ハイエンドイヤフォンであるShanling「Regal」と真空管搭載DAPのShanling「M7T」はどちらもShanlingの新製品です。元は別々に記事にするつもりでしたが、聴いてみると二者を組み合わせて感じる「温度感のあるハイエンドサウンド」というべき気持ち良い音楽体験が、同じDNAの共有を感じさせるので組み合わせてレビュー記事にしました。

Shanling RegalとM7T
前から思っていたことではありますが、ポータブルだけではなく据え置き機材の多いShanlingは一貫した音作りの思想が感じられます。それは「高性能で冷静なモニターサウンド」ではなく、「高性能で温度感のあるリスニングサウンド」です。それが「Regal」 + 「M7T」の組み合わせではより鮮明に見えてくるように思えたわけです。
まずそれぞれの特徴を解説していきます。
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「Regal」と「M7T」の特徴Regalは3Way形式で、低域に対向配置型10mm ダイナミックドライバー×2基、中音域にBAドライバー×4基、高音域にマイクロプラナー×2基という、2DD+4BA+2MicroPlanarのトライブリッド構成です。合計8ドライバーによりShanlingではフラッグシップクラスに迫るスペックと謳っています。向かい合わせの対向配置の低域ドライバーは効果的に歪みを打ち消すことができます。ESTではなくマイクロプラナーの採用は音に厚みを加えることができるでしょう。

Regalの興味深い特徴はカスタマイズが自由にできることです。まず2個のディップスイッチで4つのモード(バランス、ビューティフル、ヴォーカル、アンビエント)が選べ、さらに4種類の専用イヤーピース(バランス、ヴォーカル、Sound Stage、Bass)に加えてSpinFit(ワンサイズ)が付属します。
Regalは高純度チタニウムのフェイスプレートにアイスクリスタル加工が施され、光の当たり方によってキラキラと表情を変える美しい仕上げです。シェルは比較的大柄ですが、片側わずか6gという驚異的な軽量設計で、長時間装着しても耳への負担がほとんどありません。ユニバーサル形状で耳にぴったりと沿い、安定感も良好です。
M7Tは、AK4498EX×2 + AK4191のDACチップ、第4世代FPGAテクノロジー、2基のKDS高精度クリスタル発振器(90.3168MHz/98.304MHz)を搭載しています。
AK4498EXはよくフラッグシップに採用されるAK4499EXの兄弟モデルのDAC ICで、電圧を直接取り出せるので余分な変換が必要ないという利点があります。これはスペースの限られたポータブル機では利点となるでしょう。
こちらも音のカスタマイズが可能で、トランジスタモードと真空管モードが選べます。トランジスタモードではMUSES8920オペアンプ×2+BUF634Aバッファ×4、真空管モードではRaytheon JAN6418真空管をデュアル構成で使用します。トランジスタモードはトランジスタではなくオペアンプを使用していますが、真空管に対しての半導体モードという感じの意味でしょう。後述しますが、MUSESは音楽性を高めるオペアンプであり、この採用が大きく音に貢献しています。
真空管モードでは真空管特有のマイクロフォニックノイズも専用防振構造でほぼ皆無です。実際に爪でたたいてもマイクロフォニックノイズは生じません。

M7TはAndroid 13を搭載したAndroid DAPですが、独自の技術でAndroidのミキサーの問題を回避しています。Snapdragon 665+6GB RAMを搭載して操作性も快適です。単体で使うときには「SHANLING Music」アプリを使用しますが、素のAndroidなので普通にNeutron Playerなどの音楽アプリやApple Musicなどのストリーミングアプリが使えます。WiFi環境下では「EddictPlayer」アプリによるリモートコントロールの使用ができます。

M7Tの出力は4.4mmバランスで980mW@32Ω(3.5mmは245mW@32Ω)と十分な駆動力で、バッテリー持ちもバランス接続で約12.5時間、シングルエンドで約14.5時間と実用的。Bluetooth送受信にも対応し、多様な使い方が可能です。
航空機グレードのマグネシウム・アルミニウム合金をユニボディ切削加工した筐体で、「モカ」、「グレー」、「ダークブルー」の3色展開です。画像のモデルは「ダークブルー」です。M8Tをより小型化してスリムにした感じで、手の小さな方でも持ちやすいサイズ感でしょう。
画像で装着されているブラウンのケースは磁石式蓋付きの専用ケースです。

専用ケースの出し入れ
次に単体での音質のインプレをします。
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Regal単体の音のインプレRegalの単体の試聴にはまず慣れたA&K KANN ULTRAを使用しました。
Regalの低域は超低域まで深く沈み込み、量感はかなり豊富ですが、叩きつけるというより「塊の迫力」で襲ってくるようなイメージです。対向配置型の低音ドライバーらしく緩さがあまりない弾むような気持ち良い低音です。
中高域は十分に伸びやかで、マイクロプラナーの効果か高域のベルの響きが自然で、この辺はESTと比べても自然に感じられます。ヴォーカルは温かみを帯び、甘く聴きやすいですが、低域がやや被る傾向があります。
良録音のジャズトリオを聴くと、ハイハットからウッドベース、ピアノまで楽器の分離が良く、音色が非常にきれいに聴こえます。

KANN UltraとRegal
カスタマイズについても面白く使えます。
ディップスイッチによる切り替えも優秀で、ヴォーカルモードは自然に低域を抑え、アンビエントモードはスケール感を増します。ビューティフルモードは濃厚すぎて長時間は疲れますが、実験音楽や音響系では非常に印象的です。SIMピンで簡単に切り替えられるハードのディップスイッチは、音の変化が非常に自然で実用的です。

Regalのディップスイッチ
イヤーピースの効果も顕著です。 標準のバランス以外の音の変化は次のようなものです。
・Vocalチップ:低域が適度に減り、SHANTIのような透明感のある女性ヴォーカルが際立ちます
・Sound Stageチップ:謎のウレタン構造で音場が傘のように立体的に広がるのがユニークです
・Bassチップ:独特の寸詰まりの形で超低域がさらに深まり、頭が震えるような感覚が増します
・SpinFit:最もモニター的でフラットな傾向です
実のところカスタマイズの音の変化も大きく面白いのですが、バランスモード+バランスチップの標準的な音が最も自然に感じました。標準状態で完成度が高いので、曲や好みで味付けしたい場合は組み合わせていくという感じですね。
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M7T単体の音のインプレ次はM7Tのサウンドインプレです。単体の試聴はまず慣れたqdc WhiteTigerを使いました。M7Tの音も二つの違いが面白いと感じられます。
トランジスタモードでは、MUSES8920の影響が強く、暖かく陰影豊かな音色が特徴です。低域はとても引き締まり、ウッドベースのピチカートは弾むようにタイトで、解像感が非常に高いと感じられます。ハイハットやベルの高域も刺激が少なく、温かみがありながらシャープさも保っています。
全体的に「少し暗めで陰影を強調する」傾向があり、それが楽器の質感を美しく引き立てます。
またデジタルフィルターで音をカスタマイズすることもできます。微妙な変化ですが、好みに合わせてAndroidの設定から切り替えることができます。

qdc WhiteTigerとM7T
真空管モードに切り替えると、音に華やかさと艶やかさが加わります。トランジスタモードのような音の引き締まった感じは若干減りますが、過度に甘くならず「品のある暖かさ」に留まります。特にジャズボーカルで地下クラブのような雰囲気が出るのが心地よいところです。
両モードとも、低音をブーストするような味付けはなく、あくまで自然で高性能な再生を追求している印象です。
次にRegalとM7Tを組み合わせたインプレです。
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RegalとM7Tの組み合わせの音のインプレRegalとM7Tはどちらも音の自由なカスタマイズができるので、様々な他の機材と組み合わせることもできますが、RegalとM7Tを組み合わせると音の相乗効果が一際高く感じられます。それはどちらも同系統の温かみのある音ということ、DAPとイヤフォンが同じ思想のもとに作られた感じがします。
そしてRegalのバランスモード+バランスチップという一番基本的な設定がM7Tに一番よく合うという親和性があります。

RegalとM7Tと専用ケース
RegalのサウンドはM7Tを使うと、M7Tの音の温かみと相まって音色も一際美しく感じられます。M7Tのトランジスタモードでも温かみが感じられ、とても滑らかな音再現が楽しめます。ジャズとかロックというより、例えばチルっぽいメロウで適度に躍動的で美しいメロディーの音楽と相性が良いですね。真空管モードもメロウで良いけれども、トランジスタモードにするとRegalの性能ポテンシャルを引き出しながら音楽的でかつ高精細な楽しいリスニングができます。それにより、より壮大で細かなニュアンスが伝わります。
例えば音響系やエレクトロニカのアーティストがよく背景ノイズを少しのせるけれども、そうした細かな工夫もよく伝わります。
M7Tはモニター向けかリスニング向けかと言うと、かなりリスニング向けのDAPですが、トランジスタモードでも暖かく、特に音楽的なRegalとトランジスタモードで合わせると、MUSESのリファレンスという感じがします。MUSES作った人たちはこういう音を考えていたのではないかなという感じでアナログ的で美しい音を楽しめます。
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まとめレビューのために試聴をしていると、大体聞きどころがわかると曲をスキップするものです。しかしM7TとRegalはこのままこの世界に浸っていたいと思わせるほど魅力のあるサウンドで最後まで音楽を聞かせてくれます。

Shanling RegalとM7Tは、それぞれ単体でも十分に満足できるハイエンド製品ですが、組み合わせることで互いの良さが最大限に引き立ちます。そこに同じDNAの親和性を感じます。
イヤフォンの「Regal」 とDAPの 「M7T」はそれぞれフラッグシップではありませんが、それに準じる位置にあるハイエンド機材です。フラッグシップモデルは最高のスペックを要求されるので、どうしても性能寄りの冷徹な音になりがちです。「Regal」 + 「M7T」の立ち位置がその性格をわかりやすくしたのかもしれません。
「高性能でありながら疲れず、音楽に深く浸りたい」 、「低音はたっぷり欲しいけど品良く、中高域は甘く美しく」 などリスニング的に温かみのある音楽を楽しみたいというユーザーに勧めたい組み合わせがM7TとRegalと言えるでしょう。