JH Audio MichelleはJH AudioとAstell & KernのコラボでのユニバーサルIEMです。Michelleは低域、中音域、高音域にそれぞれ一つずつの3ドライバーで、3Wayの構成です。
名称はガンズの"My Michelle"ですが、ロックガールズ名が付いていることでも本作がSirenシリーズとして製作されたことが分かります。
日本での販売日は12月3日で本日(11/25)から予約開始です。直販価格は65,980円(税込み)で、これまでのラインナップに比較するとかなりお手頃な価格です。この価格でA&Kコラボらしく2.5mmバランスケーブルも標準で付属しています。
* Michellの特徴
Michelleのポイントのひとつは3Dプリントされたシェルと10度の角度のついた音導管です。
JH Audioでは過去にも3Dプリントを使っていましたが、これは主にプロトタイプを作るときだけで、実際は手作りでやっていたようです。今回は25万ドルと言うProject 6000シリーズと言う高性能3Dプリンタを購入して本格的に製作しています。
Project 6000 3Dプリンタ
またJH Audioではいままでの数万と言うカスタム制作の経験から、人の耳にはある程度の共通パターンがあるのに気が付いていたということです。それがこの10度のアングルを持ったノズル部分です。これはMichelleではじめて採用されたものです。
また耳の形を3Dモデリングして、それを3Dプリンタに適用することでカスタムライクなフィットを実現したということです。これは3Dプリントによってのみ実現できたということです。
だだし組み立てはハンドメイドと言うことで、ペイントもひとつずつやっているということです。
またJH Audioでは左右のユニットのマッチ率を1dB以内に抑えているということで、これも他のメーカーならば3dB程度ですからかなりシビアに左右特性を合わせているということになります。
また他のJH AudioのIEMと同じにFreqPhaseが採用されている点も見逃せません。これはマルチドライバーで発生する複数のドライバーから届く音の時間を一致させるというもので、主に音場や立体感、音のフォーカス(ピントの良さ)を向上させます。
* Michelleの使用感
いままでのJH AudioのIEMは音は良いけれどもマルチドライバーでいささか大柄なモデルが多かったのですが、このMichelleはかなりコンパクトに作られています。
3Dプリントの造形もなかなか滑らかできれいにできていると思います。ここはさすが高価な機械を導入しただけはあります。
これはいままでにJH Audioに向いていなかった人にも良いかもしれません。特に女性は試してみてはいかがでしょうか。
イヤチップは標準のものでも十分に良いと思います。
能率はかなり高く、特にパワーを必要としません。
ケーブルは銀メッキ銅線をケプラーに巻きつけたという新開発のMoon Audio製です。ただし他のSirenシリーズのような4ピンではなく普通の2ピンで、低音調整機能はついていません。
* Michelleの音質
主にAK380を使用して聴きました。
まず音のバランスが良く、フラットと言うよりは音楽を楽しめるような帯域特性になっていると思います。クリアで明瞭感が高い音で、他のSirenシリーズに比べると濃さはほどほどでやや細身ですが、厚みは十分にあって音の高級感も感じられます。またパンチのある低域はジェリーらしいところです。
Michelleの音の特徴としては音の立体感が秀でている点が挙げられます。FreqPhaseの効果か、音が空間に広がる感じはよく出てる。また楽器の立体感も際立って良好です。横の広さだけではなく、楽器の配置が楽しめる感じですね。
BAは複数あった方が音域は広くカバーできますが、各ドライバーからバラバラに音が耳に届くと曖昧な音になるので、FreqPhaseがあるとぴりっとしまった音になります。
もうひとつ気がつくMichelleの良い点は、生楽器の音がきれいだということです。またリズムのきざみやパーカッション・ドラムのパンチが気持ち良いのも音楽を楽しめるポイントです。
すでに販売している海外のHeadFiでは高域が足りないと言う人もいますが、私はいわゆる高域が詰まっているとかロールオフして落ちているようには思えません。十分以上に高域のレスポンスは良くきれいに伸びていると思います。ただし高域4ユニットのAngieなどに比べると高域がややもの足りない感はあります。
多少モニター的な傾向のあるAngieよりは、感覚的にはRogieに近いと思いますが、音楽を楽しむうえで全体にバランスが取れている優等生サウンドだと思います。
標準付属の2.5mmバランスケーブルを使うとさらに音場も広がり、いっそう迫力のある音を楽しめるようになる。音場がより整理されてヴォーカルも聴きやすくなるように思います。バランス化することで音の性格もやや変わってより正確でリアル志向になります。こういう感じでバランスとシングルエンドのケーブルを変えることでMichelleをふた通りに楽しむこともできます。
* TriFiとの比較
価格も近く3ドライバーで形も似ているのでTriFiと比較したいと言う人もいるかもしれませんので付記しておきます。結論的に言うと両者はかなり異なる別個のモデルです。
TriFiとMichelle
TriFiはまずJH Audioの特別モデルで、Triple.Fi 10 proの10周年記念であり、貝殻のシェルや限定個数、日本限定など使用も特別です。MichelleはAstell&Kernとのコラボでのレギュラーモデルであり、Sirenシリーズの一員と言うことで位置づけは大きく異なります。
またTriFiは2Way、3ドライバーですが、Michelleは3Way、3ドライバーです。ドライバー自体もTriFiとは異なるということです。音の違いを一言で言うと、Michelleは優等生的な音で、TriFiは低音がかなりブーストされている点も含め、個性的というかやんちゃな音と言えます。
もともとジェリーハービーがテンプロを作ろうとしたのは当時の5proよりもさらにHiFi調、つまり整った音にするのが目的だったのですが、10年たつと2way IEMという意味も変わり、2wayで設計できる記念モデルならではのユニークで面白いモデルと言うことでTriFiは作られたのではないかと思います。対してMichelleはJH Audioの手ごろな価格帯を受け持つ戦略商品のような主戦力モデルと言う感じでしょうか。
Michelleは万人にお勧めできますが、TriFiは人を選ぶと思います(いずれにせよ、すでに入手困難だと思いますが)。
* まとめ
他のSirenシリーズに比べると、手頃な価格で音も良い、というのがMichelleのポイントです。優等生的な音の良さでさまざまなジャンルの音楽を楽しめ、音の広がりや立体感、楽器音の美しさなどきらっと光る点もあります。人によっては上級モデルよりも好ましいと言う人もいるかもしれません。
Sirenシリーズはプロが使うことも前提にしているため、帯域バランス良く、楽器の位置関係がつかみやすいことも重要ですが、Michelleはより手軽で音楽をカジュアルに楽しめます。さらにコンパクトで他のラインにはない魅力もありますし、この価格で2.5mmバランスケーブルも付属して来ます。
コストパフォーマンスに優れたSirenシリーズの新ラインナップと言えるでしょう。
Music TO GO!
2016年11月25日
2016年11月17日
チタンカスタム、FitEar TITANレビュー
FitEar TITANはチタン製のシェルを使ったユニークなカスタムIEMです。
TITANはAIRをベースにしていますので、まずAIRの解説をします。
* FitEar Air
Fitear Airはハイブリッドカスタムで、BAとダイナミックを採用しています。ダイナミックドライバーはFOSTEX提供です。ダイナミックをフルレンジとして使用し、BAを補助的に高音域に使う構成です。
またポイントは閉鎖空間でのダイナミックの動作効率の問題を改善するために普通は遮音性を犠牲にしてベント穴を使用しますが、遮音性を同時に満たすためにショートレッグシェルと言う工夫をしました。ショートレッグシェルによりステムの断面積が上がったため、逆に装着性や音導穴の形状などの工夫の余地もできています。
外観的には空気ばねを減らすために工夫されたショートレッグが目を引きます。私みたいにカスタムをずっと使いこんでる人ほど違和感を抱くかもしれませんが、見た目の印象よりはきちんと耳にはまります。また実際に電車でもつかいましたが、普通のカスタムと同じくらいの遮音性があると思います。ダイナミックドライバーでかつカスタムの遮音性があると言うのがAirの特徴ですが、これは生きていると思います。
音質はまずぱっと聴きはダイナミックの音が支配的と感じます。文字通りダイナミックで迫力のある音はダイナミックドライバーならではのもので、BAだと低音域のインパクトがか細くなりがちですが、骨太で厚みのある音再現はダイナミックドライバーらしいところだと思います。全体の音のつながりもよいですね。AK70みたいな元気でパンチがあるプレーヤーと合わせてロックポップが楽しく聴けます。
また聴きこんでいくとダイナミックの音ではあっても、独特の音再現も持っているのがAirのポイントだと思います。普通のダイナミックだと丸く鈍く聞こえるようなところが、鮮明に明瞭感があって、楽器の音再現もクリアに聞こえます。ここはBAの隠し味が効いているように思います。
今までのFitearというかカスタムIEMにはなかった音で、そうした点でも楽しめます。反面でいままでの須山カスタムの整ってバランスのよい音に慣れていると、ダイナミックの太い音にやや荒削りさを感じるかもしれませんが、ここはTITANで変わります。
* FitEar TITAN
TITAN(チタン)は名の通りに金属製のチタンで出来たシェルを持つユニークなカスタムIEMです。須山歯研はチタンの加工でもノウハウが豊富で強みがあります。
Air(黒)とTitan
TITANはベースモデルがFitEar AIRです。なぜAIRがベースモデルかと言うと、他のBAカスタムではもともと密閉されたシェルであり金属化してもメリットが大きくないのではないかと言うこと、またチタンAIRを試作したさいに金属シェルが音質的にも低域の芯を締める効果があり、中高域にも良い影響がありそうなので決定されたということです。
ただし、、現在のTITANはAIRをベースにしてはいますが、実はちょっとした秘密があり、ベースのAIRとはかなり異なるものとなっているようです。ここは書けないのですが、これは音質的にかなりTITANをAIRと差別化しています。そのため、AIRがベースと言うのはいったん忘れても良いのではないかと思います。
* ドイツケーブル
TITANはケーブルなしでの販売が基本です。おそらくTITANを買う人は一個目のFitEarカスタムと言うことはないと思いますのであまり問題はないと思いますが、ケーブルのついたキットモデルも用意されています。
そしてこのキットモデルがもうひとつのTITANの特徴です。それは「ドイツケーブル」です。これは正式には009というタイプのもので、名前からしてすごそうですがまさに加速装置がついているような速さも効かせてくれます。
「ドイツケーブル」は正式発売がなされないまま、あちこちでささやかれてたんでひとつ幻のケーブルのようになっていますが、ここで公に出てきたわけです。これはドイツ製のビンテージ線を採用したハイエンドケーブルです。某所で発見されたものですが、数量はビンテージ線なので限定されています。そのため単体販売は行わず、TITANへの付属での提供となります。
上は001、下はドイツケーブル。
私もしばらく前から使っているのですが、これは音質に与える影響ではこんなに大きなケーブルがあるかと驚愕したものです。現在でもCrystal Cable Nextと一二を争うレベルのハイエンドケーブルだと思います。音質についてはあとでまたカバーしますが、TITAN専用と言うわけではなく、私は335DWに使用していましたが、好評の335DWをさらに別の次元に引き上げてくれる性能を持っています。
* TITANの外観
傷つかないように別々の袋に梱包されてきます。
チタン製のシェルは質感が高く、はじめてJH Audioのカーポンシェルを見たときのように新鮮で豪華な感じがします。ちょっと重くて金属のアクセサリーのようにかっこよいですね。Ayaからの音導穴のホーンのようなテーパー加工もなされているのは芸の細かいところです。
装着感も冷やっとした感じ。Airのショートレッグもあって、すっと耳にはまります。ショートレッグなのであまり耳の中が冷っとすることはありません。
実際に使ってみて気がついたことは、アクリルの普通のシェルとは遮音性が違うということです。音楽を止めた時だけでなく、カスタムに慣れてる人なら再生中でも「あれっ」と気がつくと思います。感覚的には周辺音がよりマイルドになる感じで、特に高音域のきつい音が抑えられて周囲の音やアナウンスがマイルドに聴こえます。
より静粛で、イヤフォンの細かい音を聞き取るのに良いといえるでしょうね。もしかすると金属シェルは意外とカスタムに向いているかもしれません(加工面を除けば)。
* TITANの音質
しかしながら本当の真価はチタンシェルの中身です。都合で書けないけど、ショートレッグ以外の秘密が隠されています。ヘッドフォン祭で聴いた時も、Airとは音の傾向が違うと感じたんですが、その時はドイツケーブル効果かと思っていました。しかし、実際に使ってみて、慣れたAirと慣れたケーブル(001)を使って同じ条件で聴き比べてみるとたしかに音が違ってより洗練された音質に進化しています。
Airとは違うのだよ、Airとは。とついつい書きたくなってしまいますが、特に中低域の改善が劇的ですが、高域も良くなってます。前のAirはある意味ダイナミックらしい骨太で元気がありますが、ある意味で古いJBLスピーカーのようなぼんぼんと鳴る音でしたが、このTITANではより引き締まって現代スピーカーのような洗練された音質に変わっています。低域のぼわっとしたぶよつきがなくなり、まるでBAのようなすっきりした感じになっています。
このため、AirはFitEarの中では異色だったけど、TITANはよりいつものFitEarに近く334とか335のバランスの良さに近くなっています。Airのようにダイナミックドライバーの音が支配的というわけではなくなり、全体のつながりもよく、おそらくマルチBAと比較してもそれほど違和感はないでしょう。同じ001ケーブルで比べると、手持ちの335DW(SRなし)よりもむしろ明瞭感は高い感じがします。
女性ヴォーカルがAirのように太めにならずに細身でしっかり芯があり、発声も明瞭でなめらか。アコースティック楽器の音も同様でアコギも音が太くあいまいにならずに、きりっと鮮明でシャープな音が楽しめます。
低域はレスポンスが速くパンチが気持ち良い感じ。
能率がAirよりはやや低いのでアンプはつけた方が良いかもしれません。お勧めはAK380+AMPです。
Airのときは銅線のMoon Audio BlackDragonを使ってたんですが、ケーブルとしてはむしろ銀ベースのWhiplash TWagなどの方が合うようになった感じはあります。
TITANは001ケーブルでも高音質はよくわかりますが、やはりもっと良いケーブルを使いたくなります。
やはりTITANの真価はドイツケーブルを使った時です。ドイツケーブル(009)は硬くて太いケーブルではありますが、音質の改善効果は並外れていると思います。001でも優れているTITANにマジックをかけてくれ、ちょっとありえない世界を作ってくれます。
レビュー的に書くと高域と低域の伸びがさらに高くなり、ワイドレンジ感が際立ちます。また音のクリアさが高くなり、エレクトロでもヴォーカルでも生楽器でもひときわ鮮明に再現してくれます。またビンテージ線らしく音にドライさが少なく、音楽的にも美しく聴かせてくれます。
また良録音だと水の流れる音、ベルの音、さまざまな楽器音がまさにマジックと言いたくなるようなリアルさを聴かせてくれます。試聴を終えても音楽を聴き続けたくなるような魅力を加えてくれます。
私が価格度外視でイヤフォン向けのいままで聴いたベストケーブルを上げるとすると、このドイツケーブルかCrystal Cable Nextだと思います。この二者はそれぞれビンテージと現代ケーブルの良さがあり甲乙が付けられないですね。あとはこの前聴いたWagnusのFrosty Sheepもハイエンドケーブルの雄と言えるでしょう。
こうしたハイエンドケーブルはみな、単にワイドレンジや透明感だけで語れない優れた個性を持っているのもまた興味深いことで、それが高性能イヤフォンにさらなる魅力を与えてくれます。
もし価格的にドイツケーブルはちっょと、という場合には006ケーブルをお勧めします。これも立体感が際立つなかなかよい組み合わせです。
* まとめ
はじめはネタかとも思えましたが、実際に聴いてみると音的にもきちんとした意義と納得感があります。また重みや質感など官能的な良さもありアクセサリー的な魅力も兼ね備えているのもユニークです。かなり個性的でかつ音もよいカスタムIEMだと思います。
また金属シェルカスタムの可能性を感じることもできるユニークな製品だと思います。
TITANはAIRをベースにしていますので、まずAIRの解説をします。
* FitEar Air
Fitear Airはハイブリッドカスタムで、BAとダイナミックを採用しています。ダイナミックドライバーはFOSTEX提供です。ダイナミックをフルレンジとして使用し、BAを補助的に高音域に使う構成です。
またポイントは閉鎖空間でのダイナミックの動作効率の問題を改善するために普通は遮音性を犠牲にしてベント穴を使用しますが、遮音性を同時に満たすためにショートレッグシェルと言う工夫をしました。ショートレッグシェルによりステムの断面積が上がったため、逆に装着性や音導穴の形状などの工夫の余地もできています。
外観的には空気ばねを減らすために工夫されたショートレッグが目を引きます。私みたいにカスタムをずっと使いこんでる人ほど違和感を抱くかもしれませんが、見た目の印象よりはきちんと耳にはまります。また実際に電車でもつかいましたが、普通のカスタムと同じくらいの遮音性があると思います。ダイナミックドライバーでかつカスタムの遮音性があると言うのがAirの特徴ですが、これは生きていると思います。
音質はまずぱっと聴きはダイナミックの音が支配的と感じます。文字通りダイナミックで迫力のある音はダイナミックドライバーならではのもので、BAだと低音域のインパクトがか細くなりがちですが、骨太で厚みのある音再現はダイナミックドライバーらしいところだと思います。全体の音のつながりもよいですね。AK70みたいな元気でパンチがあるプレーヤーと合わせてロックポップが楽しく聴けます。
また聴きこんでいくとダイナミックの音ではあっても、独特の音再現も持っているのがAirのポイントだと思います。普通のダイナミックだと丸く鈍く聞こえるようなところが、鮮明に明瞭感があって、楽器の音再現もクリアに聞こえます。ここはBAの隠し味が効いているように思います。
今までのFitearというかカスタムIEMにはなかった音で、そうした点でも楽しめます。反面でいままでの須山カスタムの整ってバランスのよい音に慣れていると、ダイナミックの太い音にやや荒削りさを感じるかもしれませんが、ここはTITANで変わります。
* FitEar TITAN
TITAN(チタン)は名の通りに金属製のチタンで出来たシェルを持つユニークなカスタムIEMです。須山歯研はチタンの加工でもノウハウが豊富で強みがあります。
Air(黒)とTitan
TITANはベースモデルがFitEar AIRです。なぜAIRがベースモデルかと言うと、他のBAカスタムではもともと密閉されたシェルであり金属化してもメリットが大きくないのではないかと言うこと、またチタンAIRを試作したさいに金属シェルが音質的にも低域の芯を締める効果があり、中高域にも良い影響がありそうなので決定されたということです。
ただし、、現在のTITANはAIRをベースにしてはいますが、実はちょっとした秘密があり、ベースのAIRとはかなり異なるものとなっているようです。ここは書けないのですが、これは音質的にかなりTITANをAIRと差別化しています。そのため、AIRがベースと言うのはいったん忘れても良いのではないかと思います。
* ドイツケーブル
TITANはケーブルなしでの販売が基本です。おそらくTITANを買う人は一個目のFitEarカスタムと言うことはないと思いますのであまり問題はないと思いますが、ケーブルのついたキットモデルも用意されています。
そしてこのキットモデルがもうひとつのTITANの特徴です。それは「ドイツケーブル」です。これは正式には009というタイプのもので、名前からしてすごそうですがまさに加速装置がついているような速さも効かせてくれます。
「ドイツケーブル」は正式発売がなされないまま、あちこちでささやかれてたんでひとつ幻のケーブルのようになっていますが、ここで公に出てきたわけです。これはドイツ製のビンテージ線を採用したハイエンドケーブルです。某所で発見されたものですが、数量はビンテージ線なので限定されています。そのため単体販売は行わず、TITANへの付属での提供となります。
上は001、下はドイツケーブル。
私もしばらく前から使っているのですが、これは音質に与える影響ではこんなに大きなケーブルがあるかと驚愕したものです。現在でもCrystal Cable Nextと一二を争うレベルのハイエンドケーブルだと思います。音質についてはあとでまたカバーしますが、TITAN専用と言うわけではなく、私は335DWに使用していましたが、好評の335DWをさらに別の次元に引き上げてくれる性能を持っています。
* TITANの外観
傷つかないように別々の袋に梱包されてきます。
チタン製のシェルは質感が高く、はじめてJH Audioのカーポンシェルを見たときのように新鮮で豪華な感じがします。ちょっと重くて金属のアクセサリーのようにかっこよいですね。Ayaからの音導穴のホーンのようなテーパー加工もなされているのは芸の細かいところです。
装着感も冷やっとした感じ。Airのショートレッグもあって、すっと耳にはまります。ショートレッグなのであまり耳の中が冷っとすることはありません。
実際に使ってみて気がついたことは、アクリルの普通のシェルとは遮音性が違うということです。音楽を止めた時だけでなく、カスタムに慣れてる人なら再生中でも「あれっ」と気がつくと思います。感覚的には周辺音がよりマイルドになる感じで、特に高音域のきつい音が抑えられて周囲の音やアナウンスがマイルドに聴こえます。
より静粛で、イヤフォンの細かい音を聞き取るのに良いといえるでしょうね。もしかすると金属シェルは意外とカスタムに向いているかもしれません(加工面を除けば)。
* TITANの音質
しかしながら本当の真価はチタンシェルの中身です。都合で書けないけど、ショートレッグ以外の秘密が隠されています。ヘッドフォン祭で聴いた時も、Airとは音の傾向が違うと感じたんですが、その時はドイツケーブル効果かと思っていました。しかし、実際に使ってみて、慣れたAirと慣れたケーブル(001)を使って同じ条件で聴き比べてみるとたしかに音が違ってより洗練された音質に進化しています。
Airとは違うのだよ、Airとは。とついつい書きたくなってしまいますが、特に中低域の改善が劇的ですが、高域も良くなってます。前のAirはある意味ダイナミックらしい骨太で元気がありますが、ある意味で古いJBLスピーカーのようなぼんぼんと鳴る音でしたが、このTITANではより引き締まって現代スピーカーのような洗練された音質に変わっています。低域のぼわっとしたぶよつきがなくなり、まるでBAのようなすっきりした感じになっています。
このため、AirはFitEarの中では異色だったけど、TITANはよりいつものFitEarに近く334とか335のバランスの良さに近くなっています。Airのようにダイナミックドライバーの音が支配的というわけではなくなり、全体のつながりもよく、おそらくマルチBAと比較してもそれほど違和感はないでしょう。同じ001ケーブルで比べると、手持ちの335DW(SRなし)よりもむしろ明瞭感は高い感じがします。
女性ヴォーカルがAirのように太めにならずに細身でしっかり芯があり、発声も明瞭でなめらか。アコースティック楽器の音も同様でアコギも音が太くあいまいにならずに、きりっと鮮明でシャープな音が楽しめます。
低域はレスポンスが速くパンチが気持ち良い感じ。
能率がAirよりはやや低いのでアンプはつけた方が良いかもしれません。お勧めはAK380+AMPです。
Airのときは銅線のMoon Audio BlackDragonを使ってたんですが、ケーブルとしてはむしろ銀ベースのWhiplash TWagなどの方が合うようになった感じはあります。
TITANは001ケーブルでも高音質はよくわかりますが、やはりもっと良いケーブルを使いたくなります。
やはりTITANの真価はドイツケーブルを使った時です。ドイツケーブル(009)は硬くて太いケーブルではありますが、音質の改善効果は並外れていると思います。001でも優れているTITANにマジックをかけてくれ、ちょっとありえない世界を作ってくれます。
レビュー的に書くと高域と低域の伸びがさらに高くなり、ワイドレンジ感が際立ちます。また音のクリアさが高くなり、エレクトロでもヴォーカルでも生楽器でもひときわ鮮明に再現してくれます。またビンテージ線らしく音にドライさが少なく、音楽的にも美しく聴かせてくれます。
また良録音だと水の流れる音、ベルの音、さまざまな楽器音がまさにマジックと言いたくなるようなリアルさを聴かせてくれます。試聴を終えても音楽を聴き続けたくなるような魅力を加えてくれます。
私が価格度外視でイヤフォン向けのいままで聴いたベストケーブルを上げるとすると、このドイツケーブルかCrystal Cable Nextだと思います。この二者はそれぞれビンテージと現代ケーブルの良さがあり甲乙が付けられないですね。あとはこの前聴いたWagnusのFrosty Sheepもハイエンドケーブルの雄と言えるでしょう。
こうしたハイエンドケーブルはみな、単にワイドレンジや透明感だけで語れない優れた個性を持っているのもまた興味深いことで、それが高性能イヤフォンにさらなる魅力を与えてくれます。
もし価格的にドイツケーブルはちっょと、という場合には006ケーブルをお勧めします。これも立体感が際立つなかなかよい組み合わせです。
* まとめ
はじめはネタかとも思えましたが、実際に聴いてみると音的にもきちんとした意義と納得感があります。また重みや質感など官能的な良さもありアクセサリー的な魅力も兼ね備えているのもユニークです。かなり個性的でかつ音もよいカスタムIEMだと思います。
また金属シェルカスタムの可能性を感じることもできるユニークな製品だと思います。
2016年11月07日
Campfire Audioの新ラインナップ発売、VEGA、DORADO、LYRAIIレビュー
すでにヘッドフォン祭でも展示がありましたが、Campfire Audioから新しいラインナップであるVEGA、DORADO、LYRAIIの3機種が加わりました。
左からVEGA、DRADO、LYRA II
国内ではミックスウェーブが本日からVEGA、LYRAUを販売開始、DRADOは後日販売開始と言うことです。価格はVEGAが税別146,100円、LYRAIIが税別78,900円だそうです。
http://www.mixwave.co.jp/c_audio/c_news/caudio_news161104_01.html
VEGA(左)とLYRA II
本記事ではDRADOも含めて3機種をまとめて解説と音のレビューを行い、今回のラインナップのポイントやそれぞれの個性と買うポイントを紹介します。
* Campfire Audioとは
Campfire AudioはALOの創立者としてこの業界では広く知られるKen Ballが創設したイヤフォンのメーカーです。ベリリウムダイナミックドライバーのLYRA、チューブレスで最近大人気のANDROMEDA、シンプルで人気の高いORIONなど、もう新興メーカーとは言えないくらい地位を確立したと思います。
ブランドの特徴としては、シングルドライバーに重点をおいているようにシンプル・イズ・ベストの哲学に基づく設計、もちろんALOの高品質ケーブルの標準添付、そしてブランド名の由来でもある米国ポートランドでの製造などがあります。
Campfire AudioはKenさんの情熱とクラフトマンシップのたまものと言っても過言ではありません。なぜALOというすでに確立したブランドがあるのに、Campfire Audioという新しいブランドを作ったのかというと、kenさんはケーブルというのはやはり部品の一つでしかないので、もっと根本的に自分で一からヘッドフォンやIEMを設計・製作するという気持ちがあったからだそうです。
そしていまはたくさんのイヤフォンブランドがあるので、自分ならではの考え(statement)をそれに盛り込まねばなりません。Campfire Audioではこれまでもシングルダイナミックにこだわったベリリウムドライバーの採用や、BAの音質を向上させるためのチューブレス設計(現在のTAEC)など個性的な製品を世に出してきました。
ヘッドフォン祭でのKen Ball(右端)
ブランドの名の由来は、もともとALOのあるポートランドの西海岸は自然に恵まれた土地でKenさん自身もアウトドア好きだそうです。このアウトドアのキャンプファイアの灯りとはぜる音の瞑想的な雰囲気を音楽に例えたわけです。
そしてこの西海岸の夜空を見上げた時、その美しさの中にあるひとつひとつの小さな星々がCampfire Audioの製品名になっています。
* VEGA、DORADO、LYRAII - ダイナミックの深化と新たな挑戦
Campfire Audioは最近のANDROMEDAの大ヒットによりマルチBAでも知られるようになりましたが、原点はシングルダイナミックのLYRAです。これはKenさん自身のダイナミックドライバーへのこだわりと、マルチBA全盛への疑問がベースにあるということです。
今作では3機種ともにダイナミックドライバーが採用されていて、VEGAとLYRAIIは得意のシングル・ダイナミック、また新たにDORADOではBAとダイナミックのハイブリッド形式を採用しています。このため3機種ともにTuned port(ベント穴)がついています。ベントはイヤフォン内の空気圧を抜くことでダイナミックドライバーをより効率的に動かすための仕組みです。
それぞれの製品のポイントは簡単にまとめると次のようなものです。
1. VEGAでのダイアモンド(ADLC)ドライバーの採用
2. DRADOでハイブリッド構成を初採用
3. 復活した人気モデル、LYRA II
また今回のラインナップの共通特徴は流体金属のハウジング(筐体)を採用していることです。
初代LYRAではさまざまな材質のプロトタイプを作成して聴き比べて材質を決めたというくらいCampfire Audioではドライバーと同じくらいにハウジング(筺体)にこだわっています。
今回の3製品ではシェルに独自の流体金属を採用しています。流体金属を筺体に採用する利点としては、
チタンよりも高い強度、硬くて傷に強く、独特の質感があり、耐腐食性・化学変化に強い。また人体に優しい・アレルギーになりにくい、ダンピング能力に優れているなどの長所があります。
見た目も金属らしい高級感がありスマート・コンパクトで、ANDROMEDAやJUPITERのやや大柄でごつい筺体とはかなり異なっています。初代LYRAに近いですね。ただ表面はつるつるの初代LYRAに比べると艶消しのマット的な質感です。
SpinFitチップを装着したDRADO、VEGA
また今回のラインナップからSpinFitチップの添付がなされました。標準以外のイヤチップは前まではComplyがついていましたが、今回から人気のSpintFitに変わっています。
これらに加えて、ANDROMEDA/NOVAから採用されたより優れた標準ケーブルも大きなポイントです。
初代LYRAからCampfire AudioはALO母体を生かして高品質ケーブルをつけていましたが、前ラインのANDROMEDA/NOVAからはさらに音質が良くなったと思います(ANDROMEDAの記事参照)。今回もその新しいケーブルが標準でついています。
AK380, LYRA II
以降は機種別にレビューを書いて、最後にクロスレビュー的に今回のラインナップのとまとめと買いのポイントを書いていきます。
以下の試聴はすべて標準チップと標準ケーブルで行いました。これは条件を標準で聞くというのもあるけれども、Campfire Audioの場合は標準で十分以上に音質が良く、標準がよく音に会うというのがあります。ケーブルは言うに及ばず、標準のフォームチップも良いと思います。ただイヤチップは個人差があるのでこれは新しいSpinFitがあう人もいるでしょう。すべてたっぷりエージングしてから聴いています。
プレーヤーは基本的にはAK380を使用しました。はじめに結論を言うようでなんですが、これらをAK380で聴くとちょっとすごいです。特にVEGA。
-- Campfire Audio 「VEGA」レビュー ダイアモンド(ADLC)ドライバーの採用
今回のラインナップの目玉ともいえるVEGAは、初のADLC(ダイアモンド・ライク・カーボン)を振動版に採用した、8.5mmシングルドライバーのダイナミック型イヤフォンです。いわばダイヤモンド振動版を採用したダイナミック型イヤフォンとも言えます。
名前はCampfire Audioらしく、こと座のもっとも明るい星であるベガから取っています。これは同じダイナミックドライバーのLYRA(こと座)と関係するということでしょう。ダイナミックドライバーの中でもひときわ輝くというような意味かもしれません。
* ダイヤモンド振動版を採用
VEGAの特徴はまずこの新開発のダイヤモンド振動版です。
好評だったLYRAでは高い硬度のベリリウムのドライバーを採用したことが高音質のキーでしたが、VEGAではさらに高い硬度を持つダイアモンドを採用したわけです。つまりLYRAのベリリウムのさらに上をいきます。B&Wのダイアモンドツィーターなんかもこの部類に入ります。
LYRAも振動版すべてがベリリウムではないのですが、VEGAも正確に言うと振動版がダイアモンドの単結晶で出来ているわけではなく、ADLC(Amorphous Diamon-like Carbon)、つまりダイアモンドとグラファイトの複合材(アモルファス)であるダイアモンド・ライク・カーボンという非結晶体の硬質の薄膜でコートされています。ADLCはダイアモンドの性質をかなり継承しているということです。
なぜ振動版にADLCを採用すると良いかと言うと、いくつか理由があります。
*ADLCはとても高いヤング率が特徴です。簡単に言うととても硬いということで、つまり伸びにくい・変形しにくいです。ヤング率はチタンが1.1なのにたいし、ベリリウムは2.8、ADLCは3.3と大変硬いのがわかります。このため振動版の端まで正しく信号が伝わり分割振動(場所による振動の差)が少なくなります。不要な偽信号を排除して、結果的に高音域をより上に伸ばし、低音域においてはひずみを減らすことができます。これはB&Wでツイーターに使われる理由と同じでしょうね。
これで高域も歪なしに伸びてワイドレンジと低い歪を確保できるというわけです。
*次にADLCは硬さと低密度の比が良く(つまり軽くて硬い)、これによりレスポンスの速さ、ダイナミクスの再現がとても良いということです。また軽いだけでなく硬いので、しっかりしたピストン運動ができます。これで原音に忠実な音再現が可能になります。
*またADLCの振動版は音の伝搬速度が速く、高域特性の向上がはかれます。さらに熱伝導率も高いので音を出すパワー効率が改善されます。
簡単にまとめるとADLCは硬くて軽く、音の伝搬が速く、熱伝導率が高いなど振動版として優れた特性を持っているというわけです。
音的にはワイドレンジで低ひずみ、クリーンで色付けがなく自然な音再現が可能となるということです。
* 外観
これは今回のラインナップの3点共通していますが、ケースに入ったイヤフォンはたがいにこすれて傷がつかないように小さな袋に左右別々に入っています。なかなか細やかな配慮です。
VEGAはとてもコンパクトでメタリック、がっしりとした感触を受けます。VEGAはその明るい恒星のイメージのようにシルバーで光り輝いているように思えます。
ALO製の標準ケーブルと高い強度のMMCX端子もこれまで通りの長所です。
* VEGAの音質
まずVEGAでは鮮烈なほどの透明感と音の明瞭さに驚きます。これってシングルドライバーか、これってダイナミックか、と思うような驚きの鮮烈な音質です。はじめは本当に一度スペックを再確認したくらいです。
前に記事を書いたようにLYRAをはじめてきいた時もダイナミックというよりBAの先鋭さだと思ったんですが、VEGAはいっそう透明感が高くシャープです。またBAドライバーとも違ったシャープさを感じます。高域は録音が荒くなければそうきつくはなく、にごりがなくすっきりと鮮明感があるという言う印象です。楽器音はピュアで明瞭感を感じます。シングルながらスケール感があり、音の広がりが豊かです(ここはシングルゆえの位相的な音のフォーカスの良さもあるでしょう)。低音域も深みを感じるほど低い音が出る。シングルとは思えないほど、とても帯域的にワイドレンジです。
低域はタイトに引き締まり、中域は美しく、高域は繊細でひたすら上に伸びていきます。総じて言うと音の印象はモニター的、リファレンス的な音でニュートラルです。低域は十分ありますがLYRAIIよりも抑えられています。
またBAとはやや異なりダイナミックドライバーらしい躍動感を感じますが、暖かみは後に書くLYRAIIよりも控えめで、色付けが少なくニュートラルです。
中域から低域のパンチ、アタックはダイナミックらしいところです。ダイナミックとしてもかなり鋭い方でしょう。全体に音がクリーンで低音はダイナミックのパンチとBAのすっきり感が両立されています。この低音域の感覚に一番近いのはマベリックのように思います。
解像力がとても高く、音が並はずれてリアルです。たとえばワールドミュージックで土俗的な太鼓をたたく音では、太鼓の革の素材が分かるように音が響いてきます。ちょっと初めて聞くと気持ち悪いくらいです。また生楽器だけではなく、エレクトロ系でもプログラムされた電子的な唸りはリアルっていうと変だけれども、実在感があります。
またスピードが速くテンポの刻みが気持ちよく、音の切れが良いです。音の立ち上がり・下がりの遷移が速いと言う感じです。
シングルドライバーゆえに高音から低音まで均質であり、楽器の音のピントもぴったりフォーカスが合う感じです。音が左右に移動する際には気持ち悪いくらいの立体感があります。
AK380があったまるにつれて音が良くなるのが分かるような感じで、たぶん手持ちの高性能DAPがより楽しめると思います。
VEGAの素晴らしさはAK380 copperでさらに引き出されます。音はさらにピュアで美しく、(測定的にはともかく)聴覚的にはワイドレンジ感もいっそう感じられます。
ニュートラルで無着色だけれども、音に美しさが感じられるのが魅力で、透明で忍野八海の湧水のように純粋に美しい感じです。
VEGAは従来のダイナミックドライバーに一石を投じたようなインパクトのある製品だと思います。
-- Campfire Audio 「LYRAII」レビュー 復活した人気モデル
LYRAIIはLYRAで好評だった8.5mmのベリリウムPVDダイナミック型ドライバーを採用しています。ドライバーは初代LYRAと同じものだそうです。新たに新素材の流体金属をハウジングに採用している。LYRAの正統な後継機という位置付けだと思います。
名称は前モデル同様に、こと座(リラ・ライラ)から取られています。
* 外観
外観はコンパクトで前モデルとは色は違うがよく似ています。良く見ると旧LYRAのセラミックっぽいつるっとした艶のある外観ではなく、マットの艶消し質感だけれど質感的にはあまり変わらないように思います。サイズもほぼ同じです。違いは標準ケーブルも新しいタイプだということがあげられます。
オリジナルはセラミック素材という特殊な筺体材質を採用することで音質アップも狙っていました(実際に比較用に製作したアクリル筺体のプロトタイプよりも音が良かったそうです)。この流体金属とセラミック素材ではそれほどの差はないということなので、同様な音質的な向上もはかれるということのようです。
* LYRAIIの音質
音質はダイナミックらしい有機的な音で、たっぷりとしたソリッドな低音域と鮮明で歪のないLYRAらしいピュアな中高域が魅力的です。前にも増して有機的な音がしますね。ヴォーカルが暖かみがあって艶っぽくて良いです。
また前よりすっきりして抜けが良いように思います。上の伸びが鮮烈で美しく伸びる感覚があります。
VEGAに似た透明感・高い明瞭感を持っていますが、VEGAの方がよりワイドレンジでフラット、ニュートラル基調です。LYRAIIはより重心が低く、ややウォーム感があり音楽的というと音楽的です。モニター的傾向はVEGAよりは薄まっています。VEGAよりも音楽的で、より躍動感と有機的な味を感じられます。
またLYRAIIの解像力はかなり高いのですが、やはりVEGAには譲ります。たとえば上にあげた太鼓の音の音質についてはVEGAの方がはっきりと革の材質がわかる感じがします。
VEGA同様にシングルゆえの音の均一性はかなり良く、高域と低域はハイブリッドのように違う音ということはありません。
次にLYRA初代と比較しみました。
LYRA IIとLYRA初代を比較してみると外観はほぼ同じですが、外観の質感はセラミックと流体金属の違いがあります。初代はつるつるで艶がありLYRA IIはマット(艶消し)です。
初代LYRAとLYRA II
旧LYRA2とドライバーは同じで似た感じの音ですが、(ケーブルが初代LYRAから変わったから)同じケーブルで両者を比較してみると、より音の抜け・すっきりさが向上して全体に音の均一性が増して音質がより高くなっているように思います。
念のためにケーブルだけでなく、イヤチップも新しいものに変えて同一条件にしたけれども、それでもやはりLYRA IIの方がより良いように感じます。
ただ機構的にはTuned portは基本的に前作と同じもので、ドライバーも同じなのでまったく違う音と言うわけではありません。
LYRAIIは LYRAの正統な後継機で、単にハウジングが変わっただけではなく音質もLYRAの特徴を引き継ぎながらより向上しているように思います。実際この音質の高さを考えると価格も手ごろなものになっていると思います。
-- Campfire Audio 「DRADO」 レビュー ハイブリッド構成を初採用
DORADOはLYRAに採用されたベリリウムPVDのダイナミック型ドライバーと、BA型ドライバー2基のハイブリッド設計が特徴です。
名前ははじめは黄金郷の意味のエルドラドから取ったのかと思ったのですが、実はこれもやはり天文名シリーズで、DRADO(ドーレイドウ)とは南天の星座の名前です。日本語だと「かじき座」ですね。日本からは見られないのであまりなじみないように思いますが、実はこれ、日本人にはおなじみのあの「大マゼラン星雲」を含んだ星座です。つまり距離は天文マニアでなくても分かる14万8千光年のかなたです。
* 初のハイブリッド構成
DRADOはCampfire Audioでははじめてのハイブリッド構成を採用しています。
高域側がBAで、低域側がダイナミックです。BA部分はANDROMEDAと同じドライバーとクロスオーバーを採用しています。ダイナミックドライバーはLYRAと同じだそうですので、いままでのCampfire Audioラインナップのハイブリッドです。
BAドライバーはJUPITERやANDROMEDAと同じチューブレス設計でアコースティックチャンバーをも採用しています。Campfire Audioではこの機構をTAECと呼んでいます。TAECとは"Tuned Acoustic Expansion Chamber"の略で、いままでアコースティックチャンバー(音響室)と書いてたものです。
これはBAドライバーの出力穴のところに置いた音響空間で、大きさと形を工夫することで高音域を伸ばし、不快なピーク部分を減らす働きがあります。つまり音響フィルターが不要なので音質もよりクリアになるというわけです。
DARKOの記事ではKenさんがDarkoにTAECとは"高域ドライバーのスーパーチャージャーだ"と語ってますね。
* 外観
ハイブリッドとしてはかなりコンパクトで取り回しがしやすい感じです。
LYRAに似ていますが、よりメタリックな外観です。ハイブリッドにしてはコンパクトで、ダイナミックなのでベント(tuned port)があります。
* DRADOの音質
VEGAがモニター的、リファレンス的な音ならこれは個性派といえます。音の一貫性・つながりはシングルのVEGAの方が良いけれども、DRADOではBAらしい細やかさの中高域とダイナミックっぽいパンチの低域の両方でハイブリッドらしい魅力を楽しめます。
中高域のすっきり加減はチューブレスっぽいように思います。ただANDROMEDAやJUPITERに比較すると、全体に重心が低くてより中低域にポイントが置かれた音になっています。また一方でLYRAIIに比べると暖かみは控えめでBAらしいシャープでニュートラルな感じでもあります。
低音はあえてたっぷりと強調感があるように思いますが、全体的なダイナミックの厚みも加えて今回のラインナップでは一番ロック・ポップ向きだと思います。ただし中低域と全体の厚みが印象的ですが、ヴォーカルはマスクされてる感はなく、むしろ女性ヴォーカルが良い印象です。この辺は初のハイブリッドにしてはうまくまとめていると思います。違和感の少ないわりと自然な音表現で音の広がりも悪くありません。
DRADOは重みがあって濃い音で、すっきりとした感覚のあるCampfireのこれまでよりもJH Audioをちょっと思わせます。低音はLYRAよりもさらに迫力があります。この辺はVEGAだとすっきりと透明感が高い低音表現です。濃くて厚みのある音が好みの人はDRADOが良いかもしれません。
例えば太鼓の音はVEGAの方が革の質感が分かるほどのリアルさだけどすっきりしていて、パンチとインパクトはDRADOの方ががんがんとある感じです。
次にANDOROMEDAと比較してみます。
ANDROMEDAと比較してみるとDRADOのコンパクトさがよくわかります。またDRADOの方にはダイナミックドライバー内蔵らしくベント孔がついています。
音質をANDROMEDAと比べてみると中高域がピュアな点は似ていますが、全体の音はANDROMEDAが上に伸びる中高域よりなのに対して、DRADOは重心が低く中低域よりになっているので、音の個性は異なります。ヘビーなロックにはよりDRADOの方が向いた感じです。
またANDROMEDAはとても感度が高いのですが、DRADOはわりと感度は普通から低めになっているので扱いやすくなっています。
* 今回の新ラインナップのまとめ
全体に今回の流体金属化とVEGAの新ドライバー採用やDRADOのハイブリッドでの厚みのある音など、ラインナップが一新された感があります。ステップアップもされた感じです。
すべてコンパクトで特にDRADOがハイブリッドのマルチドライバーなのにかなりコンパクトです。この辺も流体金属効果でしょうか。前はシングルBAのORIONでもやや大柄だったので進歩を感じさせます。
LYRA II
各機種を比較すると、それぞれアンプやDAPの相性もあります。AK380にはVEGAやLYRAIIがあっていて、iQubeV5などアンプシステムにはDRADOがあっているように思います。AK380持ってる人にはVEGAはおすすめです。マルチBAカスタム使ってる人でも、AK380ってこんなすごかったとまた見直すと思います。
VEGAとLYRAIIは相性という観点からはほぼ同じですが、音の個性が異なります。
際立った透明感・明瞭さとニュートラル・リファレンス的な音の性格で、端的に言うとVEGAはシングルダイナミック版のKatanaという感じ。新鮮さを覚えるほどすごい音の高みを感じますね。
VEGA
LYRA IIはやはり高い透明感はあるが、もっと低域よりでやや温かみがあり音楽的に楽しめるタイプの音。VEGAとは音の好みで選択するとよいと思う。たとえば旧LYRAファンの人ならば、LYRAにダイナミックを超えるような音性能の高さに惹かれたならばVEGAに行くのが良いと思うし、LYRAの持つなめらかで音楽的な美しさに惹かれた場合にはLYRA IIが良いと思います。
DRADO
DRADOはハイブリッドということでこの二者とは立ち位置が違いますが、Campfireの今回のラインナップとしての共通した音の魅力もかねそなえています。
VEGAが聴いたことない音再現だとすると、こちらは馴染みの音。BAとダイナミックを使ってるのだな、と分かります。VEGAは予備知識なしだと、どういうドライバーなんだと思ってしまいそうです。
ラインナップ的にはシングルのVEGAがあって、ハイブリッドのDRADOが映える感じでもあります。やはりVEGAの透明感の高さ・明瞭さには惹かれるけれども、全体にもっと厚みや濃さがほしいという時にはDRADOがぴったりです。
ざくっとしたジャンル的にいうとジャズ・クラシック・良録音系はVEGAで、ロックポップ・エレクトロ系はLYRA2、またはDRADOがよいと思います。
LYRA II
またマルチドライバーモデルと言っても、ANDROMEDAはDRADOとも音の個性は異なるので、これも今回のラインナップとともに選択に加わると思います。
これでCampfire Audioの製品が洗練されたとともにますますラインナップの幅が増えて充実しました。これで名実ともにCampfire Audioが新興メーカーから中堅メーカーに移行できたと言えるのではないかと思います。
左からVEGA、DRADO、LYRA II
国内ではミックスウェーブが本日からVEGA、LYRAUを販売開始、DRADOは後日販売開始と言うことです。価格はVEGAが税別146,100円、LYRAIIが税別78,900円だそうです。
http://www.mixwave.co.jp/c_audio/c_news/caudio_news161104_01.html
VEGA(左)とLYRA II
本記事ではDRADOも含めて3機種をまとめて解説と音のレビューを行い、今回のラインナップのポイントやそれぞれの個性と買うポイントを紹介します。
* Campfire Audioとは
Campfire AudioはALOの創立者としてこの業界では広く知られるKen Ballが創設したイヤフォンのメーカーです。ベリリウムダイナミックドライバーのLYRA、チューブレスで最近大人気のANDROMEDA、シンプルで人気の高いORIONなど、もう新興メーカーとは言えないくらい地位を確立したと思います。
ブランドの特徴としては、シングルドライバーに重点をおいているようにシンプル・イズ・ベストの哲学に基づく設計、もちろんALOの高品質ケーブルの標準添付、そしてブランド名の由来でもある米国ポートランドでの製造などがあります。
Campfire AudioはKenさんの情熱とクラフトマンシップのたまものと言っても過言ではありません。なぜALOというすでに確立したブランドがあるのに、Campfire Audioという新しいブランドを作ったのかというと、kenさんはケーブルというのはやはり部品の一つでしかないので、もっと根本的に自分で一からヘッドフォンやIEMを設計・製作するという気持ちがあったからだそうです。
そしていまはたくさんのイヤフォンブランドがあるので、自分ならではの考え(statement)をそれに盛り込まねばなりません。Campfire Audioではこれまでもシングルダイナミックにこだわったベリリウムドライバーの採用や、BAの音質を向上させるためのチューブレス設計(現在のTAEC)など個性的な製品を世に出してきました。
ヘッドフォン祭でのKen Ball(右端)
ブランドの名の由来は、もともとALOのあるポートランドの西海岸は自然に恵まれた土地でKenさん自身もアウトドア好きだそうです。このアウトドアのキャンプファイアの灯りとはぜる音の瞑想的な雰囲気を音楽に例えたわけです。
そしてこの西海岸の夜空を見上げた時、その美しさの中にあるひとつひとつの小さな星々がCampfire Audioの製品名になっています。
* VEGA、DORADO、LYRAII - ダイナミックの深化と新たな挑戦
Campfire Audioは最近のANDROMEDAの大ヒットによりマルチBAでも知られるようになりましたが、原点はシングルダイナミックのLYRAです。これはKenさん自身のダイナミックドライバーへのこだわりと、マルチBA全盛への疑問がベースにあるということです。
今作では3機種ともにダイナミックドライバーが採用されていて、VEGAとLYRAIIは得意のシングル・ダイナミック、また新たにDORADOではBAとダイナミックのハイブリッド形式を採用しています。このため3機種ともにTuned port(ベント穴)がついています。ベントはイヤフォン内の空気圧を抜くことでダイナミックドライバーをより効率的に動かすための仕組みです。
それぞれの製品のポイントは簡単にまとめると次のようなものです。
1. VEGAでのダイアモンド(ADLC)ドライバーの採用
2. DRADOでハイブリッド構成を初採用
3. 復活した人気モデル、LYRA II
また今回のラインナップの共通特徴は流体金属のハウジング(筐体)を採用していることです。
初代LYRAではさまざまな材質のプロトタイプを作成して聴き比べて材質を決めたというくらいCampfire Audioではドライバーと同じくらいにハウジング(筺体)にこだわっています。
今回の3製品ではシェルに独自の流体金属を採用しています。流体金属を筺体に採用する利点としては、
チタンよりも高い強度、硬くて傷に強く、独特の質感があり、耐腐食性・化学変化に強い。また人体に優しい・アレルギーになりにくい、ダンピング能力に優れているなどの長所があります。
見た目も金属らしい高級感がありスマート・コンパクトで、ANDROMEDAやJUPITERのやや大柄でごつい筺体とはかなり異なっています。初代LYRAに近いですね。ただ表面はつるつるの初代LYRAに比べると艶消しのマット的な質感です。
SpinFitチップを装着したDRADO、VEGA
また今回のラインナップからSpinFitチップの添付がなされました。標準以外のイヤチップは前まではComplyがついていましたが、今回から人気のSpintFitに変わっています。
これらに加えて、ANDROMEDA/NOVAから採用されたより優れた標準ケーブルも大きなポイントです。
初代LYRAからCampfire AudioはALO母体を生かして高品質ケーブルをつけていましたが、前ラインのANDROMEDA/NOVAからはさらに音質が良くなったと思います(ANDROMEDAの記事参照)。今回もその新しいケーブルが標準でついています。
AK380, LYRA II
以降は機種別にレビューを書いて、最後にクロスレビュー的に今回のラインナップのとまとめと買いのポイントを書いていきます。
以下の試聴はすべて標準チップと標準ケーブルで行いました。これは条件を標準で聞くというのもあるけれども、Campfire Audioの場合は標準で十分以上に音質が良く、標準がよく音に会うというのがあります。ケーブルは言うに及ばず、標準のフォームチップも良いと思います。ただイヤチップは個人差があるのでこれは新しいSpinFitがあう人もいるでしょう。すべてたっぷりエージングしてから聴いています。
プレーヤーは基本的にはAK380を使用しました。はじめに結論を言うようでなんですが、これらをAK380で聴くとちょっとすごいです。特にVEGA。
-- Campfire Audio 「VEGA」レビュー ダイアモンド(ADLC)ドライバーの採用
今回のラインナップの目玉ともいえるVEGAは、初のADLC(ダイアモンド・ライク・カーボン)を振動版に採用した、8.5mmシングルドライバーのダイナミック型イヤフォンです。いわばダイヤモンド振動版を採用したダイナミック型イヤフォンとも言えます。
名前はCampfire Audioらしく、こと座のもっとも明るい星であるベガから取っています。これは同じダイナミックドライバーのLYRA(こと座)と関係するということでしょう。ダイナミックドライバーの中でもひときわ輝くというような意味かもしれません。
* ダイヤモンド振動版を採用
VEGAの特徴はまずこの新開発のダイヤモンド振動版です。
好評だったLYRAでは高い硬度のベリリウムのドライバーを採用したことが高音質のキーでしたが、VEGAではさらに高い硬度を持つダイアモンドを採用したわけです。つまりLYRAのベリリウムのさらに上をいきます。B&Wのダイアモンドツィーターなんかもこの部類に入ります。
LYRAも振動版すべてがベリリウムではないのですが、VEGAも正確に言うと振動版がダイアモンドの単結晶で出来ているわけではなく、ADLC(Amorphous Diamon-like Carbon)、つまりダイアモンドとグラファイトの複合材(アモルファス)であるダイアモンド・ライク・カーボンという非結晶体の硬質の薄膜でコートされています。ADLCはダイアモンドの性質をかなり継承しているということです。
なぜ振動版にADLCを採用すると良いかと言うと、いくつか理由があります。
*ADLCはとても高いヤング率が特徴です。簡単に言うととても硬いということで、つまり伸びにくい・変形しにくいです。ヤング率はチタンが1.1なのにたいし、ベリリウムは2.8、ADLCは3.3と大変硬いのがわかります。このため振動版の端まで正しく信号が伝わり分割振動(場所による振動の差)が少なくなります。不要な偽信号を排除して、結果的に高音域をより上に伸ばし、低音域においてはひずみを減らすことができます。これはB&Wでツイーターに使われる理由と同じでしょうね。
これで高域も歪なしに伸びてワイドレンジと低い歪を確保できるというわけです。
*次にADLCは硬さと低密度の比が良く(つまり軽くて硬い)、これによりレスポンスの速さ、ダイナミクスの再現がとても良いということです。また軽いだけでなく硬いので、しっかりしたピストン運動ができます。これで原音に忠実な音再現が可能になります。
*またADLCの振動版は音の伝搬速度が速く、高域特性の向上がはかれます。さらに熱伝導率も高いので音を出すパワー効率が改善されます。
簡単にまとめるとADLCは硬くて軽く、音の伝搬が速く、熱伝導率が高いなど振動版として優れた特性を持っているというわけです。
音的にはワイドレンジで低ひずみ、クリーンで色付けがなく自然な音再現が可能となるということです。
* 外観
これは今回のラインナップの3点共通していますが、ケースに入ったイヤフォンはたがいにこすれて傷がつかないように小さな袋に左右別々に入っています。なかなか細やかな配慮です。
VEGAはとてもコンパクトでメタリック、がっしりとした感触を受けます。VEGAはその明るい恒星のイメージのようにシルバーで光り輝いているように思えます。
ALO製の標準ケーブルと高い強度のMMCX端子もこれまで通りの長所です。
* VEGAの音質
まずVEGAでは鮮烈なほどの透明感と音の明瞭さに驚きます。これってシングルドライバーか、これってダイナミックか、と思うような驚きの鮮烈な音質です。はじめは本当に一度スペックを再確認したくらいです。
前に記事を書いたようにLYRAをはじめてきいた時もダイナミックというよりBAの先鋭さだと思ったんですが、VEGAはいっそう透明感が高くシャープです。またBAドライバーとも違ったシャープさを感じます。高域は録音が荒くなければそうきつくはなく、にごりがなくすっきりと鮮明感があるという言う印象です。楽器音はピュアで明瞭感を感じます。シングルながらスケール感があり、音の広がりが豊かです(ここはシングルゆえの位相的な音のフォーカスの良さもあるでしょう)。低音域も深みを感じるほど低い音が出る。シングルとは思えないほど、とても帯域的にワイドレンジです。
低域はタイトに引き締まり、中域は美しく、高域は繊細でひたすら上に伸びていきます。総じて言うと音の印象はモニター的、リファレンス的な音でニュートラルです。低域は十分ありますがLYRAIIよりも抑えられています。
またBAとはやや異なりダイナミックドライバーらしい躍動感を感じますが、暖かみは後に書くLYRAIIよりも控えめで、色付けが少なくニュートラルです。
中域から低域のパンチ、アタックはダイナミックらしいところです。ダイナミックとしてもかなり鋭い方でしょう。全体に音がクリーンで低音はダイナミックのパンチとBAのすっきり感が両立されています。この低音域の感覚に一番近いのはマベリックのように思います。
解像力がとても高く、音が並はずれてリアルです。たとえばワールドミュージックで土俗的な太鼓をたたく音では、太鼓の革の素材が分かるように音が響いてきます。ちょっと初めて聞くと気持ち悪いくらいです。また生楽器だけではなく、エレクトロ系でもプログラムされた電子的な唸りはリアルっていうと変だけれども、実在感があります。
またスピードが速くテンポの刻みが気持ちよく、音の切れが良いです。音の立ち上がり・下がりの遷移が速いと言う感じです。
シングルドライバーゆえに高音から低音まで均質であり、楽器の音のピントもぴったりフォーカスが合う感じです。音が左右に移動する際には気持ち悪いくらいの立体感があります。
AK380があったまるにつれて音が良くなるのが分かるような感じで、たぶん手持ちの高性能DAPがより楽しめると思います。
VEGAの素晴らしさはAK380 copperでさらに引き出されます。音はさらにピュアで美しく、(測定的にはともかく)聴覚的にはワイドレンジ感もいっそう感じられます。
ニュートラルで無着色だけれども、音に美しさが感じられるのが魅力で、透明で忍野八海の湧水のように純粋に美しい感じです。
VEGAは従来のダイナミックドライバーに一石を投じたようなインパクトのある製品だと思います。
-- Campfire Audio 「LYRAII」レビュー 復活した人気モデル
LYRAIIはLYRAで好評だった8.5mmのベリリウムPVDダイナミック型ドライバーを採用しています。ドライバーは初代LYRAと同じものだそうです。新たに新素材の流体金属をハウジングに採用している。LYRAの正統な後継機という位置付けだと思います。
名称は前モデル同様に、こと座(リラ・ライラ)から取られています。
* 外観
外観はコンパクトで前モデルとは色は違うがよく似ています。良く見ると旧LYRAのセラミックっぽいつるっとした艶のある外観ではなく、マットの艶消し質感だけれど質感的にはあまり変わらないように思います。サイズもほぼ同じです。違いは標準ケーブルも新しいタイプだということがあげられます。
オリジナルはセラミック素材という特殊な筺体材質を採用することで音質アップも狙っていました(実際に比較用に製作したアクリル筺体のプロトタイプよりも音が良かったそうです)。この流体金属とセラミック素材ではそれほどの差はないということなので、同様な音質的な向上もはかれるということのようです。
* LYRAIIの音質
音質はダイナミックらしい有機的な音で、たっぷりとしたソリッドな低音域と鮮明で歪のないLYRAらしいピュアな中高域が魅力的です。前にも増して有機的な音がしますね。ヴォーカルが暖かみがあって艶っぽくて良いです。
また前よりすっきりして抜けが良いように思います。上の伸びが鮮烈で美しく伸びる感覚があります。
VEGAに似た透明感・高い明瞭感を持っていますが、VEGAの方がよりワイドレンジでフラット、ニュートラル基調です。LYRAIIはより重心が低く、ややウォーム感があり音楽的というと音楽的です。モニター的傾向はVEGAよりは薄まっています。VEGAよりも音楽的で、より躍動感と有機的な味を感じられます。
またLYRAIIの解像力はかなり高いのですが、やはりVEGAには譲ります。たとえば上にあげた太鼓の音の音質についてはVEGAの方がはっきりと革の材質がわかる感じがします。
VEGA同様にシングルゆえの音の均一性はかなり良く、高域と低域はハイブリッドのように違う音ということはありません。
次にLYRA初代と比較しみました。
LYRA IIとLYRA初代を比較してみると外観はほぼ同じですが、外観の質感はセラミックと流体金属の違いがあります。初代はつるつるで艶がありLYRA IIはマット(艶消し)です。
初代LYRAとLYRA II
旧LYRA2とドライバーは同じで似た感じの音ですが、(ケーブルが初代LYRAから変わったから)同じケーブルで両者を比較してみると、より音の抜け・すっきりさが向上して全体に音の均一性が増して音質がより高くなっているように思います。
念のためにケーブルだけでなく、イヤチップも新しいものに変えて同一条件にしたけれども、それでもやはりLYRA IIの方がより良いように感じます。
ただ機構的にはTuned portは基本的に前作と同じもので、ドライバーも同じなのでまったく違う音と言うわけではありません。
LYRAIIは LYRAの正統な後継機で、単にハウジングが変わっただけではなく音質もLYRAの特徴を引き継ぎながらより向上しているように思います。実際この音質の高さを考えると価格も手ごろなものになっていると思います。
-- Campfire Audio 「DRADO」 レビュー ハイブリッド構成を初採用
DORADOはLYRAに採用されたベリリウムPVDのダイナミック型ドライバーと、BA型ドライバー2基のハイブリッド設計が特徴です。
名前ははじめは黄金郷の意味のエルドラドから取ったのかと思ったのですが、実はこれもやはり天文名シリーズで、DRADO(ドーレイドウ)とは南天の星座の名前です。日本語だと「かじき座」ですね。日本からは見られないのであまりなじみないように思いますが、実はこれ、日本人にはおなじみのあの「大マゼラン星雲」を含んだ星座です。つまり距離は天文マニアでなくても分かる14万8千光年のかなたです。
* 初のハイブリッド構成
DRADOはCampfire Audioでははじめてのハイブリッド構成を採用しています。
高域側がBAで、低域側がダイナミックです。BA部分はANDROMEDAと同じドライバーとクロスオーバーを採用しています。ダイナミックドライバーはLYRAと同じだそうですので、いままでのCampfire Audioラインナップのハイブリッドです。
BAドライバーはJUPITERやANDROMEDAと同じチューブレス設計でアコースティックチャンバーをも採用しています。Campfire Audioではこの機構をTAECと呼んでいます。TAECとは"Tuned Acoustic Expansion Chamber"の略で、いままでアコースティックチャンバー(音響室)と書いてたものです。
これはBAドライバーの出力穴のところに置いた音響空間で、大きさと形を工夫することで高音域を伸ばし、不快なピーク部分を減らす働きがあります。つまり音響フィルターが不要なので音質もよりクリアになるというわけです。
DARKOの記事ではKenさんがDarkoにTAECとは"高域ドライバーのスーパーチャージャーだ"と語ってますね。
* 外観
ハイブリッドとしてはかなりコンパクトで取り回しがしやすい感じです。
LYRAに似ていますが、よりメタリックな外観です。ハイブリッドにしてはコンパクトで、ダイナミックなのでベント(tuned port)があります。
* DRADOの音質
VEGAがモニター的、リファレンス的な音ならこれは個性派といえます。音の一貫性・つながりはシングルのVEGAの方が良いけれども、DRADOではBAらしい細やかさの中高域とダイナミックっぽいパンチの低域の両方でハイブリッドらしい魅力を楽しめます。
中高域のすっきり加減はチューブレスっぽいように思います。ただANDROMEDAやJUPITERに比較すると、全体に重心が低くてより中低域にポイントが置かれた音になっています。また一方でLYRAIIに比べると暖かみは控えめでBAらしいシャープでニュートラルな感じでもあります。
低音はあえてたっぷりと強調感があるように思いますが、全体的なダイナミックの厚みも加えて今回のラインナップでは一番ロック・ポップ向きだと思います。ただし中低域と全体の厚みが印象的ですが、ヴォーカルはマスクされてる感はなく、むしろ女性ヴォーカルが良い印象です。この辺は初のハイブリッドにしてはうまくまとめていると思います。違和感の少ないわりと自然な音表現で音の広がりも悪くありません。
DRADOは重みがあって濃い音で、すっきりとした感覚のあるCampfireのこれまでよりもJH Audioをちょっと思わせます。低音はLYRAよりもさらに迫力があります。この辺はVEGAだとすっきりと透明感が高い低音表現です。濃くて厚みのある音が好みの人はDRADOが良いかもしれません。
例えば太鼓の音はVEGAの方が革の質感が分かるほどのリアルさだけどすっきりしていて、パンチとインパクトはDRADOの方ががんがんとある感じです。
次にANDOROMEDAと比較してみます。
ANDROMEDAと比較してみるとDRADOのコンパクトさがよくわかります。またDRADOの方にはダイナミックドライバー内蔵らしくベント孔がついています。
音質をANDROMEDAと比べてみると中高域がピュアな点は似ていますが、全体の音はANDROMEDAが上に伸びる中高域よりなのに対して、DRADOは重心が低く中低域よりになっているので、音の個性は異なります。ヘビーなロックにはよりDRADOの方が向いた感じです。
またANDROMEDAはとても感度が高いのですが、DRADOはわりと感度は普通から低めになっているので扱いやすくなっています。
* 今回の新ラインナップのまとめ
全体に今回の流体金属化とVEGAの新ドライバー採用やDRADOのハイブリッドでの厚みのある音など、ラインナップが一新された感があります。ステップアップもされた感じです。
すべてコンパクトで特にDRADOがハイブリッドのマルチドライバーなのにかなりコンパクトです。この辺も流体金属効果でしょうか。前はシングルBAのORIONでもやや大柄だったので進歩を感じさせます。
LYRA II
各機種を比較すると、それぞれアンプやDAPの相性もあります。AK380にはVEGAやLYRAIIがあっていて、iQubeV5などアンプシステムにはDRADOがあっているように思います。AK380持ってる人にはVEGAはおすすめです。マルチBAカスタム使ってる人でも、AK380ってこんなすごかったとまた見直すと思います。
VEGAとLYRAIIは相性という観点からはほぼ同じですが、音の個性が異なります。
際立った透明感・明瞭さとニュートラル・リファレンス的な音の性格で、端的に言うとVEGAはシングルダイナミック版のKatanaという感じ。新鮮さを覚えるほどすごい音の高みを感じますね。
VEGA
LYRA IIはやはり高い透明感はあるが、もっと低域よりでやや温かみがあり音楽的に楽しめるタイプの音。VEGAとは音の好みで選択するとよいと思う。たとえば旧LYRAファンの人ならば、LYRAにダイナミックを超えるような音性能の高さに惹かれたならばVEGAに行くのが良いと思うし、LYRAの持つなめらかで音楽的な美しさに惹かれた場合にはLYRA IIが良いと思います。
DRADO
DRADOはハイブリッドということでこの二者とは立ち位置が違いますが、Campfireの今回のラインナップとしての共通した音の魅力もかねそなえています。
VEGAが聴いたことない音再現だとすると、こちらは馴染みの音。BAとダイナミックを使ってるのだな、と分かります。VEGAは予備知識なしだと、どういうドライバーなんだと思ってしまいそうです。
ラインナップ的にはシングルのVEGAがあって、ハイブリッドのDRADOが映える感じでもあります。やはりVEGAの透明感の高さ・明瞭さには惹かれるけれども、全体にもっと厚みや濃さがほしいという時にはDRADOがぴったりです。
ざくっとしたジャンル的にいうとジャズ・クラシック・良録音系はVEGAで、ロックポップ・エレクトロ系はLYRA2、またはDRADOがよいと思います。
LYRA II
またマルチドライバーモデルと言っても、ANDROMEDAはDRADOとも音の個性は異なるので、これも今回のラインナップとともに選択に加わると思います。
これでCampfire Audioの製品が洗練されたとともにますますラインナップの幅が増えて充実しました。これで名実ともにCampfire Audioが新興メーカーから中堅メーカーに移行できたと言えるのではないかと思います。