JH AudioのSirenシリーズ第二世代、フルメタルジャケットシリーズのレビューをしていきます。
いままでだと機種ごとにレビューを書くと言う形式が多いんですが、各モデルの個性の差が分かりやすいように、テーマ別に横並びで比較しながらレビューを書いていこうと思います。
今回はまずイントロ・開封編を書いていきます。
* Sirenシリーズとは
JH Audioは2013年に新世代機種である「Roxanne」を発表し、これが「THE SIRENシリーズ」の始まりとなりました。名前の由来はギリシャ神話に登場するサイレーン(またはセイレーン)です。ジェリー自身は単なる数字の名前に飽きてしまったので女性名を使いたかったと言っていました。初代のRoxanne(ロクサーヌ )もそうですが、以後ロックの名曲で使われる女性の名前を冠することになります。
Sirenシリーズにはカスタムモデルとユニバーサルモデルがあります。2014年暮れに発表されたLayla(レイラ)とAngie(アンジー)以降はユニバーサルモデルはAstell & Kernとのコラボ製品となります。日本ではアユートが販売を担当しています。(カスタムはミックスウェーブ)
Sirenシリーズの特徴は次のようなものです。
1. 多ドライバーによる広帯域設計
Roxanneは片側12ドライバーと言うドライバー数の多さで話題となりましたが、これはJH13以降続いている同一の帯域に複数のドライバーを配してひとつのドライバーの負荷を軽減して性能を高めると言う設計方針によるものです。これはジェリーのスタジオ経験から着想を得たものとも言われています。
JH13では同一帯域に2個のドライバーでしたが、Sirenシリーズでは4個に進化しています。(Angieの中低域とRogieは各2個)
これは特に高域の周波数特性をフラットに23kHzまで伸ばすのに効果的で、Angieの高域だけが4個なのもこの理由です。ドライバー数を増やすことは一概に有利なだけではないですが、JH Audioではそこを工夫してまで真の高域特性にこだわったということは、ハイレゾを語ることで逆に高域特性が不透明にされている感のあるイヤフォン界の現状を考えさせてくれます。
2. 4次クロスオーバーの導入
SirenシリーズではLayla、Angieからマルチドライバー機では重要なクロスオーバーを4次形式としています。これは従来(たとえば旧Roxanneは2次)のイヤフォンに比較するとより急峻な特性を確保することができ、周波数特性をより正しくすることが可能となっています。
Roxanneもこのフルメタル世代から4次に改良されています。
3. 位相を正しく再現する「FreqPhase テクノロジー」
ドライバー数を多くすると、音の波がそろわずに像がぼやけてしまうような位相不具合の問題が発生しやすくなりますが、JH Audioでは独自特許のFreqPhaseを採用することでこの問題を解決しています。これによって音像が明確になり、音の広がり感もよくなります。
これもともすればサイズの増大などを招きやすくするそうですが、それよりも正しく音を再現することにこだわっているわけです。
3. 新設計のケーブルとプラグ
かつてジェリーにインタビューした際に「おれが作るものは みなプロ向けを考えているのさ」と語っていましたが、その表れのひとつはこの新形式のケーブルプラグです。
いままでのIEMでは2ピンの頼りないプラグがメインでしたが、演奏時にIEMが外れるなどの事態を避けるためにSirenシリーズではロック式のプラグが採用されました。
また低音域の量感を調整するためのダイヤルも採用されています。プロ用途や音を正しく聴きたいために特性をフラットにすると、カジュアルリスニングでは低音域が不足して物足りなくなったりするため、これで好みの低域の量を調整ができます。
またユニバーサルモデルではAstell&Kernとのパートナーシップ契約により、2.5o 4極のAstell&Kern用バランスケーブルを同梱しています。
* フルメタルジャケットシリーズとは
今回「THE SIRENシリーズ」第二世代として発表されたのがいわゆるフルメタルジャケットシリーズです。「フルメタルジャケット」という名の通りにハウジングにそれまでのカーボンやケプラーではなく、チタンやアルミなどのメタル素材が採用されています。ラインナップには新たにエントリーモデルのRosieが加わっています。これまで下記のモデルが発表されています。Rosieを除いて現在発売中です。
Layla II
シェル素材: チタン削り出しボディ、チタンベゼル、カーボンフェイスプレート
名称由来: エリッククラプトン(デレク&ドミノス)の「愛しのレイラ」
ドライバー数: 片側計12 (高音域に4基、中音域に4基、低音域に4基)
クロスオーバー: 3Way
価格: オープン(直販価格 税込 399,980円)
Roxsanne II
シェル素材: アルミボディ、チタンベゼル、カーボンフェイスプレート
名称由来: ポリスの「ロクサーヌ」
ドライバー数: 片側計12 (高音域に4基、中音域に4基、低音域に4基)
クロスオーバー: 3Way
価格: オープン(直販価格 税込 269,980円)
⇒クロスオーバーがこれまでのLaylaやAngie同様に4次クフィルターに更新されています
Angie II
シェル素材: アルミボディ、カーボンフェイスプレート
名称由来: ローリングストーンズの「アンジー」
ドライバー数: 片側計8 (高音域に4基、中音域に2基、低音域に2基)
クロスオーバー: 3Way
価格: オープン(直販価格 税込 189,980円)
またケーブルが新設計となり、交換ケーブルがMoon Audioが設計したものに変わっています。これについてはMoon AudioのDrewさんから聞いた話をより詳しい記事にまとめていますので下記リンクを参照してください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/432056785.html
* 開封の儀
パッケージはAstell & Kernのコラボ製品らしくどれも豪華なものです。AngieIIはこのシリーズでは普及モデルに相当しますが、それでも他社製品に比べると相当豪華なパッケージとなっています。
LaylaIIは他のモデルのパッケージよりも一回り大きく、RoxxaneIIとAngieIIは同じ大きさです。箱の裏にはいずれもジェリーの写真が載っています。
LaylaII
箱の中の構造は前作と同じです。LaylaIIは中箱にさらにインナーボックスがあってイヤフォンが入っています。そして底の箱にカーボン製のイヤフォンケースが入っています。このケースはかなりがっしりとした剛性感を感じます。カーボン製のケースには同梱の2.5mmのバランスケーブルがはいっています。
Layla II
LaylaIIのイヤチップや説明書・ワランティシート、低域調整用のドライバー、クリーニングキットはアクセサリーとして外箱のインナーボックスにはいっています。またLaylaIIだけJH Audio採用アーティストリストが別のシートとして入っています。これらは前作と同様です。アクセサリーは三兄弟共通ですが、イヤチップはラバーとフォームがLMSの三つずつ付いてます。これも前作と同じで、私はラバーのLを良く使っています。
RoxanneII
RoxxaneIIとAngieIIは中箱を上下に開けるタイプです。(写真の関係でワランティカードは外しています)
RoxxanneIIとAngieIIのどちらもアクセサリーは底部に入っています。JH Audio採用アーティストリストはこれに印刷されています。アクセサリーのインナーを外すと金属の丸いケースが出てきます。RoxanneIIはブルーグレーのような色です。前は黒でしたが、これはきれいな色です。
RoxanneII
考えてみるとRoxxaneのユニバーサル版は前回はAstell & Kernコラボではなかったので、今回がはじめてのAKコラボパッケージとなります(AKR03は別として)。RoxxaneもAstell & Kernとのコラボになってから1レベルよくなったように思います。
AngieII
AngieIIでは金属ケースは赤と言うかルビーのようにきれいな配色です。
AngieII
箱の構造などはRoxanneIIと同じです。AngieIIに関してはパッケージ面では前回とほぼ同じに思えます。
laylaII
LaylaIIの本体はずっしりと重みを感じます。本体についてはLaylaIIは前のカーボンシェルとくらべるとかなり異なった印象を受けます。前のカーボンシェルとレインボーのベゼルもなかなか良かったので、これはどちらがよいというよりはまったく別のものになったという感じを受けます。LaylaIIはチタンシェルの削り出しというイヤフォンでは考えられない高級なものですが、フルメタルの名の通りにがっしりして頑丈そうです。フェイスプレートはカーボンがはまっていて工芸品のようですね。
前は多少派手な印象でしたが、LaylaIIは三兄弟では一番シックで落ち着いた配色です。この辺はよりプロ用途を意識したものかもしれません。
RoxanneII
AngieとRoxxaneについては前モデルよりも改良されて良くなったという印象を受けます。メタルシェルになったこともあり、ボディの作りの美しさがさらに前よりよくなったと思います。
RoxxaneIIはアルミのブルーグレーのシェルで、カーボンのフェイスプレートがはまっています。ベゼルはチタンで高級感を感じます。フェイスプレートのAKとJH Audioのロゴは赤なのも良いデザインですね。若々しいエネルギッシュな感じです。前の黒のアクリルからするとRoxxaneIIはかなり品質が向上した感じがします。
AngieII
AngieIIは三兄弟では一番コンパクトで少し軽く感じられます。
アルミのレッドシェルに黒いフェイスプレートにベゼルも黒で赤のロゴは三兄弟では一番カッコよく、デザインに惚れる人も多いでしょう。深みのある赤のシェルもいい感じです。隠れてますがステムも黒です。三穴ですね。
JH Audioの製品はわたしは2009年のデビュー作のJH13からずっと使っていますけれども、前は音質はトップクラスといえどもボディやパッケージの作りはいま一歩という感もあったと思います。Astell & kernとのコラボになってからはこの点がグレードアップされました。
トップブランドのJH Audio製品が、その音質レベルの高さに見合う外装もまとった、と言うのがこのAstell & Kernとのコラボシリーズの成果であるでしょう。
次は音質編の予定です。