CES 2016が終了しましたが、そこでのキーワードにMQA Ready、Roon Readyがよく聞かれました。MQA Readyはさきの記事でも書きましたが、DAC・オーディオ機器側でMQAのデコードができるものを差しています。次のRoon Readyは端的にいうとRoon対応機器のことですが、Roon Readyとはどういうものかを説明するためには少々文字数が必要です。

前に書いたように私も初めはRoonはAudirvanaのようなソフトウエア技術でオーディオ音質を高めるという方向性のソフトウエアではないので、ちょっと興味の対象外でしたが、そろそろ私もRoonを避けてられなくなってきたのでデモ版を使って少し調べてみました。
おくればせながら、と言ってもRoon自体昨年デビューしたばかりの新しいソフトウエアです。なぜここまで業界を席巻できたのでしょうか?
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RoonとはなにかまずRoonとはなにかというと、Roon Labsが開発したWindows PCまたはMac用の音楽再生ソフトウエアです。もともとSooloosというミュージックサーバーの開発者が、いったんMeridianに買収されて、最近またRoon Labsとして独立したという経緯で出てきたものです。公式デビューは2015年のミュンヘンハイエンドです。
価格はサブスクリプションモデルを採用していて、年間使用ライセンスが$119/年です。一回課金だけの終生ライセンスは$499と高めです。2週間の無料デモができます(デモでもクレジット登録が必要です)。
Roonはユーザーから見るとiTunesの高性能版にみえる音楽再生プレーヤーソフトです。しかし、中に入ってみると、その実態はMPDにより近いものであると言えます。つまりクライアント・サーバーモデルです。
Roonは外からは一つに見えますが、内部的に大きく分けて3つのモジュールから構成されます。CoreとClient(コントロール)とEndpointです。Coreはライブラリ管理を行い、Clientで画面操作した再生をEndpointにデータを送ります。EndpointはUSB DACなど出力デバイスとつながっています。
なんとなくこれらがネットワーク上に分散されればネットワークオーディオシステムになりそうだと気が付かれるかもしれません。それは間違っていないのですが、そこで早飲み込みするのは禁物です。これがRoonReadyにもつながっていきます。
Roonでは単一のライブラリがキーとなっています。そのためRoonでもっとも重要なものはライブラリをつかさどるCoreです。ライセンスもCore単位になっています。あるユーザーのRoonのシステム(ネットワークも含めて)に置かれるCoreは一つというのがRoonの原則です。それゆえに単一のライブラリが保証されます。
この辺からDLNAモデルとは少しずつ離れていくと思います。DLNAを知っている人なら、なんとなくClientをDLNAコントロールポイント、EndpointをDLNAレンダラーそしてCoreをDLNAメディアサーバーに例えたくなりますが、DLNAならライブラリはメディアサーバー単位になっています。
RoonにおいてはNASはライブラリ(Core)のあるPCにNFSやSMBでネットワークマウントしておきます。またRoonではオーディオデータの転送にDLNAの核となるuPnPではなく独自プロトコルを採用しています。
ここからはインストールして使いながら解説していきます。
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Roonのインストールと使用RoonのPC/Mac版はRoon Labsのホームページからダウンロードします。ホームページはこちらです。
https://roonlabs.com/
タブレットの場合はApple storeやGoogle Playからダウンロードします。無料で二週間使用できますが、はじめにクレジット情報を登録しておく必要があります。このままだと二週間後に自動的に課金に移るので、デモだけの時はRoonアカウントのMembershipタブからその前にキャンセルをします。
私はHugoが接続されたMac miniを使いました。また同一ネット内にAirPlayデバイスとしてCompanion Oneがあります。

上のChoose your library画面がまずポイントなのですが、はじめにRoonをインストールするときにこのPC/Macにライブラリを置くか、リモートかと聞かれます。この時にライブラリを選択するとこのマシンにClientとCoreとEndpointがインストールされます。ユーザーは意識する必要はありません。あとで説明しますが、このときにライブラリをおくPCは他からリモートで操作したくなるメインマシンにしてください。
二台目のPC/Macならばリモートしか選択できません。このリモートの場合はClientとEndpointがインストールされます。いまではiPadとAndroidにもリモートが用意されています。
さきほど書いたようにあるRoonシステム内にはライブラリ=Coreはひとつのみですが、リモートはいくつあっても構いません。課金もされません。

Tidalのインテグレーションもできますが、日本では使えませんので省略します。ただここもRoonの魅力の一つです。

音源の場所を指定します。追加もできます。NASはここでRoonが認識できるようにNFSかSMBでマウントしておく必要があると思います。

すぐ立ち上がってライブラリスキャンが始まります。
スタートというかホーム画面はこんな感じです。お勧めアーティストなどが出ていますね。

またRoonの優れた点の一つは保存している音源からアーティスト情報を手繰りだすことで、たとえばジャンルだけでなく、アーティストリンクからロリーナ・マッキニットの情報が出てきます。ライブ情報とか、説明など、この写真も私のMacではなくネットから取ってきています。もうこんな年齢なのですね。

アルバム画面をクリックして、曲名を選べばすぐに再生できます。この辺はiTunesとさほど変わりありません。ただし再生先を指定する必要があります。Roonではゾーン(Zone)という概念で再生先を指定します。Audio Settingで選べます。

上画面のようにデバイスには詳細設定でexclusive(hog),インテジャーモード、DSDネイティヴ再生の指定も行えます。高音質プレーヤーの機能も一通りそろっていると言えます。

Roonの優れた点はAirPlayとUSB DACのように異なるゾーン(再生先)に別な曲を同時に再生できることです。上ではHugoとCompanion Oneで別々の曲を再生しています。
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Roonリモート、Private Zoneここまではそれほどむずかしくないのですが、Roonのポイントはここからです。このRoonシステムにリモートを加えてネットワークに拡張します。

タブレットでもRoon Remoteというアプリを使うことでMac miniをリモートコントロールできます。これはもう一つのMac/PCにChoose Libraryでリモートとしてインストールしても同じです。上はGoogle PlayのAndroid用です。これをNexus9にインストールします。

タブレットでも表示される画面デザインはPC/Macと同じでユーザーは使いやすいでしょう。

ここで注意して欲しいのがタブレット(remote)のAudio設定を開けると、上の画面のようにこのタブレットのオーディオ出力もEndpoint(ゾーン)として設定出てきます。これは
Private Zoneと呼ばれます。大事なので太字で書きました。これがRoonの注意点です。

上画面のようにMac miniのゾーンがタブレットから見えていますね。
ここでタブレットでHugoのゾーンを出力先として操作すると先のMac miniのHugoから音が出せます。これがおなじみリモコン的使用法です。
Roonの優れた点はこのタブレット上でタブレットの出力先を指定するとタブレットでMac miniの音源を再生できます。そしてMac miniでは別の曲を再生できます。
つまりこれは単なるコントローラではなくRoonのコピーと言えます(ただしCoreはない)。ネットワーク上のRoonのコピーが単一のCoreの持つライブラリを共有して音楽を別々に再生できるわけです。たとえばMac miniではスピーカーでリスニングルームにクラシックを流しながら、別の部屋ではタブレットでヘッドフォンでロックを聴けます。どちらもCoreの統括する同一のライブラリです。
ただし一つ制限があります。それがPrivate zoneです。
リモート(coreのないコピー)のインストールされたデバイス(PC/Mac/タブレット)の出力先ゾーンはPrivate zoneと呼ばれて他のデバイスからアクセスできません。例えばNexus9からはMac miniのHugoは見えますが、Mac miniからNexus9の出力先(ゾーン=private zone)は見えません。もうひとつiPadを加えても、Nexus9の出力先は見えません。
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Roon ReadyとはNexus9ならまあいいかと思うかもしれませんが、これが立派なDACを持ったネットワークミュージックサーバー(Endpoint)を入れたらどうなるでしょう?Mac miniから操作したいですよね。しかしやはりそれはCoreがないのでremoteになり、private zoneなのでアクセスできなくなってしまいます。
(AirPlayはMac miniに接続されたゾーンなのでPrivateではなくどこからも見えます)
もうひとつの例があります。これはRoonフォーラムでもFAQだと思いますが、たとえば家にPC1(ライブラリCore)-HugoとPC2(リモート)-Hugo TT、iPad(リモート)を設置した場合、やはりiPadとPC1からPC2の接続機器は見えません。これはPC2がPrivate Zoneだからです。ならばPC2をCoreにすればどうかというとiPadからHugo TTは見えますが、今度はPC1がリモートになるのでHugoが見えなくなります。
これはやはり不便です。そこでそれを可能にしたRoonSperkersというソフトウエアが開発されました。このRoonSpeakersをリモートにインストールするとPrivate ZoneのDACなども他からアクセスできるようになります。このRoonSperkersを実現するためのプロトコルがRAAT(Roon Advanced Audio Transport)です。これはRoonの独自プロトコルで、レイテンシー、バッファリング、クロックオーナー、クロックドリフト、サンプルレート・周波数ネゴシエーションなどが盛り込まれています。(384kHz,DSDも可能です)
このRoonSpeakersがインストールされてRoon対応されたネットワーク機器が
RoonReadyと呼ばれています。つまりRoonSpeakersが入ったどこからでもアクセスできるEndpointのミュージックサーバーなどがRoonReady機器です。またRoonReadyは単に機材だけではなく、広くパートナーシップも含めた言い方でもあります。
* 2016/1/24:初出と少し表現を変えました。ソフトウェアとしてのRoonSpeakersの名称変更はまだということです。
独自プロトコルを採用した理由は開発者がみずからRoonフォーラムでDLNAやOpenHomeのようなpullモデルはユーザーエクスペリエンスが良くないと書いてますので、ここはあえてDLNAとは異なるものにしていると考えられます。
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RoonのこれからRoon対応機器というのはRoonReadyだけではなくRoon Certifiedというのもあります。これは主にUSB DACに対してのもので、Roonと組み合わせて問題なく再生ができるという証明をDACをRoon Labsに送って得るものです。対して先に書いたようにRoonReadyはネットワークオーディオデバイスに対してのものです。(ただPCにRoonリモートをインストールしてUSB DACを接続した場合、それにRoonSpeakersをインストールすればRoonReadyになると思いますが、そこまではわかりません)
この辺はDarkoがインタビューしています。
http://www.digitalaudioreview.net/2016/01/what-the-gosh-darn-heck-is-roon-ready/インタビューの中で開発者がRoonReadyは(簡単さと音質の両立という点で)ハイエンドオーディオ向けのAirPlayみたいなものだと言っていますね。またいままでのネットワークオーディオではIPアドレス設定だのライブラリがあちこちにあるだのmessy(ごちゃごちゃしている)という言葉をよく使っているので、なるべくシンプルにしたい、ユーザーエクスペリエンスをあげたいという気持ちが開発者にあることがこのインタビューからもわかります。
DarkoもRoonのよいところは電源が落ちた時に立ち上げなおしてきちんと元のDAC選択が戻っているとか、聞いてた曲の位置が戻ってるとかそういう細かいユーザー本位のところが良いと語っています。
Roonはこれからのソフトウエアで、CoreをPC/Macではなくミュージックサーバーに載せるという試みも行われています。それがこの記事にもある
SOtMのsMS-1000 SQです。これはミュージックサーバーですが、中身はWindowsです。そこでRoonを搭載することでストリーミングにも対応しています。

また音質面ではと書きましたが、上画面のようにRoonはHQ Playerをインテグレーションする機能があります。これは試していませんが、HQ PlayerのコントロールAPIを使用するようです。
いずれにせよ2016年にはMQA Ready、Roon Readyというキーワードが海外のPCオーディオというかデジタルオーディオ界隈ではよく聞かれることになるでしょう。
すでにAURALiCのAriesのようにRoonReady、MQA Readyを表明する機器も登場しています。
http://www.digitalaudioreview.net/2016/01/auralic-to-add-mqa-roonready-to-aries-at-ces-2016/CES2016ではいままで勢いのあったネットワークプレーヤーはアナログプレーヤーの熱さに押されてしまう形となりましたが、その生き残りをかけてMQA、ストリーミング(特にTidal)、Roon、ネットワークオーディオというのは統合されて語られることになるのではないかと思います。