令和の時代に古き良きハイエンドオーディオの音が蘇る。そんな感覚が味わえるのが今回紹介する「AD1955DACカード E7専用カード」です。
以前の記事でLUXURY&PRECISION(以下LP楽彼)の新たなフラッグシップシリーズとして
「E7 4497」のレビュー記事を公開しました。
本記事はそのDACカードである「AD1955DACカード E7専用カード」を使用したレビューです。(便宜的にE7 AD1955とも呼びます)

E7 AD1955とWHITE TIGER、背面は鏡面仕上げ
「E7 4497」は2024年の8月に登場したLP楽彼の新DAPとしては5年ぶりのフラッグシップでした。DAC ICはAKM AK4497を採用しています。
E7という名前の由来は、LP楽彼は新たにEシリーズを立ち上げていくという意味も持っていて、EはEXCHANGE(交換)の意味を持っています。これはモジュール交換機構を備えることで、将来的な新技術や新DACチップに素早く対応できるということです。
それを実現したのが今回の「AD1955DACカード E7専用カード」です。価格は税込126,500円です。
製品ページはこちらです。
AD1955DACカード E7専用なお今回のレビューは「E7 4497」に「AD1955DACカード E7専用カード」を適用して交換したものです。6月27日には初めから「AD1955DACカード E7専用カード」が組み込まれたセット商品である「E7 AD1955」が597,300円(税込)発売されます。興味ある方はそちらも確認ください。
* 特徴前モデルに使用されていたAKM AK4497はお馴染みのハイエンドDAC ICですが、「AD1955DACカード E7専用カード」ではADI(アナログ・デバイセズ)AD1955がデュアル搭載されています。AD1955が搭載されたポータブルプレイヤーは史上初ではないかとのこと。
AD1955周辺に配置したディスクリート自動バイアス補正回路が、ゲイン設定・出力モード・ヘッドホン負荷・周囲温度といった再生環境の変動を常時モニタリング、アナログ段の動作点をリアルタイムで自動調整。環境に左右されず、自動的に最適化されることで、一貫性ある理想的なトーンバランスと空間表現で「AD1955本来の音色」を提供するということで、かなり凝った回路設計のようです.
また一般的なDAPではシングルエンド出力は性能が控えめになってしまう傾向がありますが、本モジュールは2基のAD1955の全出力チャンネルをフルに活用し、IV変換・LPF・音量制御・バッファアンプなど全回路がフル稼働する設計となっているという点もポイントです。

AD1955は2000年代初頭のSACD時代にハイエンドオーディオ機器で広く採用されたDACチップで、現在ではビンテージ的な位置付けにあります。マルチビット方式を主軸としつつ、デルタシグマ変調を組み合わせたハイブリッド方式を採用しており、マルチビットとしても最近再注目されているR2Rラダー方式とは異なった方式です。つまりオーバーサンプリングを併用しているのでNOS(Non-Oversampling)モードは非対応ですが、R2R方式では一般的に実現困難なDSD信号のネイティブ再生が可能で、SACDの滑らかでアナログライクな音質再現に優れているとされています。クラシックやジャズを温かみのあるアナログライクな高音質で楽しめる、いわゆるオーディオらしい音を出すICということになると思います。
端的に言うと、現代のAKM DACの高解像度でクリアな音とは一線を画し、少し前の古き良きSACD全盛のオーディオ時代にハイエンド機で輝いたマルチビット+デルタシグマ方式のDAC ICです。
オリオラス・ジャパンのページではAD1955を選択したことについて説明がなされています。据え置きのハイエンドオーディオではよく「ローレベル・リニアリティ」(弱小レベルの音の正しさ)が求められると言いますが、AD1955はこのページに書かれた独自のPDLR技術を用いて、音楽を作り上げる細かな情報を再現するDACとしての性能と、魅力的な音色を兼ね備えるDAC ICだということなのでしょう。単にオーディオらしいというよりもハイエンドオーディオらしい音ということになりますが、それをポータブルで実現したのがこのE7 AD1955ということになります。
ソフトウエア自体は変化がないので、DAPとしての基本ソフトウエアにはLE OSという独自開発のOSが踏襲されます。これは可能な限り小型で軽量に設計したというもので、軽量なので音質に寄与するというだけではなく、デジタル部の電力よりもアナログ部分により多くの電力を割り当てるというEシリーズの開発方針が反映されたものです。

E7ではWi-Fiが搭載されていないので直接ストリーミングを再生することはできませんが、その代わりにBluetoothレシーバー機能を凝ったものにするというアプローチが行われています。コーデックはaptX、aptX HD、aptX LL、そしてAACとSBCに対応しています。内蔵メモリはなく、外付けのMicroSDカードに音源を格納します。これは「E7 4497」と同じです.
E7にAD1955DACカードを装備した際は最大PCM 192kHz/24bit、DSD128に対応します。
この他にも今回は試せませんが、ポータブル真空管アンプEA4との最適化を図った専用ラインアウト回路を採用。通常のラインアウトと切り替えることでE7とEA4を組み合わせて優れた音を再現するという仕組みもあります。
* カード交換についてE7シリーズは基盤が一般的な交換式より大きいのが特徴です。今回試したデモ機ではドライバーと予備ビスがセットされていました。

着脱は簡単で、まず底面の小さなネジを2本、付属のドライバーで外します。次に底面を軽くスライドさせるとぱかっと簡単にカード本体が外れます。

今度はAD1955カードを同様にスライドさせてはめ込み、ネジを再度締めます。このときカチッと音がするまではめ込んでください。
とても簡単で5分ほどで終わります。交換すると底面が鏡面仕上げになります。
* インプレッションまずqdcのマルチBAドライバー機「White Tiger」で聴いてみました。

E7 AD1955とqdc WHITE TIGER
音はとても透明感が高く、音像が鮮明で、SN比がとても高いと感じられます。特筆すべき点は音空間の立体感が際立っていて、三次元的な奥行き再現に優れています。解像度が高く先鋭的な音ですが、同時に音像の角が滑らかで刺激的なきつさがありません。
L&Pの音は硬質感があってモニター的なものが多かったと思いますが、AD1955は誇張感こそありませんが温かみのある音色が感じられ、リスニング寄りと言って良い心地よい音の響きが楽しめるサウンドです。

E7 AD1955とqdc WHITE TIGER
低域のウッドベースの弦の鳴りは深みがあって十分な量感がありますが、コンシューマーサウンドのような誇張感はありません。高音域のベルの音は澄んで雑味がありません。楽器音がとても自然で誇張感がなく、特に弦楽器の鳴りが優れています。
いわゆるアナログ的で古き良きハイエンドオーディオを感じさせるようなサウンドです。
イヤフォンをシングルダイナミックのハイエンド機であるDITA Audio「Perpetua」に変えるとAD1955モデルは真価を発揮するように音楽的な音の良さを感じさせてくれます。
音は有機的でより滑らか、まるで真空管オーディオを彷彿とするような鳴りです。ヴォーカルも肉質感よくかつ明瞭に歌詞が聞こえるようになります。ドラムはベースは躍動感がより感じられ、ヴォーカルはよりリアルで生々しくなります。それでいて音はあくまで先鋭的であり、SN感の高さが感じられます。

E7 AD1955とDITA Perpetua
イヤフォンをqdcのWhite Tigerに戻し、比較のために4497モジュールに付け替えて音を聴いてみました。
やはりAK4497ではいわゆる「現代的」な音で、音が澄み切っていて透明感の高い水の湖のような音空間です。輪郭が明確で、鋭いペンで描いたようなはっきりとした音像が感じられます。歪み感が少ない端正な音が特徴で、着色感もなくニュートラルで、比較していうとモニターライクなという感じです。
あえていうと、AK4497では多少デジタル的で、AD1955はアナログ的と言えるかもしれません。
本カードではシングルエンドの出力にもこだわりがあるので、端子交換可能なDITA PROJECT Mで4.4mmと3.5mmの音を比べてみました。
たしかに4.4mmから3.5mmに変えた時に、出力は下がりますが、普通感じられる軽さや音場の狭さは少なくなっているように感じられます。また高域の先鋭さや低音の深みなどはやはりバランスのほうが上ではありますが、そう大きく劣るようには感じられません。なかなか優れた3.5mmだと感じます。
* まとめ端的にまとめると「E7 4497」の音は現代的なかっちりとしたて鮮明な、いわば「モニターライク」サウンド、「AD1955DACカード E7専用カード」の音は厚みがあって温かめのオーディオらしいサウンド、ただしSN比なども高い性能を有した少し昔のハイエンドオーディオのようなサウンド、ということになると思います。
次回の第三弾はバーブラウンのPCM1794Aだそうです。これも少し前のDAC製品で、SN比も高くオーディオらしいアナログ的な音も期待できると思いますが、DACをめぐる面白い旅が期待できそうなシリーズです。