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2025年03月08日

R2R DAC設計とトーンコントロールが魅力「Shanling EH2」のレビュー

EH2はShanling EH1に次ぐShanlingの新しいEHシリーズの据え置きのヘッドフォンアンプです。

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Shanlingは、1988年の設立以来、高品質なオーディオ機器を手がける中国のブランドとして、CDプレーヤーや真空管アンプからポータブルDAC、インイヤーモニターまで、多岐にわたる製品ラインナップを有しています。

* 特徴

EHシリーズは、デスクトップでの使用を前提に、小型で場所を取らないヘッドフォンアンプです。EH1がシンプルさと手軽さに重点をおいていたのに対して、EH2はさらにパワフルで、本格的なヘッドフォンアンプです。
またEH1/EH2ともに(ある世代には懐かしい響きの)トレブル(高音)とバス(低音)のそれぞれ独立したトーンコントロールが設けられています。Shanlingに聞いてみたところ、これはハードウエアによるもので、ソフトウエアによるイコライザーを好まないユーザーのために設けたとのことです。低域は±6dB、高域は±10dBの範囲で可変できます。

EH1とEH2の違いはまずサイズが違います。EH1はDC 5Vの外部電源で動作可能ですが、EH2はAC電源のみで据え置き専用として考えられています。その代わりにEH2の方がだいぶパワフルです。バランス出力で比較すると、EH1が0.4W(32Ω)であるのに対して、EH2は4.3W(32Ω)ものパワーがあります。入力もEH1がUSB-Cのみなのに対して、EH2はUSB-C、同軸デジタル、光デジタル、Bluetooth(LDAC、aptX HD、AAC、SBC対応)と豊富です。
ただし、EH2のサイズはEH1より奥行きが深い(EH1が約10cmに対し、EH2は約22cmで12cmの差)ものの、幅と高さはEH1と同じで、デスクトップに置くには依然としてコンパクトな部類です。

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そして大きな違いがDAC設計です。EH1が汎用品のCirrus Logic CS43198 DAC ICを採用しているのに対して、EH2はR2R形式の独自開発のDACを搭載しています。R2Rとは「Resistor to Resistor」の略語であり、文字通りに抵抗を組み合わせたDACのことです。形状からラダー(はしご)DACとも呼ばれます。
R2R形式のメリットとしてはいままで使われてきたCS43198のようなデルタシグマ形式のDAC ICに対して、PCM音源の時に複雑な変換が必要なくより高音質を発揮できるという点があります。このことは硬くデジタル臭い音の原因となる副作用が少ないと言うメリットがあります。デルタシグマDACではネイティブDSD再生という言葉がありますが、R2R DACではいわばネイティブPCM再生ができるのがR2R DACというわけです。
またR2R DAC採用の理由をSHANLINGに聞いてみると、SHANLINGの歴史の中でR2RアーキテクチャーDACの採用成功例は多く、この音質をより「アナログ」的で、デジタル特有の硬さが抑えられていると評価しています。近年、複数のメーカーがR2R設計を採用し始めたことで、このR2Rサウンドを好み、R2R方式のDACを求めるユーザー層が増えています。

またR2R形式のDACで特徴的なのが、デジタルフィルターのモードをNOSとOSの二種類から選べるということです。EH2では背面のトグルスイッチでNOSモードとOSモードを機械的に切り替えができます。
NOSとはNon Over Samplingのことで、オーバーサンプリングしないということで、OSはオーバーサンプリングするということです。オーバーサンプリングとはDACの内部でサンプリング周波数を高くすることで、ノイズを取りやすくするために行います。このためにSNなどの性能が上がりますが、一部情報が切り捨てられます。一方でNOSにするとOSでは除去されるはずの高周波成分が残って出力信号に混ざる可能性がありますが、これはいわば本来の情報をなるべく捨てないということです。そのため、SNが下がります。
言い換えるとOSとはノイズを効率よく取ってDA変換するということであり、NOSとはダイレクトにDA変換するということです。つまり一長一短があります。
R2R方式はPCMをそのままデコードできるので、デジタル処理は最小限で済みます。先に書いたデルタシグマ型のDACは原理的にOSが必須となります。つまりNOSというオプションはありません。一方でR2RではNOSもOSも選択可能です。つまりは両方切り替えられるのはR2Rの特徴です。
ですからR2Rでは最小限のデジタル処理で自然でアナログの音という観点から、デジタル処理がより少ないNOSがR2R形式と組み合わせることが多いというわけです。

一方でR2R DACはデルタシグマDACの逆なので、PCMには強いがDSDには変換が必要となります。EH2では「All to PCM」という思想で全ての入力をPCMに変換することで対応しています。つまりこれはShanlingのCDプレーヤーでの「All to DSD」思想の逆といえます。

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そして、もう一つ大きな違いはアンプの設計です。
EH1はSGM8262 ICを用いて価格的には一般的なオペアンプ設計がなされていますが、EH2では出力段にトランジスタを用いたディスクリート設計が採用されています。この価格帯のヘッドフォンアンプでトランジスタ出力段を持つEH2はユニークな存在です。
詳しくいうと、EH2ではBD139(NPN型)とBD140(PNP型)という対照的な二種類のトランジスタを用いてプッシュプル回路を組んでいると考えられます。(おそらくAB級)
これはEH2が4.3Wもの大出力を引き出せる理由です。また、このようなトランジスタを用いたディスクリート設計の場合には、オペアンプの設計に比べて単に性能が高いというよりも、より柔軟な設計ができて限界が高い能力を持たせることができるということが言えます。これは平面駆動や高インピーダンスなど要求の高いヘッドフォンに対してより柔軟に対応できるということです。
言い換えると、そこそこの性能の普通のヘッドフォンならば、オペアンプとディスクリートの差は大きくないけれども、要求性能の高いヘッドフォンならば差が大きくなるということです。このことからEH2はより高性能のヘッドフォンを持ったユーザーに向いています。

またちょっと面白い機能としてはUAC1.0モードがあるのでゲーム機(PlayStationやNintendo Switchなど)に接続が簡単にできるようになっています。ゲーム機にヘッドフォンアンプというと変わっているようにも思えますが、最近ゲーミング分野でベイヤーなどのハイエンドヘッドフォンが注目されていることから、こうした機能があっても良いと思います。

つまりEH2はより大きくAC電源のみの据え置き専用機であり、入力、パワー、DAC設計、アンプ設計でグレードアップされています。

* インプレッション

パッケージには本体に加え、日本仕様の電源アダプターが付属しているため、別途購入する必要はありません。標準品の電源もなかなか良いようですが、アンプなので別の専用電源にすると向上する余地はあるかもしれません。
EH1よりは大きくなったとは言え、4.3Wもの出力を有する高性能ヘッドフォンアンプとしてはかなりコンパクトで、ノートPCの横にぴったりのサイズ感です。(写真はケーブル類を外しています)

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ボリュームノブは適度にトルク感があり、バスとトレブルのつまみにはセンターにクリック感があるので、いちいち見なくてもだいたいの位置がわかります。操作系もシンプルでソースの切り替えとゲインくらいです。OSとNOSの切り替えは背面スイッチです。シンプルなデザインであまり飾り気はなく価格なりと言ったところです。
またNOSとOSの切り替えスイッチは使うたびにカチッと音がするのできちんとリレーで切り替えているようです。電源を落とす時も、ヘッドフォンを差し込む時もリレーが作動するカチッという音がします。外はあっさりとしていますが、中の作り込みはかなり丁寧なようなので、質実剛健なヘッドフォンアンプと言えます。

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試聴には主に平面型ヘッドフォンのSendy AudioのPeacockを使いました。PeacockはSendy Audioのフラッグシップ機で、詳しくはこちらの記事を参照してください。Peacockは4.4mmで試聴、ゲインはLowで十分です。

やはりEH2の良さはその音です。まずNOSモードにしてPeacockで聴いてみたところ、たまたま再生された女性ヴォーカルの歌声の美しさに驚くほど、その音色の再現力は魅力的です。性能はかなり高いように思います。
低音は打撃力が強く、相当なパワーを感じます。この辺は平面型のタイトな低音再現力を生かしています。高音域は伸びやかでシャープですが、刺激的な要素が少なく、これはR2Rらしい特徴であり、NOSでもOSでも同様に感じます。平面型の強みのワイドレンジは十分に発揮できてます。音場は左右の広さはほどほどで奥行きがある感じです。
そして中域再現力はとてもよくヴォーカルが艶かしくてとてもリアルです。価格レベルはかなり超えていると思いますね。
あまり発熱はなく、AB級らしく躍動感が高い音です。でもスペックを見ないで試聴したらおそらく滑らかさにA級アンプと思ったかもしれません。EH2は滑らか志向のR2RとAB級ハイパワー志向の取り合わせがユニークです。

HD800では6.3mm端子で聴いてみました。こちらはゲインをハイにした方が良いです。
ハイインピーダンスらしい鋭い低音のアタック感がOSモードだとかなり再現力が高く感じられます。HD800のこの鋭さが苦手な人はNOSにするとかなり和らぎます。
HD800の特徴の左右に広い音場もよくわかり、ヘッドホンに応じてそのまま音が変わる感じです。全体的にはリスニング寄りのアンプですが、こうしたモニター的な側面もあったりするのは基本的な音がよくできているからだと思います。
ただハイパワーアンプなのでCampfire Audio Claraのような高感度イヤフォンだと無音時に少しホワイトノイズが聞こえます。イヤフォンを使うならばダイナミックが良いでしょう。


EH2はNOSモードとOSモードの違いがかなり大きいアンプです。それはDSDのPCM変換の音とDSDネイティブ再生の音の違いに近いです。それがR2R設計がPCMネイティブ再生ということです。
NOSモードだと三極真空管を使っていないのが信じられないほど有機的で音楽的なサウンドで、暖かく滑らかで躍動感があります。かなり「R2Rっぽい音」です。OSモードにするとまるで異なりSNが高い現代アンプの音になります。例えばNOSだとハープの音色とか響きがよく美しく、OSだとやや無気的にはなる。その反面でドラムスはNOSだと少し甘めですがOSではかなりタイトです。
R2RなのでやはりNOSに注意が向くんですが、実のところEH2の良さはOSモードもかなり良い点です。OSでも十分に滑らかで角が少ないです。性能型と味がある音のバランスが絶妙です。
平面型はOSの方が良いと思うので、はじめはOSにして聴いた方が良いと思います。またNOSに関しては、雰囲気型の音楽や美しい音楽はNOSに切り替えると価格帯関係なくここだけで楽しめるような美しい音楽が楽しめるように思える強い個性もあります。

EH2はJ-POPなど硬い録音にとても向いているアンプです。アニソンも良いですね。特にNOSにしていると女性ヴォーカルが甘く艶やかに聴こえます。
ロックだとOSがおすすめで、ドラムの鋭いアタックが叩きつけるように気持ちよく楽しめます。NOSにすると打撃感が少し柔らかくなります。
ジャズでは現代的なジャズトリオはOSで軽快に、ジャズヴォーカルではNOSにして雰囲気感を楽しむのが良いと思います。
基本性能が高いので、複雑な作りの現代音楽や躍動感あるシンフォニーにも向いています。

もう一つの特徴のバス・トレブルのトーンコントロールのつまみですが、バス・トレブルは両方よく効いて、記憶にあるミニコンポやラジカセのバスやトレブルのように、あるいはそれ以上にかなり音が変わると思います。
最も良い使い方はヘッドフォンに合わせてイコライザーのように使うことでしょう。例えばPeacockだと低音が抑えめなので、思いっきりあげてもいいですね。ハイエンドヘッドフォンの性能のままリスニング寄りに思いっきり寄せられます。アニソン聴く人はバス下げて中域を活かすのも良いでしょう。
ハード処理のトーンコントロールなので、アプリのイコライザーと違って音の劣化が感じられません。普段イコライザーで味付けをしている人は、いったんそれを切って、これで調整し直すと良いでしょう。

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NOSモードでの個性的な滑らかサウンドと、トーンコントロールを組み合わせて自分好みの濃い味付けをしてみるとなかなか得難いオーディオ体験ができると思います。


* まとめ

Shanling EH2はハイパワーでかつR2Rの音を堪能できるヘッドフォンアンプです。NOSとOSのモード切り替え、バスとトレブルのつまみで音色を自在に操る感覚もユニークです。
つまみにはクリック感があるので、中央位置が視線を移さずとも分かります。曲の表示を見ながら片手でバスとトレブルを調整し、ベストな音を探すのは、昔ながらのオーディオの楽しみです。
Shanlingはもともと暖かみのある昔風のオーディオ的な音作りだと思いますが、EH2はその結晶のようなアンプといえます。懐かしのバス・トレブルとともにレトロ志向もユニークです。

EH2は見た目はシンプルですが音がよくコスパが高いので、ハイエンド平面型ヘッドフォンを買ったが予算が少なくなった、でもそれに見合うアンプが欲しいという時におすすめしたいヘッドフォンアンプです。
R2R設計もよく効いて柔らかい音なので、少しきつめの音のヘッドフォンを持っている人にも良いと思います。また今回は試していませんが、UAC1.0モードで、ハイエンドゲーマーにも良いかもしれません。
EH2はヘッドフォンを好きな様々なユーザーに手頃な価格で訴求できるヘッドフォンアンプと言えるでしょう。
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スティックDAC×DAC POCKETによるポータブルオーディオの勧めの記事をAV Watchに執筆

スティックDAC×DAC POCKETによるポータブルオーディオの勧めの記事をAV Watchに執筆しました。
エッセイ風の記事の第二弾で、「有線イヤフォンの逆襲」をテーマにしています。

https://av.watch.impress.co.jp/docs/review/review/1665838.html
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xMEMS社の最新ユニット「Sycamore」の記事をPhilewebに執筆

フルオープン型にも対応可能なxMEMS社の最新ユニット「Sycamore」の記事をPhilewebに執筆しました。
ノウルズカーブの記事と合わせるとフルオープンタイプの将来も見えてきます。

https://www.phileweb.com/review/column/202503/05/2539.html
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「ノウルズ・カーブ」をCESの最新展示から読み解く、の記事をPhilewebに執筆

「ノウルズ・カーブ」をCESの最新展示から読み解く、の記事をPhilewebに執筆しました。
xMEMSのシカモアの記事と合わせるとフルオープンタイプの将来も見えてきます。

https://www.phileweb.com/review/column/202503/04/2538.html

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2025年02月09日

ヘッドフォン祭mini 2025 レポート

ヘッドフォン祭mini 2025からいくつか面白かったものを紹介します。

まず大物は飯田ピアノ扱いのCAMERTON Binom-ER。
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形式のアイソバリックダイナミックとはいわゆる平面磁界型です。
価格はお高めだけど音はかなり良く、平面型にしては低音が出て滑らかで音楽的な再現が楽しめます。
ただ真価を発揮するには上流はきちんとしたのが要りそうですが音は美しく良いですね。
アイソダイナミックはYAMAHAが呼称してた平面磁界型の名称です。
CAMERTONはウクライナのメーカーですが、そういえばMezeと協力してるRinaroもウクライナのメーカーだったのを思い出しましたが、なんらかの関係があるのかもしれませんね。

fiteaの新作は Room2
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以前でていた謎のイヤホンの正体はこれだそう。Roomとは手軽なモデルという点は同じだが別ものとのこと。
ノズルから見える謎のフィルターですが、元は背圧側に使うフィルターだそうですが音導管に採用した点が新しく、新しい構成に合わせたものだそうです。
音は低域のアタックは強く、高域はシャープだがキツくない。チューニングがとても巧み。安いモデルだからと妥協はしないと開発者の堀田氏が語っていました。

iBasso ヌンチャク製品版。
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レイセオンJAN6418が2基搭載された真空管式アンプです。この2本がヌンチャクのように見えるのが名の由来のよう。DACはDC-Eliteのものとは異なるようです。普通にクリアでSN感も良い音質で、真空管らしさは艶っぽさの音色面で生きてます。5万円くらいだそう。

シャンリンM8T
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AKM4499と4191のフラッグシップDAP。真空管はヌンチャクと同じJAN6418。設定で三極管モードが選べる点がマニアック。三極管モードだとより真空管らしくなるようです。また真空管モードに変更するとプリヒート時間があるのが面白い。
音は暖かみがあって真空管っぽいサウンドで、同じ真空管でもibassoとシャンリンは音が違って面白いです。真空管だけではなく、iBassoとシャンリンって少し似たようなイメージだけど、音はわりと違うと思います。

finalブースではSシリーズの詳細を聞いてきました。
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(図はfinalホームページから)
Sシリーズの特徴は水平対向のドライバー配置です。水平対向(ボクサー)は振動の打ち消しができることがメリットです。水平対向というとドライバーが対向していると思ってしまいますが、ダイナミックと違ってBAの動作とはアーマチュアのロッドの動きなので、「ロッドが対向」してるのがポイントです。これでBAドライバーにありがちな共振を減少しているとのこと。
そしてこれはS4000/5000を見るとわかるようにSシリーズでは筐体の鳴りを重視するというテーマを、共振減少で可能としているということです。

Softears volume S
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つまみで低インピーダンスモードとハイインピーダンスモードの切り替えができます。
ハイインピーダンスだと音が引き締まりタイトでシャープ、いい感じです。

Softears S-01 USBアダプター
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AV Wathcで書いたZtellaと比べるとリスニング寄りで低音が多めの印象。Ztellaはハイファイ寄りなので好みで選べると思う。

NAKAMICHI HAKUshin ver1.1
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なんとフォノイコ付きのポタアン。若い人の部屋がせまいので、こうしたポータブル機器からのアプローチでアナログの魅力を知って欲しいということです。開発はピックアップが拾うノイズとの戦いだったそうで、中に仮想アースが搭載されています。
USB DACも搭載されているので、ストリーミングとLPアナログで同じ曲を聴いてみましたが、こちらはデジタルっぽい硬さや雑さがない、ハイファイのアナログの音が楽しめます。
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2025年02月05日

SENDY AUDIOの平面型ヘッドフォンPeacock、Apolloレビュー

SENDY AUDIOは中国のヘッドホンブランドで、国内では2024年10月からアユートが代理店を勤めています。フラッグシップのPeacock、ブランドエントリーのApolloなど平面磁界型のヘッドホンを諸力として、クアッドフォーマーなど特徴的な技術を有しています。
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左:Peacock、右:Apollo

12月のポタフェスの開催に合わせて来日した際に開発者に直接いろいろと話を伺った。

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左はCEOの周さん、右は開発のパンさん

* 開発者インタビュー

まずよく混同される話として、SivgaとSENDY AUDIOの関係について聴いてみました。
端的にいうと、会社の名前としてはSivgaであり、SENDY AUDIOはそのハイエンド製品のブランド名ということになります。つまりSivgaはSENDY AUDIOの兄弟ブランドというより会社の名前そのままです。
Sivgaは2001年からイヤホンやヘッドホンの開発に携わり、はじめはOEMを行っていました。それから徐々に自社ブランド製品に移行していて、その過程で高級品のラインナップをSENDY AUDIOとして別ブランドとして立ち上げたということです。
SENDY AUDIOは5-6万円以上のハイエンドヘッドホンをメインとしており、対してSivga名の製品はそれよりも下の価格でコンシューマーを対象としているそうです。

SENDY AUDIOのポリシーとしてはウッドハウジングと平面型振動板のこだわりです。これにはスピーカーオーディオへのオマージュがあり、スピーカーオーディオのハウジングもウッド材料なので、ヘッドホンもピュアオーディオを志向してウッドにこだわりたいと言うことです。このほかにも材質としては金属や皮革部分、装着性にもこだわりがあるとのこと。
ドライバー部分は自社開発にこだわっているそうです。中でもこだわりは自社開発の特許技術であるクアッド・フォーマー(QUAD-FORMER)技術です。
クアッドは四つの意味でですが、平面型の振動板が上下に振動して音を出すとき、実際には上下に正確に振動するわけではなく、左右にぶれてしまいます。そしてこのぶれが歪みの原因になります。
そこで、SENDY AUDIOでは普通の平面型の振動版上のコイルパターンの他に、四隅にこのぶれを抑えるための独立したコイルパターンが4つ設けられています。これがクアッド・フォーマー技術です。

下の図はパンさんが直接描いてくれたものですが、SENDY AUDIOの振動板にはメインのパターンの他に4隅に独立した部分があります(赤丸部分)。ここがクアッドフォーマー用のコイルです。Peacockには4つ、Apolloには2つ搭載されています。

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これによって上下の振動をより正確なものにして歪みを抑えることができるということです。効果としてはオーケストラなどの大音量時での歪みが特に減少するということ。
クアッド・フォーマー用コイルはPeacockでは4つ搭載され、Apolloでは2つ搭載されています。

* 製品紹介: Peacock

次にSENDY AUDIOの製品を紹介します。
まずSENDY AUDIOのフラッグシップとなるのがPeacockです。開放型のヘッドホンで平面駆動型ドライバーを採用しています。

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Peacock

振動板は88mmと大口径で薄膜複合材を採用しています。平面磁界型なので振動板の全面にコイルが搭載されていますが、前述したように4隅に振動板のコイルとは別にクアッド・フォーマーのコイルが配されています。平面型振動板の厚さは0.09ミクロン、振動板の両側にマグネットがあるダブルサイドマグネットを採用しています。

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Peacockのクアッドフォーマー用コイル(赤丸部分)

ヘッドホンハウジングには天然無垢材のゼブラウッドを採用、手作業による木材加工により製作され、ヘッドホンの木目と質感は一台一台異なるとのこと。
ハウジングの金属グリル部分は名の由来となった孔雀(Peacock)の意匠が施されています。このデザインは形だけではなく、音響的な効果も考えられているとのと。
ヘッドバンド部には柔らかいゴートレザー、イヤーパッドはゴートレザーとメモリーフォームで構成されている。イヤパッドの内側に大きくL とRを記載してわかりやすくしているのも良い配慮だと思います。これはApolloもそうですが、金属の面取りもきれいになされていて、質感も良い感じで、細かいところによく気が利いている感じです。

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Peacock

ケーブルには約2mの6N OCC 8芯リッツ線を使用し、4.4mmバランスプラグを採用、ヘッドホン側コネクターにはmini XLR 4pinを採用しています。基本は4.4mm端子で、パッケージに4.4mmから6.35mmへの変換プラグ、4.4mmからXLR 4pin変換プラグが標準で添付されています。
この他にはアクセサリーバッグと堅牢なオリジナルキャリングケースが付属しています。
インピーダンスは50Ω、感度的にも特に鳴らしにくくはありません。重量は約578gでやや重いのが難ではありますが、作りががっしりしているので致し方ないでしょう。

実際に手に取ってみると、ウッドハウジングは高級感があり、きれいに面取りされています。イヤパッドもヘッドバンドも革製で柔らかく、高級感があり本格的なハイエンド機という感じです。孔雀の羽を思わせるようなハウジングのホールもユニークです。こうした意匠に凝っているところはApolloにも引き継がれています。
装着すると少し重く感じられますが、側圧は軽めで長時間のリスニング向きです。

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PeacockとKANN Ultra/PA-10スタック

音質は平面型らしく高い透明感で解像度が高い音で抜群に強いアタック感が感じられ、音がとても速いのが特徴です。立ち上がりと立ち下がりのトランジェントが素早い感じで歯切れ感はBAイヤホンよりも良く感じられます。また空間再現が独特で奥行き感の再現に強いと感じられます。
ワイドレンジ感が高く、低音は重く、高音は鮮度が高くシャープです。ハイハットの高音から、ウッドベースの低音までアコースティック楽器の音を鮮明に描き分けます。特に低音の打撃感が高く、緩みが少ない点がダイナミックとの違いで、高音の伸びの良さや低域のアタック感ともに平面型らしいところです。低域が足りない感じはなく、量感も十分にあります。ただし後述のApolloが低音がコンシューマ的に誇張気味なのに対して、Peacockは抑えられていてハイファイ向きという感じです。
高温の歪感のない澄んだ音を聴くと、確かに正確に振動しているのかもしれないと思います。

また音色がやや暖かく、音に厚みが感じられる濃い音なのも特徴です。音に着色感があるわけではなく音色はニュートラルだが、低域が厚いので温かみを感じるかもしれません。
このためにワイドレンジで鮮明ながらモニター的というよりもリスニングに向いた感じに思えます。
声はかなり鮮明で歌詞も良くわかる。ヴォーカルがセンターにぽっかりと浮かび上がり、声が近く切々と美しい歌声で訴えてくる感じが伝わります。

音が早く歯切れが良いのは平面型らしい特徴です。スピード感があり、低音がタイトです。
例えば村上ゆきのスタンダード・カバー曲である「バンバン」ではギターの素早い音だけではなく、背後のウッドベースの深い音も素早くキレがあるので思わず足を揺らしてしまいます。そして声がよく通り、感動的に歌い上げるのが楽しめるわけです。

クアッド・フォーマー技術の効果としてはオーケストラなどの大音量時での歪みが特に減少するということなので、実際にオーケストラの代表的な強奏部を聴いてみました。
ベートーヴェン「運命」の冒頭部分は破綻が少なく安心して音量を上げられます。また2001年宇宙の旅でよく知られる「ツァラトゥストラはかく語りき」の冒頭のティンパニの連打は歯切れ良く打撃感が高く感動的な威力で聴かせてくれます。
Peacockは厚みがあってリスニング寄りに感じられますが、実のところ再生機材を選ぶとモニター的にも使えるかもしれません。低音もそれぼ誇張感はありません。

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KANN UltraとPA-10

機材で言うと、それほど鳴らしにくくはないのでポータブル機材でも使えます。ただそれなりに性能が良くないとPeacockの真価は発揮できません。
使って良かったのはKANN Ultraです。やはりES9038Proデュアルの解像力が高く、据え置きのようにパワーがあります。もう一つDAPを使っていて分かったのはA級アンプとの相性が良い点です。例えばA&K SE300で使うとA級モードとAB級モードの違いがよくわかります。KANN UltraのA級モードがあればなあ、と思ったらA級ポタアンのPA-10があるじゃないかということで、KANN UltraにPA-10をスタックして二段で使いました。KANN Ultra単体よりもパワーというよりも音空間が洗練されて深みが出ます。これでPeacockとよく合うようになります。実際PA-10側のゲインはlowで良いと思う。KANN側のゲインはMidでラインアウトは2V設定、DACフィルターはConpensate設定がいいかと思う。PA-10のA級モードはMAXだとPeacockの個性と相まってかなり濃い音世界となります。

この組み合わせはぐいぐい押してくるような音圧のものすごいスケール感と迫力があります。さすがにこのくらいだと据え置きはなくても良いかもしれないとも思えますね。PA-10が光るのはイヤホンよりもやはりヘッドホンです。

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またDAP単体ではSP3000Tが音色再現という点で震えるほど良い感じです。感動的な音色と透明な音が同時に楽しめます。
音が温かく滑らか、かつ高精細なHD画像のような細かな再現性をCD品質の音源でも味わえます。ヘッドホンながらハイエンドイヤホンなみにかなり解像力も細かいと感じます。透明感が高くSN感もかなり高いのは良録音のソロピアノ曲を聴くとよくわかります。打鍵の音が正確で、緩みがありません。SP3000Tの再現力どおりを正確にPeacockが出力しているように感じます。パーカッションやドラムのアタック感の鋭さも一級品だと思う。ここは平面型らしいところです。
SP3000Tで聴くとPeacockの再現性が極めて高く、かつ正確であることがわかります。音の歪み感がとても少なく端正な音に聴こえるのは、独自のクアッドフォーマー技術のおかげかもしれません。

HD800と比べてみると、Peacockの音の違いは際立ってきます。ただしHD800は4.4mmケーブルがないので3.5mmで使用しています。
まず音の分厚さが違います。Peacockは音が分厚くて重く、音の密度感がPeacockはぎっしり詰まっている感じです。Peacockはちょっと聴くと密閉型ダイナミックのような密度感と重さがあります。また低域がフラットで相対的に軽いと感じられるHD800に対して、Peacockは低域がたっぷり出るのでよりリスニング向けです。
Peacockの楽器音はモニター用とのHD800と比較しても遜色ないくらい正確な音色だと思う。高域のベルやハイハットの音は少し控えめで刺激成分は抑えられています。
音量自体はHD800よりも低い位置で音量は取れるので最近の効能率平面型のトレンドに沿っていると思います。

一言で言うと立体感のある高解像度リスニング向けサウンドで、頭を揺さぶるような迫力はヘッドホンならではのものなので、
Peacockの良さは音楽への没入感の高さ。感動的な音体験。モニター用とはちょっと違う。

* 製品紹介: Apollo

次はApolloです。ApolloはSENDY AUDIOのブランドエントリーモデルとなるオープン型ヘッドホンです。やはり平面磁界型を採用していて、クアッドフォーマー技術をダウンサイズして採用しています。価格が5万円台と安価で、Peacockの廉価版のような位置付けとしても考えられますが、重さがより軽く、低音が多いことから独自のコンシューマー向けの位置付けとしても捉えられます。

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Apollo

Apolloは複合膜の68mm大口径振動板採用の平面磁界型の振動板を搭載しています。またPeapockのクアッド・フォーマー技術をダウンサイズして搭載しています。Apolloの場合には振動板の下側に二個のクアッド・フォーマーの左右ズレ防止用のコイルが搭載されているのがわかります。

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Apolloのクアッドフォーマーコイル

ヘッドホンハウジングには木材加工技術を使用し、天然無垢材のローズウッド 表面は光沢のある塗装を施しています。この点で木肌をそのまま生かしたようなPeacockとは違います。ハウジングにはApollo(太陽神)の意味でもある太陽の意匠がほどこされています。
ヘッドバンド部には柔らかいゴートレザーを使用、イヤーパッドはハイプロテインレザーとメモリーフォームを採用しています。
ケーブルには約2mの6N OCC 4芯リッツ線を使用し、4.4mmバランスプラグを採用。4.4mmから3.5mmへの変換プラグが付属します。ケーブルはPeacockよりも一回り細くなっています。

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Apollo

Apolloを手に取ってみると木材と金属のバランスが良く、それぞれ高級感があります。Peacockに比べると重さがかなり軽く負担になりません。
音傾向はPeacockと似ていて、低域に重心がある音で低音が重く感じられます。低音の膨らんだ感じはないのでダイナミックとは違います。声も明瞭感があります。
平面型は低音が軽いという印象もあるが、それに反してかなりたっぷり低音があります。Peacockに対しても、Apolloは多少誇張気味に低域がたっぷりと涼感があります。ここはApolloが単なるPeacockのコストダウン版ではなく、コンシューマー向けに独自に調整されていることがわかります。
ウッドベースは腹に響くくらい出ますが、音のキレが良いので緩んだ感じはありません。なかなか優れていますね、
楽器音はPeacock同様に歯切れよく緩みが少ない感じで、解像感も高いものです。振動板の動きはきびきびとして平面型らしいと感じられます。
ただし声とウッドベースの分離はやはりPeacockの方が良く、音も一段Peacockの方が濃いので、全体的な性能はPeacockの方が上ではあります。Peacockとの音の違いは全体的な厚み・豊かさ・重み、低域の出方の違いです。解像感・楽器の音の鮮明さ・音の立体感、楽器の分離感もPeacockの方が良く、Apolloの方が少し明るめの音で低音がよりたくさん出ます。
とはいえ上級機と比較するのでなしに5万円台の絶対的なクラスで考えるとかなり性能は高いと思います。

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ApolloとDita Navigator

Apolloによく会うのはDita AudioのスティックDAC Navigatorで、価格も釣り合いが取れるので良い組み合わせでしょう。
Navigatorの少し温かみのあるところがよく合います。平面型の素早い動きにもNavigatorは追従できるので、Peacockと合わせてもなかなか良い組み合わせです。

Apolloは低価格ですが、クアッドフォーマー技術を継承した単なるApolloの廉価版としてだけではなく、軽さや低音の強さで独自の位置付けの平面型ヘッドホンです。
デザインの意匠や金属の質感の高さもなかなかのもので、音質の高さとあいまって、仕上げと音の点で55000円ヘッドホンにしてはコスパが高いと感じるでしょう。
低価格で本格的な平面型の体験ができると思います。鳴らしにくいということもないので、スティック型DACで十分鳴らせます。

まとめ

PeacockもApolloも、どちらも現代平面型らしく鳴らしやすく音質の良さを手軽に引き出せます。音に集中して楽しみたい時はPeacock、カジュアルに楽しみたい時はApolloという切り分けができるかもしれません。
またデザインの意匠を設計に入れ込み、金属も木材もきれいに使用しています。Apolloにしてもエントリーとしての手抜き感がありません。ハイエンドブランドとしての意気込みが感じられます。
Sivga/SENDY AUDIOでは今後は据え置きアンプやイヤホンを開発する計画もあるということで、今後も楽しみなブランドです。

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SONOSがセットトップボックスを開発

昨年はヘッドフォンを発売して驚かせたSONOSですが、新たにセットトップボックス(STB)を開発中のとの情報があります。
Apple TVやNvidia Shieldのようなセットトップボックスですが、The Vergeによるとインターフェースがとても美しいとのこと。NetflixやDisney Plusを統合して串刺し検索ができ、音声UIが実装されるようです。
重要なポイントはHDMIのスイッチとしても機能できるとのこと。つまり家庭内のゲーム機やブルーレイプレーヤーからのHDMI入力とストリーミングコンテンツをまとめて、それをTVやSONOSデバイスに出力することができるわけです。
価格は$200から$400くらいとのこと。

https://www.theverge.com/sonos/606025/sonos-pinewood-video-player-features
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PhilewebでUSoundの戦略的な新MEMSスピーカーの記事を執筆

もうひとつのMEMSスピーカーサプライヤーであるUSound社が新しく開発したMEMSスピーカーユニットの記事を執筆しました。
xMEMSとUSoundの違いも書いています。

https://www.phileweb.com/news/audio/202501/15/26061.html
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AV WatchでUSB-Cアダプタの記事を執筆

AV WatchでUSB-Cから有線イヤフォンを接続するアダプタの記事を執筆しました。
いままでとはちょっとことなりエッセイ風に軽い感じで書いています。

オマケなのに超高音質な「USB-C - 3.5mmアダプタ」と出会い、Ztellaに辿り着いた話
https://av.watch.impress.co.jp/docs/review/review/1656185.html
posted by ささき at 11:53 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

PhilewebでAudiiSionの立体音響技術についての記事を執筆

PhilewebでAudiiSionの立体音響技術についての記事を執筆しました。
鹿島やCEarともまた違う、軽量な立体音響技術です。

https://www.phileweb.com/review/column/202501/03/2512.html
posted by ささき at 11:49 | TrackBack(0) | ○ PCオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする