Music TO GO!

2015年05月26日

Astell & Kernの新ラインナップ、AK Jrレビュー

Astell & Kern AK Jr(エーケー ジュニア)は軽量薄型のAstell & Kern新ラインナップです。求めやすい価格で従来のAstell & Kernのラインナップから一歩踏み出したものといえます。

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AK Jrは薄さ8.9mm、軽さ98gと持ちやすく胸ポケットにも軽々と入ります。
筐体はアルミボディ、液晶は3.1型のタッチパネルでゴリラガラスを採用しています。DACは第一世代と同じくWolfsonのWM8740です。

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出力は3.5mmの通常のイヤフォン端子のみで、2.5mmバランスはありません。ボリュームは側面のダイヤル式なので、(実際はデジタルエンコーダーでしょうけれども)アナログ的な操作感が楽しめます。

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ストレージは内蔵64GBで、外付けのMicroSDでさらに64GB増設可能です。そのためトータルでの最大値は128GBということになります。

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PCからの楽曲の転送はUSBですが、AK第二世代とはことなりMTPではなく、第一世代と同じくUSBマスストレージクラスです。
操作はタッチパネルとAK伝統のハードボタンの併用で行えます。ファームウェアはAK第二世代とは異なり、第一世代に近いものです。
PCM入力は192kHz/24bitで、float/int 32bitにも対応しますがダウンコンバートです。DSDは2.8Mhz対応ですがこちらはPCM変換となります。
出力インピーダンスは2Ωと、よいペースレスポンスを引き出すために十分な低さを持っていますので、イヤフォンなどにも合わせやすいでしょう。

価格は直販69,800円(税込)です。フジヤさん、eイヤさんなど専門店では価格が63,500円(税込)に買換えキャンペーンが適用されます。たとえばフジヤさんの例だと指定DAPとの買換えでは8,500円引きで、5,001円以上のイヤフォン同時購入でさらに5,000円引きなど累計すると最大13,500円ほど引いて実質50,000円程度で購入することも可能だと思います。キャンペーンの条件などについて正確なところはお店に直接聞いてみてください。量販店では10%程度ポイント還元がつくとおもいます。
発売日は5月29日(金)です。

以下しばらく使ってみた感想を書いていきます。(FW1.00で聴いています)

* 使用感

箱の見た目は従来のAstell & Kernを引き継いでいますが、箱自体がいままでよりスリムという印象でちょっと面白いですね。

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外箱の中には他のAstell & Kern製品のように中箱があり、本体が収まっています。中箱の袖には保証書と説明書があります。いわゆるエントリー機としてはパッケージも立派なものですね。ここでもブランドイメージを崩さない高級感があり、ひとクラス上のものを買ったという満足感を与えてくれてると思います。
私なんかはダンボール箱に新聞にくるまった雑な梱包の海外ものになれていて、開封するときにむこうの新聞を読むのを楽しみにしてましたが、時代は変わってきてきちんとしたパッケージは欠かせないものとなってきていますね。

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取り出すと薄くて軽いと改めて思います。アルミシャーシの質感も良く、デザインも洗練されてかっこ良いですね。デザイン的には100IIより良いように思います。特にこれからの季節は胸ポケットにいれる機会が増えると思うので、こうした軽量薄型のデザインは重宝します。
ボリュームの回転も軽すぎずに、適度なトルク感とクリック感がありますので安っぽさはありません。
DAPのエントリー機の中ではやや高めの価格設定ですが、このパッケージと本体の出来を見ると納得すると思います。ハイレゾDAPの入門機というよりも、Astell & Kernブランドの入門機という感じでしょうか。

ただし操作はややもたつく感があり、操作の画面遷移の速さは問題ないのですが、楽曲をリスト表示させるところではそのリスト取り出しに時間がかかってしまうように思えます。ここはファームアップでキャッシュがスマートにできるようになるとよいのではないかと思いますね。

また曲転送がMTPではなくマスストレージなのでMacの人は便利に使えることでしょう。ただし後で一括でライブラリ更新が必要になります。これはMTPは音源をファイルとして転送しているので転送しながら再構築できるのに対して、マスストレージだと転送はバイト(ブロック)単位だから転送中は再構築できないからです。

* 音質

AK Jrというと薄型軽量で求めやすい価格という点が強調されがちですが、実のところAK Jrをしばらく使ってみて一番感じたのはその音の魅力です。
AK Jrの音は音色的にはAKブランドであることを感じさせる着色感が少ないピュアな音の質感を持ちつつも、よりダイナミックでベースの迫力があり音楽性の高さを感じます。
もともとAstell & kernブランドはAK100のころから原音忠実をキーとしてプロ用とコンシューマー用のバランスを天秤にかけつつも進化してきた経緯があります。これはあまり固有の味付けを入れないということですから、そこは聴く音楽によってベースにもっとDAPが味付けしてほしいというようなときに、いくぶん人によって不満を感じるところもあったと思います。AK Jrではそこをコンシューマー用に割り切ることで、音楽を楽しく聴けるような演出を可能としていると思います。

具体的にいうと、従来のAKに比べて低域も少し元気ですが、さらに中低域の厚みを増やして低域全体の量感が増えるようなチューニングがされてるように思います。また中高域はやや硬めなシャープさがあり、ここでも多少強調感を感じます。このシャープな中高域と厚みのある中低域の組み合わせが音に華やかな演出感を加えています。こうした低域と高域の強調感により演出的に音楽が楽しめやすい音になっていると思います。
いままでのAK上級機でもベースのレスポンスは十分ありますが、低域自体がすっきりと整理されて聞こえるのに対して、Jrでは低域でのすっきり感を減らして厚く密度感のあるチューニングになってると思います。これがエレクトロ系とかロックに向いている感じですね。

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オーディオというとよくジャズやクラシック向け、と書くことが多くて、ロックを聴きたい人は本来ラフにうねるべき音楽でも上品な演奏になりがちなところもあったかもしれません。しかしAK Jrではヘビメタやエレクトロ・打ち込み系などで音楽を楽しく聴くことができます。低域が強調されているといっても組み合わせるイヤフォンを間違えなければヴォーカル域の再現性もしっかりとしてクリアに聞き取れますのでアニソンなんかでもよいでしょうね。

この辺の音傾向が気になるとき、たとえばさらにヴォーカルを際立たせたい時などはPro EQを使用するとよいと思います。AK JrにもPro EQがあります。
Pro EQをオンにすると低域の中域へのかぶりが改善され、ヴォーカルがより聞き取りやすくなります。それで音場感もやや改善されるようにも思います。ジャズ・クラシックをJrで聴きたい人もオンが良いかもしれません。ロックやエレクトロはオフで密度感のある分厚い重いベースを楽しめるほうがよいように個人的には思います。JrではこれまでよりPro EQで一粒で二度美味しい感があるように思いますね。

特定の音楽に合わせるにはフラットな音+自分でイコライザで調整という考え方もありますが、普及機ではない高性能DAPクラスの音機材としてはやはりはじめから音の個性として提供してほしいという気もします。
たとえば私は10年前にポータブルアンプのSR71を買ったときに感じ入ったのは、iPodの音がワイドレンジになり解像力が高くなるというHiFi的な向上点もさることながら、その暖かみがあってベースに強調感のある音楽的な演出がとても音楽を楽しく聞かせてくれたという点です。RSAのような強い暖かみとは異なりますが、AK Jrにもやはり演出感のあるオーディオ的な強調の効果があり、ロックポップのような躍動的な音楽をより楽しく聴かせてくれます。

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私がよいと思ったイヤフォンはまずShureのSE215speです。これは低価格ながら良さを再発見するとともに、AK Jrと組み合わせた時の力強い音再現に魅力を感じます。耳に近くステージのそばで聴くような緊密感と、力強く厚く太い、しっかりしたパンチがあるベースが特徴です。
SE215speはMMCXでリケーブルできますが、ノーマルケーブル(ストック)でもとても良いですね。価格が安いのでその分ケーブルを考えてみるというのも面白いと思います。
ただSE215speだと後の上位二機種みたいな独特の音場感の良さまでは味わえないと思います。それだけAK Jrには上位イヤフォンでこそ引き出せる伸びしろがあるともいえます。

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より高い性能を求めるならJH Audioのアンジーがよいですね。アンジーを使うとひときわ音再現性の高さがわかるようになり、AK Jrが単に演出系だけではなく、基本的な音再現性も高いということがわかるでしょう。音の解像感の細かさの向上だけではなく、特に空間的な再現力、立体感が見事で実はAK Jrのポテンシャルの高さがわかるようになります。もしAK Jrをスマホより多少良い程度なんて考えてるならアンジーのような高性能イヤフォンで聴き比べてみてください。
AK Jrとアンジーを使いこなすうえでのポイントはベース調整だと思います。低音域とヴォーカルの変化に耳を傾けながら、あーでもない、こーでもないと、私もいろいろやってみましたが、この辺も楽しみながら使いこなしていけると思います。

もうひとつお勧めなのが、JVCのFX1100です。これは味+HiFi系みたいな独特の良さがあってちょっと面白いですね。


AK JrはハイレゾDAPの入門機と言われますが、私は実機を聴いてみてむしろAstell & Kernブランド初のコンシューマ専用機、と言った方が正しいと思います。
いままでAstell & Kernはプロ機って役割もあったのであまり大きく逸脱できませんでしたが、これはコンシューマと割り切ることでいわば「はめをはずす」ことができ、音楽的な味付け要素を加えられたことで音の個性が上級機と違う魅力を持たせられたと思います。
ですから、AK240とかAK120IIなどハイエンド機を持ってるひとも、どうせ入門機だろうと思わないで聴いてみてください。上級機のほうがやはり洗練されてはいますが、おそらく聴く音楽とイヤフォンによってはAK Jrも音を楽しく聞かせてくれ、気に入るかもしれません。

カメラの世界には「サブ機」というのがあって、一眼レフを持っている人でも高級コンパクトのGR1などをサブ機として併せ持つという考え方があります。それで結局はサブ機しか使わないじゃんと揶揄されたりしますね。軽くて音楽的個性のあるAK Jrにはそうしたハイエンド機がない魅力を持つサブ機としての可能性もあるんではないかと思います。特に手持ちのイヤフォンや合わせる音楽との好みがあえば、サブ機は別腹、という危険な言葉が頭をよぎるかもしれません。

* まとめ

AK Jrは曲表示が遅いという難があるものの、作りや外見からはエントリー機とはいえあまり安っぽさを感じさせない高級感があります。音的には基本的な音質の高さを持ちながら、独特のベースのパンチとダイナミックな味付けで個性的な音質が楽しめます。薄く軽く持ち出しやすい気軽さももちろん大きな魅力です。
Ak JrはAstell & Kernブランドにあこがれてステップアップを望むエントリーユーザーから、いわゆるサブ機的な個性を求める上級者まで幅広く訴求するポテンシャルを秘めた新製品ではないかと思います。
posted by ささき at 23:41 | TrackBack(0) | __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月19日

Just ear MH1テイラーメイドオーダーの実際

私のシンガポールの知り合いがヘッドフォン祭に来たついでにMH1をオーダーしたいというので日本語サポートがてら付き合うことにしました。その始終をJust ear MH1フルカスタムオーダーのレポートとして書きました。一部撮影不可の部分もありますので念のため。

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Just earはソニーのカスタムIEMということで話題となった製品で、XJE-MH1はいわばテイラーメイドのフルオーダー、設計者の松尾氏自らがユーザーの好みに合わせてチューニングをしてくれるモデルです。XJE-MH2はあらかじめ決められた3タイプの中から選ぶことができるモデルのことです。
当初の想定とは異なって高価ながらMH1の引き合いがとても多いということです。MH1はすでに国内はもとより、アジアを中心にした海外からも多く引き合いが来ているということで、今回の彼が海外第一号ではないようで残念そうでした。
Just ear 製品は東京ヒアリングケアセンター青山店でのみ注文ができます。Just earは正確にいうとソニーエンジニアリングの製品ですが、ソニーエンジニアリングはもともとソニーグループの中で設計を担当する部門であり、営業や販売部門をもっていません。その点を東京ヒアリングケアセンターがカバーしてくれるということです。東京ヒアリングケアセンターは私もカスタムの耳型をとるときにはお願いしているところで、この分野においては日本でも随一だと思います。

まず初めは他のカスタムと同様に予約を取ります。下記のホームページにオーダーの概略が載っています。
http://vernalbrothers.jp/just-ear.html

注意すべきはMH1オーダーの場合は二回来店する必要があるということです。まずは他のカスタムと同じく耳型の採取です。ただしMH1の場合はこの際に松尾氏自身が同席して、音の好みを細かく調査してそれに合わせたチューニングをしてくれます。
この1回目はその音の方向性を決めるのがメインで、二時間ほど要します(実際は一時間半ほどでした)。このときはシミュレータソフトを使用します。
この際は松尾氏も同席する必要があるため、予約は平日夜か土曜になるそうです。たとえば今回は月曜の18:00-20:00でした。

そして二回目は納品時で、このときに実際のイヤフォンを調整し、アコースティックチューニングを行います。それで最終納品となるわけです。

* インプレッション採取と試聴機レポート

一回目の予約にもとづいて店を訪問するとまず注文を行って支払いをすませます。次にインプレッション採取を行います。

今回の発注者がインプレッションをとってるときに、私は試聴機を聞きながら松尾氏に話をうかがいました。

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Just earの開発のきっかけをお聞きすると、松尾氏はソニーのイヤフォン開発において耳型職人をやりながら人の耳の形は様々なので、一種類のヘッドフォンで全てのお客様をカバーするのは難しいと考えていたそうで、それがカスタム開発のきっかけとなっていくそうです。

Just ear MHシリーズの技術的な特徴ですが、まずBAとダイナミックのハイブリッドであるということです。
BAとダイナミックドライバー間では通常のマルチウエイカスタムのような電気的なクロスオーバーはなく、音響フィルターと音導管などアコースティック要素のみで周波数調整をしているということです。
もうひとつハイブリッドタイプでポイントとなるのはダイナミック側のベント機構です。Just earでは背面にベントのポートが6穴あります。これで音のチューニングが可能です。つまりJust earでの各モデル間の音の違いは主に背面ベントと音響フィルターなどのアコースティックパラメーターを調整することで行われるということです。

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背面のベント穴

Just earのクロス帯域や各ドライバー間の遅延時間を考慮したうえで、(たとえばFreqPhase的な)位相に対しての特別な配慮というのはないそうですが、BAドライバーをあえて一基としているのは位相に対しての配慮でもあるということです。

試聴機はまずMH2モニターから聴いてみましたが、音が自然でバランス良いという印象でつながりがスムーズに感じられます。また音の広がり方も自然で好ましく感じられます。音楽を聴きやすくあわせやすい素材感の良い音、という感じです。モニターとは言いますがハイブリッドの良さからか、普通に音楽をきいて楽しめる音です。
次にMH2リスニングを聞いてみると、ベースがややゆるく量感は多めであることに気が付きました。モニターのベースはタイトでバランス良い感じですが、リスニングでも過剰な演出は感じられません。
これが面白いというMH2クラブを聴いてみると、たしかにこれはモニターとリスニングとはかなり異なった音で、全域でかなり元気な音になっています。ベースも量感が増えていますが、それでも切れがあってゆるさはあまりありません。迫力あるといったほうがよいでしょうか。低域ボンボンのクラブではなく完成度の高いクラブサウンドという感じです。
全体に完成度が高いというかバランスが良い感じですね。たとえクラブであっても破綻なくHiFiで元気という感じです。
こうしてMH2の各タイプを聴くとすごく音の再現幅が広いので、この中でMH1で自分の音をひとつ定めるというのは面白そうな気がします。

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MHシリーズではまず中域ありきのソニー的な考え方があって、中域と低域の境目に注目してヴォーカル帯域にかかるのを防ぐという方針があり、それからモニターは音楽製作者向け(CD900STライク)、リスニングはより広く一般的、ロック・クラブやアニソンなどポップはクラブモデルという考えで個性を作っていったようです。松尾氏はまたスピード感も大切にしたと語っていました。
モニターとリスニングは兄弟のような感じですが、松尾氏によるといまはプロ用もリスニングに寄ってきて、低域の量感も増えているのではないかということでした。ですので、いわばモニターはちょっと前の日本、リスニングはいまのロンドンのスタジオのようだとも言えるのではないかということです。


さて、試聴を終えてインプレッションは出来たかいなと戻ってみると、なんと今回ユーザーの彼が謎のヘッドギアのようなモノをかぶっているので驚きました(撮影不可)。私もかなり多くインプレッションを取ってきましたが、はじめてみました。ちなみにバイトブロックを噛むのは同じです。
これは耳の中でドライバーの位置などを配慮してインプレッションを取るための装置ということで、これをかぶせて位置決めをし、これもまた見たことないピストル型の注射器のようなものでインプレッションを取るということです(撮影不可)。

* 松尾氏によるユーザーへのヒアリング

さてインプレッション取得が終わると松尾氏によるユーザーへのヒアリングに移ります。これは前に書いたように一回目の音の方向決めのためです。(調整は二回目訪問時)。
ヒアリングの前にまず飲み物はコーヒーにするか、お茶にするかを聞かれます。理由はあえて書きませんが、ここはコーヒーを取ることをお勧めします。

そして松尾氏からいくつか質問をします。たとえば「どんな音楽をいつも聴くか?」、答えはたとえば「ジャズやクラシックなどのアコースティック系」など。次には「どんな再生環境・プレーヤーを使うか?」。答えはたとえば「家ではデスクトップPC、外ではAK240」などです。
その次には松尾氏がノートPCに某社オーディオインターフェースがついた機材を用意します(撮影不可)。オーディオインターフェースにはMHユニバーサルIEMが接続されています。
これはアコースティック変化をシミュレートする機材で、ノイズキャンセルヘッドフォンのソニー開発機を応用しているということです。ソニーグループのアドバンテージを使ってるということですね。
そしてそのオーディオインターフェースに手持ちのポータブルプレーヤーがあればそれをアナログ接続します。もし手持ちにない場合にはJust ear側で再生機の用意はあるということですが、MH1をオーダーするときはいつもの音源をいつものDAPに入れて持ってきた方が良いと思います。
次にMHユニバーサルIEMをユーザーが耳につけ、さきほどのDAPを再生し、松尾氏がPCを操作します。これで再生音をそのPC(シミュレータ?)で信号処理され、その結果をユニバーサルMH機で聴いて、ある決まった個性の音が出るようです。その好みを松尾氏に伝えるということになります。
たとえば「この音源の印象はどうですか?」、ユーザーが「超低域がもっと出て欲しい」と答えます。松尾氏がそれを調整します。「これでよいですか?」「はい、良いです」という感じです。
また次には「高域はどうですか?クリアですか?」。そこで答えがあり、松尾氏がパラメーターを変え、「この前の音といまの音のどちらが良かったですか?」。それにユーザーが答えるという感じです。

こうした受け答えがあり、このヒアリングとシミュレーター?による調整でだいたいの音の方向性を決めて実機のカスタムIEM本体を製作し、二回目に実物をいじりながらアコースティックチューニングにより調整するとのこと。二回目はだいたい1.5ヶ月後で、また松尾氏が担当するということです。
松尾氏が多忙な中、直接個人のために出向いて自分だけの音を設定してくれるということを考えるとプラス10万円というMH1の価格も納得できるのではないでしょうか。

実際には、"ソニーのあの機種は私が担当したんですよ","そうですか、私はあれ持ってますがいいですよね〜"、などと和気あいあいと雑談も交えつつ進めていきますので、このヒアリング自体楽しみながらできるのではないかと思います。このときの彼などはメモ帳にステムの形状違いなども書き出して熱弁をふるって松尾氏とお話していました。これもソニー好きならではの楽しみな時間ですね。この彼は訪問前も店から出た後もしきりにエキサイティング!と言っていました。
終わった後にこの彼とも話をしたんですが、彼がJust earを注文した理由というのは作りも含めた製品トータルとしての魅力があるからだそうです。そうした大手の強みと、テイラーメイドという松尾氏の理想が結実したMH1カスタムはあらたな国産カスタムの選択として面白いものとなるでしょう。
posted by ささき at 22:28 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月15日

ヘッドフォン祭2015春の見どころ

さて、いよいよ今週末はヘッドフォン祭です。そこで私的なヘッドフォン祭の見どころを書いておきます。

まずなんといっても今回はAstell & Kernの次世代フラッグシップ、リトルモンスターのようなAK380の発表会です。一般向けは6Fチャペルで12:00から行います。展示は15Fでも行われます。試聴は整理券方式となりますのでご注意ください。
これはAk240の時と同様に私がプレゼンを務めます。いろいろと策を練っていますが、AK380にふさわしい濃い内容にしたいと思います。

また今回は私もライターとして書いている音楽出版社さんのヘッドフォンブック2015の恒例であるヘッドフォンアワードの表彰式を開催する予定です。ここでは私は司会進行を務める予定です。この表彰式ではヘッドフォンアワードの各賞に加えて特別賞を設けています。
一般公開もされる予定なのでどうぞいらしてください。17:00から18:00まで6Fチャペルで行います。

メーカーでは6Fに今回初参加のVinnieさん(Red Wine Audio/Vinnie Rosi)が注目です。メインはキャパシタ(コンデンサー)による仮想バッテリーのような駆動方式と、モジュラー式の拡張性を持ったLIOです。これはUSB DACやヘッドフォンアンプのほかにもフォノモジュールなどを追加できます。私が翻訳した日本語版のカタログもあると思います。
またVinnieさんといえばやはりプレーヤー改造もののRWxxですが、今回もRWAKシリーズなどの試聴機を持ってきてもらえるようにお願いしています。それとALOとの共同によるContinental Dual Monoもこちらでも展示する予定です。こちらは超高性能ポータブルDAC内蔵アンプです。

Jabenは今回6Fになります。Vinnieさんと隣り合わせです。
オーディオテクニカIMシリーズ用のSpiral Strand交換ケーブルがメインということで、これは音を聴いてみましたが、より力強さが増して音の制動がより効くようになり音の歯切れが良くなります。特にベースの刻みが気持ち良いですね。オーテクファンの方はチェックしてください。
またGlove S1国際版の展示、A2PとのコラボBaby 05、Abysまた平面型ヘッドフォンの新作ももしかして、というのがあるようです。

トップウイングさんでは私が前にレポートしたLotoo PAW Goldの普及機である。PAW 5000が展示されます。こちらは単にコストダウン版ではなく、AKタイプの2.5mmバランス端子を備えているなど興味深いモデルです。また静電型ヘッドフォンで海外で話題のKing soundのヘッドフォンも展示されます。あとはiFIのiDAC2も注目でしょうね。

今回からHiFimanはトップウイングさんの扱いではなくなります。ただし新製品の展示は行われ、11Fロビーです。今回はRE1000、HE1000などの展示が行われるようです。RE1000はダイナミック型2ドライバーのカスタムでフルレンジ+ウーファーという構成のようです。ハイブリッドカスタムが隆盛を見せる中、フルダイナミックカスタムというのもなかなか期待できるのではないでしょうか。

イヤフォンでは須山さんのところが謎の44xを明らかにし、441(44.1kHz)という小型プレーヤー(xDuoo X2ベース)ということがわかりました。これはカスタム購入した人のノベルティになるそうです。あとは萌音の進化版ですね。それと痛DAPバージョンのM3も見られるかもしれません。13Fです。

ALOのKenさんがCampfire Audioという新しいブランドを立ち上げるのも注目ください。ミックスウェーブさんのブースへどうぞ。

ヘッドフォンでは注目はCanJamでも話題だったDharma D-1000です。静電型(セルフバイアスタイプ)とダイナミックの2Way機です。これは完実さんブースです。

またパイオニアのフラッグシップヘッドフォン、SE-Master1も注目ですね。

2日目はカスタム座談会が開催されて、カスタムメーカーの方を囲んでの濃いトークが繰り広げられるのでこちらもどうぞ。

今回は私はレッドブルエアレース観戦と重なったため、土曜日にしか参加できませんが楽しみな週末です。
posted by ささき at 20:42 | TrackBack(0) | ○ オーディオショウ・試聴会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

WestoneからAstell & Kern2.5mm向けの極細バランスケーブル登場

AK第二世代プレーヤーでWestone製品を楽しむために極細のバランスケーブルが発売されます。Astell & Kern向けにチューニングされたiriver社公認のケーブルです。超軽量・極細で、銅線をシルバーコートしたデュアルツイストケーブルです。
日本での販売開始は2015年5月30日(土)からを予定しています。
市場想定売価は27,800円(税込)です。詳細についてはテックウインドさんのホームページをご覧ください。
http://www.tekwind.co.jp/products/WST/entry_12402.php

MMCXは同一規格のようでいて、機種・メーカーによって互換性があったりなかったりもします。Westoneユニバーサルはプラグが細いため、こうした公認の交換ケーブルは安心といえます。ESシリーズ、Wシリーズ、UM Proシリーズに使用ができます。

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WestoneのカスタムES60のレビューを書いた際に、極細ケーブルについて書きましたが、その2.5mmバランス版です。Estron Linumタイプですが、Westoneのものはプラグとか長さなど独自仕様となって、Westone製品向けに使いやすくなっています。ただしこのバランス版は通常の極細ケーブルとは多少異なっていてLinumでいうとBaXのようなツイストペアのケーブルになっています。2.5mmプラグも高品質のように見えますね。
このタイプはケーブルの存在を感じさせない軽さと細さがよいのですが、半面で絡みやすい難があります。しかし、このバランス版はタングルレス(絡みにくい)という新仕様のケーブルとなっています。

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ES60とAK240で合わせて聴くと、バランスらしい音の広がりが見事ですが、もともとES60も空間的な音の広がりが素晴らしいカスタムIEMでもあり、まるで包み込まれるような感覚にもおそわれます。透明感が高く、ES60のしっかりした遮音性による高い静粛性ともあわさって細かな音の抽出も見事なくらいです。
音調はニュートラルで着色感は少ない感じです。
またこの極細ケーブルのよいところとして音の滑らかさにも長けていると思います。この極細ケーブルはWestoneの持つ音楽的な魅力をより高めてくれているようにも思います。W60でも音楽的な柔らかい音が楽しめます。

通常の極細ケーブルと取り替えて比較してみると、空間的に広がりが増すだけではなく、迫力も増し中高域の伸びがあるように思われます。ここはそもそも極細とは異なる設計だからなのでしょう。

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このケーブルで聴くとES60はやはりよいカスタムIEMだと思いますね。音が細かく、クリアで、空間表現が良く、遮音性は随一です。ES60の良さを一段と引き出してくれるでしょう。
今週末のヘッドフォン祭でも展示がありますので、テックウインドブースにお越しください。
posted by ささき at 11:15 | TrackBack(0) | __→ Westone ES3X カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月14日

Astell & Kernの新フラッグシップ、AK380レビュー

いまやハイエンド・デジタルオーディオプレーヤー(DAP)の代名詞ともなったAstell & Kernブランドに待望の新世代機が登場します。Astell & Kern AK380です。あのAK240に代わる新しいフラッグシップとなります。

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まず今週末のヘッドフォン祭で発表会があります。試聴機が用意されますのでお集まりください。私もそこでプレゼンします。なお試聴機については整理券の方式なのでアユートさんのホームページの案内を参照してください。
(価格や販売時期等は現時点ではわかりません)

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それに先立って一週間ほどデモ機を使用できましたので、本記事でレビューいたします。借りたデモ機は評価用の生産前モデルであることをお断りしておきます。またファームのビルド番号は0.02ですのでかなり初期です。生産版ではさらにチューニングがくわえられるということです。
生産前モデルとはいえデモ機の印象からAK380はすごい製品に仕上がったものだと感じました。私はAK240の昨年の発表会の時にAstel & Kernはポータブルブランドだけど、ハイエンドオーディオを志向していると言いましたが、AK380はその回答とも言えます。なにしろAK380はハイエンド・オーディオ機材そのものだからです。外形はキープコンセプトに見えますが、中身はかなり変わっています。

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私は昨年のメインDAPはAK240でしたし、デモユニットの時点から使い込んでかなりAK240には慣れ親しんでいます。その点でもAK380とAK240の差は気になるところです。そこで、AK240と比較しながらAK380の特徴を解説していきます。

1. 最新DAC ICチップ・AK4490とフェムトクロックの採用による大幅な音質向上

AK380の特徴はまず最新のDAC ICチップであるAKM AK4490を贅沢にデュアルで採用しているということです。
前のAK240で一番不満に思っていた点は音のかなめであるDAC ICチップがシーラスロジックのCS4398と10年ほど前の古いものであったことです。もちろんCS4398はシーラスのトップモデルとして長い実績と定評があり、たくさんの採用例があります。しかしながらデジタルの分野で10年前のICというと古さはいなめません。
AK380は昨年発表されたばかりのAKM Veritaシリーズの最新モデルであるAK4490を採用して一気に最新モデルとなりました。AK4490は新しいVeritaシリーズの中でも特に最新技術を投入したものです。

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そしてAK380ではなんとフェムトクロック(VCXO)を採用しています。フェムト(femto)クロックは最近ハイエンドオーディオ界隈で話題の高精度クロックの潮流で、femto秒クラス精度のクロックの総称です。いままでポータブルではDACチップが云々されてもクロックまで問われることはあまりありませんでした。AK380では0.2psという精度のクロックを使用することで、AK240に比べて約40%もジッター低減を果たしたということです。
*初出時にAK240と比べて二桁少ないという表現がありましたが、これは正しい記述ではなかったので上記のように訂正いたします。

このクロック重視はあとでも書きますが、AK380は完全にプロ機を想定しているからでしょう。またAK380は拡張機能により単なるポータブルプレーヤーにとどまらない、ということも書き添えておきます。

もうひとつAKM DACの利点は32bit整数ネイティブ入力が可能なことです。そのためAK380も32bit整数ネイティブ対応となっています。
PCMはつまり384kHz/32bit int対応となります。DSDはもちろんDAP単体でのDSDネイティブ再生対応で、2.8/5.6MHz対応です。

2. ドック端子が新設され拡張性が向上

AK380での大きな変化は拡張性が高くなったことです。これによりAK380は第3世代機の始まりと考えることができます。
AK380の底面にはドック端子が新設され、底面に4つの金属ピンがついています。これはアナログ・バランス出力端子です。このほかに背面に別売のアンプ固定用のピン穴があります。またデジタル信号はUSBを介して外部機器とのやりとりを行うようです。つまりUSB+4ピンアナログ端子で外部機器とのインターフェースとなるわけです。

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今回まだ外部機器については資料が来ていません。ここはいまの情報からの推測が入りますが、まず見えているのは下の画像の専用のポータブルヘッドフォンアンプです。デモ機を聴くと十分な音の制動コントロールが出来てると思いますけど、この外部アンプはさらなる駆動力を発揮してくれるでしょう。メニューにはAMPの項目が新設されています。Glove Audioの純正版みたいなものでしょうか。

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AK380と外部アンプ(暫定)

しかしながらAK380の拡張機能はそれにとどまらないと考えられます。それはAK380があたかもコアブロックのようになったオーディオシステムへの発展です。おそらくは後述のDLNA機能も含めて、AK500N相当をAK380と外部機器で実現するようなものを描いているのではないかと思います。あるいはプロ用のエンジニア機材の核として発展するのかもしれません。そうした壮大な絵を描いているように感じられます。

このほかの入出力は3.5mmステレオ(光デジタル出力付)と2.5mmバランス、USB micro端子と変わりありません。Bluetoothは詳細わかりませんが、同じであると思います。WiFiは後述します。

3. 筐体の大型化と使い勝手の変化

AK240と比較すると筐体が一回り大きくなっているのがわかると思います。デザイン的にはAK240の光と影の陰影イメージデザインを引き継いでいますが、左のボタン側が斜めに張り出しているなど新しいデザインを採用してデザインコンセプトも多少変化しています。筐体はAK240と同様にハイエンドオーディオ機器なみの航空機グレードアルミ(ジュラルミン)の高級感あるものです。

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AK380とAK240の比較

このため胸ポケットにはぎりぎり入るくらいのサイズとなりましたが、液晶は大型化(4インチ)により操作がしやすくなっています。

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また液晶の大型化に貢献しているのが、今回新規のメタルタッチ機能です。AK240は液晶の下方にタッチセンサーがあって、そこをタッチすることでホームボタンとして機能していました。このホーム機能が液晶ではなく、ボディの下方の一部(ボッチ印字のあるところ)がタッチセンサーとなりました。これをメタルタッチといいます。これによって液晶の表示部分の拡大に貢献しています。

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メタルタッチ機能

液晶の発色はAK240と並べるとわかりますが、暖色からニュートラル・やや冷調に変わっています。画面が大きくなったのでカバーアートの迫力は増しています。またアートがない音源データの際に表示される画像が多種用意されているようです。

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ボリュームのトルク感はAK240とほぼ同じ感じです。なれるとやや下についている380のほうが操作しやすい気がします。ボリュームは0.5ではなく1刻みになっています。重さ自体は多少ずっしりとしますが、ポータブル機器の使い勝手を損なうほどではありません。

容量はAK240と同じで内蔵256GB、外部にMicropSD一基です。ちなみにAK240もそうですがこの内蔵256GBというのは128GBのメモリを2個つないで256GBの単一ボリュームに見せています。この技術もかなり高度なものということです。
電池の持ちはCDリッピングとハイレゾのまじったライブラリをシャッフルで聞いて、実測でおよそ10時間弱持つと思います。ここも大型化の恩恵があるのかもしれませんが、なかなか電池の持ちも悪くないですね。

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メニューは設定が上から引き出しメニューに移動するなど多少変更がありますが、大きくは変わっていません。この変化はあとで従来機にもフィードバックされるのではないかと思います。

この大型化によって回路設計に余裕ができて、ノイズのもとになるWiFi部分の分離などオーディオ回路の最適設計が可能となったということです。

また、操作性の向上という点でいうとバランス切り替えがプラグ検知で自動化されました。これはなかなか便利です。

4. WiFi機能が向上して、オープン化(DLNAネットワークに対応)

AK240でも先進的なネットワーク機能を備えていましたが、AK380ではそれがオープン化されてDLNA(uPnPベースの)ネットワークの中で認識されて使えるようになったようです。ここは今回の試用ではテストがあまりできませんでしたが、完成品ではAK500N相当になるようです。これはAK connect機能と呼ばれているようです。

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A&Kからアプリも提供されますが、一般的なPlugPlayerなどのuPnPアプリも使えて、その中でAK380が認識できるようになるはずです。

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専用アプリAK connectのタブレット画面(HD)

おそらくはスマートフォンでuPuPアプリを立ち上げるとWiFiネット内のAK380が認識され、スマートフォンの音源やストリーミングをAK380をレンダラー(再生機)として聴けるのではないかと思います。
スマートフォンの音質向上としては外部ポータブルDACアンプをつなげるものもありますが、USBでケーブル接続だと肝心のスマートフォンとしての使用に難があります。かといってBluetoothでは音質に難があります。そこでこうしたWiFiワイヤレスでの接続は大きく可能性を広げることができると思います。

またポータブルだけではなく、ホームシステムのネットワークプレーヤー(ストリーマー)としても機能するのではないでしょうか。そのための拡張機能なのでしょう。

5.イコライザーの高機能化

AK380ではパラメトリックEQが採用され、AK240の10バンドに比して20バンド0.1dB単位とさらに細かい設定が可能となっています。また曲率を示すQ値の変更などかなり細かな設定ができるようになりました。
これはプロ機としてAK380がより意識されていることを示しています。この辺は私よりも他のエンジニアの方たちによる紹介がなされていくことでしょう。
これはプロエンジニアとしてのジェリーさんのAK240での意見がAK380では反映されているようで、JH Audioとのコラボが単なる製品の供給だけではなく製品コンセプトにも及んでいることがうかがえるということがわかると思います。


以上のようにAK380での変化は拡張性、クロック精度、EQの細かさなど、単独ではなく有機的につながってAK380の戦略的なコンセプトを示しているようにも思えます。つまりそれが第三世代のコンセプトと言えるでしょう。
コンシューマー視点で見ても、AK240からは音質の大幅な向上とネットワークのオープン化を実現した正統な新フラッグシップという点で、なかなか魅力的な新製品になっていると思います。

* 音質

次は音質について述べていきます。個人的には一番インパクトがあったのはやはり音質が大きく向上したことです。
ここでは主にレイラユニバーサルを2.5mmバランスで使用して聴きました。これ以外の組み合わせでは今回は聴いていません。時間の制約もありましたが、それよりもこの組み合わせ、聴いてしまうと離れられないんです。
このレイラバランスとAK380の組み合わせはシンプルながら、あっさりと現行では最高峰の音を出してくれます。まさにポータブルとしては理想的ですね。
はじめはAK240で使っていた128GB SDを入れて同じ曲で聴きなおしたんですが、AK380では緊張感、感動、リアルさがまるで違います。

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音は全体的な印象からはAk240に似た感じの帯域バランスに思えます。AK240とAK120IIとどちらに近いかというとAK240だと思います。そのため一瞬似た感じにも聞こえますが、聴いていくと音質は大きく進化しているのがわかります。デモ機を借りて一晩エージングして次の朝に買ったばかりのアルバムを聴いて唖然としました。音世界がすさまじいんです。
やはりAKMの最新チップですね。DAC ICの性能がすべてではないとは言われますが、やはり大きな位置を占めていると思います。そのほかにもフェムトクロックの搭載、大型化で回路に余裕ができたこと、そうしたこともプラスに働いています。

まず際立つのは解像力・立体感ですね。これらはAK240の比ではなく、音像の彫りの切込みの深さはすさまじいという言葉を使いたくなります。大まかだった輪郭の彫像がとても細かく陰影豊かに進化したという感じです。新DAC ICチップの性能の高さはスペック表で数dB変わっただけではなく、音像再現性には圧倒されます。特にレイラUMやカスタムIEMなど最高の性能のイヤフォンやヘッドフォンで聞いて欲しいですね。レイラの能力はこんなものではなかったと気が付き、さらにそれらも惚れ直すでしょう。
情報量豊かなAK380を聴くと24bit音源の良さがさらにはっきり出ているのではないかと思います、小さな信号の取り出しが高いのでそれが音楽により表情を加えているようです。ここも回路もあると思うが、さすが最新のチップだと思う。
AK380からAK240に変えて聴くと、音が全体に軽薄となり、深みが失われたように感じられます。あのAK240が、です。

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音の広がりもさらによくなり、また低域と高音域がさらに拡大してワイドレンジ感がひときわ高く感じられます。
LINN 24bitクリスマスのThe Man Who ...のボーカルパートではかなり違いが明確でAK240よりもAK380のほうが1〜2レベル上であることがだれでも明確に差がわかると思う。発声が明瞭で、立体感・陰影の高さがよく表現されています。低音もAK380は低く沈みこみます。AK380では高音域はより上に気持ちよく伸びて、ベースの低音は下に深く低く沈んで、かなりワイドレンジであることを感じます。
音の広がりもよく、もともと240は空間表現に長けていたけれども、AK380ではさらによくなった感じですね。空間の広がり方に余裕が感じられます。このおかげでAk240と比べるとスケール感が高くなりました。AK240はクラシックマニアのiriver社長の意向がより反映されたモデルということでしたが、AK380もその線を感じます。

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AK240よりも楽器の音がより整っているのはクロックの効果でしょうか。音に深みがあり、豊かで余裕があります。アマンディーヌ・ベイエのバロックバイオリンはAK240よりさらに高音が伸びてふくやかに古楽器らしい倍音の豊かさがはっきりと堪能できます。
生楽器の表現力はAK240よりもだいぶ良く感じます。リアルで着色感がなく歪みがなくて整っているので、脚色がなくてもきれいに美しく鳴るタイプです。ハイエンドの鳴りかたですね。ドライなところは少なく音楽的なわずかな温かみを感じるのもよい点です。
ヒリアードアンサンブルのシンプルなアカペラでは音の純粋さ透明さがよくわかります。この辺はAKMっぽさが少し出てるように思います。たとえばよく聞くとピアノなど楽器の音色はAK240より着色感が少ないのがわかります。これはシーラスロジックとAKMの差だと思います。AKMのほうが着色感が少ないですからね。。

こう書いてくるとクラシックとかジャズ向きかと思われるかもしれませんが、ロックやアグレッシブなポップでもキレが良く、その迫力に凄みまで感じます。AK380の音楽表現はイヤフォンにもよるけど、客観的に引いてるわけではなく適度なユーザーとの距離を持ってるので耳に近くスピード感があってキレがあります。AK240に比べてもAK380ではヴォーカリストが生々しく語りかけてくるよう。没入感がとても高く感じられます。
音に厚みがあってベースも太く、繊細さと力強さを両立しています。単体でもカスタムIEMをがっちりと駆動し、この上アンプをつけたらどうなるかと思いますね。

Ak380を聴くとロックのハイレゾなんて意味あるのか、と斜に構えることはなく、ロックでもクラシックでも音源の良さを余さず伝えてくれるようです。録音の質があらわにされることでしょう。そういう意味ではプロのモニターにも良いのだろうと思います。

* まとめ

私もこの言葉何回書くんだって突っ込まれると思いますが、やはりライブラリーの曲をもう一度ただひたすら聴きなおしました。
はじめは試聴用にLINNの良録音とか用意しておいたのですが、そういうのはどうでもよくなります。もうAK380の世界にはまるとAK380でいままで自分の好きだった曲を、ただみな聞き直したくなるんです。レイラとの組み合わせは聴いていて怖くなってくるほどです。
AK380はDAPにおけるAstell & Kernの横綱相撲という感じですね。

ひとつ強調したいのはAstell & Kernがユーザーの声をきちんと聞いて、それをさらに戦略としてうまくまとめあげていることです。
イコライザー機能ではジェリーさんとの協業の効果が単にイヤフォン販売だけではないことがわかるでしょう。また私は昨年Astell & Kernの人にあった時や声を聴いてもらえる機会に次機種では最新DACチップやフェムトクロックなど高精度クロックの採用、ネットワークのDLNA互換のオープン化をお願いしてたのですが、AK380を見てここにきちんと実現されていて驚きました。もちろんそう望んでいたのは私だけではないでしょう。
このポータブルとかヘッドフォンという世界はボトムアップでみなで作ってきた世界です。Astell & Kernはそれをよく心得ていると思います。さらにその優れた本体を核として、いずれAK500Nのようなネットワークプレーヤーや、プロシステムに発展するというきちんとしたビジョンに結実したところはさすがというしかありません。

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AK380(上)とAK240

AK380を聴いていると、これがポータブルの音というのは信じがたいところはありますね。AK240とレイラを組み合わせて聞くと、これ以上があるのかと思ってしまいますが、さらに上があると教えてくれています。音のコントロールもがっちりとして十分パワフルだし、これ外部アンプ必要あるのかとも思います。
もっとも「これがポータブルの音か」というのは自分自身ポータブルという世界を一段低く見ていたからではないかと考えてしまいました。いままで東京インターナショナルショウなんかに行って、やはりそこに並ぶハイエンドアンプとスピーカーを聴いてしまうと、手に持っていた自慢のカスタムIEMとDAPをこそっと隠したくなることがあったかもしれません。違いはスピーカーとヘッドフォンの違いではなく、大きさでもなく、音の豊かな表現力にあるのです。しかしレイラとAK380、もしかしてAK外部アンプを持っていく今年はどう感じるんでしょうか。自分でも楽しみです。
価格はまだわかりませんが、こうしたハイエンド製品があるからこそ、この世界の限界を広げられるのではないかと思います。当たり前ですがAK240がなければAK380はできなかったし、AK100がなければAK240もできなかったでしょう。そうして限界がここまで広がってきました。

ポータブルオーディオの可能性の先を見たいという人も多いのではないでしょうか。
AK380はAK240の成功があってこそのモデルであると思いますし、それはポータブルの地平を広げたいというAK240ユーザーの熱意があったからでしょう。
所詮ポータブルだから、と考えている人も多いのではないでしょうか。
いまオーディオの世界が退潮だとも言われています。しかしそれはちがうと思います。今は60年代や70年代ではありません。そもそも世界の再構築が必要なのではないでしょうか。DLNA互換のオープンネットワーク、超高精度クロック、最先端のDACチップ、もはやAK380に出来て普通のオーディオに出来ないことはなにもありません。
ポータブルだから、イヤフォンだから、といった垣根を排して新しい世代のオーディオの枠組みを作るということが必要とされていると思います。
その改革を引っ張っているのがAstell&Kernであり、その旗手がAK380だと思います。
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2015年05月11日

iriver ICP-AT500レビュー

ICP-AT500はiriverブランドのダイナミックタイプイヤフォンです。
製品情報は下記リンクをごらんください。
http://www.iriver.jp/products/product_110.php

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ICP-AT500 は、iriver と Final Audio Design のコラボレーションによるもので、軽量で丸みをおびたラウンドデザインのハウジングに 8 o径のダイナミックドライバーを採用しています。Final Audio Design がサ ウンドチューニングを施して、Final Audio Design 独自の”Balanced Air Movement(BAM)”テクノロジーを採用しています。これは共振の抑制とハウジング内の空気の流れを最適化し、深くスムーズな低音再生 と豊かな空間表現を実現するというものです。イヤフォンは内部のエアフローのチューニングが音のかなめになりますが、このBAMも優れた方式の一つですね。

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価格はオープンで、直販価格は7980円です。
ラウンドデザインのハウジングはスピーカーやマイクロホンのグ リルメッシュをイメージしているということです。カラーバリエーションは、パールブラック、アーバンシックシルバー、そしてピュアゴールドの 3 色があります。
販路別にカラーリングが決まっていて、パールブラックが一般販売、アーバンシックシルバーがフジヤさんと直販、ピュアゴールドがeイヤさんと直販になります。

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イヤピースは内側に若干固めの素材を、 外側にソフトな材料を使用することにより快適な装着感を実現しているということです。(S/M/L)の 3 サイズが付属されています。
ケーブルは独特の平たいもので、この独自開発のフラットケーブルタッチノイズを抑制し、ケーブルの絡まりも効果的に防止できます。

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使って見た感想ですが、11gと軽いイヤフォンで使用はなかなか快適だと思います。フラットケーブルはタッチノイズ低減と絡まり防止には効果的ですね。
音質的には価格にしてはかなりレベルが高いと思います。特に低価格帯のこもりがちな音ではなく、クリアで抜けが良くからっと晴れてシャープな音をこの価格帯で聴きたいという人には向いていると思います。またベースのタイトさが気持ち良く、歯切れよくリズムが刻める点も良い点です。
音調は明るく軽め、帯域バランスは良好ですが、少し中高域よりかもしれません。ベースが膨らむようなタイプではないですね。高域はきれいに楽器を鳴らし、上に伸びるほうです。曲によってはきつめなところもあるかもしれません。ダイナミックでもあるしエージングはきっちりやっておいたほうがよいでしょう。
遮音性が確保できれは低域では普通にベースの量感は確保されています。コンプライを試してみるのもよいかもしれません。

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この価格帯クラスはスマートフォン向けでステップアップのイヤフォンとしてよいと思います。スマートフォンと組み合わせる利点としては、音質をアプリでいろいろと変えられるところもあります。
今回はiPhone6で聴いてみました。LINNレコーズの音源を使用しましたが、こういう良録音ではDCT なんかがお勧めです。Radsone DCTの記事はこちらです。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/413289898.html
少し強調したいときはDCT Dynamic、ちょっとハイがきついけどシャープな感は残したいならDCT Warmなどのモードを選んで音を変えることができます。
ポップなどではAudiophileを使用してMAXX AudioのDSPを活用するともっと大きく音質を変えることができます。

まとめるとICP-AT500は低価格で音が良い点が特徴で、1万円以下でクリアで歯切れ良い音のイヤフォンを探している人にはお勧めだと思います。
posted by ささき at 23:32 | TrackBack(0) | __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする