Music TO GO!

2014年06月16日

パイオニアからDAC内蔵のバランスヘッドフォンアンプ、U-05登場

音響機器大手のパイオニアから本格的なDAC内蔵のバランスヘッドフォンアンプが登場します。
これはU-05という機種で、好評を博したN50の実績をもとにDACをメインとした製品です。またオーディオ製品としての作りを意識した点もポイントです。

image.jpg

* DAC部分の特徴

U-05はDAC部分で機能が豊富な点が特徴です。
まずU-05はESSのDACチップを採用しています。これはパイオニアがESSの知見が深いので、それを生かしたということです。具体的にはESSのES9016をデュアルで使用しています。また最近の2M版とは異なり、8chのオリジナル版を使用していて、8chをパラで使用してSNを高めています。このデュアルDAC、8chパラ出力によって精緻で整った音を再現します。
これは最近出てきている2チャンネルにスケールダウンしたモバイル版の低消費電力2Mタイプとは異なる据え置きならではの音質メリットを享受できる点となるでしょう。

最近では必要機能になりつつあるDSD対応も5.6MHzまでネイティブで対応します。またPCMも384kHzまで対応と、現在の音源のフルスペックまで再生することができます。
Macでは特徴的なDSDの伝送方法を採用していますが、これはまたあとで説明します。

image.jpg

デジタル入力の種類も豊富で、USB、光、同軸SPDIFに加えて、AES/EBUも入力可能です。プロ規格の AES/EBUも入力可能なことで、低価格製品ながら高い音質を、ハイエンドオーディオ機器システムのなかに組み込むことも可能でしょう。
出力でもバランス出力が用意され、バランスのホット番号切り替えも可能な本格派です。

また基本的なスペックの高さに加えて、U-05ではデジタルオーディオを知り尽くした老舗の技術力として多彩な機能を持っています。
まず特徴的なのは私も初めて見たんですが、ロックレンジ・アジャスト(Lock Range Adjust)という機能です。これはデジタル信号をロックする許容幅を調整して音質改善をするというものです。説明すると、デジタルオーディオがデジタル信号を入力する際にその周波数に合わせて同期整合(ロック)をしますが、その際に普通のオーディオ機器では多少の整合の許容度(機械的に言うとあそび)を持っています。そうでないとさまざまなデジタルソースに対応できずに、同じサンプルレートでもある機器ではロックせず、ある機器とはロックするということになりかねません。しかしながらこの「遊び」はいわばオーディオ的には「甘い」要素になります。そこでU-05ではその許容幅をユーザーがマニュアルで調整できる機能を持っています。とはいっても難しいものではありません。
パイオニアさんの試聴室でデモを聴かせてもらったときに試しましたが、リモコンの矢印を左右に振って行くだけです。そうするとあるところで音が途切れるのでその手前にあわせると最適なスイートスポットになるわけです。実際に音を振って行くと音がだんだん引き締まっていきシャープになるのが分かります。これはなかなか新鮮な体験で遊び感覚・チューニング感覚があって面白いと思います。

また地味なところですがデジタルフィルターに自社製のパラメーター設定を持ったモードを追加しています。これは一般的な"SLOW","SHARP"に加えて"SHORT"というフィルターの追加です。これはショートロールオフという意味ですが、プリエコーなどの自然音にはない不自然な付帯音の原因となるもの(いわゆるデジタルっぽい原因の一つ)が少なく、よく言われるMPフィルターのようなもののようです。聴き比べるとより自然に聞こえます。

またオーディオスケーラー(DSP)という機能ではビット拡張とアップサンプリングがDAC側で可能です。これはビット幅を32bitに拡張し、サンプリングレートを最大384kHzまで変換します(サンプリングレートについては調整が可能です)。簡単にいうとCDリッピングの音源をハイレゾ化できるというような機能です。
これを利かせないスルーのモードをDirectと呼びます。

* ヘッドフォンアンプ部分の特徴

またU-05の大きな特徴はヘッドフォンアンプが本格的なバランス駆動に対応しているということです。しかも4ピンタイプも3ピンx2のタイプも両方採用していますので、たいていのバランス対応ヘッドフォンは使用することができるでしょう。内部的にもDAC出力からヘッドフォン出力までフルバランスで設計されているということです。

またU-05でユニークなのは大出力のバランスヘッドフォンだけではなく、高感度のイヤフォンにも対応できるような設計がなされているということです。これは単にゲイン切り替えがあるだけではなく、ファインチューニングボリュームというサブボリュームがあるためです。これは微調整のためのボリュームで、高感度イヤフォンなどボリュームの調整がラフなものになりがちなときに、こまかな調整ができるので最適な音量で聴くことができます。

IMG_4302_filtered[1].jpg

基本的なところではヘッドフォンアンプ回路もディスクリートで組んでいて高級なオーディオグレードパーツの使用がなされています。

image.jpg

* 作りの良さ

U-05は外観としてもフルアルミのボディに大きなアナログトランスを配して電源強化するなど正攻法のオーディオ設計がなされています。そのため見た眼よりも結構重く感じられます。機能も充実していますが、基本的な部分でも質実剛健なところはこの作りを見ればわかるでしょう。

IMG_4289_filtered[1].jpg

* PC周りの設定について

U-05は入出力の豊富さも特徴ですが、今回はUSB DACとしてPCオーディオでの適性を見ました。
使用したのはWindows8.1(ミニタワー)とMacOS10.9(Mac mini)です。

Windows7/8ではPCM再生でもDSD再生でもドライバーが必要です。ドライバーはASIOを使用しているようです。ドライバーのインストールはexeをクリックするという簡単なものです。

MacにおいてはPCM再生でのドライバーのインストールは不要ですが、DSD再生はドライバーのインストールが必要です。
これはちょっと変わったところですが、なぜかというとU-05においてはDAC側ではDoPのようにPCMにエンコードされたDSDデータではなく、ASIO(ライク)なDSDそのままのデータストリームで受けるからです。これはKORGの方式に近いのですが、このままだとKORGのように専用のアプリケーションでないとデータの送信ができなくなります。それではAudirvanaを使ったりPure Musicを使ったりというソフトウエアを変える面白さがなくなります。そこでパイオニアでU-05においてドライバーの中でDoPをネイティブDSDストリームに変換するという仕組みを考案しました。
この方式だとAudirvana Plusなど音楽再生アプリケーションでは出力方式としてDoPを選択して送信をします。するとドライバーでDoPをネイティブDSDストリームに変換してUSBケーブルでDACに送るということになります。この方式だとPC側のパワーでDoP/DSDのデコード処理を行うのでDACに負担をかけないという利点があります。

Macのドライバーはdmgで入っていますので、それをダブルクリックするとデスクトップにインストーラーが出てきます。そのインストーラーをダブルクリックすればインストールは簡単に出来ます。特別な知識は不要です。
ただしカーネルエクステンションの開発元が不明というウォーニングが出てきますが、これは単に閉じればよいと思います(WindowsのWHQL開発元認証みたいなものでしょう)。ちなみにMacにおいてカーネルエクステンションとはカーネルを拡張するローダブルモジュールという意味でドライバーのことです。

インストール後にプレイリストでPCMとDSDを交互に再生しましたが、切り替えによる大きなポップノイズは生じません。
Audirvana Plusで384kHzまでアップサンプリングしましたが問題なく再生できます。44/16よりも濃密な
U-05ではDAC側でもアップサンプリングができますので、効果を比べてみるのも面白いでしょう。

* U-05の音質

まず試聴機がとどいて箱から出した印象は重いっていうことです。10万以下商品の重さではないですね。次に袋から出して思ったのは作りがしっかりしていて高級感がある。なお下記は試聴のための試作機の印象ですから製品版では異なることがあるのを含みおきください。

音はゼンハイザーHD800のシングルエンド(標準ケーブル)とベイヤーT1改造のバランスヘッドフォンで試してみました。
まず全体に端正で整った音再現が印象的です。帯域的には少しベースに重みを持ったバランスの良い音再現で、リアルな楽器音の再現が感じられます。色付けはあまりなく、かつ無機的なところにも陥っていない聴きやすい音です。細かいところでは音はESSの音らしく細かさと際立ったSN感が音の豊かさを作るタイプだと思います。その繊細さはアコースティック楽器を使用した音楽でもよくわかりますが、女性ヴォーカルのSHANTIではその細かさが声の表情や艶っぽさに繋がっていると感じられます。
そしてヘッドフォンアンプとしてU-05の音の特徴的なのはとても歯切れよくスピード感、パワー感のあるところです。特に上品でリファレンス色の濃いHD800やT1をぐいぐいとハイスピードで力強くドライブしてゆく気持ちよさはこのU-05ならではの強みになっていると思います。

IMG_4318_filtered[1].jpg

バランスT1をまずシングルエンドアダプタで聞きます。この組み合わせではパワフルで音の切れ・テンポの良さが気持ちよく、ジャズトリオではスピード感のある展開もさることながらウッドベースの弦の響きの細やかさも音楽に厚みを持たせてくれます。T1をシングルエンドからバランスに変えるとあきらかに音質レベルが一クラスあがります。より空間的な広がりが増すとともに音がより整理されてステージの見通しが良くなり楽器の位置関係も明瞭になります(ケーブルは同じです)。音の鮮明度もさらに向上してT1の能力を100%を超えて引き出しているかのようです。シングルエンドでも魅力的ですが、やはりバランスで活きるアンプだと思いますね。

IMG_4296_filtered[1].jpg

HD800で聞くと、とてもシャープでタイト、洗練された音であると同時に躍動感があるのが良い点です。ベースにがっちりと重みが乗ってスピード感、リズムのテンポ運びもかっこよいですね。ロックファンにも人気のある上原ひろみジャズトリオのAliveハイレゾはカッコよくスピード感あふれて再生されます。
ハイレゾでない音源の場合にはDirectを切ってオーディオスケーラーDSP(bit拡張とアップサンプリング)を利かせると手軽により密度感のある濃い音を楽しませてくれます。

精細感が厚みを作り、切れ味の鮮明さとスピードのある点が特徴のU-05ですが、同時に音の荒さが少なく、音のエッジは切り立ってシャープだけれどもきつさや痛みの不快感がないという点で、さすが老舗と思える設計の熟練が感じられました。
また、U-05の音の良さの秘密のひとつは電源の強力さに隠されていると思います。実際に内部ではかなり大きなトランスがどんと鎮座しています。高性能オーディオ機器の正道ですね。

U-05で自宅試聴していて興味深い発見をしました。うちでは電源フィルタリングをかませてプリ用とパワー用の口がありますが、その違いが明確に出るという点です。プリ用の電源ポートはフィルタリングが強いので、より音はなめらかで粗さは少ないが鮮度感が低め、パワー用は鮮度感が高めで勢い重視と別れています。驚くことにU-05ではその違いがかなりよくわかります。ヘッドフォンアンプは普通プリアンプとして設計されるものなんですが、このアンプはプリの素質もパワーの要素もあると感じられます。むしろベースの力強さやスピードなど鮮度感を活かした方がこのアンプの性格をいかしてるようですね。

HD800との相性ではいままでのヘッドフォンアンプの中でもトップクラスではないかと思います。HD800というと音を分析的に聴くのに適していて、私もこういうテストではHD800をリファレンスとして使うことが多いのですが、U-05はHD800を音楽的にも楽しくノリ良く聞かせてくれるヘッドフォンアンプだと思います。

U-05は特徴も多いんですが、その最後のポイントの最後は価格だと思います。音のレベルはもっと高価なクラスで期待されていた音のレベルですね。いままでなら15万から20万超えていてもおかしくないレベルですが、実売はおそらく10万を切るくらいのところだと思います。これはかなりコストパフォーマンスは高いと思いますね。

* 試聴会の開催

本稿ではヘッドフォンアンプとして主に使用した感想を書いてきましたが、DACとしての性能が高いところも本機の特徴です。この点においてはスピーカーを使ってお聞かせする発表会・試聴会を開催することが決定しました。
来週の6/22に中野サンプラザで試聴会・発表会を開催します。私が講演で解説を務めますので、よろしくお願いします。

6月22日(日)中野サンプラザ 15F リーフルーム

11:30 開場
11:30〜12:00 自由試聴
12:00〜12:30 講演 1回目
12:30〜13:30 自由試聴
13:30〜14:00 講演 2回目
14:00〜15:00 自由試聴
15:00 終了

試聴会ではヘッドフォン機材とスピーカー機材を両方用意して、講演ではスピーカー機材で主要機能のデモをする予定です。
参加は一般でも自由ですのでふるってご来場をお願いします。
posted by ささき at 13:01 | TrackBack(0) | ○ PCオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする