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2016年07月28日

Astell & Kernの新しいエントリー機、AK70レビュー

AK70はAstell & kernの新しいエントリー機で、直販価格で69,800円と他の製品ラインナップより一段低い設定がなされています。位置づけとしては従来のAK Jrに相当しますが、実売価格が低下しているAK100IIともライバルとなるでしょう。また単なるエントリー機とは言い切れないような魅力を持つ機種となっている点がポイントです。以下、その解説をしていきます。

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AK70は"MUSIC FRIEND IN MY POCKET"というキャッチフレーズの通りに、かつてのAK100をも彷彿とさせる理想的なフォームファクターを持っています。やや大型化してポケットにはきつくなってきた第3世代機のシリーズよりはだいぶコンパクトで軽量化されました。サイズは96.8x60.3x13mm、重さは132gと数値的にも小ささが分かります。特に持って見ると軽さが際立ちます。ボリュームガードが付いているのもポイントになるでしょう。実際にポケットに出し入れしてもあまりボリュームが不意に変わるということはあまりないように思います。

ぱっと見た目にはAK240の外観をベースにしたようにも思わせますが、実際に第二世代を感じさせる個所が随所にあります。たとえばホームボタンが第3世代のようなメタルタッチではなく液晶の再下部にあるところや、DACにCS4398を採用しているところです。第二世代もなかなかに優れたところがあったわけですが、その点をうまく抽出してエントリー機に仕上げた感じです。カラーもミスティミントというライムグリーンのような夏向きのさわやかな配色です。パステルカラーのような淡い色彩の使い方も良く、この点もユニークです。ボリュームガード周りなど細かい点の作り込みもなかなかよく、全体的な質感もたかくしあげられているので、Astell & Kernブランドを購入したという所有感も十分満たされると思います。専用ケースは付属していませんが、別売で用意されます。

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デジタルプレーヤーの心臓部であるDACチップはCS4398をシングルで採用しています。CS4398はスピーカー向けオーディオ機器にも良く使われていてシーラスロジックのトップクラスのモデルです。その点ではAK JrのDACチップはWM8740という普及タイプですから性能的にはAJ Jrと比較すると十分な向上と言えます。
シーラスロジックの音はわりと暖か系で、今回のAK70のダイナミックな音調にもあっていると思います。AK4490というかAKMはどちらかという分析系なので上位機種のフェムトクロックを採用したAK3x0シリーズによりあっているように思います。

内蔵メモリは64GBとAK Jrからは据え置きとなりました。このほかに従来通りMicroSDスロットがひとつ使えます。デジタルプレーヤーとしてはもう少し欲しいところですので、できればMicroSDスロットが2つ使えるようにしてほしかったところですね。

機能的にはAK Jrからは大幅に改良されて、ほぼ上級機種に近いものとなりました。
まずバランス駆動ができるように2.5mmバランス端子が付きました。エントリー機にもバランス端子が採用されることで、2.5mm規格もより広まることが期待されます。
またオーディオ回路設計も新規のものとなっているということです。このアンプ部分の強さがAK70の強みの一つになっていると思います。

ソフトウエア的にもほぼ上位機種と同じ操作系であるUIが使用できます。私はAK Jrも薄さや迫力のある音がけっこう気に入っていたのですが、使うたびに閉口してしまうのはスクロールやリストをするときの遅さです。これはAK70では上位機種とは遜色がない程度にスピードアップされ、不都合を感じることはなくなりました。
またトップメニューのアートワーク拡大機能(ボタン部分の面積を減らせる)のように一足早く上位機種よりも早く取り入れられた機能もあります。のちに述べるUSB出力機能もそうですが、AK70は残ったエントリーラインナップの刷新というよりも次世代ラインナップの第一陣という観点もあると思えます。

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さらに機能的にも無線LANが搭載されDLNA互換のAK Connectが使えるなど、かなり強力なものです。こうしたIT関係の機能はカジュアルユーザー層の方がかえって先入観なく使いこなせるということもあるでしょう。
ただファイル転送がAK Jrではマスストレージクラスだったけれども、AK70では上位機種と同じMTPになったのでこれはMacユーザーを中心として戸惑うところもあるかもしれません。

しかしなんといってもAK70での注目機能はUSB出力ができると言うことです。はじめに発表された時にはUSB入力機能のタイポではないかと思ったくらいですが、ちょっと驚きでした。
いままではiPhoneにHF Playerなどのアプリを使うことでこれらは可能でしたが、スマートフォンではMojoなどと組み合わせるのも不便で、つけるとスマートフォンとしての利便性も損なわれます。AK70のように専用機のようにくっつけてしまえるのは大きいですね。

そしてネットワークオーディオAK Connect機能とUSBオーディオ出力機能は組み合わせても使うことができます。その可能性はまさに大きく広がります。
音質に優れるバランス駆動端子の搭載、それにこうした先進的なオーディオ機能を組み合わせることができる強力なエントリー機がAK70です。

* 音質

AK70の箱は他と同じデザインですが少し小さな箱に入ってきます。内箱がAK70デザインのように斜めにカットされた面白いものです。

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持った瞬間に軽い!っていう感じ。夏っぽいライム色は思ってたよりメタリック感が控えめでシックです。

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AK70の音質は立体感やパワフルさがあり、アンプの押し出しが強いという感じの音です。力感のあるパワフルさはアンプ部分の音の支配力が強いことを伺わせてくれます。ふつうAstell & kernプレーヤーはエージングにつれて透明感とか解像感が上がる感じですが、AK70の場合はむしろ立体感が上がる感じがするのもその辺かもしれません。
最近はAK3x0系のAKMの音をずっと聴いてきたせいか、シーラスのDACはAKMに比べると甘めなのがピアノの音色に出てることで最近のAK3x0系の音色とも異なるように思います。また高域がやや強調気味か、あるいはトランジェントが高いせいか、全体にはやや若いというか明るい感じの音調と感じると思います。

音の個性がいままでのAKとは少し違うというか、いままでのAKサウンドはマルチBAで良録音の音楽を聴くのに適していたとすると、AK70はもっと元気よくダイナミックドライバーでロックポップ・エレクトロ系の音に合っているように思います。

* 他機種との比較

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それではAstell & kernの従来機とAK70の違いについて書いていきます。

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AK70/AK300

- AK300との比較
AK70はAK300と持って比べてみるとずいぶんとコンパクトで軽い印象です。
AK300はAK3x0系の最新DAC+フェムトクロックという品の良い精密な音再現の延長上にあります。他のAK3x0との音の差は周波数特性を少し中低域に厚みを持たせて動的な音楽に適性を与えたのに対して、AK70はもとより元気の良いアンプのパワーで動的な音楽に合わせたという感じに思えます。音をより精密に解像感高く聴きたいときはやはりAK300の方が上だと思いますが、より塊感のあるパワフルな音を聴きたいときはAK70が良いかもしれません。
たとえばUMのIEMでいうとMavisのような細かい音で音世界を作るタイプはAK300の方が良く、Maverickのように音像の実体感で聴かせるタイプはAK70の方が良いように思えます。
また音質以外にもAK300には第3世代のアクセサリーが使えるという利点もあります。

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AK70/AK100II

- AK100IIとの比較
AK70はAK100IIに対しても軽くコンパクトな印象に思えます。AK100IIも金属的な質感はとても良いと思います。
音質ではAK100IIに対してAK70はぐっと凝縮されたような力強さがあり、一つの音も明瞭に感じます。この理由はDACというより音が速いよう(トランジェントが高い)に思う。叩きつけるようなドラムスとかベースギターのキレやインパクトが強くAK70の方がアタック感が強い印象です。
AK100IIはAKらしい端正な音で音空間の表現は少し余裕があります。AK100IIは一つの音はAK70に比べるとやや丸く、動感やパワー感もあるけれど、ちょっと大人しめです。
全体の解像度は互角だと思うけれど音色の差はあります。音色はAK70は少し明るめでAK100IIはニュートラル、AK70は明るめできれいに感じます。AK100IIは着色感が少ないですね。AK70は高域に強調感があるように思います。
AK100IIはある意味従来のAKらしい音で、静かな音楽をじっくり聞きたい人や、着色なく聞きたい人には向いていると思います。

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AK70/AK Jr

- AK Jrとの比較
AK Jrは薄さでまだまだ存在感を感じさせます。形はとても良いですね。ただしAK70とJrではAK100IIやAK30と違い、バランス端子とかUIやAK connect など機能的に差が大きいのであまり比較にはなりにくいと思います。
音的にも一口で「パワフル」と言ってもAK70と異なる感じですね。Jrはあまり解れず塊感があり、エッジも丸く甘く感じられます。
AK70は他でも感じるけれど、トランジェントが高く、歯切れが良くて速いという感じです。アンプの電流の流れの立ち上がり立ち下げが速いという感じでしょうか。AK70ではJrに対してDACもグレードアップになるのでそれと相まって明瞭感がJrよりもだいぶ良く感じられます。AK70は全体にJrより整って明瞭感が高く、メリハリがありくっきりと音像を形作ります。
こうしてJrと比べるとAK70が単に中低域を盛り上げただけの機種ではないのが分かるようです。

* イヤフォンの相性

AK70は個性的な音でもあり、イヤフォンとの相性を見つけるのもまた楽しみです。

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AK70+FitEar Air   

-FitEar Air
イヤフォンの相性としてはダイナミックドライバー系がまずとてもあうと思います。いろいろと使ってみて一番良いなと思ったのはFitEar Airで、これに銅線系のBlackDragonリケーブルをして使ってます。

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AK70+FitEar Air

ダイナミックフルレンジ+BAツイーターの構成が生きてAK70のダイナミックな迫力がよく出てます。フォステクスのドライバーがいい味出してる感じで、音場も独特の立体感がいい。 特にバスドラのパンチの強さはいままでのAKにはなかったパワー感があります。打ち込みのベースサウンドなどは特にファームアップしてから歯切れが一段とよくなった感じですね。

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AK70+JH Audio AngieII   

-JH Audio AngieII
またAK70はトップグレードDACのCS4398を採用していますので、基本性能も実はとても高いというのはJH AudioのAngieIIを組み合わせるとよくわかります。
パワフルで荒っぽい音のようだけどある意味素直でもあり、この組み合わせはワイドレンジで低い音から高い音まできれいに再現され、なおかつパワフルさも楽しめます。この価格帯のDAPとは思えないような充実した音表現を聴かせてくれると思います。

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AK70+JH Audio AngieII

また音調的にやや明るめのAK70がAngieIととてもよく合うように感じますね、これは好ましいという言い方をすると上級機よりもむしろAngieIIの方がAK70と合わせて好ましい音を再生しているように思えます。カラーリングもライムとレッドでいい感じ。

-AK T8iE MkII
そして最新のAK T8iE Mk2も高性能ダイナミックの実力を十二分に生かして、AK70のダイナミックさ、充実した基本性能の高さを活かしてくれます。ベースの迫力もまさに「ダイナミック」でパンチが強力、一新された新ケーブルの透明感の高さも際立ちます。特にAK T8iE Mk2ではバランス接続でいっそう切れ味の良さが引き立つように思います。

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AK70+Campfire Audio NOVA

-Campfire Audio Nova
AK70とCampfire Audio NOVAも厚みを増したNOVAの音表現が力強いAK70によく合うようで、ヴォーカルもいい感じに聴こえます。

* USBオーディオ出力機能について

AK70の目玉の一つはこのUSBオーディオ出力機能です。(現在では第三世代でもファームアップで可能となっています
これはつまりUSB DACであるMojoがiPhoneを音源のソースとして使えるのと同様に、AK70を使えると言うことです。AK70をあたかもPCのように考えてUSB DACをつけて再生ができると言うことです(もちろん制約事項はあります)。しかもDSDネイティブ再生が可能です。
たとえば素のAndroidでも48kHz程度でも不安定で満足なUSBオーディオ出力はいまだできていない状況ですから、これは画期的なことです。つまりAndroidのUSBドライバーは使うに足りませんから、サムソンのように独自でLinuxレベルのドライバーを書くか、あるいはUAPP(USB Audio Player Pro)のようにアプリレベルでドライバーを持つかのどちらかとなります。
対応フォーマットはPCMでは 384kHz/32bit、DSDではなんとDoPでDSD128(5.6MHz)まで対応しています。光出力では384kHzまでサポートしませんし、DSDネイティブ再生もできませんので将来性がある方式ともいえます。
(ただしAK70では光デジタル出力がありませんので注意ください)

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AK70 + CHORD Hugo

USB出力の音はMojoとHugoで試してみました。USB出力の切り替えは画面上のアイコンで行うことができます。出力中は出力しているフォーマットが音源のフォーマット表示の横に表示されます。MojoもHugoも両方ともあっさりと簡単につながります。USBケーブルはOTGケーブルが必要で、アユートさんではOTGケーブルも販売しているようです。私は他のDACについていた短いケーブルを使ってみました。

-MojoとHugo
AK70単体の音と、AK70+Mojoの音をくらべてみると、録音の単純な曲ではわりと差がわかりにくいくらいAK70の優秀さが逆にわかったりしますが、やはり良録音で比べるとMojoの方がより正確に細かく音を出していると思います。
AK70単体の音と、AK70+Hugoと比べると、HugoではSD端子(48kまで)とHD端子と両方使えますが、SD端子でもMojoよりも音の差は大きくHugoのアンプのパワー感がよく出てきます。特にHD端子を使った時にはかなり魅力的な音です。特にハイレゾ音源はAK70単体とは差が大きく出ると思います。ここはDACの差がやはりHUgoならではパルスアレイDACの能力を感じます。ただHD端子だとたまにぼつっぼつっとノイズが入ってしまうことがあるように思います。私のHugoは生産前のものなので、この辺は現在のモデルでも出るかはわかりませんが、、

Hugo HD端子との音はすごい別物感があって据え置きDACを運んでいるように感じられます。このくらい音の差があるとでかいHugoを持っても魅力的におもいます。もともとHugoはUSB HD端子を使ってPC/Macから音出しするのがもっとも高音質だったのでそれをポータブルで実現できるのはHugoユーザーにとって福音となるでしょう。
この辺はもう少し良いケーブルを使ってみたい気はしますね。

-そのほか
これもまた別物の音が期待できるALOのCDM(Continental Dual Mono)と組み合わせてみましたが、こちらは残念ながらUSBを認識しませんでした。これと組み合わせられると真空管でまた良かったのですが、ここはまたファームアップがあったら試してみます。
またiQube V5もUSB経由で別物になる予感がありますが、これはiQube側がMini USB端子なので適当なケーブルかアダプタが見つかるまでお預けです。

* まとめ

簡単にまとめると、パワフルで迫力のある音質、上級機ゆずりのバランス駆動端子の搭載やネットワークオーディオ機能などを兼ね備え、さらにUSBオーディオ出力の搭載などはじめての機能を搭載した、ポイント満載のパッケージがAK70であると言えます。

個性の強いアクティブな音の世界が楽しめ、容易にポケットに入れられ、Mojoトランスポートの役にも立てるというところはベテランユーザーも魅力的なところでしょう。
バランス端子が使え、ネットワーク機能が使えるという点はエントリークラスのユーザーには嬉しいことだと思います。きれいなミントカラーはいままで興味のなかった女性ユーザーも思わず店頭で手に取るかもしれません。そうした広い層に訴求する魅力があります。

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AK70 + JH Audio ROSIE

AK70はUIの新機能やUSBオーディオの搭載など単にエントリー機の刷新とだけ言えるようなものではなく、AK70はAK Jrとはくらべるのはあまり意味がないかもしれません。エントリークラスというよりは、むしろAstell & kern新時代の先陣を切ったコンパクトモデルがAK70であると言えるのではないかとも思います。
posted by ささき at 22:07 | TrackBack(0) | __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする