Music TO GO!

2015年10月15日

Chordの新しいポータブルDAC内蔵アンプ、Mojoレビュー

ハイエンドメーカーであるCHORDが世に出したポータブルオーディオ製品、HugoはDAC内蔵アンプとしては最高クラスの音質を誇り、それゆえにアナログ部を強化したHugo TTなど"HUGOファミリー"ともいうべき製品展開もされていきました。
しかしHugoはポータブルというよりは「トランスポータブル」ともいうべき大きさで、常に持ち運ぶポータブル製品としては不満も残りました。

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そして再びCHORDがHugoの小型版ともいうべきDAC内蔵ポータブルアンプを開発しました。Mojoです。
日本での価格はオープン(想定75000円前後)、アユートから11月に発売される予定です。アユートの製品ページはこちらです。
http://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_1701.php#1

* Mojoとは

MojoはHugo同様に鬼才ロバートワッツにより設計された製品で、FPGAを用いたパルスアレイDACを採用したCHORDらしい製品です。あのパルスアレイDACがこんなに小さなアンプに入ってしまいました。その秘密のひとつはXilinx(ザイリンクス)の第7世代FPGAのArtix-7を採用したことによります。Mojoで採用されているのはさらにワッツによりカスタマイズされ、この8月に本格的にロットが出荷され始めたばかりの最新モデルです。Artix-7の採用は小型化とともにより多くの機能の提供ができるようになり、デジタル入力の自動選択やボリューム位置の記憶などにも活用されています。
そういう意味ではMojoはやはりHugoのときと同様に最新の技術が可能にしたハイエンドメーカー渾身の製品です。

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また、Hugoの時はChordが初めてポータブルに取り組むということもあり、イヤフォンプラグの相性問題などがありましたが、Mojoはいわゆるポタアン製品として違和感のないものに仕上がっています。

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以降実機を使用して説明していきますが、私の持っているものは製品版ではなく生産前モデルなので承知おきください。
Mojoは旧AK100とほぼ同じ大きさの筐体サイズでとても小さく感じられます。とはいえ、そのがっしりとしたつくりの良さと手に適度な重みの感じられる本体から安っぽさは感じられません。小さくとも本物感がありますね。本体は航空機グレードの切削アルミニウムで「戦車のような」強さを持っています。重さは180gです。

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Mojoのユニークなところは電源ボタンと音量ボタンがプラスチックのボールでできていて、カラフルに色が変わり、そしてくるくると動くという点です。

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このボールが動くこと自体に機能というのはないのですが、開発責任者のJohn Franksに聞いてみたところ、彼はMojoをユーザーが手で触って感じられるもの(tactile)にしたかったということです。それはあたかも小石をポケットに詰めるようにポケットに入れることができ、子供が小石をこすり合わせて遊ぶようにMojoを楽しんでほしいという願いからきています。
MojoではHugoにあったCHORDの「窓」のようなアイコンはなくなりましたが、かわりにこのカラフルなボールが新しいMojoのアイコンとなるでしょう。
ボールの色については意味があり、音量ボタンの色はdb単位の音量変化、電源ボタンの色はロックしたデジタル入力の周波数を示しますが、製品版とは異なるかもしれないというのでここでは詳細には色の変化については書かないことにします。だいたいHugoを知っていればわかるでしょう。
カラフルなボールがくるくる回るのはおもちゃ感覚もあって面白いんですが、こうしたJohn Franksの「遊び心」が生きているのはCHORDらしい点だと言えると思います。ちなみにMojoとは"Mobile Joy"の略称です。
Mojoは設計のみならず製造もイギリスで行われています。

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Mojoはスマートフォンをターゲットにして多彩なデジタル入力が可能な点が特徴です。操作がシンプルで簡単であるというのも特徴で、入力選択は自動で行われます(優先順はUSB->同軸->光)。
本体にはUSB入力と光入力、そして同軸デジタル入力が装備されています。出力はミニのヘッドフォン出力が2つです(Hugoと同様に同一のものです)。ヘッドフォンは4オームから800オームまで対応していてかなり駆動力の必要なヘッドフォンでも対応が可能です。
入力はPCMが44kHzから768kHzまで入力できます(光では192kHzまで)。DSDはDoP入力でDSD64/128/256(11.2MHz)のネイティブ再生が可能です。
MojoをDACとして使用したい場合には二つの音量ボタン(音量ボール)を電源投入時に同時に押すことにより、固定出力のラインレベルアウトとして使用することができます。

またMojoのポイントの一つは電池で4時間という短時間で充電が可能なことで、8時間の使用が可能とされています。
バッテリー入力ポートには入力中のインジケーターが点灯します。これは使用中はバッテリーのレベルメーターになります。

箱はシンプルで基本的にはUSBケーブルのみ入っています。もし私なんかのようにすでにケーブルを持っている人はこれで十分なはずですが、ケーブルなどアクセサリーについてはまた案内があるかもしれません。
ちなみにHugoから省略されたものはBluetoothとクラス1専用のUSBポートとクロスフィード機能、RCAアナログ出力、同軸デジタルのRCA端子などです。

* Mojoの音質

Mojoを手に持つとその小ささが良くわかります。Hugoの小型版が出るというのは聞いてはいたんですが、予想よりもずいぶん小さいサイズです。筐体は高級感があり、その強靭さをうかがうことができます。

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サイズが旧AK100と合わせるとぴったりということもあり、私はAK100の光出力を使用してMojoと組み合わせて聞いてみました。ケーブルはタイムロードの光ケーブルもありますが、慣れているSys-Opticのhugo用ケーブルを使いました。こうするとちょっと大きいんですが、プラグ向きが同じなのでだいたい使えます。
ポケットにMojoを入れてる時には独特のボールボタンのおかげで手探りでわかりやすく操作はしやすいですね。

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これだけ小さいと音はどうなんだろうと思いますが、ダイナミックレンジ(SN比)は125dBを誇り、数値的にもハイエンドオーディオ並みの性能があります。出力インピーダンスは0.075オームという低さです。低インピーダンスのカスタムでも無問題ですね。
ただ数値以上に驚かされるのは価格レベルを超えた音の良さです。これは誰もが驚くでしょう。
John FranksはFPGAはあくまで絵画をはめこむ枠に過ぎず、その絵画は我々の技術であると言います。そうしたいままでのスピーカーの世界の頂点で磨かれたハイエンドメーカーの技術力が、この小さなポータブルアンプにも詰め込まれているのが音を聴けばわかります。

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まず感じるのは音の透明感の高さで、クリアに澄み切った音空間に端正で明瞭な楽器音が鳴りわたります。楽器の音は引き締まって贅肉がまったくなく弛んだところがありません。音像は非常に正確で鮮明です。
どんな高感度イヤフォンでも背景は非常に静粛で黒く、とても細かい音が粒立つように聞こえてきます。とにかくケーブルもイヤフォンも最高のものを使って細かい音が抽出されてくるのを聞きたくなるでしょう。

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良録音のアコースティック楽器の音源だと細かな擦れ合う音など、すごく細かい音がはっきりと鮮明に聴こえます。リマスターしたアルバムの音も光りますね。
音楽の再現力は素晴らしく、音の立体感、楽器やヴォーカルの重なり合わせの明瞭さは値段を忘れてしまうくらいのクラスにあります。たとえば女性ヴォーカルがふっとため息をつき、ささやくようなヴォーカルのリアルさ、なまめかしさは逸品ですね。

次に感じたのはHugoにも通じる、ベースのパワフルさやダイナミックさ、つまりアンプとしての音楽性の高さです。Mojoは音の再現性能が高いのですが、味気ない音を奏でるいわゆるモニターライクな機器ではありません。
打ち込み系でもアコースティックベースでも低音域の重みが伝わってきます。ドラムやパーカッションの打撃感にパワフルな力がこもり、音楽的にも躍動感が伝わってきます。スピード感も一流ですね。
DACもさることながら、アンプ部分のすばらしさが光ります。音像のたるみの無さは力強いインパクトやアタックの鋭さにも繋がっています。

Mojoは小さいながら十分すぎる駆動力があり、平面型のHifiman HE560を存分に鳴らすことができます。HE560はゼンハイザーHD800より鳴らしにくいヘッドフォンです。Mojoでは単に音量が取れるというだけでなく、HE560の性能を発揮できるくらい良い音でならせることができます。

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Mojoの正確な音再生能力からはクラシックやジャズ向きにも聞こえるかもしれませんが、実のところロックやエレクトロニカが非常によく楽しめました。力強く鋭いインパクトが音楽のカッコ良さを感じさせます。

イヤフォンでは私はCampfire AudioのLyraがとてもよく合うように感じました。あとは最高のリケーブルをしたカスタムイヤフォンでもいうことはありません。
ピアノの打撃音の正確さ、ウッドべースのピチカートの鋭さと引き締まりの良さ、あくまで静かな背景には感嘆の声が出てしまいます。このAK100+Lyraで聞いてるMojoの音は、10万円以下の機材の音とはちょっと思えません。おそらく10万円台のDACやプレーヤーでもこの音質はむずかしいのではないかと思います。
音質のレベル的にはさらにHugoにかなり肉薄するレベルの素晴らしい音質があります。このサイズで、です。

* スマートフォンとの接続

Mojoの狙いの一つはスマートフォンとの親和性です。
実際にiPhoneとは非常によく適合します。iPhone/iPadとはカメラコネクションキットを介してデジタル接続をします。標準の音楽アプリからも再生ができるのでApple Musicなどストリーミングの再生機にも良いですね。試したOSはiOS9.0.2ですが、ほかでも最近のものなら問題ないでしょう。
またHF Playerなどを使えばハイレゾ音源の再生も可能です。DSDは11.2MHz(DSD256)まで実際にロックしてスムーズにDSDネイティブ再生できることを確認しました。DoPですが、切り替え時のノイズなどはないように思います。

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またAndroidとはNexus 9(OS 5.1.1)で試してみましたが、Androidの標準ドライバーだと音が割れてしまうことがあってあまりよくありません。このためGoogle PlayやNeutronなどは使えません。これは他のDAC機材でもそうなので、MojoではなくAndroid側の問題だと思います。この辺はそろそろ予定されているAndroid OS5.2に期待です。
*2015/10/21追記:Nexus9にAndroid 6.0 (Marshmallow)を入れて試しましたが、結果は変わらないようです。

一方でUSB Audio Player ProやAndroid版のHF Playerのようにアプリ内蔵ドライバーを持っているアプリは問題ないようでした。スムーズに再生ができ、ハイレゾもロックしています。
またSONY ZX1ともNWH10を使用して接続ができました。これはiPhoneとカメラコネクションキットを介して繋ぐのと同じですね。

ちなみにUSBはオーディオクラス2ですのでWindowsではドライバーのインストールが必要となります。

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* まとめ

"No Compromise"(妥協なし)
Mojoの資料には誇らしげにそう書かれています。そしてMojoを聴いたものは誰しもそれを認めざるを得ないと思います。
Chord Mojoは数年前ならポータブルの世界からは遠いハイエンド機材にしか採用されなかったパルスアレイDACを、手のひらに入る大きさと手頃な価格で実現し、価格帯を超えた音質を達成しています。
Mojoを手にしてもらえれば、このポータブルの世界にChordが参入した意義がわかるでしょう。

Mojoはヘッドフォン祭にて試聴ができます。ぜひ15階リーフのアユートブースにお越しください。
posted by ささき at 11:02 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする