Astell & Kernの第3世代シリーズは上位機種のAK380、特別モデルのAK380 copper、中堅機のAK320とすでに展開されていますが、第3世代としてのエントリーモデルが追加されました。AK300です。
第二世代で言うとAK240がAk380に相当し、AK120IIがAK320に相当するとすると、AK100IIに相当するのがAK300となります。ただし第2世代とは異なり、ボディは基本的にみな同様なデザインで、アクセサリーが共通して使用できると言うところが第3世代のポイントです。
発売開始は6月11日で、価格はオープンですが、参考価格として直販価格は129,980円です。
* 特徴
もちろん第3世代としてデザインは共通でも他のモデルとはさまざまな相違点はあります。まずDACが同じAKM AK4490でありながらシングルとなり一基となりました。またボディがアルミボディとなり、低価格化に貢献しています。
一方でAK300の一番の特徴ともいえる点はAK380/320のオーディオ機器としての強みであった高精度Femtoクロックをそのまま搭載しているということです。AK320/380とくらべると簡略化スペックにも見えるAK300ですが、考えてみるとシングルDACは他のDAPでは普通のことですから、AK490というAKMの新鋭DACチップと高級オーディオなみの高精度Femtoクロックの組み合わせはこの価格帯のDAPとしては音に関しては破格なスペックともいえると思います。
ボディカラーは精悍なブラックです。これはなかなか良いですね。
そのほかの点では内蔵のメモリが64GBとなりました。USB DACがクラス1(96/24まで)であること、DSDがPCM変換であること、PCM上限が192/24であること(再生は変換により384/32まで対応)はAK320と同じです。
Astell & Kern第3世代機として、ソフトウエア機能のDLNA/uPnP互換はそのままで高度なネットワーク対応やiPhoneからのリモコン的な使い方にも対応しています。また4ピンのアナログ端子があるので専用アンプが使えるなど、拡張性はかなり高いと言えます。
* 実機の印象
箱は他のAstell & Kern機種同様に外箱と内箱に分かれ、内箱を開けるとAK300が入っています。
アクセサリー箱には革ケースとワランティカードがはいっています。このケースはなかなかよく出来ています。
ボリュームはAK320タイプです。この形式は片手で回しやすい半面でポケットに入れた時に回りやすいのでキーロックをしておいたほうが良いと思います。
* 音質
AK300の音質はきわめて高く、エントリー機という印象ではありません。特に中音域から高音域にかけての洗練された音像再現性、きりっと引き締まった解像力の高さには感じ入ってしまいます。ヴァイオリンなど弦楽器の「ヤニが飛ぶような」響きや、ギターのピッキングの切れの良さ、ベルの音のシャープさなどとてもリアルな音色で無駄な贅肉が少ないと感じます。
このように音再現は細いし、よく整ってまずが、これはシングルになったとはいえ新しいAK4490の性能の高さもありますが、やはり高精度クロックを上位機から引き継いでるおかげと感じます。やはりこのようによく整って引き締まった音は高精度クロックならではの世界だと思います。高精度フェムトクロックの採用はこのクラスでは反則技的で、群を抜いた音つくりに貢献していますね。
AK300で、この高い音再現性とともにもう一つ気が付くのはこれまでのAstell & Kernの機種に比べて低音域がかなり強調されて強めということです。AK320のところでAK380と比べるとAK320は高域と低域の音の強調感があり、AK380はもっと味付けが少ないと書いたけれど、AK300はさらにはっきりと低音域の量感が多く、低域がパワフルに聞こえるのがわかると思う。このためにロックやポップでのインパクトの強い、アップテンポの曲が気持ちよく聴くことができます。
Astell & KernのDAPはプロのモニターとしても使えると言うところもポイントだったわけですが、AK300ではもっとコンシューマー寄りにふって設計されていると感じられます。
AK300の魅力はこのパワフルな低音域に、高解像、高音質で整った中高域が組み合わされているところだと思います。安価などんしゃり傾向とは違ってヴォーカルは埋もれずに鮮明に聴き取れますし、中高域は品よく音が作られているのできつさがあるわけではありません。ベースの力強さが強調され、全体に聴きやすいピラミッドバランスの音になっているという感じです。
AK300とAK320や380など上位機種を比較した場合にミクロ的に細かな音再現に注意して聴くと、やはり上位のデュアルDACの機種の方が情報量が豊かだし、音もよりシャープで明瞭感も高いように思います。
ただしマクロ的に聴いた場合、分かりやすい違いは、細かな音再現力の違いというよりも、むしろ味付けの違いでしょう。音質の差というより、音造りの差の方が分かりやすいというべきでしょうか。
AK300ではより味付けがあって低域の量感豊かにパワフルに鳴り、ドラムやベースが気持ちよく、電子的なビートもAK300では迫力満点に聴かせてくれます。ポップ・ロックやエレクトロなどを聴く人は上位機種よりもむしろ好印象だと思う人も多いかもしれません。上位機種と比べた時の機能の差が少ないのもコスパの良さを感じさせます。
AK Jrと比べるとAK300の方が音質と機能の両面でだいぶ上に感じられます。もちろんコンパクトさというJrの利点はあります。
今回は主にJH Audio ROSIEで聴きました。最近はROSIEを気に入って聴くことも多いんですが、AK300ではROSIEの低音調整は変えないで使ってほぼ標準位置でベースギターやドラムスの迫力がAK320よりもはっきりと強調感を感じます。
ROSIEはワイドレンジ・フラット基調の現代的なANGIE に比べるといわば古風というか、クラシックな音バランスの良さがあると思います。AK300でロックを聴くとそれがよくいかされています。Sirenシリーズは低音域は調整ができるけれども、低音調整をすると音が膨らんであいまいになる傾向があるので、できればあまり低音調整を利かせない範囲でパワー感が得られるAK300はうってつけだと思います。もちろんバランス駆動で聴くとまた別な良さがあります。
第3世代の拡張性の高さとしてAK380専用AMPをまったく問題なく使うことができます(わずかなデザインの違いがありますが)。やはり専用アンプを付けると低ゲインでもAK300のパワフルさがよりいっそう引き立つように感じられます。より密度感が濃くなるという感じでしょうか。これを高ゲインにすると。。これはオーナー特権だと思いますのでぜひ買ったらやってみて独自の音世界を堪能ください。
またAK380専用AMP copperを使うと、声音の艶とか弦の深みとかそうした感性的な部分でAK300を一クラス上にしてくれます。AK300のパワフルさとcopperの音の豊かさが調和して、ハイレベルの音質への一番コスパの高い道のひとつと思えるでしょう。ちょっと重いですけどね。
* まとめ
AK300はAK320やAK380と比較してしまうと下位機種となりますが、実売10万前後のDAPとして見ると、新鋭のAK4490を搭載し、高精度フェムトクロックを採用するなど音質面でのスペックは高く、加えてDLNA/uPnP互換のネットワーク対応の柔軟性、専用アンプが使用できる高い拡張性など魅力を持っています。
音質的にも上位機種に肉薄するような高解像度と、上位機種にはない音楽的な低音のパワー感の味付けなど優れた内容をもっています。
またボディの質感も高く、精悍なブラックのカラーリング、専用ケースと合わせてAstell & Kernという高級ブランドの所有する喜びを味わわせてくれるでしょう。
AK300は実際に聴いてみると予想と違った部分と予想通りだった部分がありました。予想と違ったのは(AK120IIとAK100IIの差から)思ってたより音が良いということで、予想通りだったのは音に味付けがなされていたということです。実際にはこの音の良さと音の味付けのミックスされたところがAK300の魅力と言えるでしょう。
プロが仕事の現場で録音モニター的に使うというには向いていないかもしれないけれども、主にCDリッピングでパワフルなロック・ポップを高音質で楽しみたいという人にはお勧めです。
AK300がAK320やAK380と異なるのは、ライバルが少ないAK380やAK320とは異なり、価格帯の近傍にライバルが多いということだと思います。AK300は10万円前後というにはやや高い方ですが、高精度クロックの採用による音質の充実感や、専用アンプの用意、ネットワーク拡張性は他のDAPにはない長所なので納得感はあると思います。精悍なブラックボディの作りも含めてAstell & Kernというブランドバリューも譲ったところはありません。予算10万円を考えたていた人たちはちょっと背伸びをしてみたいと思うのではないでしょうか。
専門店では買取キャンペーンと合わせてよりお得に買えるところもあります。たとえばフジヤさんでいうと他機種の下取りが1万円アップというものです。実質的にはよりお得になっていると思いますので店頭でいろいろと比較試聴の上で、AK300の魅力を発見してください。