Music TO GO!

2015年12月31日

2015年を振り返る

今年もいろいろと書いてきましたが、今年度の振り返りの記事を書いて終わりとしたいと思います。

いわゆるこの「ヘッドフォンオーディオ」界隈では近年はイヤフォンがトレンドの主導をする傾向がありましたが、今年は年明けからスピーカー技術を取り入れたAudio QuestのNighthawkや、ポータブル平面型のOpo PM-3そしてAstell & KernのベイヤーコラボモデルであるAKT5pなどヘッドフォン復権とも言うべき盛り上がりがありました。
ポータブルでは久々のEditionシリーズであるEdition Mなんかもありましたが、ポータブル系だけではなく、ハイエンド方面でもMrSpeakersの野心作Ether、テスラ第二世代T1 2ndとAK T1p、ゼンハイザーHD800Sなど他にも多数発表がありました。

平面型はわりと定着してきたと思います。もともと平面型は新しい技術ではなくオーディオ黄金期に流行っていたものですが、いったん廃れて最近再び流行るきっかけとなったのはHiFimanとAudezeが推進材となったからです。その両者ともHE1000系やLCD4などトップモデルを更新しています。静電型もオルフェウス2やSTAXの新製品、ポータブルのShureなど驚きの展開となりました。

イヤフォン方面では近年のマルチBAの多ドライバー化のアンチテーゼともいうべき流れが出てきたことが注目事項だと思います。
ひとつはダイナミックの復権で、いままでのDita AnswerやIE800の流れを受けて、CampfireのLyraやAstell & KernのAK T8iE、ビクターのFX1100など、ハイエンド・ダイナミックの流れが定着してきたように思えます。
Shureのまさかのポータブル静電型であるKSE1500もやはりスタッフが語っていたようにマルチBAのアンチテーゼの一派と言えるでしょう。
またCampfire audioのOrion,Jupiterなどで採用されたアコースティック・チェンバー方式(チューブレス)も複雑化に対してのアンチテーゼの一種と言えます。

またカスタム方面ではハイブリッドが人気のカテゴリーとなり、マーヴェリックカスタム、FitEar Air, Justear MH-1/2などなど、たくさん人気機種が登場してきました。
また閉鎖空間の耳道におけるベントホールの問題も、そうしたハイブリッドモデルはもちろん、ちょんまげ3号のA.I.R.や64 AudioのADELモジュールなど注目をされました。
カスタムではWestone Sシリーズやオンキヨーのように一層の低価格化が進むとともに、3Dスキャナ・3Dプリンタの導入など新しい技術動向にも注目です。

それと今年はWestone 3のオマージュであるWestone30やTriple.fi 10 proのオマージュであるJH Audio TriFiなどかつての人気機種の10周年を祝うモデルも話題となりました。これらが日本限定というのもこの10年で日本市場の果たした役割の重さを感じさせます。

DAP(デジタルプレーヤー)では中国製DAPの隆盛は大方の予想通りですが、オンキヨー・パイオニア連合など国産も加わって戦国時代の様相を呈してきている一方で、いち抜けしているAstell & KernはAK380/AK320、AK Jrとラインナップを大きく広げました。
イヤフォンも含めてポータブル製品の価格帯は引き上げられていますが、普通はこうした従来の価格トレンドから離れた高価格製品はオルフェウスのようにメーカーの看板としてあるもので売れるものではありません。しかしポータブル製品の場合は売れ行きも好調であるというのがポイントです。つまり試しに作ったというものではなく、それが価格帯のレンジを引き上げて恒常的に商品選択の幅を増やしたと言えるように思います。

またポータブルアンプではChord Mojoが好評のHugoをついでより小型・低価格で発売されたのが大きな話題となりました。来年は拡張性を広げるアクセサリーの登場にも期待したいところです。


PCオーディオでは、、、なにかありましたっけ?と私が聴きたいくらい。それは技術トレンドに欠けているからだと思います。たとえばDoPによるDSDネイティブ再生やクラス2による96Kの壁の突破などの技術的なブレークスルーがなく、スペックもDSD11Mの浸透くらいで頭打ちに近い状態です。
ハイレゾはもはやマーケット用語であり、技術的なトレンドとしてはすでに48Kや96Kの壁を突破したときに終わってます。40kHzで数10dBも落ち込む「ハイレゾ対応」製品を技術的な壁を突破したと言えるのでしょうか。
MQAについては昨年末に話題となりましたが、対応機種がいくつか出たものの一年たっても市場に登場していません。PCでどうやって聴くかのガイドも十分に提示されていません。
ストリーミングについてはApple Musicの登場や日本での導入、年末のビートルズ、海外でのTidal人気など話題性はいまだありますが、技術トレンドと言うべきか。
ソフトウエアでも今年はPCの音楽ソフトウエアではRoonが海外では話題になっているということは知っていたのですが、RoonはAudirvanaやHQ Playerのようにソフトウエアで音質を高めると言うような方向性の技術主導のソフトウエアではなく、あまり興味が持てなかったということでうちの記事にすることはありませんでした。

PCオーディオ界隈はかつて技術トレンドの先端として、自分でも情報収集がわくわくと楽しみでしたが、最近は正直言ってかなり退屈です。普及期に入って安定したのだ、と言えば良いのですが、トレンドの牽引車に欠けると言う印象も否めません。

昨年の終りに来年(今年)はPCオーディオにできてポータブルにできないことはなくなる、と書いたのは予言というよりすでにその時すでにCelsus Companion oneなどを使っていたのでそう書いたんですが、さらに今年はAstell & Kernの第二世代機以降がDLNA互換のネットワークプレーヤーの機能を有するに至り、Mojoのアクセサリーでもそうしたモジュールが検討されているなど、PCオーディオ的なお株を奪ってしまったように見えます。ポータブルではさらに無線の方面でネットワークオーディオが発展していく期待感もあります。

スマートフォン方面ではあいかわらずの煮え切らないAppleの対応もありますが、Androidでは期待していたUSB標準ドライバーに失望し、レイテンシー向上で期待し、というところでしょうか。来年はさらなる薄型化のためにスマートフォンのイヤフォン穴の動向に注目でしょうか。
高音質アプリでは久々に本格的なiOSのRelistenが出ました。これは使いこんでいくとiPhone直でもAnswerのような高性能イヤフォンで不満ないようにはなります。

また個人的にはシンガポールのMookショウも興味深い経験でした。
今年はヘッドフォンアワードの表彰式の立ち上げしたり、カスタム座談会などの司会も面白かったですね。
現在もいろいろ活動していて、来年はなにか面白い報告ができれば良いなと思ってますが、まだわかりません。
さて来年はどうなるか。
posted by ささき at 09:26 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月24日

ファイナルオーディオデザインのイヤフォン作成講座(シンガポール出張版)

Mookショウで開催されたファイナルオーディオのイヤフォン作成講座に参加させてもらいました。これは人気企画「自作イヤホンで音のチューニングを楽しもう!〜イヤホン組立体験〜」講座の出張版です。イヤフォンの組み立てをすることで構造を学ぶとともに、音のチューニングをどうするかまで学ぶことができます。
日本での参加費は12800円で、ダイナミック型のMMCXリケーブルが可能な本格的なものです。チューニングという観点からするとダイナミックの方が自由度があるとはいえるでしょう。

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使われるイヤフォンもほとんど参加費はパーツ台だけでとんとんというくらいなので、できるイヤフォンは市販品相当だとなかなかのものというのがわかると思います。十分に自分でも使えるくらいになるので、それ目当てということでも良いと思います。

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上のようにはじめにパーツをすべて皿に開けます。このときにパーツが小さいので神経を使いますが、実際のパーツはもっと小さいと言われて改めてイヤフォンのミニチュア感覚の世界に感じ入ります。

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上でブラブラしてるのがダイナミック・ドライバーです。ハンダは使わずに部品を止めていくだけですが、なかなかうまくはまりません。ドライバーのゴムパッキンなどは熟練は1秒でやるそうです。

だいたい作ってチップとケーブルをつけると音を聴くことができます。今回は特別にFinalの好意でJabenのSpiral Strandケーブルをおごられたので音が良すぎという感じです。これが一万くらいの音か!といいたいところですが、ちとベースが過大な感じです。

そこで次は聞いたらチューニングに移ります。

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まずドライバー自体の背面の開口部をテープで塞ぎます。上の写真で左のドライバーの下にあいた穴をふさぎます。右はすでにふさいでいます。ただしこれは完全にふさいでいるわけではなく、いくらか通気しています。ダイナミック型はこれが大事なので、これになにを貼るかがポイントだそうです。
実際はバックベントよりも、ドライバー自体の開口部ポートが低域に与える影響が大きいそう。

これですっきり上質な音になった気がします。言い換えると少し高いイヤフォンになった感じです。低域が抑えられよりフラットになりヴォーカルも引き立ちます。このドライバーの背面の開口部で100hz-1Khzまでを抑えるとのこと。

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次は上のハウジングのバックベントを塞ぎます。ねじで回転させて開口部を閉じます。こちらは低域でもより低い方をかえるということで、いわゆる重低音がなくなる感じがします。ここは確認したら好みで戻します。

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次は上のようにいわゆる音響フィルターをチューブに詰めてハイを抑えます。密度が高いほどハイが落ちるわけで、ストッキングなどを入れても良いそう。実のところこれをいろいろ家にある素材で変えて欲しいということです。天然素材が良いそうです。またハイを変えることで知覚的に低音も変わるとのこと。

最後にメッシュのフィルターをつけるが、これはイヤワックス(耳あか)用なのでなくても良いそうです。むしろいろいろフィルターを変えるにはいらないかもしれません。

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けっこう立派なイヤフォンが出来上がり、音質も良くて十分これで楽しめます。

まとめるとチューニングのポイントとしては、次のようになります。
1. チューブにフィルターを詰めて高音域の調整
2. ドライバーの背面開口部のテープを変えて低音の調整
3. ハウジングのバックポートの開け閉めで超低域の調整
加えてケーブルを交換することでも音が変えられます。

イヤフォンの構造が分かりやすく、チューニングなどの知識も得ることができ、作ったイヤフォンで楽しめるとなかなかお得な講座ですので次の開催にはぜひ参加してみてください。
ファイナルデザインの口座案内(前回)はこちらです。
http://final-audio-design.com/archives/3832

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2015年12月23日

ポタ音スタイル2016に記事を書きました

発売中のCDジャーナルムック、ポタ音スタイルにいくつか記事を書きました。
プレーヤー・アンプとヘッドフォンイヤフォン徹底ガイドのレビューでAK Jr、Continental Dual Mono, AK T1p、Campfire Audio Lyra、Chord Mojo、ちょんまげ3号を書いています。
アプリガイドではHF Player、USB Audio Player pro、FLAC Playerとともに新しいRelistenも書いています。
またP146から「ポタ音放談」として私とフジヤの根元さんの対談でポータブルアンプやプレーヤーに関する不満点やこうあるべきという形を話していますので、ぜひご覧ください。


posted by ささき at 10:53 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月21日

シンガポールMookオーディオショウ(Jaben主催) 第3回レポート

12/11から12/13までシンガポールにてJaben主催のMoon Headphoneフェスティバルの第3回が行われ、私も参加してきました。

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第一回レポート

第二回レポート

前回まではサンテックシティという複合モールにあるコンベンションセンターを使用したのですが、今回はシンガポールの新しい中心地とも言えるマリーナ・ベイ・サンズホテルを中心としたエリアのコンベンションホールに変更されました。ここはシンガポールでは最もステータスの高いエリアだそうです。参加ブースは前回よりも増えましたが、運営方法も少し変更されて代理店参加は一部となり、多くのブランドのブースはJaben側のスタッフが担当することになりました。

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マリーナ・ベイ・サンズは日本でもよく知られる高級ホテルで、一泊はS$450程度です。3つのタワーから構成され、その頂点は船の形をしたデッキでつながれています。

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Infinity Pool(カメラは持ち込み可)

そのデッキにはSkyparkと呼ばれる展望デッキのほかにInfinity Poolと呼ばれるプールが設置されています。ここは縁がまるで滝のように空と摩天楼に落ち込むように見えることからその名がつけられています。もちろん縁は二重構造になっていて絶対に人が落ちないように設計されています。

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ガーデン・バイ・ザ・ベイ

またサンズは複合施設でもあり、隣接するガーデンズ・バイ・ザ・ベイと呼ばれるテーマパークのような植物園やショッピングセンター、レストラン街、そしてコンベンションセンターを有しています。事実私も会期中はほとんどここから出なかったくらい施設は充実しています。

朝方1℃の日本から30℃の南国へと移動します。 シンガポールへは7時間ほどで到着し、まだ暗いなか眼下に停泊している船や街の灯が見えてくると、やがてシンガポールのチャンギ―国際空港に降り立ちます。シンガポールは車の数を抑えるために公共交通機関が充実していてタクシーが安いので、サンズにはタクシーで向かいます(S$15-S$22)。
この季節は雨期に相当し、だいたい午前は晴れますが、午後は豪雨のような雨が降り、夕方にまた上がると言う感じです。季節はほとんど日本の夏のようなもので、晴れているときは半そででよいのですが、建物の中が冷房で寒いことが多いので調整できる薄い長そでがお勧めです。

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会場はマリーナベイサンズのエキスポセンター4F会議室で、一階が向こうが消失しそうな大きさなのに驚きます。ホテルも巨大ですが、コンベンションセンターも巨大、世界の人が来ることを前提にするっていう国際的視野は日本もみならって欲しいものですね。余談ですが日本の良いところも悪いところも、なんでもそうですが日本市場で日本人を相手にしていればそこそこ成り立ってしまうと言うところです。シンガポールのような小さな国でははじめから世界を相手にする必要があり、そのため国際的な見地が育っていきます。
部屋は大部屋に40テーブルくらいが設置され、ブランドによっては代理店がやってる場合もあるし、Jabenスタッフが接客してるブースもあります。テーブル数は前回より増えてます。

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日本で見ないのは、Jabenらしい組み合わせでディスカウントする商品の売り方です。お得感をいかに出すかというのがひとつのポイントのようです。また各ブースを回ってスタンプを集めるとDENON DA10が当たる抽選に応募できるというスタンプラリーのようなイベントもありました。

以下ブースの様子をレポートしていきます。
まずシンガポールのメーカーの展示が活気がありました。シンガポールのメーカーはAnswerでおなじみのDita Audio、カスタムイヤフォンのAAW、そしてBTヘッドフォンのpendulmicです。

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地元Dita Audioのブースはけっこうな人気でした。Answerバランスなどを展示してました。

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またこの週末の大きなトピックとしてDita Answerはシンガポールで最も権威のあるPresident's Design Awardを受賞したということです。シンガポールの新聞に記事があり、特製の本に数ページにわたって掲載されてました。

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上は試作版ですが、DitaのAnswerのTrueバージョンのケーブルをMMCXで作った交換ケーブル版。CampfireのLyraにつけて聴いてみました。
これケーブル単体で聴くとよくわかるけどすごく高品質です。フラットで引き締まり、透明感がすごく良いですね。価格でいうとかなり高価な部類にはいると思います。それを考えるとAnswerのTrueバージョンってすごくお得かもしれません。

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上はシンガポールのカスタムメーカーAAW(Advanced Acoustic Werks)のハイエンド・ハイブリッドモデル、W500(4BA/1DD/4way)はSGD1300。ヴォーカルは艶かしくてリアルです。 W500にはベース可変できるモデル(上右)もありベースを増やすとベースが膨らむというよりは全体に柔らかく音楽的になる感じでしょうか。味わいを変えられる感じです。
AAWはエントリーカスタムのメーカーという感じですが、ハイエンド方向にもラインナップを拡張してるよう。本人たちに聞くとハイブリッドが得意ということです。こちらはA1Dダイナミックです。ベントがあるのがわかりますね。

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上はAAWの初ユニバーサルであるNebula one。厚みがあってスケール感もあり、価格(US99$)も安くて良いと思いました。

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左(T1)、右(S1)

上らはBluetoothヘッドフォンのPendulumicです。アンプ内蔵のBTヘッドホンをラインナップにしてます。T1とS1があって、違いは音の個性でT1の方がベース強く、S1はジャズ向きな整った感じ。 単4と内蔵バッテリーの両方を使用できて充電忘れにも対応でき、内蔵のヘッドフォンアンプにより音質はかなり高いと思います。S$250前後だったかな?

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日本勢はファイナルとマス工房以外は展示品を送って現地スタッフが説明という形です。

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上はWagnusさんのケーブルの線材に鋭く質問する人とA2PのTUR06にじっくり聴きいる人。 WagnusさんはBlue MoonやDiamond dust などを展示。シンガポールではMMCXより2pinの方が人気があるそう。カスタム人気があるからだそうです。 A2Pでは07のデモ機はないのか、という声もちょくちょく聞かれました。

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マス工房では404でAKG K1000を鳴らすデモ。やっぱりK1000良いですね。唯一の音ではあります。それを鳴らしてしまうマス工房のアンプにも注目が集まっていました。

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ファイナルではIIIのデモ。クローズだけど不思議な開放感。フラット特性というけど分析的という感じではない感じです。ファイナルではシンガポールでも自作イヤフォン講座を開講しました。こちらは別記事でレポートします。

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上はメッシュハウジングのイヤフォンの試作機です。オープン型で少しずつ空気が漏れるというのを逆に利用しているそうです。3Dプリンタで作ります。
また細くて軽量で怪しいイヤフォン(写真公開不可)もちょっと見せてもらいました。重い記録はやったんで今度は軽い記録を作るとか。。

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組み立てラボのブースではトリオが大人気でした。気に入った数人がほかの友人を呼んでトリオ啓蒙活動を繰り広げてたほどです。

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ジョンフランクスとロバートワッツも来てます。 ただMojo人気で世界を飛び回っていてお疲れの様子でした。

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SLT Techという現地のOppo代理店が組み合わせてたPM3とBtunesというBTレシーバー(SGD150)との組み合わせ。PM3のケーブルソケットをうまく利用してます。
軽量で使いやすく、音質もかなり良かったです。

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SLTはMrSpeakerとSchiitの代理店で大小コンポをEtherでデモしてました。
トップエンドのYggdrasilはマルチビットDAC使用で、女性ヴォーカルの表情がとても艶やかです。Etherらしいキレの良さも合う。

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ちょっと面白かったUM56のようなカスタムイヤチップ、Snugs。シリコン製で見た目ほとんどカスタムで耳に優しい。Shureに付けた例です。

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上はKickstarterで募集を行ったFlare Audioのイヤフォン。このモデルはSGD938とかなり高いんですが、チタン製で音質もシャープでかなり良かったですね。故障時に分解してドライバーごと交換出来るのもポイント。

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シンガポールでも3Dスキャン。アンクル・ウイルソン自らが行ってます。いまのところUEのみだそう。

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今回のポイントの一つ、オリジナルオルフェウス(HE90)の展示。ウィルソンの私物だと思います。
オルフェウスは思いっきり熱くなるまで聞いちゃダメと言われていて、少し待ってから聴きに行きます。少し経ってから行くと今度は熱すぎてクールダウンしてたりします。

実際に聴いてみると、いろいろ言われるけど私はかなり良いと思いました。真空管アンプの影響が強く滑らかで暖かい音楽的でベースも膨らまない程度にたっぷり。音の広がりも良いですね。
私は下記リンクの通りHE60(baby オルフェウス)は持ってるけど、一番の違いはアンプですね。HE90のブラデリウスの真空管アンプが良いんです。今回の新オルフェウスははたしてどうでしょうか。
http://vaiopocket.seesaa.net/category/1081012-1.html

シンガポールheadfiコミニティーの人たちとも意見交換しました。国それぞれの事情がありますね。各国のHeadfiコミニティーの状況などもちょっとシェアしてきました。
だいたいの感じとしてはポータブルオーディオファンは世界どこでも同じで若く、熱心な人が多かったですね。一方で一人で来ていたマニア風の女性も何人か見かけました。ソースでは3段という人はいませんでしたが、オンキヨーの新DAPを輸入して持っていた人が目立ちました。個人的な感覚で言うと、HeadFiからの影響と、日本からの影響が半々という感じでしょうか。
あとシンガポールに来てみると、若い人は予想以上に日本語が話せる人が多いです。みなアニメから覚えたそう。9割くらいはアニメから覚えて残りは興味を持って学習したということです。耳から入っているので発音が聞き取りやすいのも特徴です。
シンガポールでは2月にHeadFiのCanJamが開催されますが、どうなるかちょっと楽しみです。

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マレーシアなども順当に市場が伸びてきているようです。シンガポールに居るとまた違った視点でアジア市場を見ることができると思います。
シンガポールはきれいな国で食べ物もおいしいですので、日本のメーカーの方々もぜひ観光半分でも来てみてオーディオ事情の視察はいかがでしょうか。
posted by ささき at 22:27 | TrackBack(0) | ○ オーディオショウ・試聴会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月19日

JH Audio , Astell & Kernの新シリーズ発表!

JH Audio , Astell & Kernの新シリーズであるフルメタルジャケットが発表されました。HeadFi TVにアナウンスされています。この記事はHeadFi TVを基にした米国情報ですので念のため。国内情報はわかったら補完します。
http://www.head-fi.org/t/791717/jh-audio-astell-kern-siren-series-full-metal-jacket-line-announced/0_50#post_12174812

フルメタルジャケットの名の通りにハウジングがメタル素材を使ってます(ちなみにフルメタルジャケットの元の意味は貫通力が高い被覆弾のこと)。
レイラはチタンシェル、ロクサーヌとアンジーはアルミシェルです。レイラとアンジーは中身は同じで音も聴いてみたところ同じよう。
ロクサーヌはクロスオーバーがレイラ同様に4次に変わっています。

また新作としてロージーが加わっています。従来のサイレーンシリーズ同様にロックガールから取っていて、今回はAC/DCの「Whole Lotta Rosie/ホール・ロッタ・ロージー」から取ってます。
ロージーは最も安い価格で、6ドライバーの3wayで高中低域がそれぞれ 2x2x2、4次クロスオーバー、FreqPhaseを採用しています。
Judeが言うにはJH13とほぼ同じだけど、4次クロスオーバーとベース調整でより自由度が高いということ。

また6:27からMoon AudioのJH Audioケーブルのトピックが乗っています。

posted by ささき at 12:27 | TrackBack(0) | __→ JH13, JH16 カスタムIEM | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月18日

日本向け限定モデル、Westone30

Westoneから新製品Westone30が12/26日に発売されます。バランスド・アーマチュアを採用していて3Way・3ドライバーのイヤフォンです。詳細はテックウインドさんのホームページをご覧ください。価格はオープンで市場推定価格は49,800円前後です。
http://www.tekwind.co.jp/information/WST/entry_450.php

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特徴

Westone30には二つの大きな特徴があります。
まずひとつは日本市場向けにサウンドデザインがなされている、日本限定モデルであるということです。これはWestone社のサウンドマイスターであるところのカール・カートライトが日本人好みにチューニングしたものです。
そのためにカールが日本のロック・ポップ、アニメ音楽などを研究したということ。

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Westone30

もうひとつはこれがあのWestone 3のオマージュになっているということです。筐体デザインは似ていますね。本体ロゴも数字の意匠化が踏襲されています。ドライバはWシリーズとは少し異なり、ネットワーク調整を一から日本向けに作っているということです。(つまり現行のW30とは異なります)

昔話を少しすると、2006年初頭のCESに3ドライバーという画期的なスペックを持ち、$500という「驚くほど」高価格のShureのE500がE5系の後継としてデビューして話題となりました。いまでいうハイエンドイヤフォンのはしりですね。それを同じ2006年にUE(というより当時のジェリー)が3ドライバーで追いかけて当初は別のコード名でしたがtriple.fi 10の発表をし、続いて2007年にWestoneが3ドライバーで3Wayという画期的なWestone 3を発表して追いかけるという展開になりました。それまではカスタムには3wayがありましたが、普通のイヤフォンでは2wayが一般的でした。
特にWestoneはこのモデルで一気に高性能コンシューマーイヤフォンの分野に躍り出た記念すべきモデルですね。モデル名もそれまでとは変わりました(Westone 2はこの後)。日本市場ではShureやUEの陰にあった感のWestoneがこのWestone 3で一気に表舞台に登場した感じでした。なかなか発売されずにユーザーがやきもきして待ち焦がれていたのを覚えています。
この後E500はさらにSE530となり、高性能イヤフォンの戦国時代がはじまります。それは「普通の市販イヤフォン」がカスタムに追いつく時代でもありました。そしてジェリーはUEを離れますが、それはまた別の物語です。

それからほぼ10年が立ち、この2015年末というタイミングにJH AudioがジェリーのUE時代のtriple.fi 10のオマージュであるTriFiを発表し、WestoneがWestone3のオマージュであるWestone30を出すというのは面白い符合であると思います。

音質

ここではWestone30とWestone 3を聴き比べてみました。たしかに似ていますね。ロゴはそれぞれ3と30の意匠化です。フィット感もほぼ同じです。ただ30の方はケーブルは新しいepicです。
試聴する時はチップは両方とも形とサイズを合わせてますが、同一のものではないので多少そこで違いが出るかもしれません。

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左がWestone30、右がWetone3

いままでのアルバム随想録を見てもらうと分かるように私はきわめて洋楽偏重な人なんですが、日本向けモデルということで今回は邦楽で選曲してみました。日本人アーティストで有名どころというと戸川純とかヒカシューですか、とか、アニメ関連なら再発されたYBO2でもいいよね、とか言わないで素直に狙ったあたりと思われる音楽でiPhoneで試聴してみました。

志方あきこ: Arcadia
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ヴォーカルにはさまざまな言葉を駆使して言語感覚を大事にする人ですが、Westone30では特に日本語歌詞の部分の明瞭さが高いように思いますね。Westone3よりも全体に音が整理されていてヴォーカル部分が良くわかります。また楽器パートはよりきれいに聴こえる感じがあります。

アンジェラ: 騎士行進曲
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最近のアニソンはヒーロー名連呼型が少なくなって寂しいんですが、これは合格。複雑な曲ですが、Westone30ではスケール感もよく表現され、スピード感も軍歌っぽい高揚感も魅力的に聞こえます。

中村桜: パンツアーリート
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こちらはリアル軍歌がベースですが、原曲の勇壮感とJ-pop編曲されたビートのスピード感がカッコ良く表現されてます。やはりヴォーカルが聞き取りやすく低域はWestone 3よりもわずかに抑えられているように思います。

Babymetal: アカツキ
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最近ようやく新アルバムの発表あったBabymetalのヴォーカルソロパート定番曲。これは武道館ライブ盤ですが、Westone30ではリードするピアノの音色がWestone 3よりもより好ましくなっているように思います。ヴォーカルはあきらかにWestone30の方が明瞭で声質がきれいに聴こえます。

遊佐未森: ロカ
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これはよくドライブでかけるんですが、Westone30では曲の持つ爽やかな雰囲気と遊佐未森の独特な歌声の気持ち良さがよく表れていて気持ち良く聴くことができます。3だとちょっとごちゃごちゃした音楽になってしまいます。

まとめ

Westone30は全体に高域のきつさが少なく全体的に音がうるさくなく整理されていて、かつ低域が中域にかぶらずにヴォーカル域を重視したチューニングがなされているように思います。また楽器の音色もより正しくきれいに再現されているようですね。
30はJ-Popあたりの録音のきつさを和らげるチューニングとも言えます。もともと低価格イヤフォンのためにきつめに強調した録音を、高性能イヤフォンで聴くときつ過ぎるのでそれを和らげると言ってもよいかもしれません。

また女性ヴォーカルがWestone3より明瞭感があり、好ましく聴こえます。ちょっと興味深いと思ったのはヴォーカルの発声は同じヴォーカルでも特に日本語歌詞の場合に好ましく感じられたことです。これは外国語は子音型が多いのに対して日本語は母音型であるというところとか、日本語の発声周波数帯域が低めということに関連しているように思いますがよくわかりません。
マスマーケット用のTVなんかは国別にスピーカーの音を変えることもあるようですが、こうしたあたりも突き詰めていくと面白そうです。

Westone30はJ-Popやアニソンなどを良く聴く人にお勧めだと思います。また洋楽でもロックポップには好みの合う人もいると思います。ぜひお店で自分の音源でも試聴してみてください。そしてこのイヤフォンという分野にも歴史があること、そして日本市場が大きくそこに貢献してWestone30があることもちょっと思い出してみてください。
posted by ささき at 12:01 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月08日

Astell & Kernとベイヤーのコラボイヤフォン、AK T8iEレビュー

AK T8iEはベイヤーダイナミックとAstell & Kernの共同開発による高性能イヤフォンです。
構成はシングルダイナミックを採用していて、最近トレンドのハイエンド・ダイナミックの流れの一つともみなすことができます。

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Astell & Kernはこれまでもハイエンドイヤフォンを販売してきましたが、JH AudioとコラボのAKR03がAK240をリファレンスとしてロクサーヌUFをチューニングしたのに対して、AK T8iEは一からの新規設計がなされています。今回はAK380をリファレンス機として使用したようですが、特定の機種に対してのチューニングというはされていないようです。

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ベイヤーとAstell & KernのコラボレーションはA200P(日本ではAK10)の開発から始まり、T5pを2.5mmバランス化したAKT5p、T1 2ndをAstell & Kern向けにアレンジしたAK T1pなどが行われています。
AK T8iEもその延長ですが、特筆すべき点はこれがイヤフォンであるということです。ベイヤーは戦前から続く伝統を受け、ずっとヘッドフォンのメーカーとしてやってきたわけです。ですからこうしてハイエンドのイヤフォンを開発すると言うこと自体画期的なことと言えるでしょう。あのベイヤーダイナミックがノウハウを活かした高性能イヤフォンを開発したこと自体がAstell & Kernとのコラボの大きな成果と言えるでしょう。

AK T8iEの製品紹介ページは下記リンクです。
http://www.iriver.jp/products/product_114.php

* 特徴

AK T8iEの特徴はまずイヤフォンとして初のテスラ・テクノロジーを搭載したことです。テスラ・テクノロジーとはT1ではじめて採用されたベイヤーの独自技術です。

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T1に限らずスタジオや放送局向けのプロ仕様ヘッドフォンはインピーダンスが高く設定されています。こうした高インピーダンスのヘッドフォンは音量を上げるためには大きな出力が必要で鳴らしにくくなってしまいます。そこで、鳴らしやすくするためにドライバーの磁束密度を上げて能率を高めると言う手法がこのテスラテクノロジーです。T1は1テスラを超える磁束密度をもった初めてのヘッドフォンです。これはそれまでの二倍くらいの強度です。
マグネットは大型化するため一般的な中央ではなく、コイルを囲むようにリング状に配されて、これがテスラドライバーの特徴ともなっています。

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その後この磁束密度を高める手法は他のヘッドフォンメーカーでも高音質化のキーとして採用するようになり、ベイヤーでもT51pのようにインピーダンスの高くないコンシューマーヘッドフォンでも高音質化のために採用されるようになってきました。

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しかしながらそれらは大きなヘッドフォンでの話であり、それよりはるかに小さなイヤフォンにこの技術を収めるには単なる思い付き以上の高度な技術力が必要となります。例えばテスラドライバーはマグネットを大型化することですから、そのリングマグネットも小型化しなければなりません。
AK T8iEではT1比で1/16もの小型化を実現したということです。その磁力はサイズを考慮するとT1/T5よりも強力なほどだといいます。
ダイアフラムは11mmの大型のもので、豊かな低音をもたらしています。ダイアフラムは髪の毛の1/5という1/100mmの薄さです。

テスラテクノロジーはまた単にマグネットを大きくするだけではなく、いかに効率的に磁束を利用するかということにも注力されています。例えばギャップ部分に磁力を集めるなどですが、これは逆に言うと磁力を無駄に外に放出しないということも意味していると言います。

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ハウジングは重厚感があり、非常になめらかでキズに対しても強いクロム合金で、表面には3層コーティング(銅+クロム+企業秘密)がなされていて、鏡面仕上げになっています。
AK T8iEで特徴的なものの一つはイヤチップです。良く言われるようにダースベイダーのヘルメットのような(わたし的にはフリッツメットと呼びたいですが)非対称形のユニークなイヤチップを採用しています。これは耳への装着性を重視して設計され、チップをはめこむステムは面積を最大にして音質を稼ぐために楕円形をしています。

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ケーブルシースにはKevlar素材を採用し、細くて軽いケーブルを実現しています。またTPE(熱可塑性エラストマー)によるタッチノイズ軽減も工夫されています。ケーブルは40,000回、プラグ部分は100,000回もの屈曲テストを実施したそうです。
ケーブルはMMCXでリケーブル可能となっています。Astell & Kern製品らしく2.5mmバランスケーブルが付属してきます。

もちろんAK T8iEはベイヤーのプレミアム製品らしくドイツ製で最高の機能とワークマンシップを実現しています。

* 開封と装着感

箱はこれもAtell & Kernらしく高級感を感じさせる豪華なものです。内箱にはイヤフォン本体と3.5mm、2.5mmバランスの両方が格納されていて、保証書がはいっています。

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さらに内箱には側面に引き出しが設けられていて、そのなかには5タイプのオリジナルイヤーチップと3種類のコンプライイヤーチップ、そして革製のキャリングケースが入っています。ケースは箱型のシンプルなものです。またケーブルクリップもなかなか高級なものが同梱されています。

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イヤーチップの装着は向きに注意する必要があります。フランジの長い方をL/Rの刻印と反対側にします。これはかなり遮音性に影響するので、チップの向きは細かく調整したほうが良いと思います。
耳への装着はカナル型と呼ばれるインイヤータイプと、耳に置くイヤフォンの中間的な装着方法だと思います。ただしきちんと装着しないと低音が出ないだけでなく、外からノイズがはいりますので装着については試行錯誤して個人のベストを見つけるのが良いと思います。

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基本は大きめのチップを使い、耳に置くだけでなくちょっとねじ込むと良いように思います。するとチップのフランジがかぱっとはまるポイントが見つかるように思います。ここは人それぞれですが、このイヤフォンのツボは確実な装着方を見つけることかもしれません。
この方式は快適性が高いのもまた事実で、イヤフォンもケーブルも軽量なのと合わせて付け心地はかなり快適です。音のきつさが少ないのと合わせると長時間リスニングにも良いでしょう。
メモリワイヤーはないけれども耳に回しやすく、ワイヤーに適度な摩擦力があるので問題はないと思います。ただしチョーカー(スライダー)はきちんと締めた方が良いでしょう。


* 音質

試聴は主に開発にも使われたというAK380AMPで聴きました。基本的にはシングルエンド(3.5mmケーブル)で聴いています。
エージングなしでも耳にした瞬間にいままでのイヤフォンとは鳴り方が違うと感じられます。ダイナミックでは今までにない音で、一言で言うと余裕がある音と言う感じです。イヤフォンだけど、ヘッドフォンで聴いてるみたいというか、そういう意味で音に余裕がありますね。広がりというよりは余裕という感じでしょうか。
音自体はダイナミックらしい音で、暖かみや柔らかさがあり、ドライとか分析的という音ではありません。音が滑らかで階調再現力が高いのも特徴で、マルチBAだとこういう滑らかでスムーズな音って出ないように思います。
音はヘッドフォンで例えたくなりますが、Dita AnswerやLyraをEdition 8とするなら、AK T8iEはEdition 5でしょうか。ベイヤーでいうとT1に対してのT5pですね。

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スピーカーだと良く音像型と音場型って言う分類があります。この定義自体が曖昧で感覚的なものだと思いますが、あえてこの例えを使うと、AK T8iEは音場型のイヤフォンという感じでしょうか。最近のIE800、Answer, Lyraなんかは目の前にくっきりと楽器の音の形を描き出すという意味では音像型って言ってもよいでしょう。
シングルダイナミックでここまで音世界の奥深さを再現できるのは少ないと思います。空間表現力だけではなく、豊かな情報量もその音世界の構築に寄与してますね。音の余韻が豊かで美しく、ヴォーカルが艶っぽい感じです。たっぷりとある低域も音に重厚感をもたらしています。

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端的に言うと音楽的なイヤフォンとも言えます。もしかすると柔らかさとか音楽的と言うと、甘くてにぶい音質の丁寧表現じゃないか、と裏読みされるかもしれません。しかし、AK T8iEに関してはそういう事はなく、たくさんの細かい音が次々に湧き上がってくる感覚が味わえます。ただLyraなどの先鋭なタイプのダイナミックに比べると柔らかくなだらかな印象です。
AK T8iEの音を聴くと思うんですが、解像力というか情報量もとても高いんだけど、表現力をそれに頼ってなく、音世界を豊かにする補助的な意味で情報量が豊富にあると言う感じです。
AK T8iEは柔らかいという音表現がにぶいの丁寧語とは違うことだと教えてくれます。
ダイナミックだからエージングすることで甘さはだいぶ消えますが、ただAK T8iEはエージング前の音もなかなか甘い感じがプラスに働いて良いと思うので、ゆっくり楽しんで聴くと良いと思います。

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もうひとつAK T8iEを聴いていて思ったのはシングルエンドとバランスでかなり音が変わり、それぞれ良いという点です。同じAK380AMPで聴いても、ケーブルを変えることで2つの味が楽しめると言う感じです。
シングルエンドだと柔らかめでふわっとした感じ、緩め、低音域はピラミッド型で重厚感があってゆったりして多め、迫力やスケール感を重視したいとき、などの印象です。
バランスにすると横方向というより奥行き感が出て、低域はよりコントロールされて抑制されるようになります。音場だけでなく音像もきちっとしてタイトになり、低音域も締まってタイトなパンチを感じます。スピード感や切れの良さも感じられます。
AK T8iEの場合はシングルエンドとバランスのどちらが良いというより好みの問題に思えます。
シングルエンドで普通に音が良いのでいろんなDAPにも合わせられるのも良い点です。

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AK JrではJr特有の低域のパンチと中高域のきらびやかさを活かして楽しく音楽を聴くことができるのもダイナミックならではだと思いますね。
音が耳に近く感じられ、迫力を一層感じます。楽器再現の正確性とかキレの良さ、音の細やかさでは上位機種に譲りますが、華やかな魅力があります。なにより軽くて音が良い組み合わせです。
また、こうしてプレーヤーのグレードの差が明確に出てくるというのもAK T8iEが高い能力を持っている証拠だと思います。

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Linumバランス

もともとのケーブルもわりと良いと思うけど、リケーブルしてみるのも新たな面を発見できます。
ただAK T8iEの場合はコンパクトさと独特の装着性がポイントなので、ゴツいのよりなるべく軽量ですっきりしたケーブルが合うと思います。
そういう点では細いEstron Linumシリーズが好適だと思いますし、音質的にも楽器音の明瞭感を高め、透明感をいっそう引き上げてくれるように思います。AK T8iEの隠れてた能力が聴こえてくるようです。
ただ一方でややキツさも聴こえてくるようになるので、標準ケーブルはAK T8iEの穏やかな周波数特性の調整にも一役買っていたのかもしれません。
またLinumではプラグ部分がストレートなので装着性に影響するかもしれません。標準ケーブルのプラグ部分はだいぶコンパクトに出来ていると改めて気付かされます。


* まとめ

装着が独特なので、それを自分なりにうまくこなせると、他のイヤフォンにはない情報量豊かで余裕ある上質な音世界を堪能できます。高性能イヤフォンらしい細かく緻密で、かつ迫力ある空間の両立はAK T8iEならではのものだと思います。
またダイナミックらしい暖かく豊かでパンチのある中低域も魅力です。モニター的に分析的に聴くと言うより音楽を楽しむと言う聴き方が向いていると思います。軽量であり、深く差しこまないこともあって、長時間のリスニングも快適にこなせるという利点もあります。
一方でバランスで聴いたりリケーブルすることで性能を高めていくようなポテンシャルの高さも持ち合わせています。
パッケージはAstell & Kernらしい高級感が演出され、AKハイエンドDAPとあわせて音質でも作り込みでも満足できる組み合わせとなります。

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AK T8iEはダイナミック型らしいダイナミック型イヤフォンとも言えるでしょう。
世界初のダイナミック型ヘッドフォンであるベイヤーダイナミックのDT48は1937年以来ほとんど変わらず最近まで生産がおこなわれていました。それだけはじめから高い能力を持っていたわけです。ベイヤーダイナミックの初の本格的イヤフォン製品であるAK T8iEもまたはじめから高い能力を持っています。それはAK T8iEはベイヤーの長い伝統とノウハウ、そして最新の技術をそのまま凝縮した、ベイヤーの強みを活かしたヘッドフォンのミニチュアのようなイヤフォン製品だからと言えるのかもしれません。
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2015年12月06日

アメリカでの休日

少し前になりますが、長期休暇を取ってアメリカ旅行に行きました。前に住んでいたロサンゼルスから思い出の南西部の荒野を回って車を借りて1900マイルを走破するという旅でした。
馬に乗ったり、飛行機に乗ったり楽しんできましたが、写真を撮るのもまた欠かせません。今回は最新の高性能カメラ、Sigma dp0を持ってアメリカの大自然を撮影すると言うのも大きな目的でした。dp0は21mm超広角のフォビオン素子を採用した一体型のデジタルカメラです。またdp0のサポートとして旅用の軽量一眼レフと最強APSレンズの組み合わせとして、KissX4+EFS17-55/2.8も持っていきました。以下に撮ってきた写真をいくつかお目にかけたいと思います。

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グランドキャニオン: Sigma dp0

グランドキャニオンの古い格言で「朝と夕以外はフィルムの無駄」というのがありますので朝の早起きは欠かせません。暗がりをドライブすると鹿が飛び出すので注意しながらポイントに向かうと素晴らしい光景が迎えてくれます。
最左はデザートビューというポイントですが、手前のウォッチタワーの質感とか、はるか遠くのかすんでいる部分のち密な描写などdp0の画質には脱帽します。

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グランドキャニオン: Sigma dp0

昼間でももちろん絵になるところではありますので、クルマやバスや自転車でポイントを探して駆け回ります。

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アンテロープキャニオン: Sigma dp0

今回の写真の目玉はここです。ここは以前アメリカに住んでいてこの辺を回ったときには知らなかったので、今回は最新カメラを携えての挑戦です。
アンテロープキャニオンは洪水による浸食でこのユニークな地形が形成されます。ここはガイド付きでのみ入ることができます。
暗いのでdp0の開放F4ではぎりぎりです。できれば三脚使いたかったのですが、許可が必要なのです(後述)。

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モニュメントバレー: Sigma dp0

ここはナバホの聖地であり、自治管理地域です。今回はThe View Hotelという素晴らしいロケーションのホテルに泊まることができました。ここはモニュメントバレーのアイコンと言うべき3つのビュート(岩山)の目前にあり、部屋に居ながらにテラスでコーヒー片手にビュートに昇る朝日を楽しむことができます。

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モニュメントバレー: Kiss X4, EFS 18-55/2.8

ここではうれしいサプライズがあったんですが、日の出を待っていたら飛行機の音が聞こえてきて、有名な3つのビュートの上でアクロバット飛行をはじめたことです。これは後で聴いたら前に私も日本で見たところのレッドブルエアレースのラスベガス大会のCM撮影だったとか。
思わぬハプニングに喜んでしまいました。このホテル自体がすごく予約が取りづらいので仮にスケジュールを知っていても撮れませんから。。

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モニュメントバレー: DSC880DW

ここでは念願の外乗(野外騎乗)をしました。馬はマスタング(野生馬)です。はじめはビュートの近くを散歩するくらいかと思ってたんですが、乗馬の経験者だと伝えるとロングコースに連れてってやるということで岩山のただなかへと。。
ナバホ族のガイドを先導に道なき道をたどり、はるかな平原を見て、眼前にビュートを見上げるとは思ってもなく感動でした。

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ロサンゼルス上空: CANON s95

ロサンゼルスでは以前セスナの練習をしていたトーランス空港で、また操縦かんを握らせてもらいました。かなりブランクがありますが、意外と覚えていて着陸のアプローチ角度なんかもわりと正確に覚えてました。また取り組みたくなったかも。
見えているのはサウスベイというロサンゼルス南部地域の半島です。この海と空のはざまを飛べるのがここの魅力です。

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ロサンゼルス南部: DSC880DW

飛行機に乗った次の日には近くの乗馬施設で今度はロサンゼルスを馬で見降ろします。ガイドが指さしているのが上のトーランス飛行場で、そのちょっと向こうに前に住んでたアパートがあります。
かなたに広がるのがロサンゼルス市外です。TVなどではロサンゼルスの全景はよくグリフィス天文台から撮った写真が使われるのですが、その反対側から見ていることになります。

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キングマン: Kiss X4, EFS-18-55/2.8

今回は1900マイルも旅しましたが、途中でルート66の中継点で知られるキングマンにも寄りました。アメリカをドライブで旅するとやはり撮りたくなる光景です。
カメラはKissX4+EFS17-55/2.8です。ちなみに空はPLを使って落としています。

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セドナ: Sigma dp0

今回はまたセドナに寄れたことも収穫の一つです。ここもネイティブアメリカンの聖地として、またアメリカ有数のパワースポットとしてさまざまなカルチャーの中心となっています。緑豊かでもあり、赤い岩山もあり不思議なところでしたが、今回はちょっとだけ立ち寄ったので次回はゆっくりとしたいものです。

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なかなか濃い旅ではありましたが、反省点もあります。
たとえばアンテロープキャニオンはガイドが必要なのですが、ネットで調べると大手しかかかりませんので大手バスツアーみたいになってしまいます。それより実際に地元のPageの街に行くとよりたくさんのガイドがいることが分かります。なかにはもっと写真撮影に特化したものもあります。そこを選んでいたら、暗いキャニオン内での三脚使用も許可され、ピーミングと呼ばれる天井から光が差すところも撮れたかも、と残念なところもあります。
今回はたっぷりと現地資料を持ち帰ったのでまたの機会に向けて研究ですね。
posted by ささき at 22:07 | TrackBack(0) | ○ 日記・雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする