1985)。
これは今で言うとWestone UM56のようなものです。これはペア$ 40〜50(当時)ということで、実際に補聴器屋さんを通して一般に販売したということ。これがWestoneの初めての音楽用の製品だそうです(ミュージシャンともつながりはなかった)。
クリス・カートライトとWalkman用イヤチップの絵
いままでWestoneは(補聴器メーカーなので)ベージュのものしかイヤーチップはなかったが、これはネオンタイプのカラフルなものも作ったそうです(これは補聴器業界としては画期的なことだったそう)。
このイヤピースはエクササイズのために始めたのですが、それが今度はスイミングでも使えないかということになり、そのために防水のため全体を覆う完全クローズのシェルになっていったということです。これがいまのクローズシェルを備えたカスタムIEMのはじまりと言えそうですが、当時はスイミングイヤピースと呼んでいたそうです(多少販売したそうです)。しかし中のドライバーはまだWalkmanの標準のダイナミックドライバーを使っていて音は良くなかったそう。
次に登場するのが缶詰工場です。あるとき缶詰工場の生産ラインの監督から相談があったそうです。缶詰工場はうるさいのでモトローラ製の通信機を指示に使うのだそうですが、これはダイナミックで音質は良くなかったそうです。しかし実際に完全クローズで作るとダイナミックでは(ベントがなく密閉されていると)低音が落ちて聞きにくくなってしまいます。
そこでスイミングイヤピースと補聴器の経験が使えるのではないかと考えたそうです。つまり補聴器のバランスドアーマチュアドライバーと、スイミングイヤピースのクローズシェルを組み合わせれば(ダイナミックには必要な)ベント穴も不要で完全クローズのモニターが作れるのではないかということです。
この辺でカスタムシェル+BAという図式が定まってきます。ただしまだ音楽用途ではありません。
3. ステージ用のカスタムイヤモニへの進化
そうしていくうちにビルクライスラーという音楽プロデューサーから相談がありました。彼はデフ・レパードとラッシュを手掛けていたんですが、デフレバードではフロアモニターの音をヴォーカルが自分の声が聞こえなくなっていたという問題がありました。それを解決するためにそのころすでにイヤーモニターを使っていたけれども、それは開放型のようなものだった。それを解決するためにBAを応用したクローズシェルのモニターをBAメーカーと共同で開発して、音楽特性にも向いたモニターを開発していったということです。(1990)
ラッシュはまた別の「遅延」の問題があったと言います。なにかというと、バンドもレッドツェッペリンなどの時代はステージが狭かったが、20年もたつとステージがとても広くなっていったということです。こうなるとたとえばドラマーがワン・ツー・スリーとカウントしても聴いているほうで遅延があるということ。このとき、足元にモニターがあればよいけれども、ミュージシャンは動くのでミリセカンド単位では遅延が起こるということ。
これはラッシュのように複雑・テクニカルなバンドではかなり問題となるそうです。それを解決するためにやはりこのクローズシェルとBAの組み合わせのイヤーモニターを応用したということです。
クリスの書いたステージの絵
しかしながら当時(1991年ころ)はこうしたイヤモニとレシーバーはとても高価で一人一人が持つとは考えにくく、市場が大きいとは思えなかったそう。カートライト兄弟も自分でも使うような趣味の延長としてとらえていて、Westoneが取り組むような市場があるとは思ってなかったとのことてです。
4. UE by Westoneの誕生
そのうちリーボディシステムというところから電話がありました(1995)。そこはVan Halenのツアーにモニター機材の貸し出しを行う会社でした。ツアーでVan Halenがイヤモニをよく飛ばしてしまうという(壊してしまう)という問題があり、そちらでDef LeppardやRushで使った解決策が使えないかということをワールドツアー前にエンジニアから電話していいかということでした。
そのエンジニアこそがJerry Harveyでした。そこでJerryとすぐに意気投合したそうです。
調べてみるとリーボディはガーウッドという会社のダイナミックドライバーのイヤモニ(と無線レシーバー)を使っていたんですが、それはダイナミックドライバーを使っていたためベントホールがあったそうです。そうするとベントから騒音が入ってきて音が聴き取りにくくなり、音量を上げて結果としてドライバーを飛ばしてしまうということが続いたそう。
これに対してWestone(カートライト兄弟)は二つの提案をし、ひとつはフェイスプレートを外せる方式にしてドライバーの交換を容易にするという方法、もう一つは根本的にドライバーをバランスド・アーマチュアにするという方法です。結局BAの導入によって飛ばすことがなくなりこのクローズシェルとBAの方式が成功したということ。
これ以降ジェリーハービーとカートライト兄弟が意気投合して友人となったということです。
これでクローズシェルとBAのイヤモニがビジネスになるということが分かり、ジェリーの提案で「Ultimate Ears by Westone」という会社をジェリーハービーとWestoneで共同で立ち上げたということです。ジェリーはミュージシャンとのつながりが強く、Westoneは資金力と技術があったのでこの関係はうまくいったということ。UEの初期製品であるUE1,2,3,5をこの枠組みで作っていったということです。
5. マルチドライバーへ
そのうちカールがジェリーと電話でブレインストーミングをした際にPAシステムのようなスピーカーみたいにイヤモニもマルチドライバーで作れるのではないかという思い付きをしたそうです。これはなにか問題を解決すると言うよりもスピーカーで出来ることはイヤモニでもできるのではないかという発想だったそう。ただし補聴器の世界では難聴には低域が聞こえない人や高域が聞こえない人などさまざまで、それに対しての解決策があるということもまた知っていたということです。それを発展させて作っていったということ。
ジェリーはこのとき低音域をダイナミック、高音域をBAというハイブリッドの提案をし、カールは高域も低域もBAを使うという提案をしたそう。カールとクリスで試作をしてみて結果として2BAタイプの方がよく、これがUE5となったようです。
6. Shureとの関係
Shureがジェリーにコンタクトをしてきて、ShureのPSM600というイヤモニの無線レシーバーの評価をしてもらったということ。Shureはダイナミックドライバーを使おうとしていましたが、WestoneがSHUREにステージでの使用はBAのほうが利点があると説明し、カールとクリスは二つのプロトを設計したということです。ひとつはShureから要求がありダイナミックバージョンと、もう一つはBAタイプです。後者が採用されてShure E1となります(1997)。
Westone UM1(旧タイプ)、Shure E1と見た目はほとんど同じだがロゴとカラーが異なる
このE1はNAMMに間に合わせるために時間がなく、ちょっと雑な外観となってしまったと述懐していました。これには2つの重要な点があります。ひとつは傾いた先端のチップ・ステムの部分です。これは耳にはまりやすい初の傾いたステムを持ったイヤモニだそう。もうひとつはこれによって、ケーブルを耳の後ろにかけられるようになったということです。そう、いまShureがけと言われる方式ですが、実際はカール&クリスがけと言うべきではというと笑ってました。販売したのはShureだけれども、作ったのはWestoneというわけです。
その後にデュアルドライバーのE5もカールとクリスが手掛けたそうです。ですのでShureもUEも初期のモデルはカールとクリスがJerryとのコラボレーションして設計していました。UEの製品(カスタムイヤモニ)とShureの製品(ユニバーサルフィット)は両方とも「by Westone」のタグライン(キャッチコピー)で両社から販売されました。
6. その後
その後はビジネスのことでもあり互いに距離を置いて、Westone、ジェリー(UE)、Shureとも独自の道・開発を行くようになります。
そして他のメーカーに供給していたWestoneも自分でブランドを持つようになり、これからが好きなようにやれて面白いんだとクリスが言っていたんですが、インタビューはさすがに時間が無くなりここまでとなりました。
右がWestone 3、左は10年後のWestone 30
ここからは我々の時代につながります。やがてShureがE5、UE(ジェリー)がTriple.fi 10 pro、そしてWestoneが初の3wayのWestone 3を出すというビッグ3の戦国時代となっていき、日本ではMusic To Goなるブログがそれらに刺激されて記事を書き、そしていまのイヤフォン全盛時代となっていきます。
この流れはテックウインドのホームページに年表にまとめて掲載されています。
とても興味深い話で面白いインタビューとなりました。Westoneのトークセッションに出ていた人も分かったと思いますが、とにかく話し出すと止まらない感じで、まずカールに聴くと話し出すと止まらず、クリスもあれはこうだったと乗ってきて絵を描きだして、ひとつの話題でどんどん膨らみだします。
Westoneは軍事関係にも携わる大きい会社だけあって硬いイメージでしたが、この二人と接するととても人間味があって面白い印象に変わると思います。ジェリーハービーがJH Audioの顔であり、モールトンがNobleの顔であるように、このカートライト兄弟もまたWestoneの顔となると思います。
インタビューのはじめにこれは聞きたいと思っていたのは、どうやったらWestoneではW60やW80のコンパクトなボディにあの6個も8個ものドライバーを詰めてかつハイエンドの音を達成できるのかということでした。これは結局聴かなかったんですが、時間がなかったというよりも、インタビューを聴いているうちにこのことは聞かなくてもよいと思えてきたからです。
この二人の仲良く緊密な連携、そしてこの長い経験があればこそ、この一見無理に見えることが可能になったのでしょう。
Westoneの音の良さの秘密というのはカールとクリスのカートライト兄弟によるもので、それゆえここが他社にはないWestoneの強みなのだと実感しました。
2017年01月08日
ChordがMojoをネットワーク対応させるアクセサリーのPolyを発表
CESで注目製品発表が相次いでいますが、CHORDからはPolyというMojoの拡張モジュールが発表されました。これは前にヘッドフォン祭で私がMojoの紹介をしたときにJohn Franks氏も述べていたアクセサリーですね。
Polyはポリゴンのポリでもわかるように「多い」とい意味で、Monoの対義語です。その通りにとても多様な使い方ができるモジュールです。
SDカードで内蔵音源を再生でき、DLNAやAirPlayなどネットワーク経由の再生もできます。さらにはBluetoothや話題のRoonにまで対応しています。電池の持ちは約9時間、PCM768kHzからDSD512まで対応可能です。
(画像は下記ホームページから)
Polyのホームページはこちらです。
http://www.chordelectronics.co.uk/product/poly/
ただ、どう使えるのかがイメージしにくいかもしれませんので、さっそくChordに聞いてみた情報と合わせてわかったことを書いてみます。
まずPolyとはどういうものかというと、簡単に言うとLinuxベースのネットワークプレーヤーのようなものです。もう少しいうとMojoのネットワークブリッジですね。Polyで音楽データをネットワーク経由で受けて、MojoとはUSBで接続してMojoのDAC機能で音楽再生するわけです。
またSDカードの内蔵音源も再生できるので単体DAPのようなものと考えてもよいです。
使い方としては下記のように使用する音源に合わせてPCやスマートフォンから操作します。
1. Polyは内蔵したSDカードの音源を再生できます。
SDカード内蔵音源を再生したいときは、スマホなどでMPodなどMPDクライアントを使用します。(PolyはMPDを使用しています)
2. PolyはNASなどDLNAネットワーク内の音源を再生できます
ネットワーク上の音源を再生したいときは、スマホなどでPlugPlayerのようなDLNAコントローラーアプリを使います。
3. PolyはAirPlayでiPhoneの音源を再生できます
この場合はiPhoneの多彩な音楽再生アプリが使用できます
4. PolyはBluetoothでスマートフォンの音源を再生できます
この場合はスマートフォンの音楽再生アプリが使用できます(対応CODECはちょっとまだわかりません)。
5, PolyはRoonの再生機器としてRoon管理の音源を再生できます
この場合はRoonBridgeとして機能します。つまりPoly+MojoがRoonReadyデバイスとして使えるわけです。家に戻ったらMojoをPolyを使ってRoon対応デバイスとして再生に使えます。
たぶんこれだけ多様な音源に対応できる製品はホームオーディオ含めても少ないと思います。しかもこんなコンパクトさで。
これらの設定作業のためにはPolyのWeb-UIを使用します。おそらくVolumioやMoodeのようにブラウザからhttp://poly.localとやると開くのではないかと思います。マシン名の変更もこのWeb-UIでできると思います。またAP(acess Point)モードを備えているようなので、ルーターなしでネットワークアクセスできると思います。
加えてPolyでは音声メッセージで設定作業を進めることができるようです。ここはちょっと不明ですが、エラーや接続確認も音声でわかるのではないかと思います。
以前うちのホームページでMojoにラズベリーパイを付けてポータブル運用しましたが、イメージ的にはこれと似たようなものです。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/435089337.html
ただし違いはMojoとUSBで接続するという点と、コンピューター部分(ここではラズパイ)のOSがラズパイではMoode(またはVolumio)を使ったのに対して、PolyではCHORD独自開発ということです。
たぶん詳しい人ほどわかると思いますが、Polyのサポートする多様な条件を満たすOS/ソフトウエアはまだ世の中にないと思います。VolumioやMoodeでは現状でRoonはサポートしませんし、BrystonのBDPπのファームではDLNAとRoonはサポートできますがBluetoothはサポートしません。
AK70のUSB出力機能でMojoにつなげた時の使い方にも似ているでしょう。ただしもっと一体感があります。
今年早々の注目製品と言えるでしょうね。
またCHORDからは100万タップ(Hugoは2.6万タップ)の信号処理能力を誇るCDプレーヤーのBlu II、そしてあのHugoの後継機であるHugo IIも発表されています。
今年もポータブルからハイエンドまでCHORDに注目ですね。
Polyはポリゴンのポリでもわかるように「多い」とい意味で、Monoの対義語です。その通りにとても多様な使い方ができるモジュールです。
SDカードで内蔵音源を再生でき、DLNAやAirPlayなどネットワーク経由の再生もできます。さらにはBluetoothや話題のRoonにまで対応しています。電池の持ちは約9時間、PCM768kHzからDSD512まで対応可能です。
(画像は下記ホームページから)
Polyのホームページはこちらです。
http://www.chordelectronics.co.uk/product/poly/
ただ、どう使えるのかがイメージしにくいかもしれませんので、さっそくChordに聞いてみた情報と合わせてわかったことを書いてみます。
まずPolyとはどういうものかというと、簡単に言うとLinuxベースのネットワークプレーヤーのようなものです。もう少しいうとMojoのネットワークブリッジですね。Polyで音楽データをネットワーク経由で受けて、MojoとはUSBで接続してMojoのDAC機能で音楽再生するわけです。
またSDカードの内蔵音源も再生できるので単体DAPのようなものと考えてもよいです。
使い方としては下記のように使用する音源に合わせてPCやスマートフォンから操作します。
1. Polyは内蔵したSDカードの音源を再生できます。
SDカード内蔵音源を再生したいときは、スマホなどでMPodなどMPDクライアントを使用します。(PolyはMPDを使用しています)
2. PolyはNASなどDLNAネットワーク内の音源を再生できます
ネットワーク上の音源を再生したいときは、スマホなどでPlugPlayerのようなDLNAコントローラーアプリを使います。
3. PolyはAirPlayでiPhoneの音源を再生できます
この場合はiPhoneの多彩な音楽再生アプリが使用できます
4. PolyはBluetoothでスマートフォンの音源を再生できます
この場合はスマートフォンの音楽再生アプリが使用できます(対応CODECはちょっとまだわかりません)。
5, PolyはRoonの再生機器としてRoon管理の音源を再生できます
この場合はRoonBridgeとして機能します。つまりPoly+MojoがRoonReadyデバイスとして使えるわけです。家に戻ったらMojoをPolyを使ってRoon対応デバイスとして再生に使えます。
たぶんこれだけ多様な音源に対応できる製品はホームオーディオ含めても少ないと思います。しかもこんなコンパクトさで。
これらの設定作業のためにはPolyのWeb-UIを使用します。おそらくVolumioやMoodeのようにブラウザからhttp://poly.localとやると開くのではないかと思います。マシン名の変更もこのWeb-UIでできると思います。またAP(acess Point)モードを備えているようなので、ルーターなしでネットワークアクセスできると思います。
加えてPolyでは音声メッセージで設定作業を進めることができるようです。ここはちょっと不明ですが、エラーや接続確認も音声でわかるのではないかと思います。
以前うちのホームページでMojoにラズベリーパイを付けてポータブル運用しましたが、イメージ的にはこれと似たようなものです。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/435089337.html
ただし違いはMojoとUSBで接続するという点と、コンピューター部分(ここではラズパイ)のOSがラズパイではMoode(またはVolumio)を使ったのに対して、PolyではCHORD独自開発ということです。
たぶん詳しい人ほどわかると思いますが、Polyのサポートする多様な条件を満たすOS/ソフトウエアはまだ世の中にないと思います。VolumioやMoodeでは現状でRoonはサポートしませんし、BrystonのBDPπのファームではDLNAとRoonはサポートできますがBluetoothはサポートしません。
AK70のUSB出力機能でMojoにつなげた時の使い方にも似ているでしょう。ただしもっと一体感があります。
今年早々の注目製品と言えるでしょうね。
またCHORDからは100万タップ(Hugoは2.6万タップ)の信号処理能力を誇るCDプレーヤーのBlu II、そしてあのHugoの後継機であるHugo IIも発表されています。
今年もポータブルからハイエンドまでCHORDに注目ですね。
2017年01月06日
MQAがソフトウエアデコード対応(Audirvana, Roon)とTidalストリーミング開始
MQAがCESのプレスリリースでTidalでのストリーミングの開始とともにAudirvanaでのサポートを表明してます。
http://www.mqa.co.uk/press
TidalのMQAストリーミングはすでに開始され、HiFiユーザーは新しいHiFi/Masterプランに無料で変更できるということです。
今までMQAはDACのファームなど「ハード」実装しか許してなかったのですが、音楽再生ソフトでもソフトウエアデコードで対応できるようになりそうです。
今までMQA非対応製品の場合にはCD品質の再生しかサポートされてませんでしたが、このAudirvanaのMQAソフトウエアデコード対応によってMQA対応製品でなくてもMQAハイレゾ再生の恩恵が得られるようになるはずです。
下記はMQAのパートナーページのAudirvanaです。
今年の早いうちにリリースされるAudirvana Plus 3.0から対応のようです。
来るならMeridianつながりでRoonかと思ってましたがまずはAudirvanaでした。しかし下記記事によるとRoonもソフトウエアデコード対応されるようです。Roonは複雑なんでちょっと待っててねとあります。次の1.3で来るかどうかは分かりません。
ちなみにMQA対応のUSB DACなどをつなげばいまでもRoonでMQAを扱えます。
またCAのフォーラム読むとわかりますが、Roonのシグナルパスを確認すると、Tidal経由でMQAストリーミングしてる時はハイレゾでデコードされているようです。
ちなみにMQAデコードしたくない時の設定はこちらのようです。