Music TO GO!

2014年06月27日

Astell&Kernの第二世代機、AK100IIレビュー

Astell&Kernの第二世代機リリースの最後を飾るのは名器の名を冠する第二世代機、AK100IIです。
名称はいままであったAK100MK2は第一世代で改良型という意味、AK100IIは第二世代のAK100シリーズという意味です。
7月11日に発売され、価格は直販で109800円、フジヤさんなど店舗では10万をちょっと切るでしょう。
*発売日は7月下旬に延期されました。

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本稿では主にAK120IIとの違いについて述べていきます。
AK100IIはAK120IIと比べるとやや小さく、少し軽くなっています。また内蔵メモリが64GBと第二世代機ではもっとも容量が小さくなっています。しかし64GBで最低とは最近の高密度化・大容量化には驚きます。たしかにハイレゾとかDSDを入れると容量はほしくなりますけれども。
5.6MHzのDSD音源もPCM変換で再生が可能です。

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大きさのほかには本体カラーも異なります。AK120IIはシルバーですが、AK100IIのカラーは薄いブルーです。これは肉眼で見るとなかなか良いんですが、写真泣かせで、この青色を画像で再現するのは少し苦労しました。

またDACチップがAK240/AK120IIのCS4398デュアル搭載とは異なり、AK100IIではCS4398一基だけとなっています。そのほかの回路もスペック的にみてAK120IIはAK240と同等だったのに対して、AK100IIではSNや歪み率、などいくつかスペックが低くなっています。
たとえばAK120IIはAK240と同じでアンバランス2.1vmsでバランスは2.3vmsでバランスが上ですが、AK100IIはアンバランスで2.0vms、バランスで1.7vmsとアンバランスの方が高い仕様となっています。AK100IIはアンバランスメインでバランスはとりあえずお試し的と考えてもよいかもしれません。ただぱっと聴きではそこまで大きさでもないとは思います。ちなみにAK100MK2では出力は1.5vmsです。
出力インピーダンスはAK120IIと同じです。



パッケージは従来のAstell&Kernシリーズに準じたもので、専用ケースも付属しています。

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AK100IIの付属のケースはイタリアンポリウレタン(PU)レザーという人造皮革に代わっています。スマートフォンケースなどによく使われる素材です。

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リアルレザーに比較すると高級感は及ばないかもしれませんが、質感はなかなか悪くありません。普段使いにちょうどよい感じですね。

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本体の質感はAK120II譲りでなかなか高級感があります。特にボリューム周りがメカ要素を感じます。

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100IIも120IIも操作性・機能は同じです。操作感ではAK120IIに比べて遅くなったということはないと思います。AK240とも遜色ありません。のちに書くように素のAndroidのZX1などと比べると操作感はかなりスムースです。また液晶の表示品質もきれいだと思います。

* 音の印象

まずAK100IIの音を聴いて感じるのはAstell&Kern第二世代機としてのAK120IIとの音の統一感です。なかでもAK100IIの音の個性はAK240よりもAK120IIに近いと思います。
透明感が高く、良く洗練されて整った音はAK100MK2からのレベル差を感じさせます。
前に書いたようにAK240とAK120IIは音の個性の違いがあるけれども音質のレベルとしては同じくらいにあると思います。ただAK100IIは音の個性ではAK120IIに近いけれども、音質のレベルではやはりAK120IIとは差があるという感じです。
AK120IIと比べると透明感やシャープさはやはり一歩譲ります。ただDAP全体での絶対的な位置ではかなり良いレベルにあります。

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この辺をもう少し詳細に他の機種と比較しながら書いていきます。

イヤフォンはW60を主に使いました。最近W60の試聴も同時にやってたので耳が慣れて機種比較しやすいこともありますが、このW60とAK100IIの組み合わせは良いと思いますね。W60は音の個性ではAK120IIよりはAK100IIに向いているでしょう。これはAK100IIがAK120IIほどは透明感やシャープさを追求しているわけではなく、聴きやすい柔らかさをほどよく持っているからだと思います。
他にも画像にあるように様々なヘッドフォン・イヤフォンも使ってみました。ロクサーヌなんかもAK100IIの整った音をよく引き出すと思います。

- AK100MK2 vs AK100II
AK100MK2と比べるとAK100IIはより引き締まって透明感が高く、より細かな音が再現できます。AK100IIに比較するとAK100MK2はやや甘く音も太って曇りがある印象があります。録音のよいジャズなんかを聴くとよくわかりますが、楽器の音がAK100IIではよりピュアに濁りなく聞こえます。全体にAK100IIではより洗練されて整っているという感じです。帯域バランスもよりよくなっています。
ただAK100MK2とAK100IIでは音調はやや異なり、別のDAPを比べているという感じが高いというのもまた事実です。

- AK120II vs AK100II
AK100IIとAK120IIを比べるとAK120IIではAK100IIよりもさらに透明感が高くなりクリアで見通しもさらによくなります。SN比も向上して楽器の音の鮮明さ・明瞭感はより高くなります。またAK120IIでは楽器音の芯がより強くなって、より引き締まってリアルな音再現です。
AK120IIとAK240では音質レベル的には同じくらいで個性が違うと書きましたが、AK100IIとAK120IIではやはりAK120IIの音質レベルが一枚上手で音の個性は似ています。ただAK100IIもAK100MK2よりは音質レベルはかなり高く、AK120IIに近いくらいではあると思います。
iriverに聞いて見ると、AK240はクラシックにチューンして、AK100II/120IIはジャズポップにチューンしたということです。

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ただしさきにW60のところで書いたようにAK100IIとAK120IIでもやはり音の個性差はあると思います。
AK100IIは誇張感が少なく、ニュートラルで素直な音だけれども、AK120IIよりは音楽リスニング向けだと思います。AK120IIはやはりもっと色つけ少なくいわゆるモニタライクな感じですね。AK100IIは音楽的な聞きやすさと良い意味での甘さを感じます。そのためもあってかWestone W60はAK100IIにより向いているように思えます。

- Sony ZX1 vs AK100II
SONY ZX1とAK100IIでHELGE LIEN TRIOの192kHzハイレゾなど音質の良い曲で聴き比べると、ZX1はそれだけ聞いていると悪くないように思えるんですが、やはりAK100IIと比べると格下という感じはしてしまいます。
ZX1では音の先鋭さが低く切れが鈍って聴こえますね。全体的な音の洗練さでもAK100IIの方が高いレベルにあります。AK100IIの音はAK120IIに比べれば劣るとはいってもかなり整っています。(AK100IIはまだ完全にエージングしていないのに、です)
またAK100IIあたりと比べるとZX1ではデジタルアンプ臭さがやはり耳についてしまう難点はあります。それが硬さとか軽さにつながってしまいます。
ただZX1はCDリッピングの曲でDSEEを利かせると差を詰めることはできます。この辺は良いポイントとは言えるでしょう。
それといろいろと曲を変えて比べて操作していくとAK100IIと比べたZX1は操作性がやはりよくないですね。AK100IIはわりとなめらかに画面遷移しますが、ZX1はいかにもAndroidっぽいリミテッドアニメ的なカクカクした動きです。

AK100IIのようなよく練られたハイレゾDAPと比べるとやはりZX1はWalkmanの改良機というレベルであると思うところではあります。前にも書いたように私はSONYではRX1もZX1も持っておりますが、RX1はいまでもどんなカメラに比べても最高だと思うけれども、ZX1は最高のDAPではありません。Astell&Kernの第二世代機が出たことでよけいにそう思います。それはサイバーショットとはいっても完全新規のRX1と違って、ZX1は所詮はウォークマンの改良機ということだからだと思います。SONY ZX1は国産唯一のハイレゾDAPなんですから後継機がもしあるならば奮起してほしいと思います。

* まとめ

AK120IIについての音質レベルの高さは予想通りだったけれども、予想と異なっていたのはAK100IIの音質レベルの高さだと思います。従来のAK100/AK100MK2よりも大幅な音質の向上で上位モデルにより近いと思います。
実のところこれもAK200として聞いていたモデルであり、れっきとした第二世代の性能を備えています。

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AK120IIと比べるとたしかに少し音質レベルは劣りますが、全体的なDAPの中ではかなり高いところにいると思います。やはり設計自体がかなり洗練されているからという気がしますね。
また、AK120IIと音の個性は似ていますが、やや異なってもいて、音楽リスニング用途により適している気がします。イヤフォンの組み合わせによってはAK100IIのほうが好ましい場合もあるでしょう。
オーディオ機器としての性能はやはりAK120IIのほうが上ですが、AK120IIは音楽リスニングでもよいけれども、やはりスタジオモニタ的なところはあるかなとは思います。

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AK100IIは実売で10万を切るDAPとしてはかなり良い出来と言えるでしょう。
ぜひ店頭でいつも使いのイヤフォンを持って試してみてください。
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2014年06月26日

Music To Goブログ、本日で10周年を迎えました!

いつもこのブログを購読ありがとうございます。
本日このブログは10周年を迎えました。はじまりは2004年6月26日の「ブログ作成しました」の記事でした。

このブログを始める前は写真のホームページと掲示板を運用していて、その掲示板で独り言的にオーディオネタを書いてました。
2004年になるとブログというものが流行り始めました。そのブログとはどういうものかわからないけど自分でやってみればわかる、ということで、当時買ったSONYのVaio Pocketというデジタルオーディオプレーヤーと、やはり流行り始めていたカナルタイプのイヤフォンを組み合わせて、買っているCDのレビューでも書こうか、と始めたのがこのブログです。そのためURLはいまでもvaiopocketとなっています。
名前の由来ですが、アメリカのマクドナルドなどでハンバーガーを買うと「店内ですか、持ち帰りですか」は"For here or To go"と聞かれます。この場合のTo goは持って外に出るというような意味です。Music To Goというのは「音楽を持って外に出よう!」というような意味でつけました。

その頃のポータブルオーディオと言うと、Etimotic ResearchのER4SやShureのE2cが音の良いイヤフォンとして人気を集めていた時期です。ER4Sなどは「4万円という信じられないような高価格」の神のイヤフォンでした。いま思うと、こうしたプロ用のイヤモニを応用して、一般に知られていたコンシューマー用のイヤフォンとは音質的にも一線を画するという流れが始まった頃ですね。多少高くても良い音を選ぶと言う差別化が始まった頃だったかもしれません。B&OのA8なんかも話題になりました。

当時の記事を読み返すと、このころはコピー禁止CDの終焉でもあり、SONYも著作権保護機能のないMP3をサポートしたりと、リッピングとか携帯プレーヤーがやっと市民権を得たあたりです。アメリカではダウンロード販売が好調になってきたり、さまざまな端境期にあたっていたわけで、その空気を感じていたのかもしれません。

はじめの話題はATRACとか圧縮音源の楽しみ方みたいな普通の携帯プレーヤー関係の話題で始まりました。いまみたいに濃い話題ではありませんが、ちょっと進歩したのは次のようなきっかけです。
あるとき電気店でiPodのアクセサリーをみていたとき、携帯サイズの小さいiPodドックでラインアウト端子がついている物を見つけました。これはもともとはアクティブスピーカーなどにつなぐためだったのでしょう。一方でそのころ、Dr. Headという小型のヘッドホンアンプにも興味を持っていたんですが、DrHeadが電池でも動作するので、これらを組み合わせれば持ち運べるオーディオのシステムができるのではないかとピンとくるものがありました。
そのころは家のスピーカーオーディオもLINNのプリメインとDynaudioの25周年モデルを組み合わせたりと、すこし凝り始めていた時期でもあったので、こうしたオーディオの考え方をポータブルにも適用できるのではないか、と思ったわけです。例えばiPodなど携帯プレーヤーはCDプレーヤーに例えられるはずですし、ラインアウトで出せるならイヤフォン端子と違って信号の純度も高められます。
実際にこうした考えで組み合わせたシステムをEtimoticなど高性能イヤホンと組み合わせると、ポータブルとは思えない良い音です。iPod miniからラインアウトを取り出してDr Headにつなげ、Etimotic ER4で聴いた音は忘れられません。ものすごくよかったですね。
そこでこの考えに自信を持ったので、さらに次のレベルに進もうとしました。しかし、すぐ壁に当たります。オーディオに適するようなより良いポータブルアンプ、より良いドックとケーブルなどが店には見当たらないからです。そんな時期でした。

そこからですが、おそらく私が電子工作する人ならば自作の道を進んだと思いますが、いまでも家に半田ごてすらありませんので、売ってるものでDr Headを超えるアンプを探さねばなりません。当時はエアリーあたりでPorta Cordaも売ってましたが、こういう世界があるならほかにも見つかるんじゃないかと思ってました。
そこで目を付けたのが海外です。私の場合は仕事でアメリカにしばらく住んでいたことがありましたので、こうした海外交渉なら得意だったわけです。

その頃いろいろとネットを探しているとアメリカにはHead-Fiなるところがあって、そこでこういう情報がぎっしり詰まっているらしいと気が付きました。そこで探してみるとたしかにすごいのがあるじゃないですか。デュアルモノでかっこいい金属シャーシに入ったエスアールナナジューイチというやつです。これは名前から飛行機ファンの私にもよいに違いないと、海外通販しました。ほかにもわずか数センチのサイズなのにシールドされたオーディオみたいなごついケーブルなど、まさにHead-Fiには魅惑の世界が広がっていました。
それでSR71が到着して聴いてみると、まずその音質のすごさというほかに、オーディオ的な温かみのあるサウンドの主張がしっかり感じられるので、ポータブルでもオーディオ趣味ができるという確信を持ちました。

HD25もリケーブルとかいうケーブル交換をすると音質はものすごく向上しました。ミニミニケーブルも太い本格オーディオケーブルのミニチュアみたいなのがMoon audioあたりで売っていて、それもやはり音質を高めてくれます。こうしてだんだんとHeadFi世界を中心としたオーディオ世界にはまっていったというわけです。それが2005年の中頃くらいにかけてです。
自作派なら自分で作ってそれで世界が閉じてしまったのかもしれませんが、わたしの場合はそうではなかったのでかえって多くの人の参考にできたかのかもしれません。

そうして深みにはまっていき、ブログ開始をして一年くらいで2005年の夏には当時の研究の総決算として下記のGRADO HP-1000(HP-2)の記事を書いたりしました。写真には当時使っていたオーディオアナログ社のCDプレーヤーも写ってますね。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/5528936.html
上の記事を見てもらうとわかりますが、もういまと書いていることはいっしょです。というか、そのころからはいまにいたるまでほとんど変わってません。10年間もおんなじようなことを書き続けています。

一方でソニーやティアック、ビクターなどがポータブルヘッドフォンアンプを作るなんて、当時だれが考えたでしょうか?想像すらできませんでした。この10年間で私とこのブログはまったく変わってないんですが、私の周りは激変しました。

この世界のブログやホームページは私が始めたわけではなく、私が始めた時にはすでにいくつものそうしたサイトがありましたが、今ではすでにほとんど残っていないのは残念なことでもあります。
たしかにいろいろな意味でブログ運営の難しさというのもあります。わたしが続けてこれたのは無理せず自分のライフスタイルに合わせてやってきたからだと思います。通勤で電車に乗ってる時間が多いからポータブルで良い音を聴きたい、家の帰りが遅くなるからヘッドフォンで音楽を思いっきり楽しみたい、コンピューター仕事が多いのでその時間を快適に過ごしたいからPCで音楽を聴きたい、などみな自然な欲求です。

いまでも月に10-15記事はコンスタントに書いてますので3日に一回は更新している計算になります。実のことろ書く時間がなくて書けないこともあるくらいで書きたいことはまだまだたくさんあります。
たとえば最近ではロスレスストリーミングとソフトの周辺についての記事に着手したんですが、日本では聴けませんしそれで書いている時間がないので今は没にしています(そのうち復活するかもしれませんが)。

おそらく書くことで大事なのは興味を持ったところに納得するまで深く突っ込むということでしょう。
ブログはみなに伝える場でもありますが、自分の考えをまとめる場でもあります。自分が理解していないことを書いても読んだ人は分かりません。もし読んだ人が理解してくれれば、わたしもそれを理解したということでしょう。
そういう意味でMusic To Goはわたしにとって自分の理解を試す場である、とも言えるかもしれません。
また、リケーブルとかインテジャーモードとかブログに書いた言葉が一般にも通用するようになるので、最近では日本では初出かなと思うものを書くときはちょっと気に留めています。

そして、この10年を思い返してみるといろいろなことがありました。このブログが本になりましたし、雑誌にも記事を書くようになりました。いろいろなところで講演などもするようになり、海外に取材にもいきました。
続けることは苦労ということもありますが、たくさんの出会い、知り合い、機会ももらってそれが先に進む原動力になっていたと思います。Music To Goの10年と言うのは苦労というより得たもので数えるべき10年だったと思います。
みなさまには改めて感謝をしたいと思います。また今後ともよろしくお願いします。

"Count your garden by the flowers,
-Never by the leaves that fall,
Count your nights by stars,
-not shadows.
Count your years with smiles,
-not tears."


- Laura Mae Utley Gibson
posted by ささき at 13:35 | TrackBack(0) | ○ 日記・雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月25日

Westoneの新しいフラッグシップモデル、W60レビュー

インイヤーモニターではUEやShureと並ぶ老舗であるWestoneがそのフラッグシップであるW60をCES2014で発表しました。そして2014年CESのヘッドフォン部門で『BEST of CES 2014』アワードを受賞しています。
日本ではテックウインドから発売され、予約は6月13日から開始されています。発売日は6月28日、想定価格は約119000円です。

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特徴はWシリーズのコンパクトな筐体に片側6つのドライバーを搭載したことです。今回試聴してW60は単に6つのドライバーを採用したという話題性だけではない高い実力を持つことがわかりました。
本稿では実際にしばらくW60を使ってみたレビューを書いていきます。

* Westoneについて

まずはじめにWestoneの背景を簡単に解説します。
ウエストンは1959に創業しました。はじめは補聴器の分野で使用するようなカスタムイヤーピースを製作していましたが、80年代後半あたりからインイヤーモニタの製作をはじめました。WシリーズはWestoneシリーズを継ぐWestoneのユニバーサル(カスタムではなく普通のタイプ)イヤフォンです。
以前Westoneのインタビューをした際にはWestoneの強みはまず人の耳に対する我々の長い経験だと言っていました。Westoneは50年にわたって1500万以上のイヤピースを製作してきています。そのためライバルたちよりも人の耳に対して多くのことを知っているという点、どのようにフットし、どのように快適に装着ができ、ステムの角度などさまざまな要素があり、その知見の深さをまず強みとして挙げていました。それは抜群に耳の装着感が良いWシリーズに表れています。シンプルでいて効果的です。
次の特徴はと聞くと、Westoneならではの暖かみがあって滑らかで聴き疲れのないバランスのとれたアナログ的な音であると答えていました。これもWestone4から、W60にわたって引き継がれていると思います。
これらのことについてはまた後で触れることになります。

* 開封した印象

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まず開封して気が付くのはイヤチップの種類が豊富であるということです。また大きさが色別に分類されているのもわかりやすいところです。イヤフォンは装着してうまく耳に合うというのが良い音質を得る条件ですので、これだけの種類があれば耳にぴったりと合うものがあるでしょう。またさきに書いたように耳にフィットするというのがWestoneの強みでもあります。
チップの出来も良く、標準サイズでも低音が漏れてる感が少ないですね。

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またWシリーズの特徴でもありますが、着脱式のカバーもユニークな点です。これはレッド/ガンメタルシルバー/シャンパンゴールドの3色が用意されていて、付属の小さなドライバーで取り外しが簡単に行えます。決められたカラーバリエーションではなく自分で気分に応じて選ぶというのも面白いことだし、右側だけをレッドにして判別しやすくするということもできます。
さきほどのイヤチップともあわせて、カラフルというのが箱を開けた時の印象です。

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ケースはペリカンケース風のオリジナルケースが付属してきます。

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W60の本体を手にしてまず驚くことはそのコンパクトさで、なかに6ドライバーものユニットが入っているとは思えないサイズです。装着はそのためこのクラスにしては考えられないくらい快適で、装着したまま寝ても気にならないと思います。

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後で書きますが、このレベルの高い音質を実現しているユニバーサルタイプはたいていはカスタムIEMをベースにしたもので、あまりコンパクトとは言えません。しかしW60はイヤモニというよりも普通にイヤフォンと呼べる気軽さでこの音質を実現しているのだから感心します。ユニバーサルの手軽さ、気軽さと高性能を併せ持つ。良い意味でイヤフォンと呼べます。

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ケーブルは2本入っています。リモコン付とリモコンなしでツイスト線を使っているものです。上はリモコン付のケーブルです。ケーブルも柔らかくて使いやすく、音の品質も良いと思います。標準の状態でも満足できるのがW60のよいところだと思いますが、W60はMMCXケーブルでリケーブルすることが可能です。
ただ装着部分が傾いていて細身なのでプラグが太いものを使うときには事前に確認したほうが良いと思います。

* 音の印象

箱を開けてとりあえず聞こうとAK240につなぐと「おっ」と思わず言ってしまいました。そのくらいはじめからとても良い音です。小さいのに迫力を感じたので、おっと言ってしまったのかもしれません。まず音の広がりのよさが印象的で、音が広大です。カスタムを入れてもトップレベルかもしれません。ベースも豊かなので迫力があります。特にW60+AK240で聴くクラシックは圧倒的な迫力のある音再現がよく伝わってきます。
おそらくこんなに小さなイヤフォンがこんなにスケールの大きな音が出てくるのは実際に聴いてみないと信じられないでしょう。楽器の立体感もなかなかすぐれていて、おそらく位相もよく揃ってないとこんなにフォーカスがピッタリあって空間表現の雄大な音はできないと思います。
シンプルなシングル孔のステムで音が曇ったり濁ってないのも驚きです。ステムの太さが装着を犠牲にしないで細いのに音質も確保されてるのは、その仕組みについて興味を覚えてしまうほどです。実際これは後でWestoneのサウンドエンジニアに質問をしてみました、その回答は後述します。

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中高音域はシャープで鮮明でありながら、きつさがないのも良いところです。クリアで楽器音の分離も良いですね。解像力・情報量もかなりのもので、しゃがれたようなヴォーカルとかハスキーなヴォーカルの肉質感の豊かさに感心します。また効果音として入っている木の椅子がきしむ音などはとてもリアルで電車で聞いていて思わず振り向いてしまったほどです。

低音域は少し強調感があります。ロックでもエレクトロでもどんどん低音が出てくるのは良いところですが、パーカッションやドラムスでキレが欲しいところではやや緩めです。ここは賛否あるかもしれません。打撃音で柔らかさが出てしまうのが問題といえばそうですが、好みの問題でもあるからです。
低音域の下のほうも十分低い領域まで出てると思います。オーディオテスト用のパイプオルガンのローカットあるなしの音源で聴いても違いがはっきりわかるので、十分な低いレスポンスは出てるはずです。
全体的な帯域バランスは上手によく取れていると思います。

W60の音の全体的な印象はWestoneらしく柔らかみと温かみがフレーバー的に足されて音楽的です。実のところこれが一番気に入った点です。音が滑らかで聴きやすく美しいですね。
わかりやすく言うと、音の性格はWestone4の延長でいながら、ずっと高いレベルの音とも言えるかもしれません。楽器の音も分離感もくっきりとして鮮明で、音色もきれいです。ウエストンらしいよさで音楽をもっと聴いていたくなるような魅力があります。
帯域バランスも良く、AK240のような音楽的DAPに向いています。AK240のスケール感をよく引き出すイヤフォンでもあります。最高のDAPであるAK240にまったく負けていませんね。また別に書きますがAK100IIともよい相性です。

交換ケーブルも用意してたんですが、標準ケーブルと標準チップでずっと聴いてしまいました。標準で完成度が高いのもよいところです。リケーブルするなら快適性をそこなわないEstronなんかが良いですね。MMCX Musicが良かったと思います。

* W60と他機種の比較

片側6基ドライバーの機種では先にEarSonicのS-EM6がありますが、S-EM6は音が混ざって濁る感じで、あまり整理されてません。それに比べるとすっきりクリアなWestoneの設計の巧みさはさすが老舗です。
特にこんなシンプルなほそい一穴ステム、コンパクトなサイズでこれだけの性能が出るのは驚きでさえあります。

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価格の近いユニバーサルのK3003とAK240で比べると端的に言うとW60の方が上だと思います。
まず音場の広さはかなり差がついてW60の方が良く、空間的・立体的な広がりが感じられます。
帯域的な音のバランスの良さでもW60の方が整っています。中高音域はW60は群を抜いていてヴァイオリンのソロなんかを聞くと、高音域に優れると思っていたK3003が薄く軽く思えるくらいですね。W60はK3003に対して伸びがあるだけではなく、高音域の美しい煌めき、音の立体感、充実度合いがずいぶんW60が優れています。
おそらく高音域の厚み豊かさってあまり言われないことではありますが、W60はそれを教えてくれます。ヴォーカルを聴くとW60がK3003に比べていかに豊かで厚みがあるかがよくわかります。K3003は軽薄な印象を受けます。まあ前はK3003は良いと思ってたんですが、上のものが出るとこうなりますね。

ベースはさすがにダイナミックのK3003の方がパンチがあり量感豊かです。ダイナミック対BAだからというよりWestone4もSE535に比べるとそうでしたが少しベースが緩めです。DTECドライバーのくせかWestoneのチューニングかはわかりませんが、W60も少しベースの柔らかさを感じます。ただ量感は意外なほどあって、ぱっと聴くとベースはむしろW60の方が多めと感じるかもしれません。それでもK3003はベースヘビーでW60は全体的にバランスが取れてるように聞こえるので、いかに中高域ではW60が低域に負けないほど充実してるかがわかります。
解像力も驚くことにはW60の方が上ですね。情報量とか音数の豊かさというべきでしょうか、録音の良いアコースティック楽器の音源ではW60の良さを感じるでしょう。さらにW60ではK3003に加えて音数の豊富さが音の厚みに繋がってるように思えます。
ただハウジングの豪華さではやはりK3003が良いところです。W60は見た目よりも音の中身と快適性を重視する人のためのイヤフォンと言えます。

おそらく直接のライバルはShure SE846だけれども、SE846は持ってないので比較できません。
おそらく推測するにWestone4とSE535の比較に近いと思います。ただし進化の方向性はSE846ではユーザーチューニングやローパスフィルターなどの方向に行ったのに対して、Westone W60ではドライバー数を増やして行くという方向性が面白いですね。SE846でもドライバーは増えてますが。

同じWestoneのW50も聴いてませんが、Wファミリー上位機種の住み分けはあると思います。
W60のドライバー構成はおそらくWestone4から推測すると、TWFKx2とDTECみたいな感じでしょうか。おそらくW50は低域一個というのはロードライバーが大きいCIのようなユニットなんでしょう。そうするとW60とW50は単に松竹梅というよりもぶわっとした低域の量感重視の人ならW50で、バランスの取れた音ならW60という切り分けなんでしょう。

* W60の高音質の秘密とは

今回W60がシンプルでコンパクトなデザインなのにもかかわらず、6ドライバー搭載と高音質が可能になった背景に興味を持ったので、テックウインドさん経由でWestoneのサウンドデザイナー、カール・カートライト氏(Westoneサウンドの"ゴッドファーザー"だそうです)にいろいろと質問してみました。

まず普通ひとつ穴のステムでは音が濁り、穴3つが良いとされていますが、W60ではシンプルな一穴のステムで高音質を確保する秘密はと聞いてみたところ、下記のような回答をもらいました。

カートライト:「穴3つはイヤーピースのアウトプットをイヤーカナルに伝える一つのオプションではありますが、物理的なサイズという部分で欠点があります(穴3つはより大きなステムが必要になるため)。
また太いステムにすると、イヤチップのクッション効果が犠牲になり快適性を損なってしまいます。
私は何百何千ものカスタムイヤーピース作成において人々の耳道を見てきましたが、結果として細い口径のステムの方がより良いと信じるようになりました。
このような小口径のステムで高音質を実現するためにはイヤピース内のドライバー相互の物理的位置関係や役割に基づいたクロスオーバーの位相設計、そして直径と長さについて細心の考慮が必要です。」


またステムの中をみると金属チューブが見えますが、これは音響ダンパーだそうで、イヤーピース設計の最終的な共振ピークを「ならす」働きをしているそうです。この辺はきつさの無い高音域に貢献しているのだと思います。

次にこのようなコンパクトサイズに片側6個ものドライバーを内蔵し、さらに位相を揃えるための工夫はどうしたか、と聞いてみました。

カートライト:「根気強さ、実験検証、インスピレーション、多くのプロトタイプ、そして私たちはどのように改善(進歩)したいのかという明確な絵を描くことです。」

Westoneの長い経験、ノウハウに基づいた回答ですね。これはS-EM6と比べるとよくわかります。
実のところドライバー的なスペックではS-EM6の方が上かもしれないんですが、トータルの音性能ではW60はずっと上手です。最終的にはドライバー云々というよりも経験とノウハウに基づいた設計が大事ということなのでしょう。

* まとめ

W60は音のレベル的にはイヤフォン・イヤモニのなかでもトップクラスと言ってよいと思います。
AK240の性能もかなり上手に引き出しますし、RWAK120-B+Portaphile micro Muses01のホームアンプなみの音質でも十分に受け止められる性能レベルがあります。
実際にこのくらいのレベルのアンプでもW60のアラがわかりませんし、このクラスのアンプでないと出ないような強い打撃音でもそのまま再生できる伸び代があります。

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W60は音質の良さを考えるとステムを太くしたり、ハウジングを大きくしたり、やたら太いケーブルを使ったりとマニアックな方向に行っていないというのが面白い点であり、それで高音質を実現した驚きがあります。

高音質だけではなく、快適性も両立させたW60の良さは使ってみて分かると思います。
ぜひこの素晴らしいコンパクトモンスターを試してみてください。
posted by ささき at 22:26 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月18日

ハイレゾとは:アメリカでもハイレゾの規格化が制定される

ハイレゾという言葉が広く一般にも浸透してくるとそもそもハイレゾとはなにかという「定義」が必要となってきます。
日本でも日本オーディオ協会と電子情報技術産業協会(JEITA)がハイレゾの定義を規定しましたが、以下の海外報道のようにアメリカでも同様な動きがあります。
http://www.twice.com/news/trade-groups/music-ce-industries-bring-clarity-definition-high-res-audio/45638


アメリカのオーディオ・コンシューマーエレクトロニクス団体であるDigital Entertainment Group (DEG)が Consumer Electronics Association (CEA) とRecording Academyとハイレゾの定義について合意したとあります。
これにはSony Music EntertainmentやUniversal Music GroupそしてWarner Music Groupなどのレーベルも参加しています。

ここではハイレゾを"CD品質以上のソースからマスタリングした音源の全帯域(full range of sound)を再現可能なロスレスオーディオ"と定めています。
また4つのマスタークオリティレコーディング(MQ)のカテゴリーを定義しています。

MQ-P: 48k/20bitより高いレートのPCMマスターを音源とするもの。96/24や192/24など。

MQ-A: アナログテープなどアナログ音源をマスターとするもの。

MQ-C: 44/16のCD品質をマスターとするもの。

MQ-D: DSDをマスターとするもの。

DEGではこれによって業界一丸となってこの分野に取り組めるとあります。
レーベルも制定に関与して、ハイレゾデータと言ってもマスターはそもそもなんなのか、という点を明確にしているのはよいかなと思います。
ADDとかDDDみたいな表示のハイレゾ版でしょうか。

日本オーディオ協会では再生機器についても定義してる点が良いところですが、例えばスピーカーなどでは単に40kHz以上、ではなく40kHzで-6dBなどの明確な規定がないと有名無実になりかねないのではないかとも思います。

個人的にはresolutionという言葉はもともと海外のスタジオ系で言われていて、ADCの処理幅つまりマスタリングデータのビット数と思っていました。それが24bitの場合はHigh Resolutionですね。ただ一般には1000万画素のデジカメ、192kHzのハイレゾ、みたいにサンプリングレートの大小の方が分かりやすいとは思います。

ちなみに最近では24bitを超えて32bitがありますがこちらも混乱してるように思います。
下記の記事を前に2011年くらいに書いてますので参考までに。
* 32bit音源の再生というテーマ
http://vaiopocket.seesaa.net/article/234221145.html
* 32bit 整数型と32bit 浮動小数点型
http://vaiopocket.seesaa.net/article/238154160.html
小数点だから細かいということではなく、256と2.56x10^2は表現が違うだけで同じ数です。表現が違うのは計算の都合です。
またDAC ICはCPUではなく、基本的に整数しか扱えませんので念のため。(CPUでも浮動小数点を扱うにはFPUコプロの内蔵が必要です)
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2014年06月16日

パイオニアからDAC内蔵のバランスヘッドフォンアンプ、U-05登場

音響機器大手のパイオニアから本格的なDAC内蔵のバランスヘッドフォンアンプが登場します。
これはU-05という機種で、好評を博したN50の実績をもとにDACをメインとした製品です。またオーディオ製品としての作りを意識した点もポイントです。

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* DAC部分の特徴

U-05はDAC部分で機能が豊富な点が特徴です。
まずU-05はESSのDACチップを採用しています。これはパイオニアがESSの知見が深いので、それを生かしたということです。具体的にはESSのES9016をデュアルで使用しています。また最近の2M版とは異なり、8chのオリジナル版を使用していて、8chをパラで使用してSNを高めています。このデュアルDAC、8chパラ出力によって精緻で整った音を再現します。
これは最近出てきている2チャンネルにスケールダウンしたモバイル版の低消費電力2Mタイプとは異なる据え置きならではの音質メリットを享受できる点となるでしょう。

最近では必要機能になりつつあるDSD対応も5.6MHzまでネイティブで対応します。またPCMも384kHzまで対応と、現在の音源のフルスペックまで再生することができます。
Macでは特徴的なDSDの伝送方法を採用していますが、これはまたあとで説明します。

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デジタル入力の種類も豊富で、USB、光、同軸SPDIFに加えて、AES/EBUも入力可能です。プロ規格の AES/EBUも入力可能なことで、低価格製品ながら高い音質を、ハイエンドオーディオ機器システムのなかに組み込むことも可能でしょう。
出力でもバランス出力が用意され、バランスのホット番号切り替えも可能な本格派です。

また基本的なスペックの高さに加えて、U-05ではデジタルオーディオを知り尽くした老舗の技術力として多彩な機能を持っています。
まず特徴的なのは私も初めて見たんですが、ロックレンジ・アジャスト(Lock Range Adjust)という機能です。これはデジタル信号をロックする許容幅を調整して音質改善をするというものです。説明すると、デジタルオーディオがデジタル信号を入力する際にその周波数に合わせて同期整合(ロック)をしますが、その際に普通のオーディオ機器では多少の整合の許容度(機械的に言うとあそび)を持っています。そうでないとさまざまなデジタルソースに対応できずに、同じサンプルレートでもある機器ではロックせず、ある機器とはロックするということになりかねません。しかしながらこの「遊び」はいわばオーディオ的には「甘い」要素になります。そこでU-05ではその許容幅をユーザーがマニュアルで調整できる機能を持っています。とはいっても難しいものではありません。
パイオニアさんの試聴室でデモを聴かせてもらったときに試しましたが、リモコンの矢印を左右に振って行くだけです。そうするとあるところで音が途切れるのでその手前にあわせると最適なスイートスポットになるわけです。実際に音を振って行くと音がだんだん引き締まっていきシャープになるのが分かります。これはなかなか新鮮な体験で遊び感覚・チューニング感覚があって面白いと思います。

また地味なところですがデジタルフィルターに自社製のパラメーター設定を持ったモードを追加しています。これは一般的な"SLOW","SHARP"に加えて"SHORT"というフィルターの追加です。これはショートロールオフという意味ですが、プリエコーなどの自然音にはない不自然な付帯音の原因となるもの(いわゆるデジタルっぽい原因の一つ)が少なく、よく言われるMPフィルターのようなもののようです。聴き比べるとより自然に聞こえます。

またオーディオスケーラー(DSP)という機能ではビット拡張とアップサンプリングがDAC側で可能です。これはビット幅を32bitに拡張し、サンプリングレートを最大384kHzまで変換します(サンプリングレートについては調整が可能です)。簡単にいうとCDリッピングの音源をハイレゾ化できるというような機能です。
これを利かせないスルーのモードをDirectと呼びます。

* ヘッドフォンアンプ部分の特徴

またU-05の大きな特徴はヘッドフォンアンプが本格的なバランス駆動に対応しているということです。しかも4ピンタイプも3ピンx2のタイプも両方採用していますので、たいていのバランス対応ヘッドフォンは使用することができるでしょう。内部的にもDAC出力からヘッドフォン出力までフルバランスで設計されているということです。

またU-05でユニークなのは大出力のバランスヘッドフォンだけではなく、高感度のイヤフォンにも対応できるような設計がなされているということです。これは単にゲイン切り替えがあるだけではなく、ファインチューニングボリュームというサブボリュームがあるためです。これは微調整のためのボリュームで、高感度イヤフォンなどボリュームの調整がラフなものになりがちなときに、こまかな調整ができるので最適な音量で聴くことができます。

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基本的なところではヘッドフォンアンプ回路もディスクリートで組んでいて高級なオーディオグレードパーツの使用がなされています。

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* 作りの良さ

U-05は外観としてもフルアルミのボディに大きなアナログトランスを配して電源強化するなど正攻法のオーディオ設計がなされています。そのため見た眼よりも結構重く感じられます。機能も充実していますが、基本的な部分でも質実剛健なところはこの作りを見ればわかるでしょう。

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* PC周りの設定について

U-05は入出力の豊富さも特徴ですが、今回はUSB DACとしてPCオーディオでの適性を見ました。
使用したのはWindows8.1(ミニタワー)とMacOS10.9(Mac mini)です。

Windows7/8ではPCM再生でもDSD再生でもドライバーが必要です。ドライバーはASIOを使用しているようです。ドライバーのインストールはexeをクリックするという簡単なものです。

MacにおいてはPCM再生でのドライバーのインストールは不要ですが、DSD再生はドライバーのインストールが必要です。
これはちょっと変わったところですが、なぜかというとU-05においてはDAC側ではDoPのようにPCMにエンコードされたDSDデータではなく、ASIO(ライク)なDSDそのままのデータストリームで受けるからです。これはKORGの方式に近いのですが、このままだとKORGのように専用のアプリケーションでないとデータの送信ができなくなります。それではAudirvanaを使ったりPure Musicを使ったりというソフトウエアを変える面白さがなくなります。そこでパイオニアでU-05においてドライバーの中でDoPをネイティブDSDストリームに変換するという仕組みを考案しました。
この方式だとAudirvana Plusなど音楽再生アプリケーションでは出力方式としてDoPを選択して送信をします。するとドライバーでDoPをネイティブDSDストリームに変換してUSBケーブルでDACに送るということになります。この方式だとPC側のパワーでDoP/DSDのデコード処理を行うのでDACに負担をかけないという利点があります。

Macのドライバーはdmgで入っていますので、それをダブルクリックするとデスクトップにインストーラーが出てきます。そのインストーラーをダブルクリックすればインストールは簡単に出来ます。特別な知識は不要です。
ただしカーネルエクステンションの開発元が不明というウォーニングが出てきますが、これは単に閉じればよいと思います(WindowsのWHQL開発元認証みたいなものでしょう)。ちなみにMacにおいてカーネルエクステンションとはカーネルを拡張するローダブルモジュールという意味でドライバーのことです。

インストール後にプレイリストでPCMとDSDを交互に再生しましたが、切り替えによる大きなポップノイズは生じません。
Audirvana Plusで384kHzまでアップサンプリングしましたが問題なく再生できます。44/16よりも濃密な
U-05ではDAC側でもアップサンプリングができますので、効果を比べてみるのも面白いでしょう。

* U-05の音質

まず試聴機がとどいて箱から出した印象は重いっていうことです。10万以下商品の重さではないですね。次に袋から出して思ったのは作りがしっかりしていて高級感がある。なお下記は試聴のための試作機の印象ですから製品版では異なることがあるのを含みおきください。

音はゼンハイザーHD800のシングルエンド(標準ケーブル)とベイヤーT1改造のバランスヘッドフォンで試してみました。
まず全体に端正で整った音再現が印象的です。帯域的には少しベースに重みを持ったバランスの良い音再現で、リアルな楽器音の再現が感じられます。色付けはあまりなく、かつ無機的なところにも陥っていない聴きやすい音です。細かいところでは音はESSの音らしく細かさと際立ったSN感が音の豊かさを作るタイプだと思います。その繊細さはアコースティック楽器を使用した音楽でもよくわかりますが、女性ヴォーカルのSHANTIではその細かさが声の表情や艶っぽさに繋がっていると感じられます。
そしてヘッドフォンアンプとしてU-05の音の特徴的なのはとても歯切れよくスピード感、パワー感のあるところです。特に上品でリファレンス色の濃いHD800やT1をぐいぐいとハイスピードで力強くドライブしてゆく気持ちよさはこのU-05ならではの強みになっていると思います。

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バランスT1をまずシングルエンドアダプタで聞きます。この組み合わせではパワフルで音の切れ・テンポの良さが気持ちよく、ジャズトリオではスピード感のある展開もさることながらウッドベースの弦の響きの細やかさも音楽に厚みを持たせてくれます。T1をシングルエンドからバランスに変えるとあきらかに音質レベルが一クラスあがります。より空間的な広がりが増すとともに音がより整理されてステージの見通しが良くなり楽器の位置関係も明瞭になります(ケーブルは同じです)。音の鮮明度もさらに向上してT1の能力を100%を超えて引き出しているかのようです。シングルエンドでも魅力的ですが、やはりバランスで活きるアンプだと思いますね。

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HD800で聞くと、とてもシャープでタイト、洗練された音であると同時に躍動感があるのが良い点です。ベースにがっちりと重みが乗ってスピード感、リズムのテンポ運びもかっこよいですね。ロックファンにも人気のある上原ひろみジャズトリオのAliveハイレゾはカッコよくスピード感あふれて再生されます。
ハイレゾでない音源の場合にはDirectを切ってオーディオスケーラーDSP(bit拡張とアップサンプリング)を利かせると手軽により密度感のある濃い音を楽しませてくれます。

精細感が厚みを作り、切れ味の鮮明さとスピードのある点が特徴のU-05ですが、同時に音の荒さが少なく、音のエッジは切り立ってシャープだけれどもきつさや痛みの不快感がないという点で、さすが老舗と思える設計の熟練が感じられました。
また、U-05の音の良さの秘密のひとつは電源の強力さに隠されていると思います。実際に内部ではかなり大きなトランスがどんと鎮座しています。高性能オーディオ機器の正道ですね。

U-05で自宅試聴していて興味深い発見をしました。うちでは電源フィルタリングをかませてプリ用とパワー用の口がありますが、その違いが明確に出るという点です。プリ用の電源ポートはフィルタリングが強いので、より音はなめらかで粗さは少ないが鮮度感が低め、パワー用は鮮度感が高めで勢い重視と別れています。驚くことにU-05ではその違いがかなりよくわかります。ヘッドフォンアンプは普通プリアンプとして設計されるものなんですが、このアンプはプリの素質もパワーの要素もあると感じられます。むしろベースの力強さやスピードなど鮮度感を活かした方がこのアンプの性格をいかしてるようですね。

HD800との相性ではいままでのヘッドフォンアンプの中でもトップクラスではないかと思います。HD800というと音を分析的に聴くのに適していて、私もこういうテストではHD800をリファレンスとして使うことが多いのですが、U-05はHD800を音楽的にも楽しくノリ良く聞かせてくれるヘッドフォンアンプだと思います。

U-05は特徴も多いんですが、その最後のポイントの最後は価格だと思います。音のレベルはもっと高価なクラスで期待されていた音のレベルですね。いままでなら15万から20万超えていてもおかしくないレベルですが、実売はおそらく10万を切るくらいのところだと思います。これはかなりコストパフォーマンスは高いと思いますね。

* 試聴会の開催

本稿ではヘッドフォンアンプとして主に使用した感想を書いてきましたが、DACとしての性能が高いところも本機の特徴です。この点においてはスピーカーを使ってお聞かせする発表会・試聴会を開催することが決定しました。
来週の6/22に中野サンプラザで試聴会・発表会を開催します。私が講演で解説を務めますので、よろしくお願いします。

6月22日(日)中野サンプラザ 15F リーフルーム

11:30 開場
11:30〜12:00 自由試聴
12:00〜12:30 講演 1回目
12:30〜13:30 自由試聴
13:30〜14:00 講演 2回目
14:00〜15:00 自由試聴
15:00 終了

試聴会ではヘッドフォン機材とスピーカー機材を両方用意して、講演ではスピーカー機材で主要機能のデモをする予定です。
参加は一般でも自由ですのでふるってご来場をお願いします。
posted by ささき at 13:01 | TrackBack(0) | ○ PCオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月15日

ノルディック&ケルティック・ミュージックパーティー (上野水上音楽堂)

さる6/7に上野水上音楽堂で開催された「第二回」ノルディック・ケルティック・ミュージックパーティーライブを見てきました。ノルディック・ケルティックミュージックの音楽フェスです。
これはJaben Japanをやっている大島さんのブログ「クラン・コロ・ブログ」で知りました。
http://blog.livedoor.jp/yosoys/
実は大島さんは日本のアイリッシュ音楽研究の大家であり、本も何冊か執筆されています。私もオーディオ関係で知り合う前に大島さんの本は買って持ってたくらいです。

私もマイクオールドフィールドあたりからの流れで、こうしたトラッド音楽はそれなりに興味がありました。トラッド・アイリッシュ・ケルティックといろいろな呼び方はありますが、だいたいアイルランド近辺を中心としたケルト民族の伝承(トラッド)音楽です。地域的にはアイルランドだけではなく、フランスのブルターニュとかカナダ東部なんかのケルト文化圏でも盛んです。
最近ではそれに加えてスウェーデンとかノルウェーの北欧系(ノルディック)も浸透してきましたので、ノルディック・ケルティックとここでは称しているようです。こうした音楽は伝統音楽ですから海外だけでやっているように思いますが、実は日本でも日本人がトラッドを演奏するいわばジャパニーズ・トラッド系の音楽活動が盛んで、ひとつのジャンルを形成してます。日本人の感性に合うのはアイルランド民謡とロシア民謡と言われますが、日本人にも素直に入ってこれるものなんでしょう。

このノルディック・ケルティック・パーティーはNPO主催による無料のライブコンサートで、そうした日本人バンドによるコンサートです。昼の1時から夜の6時まで10ユニットの出演バンドが30分くらいずつ数曲演奏します。CDを何枚も出しているベテランから、飲み屋で知り合ったバンドまで多彩な顔触れです。
当日の様子は下記のFacebookページで写真などを交えてたくさん紹介されています。
https://www.facebook.com/nordiccelticmp
私ははじめ開演から少し見て、中座して渋谷タワレコのサクスフォーンカルテット・アテナのミニライブ見て、もどって有名バンドのシャナヒーとドレイクスキップを見るっていう感じでした。(アテナも音が厚くてけっこう良かった)

シャナヒーは大阪のバンドで女性グループです。
http://shanachie.jp/


Ljus / シャナヒー 3rd Album

当日はゲストの女性ヴォーカル・ほりおみわさんも加えて3曲ほど披露しましたが、なかでもちょっと感銘を受けたのが「花嫁ロジー」という曲で、これは最新アルバムのLjusの収録曲です。これはバラッドというトラッドでは特徴的な物語を歌に乗せて伝えるものですが、日本語歌詞で歌われるので新鮮な感じです。美しい娘が望まぬ政略結婚をさせられる日に、かつての恋人が現れて別れを告げ船で去り、それを追いかけた彼女が海に消えて泡となる、という美しくも切ないお話です。
アイリッシュ系だと、妹に嫉妬した姉が妹を川に突き落としておぼれさせ、その体は白鳥になって川を漂い、やがて吟遊詩人がその骨からハープを作ってその姉の家に行くと、勝手にハープが歌いだして姉の悪事を暴く、という物語パターンがあってペンタングルやロリーナマッキニットが歌ってます。
こうした物語系の歌ってとてもトラッドらしいところだと感じ入り"Ljus"を帰ってからさっそく注文しました。考えてみればその場で買ってれば良かったとは思いました。



もうひとつのドレイクスキップはやはり大阪のバンドで、関西勢の勢いを感じます。関西のバンドが関東でライブをしてくれるよい機会でもありますね。この辺は(比較的)有名なので私もCDを持っています。
ドレイクスキップは編成にパーカッションだけではなく、ドラムスを導入することで躍動感あふれるステージで聴かせてくれます。
http://www.drakskip.net/menu.html


[Official] Drakskip - Steering Through the Storm

ドレイクスキップの真ん中の人が持っている変わった楽器はニッケルハルパというスウェーデン音楽でよくつかわれる伝統楽器です。MCで「この楽器の名前分かる人は手を挙げて」っていったら、会場のほとんどの人が挙手しましたので、さすが来ているのは通な人ばかりです。ただ一方で知らない人をもっと呼ばねばならないという点もあるのかなあとも思いました。
当日は雨で最後の方はけっこう冷えてきたりしましたが、半野外ステージですから通りかかった人が音につられて入ってくるようになれば良いなと思います。
シャナヒーとドレイクスキップだけでも対照的ですが、こうしたジャパニーズ・トラッドの音楽ムーブメントの良いショウケースになっていると思いますし、ぜひ来年も開催してもらいたいと思います。
posted by ささき at 09:11 | TrackBack(0) | ○ 音楽 : アルバム随想録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月09日

Astell & Kernの新世代機、AK120IIレビュー

先日ヘッドフォン祭期間中に簡単に紹介し、ドイツハイエンドショウでデビューを飾ったAK120IIとAK100IIですが既報のようにまずAK120IIからさきに発売されます。
本稿はAK120IIを二週間ほど使用したレビューです。(AK100IIについては次の機会とします)

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* AK120IIの特徴

AK240についで登場したAstell&Kernの新世代機はAstell&Kern 『AK120II 128GBストーンシルバー』 及び『AK100II 64GBスモーキーブルー』です。 AK120II、AK100IIともAK240と共通した特徴を持っています。例えば2.5mmバランス端子、大型タッチスクリーン、WiFi機能、光出力などです。AK240はジュラルミンですが、AK120II、AK100IIはアルミニウムです。またカラーが異なります。
AK240は内蔵256GB、AK120IIは128GB、AK100IIは64GBです。増設はどれもMicroSD一個です。重さはAK120IIは177g、AK100IIは170gです。
AK120II、AK100IIともDSD再生に対応しますが、AK240はネイティブ再生なのに対して、AK120II、AK100IIはPCM変換です。これはAK240だけXMOSが採用されているからです。ハイレゾDAPとDSDネイティブ再生に関してはこちらの記事を参照ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/397192583.html

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AK120IIはAK240と同様にCS4398をDACチップとして採用しています。AK240とやはり同じくCS4398をデュアルで使用しています。またアンプ部分の出力電圧や出力インピーダンスもAk240と同じです。
このことからもAK120IIの音質はAK240同等レベルが期待できるのではないかと想像していましたが、今回実際に試すことができました。

* AK120IIの外観

箱はこれまでのAstell&Kernシリーズに準じたなかなか立派な作りになっています。Dual DACの文字はAK120と同じですね。

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AK120IIのデザインは以前のAK100シリーズに比べると細長い感じですが、ズボンのポケットには収まりがよいですね。胸ポケットだとややはみ出します。シルバーのデザインは精悍で、音の良さを想像させてくれます。AK240の斬新なデザインからすると実用性を感じさせます。画面デザインは高級感を表したシボ革風のAK240に比べると立体感を取り入れたモダンでシンプルなデザインが基調です。
この外見から見たシャープさと、実用性の高さはそのまま性能を表したものとも言えます。これはまた後で書いていきます。

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AK120IIのケースはブッテーロ製ですがクロコダイル柄というところがかなり個性的な点です。

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筐体は航空機グレードのジュラルミンではなく通常アルミとなりましたが、質感はかなり高く高級感があります。入出力はAK240と同じで2.5mmバランスも踏襲されています。MicsroSDスロットも一基です。細かいところではUSBのプラグの上下の向きがAK240とは逆(つまり旧AK120と同じ)になっています。微妙に違和感を覚えるところでしたからね。

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AK240とのもう一つの大きな違いは内蔵メモリが128GBということです。少し前は128GBというとかなり広大な空間を感じさせましたが、いったんAk240の256GBになれてしまいいろいろ詰め込むと、128GBでも足りなく感じられるかもしれません。
MicroSDでも128GBのタイプがありますので、それで増設することもできます。ただ、一般的には128GBもあれば十分なくらい確保されているというべきでしょう。

* 音の印象

本稿ではおもにAK240と比較しました。ヘッドフォン・イヤフォンはEdition8、FitEarカスタムMH335DW、JH Audioロクサーヌカスタム、AKR03などを使用しています。
AK120IIはスペックを聞いたときから音のレベルの高さとしてはAK240くらいと予想していました。実際にその予想はほぼ当たりましたが、予想と異なっていたのは音の個性の違いでした。
結論から簡潔に先に言うとAK240とAK120IIは音のレベルはほぼ互角で、音の作り方・個性が異なるDAPとなっています。

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まずAK120IIを聴いて印象的なのは透明感が高くシャープな音再現です。また音色はAK240に比べて色付けが少なくなっています。音場はややコンパクトですがまとまりのよい音空間が感じられます。
帯域的にはワイドレンジで、実際の周波数的な高音域と低音域のレスポンスはAK240くらいかもしれませんが、透明感が高いために高音域がより強調されているように思えます。このため弦楽器の鳴りにシャープさがあり、クリアでピュアな音を再現します。Ak240はやや丸まっていて特に高音域できつさが少なく聴きやすいとも言えますが、AK120IIの方がシャープな感じはあります。ただしやや聴き疲れするタイプにはなってるかもしれません。
中音域のヴォーカルは出すぎずに伴奏のピアノも主張は強すぎません。ここもすっきりとして余分な贅肉は感じられずにスリムな音表現です。ヴォーカルの歌詞も聞き取りやすく思えます。情報量が多いので、女性ヴォーカルのかすかなため息もリアルに感じられるでしょう。
低音域のベースは引き締まっていてタイト、贅肉はそぎ落とされた感じです。ここも過剰なベースの強調はなく、少し強めで量的にはほぼAK240相当のように思えます。ただし性格の違いがあるのでAK240とは聴こえ方がやはり異なります。AK240はAK120IIと比べてみるとやや低音域にふくらみがありやや緩く感じられます。ただしAK240ではそれが迫力につながっているとも思います。AK120IIはその点でパンチがあり、ソリッドでがっしりしている感じです。

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AK240に比べるとすこし派手めの音に聞こえますが、全体にはそう強調感はなく、フラットニュートラルと言っても厳密ではないけれどもそうおかしくはありません。またそれはアグレッシブさにつながっていると思います。
音場はAK240に比べるとややコンパクトというか細身で、Ak240のような迫力と広がりはありませんが、クリアな見通しの良さとともにオープンというかぱっと開けた感じがあります。また全体的にAK120IIの方が透明感が高いように感じられます。これは実際のSN感というよりは音つくりの問題かもしれませんが、Ak120IIの透明感の高さは印象的です。
このために情報量という観点ではほぼAK240とAK120IIは同じくらいに思えますが、解像感ではAK120IIの方が高いようにも聴こえます。ヘルゲリエントリオの新作192/24ハイレゾではベースの弦のやにが飛ぶような感じはAK120IIに軍配を上げたくなります。また高音域の透明感とあいまってAK120IIはシャープな音作りが感じられます。またリアルで臨場感が高いという感覚もあります。
一方でAK240の方が迫力があり、音作りに壮大な感じはします。たとえば三浦友里恵のラヴェルピアノ協奏曲では楽器の音はAK120IIの方がクリアで鮮明ですが、オーケストラの迫力・雄大さはAk240の方が感じられる、という感じです。

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音色的には着色感が少ないのもAK240と比べたときの特徴と言えます。これはAk240と比べてもそうですし、DAP一般としてもニュートラルな感じです。AK240と比べるとドライでクールに感じられるかもしれませんが、分析的とか無機的というところには陥っていないと思います。ZX1に比べればAK120IIは硬質感が少なくかなりアナログ的な音に感じられます。AK120IIはアクティブでスピード感があり、AK240はAk120IIと比べるとやや落ち着いた感はあります。
ZX1がすきな人ならばAK240よりもむしろAK120IIの方が好ましく感じられるかもしれません、ZX1のようにソリッド・シャープでありかつZX1にはないアナログライクです。ZX1のユーザーがより高い性能を目指すならAK120IIへの買い替えがお勧めで違和感も少ないかもしれません。ZX1を買ってもHPA-1/2などを付加してアナログライクな音を付加するならば、Ak120IIの方がほしかった音に近付くのではないかと思います。

* DSD再生について

DSD再生についてはAK240はネイティブ再生できる点が特徴です。Blue Coastのベスト盤からDog SongをPCM96/24とDSD(2.6M DFF)で、Ak240とAK120IIでそれぞれ違いがどのくらいでるかを聴き比べてみました。
たしかにAK240の方はPCMとDSDの差は大きく、DSDではより滑らかに柔らかく自然に再生されます。Ak120IIではPCMとDSDの差はありますが、大きくはなくDSD再生でも少しデジタル臭さ・硬さは残る感じです。ただしAK240は書いてきたようにもともとAK120IIより柔らかであるので、その差の方が大きく感じられるかもしれません。

* AK120IIとAK240

簡単にまとめると、AK120IIはシャープで歯切れ良くタイト、音場は細身でコンパクトにまとまった感じで、音色は無着色です。AK240は比較するとなめらかで落ち着いていて、ワイドで迫力・スケール感があります。音色はやや暖色よりです。
これはiriverのジェームス副CEOから聞いた話ですが、AK240では主にクラシックを念頭にチューニングし、Ak120IIではジャズ・ポップを念頭に置いていたそうです。その傾向的にはあってるように思います。(ちなみにiriverのヘンリーCEOはかなりのクラシックマニアだそうです)

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AK240とAK120IIではまたAstell&Kernの戦略上の位置付けも異なると思います。プロトの画像にAK220の文字があったのを目ざとく見つけた人もいたかもしれませんが、もともと私もAK120後継の機種名はAK220となると思っていました。そこでiriverの副CEOに名称をAK120IIとした理由を聞いてみました。そうすると、名称をAK120IIとしたのは連続性(continuation)のためという答えが返ってきました。
これは目的を考えると分かりやすいと思います。AK240は発売時のAstell&Kernのマップではハイエンドオーディオリスナー向けであり、そのときに当時のAK120はスタジオリファレンス向けという位置付けでした。つまりはその位置付けを考慮して、AK120というスタジオ向け機種の第二世代という設計がなされたと思います。
そのため、AK240に比べると比較的素直で無着色の音作りがなされていますし、外観デザインもAK240の実験的なものよりも実用的なものになったと思います。たしかにAK240よりもAK120IIの方が客観的に音を見つめることができるでしょう。

実のところ、私も試聴してきたはじめの数日ではAK240は音楽的でAK120IIはやや分析的でモニターライクかと思っていました。AK120IIでは録音の良否が明確に浮き出してくるという印象もあります。そうした意味ではスタジオ用途にもよいでしょう。
しかし、AK120IIを聴いて行くうちにそうした側面よりもAK240とはまた異なったテイストで音楽を聴く楽しみに没入していきました。AK240よりもスタジオ用途に向いているかもしれませんが、AK120IIは切れ味よく気持ちの良い音楽再現が楽しめます。AK120IIは明瞭感が高くよりメリハリがあって、躍動感もあります。ただし過剰ではなく必要な時にほしいくらいグイグイと出てくるという印象です。DAP性能としての地力の高さが、音楽再生にも貢献しているのでしょう。

はじめに結論付けたようにAK240とAK120IIは音のレベルはほぼ互角で、音の作り方・個性が異なるDAPとなっています。AK120IIはプアマンズAK240というものではなく、じっくり聴き比べれば音的にAK240からAK120IIに買い替えたいという人が出てもおかしくありません。また組み合わせるイヤフォン・ヘッドフォンにも寄ると思います。
これからAK240かAK120IIがほしいという人はじっくりと聴き比べて好みに合ったモデルを選んでください。

最後にもうひとつ。
先週わたしは上高地に新緑を撮りに高速バスで旅行しました。そのときに長時間のバス旅行のためにAK120IIとAK240のどちらを持っていこうかと当日の朝まで悩んだんですが、持っていったのはAK120IIでした。
もちろんAK240はだいぶこれまでに聞いたとか、このレビューの仕上げのために、というさまざまな考慮点はあります。とはいえ、そのときAK120IIの音世界に魅了されていたので長時間じっくりとこの音世界に浸りたい、という気持ちに支配されていたというのも事実ではあります。

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Appendix 購入について

AK120IIの実際の購入に関してはお店では買い替えキャンペーンを行っています。簡単にシミュレーションをしてみます。
フジヤさんの例で紹介すると、AK120からの買い替えの場合は買い取り額が通常の55000円から10%アップして60500円となり、それをAK120IIの実売価格の187110円から引き、さらにAK120は買い替えキャンペーンで30000円引きの対象ですので、96610円で購入可能ということになります。
またSONY ZX1の場合には買い取り額が通常の38000円から10%アップで41800円となり、それをAK120IIの実売価格の187110円から引き、さらにZX1はやはり買い替えキャンペーンで30000円引きの対象ですので、115310円で購入ができます。(税込 6/5調べ)
なおこの買い取り価格などは日々変動し、欠品キズなしが前提ですので状態にもよります。実際の価格についてはお店に問い合わせください。ご参考まで。
ちなみにキャンペーンは2014/6/30までとなります。
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2014年06月05日

AppleがMFIを拡張し、ライトニングでヘッドフォン接続可能に

つい先日のAppleのWWDCキーノートは直前のBeatsの買収から、iTunesのハイレゾ対応などオーディオ関係の発表も期待されていたところです。しかし実際はSwift(Objective-C without C)がメインだった?と思わせるようないまひとつの内容ではありました。
しかしながら、確実にBeats買収の意味が少し見えるような変化が実はひそかにあったようです。
下記の9to5Macの情報が伝えるところによると、
http://9to5mac.com/2014/06/03/apple-introduces-mfi-specs-for-lightning-cable-headphones-support-arriving-in-future-ios-update/
AppleはMFI(Made for iPod/iPhone)を拡張して、ライトニングケーブルでヘッドフォンが接続できるようにしたようです。
ここでは48kHzを受けられるとしていますが、もちろんDAC内蔵のヘッドフォンを想定しています。仕様はさらにスタンダードとアドバンストがあって、アドバンストではDSP使用が記述されノイズキャンセリングなどのサポートがあるようです。
スタンダードではDACとしてWM8533が指定されています。Wolfsonはどうなるというのはさておいて、このWM8533というのは2年ほど前に下の記事で書きましたが、30ピン/ライトニングアダプタの中に入っていたDACです。バスパワー動作でラインレベル出力が取り出せるタイプです。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/302004727.html
またマイクの使用も想定されています。

ちょっと動き出したようですが、このさきも楽しみなところです。
posted by ささき at 00:32 | TrackBack(0) | __→ スマートフォンとオーディオ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする