恒例のヘッドフォン祭が開催されました。今回もと言うか、当日朝に電車が止まるというトラブルがあり、天気雨が降ると言う波乱の幕開けではありましたが。内容はまた興味深いものでした。
今回の目玉はやはりゼンハイザーの新オルフェウス、HE-1でしょう。
ゼンハイザー HE-1 「新オルフェウス」
私は昨年の末にオリジナルのオルフェウス(HE-90)を聞いてきたばかりだし、ベビーオルフェウス(HE-60)の方は持っているのですが、HE-1の音はオリジナルのオルフェウスとはかなり異なった音傾向です。
「オルフェウス」 HE-90
HE-90の暖かく滑らかな音に比べると、だいぶ硬質でシャープ、音傾向で言うとどちらかというとHE-60に近いですね。もちろん音質的にはHE-1の方が大きく上回っています。実のところ、静電型(コンデンサー型)はバイアス電圧が必要なので専用アンプと対にして語られることがどうしても多くなります。これは後でMrSpeakerの静電型をライトニングとブルーハワイで聴き比べた時にも感じます。
オリジナルオルフェウスのHE-90の音の印象はブラデリウスの真空管アンプの音の影響が強いと思いますが、HE-1もまた専用アンプの影響が強いと思います。
HE-1の音はだいぶ余裕があると言う感じで、ダイナミックレンジが広く全体に余裕がある音と聴こえます。また低域はだいぶ量感がありますが、同時にコンデンサーらしい細やかさというか音のトランジェントの速さを感じます。ゼンハイザーのアクセルは今回来てませんけど、彼が言うにはHD650を考えたということで低音はそれなりに強くなっています。
置いてある試聴曲ではノラジョーンズとかパットメセニーが良かったと思います。パットメセニー聴くと音はすごく速いという感じで音は間違いなくコンデンサータイプの音です。
ちなみに機能としては真中のノブはクロスフィードになっているようです。
Ultrasone Tribute 7
またもうひとつの今回の目玉はなんといってもUltrasoneのTribute 7です。ヘッドフォン祭と言うか、中野・フジヤさんと言うとやはりEdition 7が中心となってヘッドフォン好きの文化を作ってぃったわけなので、ここでTribute 7の発表があると言うことは感慨があります。
レビューは下記リンクに書いています。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/436871772.html
このほかではMrSpeakerの静電型ヘッドフォンの発表会がありました。
ここではHead-FiのJudeもプレゼンテーターとしてコメントをしました。こういう我々のオーディオをパーソナル・オーディオって言ってるところが興味深いところです。
MrSpeakerの静電型ヘッドフォンのポイントはあまり高くなりすぎないということ、快適性重視ということで、Etherのハウジングを流用するようです。また既存の機材(アンプ)を使えるということ、そして音的にはダイナミック型顔負けの低域の性能ということだそうです。既存のアンプを使うと言う点については、互換性はSTAX Proとなるようです。
Ether statとブルーハワイ(左)、ライトニング(右)
試聴ではCavalli ライトニングとHeadampのブルーハワイ(真空管)を使ってました。この機材選択がいかにもMrSpeakerがHead-Fi文化をベースにしていると感じます。いずれにせよアンプについては協業関係を模索中ということで変わるかもしれません。
静電型にはSTAX Pro以外にもいくつか規格があって、オルフェウスもHE-90とHE-60では異なりますので念のため。
* プレーヤー・アンプ系
またDAPではAstell & KernのAK300が登場しました。これはAK第3世代の普及品に位置するもので、シングルDACとなりAK320の下位となります。AK320が第二世代のAK120II的だと言えば、AK300はAK100II的と言えるでしょう。
Ak300とレコーダー
ただし第二世代と違ってポイントはAK300シリーズの周辺機器との互換性があると言うことで、この点については面白いところです。カラーがブラックと言う点もよいですね。
またAK300シリーズの周辺機器であるレコーダーも発表されています。
Mojoの新アクセサリーはまだですが、ジョンフランクスに私のMojoラズベリーパイシステムを聞いてもらったりしました。なかなか興味深そうにしてました。
* ヘッドフォン
Audeze SINE
ヘッドフォンでは待望のAudezeのSINE(サイン)が日本に登場しました。コンパクトなポータブルの平面型です。音もよいです。SINEもHE-1も思ったけど、やはり平面型は音が速いというかトランジェントが高いですね(SINEとHE-1が同じという意味ではありませんが)。音の歯切れが良いです。SINEは特にiPhoneとライトニングDAC内蔵ケーブルで聞いた音が良いですね。このケーブルはうわさ通りになかなか良くできています。
Pendulamic T1
こちちらは新星Pendulamic(ペンデュラミック)のBTヘッドフォンです。宮地商会さんが取り扱い、フジヤさんでもおけるようです。S1のレビューを書きましたが、T1は低音も良くでて音質よいです。これはデモ機をおいていってもらったのでそのうちにまた記事を書きます。
HiFiman edition-s
HiFimanは独自の流通となって新規一点と言う感じです。こちらはHiFima edition-S。マグネットのカバーを外すことで開放型と密閉型をきりかえられるというもの。たしかにそれっぽく音は変わります。
今回面白かったのは前方定位するというCrosszoneヘッドフォンです。
Crosszoneヘッドフォン
Crosszoneは片側に三つドライバーがあって、画像で見えてる右のがツイーター、下のがウーファー、また反対チャンネルのドライバーがハウジングの張り出しに逆向きについてチューブで遅延させてこの写真の右下くらいに出るとのこと。
なぜ左右チャンネルの音が片方のハウジングから出せるかというと、ケーブルの音が両ハウジングに両チャンネルとも入ってます。で4極のプラグです。このためケーブルを左右反対にさしてもオーケーとのこと。ある意味便利というのか。。
Crosszoneの効果は実のところは微妙なところはありますが、多少前にヴォーカルが来るようには思います。前方定位と言うよりは独特の音場感のヘッドフォンと言う感じです。正直S-Logic系統よりも良いかと言うと、ヘッドフォン自体の性能と言う意味でどうなんでしょうか。
たしかに音の作り手からするとスピーカーでモニターして作ったんだからヘッドフォンだと正しく再現されないと言うかもしれませんが、受け手としては音的にはスピーカーはスピーカー、ヘッドフォンはヘッドフォンのそれぞれ良い点があるし、それで良いかなと思います。ヘッドフォンは音のダイレクト感と言うか独自の良さがあると思いますし、それがたぶん新しい時代の魅力なのでしょう。それをなくしてまで頭内定位云々にこだわる必要があるのかと言うとちょっと考えてしまいます。
これはクロスフィードも同じで、いままでわたしもHeadRoomからはじまってK1000も含めてプレーヤーの機能なども、数多くのクロスフィードとか左右の音を混ぜると言う試みを聴いてきましたが、これを使い続けようと思うものはあまりないように思います。ほとんどスピーカーといった方が良いK1000を除けば一番良かったのは特許問題にもなったマイヤーのクロスフィードですが、これも常時オンにしておきたいとまでは思いませんでした。
これはもちろん"個人的な感想"ですし、一方でクロスフィードが好きと言う人もまたいるので、これはもちろんひとそれぞれの好みではあります。そういう意味ではプレーヤーやアンプの機能として簡単にオンオフできるようなクロスフィードの仕組みが一番良いようには思います。もちろんいろんな選択肢があるということは良いことだと思います。
むしろヘッドフォンへのスピーカー世界の応用と言う点ではやはりAQのNighthawkのアプローチがただしいようにも思います。無理してヘッドフォンをスピーカーのようにするよりは、ヘッドフォンが主役になるには欠けていた点を長年主役だったスピーカーの先例に見習うと言う感じでしょうか。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/414941920.html
* イヤフォン
イヤフォンではJabenの新作、セラミックドライバーとダイナミックのハイブリッドが興味深く、また独特の音場感がありました。
セラミックドライバーもダイナミックだよね?と聞いたら違うようでなにか特殊な形式のようです。(わからないけどハイルとかそういう感じのものらしい)。セラミックドライバーはスーパーツイーターとして使用してダイナミックはフルレンジのようです。これはカスタムも考慮しているようで、要チェックだと思います。
こちらは今回新参入のqdc(ミックスウェーブ扱い)です。ちなみにqdcがUEのOEMをやっているというのは単なる都市伝説と言うことです。ただし試聴機を聴くと音はかなり良いと思いました。
5SHは5ドライバー、スタンダード(=ユニバーサル)、HiFi(音楽愛好家向け)の意味です。8SLだと8ドライバー、スタンダード、Live(ミュージシャン向け)の意味だそう。Cはカスタムモデルです。
FLAT4チタン
こちらはFLAT4のチタンモデルです。前モデルよりもぐっと音はクリアでよく聴こえます。ハウジングのみならずチューニングもハウジングに合わせて変えているそうです。やはりFLAT4シリーズはなかなか音良いと思います。
* 周辺機器など
4.4mmバランスプラグ
統一規格として提唱された4.4mmバランスプラグ。おもったよりは小さいですね。ただ少し周りを見ると、スマートフォンが次々に3.5mmプラグさえ薄さのために廃止している現状を考えると、そうした世界のトレンドに比してどうなのか、と言うこともあるとおもいます。もちろん4.4mmは6.3mmよりも音は良くできると言うことで、オーディオ的には良いでしょうし、いろいろと考慮点はあると思います。いろんなのがあると選択肢が広いし、面白いという意味では良いんですが、これに統一と言うのはどうなんでしょう。すでに日本では2.5mmがデファクトスタンダード化していますしね。
それと気になるのは4.4mmを据え置きとポータブルの統一をしようとしている点です。普通は能率の低いHD800のようなヘッドフォンをポータブルでは使わないし、能率の高いカスタムイヤフォンを据え置きでは使わないですから、据え置きとポータブルの両用と言う点はあまり意味がないように思えます。ポータブル機器でHD800バランスが聴けたらそれは便利と言うかもしれませんが、それは4.4mmは2.5mmよりも音が良いから採用すると言うことと矛盾します。音の良さを追求するならば最適の組み合わせで聴くべきでしょう。また据え置きとポータブルではケーブルの長さも違います。スピーカーとは異なってヘッドフォンやイヤフォンはいくつも所持して使い分けるもの、ということもあります。バランスをやる人ならば特にそうでしょう。
これを唱えている人たちは本当に家や外でバランスヘッドフォンやイヤフォンを常用して使っているのでしょうか、 あるいはなぜ据え置きよりもポータブルの方がバランス端子の種類が多いのかということを調べてみたことはあるのでしょうか? そうすればQC(科学的手法)的に言うと「悪さ」はどこかを絞れるはずです。
上で書いたクロスフィードのところでもそう思ったのですが、ヘッドフォンやイヤフォンが流行りと言うことで、他のオーディオ領域からいろいろと参入してくるのは良いのですが、ヘッドフォンはヘッドフォン世界で、クロスフィードにしろ、バランスにしろ、たくさんの歴史と蓄積がありその理由がありますので、まず先人の知恵を調べてみる、尊重すると言うことが大切なように思います。そのためにもヘッドフォン祭があります。まずここに来てみる、文化に触れる、自分で使ってみると言うのが大事だと思います。なによりもこの「ヘッドフォンオーディオ」の世界はボトムアップ主導で来たのですから。
話題のMQAはヘッドフォン祭でもいくつか出ていました。
パイオニアのDP-X1ではFLACとMQAで比較をしていました。ちなみにMQAでは.mqaと拡張子があるように見えますが、拡張子として有効なのはあくまで末尾の3文字なので、xx.mqa.flacの場合は.mqaは拡張子ではなくファイル名の一部となります。
左:Brooklym、右:DP-X1
DP-X1ではMQAのオンオフはすぐに聴き取れる効果の違いが分かりやすいように思えました。
一方でMytek BrooklynもMQA対応されてます。これはオンオフでの効果が微妙でした。これを考えるとファームの作り方も関係があるかもしれません。いずれにせよサイズのコンパクト化と言うメリットはあります。
Brooklynの音質自体はかなり良いと思いました。やはりMytekはなかなか良いですね。
ちなみにMQAともうひとつのトレンドの軸のRoonはエミライさんのところでPlayPointのデモをしていたようです。
PAD Impressa
上はPADのヘッドフォンケーブル、Impressa。うちも最近使ってませんがスピーカーアンプのLINNクラウトの電源ケーブルは(液体の抜けた)PADなんですが、PADはなんだかんだと言われても音は良いように思います。なかなかソリッドでがっちりしたな音でした。11万円くらい?
また今回はNutubeの説明会に参加しました。
Nutubeはシミュレーターのようなものではなく、本当に真空になってアノードやフィラメントがある真空管だそうです。真空管は今でも使いますが、安定供給がネックなのでまずそこを探したということ。はじめは丸い形ではじめたようですが、施設がないので蛍光表示管に音を通したら、という発想をしたということです。それをがんばってオーディオ用に仕上げたということで、結果的に平たくなったということです。12AX7とよく比較がなされていましたが、基本的にはそれらのように前球的に使うようです。12ax7の2%の消費電力で5vで動作するそうです。ポータブルにもよいですね。
試聴ではNutubeとICEpowerの組み合わせのアンプを使っていました。
* お仕事
今回はわたしはヘッドフォンアワード2016とカスタム座談会の司会を行いました。
ヘッドフォンアワード2016では前回同様に司会進行を務めました。
ダブル受賞したSE Master-1
二日目にはアワードの盾がヘッドフォン会場の各ブースに置かれていましたが、この風景もそのうちヘッドフォン祭の春の恒例となるようにしていきたいですね。
カスタム座談会ではほとんどチャペルが満席と言う盛況ぶりでした。FitEar、Just Ear、くみたてLab、Canal Works、センサフォニックス、Westone、qdc、UM、Noble、JH Audio(順不同)のそうそうたるメーカーの代表者、代理店の方に登場いただきました。
今回はカスタムのシェルや耳型に関するテーマを扱いましたが、やはり一回一テーマが限界ですね。。少しずつ軌道修正しながら、良くしていきたいと思います。
次回はまだ決まってませんが、その場合はまたよろしくお願いします。
* Head-Fiジャパン
最後に今回のヘッドフォン祭で登場したHead-Fiジャパンについて補足いたします。
Head-Fiジャパンは今回のヘッドフォン祭でJudeが率先してブースに立って活動してたことでもわかるように、あのHead-Fiの公式な日本版です。それは日本人のための日本語でのHead-Fiという意味です。
Head-Fiジャパンの中心で運営しているのはWikiaジャパンという会社です。なじみのない方も多いと思いますが、Wikia (USA)はあのWikipediaの傘下でコミュニティやフォーラム活動(例えばStarwarsファンサイトとか)を担当する会社です。Head-FiのWkiaプラットフォームの強化の一環として今回のHead-Fiジャパンの話が出てきたという認識です。Wikia傘下なのでWikipediaのような形になるのではなく、あくまでフォーラム(掲示板)的な形態となると思いますが詳細はまだ分かりません。
Head-Fiジャパンの件でWikia USAのCraigという代表の一人とも昨年会ったのですが、私がびっくりするぐらいのヘッドフォンマニアでポタアン二段重ねとリケーブルしたAudezeをミーティングの場に持ってきてたのでちょっと驚きました。こうした点からもHead-Fiコミュニティに注目したのでしょう。
私はこのオーディオ世界ではブログや雑誌に書くほかにいろいろなことをやっていて、よく海外のメーカーの人から国内参入の話も受けるんですが、そういうときに日本のHead-Fiのようなコミュニティはどこだとよく聞かれます。そういうときにあちこちに掲示板があって、twitterがあって、と答えるしかありませんでした。そういう意味ではこうしたフォーラムと言うのはいままでにありそうでなかったように思います。
現在のサイトはこちらです。
http://ja.head-fi.wikia.com/wiki/Head-Fi_Japan