Music TO GO!

2015年08月20日

Campfire Audioの第一弾、Lyraレビュー

新しいイヤフォン・ヘッドフォンのブランドが誕生しました。ALOのKen Ballが立ち上げたCampfire Audioです。日本ではミックスウエーブさんが取り扱いします。
本稿はその第一弾であるハイエンドクラスのダイナミック型イヤフォン、Lyraのレビューです。

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まずはKenさんがALOという確立したブランドではなく、なぜ新しいブランドを立ち上げたのか、そこに込めた思いをKenさんへのインタビューから解説していきます。

* 新ブランドCampfire Audioについて

Campfire Audioという新しいブランドについて、Kenさんは次のように答えてくれました。
もともとALO(Audio Line Out)というブランドでケーブルを作り始めたのはIEMやヘッドフォンの音をよくするための要素の一つを自分で作りたい、ということだったということです。しかし、ケーブルというのはやはり部品の一つでしかないので、次にヘッドフォンの改造を手がけました。この作業はヘッドフォンを解体して手を加えてまた組みなおすというちょっと非効率な方法です。それにくわえてそもそもドライバーや基本設計には手を付けることはできません。
それゆえKenさんはもっと根本的に自分で一からヘッドフォンやIEMを設計・製作するという選択をしました。もちろんいまはたくさんのヘッドフォンのブランドがあるので、自分ならではの考えをそれに盛り込まねばなりません。そうして自分の考えを試しながら進んでいきたいと考えたわけです。
こうして初めてケーブルを手がけた日から持ち続けてきたオーディオへの情熱を実現するというのがCampfire Audioの目的だそうです。

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Campfire Audioロゴ

ALOのある西海岸ポートランドは自然に恵まれた土地でKenさん自身もアウトドア好きだそうです。このアウトドアのひとつの象徴はキャンプファイヤーの灯りです。ぱちぱちとはぜる音や揺らめく光など、このともしびは音楽にも似て瞑想的です。つまりヘッドフォンやIEMはKenさんにとって、Campfireにも似ています。そうした思いを込めて、ブランド名をCampfire Audioとしたということです。
そしてこの西海岸の夜空を見上げた時、文字通り宇宙にいるようにも思うそうです。その美しさの中にあるひとつひとつの小さな星々がCampfire Audioの製品名になっています。
Jupiter(木星)、Orion(オリオン座)そしてLyra(こと座)です。

* Campfire Audioの第一弾、Lyra

Campfire Audioのイヤフォンの第一弾はダイナミック型のLyraです。BA型のJupiterとOrionは少し後に発売される予定です。

Lyraは2年ほど前からIE800をおおよそのターゲットとして始めたということです。IE800は使用感やデザインはもちろん、なによりもダイナミックドライバーとしての音が気に入っていて、その当時は一番使っていたイヤフォンだったということです。
人にはいろいろと好みの要素があり、ダイナミックドライバーの音を好む人もいれば、BAの音を好む人もいます。kenさん自身はダイナミックドライバーが持つ深みがあって自然で疲れ感のない音が好きだということです。
また昨今の10個も12個もあるような複雑化するマルチBAの流れに対しては懐疑的で、オーディオ的なシンプル・イズ・ベスト(less is more)のアプローチをするという意味でもシングルのダイナミックドライバーを選んだということです。
もちろんBAはBAでよいところがあるので、今回はダイナミックのLyraとともにBAのJupiterやOrionも作ったということです。

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基本的な紹介をすると、Lyraはシングルドライバのダイナミック型イヤフォンです。MMCXコネクタによりリケーブルができます。
なによりLyraにはユニークな特徴があります。
ドライバーにスピーカー世界のハイエンドオーディオで使われるベリリウム・ドライバー(8.5mm径)を採用したということ、音質的な見地からのセラミック・ハウジング採用、そしてALOらしい高性能ケーブルを標準ケーブルに採用したことなどです。

* ベリリウム・ドライバー採用

やはりLyraの最大の特徴はイヤフォンにベリリウム・ドライバーを採用したということです。ベリリウムと言っても削り出しではなく、極薄のPET(プラスチックフィルム材)にベリリウムをCVD(化学蒸着法)で蒸着させたものです。オーディオにおいては特性の高さから、ベリリウムがハイエンドオーディオにつかわれてきました。たとえばかつての名器であるYAMAHA NS-1000やNS-2000などです。これらはベリリウムを真空蒸着で製作していました。フォーカルなども採用していますね。
一方でベリリウムは扱いの難しい材質ですが、Lyraにおいては国際機関における検査に合格しているということです。

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ベリリウムは大変硬度の高い素材であり、これを振動板に使うことで音の伝搬において不要な偽信号を排除して、結果的に高音域をより上に伸ばし、低音域においてはひずみを減らすことができます。
正確に音の信号を伝えるということはどういうことかというと、たとえばDACがアナログ信号を正しくデジタル信号に変えるように、ドライバーでも電気信号を正しく音の信号に変えるということで例えて考えることができます。ベリリウムはこの「変換」プロセスにおいて、構造的な強み、音の速さ、高い硬度(ヤング率)において形が変わりにくいため、音も正しく伝えられるというわけです。
(ちなみにCampfireではCVDによるダイヤモンド・ドライバーのヘッドフォンも開発しているそうです)
もちろんダイアフラムだけではなく、日本製のボイスコイルなど高品質部品を組み合わせてドライバーが形成されています。

* セラミック・ハウジング採用

このセラミック素材はZrO2(Zirconium Oxide Ceramic)というもので、高密度のセラミックです。これで音響室を作ることにより、解像力が高くひずみの少ない自然な音が得られます。

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ハウジング(シェル)に関してはポリカーボネイトから流体金属に至るまでさまざまな素材を試したのですが、セラミックが最高だったということです。測定した周波数特性(50Hz - 20kHz)は似たようなものだそうですが、実際に聞いた時の音は大きく違ったということ。ほかの素材の音が薄かったのに対してセラミックは深くて自然だったそうです。もちろんコストは高くなってしまいますが、音質向上は十分それに見合うということです。これは実際にポリカーボネイトと流体金属でまったく同じシェルを作成して聴き比べてみた結果で、そう判断したそうです。

* ALO品質の高性能ケーブルを標準ケーブルに採用

もちろんALOらしくケーブルははじめから優秀なケーブルが標準ケーブルとして付属しています。これは高純度銀メッキ銅のTinsel Earphone cableで、普通ならばリケーブルするための高性能交換ケーブルです。
標準でついてくるのは3.5mmですが、4芯線なので音の広がりの良さが期待できます。
またTinsel Earphone cableには2.5mmのバランスケーブル版もあります(後述)。これはAstell&Kern 第二世代以降DAPやALOのCDMで真価を発揮します。

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普通の標準ケーブルはPVC(塩化ビニール)被膜をしていますが、これはFET(テフロン)を使用していて、電気的にも耐久性でも優れています。MMCXプラグなどはカスタムメイドでブラスなどではなく、焼き入れしたベリリウム銅を採用しています。このためとても高い硬度を持っています。普通のブラスを使ったMMCXパーツは使っているうちに柔らかくなってはまりが悪くなりますが、このケーブルはそうしたことのない強い硬度を持っています。

* Lyraの質感

Lyraは簡素な紙製の箱に入ってきます。シンプルなパッケージですが、これはさきに書いたようにアウトドアというところからCampfireの理念が来ていますので、環境対応ということだと思います。
箱を開けると中から革製のケースが出てきますが、これはなかなか高級感あってよくできています。

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ケースを開けるとまずケーブルが出てきますが、標準ケーブルの枠を超えるような高品質ケーブルがはじめからついているのが目で見てもわかります。MMCXで交換可能ですが、しばらくは必要ないようにも思いますね。
本体はコンパクトで、セラミックらしくかなりガッチリと硬い感じがします。全体的に質感は高いと思います。プラグ周りも含めてモノとしては精密感さえ感じる、という感じですね。

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チップはフォームチップが二種類で、一方は柔らかくフィルター付き、もうひとつはやや硬めで高反発です。デフォルトは後者で、下記の音質はほとんどデフォルトのチップを使っています。またフォームに加えてシリコン(ラバー)チップもついています。

コンパクトなので装着感は悪くはありませんが、標準的というところだと思います。
能率はそれほど低くなく、iPhoneでも余裕をもって音量を取ることができます。

* Lyraの音質

Lyraの魅力はやはり音質にあると思います。全体的な音質レベルの高さもDita AnswerやIE800なみにダイナミックとしてはトップクラスにあると思いますが、Lyraはその独特な音再現に特徴があります。

一番初めに箱からだして聴いてみて、その独特の聴いたことがないような音再現に耳を奪われました。
これはどう表現すればよいかちょっと困るんですが、はじめに思ったのは、もし「これが新発明のバランスド・アーマチュア型ダイナミックドライバーです」と言われていたらそのまま信じたかもしれないという感じです。
ダイナミックの音ではあるけれども、バランスド・アーマチュアと比べたときにダイナミックに欠けているような細やかさ・繊細さ、たとえば弦楽器がこすれる松やにが飛ぶようなという感じの繊細さ、楽器音のエッジの鋭さをも兼ね備えているような感じです。

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はじめは慣れてるはずのAK240で聴いたんですが、ちょっと驚きました。あまり独特で面白かったので、いつもならここでダイナミックだからエージングに入れるとこですが、Lyraはしばらくエージングしないで聴いていくことにしたくらいです。まずはじめの時点で十分いい音だし、音の変化をリアルタイムで聴きたいからです。後になってレビューするのでエージングしなきゃな、と思ってからしたくらい。
とくにバイオリンやヴォーカルなどでよくわかります。ホーミー(喉声)のような細かく震える特殊な唱法ではいっそうリアルさが感じられます。
Ditaがストレートなダイナミックらしい音を突き詰めていってかつ洗練させた感じとすると、こっちは今までにない感じの高品位なダイナミックの音だと思います。

レビュー的に書くと、Lyraの音はかなり高いレベルの音色表現力、空間表現の深みがあります。音のインパクトもビシッと力強くシャープで歯切れよく聴こえます。楽器音はかなり鮮明に再現されます。また音色はニュートラルで余分な着色感はありません。(たしかベリリウムは内部損失が大きく固有着色が少なかったと思います)
楽器音はとてもきれいですが、脚色的に味付けがあってきれいなのではなく、ひずみなく澄んだ音だからきれいに響くという感じです。特にピアノの音がきれいです。透明感が高く、かつヴォーカルの声はかなり明瞭に聞き取れます。

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音調は明るく鮮明で、解像力がとても高いと感じられます。それはあたかもほかのイヤフォンで聴いたときには埋もれていた微小情報が立体感を丁寧に再現しているかのようです。また空間表現も深く立体感があり、独特の彫りの深さがあります。音の輪郭のあいまいさというのがありません。この辺はシングルゆえの位相の正しさもあると思います。

帯域的には高音域が強いとか、低音域が盛り上がってるとか、そうした誇張感はなく、普通に音楽を聴くのにバランス良い感じ。気持ち低音域が少し強目でロックポップを楽しく聴けるバランスで、この辺はチップでも調整できます。高域や子音のきつさは私が聞いた範囲ではあまりないと思いますが、シャープ感は強いので音源やDAPの組み合わせによっては少し出るかもしれません。そういう時はソフトフォームのチップで緩和できると思います。

思うんですけど、Lyraは音源の良さやDAPの良さをそのまま再現する感じです。これは簡単なことではなく、KenさんがDACの例を出したように、音の電気信号を音の空気の信号にイヤフォンが「変換」する際に、変換しきれない微小情報や、正しく変換できないひずみがあります。
Lyraはその間に挟まった時の濁りが極めて少ないように思います。
私であればカメラのレンズで例えたいですね。高級レンズならばシャープで歪みない像と同時に、途中の光のロスが少ないので透明感が高く濁りない絵を見せてくれます。そうしたすっきりとした細部の見通しの良さです。

DACの優れたDAPでは音再現が凄まじいのはいうまでもなく、iPhoneだとはじめは、おっiPhoneの音がこんなに良くなった、と思うと同時に、しばらく聴くとiPhoneのDACのあらがいやでも聞こえてきてしまうという感じですね。普通のイヤフォンだと再現しにくい、または埋もれてしまうようなDAC性能の微少なニュアンスを引き出す感じです。

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音楽的にはロックポップ系では、インパクトが強いのでドラムやベースは歯切れ良く気持ちよく聴けます。ヴォーカルも明瞭で聴き取りやすく、ノリやスピード感もよいですね。
しかしながらLyraの真価は24bitでの良録音を再生したときです。たとえばLINNの24bit クリスマスアルバムなどです。おそらくは安易なハイレゾ主張ではない本当の音源の良さを再認識させてくれるイヤフォンの性能がわかると思います。
もちろん16bit CDリッピングでも生楽器の良録音の生々しさには感動するでしょう。ぜひ良録音を良いDAPで聴いてみてください。

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美は細部に宿ると言いますが、24bitハイレゾ音源でその細部をもたらすのは拡張された最下位8bitの部分です。しかしそれは-96dBから-144dBというものすごく微細な音の成分で、引き出すのは容易ではありません。いわばなくても音楽は聴けるけれども、上質の音楽体験には欠かせない8ビット、それを引き出すのが優れたイヤフォンであり、Lyraにはそれができると思います。

* バランス化

次にもう一段階の高みに行くためにLyraをバランス化してみました。他の条件を合わせてバランス化の効果をはかるために、これにはAk380と、ALOのTinsel eaphone cable balanced(2.5mm)を使用しました。これならば線材やケーブル設計は同じです。

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Tinsel balanced

実際この組み合わせで使ってみると、Lyraがバランスでこそ真価を発揮するというのがわかります。
同じタイプのケーブルでバランスにしただけですが、Lyraの表現力に滑らかさと暖かみが加わってより音楽的でダイナミックドライバーらしい魅力がわかります。より自然な音になっているようにも思います。比較するとシングルエンドでは硬さというかほぐれなさが残ってたかもしれません。

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シングルエンドではわりとモニターライクな実直な側面を聴かせますが、バランスでは余裕があってその分が別な良さを引き出している感じです。
おそらくはLyraに能率とはまた別な鳴らしにくさがあって、バランスで駆動力が高くなったことでよりスムーズになるようになったという感覚でしょうか。
いずれにしろLyraにバランスはおすすめです。

* まとめ

Lyraは全体にとても完成度が高く、ダイナミックのハイエンドクラスの新顔といってよいと思います。装着感の良さはもう少しほしい気がしますが、音的には申し分がないですね。
帯域バランスよく、音場感・立体感も素晴らしく、楽器の音再現は抜群です。また独特の解像感の高さはポイントになると思います。
ベリリウムドライバーとセラミックハウジング、そしてALOケーブルの相乗効果は高いと言えるでしょう。

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Lyra + Tinsel balanced + AK380

ダイナミック型イヤフォンをAK380やAK240、PAW Goldのようなハイエンド機で使いたい人にはDita Answerともどもぜひ第一選択にお勧めします。AK380の高い解像感を生かしながらダイナミック型を楽しみたいという贅沢な要求にもこたえてくれるでしょう。
また日頃シングルドライバーのダイナミックなんて、と思っているハイクラスのマルチBAカスタムユーザーにも聴いてほしいですね。Kenさんが言うようにシングルなのでクロスオーバーのないシンプルさ・位相の正しさというのもプラスであると思いますが、そうした良さも発見できるでしょう。
私にとっては新しい音の世界を聴かせてくれるという期待感があり、楽しみにAK380とカバンに入れています。Lyraを高性能DAPと良録音に組み合わせるとマジックのような凄みのある音再現を聴かせてくれます。

しかし、Campfire Audioのラインナップは一作目から全開で来たっていう感じです。まさに意欲作ですね。
LyraはCampfire Audioブランドここにありというメッセージを十分に発信してくれたと思います。

MixwaveさんのLyraのページはこちらです。
http://www.mixwave.co.jp/dcms_plusdb/index.php/item?category=Consumer+AUDIO&cell002=Campfire+Audio&cell003=Lyra&id=30
Lyraは本日から予約開始、発売日は明日(8/21)です。
価格はオープンで、市場想定価格は92,500円です。
ぜひこの意欲作を店頭で聴いてみてください。
posted by ささき at 10:01 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月19日

Mookヘッドフォン祭ふたたび

一昨年、Jabenの主催するMookヘッドフォンフェスティバルが開催され、私も参加してきました。
こちらに記事があります。
第一回目レポート
http://vaiopocket.seesaa.net/article/371709927.html
第二回目レポート
http://vaiopocket.seesaa.net/article/383005102.html

昨年は都合により開催がなかったのですが、今年の12月にふたたび開催するようです。場所はなんとグレードアップしてあの屋上にプールのあるマリーナ・ベイ・サンズのコンベンション・センターを使うということのようです。上のレポートにサンズの屋上からの写真がありますが、ここに来るとシンガポールがいかに発展して貿易のハブになっているかがわかります。

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参加ご希望の方、メーカーさんはJaben Japanのおおやまさんに連絡をしてください。
今年はさてどんなことになるのか興味津々ですね。
posted by ささき at 23:02 | TrackBack(0) | ○ オーディオショウ・試聴会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月11日

You're Surrounded - バイノーラル・サラウンド・アルバム

HD TracksのDr Cheskyが世界初というバイノーラル録音のサラウンドアルバムを発表しました。これは信号処理なしで普通の2chのヘッドホンを使ってサラウンドサウンドができるか、という実験的プロジェクトです。
http://www.hdtracks.com/you-re-surrounded

これで実際にサラウンド効果が得られるかというのは、リスナーの耳介(外耳)がいかに録音したダミーヘッドシステムと似ているかにかかっているということです。
アルバムには曲解説とともにその曲ではどの方向から音が聞こえてくるはずかが明示されています。

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試聴はヘッドフォンがHiFiman HE560とDAC内蔵ヘッドフォンアンプGEEK Pulse Sfi(フェムトクロックモデル)でPCにつないでJRMCで聴いてみました。あれGEEK Pulse SFiって記事書いたっけ? まあいいや 笑
この組み合わせ自体がかなり音場感は優秀なんですが、たしか録音の良さと相まって不思議・不気味なリアルさがあります。テナーサックスのソロがぐるぐると頭を回るNo11やバスケのボールをバウンドさせるNo13なんかは後方に来る感覚がわかりやすいかもしれません。
外耳うんぬんとありますが、AK380といまテスト中のCampfireのLyraでも試してみましたが、イヤフォンでもわかりますね。Lyraが優秀というのはあるかもしれませんが。
実験的アルバムではありますが、音楽としても十分楽しめます。
posted by ささき at 21:58 | TrackBack(0) | ○ 音楽 : アルバム随想録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月06日

Maverick(マーヴェリック)・カスタム レビュー

Maverick(マーヴェリック)はいまや人気のUM・ミックスウェーブのユニバーサルIEMですが、そのカスタム版であるマベリック・カスタムが発売されました。

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AK380+Maverick CIEM

本稿は開発者であるミックスウェーブ・宮永氏にインタビューした情報をもとにまとめたレビューです。
製品内容・販売についてはミックスウェーブさんのホームページをご覧ください
http://www.mixwave.co.jp/dcms_plusdb/index.php/item?category=Consumer+AUDIO&cell002=Unique+Melody&cell003=MAVERICK&id=94

*Maverickのおさらい

まず簡単にもともとのオリジナルのMaverickのまとめをしておこうと思います。
Maverick(マーヴェリック)はカスタムIEMで知られるユニークメロディ(UM)が開発したユニバーサルIEMとして登場してきました。
UMが考えるカスタムイヤフォンのゴールとは、文字通りの「フルカスタム」のようなもので、エンドユーザーが自分で音決めができ、ユーザーが自分でチューニングするということです。それをユニバーサルタイプで実現するためにUMの取ったアプローチは国ごとの代理店と共同開発でその国の事情に「カスタム化」した音決めや開発をするということです。日本からはミックスウェーブの宮永さんがUMに赴いて開発に参加しました。普通代理店はメーカーに意見を言うくらいの影響力のように思いますが、このUMのユニバーサルIEM開発においては代理店とメーカーの共同開発と言ってよいほどかなり深く関与しているのが特徴です。
たとえばまず音決めに関与して、周波数特性、位相について聴きながら各帯域のチューブの長さを決めていきました。UM側がドライバーの選択枝を用意してくれ、Maverickのドライバー構成についても宮永氏が決めたということです。このユニークなドライバー構成がMaverickの一大特徴です。
MaverickはダイナミックとBAのハイブリッドで5ドライバー。ネットワークは4Wayです。高域がBAx2、中音域がBAx1、そして特徴的なのは低音域にBAとダイナミックを両方配置しているということです。

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Maverick IEM

Maverickの特徴は低域をBAとダイナミックでともに担当しているということです。ハイブリッド構成では繊細なBAが中高域、迫力のダイナミックが低域という分担が一般的で、同じUMの既存CIEMであるMerlinはそうなっています。Maverickもはじめの予定ではMerlinのようにダイナミック一発で低域を担当する予定だったそうですが、開発していくうちに20〜40Hz辺りのバスドラムのアタック感が関係してくる箇所がダイナミック一発では再現出来ず、結果的にBAでその部分を補ったということです。
これが音質的に低音域の質を向上させる大きな特徴となり、「独自路線を歩む人」のような意味である"maverick"という名前の由来ともなっています。

*Maverick・カスタムへの進化

こうして登場したMaverickですが、ヘッドフォン祭で披露したときに、その音質の良さに驚いたお客さんから「ぜひこれのカスタム版がほしい」という要望をたくさんもらったということです。そこでユニバーサルIEMとして生まれたマーヴェリックをカスタム化する開発がはじまりました。
(以降もともとのユニバーサルIEM版マーヴェリックをマベユニさん、カスタムIEMマーヴェリックをマベカスさんと略称します)

ユニバーサルIEMであったマーヴェリックをカスタム化IEMするうえでは、まずマベユニさんをそのままカスタム化するという手法も試してみたということです。つまりはユニバーサルIEMをリシェルしたことになりますね。しかし、マべユニさんをただ単にリシェルしただけだと、シェルがカスタムシェルになることにより、マべユニさんよりも低域がかなり増し、それによって全体のバランスが大きく崩れてしまったということです。これは単に低域が膨らんでしまったというだけではなく、低域の増加で低域の倍音が中高域にも影響を与えていたということではないかということです。
また、カナルの長さがカスタムシェルのほうが長いために、イヤーチップが必要なマベユニさんとはボア(音導孔)から鼓膜までの距離が異なります。それで、音の位相やスピード感がバラバラになり、全くといっていいほど意図していない音になったということです。

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そこでMaverickをユニバーサルからカスタムに再設計するにおいては、ドライバーをそのままにしてチューニングを徹底して行うという方針を立てたということです。具体的にいうと、マベカスさんではカスタムシェルにした状態での位相調整、低域の量感調整、4ウェイのスピード調整等を行ったということです。これは主にフィルター、レジスタ(クロスオーバー)、チューブの長さの3点をマベカスさん向けに調整したということです。これに7か月の時間をかけて行ったということです。マベユニのドライバーユニットは変更していません。
チューニングの方向としては元々宮永氏がドラムなど楽器をやっていたこともあり、楽器の音(特にドラムなどリズム隊)を中心にチューニングしたということです。このことから是非ともインストの曲などを聴いて真価を図ってほしいということです。

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またチューニングの際にポイントになったのはカスタムとユニバーサルの根本的な違いであるダイナミックレンジだそうです。カスタムでは遮音性が高いために静音がより聞こえる、つまり大きな音と小さな音の差のダイナミックレンジが大きくなるわけです。
マべユニさんの時も楽器メインでチューニングを行っていますが、マべカスさんとでは使えるダイナミックレンジが異なるため、その点はマベカスさんがかなり有利になります。これがカスタム化の大きなメリットであり、それを生かしたということですね。
ただし、単純にカスタム化するとベースヘビーになってしまい、おまけに位相なんかも狂うので、カスタム化のメリットを享受するにはきちんと開発期間をかけてチューニングせねばならない、というわけです。

ちなみにドライバーを変えるという選択肢を最終的に取らなかった理由ですが、実のところ開発期間中に何度か違うダイナミックドライバーを使用した試作機は作成したそうです。さきに書いたようにリシェルすることで低域が過多になったため、口径が小さいダイナミックドライバー、アルミ製などもともとマベユニさんに使用しているダイナミックドライバーよりもタイトでレスポンスが良いダイナミックドライバーなどを採用して試作機を作ったそうです。
確かにダイナミックドライバーを上述した仕様のモノに替えた際、低域の量感は減らせたようですが、元々マベユニさんに採用していたBAドライバーとの相性が悪く、それはそれで全く意図しない音になり、結果的にドライバーは変えず調整だけすることにしたということです。

*マベカスさんの到着

今回も耳型は東京ヒアリングケアセンターの大井町店で取得しました。
耳型を送ったのが6月頭で、マベカスさんが届いたのが7月頭なのでだいたい一か月くらいの期間だったと思います。

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シェルはクリアでしたが、クリアシェルの真ん中に大きなダイナミックドライバーがハイブリッドを主張するかのように見えるのが面白いところです。フィットもよく、遮音性も良好です。シェルの透明度も高いと思います。

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Maverick CIEM

ボアはなんと4穴で、それぞれ高音域BA、中音域BA、低音域BA、ダイナミックドライバーに通じています。
透明シェルに透けて見える大きなダイナミックドライバーがハイブリッドの個性を示す特徴と言えますね。

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ハイブリッドなのでダイナミックドライバー用のベントがついています。透明なシェルごしに見ると単に穴が開いているだけではなく、なにかベント機構のようなものが入っていますね。この辺は詳細は分かりませんがなんらかの工夫がなされているのだと思います。実際に穴が開いていることによる遮音性の悪化ということはありません。静粛性は保たれています。


*マベカスさんの音質

まずはAstell & KernのAK240で聴いてみました。ノーマルケーブルでAK240の3.5mmプラグに直結です。
まず感じるのはベースの厚みを感じさせながら、とても情報量が高い、密度感がある濃い音です。全体的な音質の高さはマルチBAカスタムとしてもトップクラスにあると思います。全体の帯域バランスは良好で、低域の量はJH13的というか、多すぎない適度に量感あるベースのレスポンスがあると思います。

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Maverick CIEM + AK240

特徴的なのはやはり低音域の質の高さで、UE18など他のマルチBA機と聴き比べるとベースのインパクトはハイブリッドを思わせるもので、ダイナミック的な厚み・豊かさが感じられます。BAだとすっきりしすぎて物足らないという感じがする場合がありますが、ハイブリッドのマベカスさんでは豊かなベースを楽しめます。同時にドラムスやベースギターなどは分厚い量感がありながら、鋭くインパクト感のあるところはユニバーサル版のマーベリックを継ぐ音を感じさせてくれます。この辺がオリジナルの長所でもあったマーヴェリックの個性であり、それがマベカスさんにも引き継がれていると感じます。
低音域の魅力はダイナミックさだけではなく、畳み掛けるようなパーカッションのスピード感にも聞くことができます。

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Maverick CIEM + AK240

また低音域とともに特筆すべき点は高域の伸びの良さです。きれいに高く伸び切る感じとともに、音の芯が強くクリアで明確な高域は高音域を明瞭に聞かせてくれます。それでいてきつさを感じさせないのは上手にチューニングがなされているからだと思います。少なくとも自分が聴いた範囲のDAPや音楽の組み合わせではS音のきつさは感じられませんでした。
高音域の良さを示すベンチマーキングはベルの音ですが、マベカスでは情報量を豊かに伝えるためキーンという鳴りの鮮明さとともに余韻の微妙な消え入りも感じられます。これはつまりダイナミックレンジの高さによる微小音の再現力の高さでしょう。
楽器の再現はそれゆえひとつの音が鮮明でクリアな背景に浮かび上がり、細かなニュアンスをよく伝えます。これはヴォーカルのため息やハミングをもリアルに聴かせてくれます。

ギターにしろバイオリンにしろ、アコースティック楽器の微妙な余韻、胴鳴りのリアルさは一品です。
マベカスさんで聴いていると音楽が楽しいと感じられますが、その理由の一つは楽器の音がわりと耳に近く、客観的に遠く引いたわけではなく耳に近くなってるのも迫力とライブのリアル感を感じさせてくれるからだと思います。
音場の左右の広さは標準的ながら、前後奥行は立体的で音のシャープさと相まって楽器の重なりが明瞭に重なって聴くことができます。密度感が高い音、という感じでしょうか。

こうした情報量の豊かさはハイクラスのイヤフォンを聴いている満足感を与えてくれるでしょう。後で比較しますが、マベユニから情報量もあがってより生々しくなったように思いますが、これもカスタム化のメリットで表現できるダイナミックレンジが広いからですね。
マベカスさんの一番の売りは独特のダイナミック+BAのハイブリッド構成による低音域の豊かさと鋭さの両立ですが、マベカスさんの良い点はそれだけではなく、高域の明瞭さ、情報量の豊かさが調和してレベルの高さを感じさせるところです。
また単にモニター的な引いた客観性というよりも、音楽的な魅力もあって主観的に音楽を楽しめます。

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Maverick CIEM + AK380

AK240でも最高レベルの音を聞かせてくれますが、AK380でも驚くことに性能がこのままアップしていっそうありえないような音空間を聞かせてくれます。
実際にAK380の性能を引き出すために第一に考えるべきイヤフォンだと思います。AK380の最新DACの音の鮮明さを余すところなく伝えてくれるでしょう。
PAW Goldでもモニターリファレンス機的なとても整った音の世界をそのまま再現してくれ、マベカスのバランスの良さを聞かせてくれます。

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Maverick CIEM + PAW Gold, CDM

また、こうした高性能機だけではなくiPhoneと組み合わせても十分に楽しめる鳴らしやすさも兼ね備えています。Apple Musicをカジュアルに聴きたいときにiPhoneに直でつないで「はじめてのディープパープル」プレイリストなんか聞いても冒頭のスモーク・オン・ザウォーターの特徴的なベースリフを楽しめることでしょう。
マベカスさんとContineltal Dual Monoはまた別に記事にする予定です。

*マベカスさんとマベユニさん

マベカスさんの進化を聴くために、マーヴェリック・カスタムとマーヴェリック・ユニバーサル(もとのマーヴェリック)をAK240を用いて、同じ曲で比べてみます。
まず感じるのは細かなところよりもまず全体的な音質レベルがマベカスの方がレベル上であるということが感じられます。ここではひとレベル違うと言っておきますが、ひとによっては二段違うと言うかもしれません。マベユニでも全体のまとまりは良いのでマベカスと比べなければ、やはり良いイヤフォンだと思います。しかし同じドライバーとはいえ、カスタム化と巧みなチューニングはそれほどの差をもたらしてくれます。

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Maverick IEM & CIEM

まずマベユニではパーカッションの連打などで音の鈍さを感じます。またマベカスの持つ圧倒的な情報量もユニバーサルでは減退して聞こえます。
高音域はマベユニでも綺麗ですが、マベカスのような音の芯の強さ(SN感の良さ)が感じられません。そのため上に伸びていく感じがちょっと劣ります。
ただ二者を比べると音の個性が異なる点もあります。たとえば楽器やヴォーカルの密度感についてマベカスが濃く高く、マベユニはぱらっとして薄めに聞こえることです。このためマベカスは主観的でマベユニは客観的に聞こえます。また能率もやや違い、マベカスのほうが少し鳴らしやすく感じます。
マベカスの場合は音の主張が強いので、曲によってはちょっと薄口のマベユニの方が曲の構成が見えやすいということはあるかもしれません。一方でやはりマベカスさんの音再現の密度感・濃さは音楽を躍動的な魅力を伝え、オーディオマニアとしても圧倒的な再現力のありえなさが楽しめると感じられます。

*マベカスさんとリケーブル

マベカスさんはカスタムでは一般的な2ピンタイプのプラグでリケーブルができます。このさいにオリジナルのマーヴェリック(マベユニさん)ではプラグ面が凹の旧UEタイプでへこんでいるタイプしか選べませんでしたが、マベカスさんではフラットなものと従来通りの凹タイプが選べます。私のはフラットです。
RE1000のところでは書きましたが、凹タイプだとたまに使えないケーブルがあります。はまれば凹タイプのほうが安定性は良いと思いますが、マベカスを買うようなマニアの人はいろんなケーブルを持っているのでフラットタイプをお勧めします。またここが選べるのも実質的なマベカスでの改善点といえると思います。

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Maverick CIEM + AK380 + Beat Super Nova

ケーブルをBeat Super Novaと変えてみましたが、まずノーマルのマベカスさんでもう少しほしいと思っていた横方向の音の広がりが大きく改善されるとともに、よりクリアで音質のリアルさがさらに生々しく感じられるようになりました。良録音アカペラの合唱曲なんか聴くと生々しさに、口を唖然と開けたままになってしまいますね。ヴォーカルのハミングやため息など細かいニュアンスの再現は自然でいてかつ高度な再現力です。ひとことでいうと「リアル」ですね。
またマーベリック兄弟の長所であるベースインパクトの鋭さもいっそう磨かれます。良い面はさらに伸びて、改善点はきちんとカバーされるというなかなか良い組み合わせです。

このほかにもJabenのSpiral Strandの2.5mmバランス使用などもバランスの効果ともども一ランク音質を向上させてくれ、全体の帯域バランスを崩さずに整っている良い組み合わせでした。
このクラスのIEMを買ってリケーブルしない人はあまりいないと思いますが、マベカスさんはリケーブルの期待にも存分に応えてくれる伸びしろもあります。ノーマルでも十分すぎるほど良いんですが、さらに音を自分好みに変えるられ素性の良さもありますね。

* まとめ

端的にいってマベカスさん(+Beat)はいまの私のAK380とのお気に入りペアになって持ち歩いています。AK380とマベカスさんの組み合わせは今年のハイエンドクラスでのスタンダードになるのではないでしょうか。

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この組み合わせはぜひ一度聞いてみてあごを外してほしいですね。こんな人を驚かすような再現力があるのに、音のなり方があくまで自然なこともよい点です。
宮永さんは「求めたものは、"リアル"。これに尽きます。」と言っていました。さらに「チューニングがリアルに近づくと、"良い音源""悪い音源"というのが露わになってしまいますが、"良い音源"を遜色なく"リアル"に聴くというのが、私個人としての一つの愉しみでして、音楽との出会いに感動を覚えるので、下手にイヤホンの中で"フィルター"を作るような事は避けました。」と語っていました。
そのリアルさという、シンプルでいて高い目標はマベカスさんにおいて十分に達成されたのではないかと思います。
posted by ささき at 21:27 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする